レッドブレイド・フライト・オン・ジェノサイド

■リプレイ

「はぁー……だっる」
　上空、高度二百メートル。星空の下で真っ暗な森を見下ろしながら、空戦機αｰ01は密かに文句を口にする。紆余曲折を経て組み込まれた軍団の長に言い渡された、手当たり次第の人間抹殺。難しくはないが、面倒であった。
「虫の掃除になんでアタシが…………ん？」
　文句を連ねるのを止め、αｰ01はふと樹海の一点に目を向けた。真っ黒い闇に染まった森の中に、やけに明るい場所がある。木々に覆い隠されてなお目立つ光が。
「さっきの生き残り？　いや、あれは確かに全員仕留めたはず。このルートに人間はいない……何アレ」
　データを参照しつつ首をひねる機械鳥の目の前で、光がひとつ浮き上がる。飛び立つそのシルエットは人型だが、白い翼が見え隠れする。レンズを光らせ、αｰ01は独りごちた。
「……罠か？」
「ほう。察しがいい、な」
「ッ！」
　直後、機械鳥は横回転！　黄金の炎をまとった刀をすぐ隣が斬り裂く！　敵の真上を取ったラハティエル・マッケンゼン（マドンナリリーの花婿・e01199）は、回転降下するαｰ01を追って急旋回。空中ドルフィンキックで加速する！
「タリホー！　ボギーイズエネミー！　アイセイアゲイン、ボギーイズエネミー！」
「ＯＫＯＫ！　あいむふぁいんせんきゅーっ！」
　ジャックで繋げたスマホを振り回し、浮き上がった光源光下・三里（振り返ればマジ天使・e00888）はドッグファイトに向かって突撃！　舌打ちめいたサウンドを残す空戦機を追い樹海にダイブする！
「エンゲージバンディット、オープンファイア！」
「イエーッ！」
　立ち並ぶ木々をすり抜けて高速飛翔する赤い機影に、三里はスマホを投げつける！　伸びたコードが鳥の首に巻きつくと同時に思い切り引く！
「離せェッ！」
「いやーですわよっ！」
　叫ぶ背中にドロップキック！　衝撃を受けながらも垂直上昇するαｰ01に取りついた三里は鼻を鳴らす！
「ふっ！　あなたなんて手羽先一つでダウンさせてやりますの！　支援機は弱った雑魚しか相手できないのがお約束ですしぃーっ！」
「うるせえ虫がッ！　汚ぇ足をアタシに乗せんなァァァッ！」
　必死で振り回すも離れぬ！　ルート上には樹海に輝く光の地帯。危機を感じたαｰ01は傾き、木に三里をぶつけ振り落とす！　斜め上を飛ぶラハティエルは刀を構えてトンボを切った！
「逃がさない、ぞ。戦術的に……フッ」
「チィィッ！」
　ロケットめいた飛び蹴り、そして上段回し蹴り！　急加速した機鳥に追随しながら空中戦にもつれ込む。刀と翼剣を激しく打ちつけ合いながら、二者は光の中に飛び込んだ。直後、αｰ01の動きが止まる！　体の各所にからまるのは極細のワイヤー！
「クァッ……今度はなんだ！」
「はっはー！　かかったなぁっ！」
　光の中、牧島・奏音（マキシマムカノン・e04057）は巨大なライフル銃を構える！　さらに設置式照明が次々点灯、枝を足場にしたデジル・スカイフリート（欲望の解放者・e01203）は遠隔操作ボタンを投げ捨てマントをひるがえす。
「いい格好ね。でもまだよ。もう形なき欲望の卵たちを消してくれた落とし前、今からたっぷりつけさせてあげるわ」
「食らえ、篁流射撃術・あたし式ィッ！」
　暴れる機鳥に引き金を引く奏音！　ライフルが火を噴き、巨大な銃弾を乱射する！
「『星屑』ッ！　お前が星屑になれっ！」
　超大口径弾が着弾、爆発！　機影の赤を塗りつぶす炎に、マントから跳ねた飛沫が飛び込みさらなる連鎖爆発を引き起こす！　爆轟を斬り裂く怒声！
「ぐぁッ……がぁぁぁッ！　クッソがァァァッ！」
　爆撃と黒煙の尾を引きαｰ01は垂直飛翔！　ネットを払い夜空を目指す。
