ミッション破壊作戦～檻

■リプレイ

●三度目の正直
　風を浴びながら降下するケルベロス達。
　ここは佐賀県の唐津市上空。エインヘリアル『ユミルの子』らに制圧された場所……。
　過去２回、グラディウスを用いた破壊作戦を敢行するも、多大な犠牲を払って未だ破壊を成し遂げられていない場所だ。
「さーって、侵略行為なぞぶっ潰して平和な日常を取り返させて貰いますよっと。何度も、何体も、来たって倒して、屠ってあげますよっ！　だから、ユミルの子、あなたも倒してこの地を奪還させていただきます！」
　最初に『それ』に触れたのは、ぼさぼさの髪とマフラーを棚引かせたヒューリー・トリッパー（笑みを浮かべ何を成す・e17972）が構えたグラディウスの切っ先。
　見えざる半円のドームに亀裂の様に雷光が奔り、それに撃たれたものが爆煙を上げる。
　そのままドームを突っ切り、ホルスターにグラディウスをしまうヒューリーを追う様に、
「これまで好き勝手暴れてくれたようだけど、それも今日までよ。この唐津市は私達に返して貰うわ。神造の巨人だか何だか知らないけど、魔空回廊をぶっ壊して、死に損なってるあんた達にも一人残らず引導を渡してやるわ。いくわよ、貫けグラディウス！　これが私からの冥土の土産だっ！」
　フリルをはためかせるテレビウムの『九十九』と一緒に降下してきた橘・芍薬（アイアンメイデン・e01125）が、『それ』にグラディウスを叩きつけ、迅雷迸り更なる爆煙が巻き起こる。
「魔空回廊。奴らがやって来る憎しみの門。奴らの事情？　知るかっ！　何も奪わせない！　与えてやるのは『死』のみだ！　死ね！　死ね！　死ねえぇー！」
「アンタらを勇者と見込んだヴァルキュリア達が不憫でならないっつーの！　こんのビンテージ通り越して性根の腐りきった数千年物のジジイ共が！　地球舐めてんじゃねーわよクソッタレぇぇぇぇ！」
　エステル・ティエスト（紅い太陽のガーネット・e01557）は切っ先が触れた瞬間、柄に頭突きをかまして押し込み、ランジ・シャト（舞い爆ぜる瞬炎・e15793）も同時にグラディウスを叩きつける。更に、
「絶対に皆で無事に帰って、成功祝いにおいしいお酒を一杯飲むぞー！」
　シャーマンズゴーストの『カエデ』と手を繋いだアカネ・ローズクォーツ（幸せ宅急便・e13026）が、足に括り付けたグラディウスを飛び蹴りの様に叩き込む一撃。
「侵略者が我が物顔でうろつくな。ブッ潰れろやクソがぁ！」
「咆えろグラディウス！　オレの憤怒を！　憎悪を！　この力をありったけ持って行け！　アイツらを根絶やしにするその為に！」
　更にステイン・カツオ（クソメイド・e04948）とマサヨシ・ストフム（蒼炎拳闘竜・e08872）の怒りを湛えた切っ先が触れ、蜘蛛の巣の如く雷光が奔り、見えざる半円のドームを満たすかの様に広がる爆煙。
「早くもリベンジの時が来た！　この間は初っ端一撃で退場させられたが、今度はそうはいかない！　折れぬ、屈せぬ、省みぬ！　前回の敗因を反省したこの俺に死角はない！　今度こそカッコよく決めてやるぞゴルァー！」
　そして最後に、空中で大きく仰け反る前回もこの作戦に参加した平・和（平和を愛する脳筋哲学徒・e00547）が、渾身の力を込めてグラディウスを振り下ろすと、今日一番のまばゆい雷光が迸り、轟音が響き渡った！
　……が、壊れない。
「また、ダメなのか……」
　所々で小さなスパークが爆ぜ、存在を示す『それ』に歯噛みしながら和は降下してゆく。

