蝶々もショコラに止まる

作者:森下映

「あなた達に使命を与えます」
 呼び出した2人の配下を前にそう言ったのは、螺旋忍軍の一員、ミス・バタフライ。
「この町に『客のデザインに沿ったオーダメイドのボンボンショコラのみを作るショコラティエ』をしている人間がいるようです。その人間と接触し、仕事内容を確認、可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「承知致しました、ミス・バタフライ」
 うやうやしくお辞儀をしたのは、赤い水玉の衣装を着た、道化師風の男。その隣では、まだ子どもに見える小柄な少女がくるくるとカラフルな玉の上に乗って踊っている。
「一見、意味のないこの事件も、巡り巡って地球の支配権を大きく揺るがすことになるのでしょう。楽しみなことです。……行くぞ」
 少女に向けられた道化師風の男の声は、ミス・バタフライに対しての其れとは全く違った不遜なものであったが、少女は特に気にしている様子もなく、くるくるくるくる、玉に乗ったまま男の後をついていった。

「忙しい時期に狙われるショコラティエは、たまったものではありませんね。しかも……殺されるなんて」
 アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)が月色の瞳を伏せ気味に言う。
「はい。見過ごすわけにはいきません」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう言って、説明を続けた。
「ミス・バタフライがまた事件を起こそうとしています」
 今回は、『客のデザインに沿ったオーダメイドのボンボンショコラのみを作るショコラティエ』の一般人のところに、ミス・バタフライの配下が現れ、その仕事の情報を得たり、修得した後に殺そうとしたりするようだ。
 ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないという厄介なもの。
 この事件を阻止しなければ、まるで風が吹けば桶屋が儲かるの言葉通りに、ケルベロスに不利な状況が発生する可能性が高い。無論そうでなくても、デウスエクスに殺される一般人をそのままにはできない。
「みなさんには、一般人の保護と、ミス・バタフライ配下の螺旋忍軍の撃破をお願いします」
 対象のショコラティエは、客の要望に沿った形、フィリング、デコレーションを決め、ボンボンショコラを作っている。技術とオーダーメイドしか作らないというこだわりの両方を持ち合わせた人物のようだ。

「事前にショコラティエを避難させてしまった場合は、敵が別の対象を狙うなどしてしまうため、被害を防ぐことができなくなってしまいます」
 そこで、基本は『狙われる一般人を警護して、現れた螺旋忍軍と戦う』ということになるが、
「事件の3日位前からなら、対象のショコラティエに接触することができます。事情を話すなどして仕事を教えてもらうことができれば、螺旋忍軍の狙いを自分たちに変えさせることができるかもしれません」
 自分たちが囮になるためには、見習い程度の力量になる必要がある。
「ですので、この場合はかなり頑張って修行する必要があると思われます」

 敵はミス・バタフライ配下の道化師風の男と、玉乗りの少女の2体が店にやってくる。
 囮になることに成功した場合は、螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、一方的な先制攻撃や2体の分断など、有利な状態で戦闘を始めることが可能だろう。

「バタフライエフェクトも、最初の蝶の羽ばたきさえ止めれば問題はないはずです。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします」


参加者
アラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)
深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)
天矢・恵(武装花屋・e01330)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)
天矢・和(幸福蒐集家・e01780)
虎丸・勇(ノラビト・e09789)
山田・太郎(が眠たそうにこちらを見ている・e10100)

