佞悪醜穢その名も不還

作者:林雪

●ダモクレス・不還
『了解致しました、コマンダー・レジーナ。……はい、それは勿論』
 美しい笑顔。この笑顔だけ見ていればそれだけで心が洗われるほどに、ダモクレス・不還の笑みは美しかった。
 通信を切り、薄笑みを浮かべたままで周囲を見渡す。潜伏場所としては悪くなかった。街中の小さな寺はほどほどに人の流れがあり、かつ騒がしくはなく……今も寺の境内には信心深い老人が十数名、それに寺を管理する僧たちの姿もあった。
『それでは、こちらの皆様方にはレジーナ様への手土産になって頂きましょうか』
 美しい笑顔のまま、不還の十本の手が蠢く。かざされた手のひらから発射された魔法光線は、場にいた人々をあっという間に飲み込んだ。倒れた人々の合間を縫って歩く不還の純白の天衣が揺れる。死にゆく人々の目には、極楽からの迎えに見えたかも知れない。だが。
『無駄に年だけ食っているように見えて、案外なグラビティ・チェインを蓄えていたりしますからね……これだから、老人狩りはやめられない』
 外見の美しさに反し、言うことやることクズである。
 ふと、まだ息のある老人がうめき声をあげて体を起こそうとする。おやとその傍へ不還が歩み寄った。
『ああ、老人は反応もいいですね色々あって。若い女などは悲鳴を上げるばかりがほとんどで、つまらない……哀れな老人よ、さあ私の手を取りなさい』
「わ、わしは見た……やったのは、お前じゃろ……人殺しめが」
 瀕死の重傷を負いながら、不還の性根を見抜いた老人がその手を振り払う。再び美しい笑顔を浮かべ、払われた手をそっと老人の顔の上にかざして不還が告げた。
『死にさらせ』
 
●慈悲の笑み?
「今度は潜伏してたダモクレスたちが暴れ出したみたいだよ。指揮官の名は『コマンダー・レジーナ』。どうやらレジーナはかなりの数のダモクレスをずいぶん前から潜伏させていたみたいなんだ。明確な目的は不明だけど、まあ普通に考えれば情報収集だろうけどね」
 ヘリオライダーの安齋・光弦が、集まったケルベロスたちに事件の概要を説明し始めた。
 先日現れたダモクレス軍団の指揮官のひとり『ディザスター・キング』に引き続き、今度は『コマンダー・レジーナ』の配下が現れたというのだ。
「配下の多くは既に撤退してるんだけど、一部の連中が各地で暴れてる。潜伏期間の鬱憤晴らしなのか、レジーナの元にグラビティ・チェインを持って帰ろうとしてるのかはわかんないけど、いずれにしても放ってはおけない」
 そう言って光弦がモニターに示したのは、福岡県のとある都市の街中にある小さな寺。大きくはないが伝統のある場所である。
「ここに潜伏していたダモクレス、名前は不還っていうんだけど。こいつがなかなかの……なんていうか、クズ」
 困ったように眉を下げ、光弦が渋面になる。モニターは代わって不還の姿を映し出した。天衣を纏い、白く輝く神々しい姿に穏やかな笑み。だがよくよく見ればその体のふしぶしには無機質な機械の部品が見える。指先から黒い蜘蛛を一匹弄ぶようにぶら下げたその様子は美しくすらあるのだが。
「殺す人たちに一回情けをかけておいて、もう一度絶望させて楽しむみたいなサイテーなヤツだ。遠慮なくバラバラにしてやってきて!」


参加者
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)
クレム・オーディル(夢葬の柩・e00533)
ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)
哭神・百舌鳥(薄墨の暗夜・e03638)
唐繰・沙門(蜘蛛の糸・e03727)
呂・花琳(鉄鍋のファリン・e04546)
井関・十蔵(羅刹・e22748)
