ヒーリングバレンタイン2017~あなた色のチョコを

作者:陸野蛍

●バレンタインは色鮮やかに
「よっす! みんな! 今年はいきなり、みんなの力でこれまでミッション地域となっていた場所を複数の地域において奪還する事が出来た。本当にありがとうな!」
 満面の笑顔を浮かべた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、元気にケルベロス達に礼を言うと頭を下げた。
「ところでさ、もうすぐバレンタインじゃん? 今年は、この取り戻した地域の復興も兼ねて、解放地域の一角を借りてバレンタインのチョコレート作りイベントをやりたいんだよな。みんな、一緒に来てくんないかな?」
 雄大の話では、解放したばかりのミッション地域には、基本的に住人はいないが、元々住んで居て戻りたい人や新居を構えたい人などが、ミッション地域の見学に来る事があるらしい。
「一般の人でも参加出来る様なイベントを開催すれば、解放したミッション地域のイメージアップにもなると思うんだ。折角のバレンタインじゃん? ヒールして明るい雰囲気の街に戻して、楽しいバレンタインを迎えられるようにしたいんだ♪」
 解放出来た地域を平和な街に戻すのも、ケルベロスとしては重要なお仕事だろう。
「俺のヘリオンが向かうのは、長崎新地中華街になる。ドリームイーター勢力に支配されていた地域だな。元々はその名の通り中華料理店や中華雑貨店が軒を並べてた、華やかな場所だったんだ。支配される前の写真を見れば分かるけど、何と言っても、色鮮やかな街並みで元気が出る様な場所だったんだ。で、主にヒールする場所は飲食店街。そして、イベントも数件の飲食店の厨房とフロアを借りてのチョコレート作りイベントをやろうと思う」
 ケルベロスには、イベントの参加だけでは無く、会場周辺のヒール、道具や材料の搬入、イベント参加者の案内等の仕事も割り振られるが、何と言っても年に一度のバレンタインである。
 自身が想い人へのチョコを作るのも勿論全然オッケーとのことだ。
「イベントのテーマなんだけど、色取り取りのカラフルなチョコを作れるイベントにしようと思うんだ。基本使うのは、ホワイトチョコレートで、食紅とかの食用着色料を使って、いろんな色とか形のオリジナルチョコを作るって感じだな」
 ちなみにホワイトチョコレートは、普通のチョコレートに比べ苦みが少なく、かなり甘さが目立つ。
 華やかで甘いと言うのは、年に一度の甘い一日の為には良いのかも知れない。
「香りを付けたいって人もいると思って、バニラエッセンス、サクラエッセンス、ローズエッセンス位は用意してある。あと、適量なら蜂蜜や茶葉抽出エキスを入れてもチョコは固まるらしいから、準備してみた」
 既にチョコ型や材料等の大方の備品はヘリオンに積みこんでいるらしく、現地の準備さえ出来れば大丈夫だと雄大は言う。
「とにかく、みんなのハッピーを彩れる様なイベントにしたいんだ。優しい色とか綺麗な色に包まれたバレンタインをケルベロス含めて、みんなが迎えられるようにしたい。バレンタインをみんなで幸せ色にしようぜ♪ 大好きな人が幸せな気持ちになる為に、きっとバレンタインってあると思うぜ、俺♪」
『勿論『大好き』って気持ちを特別な相手に伝える日でもあるけどな♪』と付け加える様に言って、雄大はとびっきりの笑顔を見せた。