「クソッ、クソッ、クソッ！　なんなんだ一体……こんなの、アタシは聞いてないッ！」
「そうかよ！　そいつぁご愁傷さんだッ！」
　見下ろす視線が上を向く。真上には雪煙を巻いて跳んだソル・ブライン（太陽の騎士・e17430）が恐竜の尻尾めいた砲塔をチャージ。胸部の凶悪な顔についたアイレンズが明滅し、尊大な声を発する。
『どこの骨とも知れぬ王に従い、使い走りと化すとはな……飛ぶしか能のない羽虫に相応の役割よ』
「その声……まさかテメェッ！」
　αｰ01は翼を赤く光らせ加速した。怒りに割れた音声がソルに襲いかかった！
「ベェェエエエタァァァァァアッ！」
『久しいなカトンボッ！　貴様とは戦いたいと思っていたのだ！』
　砲塔が発射した光弾を、αｰ01はドリルめいて回転し爆砕！　真っ直ぐ突進してくる機鳥の口を、丸太の腕が握って止めた！　αｰ01は構わずさらに回転！　甲高い金属音と共に火花が噴き出す！
「テメェーッ！　裏切り者のクソ野郎がッ！　地球の虫にまで成り下がったか！」
『我の台詞だ。下らぬ輩に骨を抜かれ、不平を垂れつつ従うなどと……蝿に誇りは皆無であったか？』
「ウジ虫に言われたくねぇぇぇッ！　叩き潰してやる！」
　赤い頭部が急旋回！　クチバシを握ったソルを下向けジェットスタート。高速で落下する二機を、柔らかな風が包んだ。雪原で剣舞を舞う篁・メノウ（わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903）とカーネリア・リンクス（刀使い・e04082）。優雅な舞の直上に、金属音が降ってくる！
「行くよカーネリアッ！　篁流回復術！」
「おうッ！　篁流剣術ッ！」
　踏み込みと同時に体が傾ぐ。足を飲む雪に抗い、メノウは剣を振り抜いた！　放たれる真空の刃！
「『禍魔癒太刀』ッ……！」
「ッ！」
　機鳥はとっさに尾羽をソルの腹に突き立てる！　だが貫通されながらも手は緩まない。魔を断つ真空の刃の洗礼に削り散らされた欠片を飛び越えたカーネリアは、赤熱する剣を振り下ろした！
「『暁月』ッ！」
　鳥の首筋に食い込む炎のギロチン。銀に変わり伸びた髪をなびかせながら、三者は雪原に墜落し雪を巻き上げた。白い煙から飛び出すαｰ01！　低空飛行を経て舞い上がる翼を狙い、樹の裏から現れたエリオット・アガートラム（若枝の騎士・e22850）は光る切っ先を突きつける！
「天空に輝く明け星よ、赫々と燃える西の焔よ。邪心と絶望に穢れし牙を打ち砕き、我らを導く光とならんッ！」
　一直線の光芒が伸び、鋼の剣翼を射抜く！　αｰ01は止まらず上昇、枝を次々伐採しながら夜空を目指す！　緑を抜けた先に浮遊するのは火のついたコード直結スマホをヌンチャクめいて振り回す三里！
「へぇーっ！　あなたは勝てそうに無い相手から尻尾巻いて逃げる弱いものいじめ以外能が無い支援機なんですのねー！　すごぉぉぉいッ！」
「言わないであげなさい。仕事熱心な支援機さんだもの。強い王様の為にへーこらしてても当然よ」
　投げられた炎上スマホを紙一重で回避した背後に騎士が現れ、槍で翼を貫いた！　デジルの疑似ビハインド！
「えぇー？　ちょっとぉ無視ですのぉー？　あなた、チキン型のロボだったんですわねって言ったんですのよぉー？　早く自我を捨てて合体パーツに戻られては？　どーせ一人じゃ何もできない支援機のく・せ・にぃーっ！」
　コードをつかみ、もう一方の凍結スマホも投げる！　α戦乙女と格闘しながら弾いた翼が音を立てて凍り始める。戦乙女のタックルでよろめく翼をエリオットの光が射抜く！
「ええい……邪魔だッ！」
　戦乙女を振り払い機鳥は樹海に向かって急降下！　連続で襲い来る光芒を回避しながら林冠を貫通。斬り落とされた枝と共にデジルが飛び降りコマめいて回転！