●遭遇
「あー叫んだ叫んだ……っと。さて、みんなは？」
　ケラケラと笑って軽く伸びをしたランジが、充満する白煙に目を凝らすと、
「なるほど、破壊できないとこんな感じなのですか」
「これだけ視界が悪いなら、上手くまいて撤退できるんじゃないの？」
　以前、古書店街の結界を破壊した経験のあるヒューリーが、ぼさぼさの髪を隠す様に帽子を被り、武器の調子を確かめながら芍薬が傍らの九十九に語り掛ける。
「そんなに甘くありません。揃い次第全速で撤退しましょう」
「そー言えばキミの初陣だった。がんばろーね、カエデ」
　額から一筋の血を流しながら白煙を掻き分け合流してきたエステルは、グラディウスをベルトに固定しながら真面目な顔で語り、その後ろからカエデを撫でるアカネも合流する。
「こっちか、全員揃っているか？」
「私達で３回目だろ？　割りたかったぜ」
　皆が周囲を警戒する中、一呼吸置いて逆側からマサヨシとステインが現れた。
「後は和さんだけ……」
「くるぞっ！」
　回りを見てマサヨシに応じて口を開いたエステルの言葉を遮ったのは、皆と違う方向の白煙から飛び出して来たその和であり、
「コオオオオオオオ！！」
　和の言葉に駆け出そうとしたケルベロス達の耳朶を、地面を踏締める音と共に苦痛の叫びが打ち、辛うじて形を留めていたビルがその余波で崩れ、
「カエデー！」
　その叫びから仲間を庇ったシャーマンズゴーストの『カエデ』が、その一撃だけで消滅しアカネが悲痛な声を上げる。その声はハウリングとなってユミルの子に影響を及ぼすが、
「出たなユミルの子！　前のとは違う様だけど、ここで会ったが百年目！　俺の攻撃を喰らえ！　てややー！」
「続きます」
　振り返った和がバスターライフルのトリガーに指を掛けると、その和と肩を並べたエステルも特注のライフル『エース530DMR』の銃口を向け、タイミングを合わせて同時にトリガーを引く。
「崩れ落ちろ！」
　その２つのビームがユミルの子の体表で爆ぜる瞬間、上体を低く保って距離を詰めたステインが、手に持つエクスカリバールを丁度ユミルの子の脛の辺りに叩き込んで横へと跳ぶ。
「やっぱ簡単には帰して貰えないわね。いいわ、一体でも数を減らすに越した事はないからね」
「悪ぃがオレの八つ当たりに付き合ってもらうぜェ！」
　踵を返した芍薬もくるっと回した愛銃『キス＆クライ』の銃口を上げ、ユミルの子の顔目掛けて撃ち放つと、九十九もステインが攻撃した辺り目掛け十徳ナイフに似た凶器を振るい、その九十九を跳び越える様にしてユミルの子の足を駆け上がったマサヨシが、鳩尾辺りに回し蹴りを叩き込む。
　そのままトンボをきって着地したマサヨシが顔を上げると、
「出し惜しみは無し！　畳み掛けるわよ！」
「やれやれ、自分はもう少し楽をしたいのですが……」
　『グリーフファング』に地獄の炎を纏わせたランジと、刃に空の霊力を乗せたヒューリーが一撃を叩き込んだ！　……が、
「グウゥゥゥッゥゥ！」
　直後、その巨体から想像もつかないスピードで振るわれた拳が、ランジを襲う。
（「コイツ、思ったよりヤバイかも…！」）
　その拳を、巨大な刃の側面を盾にして受け止めようとしたランジだったが、その動きより速く拳を叩きつけられ、ランジの体は錐揉みしながら半壊したビルの壁に叩きつけられた。

●戦慄
「ランジ！」
　回復を飛ばそうと声を上げたアカネだったが、衝突の衝撃でビルが崩れランジは生き埋めになってしまう。助け出してやりたいが、今それを行えばユミルの子によって全滅の未来が待っているのは容易に想像が出来た。
「後で必ず助け出すんだよ……」
　ぐっと歯噛みしたアカネが再びユミルの子に向き直り、それに跳び掛るエステルに光の盾を飛ばす。
「コオオオオオオオ！！」
「……っツ！」
　再びユミルの子の咆哮。放たれた咆哮が音圧の壁が、凝縮する様に襲い掛かったのはヒューリー。だが、その体に衝撃が走り弾き飛ばされた。
　地面を転がって体勢を立て直したヒューリーが見たのは、自分を突き飛ばした格好のままでその攻撃を受け、
「ヤベェのは……わかってたが、それでも身体張って守り抜くのがオレのプライドなんでな！」
　その青鱗に鮮血に染めながら笑うマサヨシ。確かにディフェンダーであるマサヨシだから耐えられたのであり、ヒューリーが喰らっていればひとたまりもなかったかもしれない。
「これほど……」
　絶句した芍薬が慌ててマサヨシに光の盾を飛ばし、九十九も応援動画を映し出す。
「かみさまー！　お願いします！　あいつ燃やしちゃってください！」
　その間にも、和の飛ばす熾炎業炎砲と共にその体をスピンさせたステインが、得物を思いっきり叩きつける。
「どうだ！」
　その確かな手応えに顔を上げたステインが見たのは、予備動作なしでいきなり自分に向って振るわれる拳。
（「くそったれっ！」）
　思わず心の中でそう呟くステイン。
　その拳の一撃で今しがた穿った傷が、何事も無かったかの様に再生する様すら見る事無く、吹っ飛ばされたステインの体から発煙弾や閃光弾が飛び散り、意識が途切れたまま地面に叩きつけられた。
「ステインさん　……おのれユミルの子ッ！」
　倒れたステインを見て悲鳴にも似たエステルの声が響き、激情のまま拳を叩き込んだ。