■リプレイ

●世話焼き天使達と大人の事情
「ハッピー♪ メリー♪ バレーンタイン♪」
 ノリノリで妙な歌を唄いながら、バレンタインイベント会場の準備をしている雄大を見ながら、華がふんわりと笑う。
「雄大兄様、楽しそうですね」
「だって、楽しいもん。イベント事って、準備してる時からワクワクするだろ? みんなが喜ぶ姿を想像しながらだと、尚更な♪」
「ですわね。私も賑やかなのは大好きですわ。お姉様方も沢山いらしてますし、私もお手伝い頑張りますの♪ 雄大兄様、私に出来る事があれば、何でも言って欲しいですわ」
「おう! 悪いな、華。……ん、淡雪? うろうろして、どした?」
 華に答えながら、雄大は視線の先にいつもより若干憂い顔の淡雪を見つける。
「雄大様。私も会場の準備をと思っていたのですけれど……」
「もしかして、咲次郎?」
「いえ、そんな事は! 咲様を探していた訳じゃないですわ! 雄大様からヒール箇所の指示が頂ければと思っていただけですわ」
 雄大が直球で咲次郎の名前を出せば、普段の彼女らしからぬ慌てぶりで淡雪は否定する。
「ふ~ん。……なら、良いんだけど。じゃあさ、隣の厨房のヒール作業に行ってくんない? 俺は、ヒール出来ないから指示だけだし。そっちの厨房、人数の都合上、今、1人でヒールしてる筈だからさ。頼むよ♪」
「あ、はい。分かりましたわ」
 満面の笑顔で雄大に言われれば、淡雪は背中を押される様に指示された厨房に向かう。
「雄大兄様、あちらに居るのって確か……」
「いいの、いいの。何か起こったら、それはそれだし~♪ バレンタインイベントだから、いいんじゃないかな~♪」
 華の言葉も笑顔で受け止めると、雄大は装飾を続けていく。
 淡雪が指示された厨房を覗くと、そこには、1人癒しの雨を降らせる金髪の大男が居た。
「……咲様!」
「ん? なんじゃ、淡雪か。雄大が助っ人に寄越してくれたんかのう?」
「……ええ、こちらをお手伝いして欲しいと言われましたわ」
 戸惑いを隠せない淡雪に咲次郎は、のんびりとした口調で問いかける。
「そうか、そうか。じゃ、よろしく頼むのう」
「……はい」
(「……はあ。いつもとお変わり、ありませんわねえ」)
 心の中で溜め息を吐きながら、淡雪は咲次郎に背を向け、癒しのグラビティを広げていく。
(「……手作りチョコを渡しても……お仕事柄、幾つも貰うチョコの内の1つになってしまうんでしょうね。同じ対応をされる位なら……せめて普段通りにと思いましたけど……難しいですわね」)
「……そう言えば……淡雪は誰かにチョコを渡すのかのう?」
「……え?」
 唐突な質問に淡雪が咲次郎の方を見れば、背を向けた彼の耳と首筋は真っ赤に染まっていた。

●彩取り取りの想い……それぞれの輝き……
 ケルベロス達の力で、イベント会場はピンクや紫、パステルカラーで彩られた、街並みへと姿を変えていく。
「本機達がこの地を取り戻したのでありますね」
「うん……あの時頑張って、よかった。アタシ達8人で奪還したこの地……自分達が奪還した街だからかしら……特別に映るわ」
 ヒールを施す度に、元の姿を取り戻していく街並みを見ながらジャミラが口にした言葉に、感慨深げに頷き、エヴァンジェリンはそう答える。
「……直っていく街並みを見るのが、こんなに嬉しいと思うのは……初めてかもしれない」
 エヴァンジェリンのエメラルドの瞳が少しだけ淡く煌めく。
 自分達の力で取り戻した場所だからこそ、綻び無く丁寧に街並みを蘇らせたいと彼女は願っていた。
「……あの戦闘は、この営みの為にあった……という事でありましょうね」
 二人は、暫くヒールをしながら街並みを歩き続け、彼女達の瞳には沢山の幸せそうな人々の姿が映った。
 ケルベロス全面協力と言うイベントの為、一般客の来場も予想より多くなっていた。
 その人々達をこの地に招いたのが自分達であると言う事が、二人にとって誇りでもあり、少しだけ照れくさくもあった。
「先生、アタシ達もチョコを作らなくてわね」
「本機、作りたいチョコのレシピを覚えて来たであります」
 彼女なりのペースで答えるジャミラにエヴァンジェリンは、思わず笑みを零す。
「……先生は流石ね。アタシのチョコはどうなるかしら?」
 イベント準備が整うと、雄大の采配でケルベロス達がそれぞれの役割をシフト制でこなし、空き時間を見つけてそれぞれ、一般客に交じってそれぞれのチョコを作る事になった。
 数時間後……ジャミラは、ホワイトチョコと薄桃色に色付けたチョコに薔薇のエッセンスを加えた2つのチョコを合わせ、淡いグラーデーションが印象的な薔薇のチョコを花開かせた。
 自身の『ロサ』の名に相応しい美しい薔薇を。
 エヴァンジェリンの作ったチョコは、精巧な芸術作品と言えるようなジャミラのチョコよりは手作り感の出るものとなった。
 だが、贈る気持ちをただひたすらに込め、淡い緑をキラキラ星の様に……チョコレートコスモスにラムの香りをそっと秘め、ただ相手が喜んでくれればいいと願って出来たチョコは……世界に一つだけの宝石の様に輝いていた。
 
