少女は正義の為に銃をとる

■リプレイ

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「裏、でスか」
　千里・雉華（月下美人と白詰草・e21087）は転がる死体と歌音の前でコイントス。
（努力次第、でスか。何を努力しろってんでスかね）
　割り切って、自らを切り替えて現場検証を開始する。
「……死体は野晒、事後の処理は無しも同然、被害者の関係者や親族への連絡は皆無」
　容疑者に唾棄して、目を合わせるように覗き込む。
「他者が何を思うかをてんで顧みない、その癖自分だけ気持ちよくなっている、それ以前に更正は選択肢にも入らない……世間じゃそれは他人を憂う正義ではなく、自己満足っつんだよ殺人犯」
「人に唾を吐く様な悪人に言われたくないかな？」
　気づけば、拳が雉華の腹を抉り込んでいた。
「かっは！？」
　至近距離で挑発した故に直撃を貰った刑事が吹き飛び、建物の外壁に叩きつけられて蜘蛛の巣状にヒビを走らせる。
「貴女の正義とはなんですかね？」
　プルミエ・ミセルコルディア（フォーマットバグ・e18010）は顔色一つ変えずに、雉華に星の加護を降らせる。視線すらも向けず、言葉が続く。
「貴方のそれは『悪の敵』であって、『正義の味方』とはなってないのでは？　誰もついてきていないのが証拠ですよ」
「当たり前じゃない、皆、みーんな悪人なんだもん！」
　つまらなそうに、プルミエが鼻で笑った。
「正義のなんたるかも分かってないおバカさんでしたか」
　プルミエには、数多の英傑の人格と記憶が渦巻いている。故に、正義とは切った張ったでたどり着けるものではないと、よく知っていた。
「それは正義なんかじゃない、ただの人殺しですよ」
「そういうこった」
　平島・時枝（フルメタルサムライハート・e15959）は背負った刀の柄に手をかけて、目を据わらせる。
「如何なる題目を並べようと、貴君の蛮行を看過し得ぬ。平島塵風斎時枝、手を血に染めようと為すべきを果すのみ。いざ、勝負」
　小さな爆破音と共に踏み込めば、鞘に仕込まれた火薬の空薬莢が地面に転がり、吹き飛びそうになる刀身を柄という一点で支え、そのまま弧を描かせ反転、峰でぶん殴る。一撃で仕留められないのは百も承知、なれば次に繋ぐべく、衝撃を叩きこんでその動きを鈍らせた。
「くっ……」
　歯を食いしばる歌音の周りを、ゆっくりと炎が巡る。
「別に君の言う正義を否定するつもりはない。生憎他人の正義になんて興味がないのでね。だから俺は俺自身の正義の下、君を殺す」
　緋色・結衣（運命に背きし虚無の牙・e12652）を基点に、歌音を包み込むように広がるは緋色の業火。追い詰めるように走る曲線は地獄の発火点へと舞い戻り、結衣の白刃で煌々と燃え盛る。
「こいつ、俺を狙ってやがる！」
　肩の支援機が、結衣の狙いに勘付いたが、反応前に結衣が炎剣を振り下ろし、歌音が防御姿勢をとろうとして。
「バカ、あれは囮だ！」
　爆炎が巻き起こる中に声がしたが、どうだっていい。爆ぜた焔は無数の刃に姿を変えて、驟雨の如く降り注ぐ。火炎の剣閃が駆ける度に、歌音を覆う炎の壁は燃え盛り、やがては巨大な柱に姿を変えて。
「其は虚空を穿つ業火の刃、凄惨にして罪を贖う浄化の炎――これで何もかも終わりだ」
　燃え盛る火柱へ、結衣の手が翳される。
「ただ眠り、滅びの声を聞け」
　握り込んだ瞬間、荒れ狂う炎が収束、天を突く業火の柱となり……。
「人の話を聞け」
「サポート役なんだから文句言わないで」
　歌音の生存を照らし出していた。