ガラティン・シュミット(遺志苛まれし医師・e24979)

■リプレイ

●外道
「うわ……」
 京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)が思わず絶句する。
「誰かさんと、そっくりではないですか……」
 言われて、当の『誰かさん』である唐繰・沙門(蜘蛛の糸・e03727)も妙に感心して頷いてしまう。
「……本当に、見れば見るほど私だな」
 境内に現れた敵、不還の白く輝く姿。その顔は、沙門の対とでも呼ぶべきほどに瓜二つなのである。だが続く沙門の言葉は少なからず仲間たちを驚かせた。
「一体何者なのだ?」
「……え?」
「まさか沙門お主、知らんのかあいつを?」
 呂・花琳(鉄鍋のファリン・e04546)が眉を寄せてそう問えば、しれっと頷く沙門。
「知らん。似ているとは思うが」
「……似てるってレベルじゃないな。同じ顔だ」
 クレム・オーディル(夢葬の柩・e00533)がごく冷静にツッコむ。不思議な関係性が気になるところではあるが、今はまず境内に残る人々の安全を優先させなくてはならない。
 予めの役割分担の通り、まずは境内に駆け込みケルベロスを派手に名乗り、一般の人々を避難させる。
「ケルベロスじゃ! これより此処は戦場と化す! 死にたくなければ即刻逃げよ!」
 花琳が拡声器を使って、わざと不安を煽るような言い方で思い切りそう叫んだ。場の空気が不穏にざわめく。これは作戦通りである。勿論、煽り立てるだけでは危険であるから、避難誘導に十分な手を割いてある。その声で非常事態を察知した寺の僧たちも避難を促す。
「さあ行きましょう……安全なところまでお連れしますよ……」
 哭神・百舌鳥(薄墨の暗夜・e03638)がまずはケルベロスカードを提示し、怯えた様子の老婆をその静かな声で宥めながら、寺の外へと誘導する。志とエトもそれを手伝う。
「焦らなくていい、安全に」
 クレムのローテンションもこの場合はいい方向に働いたようで、ご老人たちは比較的落ち着いて避難していく。
『ケルベロス……? これはこれは。帰還前に楽しく遊べそうな』
 不還が美しい笑みをたたえたままで、周囲に視線を走らせる。ここで囮の登場である。花琳がわざと場を混乱させたのは、囮の紛れ込みをスムーズに行うため。
「私の部下と似たような姿形で、好き勝手はさせんぞ」
 ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)が低く、だが力強くそう呟くと、
「よっしゃ御頭、手筈通りに頼んだぜ」
 と、井関・十蔵(羅刹・e22748)がニヤリと笑って応じた。次の瞬間には十蔵は囮役としての弱弱しい老人演技に入った。
「ほ、ほ、仏さま……? 本物の仏様じゃ、あ、ありがたやありがたや……」
 ヨタヨタと不還の姿に吸い寄せられる老人、という体で十蔵は両手を合わせて拝み始める。 ガラティン・シュミット(遺志苛まれし医師・e24979)も愛用の武器・紫電を隠し一般老人を装ってそれに倣う。
 ところが。
「おお、儂にも見えますぞ、ありがたいお姿が……」
「儂にも……寺に通い詰めた甲斐があったというものですな」
 至近に残っていた数人の老人らもそれに倣ってしまったのだ。恐怖が過ぎてパニックになった果ての行動かも知れない。慌ててケルベロスたちが駆け寄るのとほぼ同時、不還が手のひらを持ち上げた。
『ふふ、良いですね……その、拝みさえすれば自動的に極楽に行けるだろう的な……浅ましさが、好もしい。待っていて下さいねケルベロス、貴方がたと遊ぶのは彼らを送ってからです』
「じゅ……、お、お爺ちゃん!! やめて私のお爺ちゃんに何するの?!」