●デンジャラスチョコレート
「……結構大掛かりなものになったわね」
 愛用の銃でヒールをこなし続けたパトリシアは、横に立つリーにそう語りかける。
「それでも、皆さんの笑顔が見れるのはいいことです。パティさんにお誘い頂けて良かったです」
 表情こそ変わらないが、リーは金色の瞳に優しい彩りを灯している。
「では、私達もチョコ作りをするとしましょう。今回は、カラフルで個性的なチョコを作るんでしたね……。つまり、一般的なレシピに則らず、私の好きなものをモチーフにして作ろうという解釈で良い筈ですね」
「そうなの? わたしはちゃんとレシピ通りに作るわよ。何事も基本は大事よね」
 リーの言葉にそう返しながら、パトリシアはお湯を煮立たせると、ホワイトチョコレートを一切割らず、ダイレクトにお湯の中に放り込む。
「パティさん……湯煎ってご存知ですか?」
「え? 湯煎って、チョコをお湯で溶かすんじゃないの!?」
 リーの冷めた瞳に、慌てた様にパトリシアは問い返す。
「湯煎と言うのはですね……」
 リーが実演を交えて説明すれば、パトリシアは何とか湯煎の工程をクリアする。
「これで、溶かしたチョコを型に流して……上出来じゃない」
「パティさん、チョコはならさないと隅々まで万遍無く綺麗に出来ませんよ? それと着色もなさるんですよね?」
「え? ならすって何? 取り合えず広げればいいの? え? 今、着色するの? 早く言ってよ。私の髪みたいな綺麗な紅って、食紅ってどれくらい入れるの? 取り合えず爪楊枝に付けて……かき混ぜて、ああ!? ダマになったわ!? どう言う事!?」
 紅色と言うより、斑模様の血色に染まったホワイトチョコを前に慌てふためくパトリシアの大騒動に、雄大が足を止める。
「えっと、これは……食紅多すぎるし、まずボウルで着色しような……って、リー……グラビティでの急速冷凍は止めないけど、その巨大な物体は何?」
「計算上、総重量約3kg、カロリー約15000kcal……大きさは想定より小さくなってしまいましたが、ホワイトチョコベースにマーブル模様に着色料を混ぜ込んだチョコメイスです。好きなものを作ってよかったんですよね?」
『それで何と戦うんだよ?』
 雄大は、口から出てしまいそうになる言葉を必死で飲み込んだ。

●世界で一番大切で大好きな人に
 一華と万里の想いは同じだった。
『世界で一番の想い人にチョコを作って送りたい』
 万里は一華とお揃いの星型のピアスをモチーフに沢山のカラフルな星々を作っていく。
(「白はバニラ、黄色は蜂蜜、ピンクは苺、緑は抹茶、薄茶はアールグレイ、水色はホワイトチョコの香りをそのままに、香り付けも手作りの醍醐味だな」)
 一口サイズの沢山の星が、一華から貰った沢山の幸せのお返しになる様に、彼女が一口食べる度に幸せな気分になる様に願いを込めて。
 藍色の髪を揺らめかせながら一華がチョコを流し込んでいるのは、幾つもの花のチョコ型。
 ホワイトチョコの色はそのままに一度固めて、花弁にキラキラ輝く、カラーシュガーをサラサラと振っていく。
 白い花にはダージリン、水色の花には苺、黄色の花にはレモンのジャムをそれぞれ、ピンク色にはビターガナッシュを更に加える。
 二人……作ったチョコは違っても、色々な彩りを沢山の気持ちを込めて贈りたい……その想いはピッタリと一緒だった。
「一華は? どんなの出来た?」
 万里が聞けば、一華は柔らかく微笑む。
「えへへ、お花をいっぱい咲かせました♪」
「わ! 綺麗だな。……俺の星も綺麗に出来たよ。はい、味見」
 星型のチョコを1つ手にし、万里は一華の口元に近づける。
 照れた様に少し微笑み、瞳を閉じてから、一華はその星を口にする。
「……おいしい! あ、これ苺ですねっ♪」
 彼女の一番大好きな苺の星を一番多く、自分にとってそうである様に、一華そのものの様な水色の星は唯一つ。
『渡した時に一華は気づくだろうか?』
 万里はそんな思いで綺麗なリボンでラッピングする。
 けれど、一華も箱に詰めた花々にある想いを込めていた。
 ピンクの多い花々は万里の色。
『わたしを食べて?』
 普段なら言えないそんな思いも、一年に一度のバレンタインだから……。