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「ありゃ厄介だな……」
　ルドルフ・レイル（欠牙の灰色狼・e22410）はその様子から、小型機の役割を見抜いた。
「あの鳥野郎、嬢ちゃんのスペックを引き出す為についてやがるな？」
　歌音は元々の正義感を利用するために思考回路は人間時の脳を流用しており、比較的戦闘慣れしていない。それを支援することで、盲目的なまでの正義を貫く機械兵器の完成、というわけだ。
「今から尻尾巻いて帰るんなら見逃してやるぜ？」
　ルドルフを嘲笑う鳥に、歴戦の傭兵は肩をすくめる。
「悪いが、俺は仕事に忠実な男だ。何としてもてめぇをぶっ壊す」
　右腕で右腰の、左腕で左腰の刀の柄に手をおいた。通常とは異なる独特の構えに鳥もまた警戒を強める。
「倒すべき敵であるならば、誰であろうと躊躇わない。今までもそうだし、これからもそうだ。これがお前と同様の、他の者の正義と交わることのない俺の正義だ」
　一見すれば抜刀しづらいであろう構えのまま、ルドルフは腰を落とす。
「では、行くぞ」
　微かに、刀の柄が内側に傾く。
「マズイ！　逃げ……」
　指示が飛びきる前に、ルドルフの一足が懐にあり、喰らいつくように両脇から刃が胴体に食い込んで、浅くも大きく斬り裂き、その足取りを鈍らせる。
「チッ、ぬかったか」
　反撃が来る前に距離をとるルドルフは厳しい評価を下すが、その動きはまさに『黒狼』。獲物に追い縋り喉笛にかぶりつくように、挟み込む抜刀は傷跡を刻み込む。普通の抜刀ならば、斬り払うように刃が抜けて、左右に逃げれば一振りに対応するだけでいい。しかし、ルドルフのそれは両側から、退路を塞ぎながら迫る。必然的に退路は後方しかないが、逃げたところで獣の如く追い縋り、容赦なく斬り捨てる独特の剣技。何が『牙を失った狼』か、キレは失えど、冴えは凄まじい。
「感情のまま人を傷つけ命を奪う事でしか成立させられないものを正義と呼ぶには、無理がある……いや、いっそ滑稽だな」
　嘲笑を浮かべるグレッグ・ロックハート（泡沫夢幻・e23784）はちらとルドルフに目配せ、返る視線から刃では傷が通りにくいと察し、脚に込めていた紅蓮の炎を蒼く美しく、儚さすら感じる物へと変質させた。
「もう戻れないと言うなら、その歪んだ正義ごと俺達がここで終わらせてやろう。それが今のあんたに与えられる唯一の救いだ」
　自然に、背中を押されるようにして距離を詰めるグレッグだが、斜め下からすくい上げる様に振るう脚をいなされて、胴体に銃口を突きつけられる。
「カッコつけてる割りに、動きがお粗末だぜ？」
「戻れないんじゃない、戻らないの。私は正義、何も間違ってない！」
　至近距離で魔力の砲弾をぶっ放され、胴体を焼き払われながら地面を跳ね、転がるグレッグ。咳込み、血反吐を吐く彼の頭を鷹斗がペチペチ。
「グレちゃん何やってんの？」
「煩い……」
　防具で対策を練っていても、至近距離で反撃を食らえば痛い物は痛い。内臓に走る激痛に口元を歪めるグレッグの背中を鷹斗がバンッと叩き、地面に顔面から突っ込ませる。
「グレちゃんは何が正義だと思うんだ？　別に困らせてえわけじゃねえって、そんなシケた面すんなよ」
　ジト目を向けるグレッグにケラケラ、歌音を指し示す。
「……奴らが正義を語るなんて笑えると思わねえか？　カンニング？　カツアゲ？　ポイ捨てが悪だあ？　はははは！　本当に笑っちまうね！」
　鷹斗はグレッグを庇うように、前に出た。