■リプレイ


 甘くほろ苦く、酔い微睡む大人のチョコレート。それはまるで恋の様。
 アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)が、ショコラティエとの面会を交渉。香る月下美人はアレクセイの星空の角に飾られたもの。柔らかな声で伝えれば、満月の瞳に見とれていた店員が暫くお待ちをと席を作ってくれた。
「目で楽しむもよし、味わって楽しむもよし、か」
 山田・太郎(が眠たそうにこちらを見ている・e10100)が言う。
「そんなボンボンショコラの職人を狙うとはひどい話だな。チョコ好きとして容赦はできんぞ」
「丁度チョコ作りの練習がしたかったところだ」
 がっつり修行して敵の企みも阻止してやりたいと虎丸・勇(ノラビト・e09789)。陽に透けて美しい赤茶色は黒髪を染めた色。
「私も上手く作れるようになりたいぞ」
 気になるあの子へバレンタインに、美味しいチョコを送りたい。長い水色の髪には蝶のような髪飾りを止めて。ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)は彼女曰くのカラクリの脚に履いた高下駄を鳴らし、座った。
「チョコ作りの本読んで、猛勉強してきたにゃ!」
 長く縞のある尻尾をもふもふゆらゆら。レッサーパンダのウェアライダー、深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)が言う。
「いつも簡単な物しか作らないし、正直ショコラ作りは不安があるが……」
 薄青の髪を三つ編みに、結い紐にはお気に入りのお守りを。アラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)。
「人命がかかっているのに弱音を言っている場合ではないな」
 それに義娘にあげると思えば一層頑張れる。花水木が咲く頃出会った彼女を、アラドファルはとても大事に思っている。
「僕はねぇ、珈琲頼むとさ、一寸した焼き菓子付くお店あるでしょ? あんな風に、恵くんが留守の時だけでも、珈琲につけられたらなって」
 黒髪に薔薇と胡蝶蘭とを飾る。ふわっと笑って天矢・和(幸福蒐集家・e01780)が言った。息子の天矢・恵(武装花屋・e01330)が切り盛りする花屋華鳥。恵は菓子担当、和は珈琲担当だが、
「親父」
 恵の髪に咲く赤薔薇はオラトリオの証。両親の純愛の結晶であり、あるが故にか今は少し欠けている。
「俺は店を空けるつもりはねぇぜ。まぁ……もし空けるなら、」
 暫しの間。恵の脳裏には以前、和が調理をしようとして家事になった台所の惨状が浮かぶ。
「恵くん?」
「親父は珈琲のプロだろ。菓子は作りおきしていくから珈琲だけ淹れてくれ」


「大丈夫、雨音たち、絶対守るにゃ!」 
 アレクセイから説明を聞き表情が硬くなった職人に、雨音が力強く言う。
「でもその前に、チョコの作り方を教えてくださいにゃ」
「店もお前も護る。代わりに弟子にしてくれ」
 恵が言った。
「3日で技を身につけるぜ。協力願えねぇか」
「3日ですか……」
「地球の命運がかかっているとはいえ、初対面の俺たちにおいそれと技術を分け与えるなど難しい話だと思う」
 考え込む職人に太郎が言う。
「だが俺たちは誠心誠意教えを乞うつもりだ」
「元々菓子作りの得意な者もいる。残念ながら私は違うけれど、頑張るよ」
 勇が言い、
「ぜひ、その技術を教えてもらいたい」
 アラドファルも言った。そして、
「正直言って、私はチョコレートづくりの知識に関しては殆どない。でも真剣に、真面目にチョコと向き合う覚悟はできてるぞ!」
 ソロも言う。熱意に、職人も快く承諾。
「ありがとうございます。それから、当日なのですが」
 和が、当日は職人は無論、お客様の安全も確保したいと伝えた。職人は来店予定の方には連絡、今日から臨時休業の張り紙も出すと言ってくれ、厨房へ案内。早速修行開始となった。


