オークを討て! 災厄に見舞われた婚活ゴール

作者:ほむらもやし

●予知された事件
 秋の日の週末、ここはダム湖の近くにあるキャンプ場である。
 地元では竜門峡などとも言われ、巨岩や奇岩のみられる神秘的な雰囲気のある場所である。
 その敷地内にある炊事スペースで、婚期についての悩みが多そうな年ごろの女性たちがカレーを作りながら歓談をしている。
「さやかさん、良かったですね。お相手は大学の先生なんでしょう」
「なんか気が合っちゃってね。というか、ひとみのお相手ってお医者さんなんでしょう? すみにおけないよね」
「ですけど、県立病院の消化器外科長って忙しい立場みたいですから。いっしょに居られる時間が少ないのも考えものですわ」
「まあ。宮仕えはうらやましがられるけど、その分、やることも多いからねえ」
「今度こそ、長続きするといいよね」
 ……リア充ばかりでした。
 実は、この日の集まりは、先日の婚活パーティで、出来上がったカップルたちのおめでとう会。負け組な人たちに見られると気まずいので、勝ち組同士、だれにも気兼ねなく盛り上がろうという、趣旨であった。
「ちょっと作りすぎてしまったかしら……」
「この大鍋、どうみても一斗は入る大きさですよね」
 ここにいる女性は5人、あとからくる予定の男たちを合わせても10人であるから、平らげるにはひとり頭1リットル以上のカレー汁を食べる必要がある。
「はひっ?!」
「ヘヘヘ、シンパイスルナ、オレタチニマカセロ」
 ぬめりとした何かが首筋に触れると同時に、たどたどしい言葉が響く。
 そこにいたのは、やってくるはずの男ではなくて、触手を生やした豚野郎、オークの一団であった。
「ヘーヒャッヒャッヒャッ、オマエラコドモウム、グラビティ・チェインヨコセ」
「緊急避難だ! 急げっ!!」
 瞬間、凜とした声とともにひときわ大きなオークに回し蹴りが命中する。
「じゅんこさん強い! さすがは県警本部最強の戦姫!!!」
「どさくさに紛れて余計なことを。……なんだと?! 効いていない!!」
 にゅるにゅるにゅる……。
「なにをする! そこはやめろ、けがらわしい、いやだ、離せ!!!」
 抵抗も友情も余計な一言も、むなしく空振りし、女性たちはオークたちの触手に絡め取られて行く。
 そして、むごたらしい惨劇が幕を開ける。
 
●オークを討て!
「今日も青空が青いですね……」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002) はそう言うと、およそ10秒ほど、ぼんやりと窓の外を見つめながら、前に、宮木・藤香(焦る女性・e02249)の言葉を思い出していた。
「どうやら、藤香さんが懸念していたように、オークチャンピオンとオークたちが、婚活中の女性たちを略奪する事件が発生するようです」
 婚活パーティでめでたく相手に巡り会えた5人の女性はいわゆる婚活勝ち組である。不吉な予感がするので、藤香の現状は聞いてはいないが、複雑な気持ちにならなけれな良いなと、現在17歳、来月には18歳になるセリカは刹那、思いつつ、話を進める。
「事件が起こるのは、佐賀県の黒髪山にあるキャンプ場です。襲撃されるのは、宿泊用のバンガローに隣接した野外の炊事場付近。敵の構成は、オークが5体と、ひときわ大きくて強い、オークチャンピオンが1体となります」
 オークたちは魔空回廊から突如として現れ、触手や力づくで女性たちを捕らえ、わるい行いなどに及びながら連れ去ろうとする。
「どこに連れて行かれるとかは不明ですが、過酷な運命となることに、疑いの余地はありません」
 リア充とか婚活勝ち組とか気にしている場合ではありません。などと余計な情報まで付け加えつつ、セリカは話を続ける。
「現場は人気の少ないキャンプ場ですので、特に戦いの用意は必要ありません。行楽客を装って近くにいても、不自然ではないと思います。……ただし、女性が多くないと、魔空回廊はつながらないようですので、なるべくご配慮をお願いしますね」
 セリカはそう言うと、初心者から上級者まで対応できる女装のマニュアルの書籍を差し出しつつ、様々なサイズの女物の服やメイク用品の詰まったコンテナを指さす。
「男性が多い場合も想定して、用意しておきましたので、ご自由にお使いください」
 もちろん敵だと予感させるような行動や、女性たちを避難させるような行動をとれば、オークはこの場所には現れず、違う場所に魔空回廊が繋がり結果ちがう被害が発生することになるので、厳重に注意する必要がある。
 なお、キャンプ場には所々に樹木や大きな岩があり、見通しは良くない。また小さなバンガローのような建物もあるので、戦いに利用したり、こっそり着替えたり、身を隠したりするのにも便利そうである。
「たとえ、女性たちが、リア充や勝ち組だったとしても、汚らわしいオークの非道を見過ごすなんて、人として絶対にできませんよね!」
 やっと手に入れた幸せ。いまはリア充でも結婚に至る道のりは大変だっただろう。
 戦いが始まるのは日の傾きかけた午後、さらに日の傾いた夕方になれば、彼氏にあたる男たちが、用事を終えて遅れてやってくる。ケルベロスであるみなさんが、両者の間で何かするか、何もしないのかは各々の自由である。
「私は分かりませんが、婚活中の方なら、ゴールするってどれくらい大変なのか、わかりますよね」
 そう締めくくると、セリカは集まってくれたケルベロスたちに丁寧に頭を下げた。


