ヒーリングバレンタイン2018~チョコと小松空港と

作者:のずみりん

 ミッション破壊作戦の開始から昨年より一年間と少し。昨年一月から更に多くの地域が解放され、人類はデウスエクスの支配から大きく脱してきた。
 そして一年といえば、今年も2月。今年もバレンタインがやってくる。
「昨年のバレンタインから更に多くの地域が解放されています。そこで今年のバレンタインも復興を手伝いつつ、チョコレート造りを行おうと思うのです」
 ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は早くもエプロン片手に、いつもの淡々とした表情でケルベロスたちに呼びかけた。

「ソフィアたちのイベントは、石川県小松市、小松空港です」
 ソフィアが案内した場所は小松空港はダモクレス『飛翔機士』の攻撃にさらされてきた空港は、五度にわたる攻撃をもって解放された、旧海軍は舞鶴鎮守府の時代まで遡れる歴史ある空港だ。
 現在は自衛隊の小松基地が隣接、官民双方で北陸の空の玄関として復旧が待たれている。
「まだ飛行機の利用はないのですが……この滑走路、板チョコレートみたいですね」
 唐突にソフィアは言い出す。たしかに中央の滑走路と垂直に伸びる連絡道の網目は板チョコレートの模様に見えない事もないが。
「板チョコレートみたいです。だから、ここを直して、チョコレートを作りましょう」
 念を押すように、もう一度言う。
 まぁたしかに長さ3km超、幅500mもの巨大な平地などという場所はそうそうない。
 一面を埋め尽めすのは極端にしろ、相当なサイズのチョコレートでも作れる土台としてもってこいの地形だ。この季節の北陸なら冷蔵庫に頼らなくともチョコは固まるし、準備のための施設も周辺に事欠かない。
「滑走路周辺の修復は、飛行場の再開に向けても大きな助けとなるはずです。見学や復興地域の下見で訪れた皆様と一緒に作れば、話題造りにもなるはずです」
 巨大な何か、というのは見栄えが良い。小松空港が話題になればミッション地域解放のアピール、イメージアップにもなるだろう。
「大きなチョコレート。空からでも目立つと思います」
 ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は言うと小さく微笑んだ。


■リプレイ

●空港と傷痕と
「ここが、柚月がダモクレスから取り戻した小松空港……復興が始まったとは聞いてるけど、まだまだ殺風景ねぇ」
 一面の平野。
 村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)と連れ立ってきたレイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)には、それが率直な感想だった。
「空港なのに飛行機がないってのは、まあ、寂しいっちゃ寂しいな」
 柚月は静かな空を見やり、仕方なしとぽつり。
「ミッション破壊で訪れてから五ヶ月近く経ったか……」
 ダモクレス『飛翔機士』たちの爆撃から小松空港が解放されてから半年弱、滑走路の復旧は芳しいとは言い難い。
 のべつくまなしに攻撃を受け止めてきた滑走路は人が収まるほどの穴が幾つとなく空き、それが150万平米にも及ぶ。
 空から見れば、今の滑走路は板チョコというより穴あきチーズがいいとこだろう。
「こんな殺風景を何とかするためにこそ、俺たちがいるんだ。しっかりイベント盛り上げようぜ」
「……わかってるわよ。でも、私はチョコがお目当てなんだから、しっかり作りなさいよね」
 照れ隠しか本音か、つんとしたレイスに柚月は任せておけと親指を立てる。御業を駆使して破片をどかし、護殻装殻を施しては開いた穴を埋めていく。
 ゆっくりと幻想を交えて癒されていく滑走路は魔法陣じみた模様に覆われていくが、まぁ機能には問題ないはずだ。
「華やかになってちょうどいいじゃない。手伝ってあげるから、とびっきり大きいのを作りなさい!」
「とびっきり大きく、ね……よし」
 レイスの死霊魔法が攻撃にさらされた惨劇の記憶を抽出し、癒しへと変えていく。癒しも注文もとびきり大きく、これは大変な仕事になりそうだと、柚月は腕をひとまくりした。