(「これ程本格的なものは初めてです」)
 手先が器用で菓子作りも好きなアレクセイだが、職人の手本に緊張する。
「枕型は作れるだろうか」
 寝るの大好き太郎が相談。武器も大体枕兼用、さもありなん。職人は、
「フリルをモチーフで作り、付けてみては」
 と枕カバー風の飾りを提案。雨音は知人の描いた紙を見せながら、
「これみたいなかわいいレサパンのショコラが作りたいにゃ」
「絞りで描くとして、色の再現にカラーチョコやホワイトチョコも使いましょう」
「ホワイトチョコなら僕もコーティングに使うから、一緒に頑張ろう?」
 和が言った。
「ホワイトチョコが好きなのにゃ?」
 雨音がたずねると、
「じゃーん!」
 びらぁっと和が転写シートを取り出す。
「これなら不器用な僕でも大丈夫なはずっ……! ホワイトチョコの方が色が綺麗に出るかなって」
「なるほどにゃ」
 シートには薄紅色の胡蝶蘭や薔薇、可愛い猫。餅を始め、猫を何匹も飼っている天矢家。
「あとガナッシュを……」
 アイリッシュウィスキーを少し効かせたほろ苦珈琲味にしたいと和が言えば、アレクセイもガナッシュの作り分けを申し出た。シャンパンと薔薇、木苺とカシス、アールグレイ。全てロゼをイメージ。
「俺も素材別の扱いは叩き込んでおきてぇ」
 恵が言った。独学故習える機会は有難い。


「覚悟はしていたが、難しいな……」
 テンパリングに取り組むアラドファル。
「本当だね。おっと」 
 大理石に流したチョコを混ぜていた勇も、初めてのことに苦戦中。
「チョコの状態を見てもまださっぱりだ。兎に角回数を重ねるしかないな」
 と言ったアラドファルに職人も同意、角を立ててみせる。それをソロもじっと見つめていた。不器用の自覚がある分必死。と、
(「さすが我らがアレクセイ。下手な女子より女子力高そう」)
 流麗にこなす姿が目に入り、
(「ちょっと教えてもら」)
「集中集中」
「はいっ、師匠!」
 気を引き締め直して、ソロは目の前のチョコと再度向き合う。
「僕も不器用だから……集中しないと」
 和も真剣な面持ち。雨音も精一杯頑張る。
「時間、温度、それから」
 太郎は職人を見つつ、
「動作に注意だ」
 普段は寝てばかりだが、気を抜かず、丁寧に。
「上手くいくといいんだが」
「良く出来ていると思いますよ」
 テンパリングを褒められ、太郎は小さくガッツポーズ。


(「これも丁寧に」)
 アレクセイがセンターをチョコへ沈める。恵は危なげなく引き上げるが、フォークを抜く時の動作に指導を受けた。
 コーティングが終わればデコレーション。
「ふう」
 絞り袋を使って市松模様を描いていたアラドファルが、息を吐いた。
「集中するとつい息を止めてしまうな」
「わかるぞ……あっ」
 ソロがしまったという顔。
「これでは蝶というよりぐるぐるまきだ……」
「繰り返し頑張ろう」
 小さいハート模様を散りばめたショコラに挑戦中の勇が言った。
「大事なのは真心……っと」
 一方アレクセイは、
(「星座は私の象徴……それを姫が口にするなど最高に滾る」)
 星詠みとして加護と目一杯の愛を込め、彼女の笑顔を思い浮かべながら12星座を描いていく。
 そして初日終了。
「寝る間も惜しんで頑張るよ」
 和が言った。テンパリングの不出来が口当たりと見た目に響いた者多し。
「程ほどにしねぇと明日に響くぜ親父」
 とはいえ恵もインソムニアで追い込む所存。と、
「……おいしくなぁ~れ」
 小さく唸る声。視線にはっと気づいた雨音、尻尾をぶんぶん、
「しょ、食材の無駄にしたくないだけだにゃ?!」


 次の日以降も練習を繰り返す。恵は接客も申し出、注文への添わせ方も学ぶ。そして、
「できたにゃ!」
 雨音がレサパンショコラを前に、ばんざーい!
「味見してみてにゃ?」 
 職人が一口。OKを出した。
「やったにゃー!」
 嬉しさに尻尾も上がる。最終日、皆テンパリングをクリア。
「わぁぁ……ディルクルムくんやセタラくんのも素敵だね」
 和が感心。
「ふふ、でもさっすがうちの息子は一味違うなぁ……プロなんだもんなぁ」
 としみじみ。
「これなら十分私の弟子と言えます」
 技術のみならず、贈る人を思う気持ち、好きな物を形にする熱意。それが素晴らしいと職人が言った。
「良かった」
 美しい蝶止まるショコラを見て、たまにはこういう依頼も悪くないと思うソロ。無論まだ決戦は明日。
「有難うございました。お礼にはまた改めて伺います」
 アレクセイが言った。