●リトルレディ達のバレンタイン
「ミスまお、少しはふっこうのお役に立てたよね?」
「もちろんだよ♪ メアリさまもまおもお手伝い頑張ったもの。みんなが笑顔なのがしょうこだよ♪」
 メアリベルの言葉に笑顔で答えると、真音は『まお達もチョコ作りなの―♪』とメアリベルの手を握り、イベントスペースに入っていく。
「ええと、チョコを作ればよいのよね? ミスまおは、どんなチョコを作るの?」
「……うふふ、なーいしょっ♪」
「あら、いじわるね……あとでメアリにも見せて頂戴な、約束よ」
 二人の少女は微笑み合い、それぞれホワイトチョコを刻んでいく。
(「天使の翼の形のモールドに、ホワイトチョコを流し込んで……黄色の着色料……これくらいかしら?」)
 元々料理が大好きな真音は慣れた手つきでチョコを思い描いた形に作っていく。
(「表面にはー……甘酸っぱいクラッシュストロベリーを散らして、最後に赤い食用フラワーをちょこんと乗せれば……」)
 一方、メアリベルは小さな手には大きな調理器具で、幸せをこのチョコが運んでくれるようにと言う願いを込めて、一生懸命『片翼』のホワイトチョコレートを形作る。
 ほんの少しのバニラエッセンスは幸せを運んでくれる、うっとりする香り。
 金色のリボンを選んで、巻いた回数だけ幸せが増えればと結ぶ。
 それぞれのチョコが完成すると、チョコを背中に隠して同時にお披露目っ♪
「はい! メアリさま色のチョコよ! メアリさまの事をいっぱい考えて、メアリさまとの思い出を一杯つめたら、こんなチョコが出来たの♪ これからも、一緒にいっぱい遊べるようにってね♪」
「メアリはね、ミスまおに幸せな事がたくさん起きますようにって、いっぱいお願いをこめたのよ」
 お互いがお互いを想って作った『翼のチョコ』は早速、少女達に笑顔と言う幸福を届けてくれる。
「まお、とっても楽しかったわ♪ 来年も一緒にバレンタインしましょうね、約束よ♪」
「メアリも今年のバレンタインをミスまおと遊べて、とっても楽しかったわ。また来年もきましょうね。メアリとのお約束よ」
 小さなレディ達は、来年の約束をすると優しく微笑みあった。

●チョコより甘く……
(「甘くて美味しいチョコレート……アレくんは甘いのが好きだから……きっと喜んでくれるね」)
 甘い香りを放つチョコを見ながら頬笑みを浮かべる、ロゼ。
(「アレくんは、お料理得意だけど、私もアレくんに習ってお菓子作り得意になったもの……美味しいって……言ってくれるよね」)
「愛しの僕の姫……憂い顔も綺麗だね。……今日も麗しく可愛らしい……僕は、貴女の癒しの歌声で身も心も癒された……ロゼもロゼの清廉な歌声も大好きだよ……」
 愛しい旦那様が自身の贈り物を喜んでくれるか……きっと喜んでくれると分かっていても、それだけが不安で眉尻を下げていたロゼに、世界で一番愛しい声の主、アレクセイが愛を囁いてくれる……ロゼはそれだけで胸が愛で満たされる。
(「チョコ作りか……ロゼは、甘いものが好きだから、丁度いい。ロゼを想い、目一杯の愛をチョコに込めようかな。……それにしても、ロゼは、どんなチョコを作るのだろう? ……気になるね。……ロゼから頂けるなら、どんなものでも永久保存だけどね」)
 一生懸命にチョコを作る愛しい妻を視界に入れながら、アレクセイはホワイトチョコにローズエッセンスを加え、そして……様々な着色料で淡く色を付けていく。
 そして、小振りで色鮮やかな『レインボーローズ』のチョコを9つ作るとブーケにする。
 花言葉は『いつも貴女を想っています』……言わずとも常に思い続けている気持ち。
 真摯な愛を受ける妻であるロゼは、白薔薇のチョコにアレクセイへの想いを注いでいた。
 カラフルではないけれど……白薔薇の周りに七色の色彩を放つ花弁のチョコを添え……愛する夫と同じ気持ちで、ホワイトチョコにローズエッセンスを数滴……沢山の感謝と抱えきれない程の愛を込めて……。
 シンプルだけれど、可憐な白薔薇のチョコを五つ……花束のように並べてラッピングすれば……『貴方に出会えて本当によかった』と言う言葉が出来上がる。
「何を作ったの? 少し見せて……貴女の愛の形……」
 その白薔薇の出来栄えにロゼが満足していると、アレクセイがスッと覗きこむ様にロゼの手元を見ようとする。
「だめ。当日までおあずけ!」
 そう言うと、ロゼはごまかす様にアレクセイの頬に柔らかな口付けをする。
「……今はこれで……ね?」
 愛しい妻にそこまで言われれば、アレクセイも頬を撫で頬が赤くなるのを感じる。
「…………チョコより甘いかもしれない」
 愛する妻は砂糖の様に甘く、自分の身も心もチョコの様に溶ける様な感覚をアレクセイは感じるのだった……。