 癒されていく惨劇の記憶に、自らもドローンを使役しながらクロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)はふと空を見上げた。
「……小松空港もやっと落ち着いたのね」
 昨年から四度、姉の複製たちと戦い続けた空港の空も今は鳥たちが気紛れに飛び回るだけとなった。攻撃の都度、地に空に気をやって逃げ回った日々ももう懐かしく……いや。
「『おね、ちゃ……おつかれ……?』」
「ごめん、大丈夫よ。ちょっと思い出してただけ……」
 気が付けば、心配そうにのぞく東雲・莉緒(心を人形にやつした少年・e01757)の憂いな碧眼と、その口を代弁する人形『アリス』がクロエをみている。
 そう長い時間ではなかったと思うが……愛する人を心配させてしまっただろうか。気を取り直し、クロエはヒールドローンの制御に改めて集中する。
「小松空港といえば、クロエさんにとっては因縁深い場所でしたが……平穏が取り戻されたのは、クロエさんたちのおかげですから」
 クロエたちの様子にイリア・ミラジェット(蜃気楼の翼・e02795)はそっと寄り添いながら言う。
 ケルベロスたちの活躍で魔空回廊は破壊され、平穏は取り戻された。だが攻撃を担った飛翔機士たちのオリジナル……彼女の姉は未だに戻らぬままだ。
 それはまるでイリアの失ったもの……記憶、地獄と化した羽のように。
「折角の催し、楽しんでいきたいですね」
「そうね……ありがとう」
 もう一人の恋人の努めて明るくした声に、クロエは気持ちを切り替える。
「『おね、ちゃ……みんな、で、チョ、コ、作り……♪』」
 莉緒の『アリス』が差し出すチョコレートを受けり、頷く。折角の催し、【古びた洋館】の恋人たちとの一時。今はそれを楽しもう。

「きれいに滑らかにしないとねー。なーんて滑らかー♪」
「なめらかー……♪」
 熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)とソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)が声を合わせ、陥没をヒールしていく様子を天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)がカシャリと撮影。
「いい写真が撮れたよ。広報用、説明パネルも作っていかなきゃね」
 自らのドローンにも修復を行わせながら、蛍は広報にも余念がない。
「ブルーシート、準備できました」
「おっ、ありがとう。早いねー、それじゃ養生テープで固定して……横断でも結構大きくなるね」
「すごく板チョコっぽいです。ソフィア、抑えます」
 修復が終わればいよいよイベントの準備だ。すばやくまりるがシートを止めていけば、地面は巨大なパレットに変わる。
 ソフィアの見方でいうなら、空港は転々と並ぶ切り分けられた板チョコに変身した。
「彼氏いないしバレンタインはなかったことにする方向だったけど、滑走路でチョコを作ると聞いたからには参加するっきゃないよね」
 ナイスアイデア、という蛍にソフィアは少し得意げにサムズアップをして見せた。

●チョコが固まるまでに
 修復が終わる頃には、人々もまばらに集まってくる。
 まずはオーソドックスなチョコレートから……と、まりるは広げられたチョコレートを前にあるものを広げた。
「チョコレートのカカオ度70%で……そこに、コレ」
「これは、台紙……ではないようですが……?」
 クッキングシートにしては透明で、ラップフィルムにしては紙っぽい。興味津々なソフィアへ、黒艶なウェーブヘアを三角巾に納めたまりるは切れ端をくわえてみせる。
「これは……でん粉?」
「正解。可食シートって言ってね……そのインクも食紅の一種。地元の人に色々頼んでみたよ、ほら」
 広げた大判の可食シートには、ゆるかわいらしくデザインされた歌舞伎役者や、だるまのようなキャラクター。それに装飾に使えそうな蔓草模様や月、星マークなどが白インクで描かれている。
 これをチョコレートに乗せていけば、手軽に凝ったデコレーションができるというわけだ。
「周りを切り取って、こう……乾きすぎるとくっつかないから、そうそう、焦らずにね」
 まりるの説明を聞きながら、ソフィアや手伝う人々が思い思いにチョコレートを飾っていく。後はゆっくり固めれば、長さ500メートルの巨大板チョコの完成だ。