「おら、俺達の正義ってもんを見せてやろうぜえ！　俺達の流儀ってやつでな！　……しっかり殺れよ、グレッグ！」
「言われなくとも……」
　ユラリ、立ち上がる彼の目に迷いはなく、体の内側から抉るような痛みも、心にかかった靄も、消えていた。


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「黒野、もうアンタの正義はデウスエクスの正義、人々の魂の重力鎖を略奪することの言い訳だよ」
　風音・和奈（固定制圧砲台・e13744）は光を放つ砲台を前にしても、歌音の目から視線を逸らさない。
「はっきり言ってやる。アンタが悪だ。まだ正義がどう、なんていうのなら、アンタの存在、アンタの正義、アタシが全部否定してやるよ」
「そういうのは生き残れる奴が言うもんだぜ？」
　小型機が嘲笑い、薙ぎ払うような砲撃が迫る。その射線に、睦沢・文香（ブレイクスルービート・e01161）が飛び込んだ。
「法も倫理も無視した私刑に疑問を抱かない今の貴女をこそ、かつての貴女は悪だと断じるでしょう」
　収束した熱量を前に、自身の体が焼け、皮膚が悲鳴を上げてなお、キッと目を向けた。視界を塗りつぶす光の奔流の向こう、冷めた目をしている少女へ吼える。
「貴女の手をこれ以上血で染めさせない為に、今ここで終わらせます！」
　砲撃を受けきった文香が肩で息をするが、和奈は迷った後、初手で直撃を貰い今なお苦痛に表情を歪める雉華に向けて鬼鋼を展開。
「クウ君！　オウガ粒子を集中散布！　重力鎖の流れを回復させて！」
「くぅ！」
　和奈が掲げる小さなスライムの様なモノが青い炎を発し、雉華の傷を癒しながらコートに付着。無茶すんなよ？　と、じー。
「無茶しない警察なんて、サツじゃねぇっつうの」
　自分を番犬ではなく、法の番犬だと強く意識する雉華は地面を踏み締める。
「オマワリ舐めてっとぶっ飛ばすぞオラァ！」
　銃口を向ける歌音に対して、彼女本人ではなく大型銃の方を蹴り飛ばして姿勢を崩させ、続けざまに頭を引っ掴んで、頭突き。ダモクレス相手にカチ合えば割れるのは雉華の額の方だが、血を垂れ流しながらもよろめく歌音を更に蹴り飛ばして地面に転がすのだった。
「正義って言葉は好きじゃないです。その人の生き方や宗教で簡単に見方が変わるので」
　目に入る血を鬱陶しそうに拭う雉華に鬼鋼を張り付けて止血する晩がポツリ。
「心の弱さに寄り添う思いやりの方が必要ではないでしょうか。あなたの正義は一方的で心がない。そんな正義、孤独になって当然ですよ」
　ギリ、歌音が奥歯を噛みしめる。
「うるさいうるさい！　周りが皆しておかしかっただけだもんッ！！」
「おい馬鹿、落ち着け！！」
　頭を振って、感情のままに得物を構える歌音を小型機が制した瞬間、一陣の風が吹き抜ける。
「正義も悪もその本質は同質だ。だが、あえて定義するのであれば、自らが帰属するコミュに害を齎すのが悪、自らが帰属するコミュに益を齎すのが正義なのだろう」
　一瞬の隙をついてすり抜けたアイリスは空ぶった手を見つめて、スッと目を細める。
「穿いてない、だと？　いや、それ以上に今の感触は……」
　指先に触れたのは無機質な肌。彼女の生体部分はもう……。
「スッとろいねぇ、鳥の囀りがなくちゃ動けないってか？　そんなに自分の正義に自身がなくっちゃぁ、剣でも弾でも届いちまうよってなぁ！」
　納刀して拳銃に持ち変える時枝に歌音の目が向く。
「うるさい！　私は正しいの！」
「落ち着け！　悪人の戯言に惑わされるな！！」