参加者
テオドール・クス(渡り風・e01835)
宮木・藤香(焦る女性・e02249)
アレーティア・クレイス(万年腹ペコ竜娘・e03934)
月篠・灯音(犬好き・e04557)
三毛・穂乃美(誤爆猫・e06198)
エフイー・ノワール(黒き風を纏いし機人・e07033)
ミセリコルデ・フランベルジュ(働く褐色エルフ店長・e13093)
フリードリッヒ・ミュンヒハウゼン(奇道を往くもの・e15511)

■リプレイ

●姫だらけのキャンプ場
「なにが、2秒で簡単火おこしだよ……この炭、ぜんぜん赤くならないじゃないか」
 目に涙を浮かべた、宮木・藤香(焦る女性・e02249)が、ぽつりと零した。
「応援しているよ、藤香」
 その様子に気遣わずにはおれなかったという様子で声を掛けるのは、男だと前もって知っていなければ、普通に女の子と勘違いしそうになる、テオドール・クス(渡り風・e01835)だった。
「おっと……、こほん、女子会だから上品にしないとね」
 ゆるく編んだ二連の三つ編みを微かに膨らませた胸の前に降ろし、ふわっとした女子の雰囲気を漂わせる立ち居振る舞いを見れば、マニュアル本に書いてある知識だけとは思えない、プロの如き風格を感じさせるのは気のせいか。
「まて、何の応援だい。誤解だ、これは煙が目に入っただけだよ。だいたい、勝ち組だの負け組だの……、アタシはそんなに小さい女じゃないっての……」
 いつもより早口に感じる語調が、強がりを感じさせないわけでもないが、藤香は頷き返しつつ、救助対象の様子に話を切り替える。
「に、しても、微笑ましい光景だね」
 婚活勝ち組な会話の内容は良く聞こえないが、彼女たちのあどけない笑顔を見れば、今が幸せの絶頂にあることは容易に想像できる。
「まったくだね。あんなに笑ってやがる。せっかくゴール出来そうなのを邪魔するなんて……万死に値するよ」
 被害を出さず、彼女たちの心に傷を負わせることなく、オークを倒せれば、任務はパーフェクトだ。高く掲げた目標に向かっている今、自分の境遇などを気にしている場合では無い――のかも知れない。

「……なんてことなの。あの凄い量のカレーは、しかもこの食欲をそそるスパイシーな香り、私を呼んでいるように感じるのは気のせいかしら?」
「い、いけません。カレーを食べに来たわけでは無いのですよ」
 においに引き寄られるように、カレー鍋を凝視している、アレーティア・クレイス(万年腹ペコ竜娘・e03934)を、女性っぽさを意識した、裏声で引き留めようとしているのは、フリードリッヒ・ミュンヒハウゼン(奇道を往くもの・e15511)である。
 女装を分析すると、男らしさを隠す消極的な手段と、女性らしさを増やす積極的な手段がある。その意味では、ウィッグやスカーフで男らしさを隠し、ワンピースや胸パッドで女性らしさを出す、フリードリッヒの方針は正しかったが、声に関しては一朝一夕で何とかなるものでは無い感じか。
(「これでは、遊びに来たのか、仕事に来たのか、分かりませんね」)
 そんな様子を眺めつつ、周囲の異変に目を光らせるのは、エフイー・ノワール(黒き風を纏いし機人・e07033)である。見た目はふつうに女の子であるが、彼もまた男であった。