「おー、すげぇなぁ」
「こっちも負けてらんないわね、柚月! 味はイチゴよ。アスファルトにビターな褐色は似合わないでしょう? 綺麗なピンク色の、あまーいチョコレートがいいわ!」
「仰せの通りに」
 ここぞとばかりに注文を出すレイスに、柚月は手慣れた様子で溶かしたホワイトチョコに苺を混ぜ込んでいく。
 この苺も地元石川の特産だ。工芸品の印象が強い石川県だが、少規模ながら果物も出来の良いものがそろっている。
 四半分は切り分けて煮詰め、残りは絞って果汁に。下ごしらえしたいちごがチョコレート生地になじむにつれ、甘酸っぱい香りが広がってく。
「仕上げにこいつを敷き詰めて……巨大いイチゴ板チョコ完成!」
 心地よい空気に火照りを覚まし、柚月は汗をぬぐう。バレンタインなら本来もらう側のはずだが、日々依頼を頑張るレイスへのご褒美だ。
 注文主を思わせる、赤みを帯びた白いチョコ地にところどころ輝く深紅の果肉。デコレーション板チョコと並んだそれは、軽く十人前はあるだろうか?
「……つーか、これ全部一人で食べるのか?」
「当然よ」
 満足げなレイスは迷いなく言い切り、少し考え直して。
「でも、少しくらいギャラリーに振る舞ってもいいわ。少しくらいよ!」
 もちろん、その中には柚月も含めて。作るのも、食べるのも、一人より二人が楽しいものだ。

●小松の空へ愛をこめて
「でっかい苺だー!」
「あ、あのキャラ知ってる!」
 パネルで飾られた管制塔から親子連れがはしゃぐ様子を、蛍はガラス越しに眺めみる。
「職員さんには感謝しなきゃね」
 イベント中、塔最上階の管制室は蛍たちの撮影した展示パネルが並び、一般公開されている。
 無事に修復された空港だが、航空機の運用は手続きも多い。来訪者向けにヘリでの観覧飛行を……という蛍のアイデアは断念せざるを得なかったが、話を聞いた職員がそういうことならと手を打ってくれた。
「滑走路を見渡す一番いい場所だもんね……よし、と」
『準備できました。RW24方面より500、装飾との接触にご注意ください』
 管制塔で誘導するソフィアに了解と答え、蛍は旋回しながらドローンに編隊を組ませた。
「それでは、メインイベント!」
 誘導灯の飴やチョコの飾りを照らしながら低空飛行。手にしたトーチをこするように下ろす。
 羽ばたく地獄の炎を追いかける火柱。周囲から驚きと歓声。
 仕掛けの種はアルコールを霧吹きした滑走路上のチョコレート。表面が溶け焦げれば、甘い香りのベイクドチョコの出来上がりだ。
「あっ、あっちも光った!」
「あぁ、あれはね……」
 最後の火柱が伸びあがり、滑走路を鮮やかに照らす。それを反射する大きな輝き、少年が指さした先には大きな鳥があった。

「『でき、た……きれい……♪』」
 トーチングの眩しさに莉緒は『アリス』と目を細める。彼がチョコレートで描いたのは大好きなお人形。大好きなお姉ちゃんたち。拙いながらも、愛のこもった三つ……いや、四つ。
 向日葵に囲まれた姉妹たちの中央には、大きな紋章が大きく描かれている。
 クロエたち姉妹が身を寄せる、さる軍事系企業の社章。翼を広げた鳥の紋章。
「コレなら……姉さんにも見えるかしら?」
 空を見上げる彼女を、そっとイリアは背から抱きしめた。レプリカントである少女の身体は、放射熱で節々が熱く、温かい。
「ひゃっ!?」
「伝わりますよ、きっと。こんなに大きいのですから」
 その熱をくれた炎のように、この地を明るく照らせればと、イリアは二人の恋人の作品を飾るように向日葵の花を大きく作った。
「もう……」
 競い咲く花の奇襲に驚かされたクロエだが、その温もりがありがたかった。
 地域が解放されてなお帰らぬ姉、ロザリー・アングルナージュ。自身と対照的な柔和な間延びした喋りの姉、唯一の肉親。
 帰ってこれないのは最悪、グラディウスの光に消え去ったゆえか、あるいはクロエの手を下した一体か……それでもクロエは無事を信じたかった。
「『クロエ、おね、ちゃ……? いた、い? 元気、だし、て?』」
「ど、どうしたのよ、急に……私は……あ」
 見上げた顔を下ろし、心配そうな莉緒とチョコレートが涙ごしに見えたことにクロエは気づいた。そうだ、あの日もこんなことがあった。
「うん……なにかしらね、本当」
「あ……っ」
 言葉に出来ず、莉緒を抱きしめて三人は一つになる。チョコレートに比べればちっぽけだけど、それは空から見えただろうか。
「あら、飛行機雲……?」
 二人を抱きとめて横になったイリアの上を、一筋。高く遠く、飛行機雲はチョコレートの滑走路を横切っていった。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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