　怒りに身を任せ、小型機の声に耳を貸さない歌音が引き金を引いた。散弾銃の如く拡散する光の前に、文香が飛び込み、更に空を蹴って銃口に体当たり、一身に弾丸を受け止めて血の塊をこぼす。
「蚊に刺された程にも感じませんね……貴女の正義は、軽すぎます……！」
　虫の息になりながらも、不敵に笑う。その心に秘めた思いを、自分自身で噛み殺す為に。それを見抜いたのだろう、小型機が嘲笑う。
「その割にさっきから一度も攻めてこないじゃねぇか。歌音ちゃんが可哀想だから戦えませんってか？　いい子ぶってるのも大概にしろよ偽善者。お前みたいな悪人が……」
　タンッ、ギリッ。
　銃声と、金属をぶち抜く鈍い音。
「目障りなんだよ。たかがダモクレス如きが知った風に囀るな」
「自分の正義を信じるなら、誰かの言葉に頼ってはならん。自分の意思で、進め」
　小型機に風穴を開けた炎剣を引き抜く結衣と、歌音の眉間を狙った牽制で回避タイミングを逸らした拳銃から硝煙を上げる時枝。
「君の歩む道を歪めたデウスエクスを許しはしない、仇は討つと約束する。だから君は、本当に平和な世界が訪れるその時まで……安らかに眠れ」
　歌音が銃口を向けるより速く、結衣の鎖が地面と脚を、壁と腕を貫いて絡めとり、その動きを封じ込める。
「この……！」
　しかし、小型機を失い冷静さを欠いた歌音は力任せに引き千切り、拳を振り抜こうとするが、その真正面で時枝が抜刀。
「我が征くは修羅の道。悪しき礫を打ち砕き、魔拳を屠りて道を正さん……」
　顔の横。視線と同じ高さで刃を寝かせ、片目に意識を集中。
「つまりは良い子にしてろって事よ、突っ切れ！」
　鼻っ柱をへし折らんとする機械拳を前に、目を逸らさず踏み込んで重心を傾け、頬を掠めて血で線を引きつつ、すれ違いながら懐へ。
「修羅剣いんぱくとおおぉぉぉうぅ！」
　切っ先を眉間に当てて、しかし機械の肌を突き破ることは叶わず、振り抜かれた拳の反動すらも乗せて一気に弾き返す！
「召喚機構同期開始。No.024。【ハイル・ロシミエル】召喚します」
　青い光を放つ、タロットにも似た菱形の描かれたカードを翳し、ゲートを開くプルミエ。己が内包する魂の一つを顕現させれば、現れたのはテンガロンハットで目元を隠し、スーツに身を包んだアウトローなガンマン。くわえ煙草の彼は、一目に上質と分かる革靴を鳴らし、両手をポケットに突っ込んだまま、口元だけで不敵に笑う。
「『ソニックショット』実行命令」
「殺しは一度覚えたら止められないってな」
　次の瞬間、銃声が一発。されど、六つ血霧が舞う。同じ数の空薬莢を捨ててゆっくり弾を装填しながら消えていく男の前で、いつ銃を構えられたのかすら分からない歌音が左右の腰の下半身へ重力鎖を伝える配線と膝の関節駆動部分、鳥が留まっていた位置のバランサー、右肩の武装を支えるマウント部分の六ケ所を破壊されてよろめき、グレッグが迫る。
「この……！」
　武装の重量で姿勢制御がままならず、それでも拳を振るう歌音の一撃が直撃……否、受け流した。
「もう迷いはない……これが俺達の正義だからな」
　拳の裏で受けとめて、自身の体を滑らせるようにして拳、腕、肘と体の外側へ力を逃がし、まるで掻き分けた水が腕にそって流れるように、歌音の体に合わせて潜り込み、膝で打ち上げて、勢いのままに回転、裏拳で横っ面を吹き飛ばしてその反動で逆回転しながら上段回し蹴りが頬を捉えて、倒れゆく彼女を迎え撃つように、低い位置から拳を握る。
「……不器用ですまない」
　左腕が蒼炎に包み込まれ、彼女の顎を打ち上げた。そのまま手を開いて頭を掴み上げ。
「せめて、すぐに終わらせよう」