「あ、火、ついたね。折角だから、焼いちゃっていいよね? 食べてもいいよね? その方がリアルだよね?」
 三毛・穂乃美(誤爆猫・e06198)が目を輝かせて言うと、焼く気満々な、ミセリコルデ・フランベルジュ(働く褐色エルフ店長・e13093)が、誰かさんが持たせてくれた、食材の入った段ボール箱を開きながら賛同する。
「そうですね。焼く順序は、野菜、肉、野菜……と交互にした方がよいでしょうか?」
 箱の中には地元産の牛肉、豚肉やフランクフルト、イカやエビ、キャベツ、カボチャ、なす、ピーマンなどがギッシリと詰まっている。
「……こんなに用意しているなんて、随分張り込んだわね」
 月篠・灯音(犬好き・e04557)が、少し驚いたような声を上げる。オークが現れるまでは、黒髪山独特の神秘的な自然を楽しむつもりでいたし、バーベキューは行楽客を装うお芝居ぐらいにしか考えていなかったので、しっかりと楽しむ準備がされていることは意外に感じた。

●オーク現れる
 そんなタイミングで、出来上がりつつあるカレーに意識を向けていたアレーティアが、その鋭敏な嗅覚によって、何の前触れもなく出現したオークの気配に気づいて、叫びを上げる。
「オークが出たわ。早く、逃げて!!」
 林立する木々や奇岩の間を縫うように歩いてくる、オークの姿は直ぐには見えなかったが、アレーティアの警告は有効に働いた。
「え? 何ごとなの?」
「急いで、早く!!」
「緊急……という訳ですね」
 突然の警告に女性たちは戸惑ったが、フリードリッヒとエフイーが、少し離れた場所にあるバンガローへの避難を呼びかければ、居合わせた県警勤務の女性が、瞬時に状況を理解して、避難行動を開始する。
「ブヒッ! ブヒヒーッ!!」
 直後、ドカドカと地を踏みしめる足音と共に喚声が響き、歩みを早めて駆けだしたオークの群れが醜悪な姿を露わにした。
「ヒャッハッハーッ!! オナゴダーッ!」
「カレー、いや女性も、渡さないわよ!」
 瞬間、岩陰から飛び出たアレーティアが、群れの進撃を妨害せんと、先頭の雑魚目がけて横薙ぎに惨殺ナイフを振るう。不意を突かれた、先頭のオークは盛大に倒れ、後続のオークが倒れた身体を避けきれずに、つまずいて倒れる。

 突然の喧噪に視線を向けた女性たちが目にしたのは、背中の赤黒い触手をうねらせながら、性的な視線を向けてくる、醜いオークの群れであった。
「きゃー!!」
「早く避難を、ここは私らに任せて」
「大丈夫です。落ち着いて行動して下さい」
 ボクスと名付けたボクスドラゴンと共に、穂乃美は女性たちの警護につく。そして、語調こそ淡々としていたが、エフイーがオークからの攻撃の壁になる動きを示したことは、女性たちを大いに安心させる。
「あれは必ず倒すから、しばらく隠れててくれんか?」
「……分かりました。皆さまを信じています」
 バンガローの扉の鍵を軽く叩き壊し、扉を開けた、穂乃美がボクスに、護衛に残れと命じる。
 足止めの側の状況を見やれば、オークの群れの進行は留められており、戦いもケルベロスたちに有利に進んでいるように見える。