(「来たにゃ!」)
 見張りの雨音が皆に伝える。
「「いらっしゃいませ」」
 出迎える勇とソロ。
「お前達がショコラティエか」
 赤水玉の道化師が尊大に言い放ち、少女は玉に乗ってついてきた。
「お前達の仕事を見せろ。そして私にも教えるがいい。さもなくば」
 男は手裏剣をちらつかせて脅す。
「いいだろう」
 まずは恵が作り方を見せる。出来上がったのは金箔を星の様に散らしたボンボンショコラ。
「ほう」 
「食べてみろ」
「む。……これは!」
 中はココナツとマンゴーの2層。
「見た目派手で驚きと喜び溢れる芸の如く……お前のイメージだ」
「期待通りだ。早速私に」
「その前に買い物だ」
「なんと?」
「買い出しに付き合って下さいね」
 アレクセイが言い、ソロも、
「これも修行のうちだぞ」
「成程」
 男と少女を囲むようにして店外へ。大所帯を訝しむ男に、
「大量にあるからな」
 恵が言った。そして雨音が事前に見つけた空き地へ差し掛かる。
(「貴方方の企みの邪魔はしますが」)
 象るは星空抱き眠る栄光の白銀竜。アレクセイは手にした大鎚を砲撃形態に変え、
「私の邪魔はさせない」
「!」
 少女を砲撃が襲った。
「くらえなのにゃ!」
「君は守りを」
 雨音と、ビハインドの愛し君へ盾役を指示した和が礫を放った。愛し君が頷けば何かの霊が少女に抱きつき、砲撃の爆破に砕けた玉を蹴る足も止まる。と、続き少女の『時間』も凍りついた。シャツの袖には刻印の刻まれた銀細工のアームバンド。恵の向けた剣先から弾丸が撃ち込まれていた。
「エリィ」
 勇のライドキャリバーがガトリングを掃射する。同時勇は両逆手にナイフを持ち、少女の正面。その片方――業の名を持つナイフの禍々しく研ぎ澄まされた刀身を向け、
「忘れたいことは何かな?」
 少女の顔が強張った。刀身に映り具現化したそれから逃げようとするが足は動かない。
 一方、細かい作業続きのストレスを発散すべく、ソロはやる気を漲らせる。
(「決して嫌いではないのだけれど。……と、」)
 少女と男の列が違う事に気づき瞬時に演算、射程と命中からグラビティを弾き出し、
「ええーい鬱陶しい! 吹っ飛べ!」
 高下駄がダン! と大地を踏み抜いた。
「『吹き飛ばす!』」
 震脚。大地に流れ込むエネルギーが衝撃波となり、男を薙ぎ払う。
 アラドファルは青く霞む自分の幻影を太郎の側へ纏わせ、
「山田真刀流山田太郎、推して参る」
 太郎は体の脇、両手の拳をくっと握り目を伏せた。全身に禍々しい呪紋が浮かぶと同時『魔人』は再び鋭い眼光を放つと、
「うむ、やっぱりかっこいい」
 のでお気に入り。の渦巻く黒いオーラを防御に纏う。
「ケルベロスとはやられましたな」
 男が指で手裏剣を真上へ飛ばせば分裂して降り注ぎ、少女は玉を操りくるくると周りを回った。だが後手。庇いで受けた傷を太郎は叫びで癒し、恵は仲間の催眠を解く。そして雨音は少女に接近、
「『もふもふ・ている・ですとろーい!!』」
 ステップを踏めば尻尾も踊る。流麗に舞いながら自慢の尻尾の往復ビンタ! その名も千尾円流舞――テイルデストロイワルツ。少女も思わず尻尾を撫で、
「もふ……もふ……」
 強奪された戦意は雨音の怪我を治す活力に。
「タヌキに構っている場合か!」
 男が言えば、
「タヌキじゃないにゃ! 後でぼっこぼこにしてやるにゃー!」
 プライドを傷つけた代償は高くつきそうだ。
 ソロは再び命中率から超加速の突撃を選択、機械兵装で左右上下から男を痛撃。分身を送る少女に男は遅いと怒鳴った後、
「まあいい。此奴らはお前から潰すつもりのようだ」
 口元の血をぬぐえば顔のペイントが不気味に乱れる。
「実に正しい! 元より大した役には立たないのだから!」
「くっ」
 太郎が思わず拳を御見舞しそうになるが、耐える。依然ケルベロス達は少女を攻撃。男は苛立ち、
「何時までそんな弱い物と戦っているのだ!」
 妨害に手裏剣を飛ばすが、アレクセイが古代語の詠唱から放った光線で石化。アラドファルはすかさず少女へ砲撃を撃ち込む。そして、
「『その瞬間、僕は恋に落ちた事を知った。そして、この気持ちから……もう、逃れられない事も』」
 一目惚れの瞬間を集めた自身の作を朗読する和。撃ち出された弾丸は少女をどこまでも追いかける。恋を知っていたかもわからない少女は、恋の弾丸――ラブ・ブリッツに胸を撃ち抜かれ、消えていった。
「情けない奴……!」
 吐き捨てた道化師の顔に浮かぶ涙のペイント。瞬間、炎を纏ったエリィが男に突撃、
「『悪いけど、じっとしててね。』」
 螺旋の力が勇の髪を舞い上げた。癒えぬ傷痕はチョーカーの下、胸の裡は臆病。だがその分だけ強くなれる。多分、と彼女は言うけれど。雷に変換された力が刃に宿るが早いか、疾風の如く勇は駆け、閃光が炸裂する中斬撃の音だけが響く。
 雷刃。間合いを抜けた勇が振り返れば、男は血溜まりに佇むばかり。