　小さな呟きと共に青い炎が紅蓮に染まり、少女の体を焼き始める。それでも今だ崩れえぬ機械の体を、地面に叩きつけて半球の底に沈めた。
「お前のような奴は今まで何人も見てきた」
　クレーターの底で立ち上がる歌音にルドルフは双刀を翳す。
「いずれの場合も、結局は己の掲げる正義が絶対であるという姿勢を崩すことはなかったが……」
　その末路を想い、頭を振って歌音を蹴り飛ばし、胸を踏みつけて壁面に叩きこむ。
「いや、お前はお前だ。他の正義など、関係なかったな」
　刃を翻し、峰で防御する腕の上から滅多打ち。時に切っ先の刺突を混ぜ、ジワジワと傷を増やし、唐突に脚を離して二振りを揃え、ひっくり返すようにして窪みの外まで吹き飛ばした。
「げほっ、ごほっ……」
　装甲の上から幾多の衝撃を叩きこまれ、神経回路がショートしたのか、動きが緩慢になる歌音を、文香が見ていた。
「もう、終わりにしましょう！」
　無理やり、笑顔を作って。
「私たちは敵同士、決して分かり合えない。だから……！」
　平手を振るい、破裂音と共に歌音の顔がソッポを向いた。
「分かり合おうとしないんじゃない！　貴女たちが悪だから！」
　歌音の叫びと共に、文香が頭から地面に倒れる。
「いいえ、私は悪でも正義でもありません。ましてや、御伽話のヒーローでも救世主でもない、ただの番犬です」
　起き上がって、歌音の顔を張る。
「正義と悪がそんな曖昧でいいと思ってるの！？」
　振り向きざまに、文香を横薙ぎに吹き飛ばす。荒い息を吐いて、彼女はまだ立ち向かった。
「どちらかなんてわかりません。だから、できることをするだけ。地球を、人を襲う神を殺す……ただそれだけ」
　悲しそうに微笑んで、思いっ切り腕を振るった。倒れ込んだ歌音から、グシャリ、無機質な音がする。
「……ごめんなさい」
　虚ろな目を向ける歌音の手を取り、嗚咽を漏らし始める文香に、微かな声が。
「逃……げて……」
「え？」
　次の瞬間、歌音から莫大な重力鎖の反応が溢れだし……。

　ドスッ。

「……やっぱり、ペインキラーでも、心の痛みは消せないみたい」
　そっと、ピエロの半面をつける和奈の手が、歌音の胸を貫いていた。ゆっくりと引き抜いて、仕込まれていた爆薬を握り潰す。
「え……？」
　わけが分からず、和奈の手にある物と、もう何も映さない歌音の目を見比べる文香。
「なるほど、少女の思考回路を利用してるから、何かあったら自爆するようにできてたんでスね」
　あくまで淡々と、状況を整理した雉華が殺された被害者の身元を調べる。その間、文香は黙祷を捧げていて……。
「この仕事を続けていくと、己の正義が重く感じる時が稀にある。今回のように、後味が悪い戦いの後がその時だ」
　正義を振りかざす者と、その末路を見てきたルドルフはそっと背を向ける。今までずっと、そうしてきたように。
「……今夜は、呑むか」
　言葉にできない想いも、背負う事の重さも、全て、飲み下す為に男は一人、戦場から去っていく。その背を見送る雉華は、ふと夜空を見上げる。
「こんな形でしか貴女を戻せないことを、決して赦さないで下サい。代わりに、このクソ戦争を一日でも早く終わらせまス……おやすみなさい」
　歌音の遺体を回収するのは、もう少しだけ後の事だった。

作者：久澄零太	重傷：睦沢・文香（ブレイクスルービート・e01161）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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