●趨勢の天秤
　拙い……誰もがそう考えていた。油断していたつもりも侮っていたつもりもない。今も芍薬が次々と光の盾を飛ばす中、エステルが拳を振るい、ステインが力の続く限りエクスカリバールを叩きつけ、
「我が炎に焼き尽くせぬもの無し――我が拳に砕けぬもの無し――我が信念、決して消えること無し――故にこの一撃は極致に至り！」
　マサヨシが蒼炎を纏う拳を叩き込んだ。……が、堪えている様には見えない。……このユミルの子が特別強いのか？　それとも他に要因があるのか？　そんな事を考える余裕すらなかった。
　ゴクリと誰かが生唾を飲む前で、肉片が融合してユミルの子の傷が塞がってゆく。そのあまりの回復に戦慄するケルベロス達の後ろで、瓦礫が崩れる音がした。
「別のユミルの子が……」
　一番後方に陣取り長いたれ耳を持つアカネが、その顔に絶望を浮かべて振り返る。
「ランジ……」
　アカネが見たのは瓦礫を押し退け現れたランジ。但しその地獄化した翼は火勢を増して歪にゆがみ、手足には竜鱗が浮かび上がって、得物は紅蓮の炎に包まれる。
「ダメ、ランジ。ダメだよぅ」
「……ッ、殺されたくなかったら……逃げなさい！　早く！」
　ふるふると首を左右に振るアカネに向って、涙を流しながら短く言葉を紡ぎグラディウスを投げ寄こしたランジは、次の瞬間、破壊衝動を押さえきれなくなり、雄叫びを上げてユミルの子に突っ込んでゆく。
「見える？　この……赤が」
「コオオオオオオオ！！」
　そのユミルの子は、凄まじい勢いで迫るランジになど目もくれず、Red Lightsで攻撃を仕掛けたエステル目掛け三度目の咆哮を放った。
「うぐっ……あっ……」
　鮮血を撒き散らしたエステルが地面に叩きつけられそうになるのを、攻撃を中断した芍薬が受け止めた。
　直後にランジが突っ込み、凄まじい力でユミルの子に痛撃を加え、和とヒューリーも後押しする。その間にステインとエステルを担いで下がる芍薬と九十九。
「そのまま２人を担いで撤退しろ」
「何っ？　ランジ一人を捨て駒にする気なの！」
　マサヨシから掛けられ言葉に、威圧的な視線を向けて喰って掛る芍薬。
「もちろんランジ一人を残す気は無い。全員無事でって考えてたんだがなぁ……まぁオレのワガママに報いてくれた皆には、無事帰ってもらわねぇとな」
　とマサヨシは、『竜鱗鉄剣－シニープラーミャ』を地面に突き立てた。
「待て……」
「問答している暇はねぇ、急げ！」
　白煙が徐々に薄まる中、何か言おうとする芍薬にグラディウスを投げつけ、一喝するマサヨシの下半身が蛇へと変じてゆく。
「くっ、和、ヒューリー、アカネ、退くわよ」
　餞別とばかりにマサヨシに光の盾を飛ばした芍薬は、限りを尽くして声を上げ、アカネもランジに光の盾を飛ばして後退する。
「必ず助けるぜ。……知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す」
「最後っ屁というやつです。言っておきますが、此れに斬れるモノは……無い！　此れが為すのは……唯の邪魔立てですっ！」
　和の声と共にユミルの子の頭上に角を向けた辞典が落ち、ヒューリーの形成した脆い紫の刃は瞬く間に砕け散り、飛散してユミルの子を蝕み、暴走したランジとマサヨシが容赦ない攻撃を加えてゆく。
「グゴオオオオォォォォォ！」
　２人の猛攻に晒され、断末魔を上げ崩れゆくユミルの子。
　だが、晴れつつある白煙の向こう、地響きと共に新たなユミルの子のシルエットが近づいて来るのが見て取れる。
「ランジ、マサヨシ……」
　エステルを担いだ芍薬の奥歯がギリッっと鳴る。
　重傷者２人を抱えたケルベロス達に、突っ込んで行く２人を止める余裕はなかった。
　ただ、暴走した２人の安否と、意識を失っている２人を助ける為、重くなった足を動かし、ユミルの子らの勢力圏から脱出するのがていっぱいだったのである。

作者：刑部	重傷：エステル・ティエスト（紅い太陽のガーネット・e01557） ステイン・カツオ（砕拳・e04948）  死亡：なし 暴走：マサヨシ・ストフム（未だ燻る蒼き灰・e08872） ランジ・シャト（舞い爆ぜる瞬炎・e15793）
種類： 公開：2017年2月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 13／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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