竜宮の国

作者:遠藤にんし


 その女性はカメラを手に、まだ寒い浜辺を歩く。
「『巨大亀が現れて、海中のお城に引きずり込む』……ねえ」
 雑誌のライターを仕事とする彼女は、この辺りの子供の間で流行している噂をつぶやき、海を何枚か撮影する。
「確かに海はロマンだし…竜宮城でもあったら面白いわね」
 仕事とはいえ彼女も興味津々な様子。
 一通りの撮影をして、近所の住人にでも話を聞こうと海を背にしたーーその時、背後から衝撃を受けた。
「あなたの『興味』に興味があります」
 声の主は第五の魔女・アウゲイアス。
 第五の魔女・アウゲイアスの姿が消えると同時に、モザイクの甲羅を持つ巨大な亀が出現した。
 

「聞いたことのあるような話だね」
 高田・冴は言い、巨大な亀のドリームイーターの討伐を依頼する。
 亀のドリームイーターは、人を見つけると海へと引きずり込もうとするらしい。
「抵抗すれば怒り、殺してしまうようだ」
 しかし無抵抗なら海底に運ばれ、一般人ならそのまま溺死してしまう……なんとも迷惑な在り方に、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は肩をすくめる。
「冬というのもあって辺りに人はいない。春になる前に、倒してしまいたいね」


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
ルビー・スワロスキー(狂猫マンチカン・e14633)
雪村・達也(パーフェクト不幸を継ぐ者・e15316)
レギンヒルド・カスマティシア(輝盾の極光騎・e24821)
長谷川・わかな(はんにゃーガール・e31807)

■リプレイ


 雑誌のライターをしている女性へと、亀は大きく口を開ける――その口の中に叩きこまれたのは、流星を伴う蹴撃だ。
「先にこちらのお相手をして頂かないと」
 青の燐光を散らし、髪にトリテレイアの花を持つレクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)は告げる。
 レクシアが割って入ってくれたお陰で、陸也は女性を戦闘の範囲外へと運び出すことができる。女性を担ぎ上げる陸也を見て、長谷川・わかな(はんにゃーガール・e31807)はぶんと手を振った。
「ありがとね、おじーちゃん!」
 しかし、亀のドリームイーターにも女性を避難させようとする動きは見えていた。
 鈍重そうな見た目に反して亀の動きは速い――だが、その鼻面をヴェクサシオンの爪が刺した。
「やーい、のろまな亀さん。こっちには来れないのかな? 悔しかったらここまでおいでー!」
 女性から気を逸らそうとするわかなの煽り。
 それと同時に受けた横からの攻撃に向き直った亀が見たものは、サーヴァントと揃いの乙姫風衣装を纏う遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)。
「意気地の無いこと。見損ないました……!」
 戦装束でもある裾をひらめかせ、鞠緒は書物を紐解く。
「これは、あなたの歌。懐い、覚えよ……」
 海の底にある竜宮城への憧れ、期待、喜び、幸せ……歌い上げる姿に亀が釘付けになる間に、九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)は狙いを定めていた。
 回転するドリルが辺りの砂を亀に肉薄、甲羅のモザイクを削り取る。
 砂に足を取られた様子もなく軽やかに七七式は亀から距離を置き、レギンヒルド・カスマティシア(輝盾の極光騎・e24821)は上からドリームイーターの姿をカメラで捉える。
「亀だけど……そんなに堅いってわけでもないのかしら?」
 移動の速度や一撃で削られてしまった甲羅など、このドリームイーターは実際の亀とは大きさ以外に異なる点も多いようだ――思いつつ、レギンヒルドは光の翼を打つ。
(「まぁそれでも狙うなら……甲羅……モザイクだけど……じゃない所かしら」)
 手にした得物にはオーロラの輝き。垂直に落とした先にあるのは、亀の後ろ足だ。
 足を貫かれ、亀は血走った目を上へ向ける――しかし亀の視界に映ったのはレギンヒルドの姿ではなく、わかなのかかとだった。
 かかと落としをもろに喰らい、続いて陣内の光の剣を受ける亀。猫の風を受けながら、わかなは小瀬・アキヒト(オラトリオのウィッチドクター・en0058)へと声を張る。
「ヒールに専念して貰えると助かるよ!」
 分かったとうなずき、アキヒトも戦線へ加わる。
 雪村・達也(パーフェクト不幸を継ぐ者・e15316)は漆黒の鉄塊剣で迫りつつ、嘲るように声を上げる。
「随分と動きが鈍いじゃないか。城に引きずり込む? これなら自分で泳いだ方が早そうだ。もっとも行く気もないがな!」
 フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)が届けるのは、癒しの輝き。
「我を天に産み落とした星よ、生命の加護を我と我に味方す者へ!」
 ゾディアックソード『ドラゴンスレイヤー』を掲げれば、星座の瞬きが辺りを埋め尽くす。
 それらの光を白い体に受け、ウィングキャットのテラも風を起こし始めた。
 静かに亀を見つめるのは、ルビー・スワロスキー(狂猫マンチカン・e14633)。
「儂の名はルビー・スワロスキー。紅蓮を身に宿し者じゃ、いざ参らん」
 口上の後、肉薄――全体重を乗せた剣を振りかぶり。
「『紅蓮之型・壱之太刀-火迦具土-』」
 猛る一撃を、ドリームイーターに叩きこむのだった。