●自分の気持ち……相手の気持ち……
「アザランにスプレーチョコ、あとはーカラーシュガーでトッピングー♪」
「楽しそうだな、マキ?」
「うん! 楽しいよ♪ 晶君、今日は一緒に来てくれてありがとうね♪」
 楽しげに幾つものガナッシュカップを作る、うずまきに晶がそう言えば、ご機嫌なうずまきは笑顔でお礼を言う。
「まぁ、俺もお菓子作り? 多少の経験はあるけど、凝ったモンは作れねぇからな。出来合いとかでよく見かける、底が平らで丸っこいやつを作る事にするわ……配ったりとかするのも考えると、多めに作った方がいいかね」
「晶君も作るなら、後で交換して一緒に食べようね♪」
「お、おう」
(「……完全に友達のノリだな」)
 うずまきの言葉が嬉しいのか、寂しいのか、晶自身にもよく分からない。
(「何だか凝ったモン作ってるけど、友チョコだか、義理チョコだかを配るのかね? 本命とか居るのか?」)
「そう言えばさあ、晶くんは誰かにチョコ……貰ったりするの?」
 何でも無いことの様に軽い口調でうずまきが晶に問えば。
「さあ? 特に予定みたいなのは無いけど、義理チョコくらいは貰えるんじゃねえの?」
「そっか」
 晶の答えを流すように聞きながらも、うずまきは心の中で自分自身に幾つもの質問をしていた。
(「本命チョコをくれる女の子が現れたら、晶君は……付き合ったり……するの?」)
 チラリと晶を見れば、割と器用な手つきでチョコを作っている。
(「……ボクはどうするんだろう……どうしたいんだろう?」)
 バレンタイン当日、晶が知らない女の子から本命チョコを貰ってたら……。
(「お祝いする? ……出来る? 応援する? ……出来る? 相手の子とお友達になる? ……出来る?」)
「……おい、おい、マキ!」
「ハ、ハイ!」
 思考の中に居たうずまきは、晶の声で現実に帰る。
「大丈夫かよ? さっきから百面相して、いきなり笑顔になったり、ガッツポーズやら、手をグーパーグーパーして、おかしいぜ?」
「ハハッ。何でも無いよー♪ ちょっと楽しくなっちゃってー♪」
(「いけない、いけない。……でもね、想像すると少し胸が痛むんだよ。……なんだか、一人置いて行かれた気がするんだよ」)
 そう思うと、表情に出てしまい、うずまきの頬はちょっとだけ膨らんでしまう。
「でも、マキにも本命ってのが居るんだろ? バレンタインどうするんだ?」
「アハハ……どうかなあ?」
 晶に問われても遠くを見て、笑いを浮かべてしまう、うずまき。
(「……本命……あげる相手なんて……勇気なんて……見つかると思えないよ」)
 そんなうずまきを見ながら、晶は口には出せないけれど思ってしまう。
(「……もし本命ってのが、俺だったら……そりゃもう喜んで受け取っちまうんだろうがねぇ。……それは無いよな~」)

●愛と未来はそれぞれの手に……
 バレンタインを直前に控えたこの日、長崎新地中華街のイベントは大成功に終わった。
 けれど、バレンタイン当日がどうなるのかは、まだ誰にも分からないこと……。
 願わくば、それぞれにとって幸せな一日になりますように……ハッピーバレンタイン。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:14人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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