「ブヒィ~、イテェ、イテェヨ~!!」
「降り立て 白癒」
 将棋倒しとなった3体のオークが触手を絡ませ合いながら、器用に立ち上がる中、灯音の生み出した白い霧が前列を守るように広がる。
「ここから先には行かせないっての!」
「お待ちなさい、あなた方の相手は私たちです」
「オアイテダッテサ……ドウスル?」
 静かな怒りを孕ませた声で、藤香とミセリコルデが言い放てば、オークたちはド直球の言葉を返してくる。
「オマエ、オッパイモマセロ、コドモウメ、グラビティ・チェインヨコセ!!」
「これから幸せになろうとする女性方を辱めようとする所業……、断じて許せません」
 あきらかに胸を狙って伸ばされた触手を躱し、ミセリコルデは溢れ出す怒りを込めて禁縄禁縛呪を発動する。同時に現れた半透明の『御業』が、好色な笑みを浮かべるオークを鷲掴む。
(「豚が姫の手を取ろうとは。まあ騎士は来てないから、番犬が頑張るとしよう」)
 次いで、女装姿のままフリードリッヒの振り下ろした鎌刃が、それを阻もうと伸ばされた触手を断ち切って、オークの首筋を捉える。瞬間、死の恐怖が刻まれた表情のままの頭部が、鈍い音を立てて地面に落ちる。
「コイツラ、ツヨイゾ!」
 女性は獲物、女性は一方的に陵辱されるだけの存在としか考えていなかった、オークの間に戸惑いが広がり、そのムードを打ち消すようにひときわ大きな体躯を持つオークチャンピオンが前に出てくる。
「オレサマニ、チカラクラベトハ、タワケタオナゴダゼ~」
「喜べ、ウチが相手したげるよ」
「ブヒッ、コイツカラヤッテイイノカ?」
 女の子への狼藉は許さない。テオドールの強い意思など想像できない、オークチャンピオンの周囲で陣形を組むオークたちは『相手』の意味をまたしても勝手に解釈して、醜い笑みを浮かべる。
「やっぱりオークは豚野郎だね」
 そう吐き捨てて、地を蹴った次の瞬間、オークチャンピオンの死角に跳び込んだテオドールが、バックアタックを繰り出す。精密な動きから突き出されたナイフは、オークチャンピオンの急所を正確に捉える。突き刺さる斬音とともに、巨体が震え、ほぼ同時に繰り出された、藤香の両腕――鎖鎌が襲いかかる。
「アタシの『腕』はアンタを逃がさないよ!」
 環状の軌跡を描く鎖が、金属音と共に引き絞られ、オークチャンピオンを強かに縛り上げる。瞬間、後方から響く咆哮がオークチャンピオンを癒やす。
「何もするな。オークは滅べ」
 見る者に真っ黒い印象を与える笑み浮かべ、灯音は熾炎業炎砲を発動する。直後、放たれた無数の炎弾は、オークチャンピオンの斜め後方、癒やしの咆哮を上げるオークに命中して、橙色に輝く火柱を生んだ。
「ターゲット補足。セイバー・アクティブ。トリガー・ロックオフ……裂き穿つ!」
 そこに、バンガローへの避難誘導を終えて戻って来た、エフイーが加速を伴う動きで、炎に包まれたオークに迫る。次いで流れるような動きから繰り出された銃撃と剣撃が加えられると、断末魔の叫びを残して、炎の中のオークは塵と消える。