「遅いにゃ!」
 雨音が手裏剣をひらりかわした。そして空中で宙を蹴り込むようにターン、
「グ!」
 刀で男の傷を抉り切る。
 庇いは確率、太郎も隙を見てはドローンの群れを警護につかせ、恵は時に守護星座の力を、時にオーラを送って戦線を支える。ソロは長い手足と攻撃力を存分に生かした光の刃もつ機械仕掛けの鎌の一撃で、男の生命力を自分へ。男は追い詰められていく。が、
「!」
 少女の魔法を頼もしく防いだ愛し君だったが手裏剣とは相性が悪く、和を庇って消滅。和は息をつき、すぐにオーラを掌から放った。
 男は最早狂騒の体。手裏剣を操り抵抗する。しかしエリィが庇いに入った後ろ、荷台に片手をついて飛び越えた勇が踊るように、けれど正確に、男の関節を刻んだ。
「血の混じったショコラなど誰も欲しがらない。甘い夢でも見ながら眠るといい」
 アラドファルの左手から、ぽとりぽとりと墨のような闇が零れ、
「『君はどんな夢を見る?』」
 濤星。侵食した闇と一体化し膨張した大地が、波濤となって男を呑みこんだそこは星さえ散る蒼い帳。
「俺の拳で粛清してくれる」
 全てを太郎が怒りの右ストレート――グーパンに込め、
「『絶対に泣かす』」
「ぐガアッ!」
 夢から引きずり出すように男の顔面を殴りつければ、姫への愛纏う黒鳥1人。
 ふわり、魔の翼。映る宇宙に煌めく、南斗六星。
「『さぁ、いっておいで。美しい流星を見せてください』」
 星詠みの白き指が辿り描き紡ぎだす星魔法。流れるはサイローンが放つ箒星。サジタリアスの弓――ツマビクハホシノユミ。
 澄んだ星の音響かせる不可視の流星が、男の身を穿ち切り裂いた。
「ミス、バタフライ……」
 男が千切れ消える様を、アレクセイは見届けた。

作者:森下映 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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