 ナディアが渾身の叫び声と共に駆け寄る。彼女は祖父である十蔵を助ける孫娘、という役どころである。合わせて、ガラティンがヒェッと声をあげて盛大に転倒して見せた。
「な、何を、貴方は一体……」
 慈悲を乞う声が悲痛であればあるほど、不還の笑みは深く優しく美しくなる。その方が、より大きな絶望を与えられるからだ。
「キャアァ!」
 佐祐理がダメ押しのように悲鳴を上げる。呆れた風な声で不還が言った。
『やはり女は叫ぶばかりですね。私も十人ほど飼っているのですが……改造の際に叫ぶので、やかましくて敵いませんでしたよ』
 美しい笑みのまま外道の言葉を口にし、そして。
 ドン、と境内に衝撃が走り、不還の手から光線が発射された。ガラティンとナディアが横っ飛びに飛んで、避難の遅れた老人たちを一人ずつ、体を張って守った。離れた位置で避難誘導に当たっていた郁とカレンデュラも壁になる。光線が命中したのは、十蔵の立っている足元の地面だった。ぺたりと腰を抜かし演技を続ける十蔵。
「ひ、ひぇえ」
『おや、漏らしませんでしたね? 老人はすぐ漏らすのが哀れで良いのですが』
 不還の言葉に呆れ果てた沙門が、周囲を見回し、避難完了を確認してから仲間たちに告げる。
「なんと、本当にただのクズではないか。頃合いだ、やってしまおう」
 その口調には決して無理をしている様子はない、と思いつつもクレムは注意深く彼の様子を見る。言葉よりは空気の変化を感じ取ろうとしている。
「……やれやれ、神仏ひとつまともに拝めない世の中だなどと、思いたくないものですね」
 そう言いながらガラティンがこれ以上一般人を巻き込まぬようにと、激しい殺気を周囲に向けて放った。百舌鳥もそれには全く同意見と頷き、戦いが終わったら必ずここを元通りの憩いの場にしようと誓いつつ、キープアウトテープを手に走り出す。
 そこへ、夕雨が紅の番傘を構えて真直ぐに走り込む。
「その人から離れなさい!」
『嫌ですが?』
 涼しい顔でそう答えた不還の目に、一瞬驚きの色が浮かぶ。叫んだ勢いのまま、からくれなゐの一閃が突き込まれたからだ。

●瓜二つ
 夕雨の先制攻撃を受け、白い衣が裂けても不還の薄ら笑みは消えない。
『おや、待ちきれない? ならばこの老人は巻き込んでも良いということですね』
 白い指に示された十蔵がニヤリと笑う。
「おう、待ってたぜ」
『……やれやれ、この私を謀るとは』
「残念ながら芝居の時間はここまでだ。貴様は逃がさん。私の部下も仲間も傷つけさせん!」
 引っかかったのだと理解しても笑顔を崩さない不還を、ナディアが空にも似た勿忘草色の瞳で眼光鋭く睨み付けて啖呵を切った。そのままケルベロスチェインを地面に走らせ、防御の態勢を固める。
 夕雨は番傘をひと振りし、オルトロスのえだまめを下がらせながら言い含める。
「いいですね、沙門さんと不還さんを間違えないように気を付けて下さい」
 そこへ、凛、と鈴の音が響く。呪符から飛び出した、百舌鳥の五匹の管狐たちの首に五色の組紐が揺れ、そこに下がった鈴が揺れる。
「お待たせ……さぁ……かくれんぼの時間だよ……」
 狐たちが張った結界の闇が不還を取り囲む。攻撃が効いていないわけではなさそうだが、敵は余裕の態度を崩さない。
『なるほど、老いぼれ以外でも楽しめそうだ』
「見た目と違って随分と血の気が多いんだね……」
 百舌鳥がじっと不還の白い面を見つめてそう言った。傍から見ても、その顔は沙門に瓜二つ。しかし肝心の沙門の感想は相変わらずだ。
「貴様に対して抱ける感情が大してなくて済まんな。ただクズだとしか思えん」
「ならば遠慮なくやらせて貰って構わぬな?! 正直コイツだけは許せん!」
 花琳はこの不還という敵に心底怒っていた。彼女の流派『蒼龍泉門』は、神聖なるものを崇めそこから強さを得ている。己の戦いのルーツそのものを穢された花琳の怒りは深い。