 オークチャンピオンの力を以てしても、もはやケルベロスたちの猛攻に対しオークの群れは為す術が無かった。
 早期に出現を察知出来たことに加え、セクハラ行為を絶対を許さない断固たる意思と、女性を侮るオークの愚かさが加わった結果だ。
「ふ~」
 オークを圧倒する雰囲気の中、最後に戻って来たのは、穂乃美がどこか思い詰めた表情で深呼吸する。
「低反発に羽毛にビーズ……な! そば殻は反則じゃないか?! ……ま、まぁいいだろう……皆、準備は整ったかな? さぁ……消灯時間だ!!」
 長々と紡がれた詠唱から生み出された、もふもふお布団が、枕と一緒に投げ放たれる。
 直後、やっぱり広がってしまったほのぼのリラックスムードに対する反発が、怒りのパワーに変じてゆく。
「繁殖の為に女の子襲うなんて許せないわ! アンタらなんてぶっ飛ばしてやるんだから!」
 穂乃美の援護で力を増した、アレーティアは手足の爪、そしてあらゆる刃を超硬化させると、
「アンタの血と魂……私が頂くわ」
 不敵な笑みを浮かべ、オークたちとの間に出来た間合いを一挙に詰め、全ての刃を乱舞させる。鋭く突き降ろされ、或いは薙がれる度に、斬音が響き、血肉が散る。そして削り取った命は彼女の糧と変わる。
「運が悪かったねえ……とにかく、今のアタシは虫の居所が悪いんだよ……!」
「ブ……ブヒッ!? コロサレル」
 明日から本気を出す。溶岩に変じたその誓いが、浮き足立ったオークの足下から吹き上がる。
「これはあなた方に、襲われようとした女性の分! これは愛する人が襲われた彼氏の分! そして、これは、好奇の視線で胸を見られた、私の怒りの分です!」
 そして追い打ちをかけるように、ミセリコルデの熾炎業炎砲から作り出された、炎弾がオークの頭上から降り注ぐ。ダメージと共に炎は激しく燃え上がり、その橙色の輝きの中でオークの身体は黒焦げの塊と変わり、炎が消えたあとには僅かな灰しか残っていない。
 直後、焼け焦げた地面を蹴って、オークチャンピオンがヤケクソとも見える突進を見せる。
 標的となったのは、灯音。伸ばされた八本の触手を視認した瞬間、鞭に打たれたような激痛が走り、瞬く間に全身を拘束される。
「あぁ?」
 締め付けられる痛みと共に、襲いかかってくるのは、にゅるにゅるとうごめいて舐め回されるような卑猥な感触。
「ブヒッ、ツーカマエタッ」
「……何も言うな。オークは滅べ」
 汚らわしいオークの思い通りにはさせないと言い捨てて、灯音が鼻を鳴らした瞬間、
「ふふん、ボクはここだよ。さぁ、喰らい給え!」
 脈絡も無く、オークチャンピオンの死角に姿を現した、フリードリッヒによる不意を突く一撃が決まり、間髪を入れずにテオドールの炎を纏った蹴りが側頭に打てば、灯音は触手の拘束から脱出に成功する。
「ふむ……雑魚にはそろそろ退場して貰いますか」
「ああ、一気に片付けるよ!」
 エフイーが水平に構えた二振りのチェーンソー剣が唸りを上げ、横薙ぎに押し当てられた、摩擦炎を伴う刃の回転が雑魚のオークの命を奪い去れば、その斜め後方で藤香の繰り出した鎖鎌の腕に締め上げられた別のオークが悲鳴と共に果てる。
 かくして残る敵は、瀕死のオークチャンピオンのみとなり、
「お腹も減ってきたけど、オークの魂って美味しいのかしら?」
 無慈悲に言い捨てた、アレーティアが魂を喰らう降魔の一撃を放てば、その一撃によって開かれた傷口を、エフイーの絶空斬が斬り広げる。
「このまま終わらせるよ!」
 穂乃美が投げ放ったケルベロスチェインが突き刺さる。直後、刺し貫かれた傷から広がった神殺しの毒に全身を冒されたオークチャンピオンはビクンと身体を硬直させて、息絶えた。
「ターゲット殲滅を確認……状況終了」
 そう呟くエフイーの目の前で、塵と消えるオークチャンピオンを見て、誰もが戦いが終わりを確信した。

●戦い終わって
「あんなことが起こった後だけど、これから君たちはどうするつもりかな?」
 フリードリッヒは雰囲気を和ませようと、コインの手品を見せるが、女性たちの表情は硬いままだ。
「そうですね。確かにあんなことがあった後ですから……」
 やはり実害は無かったとしても、怖い思いをしたことは、心身に負担だったようだ。ある程度予想はしていた応え、そして新たな人の気配に振り向けば、遅れて到着した、女性たちのパートナーである男たちが、穂乃美と共にやって来ていた。
 直後、お互いの無事を確かめるように、互いの名前を呼び合い、全員が身体を寄せ合って、抱き合う。
 愛を深める6組の男女を残して、藤香は黙ってバンガローを後にすると、
「ふー、片付いた、片付いた。成功者の邪魔しても、仕方ないし、アタシはこの辺で……」
 わき水で、戦いに汚れた顔を洗い、大きく背伸びをした。
「折角、準備したんだし、バーベキュー、藤香も一緒にやろうよ!」
「ん、ああ、そうだな、しかし流石にビールは誰も持って来てないだろうな」
「ところが! カレーもビールもあるのよね」
 岩の頂に腰掛けて、女性たちから譲り受けたカレーを頬張るアレーティアの声が響く。勿論現時点で14歳の彼女が飲んでいるのは、サイダーであり、ビールでは無い。
「もうそろそろ、食べごろでしょうか? たくさん材料もありますから、じゃんじゃん食べて下さいね」
 準備していた食材に加えて、パートナーと共に帰宅した女性たちの食材を譲り受けていたから、その量はかなりのものとなっていた。

 仲間たちがバーベキューを楽しむ中、灯音はひとり散策に出る。
「うん、これをお土産にしようかな」
 そう呟いて、色づいて、落ちた紅葉の一枚を、拾い上げる。
 そこにまた風が吹き抜ける。すると一枚、二枚と、色づき始めた紅葉の葉が舞う。
 秋は静かに深まり続けている。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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