「上に下に忙しいわね？　それも仕事熱心な部下ゆえかしら！」
「うっさい！　アンタは後で殺す！」
　吐き捨てながらスピードアップ！　デジルの回転飛び蹴りを避け、エリオットを視界に収める！　可動し腹に沿った尾羽剣を向け突進！
「さっきから邪魔臭いんだよッ！　死ねぇぇぇッ！」
「受けて立ちますッ！」
　切っ先を立て、エリオットは突っ込んでくる翼に刺突を一閃！　耳障りな金属の悲鳴を散らし、傾いた鉄の羽に切れ目が入る。白刃と交錯した尾羽が脇腹を浅くえぐり騎士礼装を赤くした！
「ッぐ……！」
　突き抜けるαｰ01を振り向いたエリオットの剣が光線を連射！　光の中にあってなお輝く光芒は翼をかすめ木々を撃つ。血飛沫を飛ばすエリオットに吹きつける暖かな癒しの旋風。旋回飛行する鳥の眼が舞いを踊るメノウをにらんだ！
「あーもうッ！　殺されたいなら先に言えッ！」
　怒鳴り滑空体勢のαｰ01に降り注ぐビーム弾！　腹に溶接めいた傷跡を残すソルは砲撃と挑発を浴びせる！
『言われねば標的もわからんか。随分と劣化したではないか！』
「いちいちうっさいんだよウジ虫ッ！」
　弾をまとめて切断し斬撃の空襲が飛来する。絶え間なく砲火を打ち込みながらソルは叫んだ！
『我は慢心などせぬ。故に全身全霊で相手をしよう。……銃の！　我が足場になってやる。行けッ！』
「ソルさんなんかキャラ代わってるし！　じゃあお言葉に甘えてっ！」
　装甲の肩を蹴って奏音が跳躍！　前方回転しながら真下を抜ける機鳥に六度引き金を引く！
「篁流射撃術、『昴』ッ！」
「ハン！」
　角度、狙い、タイミング。三つがズレた射線を速度で突破し最後の一撃を紙一重で回避する。即座に繰り出されたソルのフックをボディに受けつつも、大砲を両断！　その勢いでメノウに一直線に飛ぶ！
「おいおい！　アンタこそ劣化してんじゃねえのかベータ！　結構柔いし……こんな連中に頼ってるとかさあッ！」
「心外だぜッ！　お前にこんなの呼ばわりされたくねーよッ！」
　花の剣客衣装をひるがえし、雪を蹴って割り込むのはカーネリア！　雪豹めいた速度で走り、冷気の剣を振り上げる！
「篁流剣術、『寒月』ッ！」
　剣が翼剣と斬り結ぶ。そして刃を反転し斬り上げ！　赤い機首が上向き、尾羽が肩を浅く裂く！
「メノウッ！」
　声とともに強い一歩を踏みしめ、メノウはドリルめいた貫手を放つ！
「篁流格闘術……『霙雪』ぃッ！」
「うおッ！」
　制動をかけた空戦機の腹を削る削る指先！　半ばまでがめり込んだ腕表面を、直立した尾羽が野菜の皮のようにむく。舌打ちめいたサウンドを放ち、再度羽ばたきかけた直後、赤い胴が鈍い音を立てた。
「ふふぅ。何を必死になってるんですの？　今時流行りませんわよ、そういうのは！」
「うごッ……ごあアばガガががガガッ！」
　腹のくぼみに刺さったスマホが電子ノイズの嵐を流す！　アイレンズを埋め尽くす大量のバグとエラーの表示！　ガクガクと激しく震えるαｰ01に、エリオットは輝く剣を持ち突進。流麗な剣撃で翼をむしる！
「どう、しました……ご自慢の飛行はもうできませんか！」
「ンごグァァアアアアッ！」
　空戦機はエラーを振り払って飛翔！　雪を跳ね上げて立ち上がった奏音は空にライフルを向ける。
「見たか支援機っ！　地べたを這い回る虫に纏わりつかれる気分はどう!?　リアちゃん、メノウちゃん！　合わせていくよッ！　篁流射撃術！」
　太い光線が機影をかすめる。ふらつきながら夜空に吸い込まれていった瞬間、星のひとつが強く輝いた。膨れ上がる一等星は巨大な光線となり、ふらつく空戦機を撃ち大爆轟を引き起こした！
「『天雷雨』ッ！」
「ッがぁぁッ！」
　凍り、幾重にも斬りつけられた片翼が千切れる！