 寒風に晒されて冷えた砂を撒き散らし、亀はわかなへと突撃する。
 ガン、と重い音がしたのは、達也の手にした黒煙の鉄塊剣が亀の行く手を阻んだからだ。
「俺のダチに何してくれてるんだ? やらせねぇよ!」
 声と共に精神は集中状態に――ぼんと大きな音を立て、亀の体が爆ぜる。
「よし、今がチャンス! 行ってくるね、達也さん!」
 達也の背後から飛び出たわかなの手には、オウガメタルのメルちゃん(戦闘形態)。わかなの手を分厚く包むメルちゃん(戦闘形態)は装甲であり、何より武装だった。
 小さな拳だからこそ重く、痛烈な一撃となった――わかなはと言えば、サポートに来てくれた仲間へと笑顔を向ける。
「保護、ありがとー!」
 既に女性の保護は完了している。
 昇の制圧射撃が動きを止めさせ、陣内は無数の刀剣を召喚して身動きを取れなくさせる。
 戒めを受けた亀の姿を確かめると、一度は地に降り立ったレギンヒルドはもう一度上空高くへ飛び上がる。
 隙を埋めるのは昇の制圧射撃。
「極点の空に舞うはオーロラの赤き輝き! 極光より降る流星の裁きを受けなさい!」
 纏うは極北の光。
 流星と化し、レギンヒルドは急降下する。
「いくわよっ! オーロラァー……キィーック!!」
 鋭い蹴りを受けて吹き飛ばされ、冷たい海の中に落ちる亀のドリームイーター。
 跳ね起きて砂浜へと戻ってきた亀を待ち受けていたのは、指輪と化していたオウガメタル『鬼牡丹の護り』を腕へと広げる鞠緒。
 ヴェクサシオンとテラ、猫による風を受け、オウガメタルは螺旋に解ける。
 細腕から叩きつけられる一撃。
 追撃は、ルビーの背後からの強襲だ。
「『紅蓮之型・弐之太刀-迂羅貫-』」
 背後から周り込み、突き上げる形での斬撃。
 ぎりぎりのところでかわされてしまった攻撃だったが、砂を大きく巻き上げ、亀の視界を奪うには十分だった。
 砂嵐の向こうに見える何かの輝きは、七七式の蹴りを彩る流星群。
 軸足をばねにして七七式が飛び退くと、先ほどまで七七式がいた場所が炎で包まれる。
 フィストの吐き出したブレス――絶対に避けてくれるという味方への信頼があるからこそ、敵に息をつかせる間もない連携が可能となった。
「追い縋る者には燃え立ち諌め、振り離す者には燃え上り戒めよ」
 レクシアの生む炎は青く、小さく、無数である。
「彼の者を喰らい縛れ―――迦楼羅の炎」
 それは、炎弾。
 ひとつひとつは少々の生命力のみを奪っていく――だが、無数のそれらは瞬く間に亀の生命力を喰らい、魂すらも焼き払おうとするのだった。