「おお、ガンガンやろうじゃないか。こんなクズの為に痛める心は持っていないぞ私は」
「安心したぞ! 梵天丸!」
 沙門の言葉の終わらぬうちに、怒髪天を衝くといった様子で花琳の全身が地獄の炎に包まれる。呼びかけに応じたシャーマンズゴーストの梵天丸も祈りを捧げ、花琳の戦闘態勢は整った。
『では今度は本当に当てて差し上げましょう』
「うるせぇぞこの悪党が。ケルベロスのジジィが大人しくあの世に行くと思うんじゃねえぞ!」
 自らジジィを名乗り、手のひらから放たれた魔法光線を今度は真っ向から受けた十蔵だったが、気合一声、身の痛みは消えていく。彼を支えるべくシャーマンズゴーストの竹光がふわふわと舞い、クレムは星座の輝きで味方を包む。
「顔は私だが、気にすることはないぞ!」
 言うや沙門が炎弾を放つ。あの、慈悲めかして伸ばされる腕は忌々しい、と思いながら。
「若い頃の様には動けずとも、年寄りには年寄りの意地があるものですよ……!」
 十蔵の手当ては充分と見てとったガラティンが攻撃に転じ、不還の身に纏わりつく炎を広げるべく、紫電を手にした左手を振り抜いた。
『手数だけは多いようですねぇ?』
「その言葉はそのまま、あなたにお返ししますよ」
 後方から精度を武器に狙い撃ってくる不還に対し、ケルベロスたちは花琳と百舌鳥を双剣に立て、防御を固めつつもかなり攻撃的に攻め立てる。
 ざあっ、と雨音のような音が響き、不還の足元を小さな炎弾が貫いた。
『……おや?』
 夕雨はその様子を恐怖をもって見つめた。自分のよく知る顔でありながら、物腰も口調も何もかもが違う敵。得体の知れない恐怖に支配されそうになる心をしかし、夕雨は必死に励まして平静を保つ。足元の止まった不還の動きを封じるべく、百舌鳥が光線で畳み掛けた。ナディアは剣を振るって傷を広げつつ、鉄の一撃を叩き込む隙を伺っていた。
「食らえ、不敬なる機械人形めが!」
 伸びてくる十本の腕を叩き落す勢いで捌き、花琳がヌンチャクで容赦ない一撃を不還の横っ面に食らわせた。が。
『っと、惜しいですね。なにせ私の腕は多い』
 攻撃をモロに食らいつつも、不還の手のうちの一本が、花琳の胸を鷲掴んでいるではないか。
「な……っ!」
「最低か貴様!」
 花琳は絶句、ナディアが激高し、夕雨がスンッと冷たい顔で不還を見てから比べるように沙門に視線を遣った。
「おい、何だその目は。私はせんぞあんな事!」
「クズにつける薬か……心当たりがないな」
 クレムもフォローになっているのかいないのか、という体でうんうんと頷く。
『では、こちらからも参りますかね』
 微笑みを浮かべた不還はそのまま花琳を攻撃する、と見せかけて彼女を投げ飛ばす。額の宝珠から発射された冷凍光線は、一瞬の隙に的を百舌鳥へと変えていた。
「しまった!」
 受け身を取った花琳が叫び、ガラティンと夕雨も地面を蹴った。が、身を投げ出すには間に合わず、光線は既に百舌鳥のわき腹に命中する。同時に、パァンと派手に柏手を響かせて、十蔵が巻き起こすは菊旋風。悪くなりかけた流れを一瞬で引き寄せるのは、さすがのケレン味である。
「さあさ、お立ち会い! 枯れ木に花を咲かせましょうってかあ!」
「……」
 静かに傷を押さえ、痛みに耐える百舌鳥の元へ、花弁が降り注ぐ。そこへクレムの御業の作り出した鎧が合わさり、傷ついた身を癒し守る。
「まぁ、敵に好きも嫌いもないんだが……お前はやっぱり好きになれない」
 口数の少ないクレムがそう言わずにいられなかったのには、やはり根底に嫌悪を感じるからだろう。不還の戦い方に、言動に、存在に対する嫌悪。沙門と同じ顔であっても、まるで似ても似つかない。当然だ、と言わんばかりに沙門が不還を蹴り飛ばす。