「目には目を、翼には翼を、ってね。手伝ってもらえるかしら！」
「構わない、ぞ。焼き付けろ、我が鮮朱の炎をッ！」
　大きく広げたラハティエルの翼が爆炎を吸収！　太陽の如く燃える地獄の双翼を、力任せに打ち放つ！　木々を焼いて狂う獄炎の竜巻に飛び込んでいくのは、騎士槍を構えたデジルの戦乙女！　燃える嵐を連れ一直線にαｰ01の腹を貫いた！
「じゃあね支援機さん。貴方の虐殺の飛翔もここまでよ」
　削れた装甲を穂先がこじ開け隕石めいて地面に落下。行く先にはメノウとカーネリアが煉獄の風にあぶられて立つ。
「来たぜ……準備はいいよなメノウ！」
「任せろ！　篁流、三連撃……ッ！」
　居合いの姿勢を取る剣に、それぞれ冷気と紫風が宿った。雪を燃やして突っ込んでくる鳥めがけ……大上段から斬り下ろす！
『月下之堕椿ッ！』
　刃の双翼が樹海に跳ね飛ぶ！　勢い止まらず爆進する先で、ソルは胸部の大口を開いた。破壊の閃光をたたえた牙がボディに食いつく！
『我は劣化などしておらぬ。むしろ、力を得たのだ。貴様が虫ケラと蔑む者共を守る力をッ！　大地制す怒暴、その身で試すがよい！』
　青白い極光が樹海を包んだ。エネルギーの激流に身を砕かれながら、αｰ01は雑音混じりの呪詛を吐く。
「くッ、クソ……お前、なんかにッ……ベータッ……！」
『さらばだアルファ。我らの、勝ちだ』
　光の柱が天を突く。まばゆいそれが弱くなり、静かに闇が降りてくる中、空戦機の残骸が雪の上に散らばった。

●
「これで最後ね？」
「はい。ゆっくりですよ……ゆっくり」
　デジルと持った物体を、大きな縦長の袋に安置する。それは無残にも顔面を貫かれた少女の遺体。目を閉ざし、小さく祈る。
「助けられなくてすみません。敵は討ちました。どうか、安らかに……」
　運び出され、雪原に並べられた遺体の数々。どれもが少なくともどこかを斬られ、物によっては帰り手のないパーツすらある。離れた木の根元でオロロロと情けない声を上げる三里とは逆に、酸鼻な光景を無言で見守るソルを見上げ、奏音はそっと声をかけた。
「……ソルさん、大丈夫？」
「ん？　あぁ……」
　袋を背負い直し、ソルは頭に手をやった。中にはこの虐殺を成した、空戦機の残骸が詰め込まれている。しばしの沈黙ののち、頭部のレンズがまたたいた。
「まぁ、大丈夫だ。こいつらに関しちゃその……残念だったが。一応、これ以上は殺されなくて済むわけだしな。仲間だったなら、心強かったかもたぁ思ってんが……」
「いや、会うたびに虫呼ばわりする仲間とか絶対嫌だわ。パワーアップして人格乗っ取りパターンとかやめてよね」
　鯉口を切り納刀しを繰り返しながら、メノウがつぶやく。チン、チンと涼やかな音が響く中、弔いを終えた二人が三里を連れて戻ってくる。奏音は心配そうに指を合わせた。
「あー……もういいの？」
「はい。後は、警察に任せましょう」
「ほら、三里ちゃん。帰るわよ」
「お、おぅぃぇぇぇぇぇ……ですの」
　後ろ髪を引かれるように振り返り、エリオットは歩きだす。三里を背負ったデジルも、小さなウィンクを残して後を追う。半身で見送るソルの肩をカーネリアはパシンとたたいた。
「……お疲れさん、ソル。帰ろうぜ。オレ達が守った街に、さ」
「……ああ、そうだな」
　帰っていく仲間達を背に、ラハティエルは夜空をあおぐ。手にしたスキットルを傾け、中身をあおる。
「名誉に生きるか、炎の中に墜ちるか、か。出来れば、前者でありたいものだ、な。フッ……」
　息を吐き、敬礼。かぶさる静かな星空は、宝石箱めいて輝いていた。

作者：鹿崎シーカー	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。