 三体のウィングキャット、そしてサポートの仲間の甲斐あって、大きな怪我を負う者はいなかった。
 しかし、平静を喰らうドリームイーターの一撃に、フィストは銀の瞳をぎらつかせる。
「……グルルル……貴様ぁ!!」
 牙を剥くフィストの表情は獣じみ、フィストが怒りに我を忘れていることが分かる。
 受けたダメージを返すかのようにフィストは高く飛び、オーラと共に特攻する。
「キュオオオオオオン!!」
 竜女の突撃――白翼の羽ばたきは力強く、ルビーは左手のマインドリングから輝ける剣を生成する。
「『紅蓮之型・裏之太刀-裏刃揚羽-』」
 斬り裂く一撃。
 達也は右腕の地獄を掲げ、辺りを炎で包み込む。
「これが俺の護る意思だ!」
 激しいのに、暖かいばかりの炎……穢れは払われ、傷は癒え、フィストも冷静さを取り戻した。
「たのもしー!」
 嬉しそうなわかなの手には、鉄鍋。
「これで決めるよ! 当ったれー!!!」
 ぐるんぐるんに回ることで勢いをつけ、鉄鍋で思いっきり亀の頭部を叩きのめすわかな。
 鉄鍋の後を追うかのように、鞠緒のファミリアも宙を舞う。
 魔力を含んだネズミたちは亀の脚に噛みつき、看過できない痛みを与える。
 レギンヒルドの極天画戟は輝きを迸らせながらも稲妻を注ぎ、ドリームイーターへと回復不能な傷を与えた。
 バチバチと激しく火花を散らすレギンヒルドの手元。閃光にレギンヒルドは慄くこともなく、ドリームイーターへと切迫するのだった。
 レクシアの背からは地獄が噴き上げ、足元のエアシューズもあって戦場であっても滑るような動きを確保できている。
 被害者の女性は既に避難している――だからこそ、心置きなく戦える。
 溢れる流星の煌めきは砂浜を流れ、海の青に溶けて消えた。
 亀のドリームイーターは伏せたまま、動かない……かと思えば首を伸ばし、猛烈な勢いでレクシアへと肉薄、しようとした。
 しかし、その頭部は、七七式によって撃ち抜かれていた。


 戦いを終え、一同がまず行ったのは女性の介抱だった。
「お怪我はないようですね」
 無事に護り通すことができた――レクシアは安堵に表情を緩める。
 レギンヒルドは戦場から保護したカメラを彼女に差し出し、中のデータ等が無事かどうかを確かめてもらった。
 幸いにも、データ類も、女性自身も無事。ルビーもそれを知り、目を閉じてうなずいた。
 戦いの時とはうってかわって、七七式もにこにこと笑顔で女性に話しかけている。
 恐ろしい目に遭った彼女も、七七式の笑顔と明るい声につられてか、少しは元気を取り戻したようだった。
 女性が元気を取り戻した頃合いを見計らい、今回の事情説明を行うのはフィストの役目。
 デウスエクス――パッチワークの魔女。
 被害者が出てしまわないように、と、達也もメディアへの訴えかけをと呼びかけた。
「おじーちゃんは怪我してない?」
 わかなに問われ、陸也はうなずいてわかなの頭を撫でる。
 戦いは無事に終わり、守るべきものは全て守れた……事件の成功を確認し、多忙の昇は足早に現場を立ち去った。
 鞠緒はファミリアロッドの演奏を受けて歌い、砂浜全体をヒールする。
 隣に寄り添うのはヴェクサシオン――と、猫とテラもやってきた。
 テラは白い姿を陽光に当て、きらきらと体中を光らせている。
 猫はといえば、鞠緒の髪を纏め上げるリボンが気になるようでくいくい引っ張っていた。
「こら」
 陣内にひょいを掴み上げられる猫。猫が浦島太郎姿なのもあって、鞠緒はくすくす笑いを漏らす。
「陣内さんの腰蓑姿、楽しみにしていましたのに!」
「俺はや・ら・な・い」
 その為に親戚に猫の衣装まで作ってもらったのだ――言って、ぽいと猫を放る。
「一段落か。少しはタマちゃんに恩返し出来たかね?」
 戯れるサーヴァントの平和な光景に達也がこぼした言葉に、陣内はゆっくりと向き直る。
 彼の手は、デコピンをしようと構えているのだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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