 双方、撃ち合いになった。不還は狙いを外さない。ケルベロスたちもまた、怒りを籠めた攻撃を当てに行っているのだが、見た目にそぐわずタフな敵である。
『どうしました? そろそろ弾切れでしょうか?』
 相変わらず美しい微笑みを浮かべ、煽るようにそう言ってくる不還。
「長引くだけ、私たちの有利です。冷静に」
 ガラティンがクレムと分担し全員の体調と様子に気を配りつつ、そう声をかけた。実際彼らの冷静な対応と迅速な治療により、不還の十本の手が放ってくる大技は、ほぼ封じられたも同然だったのだ。
 そうした援護を受け、攻撃手たちは熱を帯びていく。夕雨が番傘で描く軌跡に合わせたかのように、百舌鳥の管狐たちが再度呪符から飛び出した。
 その熱を決定的に加速させたのは、ナディア。
「ここだ!」
 鋭く伸びた足先に、まるで銀色の靴の如くオウガメタルを纏わせたナディアの、激しい蹴りが不還の胸元を的にした。
「泥黎に沈め!」
『ガッ……?』
 初めて不還の表情が変わった。咥えタバコで爆破のタイミングを狙っていた陣内がニヤリと微笑む。勝利の感触に、ケルベロスたち全員が勢い込んだ。
「このまま押し込む! 目覚めろ飛天鳳舞! 我が降魔の剣!!」
 花琳の炎の剣が、残る敵の体力を盛大に削ると、ナディアが声を張り上げた。クレムもファミリアロッドのうーちゃんと一緒に見届ける。
「いけるか沙門?! いけるな!」
「おお!」
『何を、お前などに……!』
 そう叫んだ瞬間、不還の顔から菩薩の笑みは消えていた。一体、この己に瓜二つの敵は何者であったのか? 興味がないと言えば嘘になるが、それでも今、彼の心を占める感情はひとつ。
「天と地、どちらにも行けぬ覚悟はできているか?」
 次の瞬間、沙門の放った炎弾が不還の額を貫いた。崩れ倒れる瞬間、その口元に笑みが戻ったかに見えたが、その中途半端な状態で不還は永久に動きを止めた。
「仏罰覿面。無間地獄で後悔せい」
 腹に据えかねていた花琳が是非もなしと言い放つ。皮肉に口端を持ち上げた十蔵も、消えていく不還に情をかける気にはならなかった。
「ざまぁねえ。あの世ではジジババと仲良くやれや」

●記憶
 本来静かであるべき寺の中での戦闘となってしまったのは心苦しいが、老人たちに誰ひとりケガをさせることもなく、無事事件を解決出来た。外道を許さぬ正義の心が終結した結果である。
「怖い思いした人も……またいつも通りにここに来てくれるといいな……」
 壊れた境内をヒールしながら、百舌鳥が呟いた。
「よし、記念撮影だ。沙門を真ん中に……ナディア嬢ちゃん、表情が硬いぞ」
 カレンデュラが皆を集め、記念撮影と場には和やかな空気が戻ってきた。
「それにしても、信仰という拠り所すら利用するとは……ますます油断がなりませんね、ダモクレス軍団」
 ガラティンが戦いを振り返り、短く息を吐く。
「それにしても、本当に何者だったんです? あいつは」
 夕雨の問いに、沙門が答える。
「うん、それがな。本当に知らんのだ」
「忘れてる、ってことなのか……?」
 クレムの言葉は、問いかけであるような、独り言であるような低さで響く。
 もしかしたら、今こうしている沙門とは全く違う心が彼の中のどこかに眠っているのかも知れない。そしてそれは、いつか戦いの場で目覚めるのかも知れない。だが。
「関係ないな。私たちが知っているのは今ここにいる沙門だ」
 ナディアがほんの少しだけ表情を緩めて言えば、皆が頷く。少しだけ面映ゆく、だが確実に嬉しいのだと自覚して小さく笑う沙門だった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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