美醜の謳う貴婦人カルロッタ

作者:ハル


 33人しか暮らしていない限界集落にて、その音は響いていた。それはまるで終末の鐘の音の如く、だが天使のラッパというにはあまりに醜悪な不協和音であった。
「ふ、ふふふ、ふふふ、ケロケロ、ふふふ!」
 残虐そうな口から伸びるのは、ピンク色のイボイボの生えた舌。だが奇妙な事に、ヒキガエルの如き口元さえ見なければ、その女――カルロッタは、非常に美しくも見えた。
 しかし、その口元は如何ともしがたく、美醜が同居しているからこそより醜悪だった。
「ふ、ふふっ、ケロケロケロっっ!!」
 カルロッタは笑う。嘲笑う。そして、右手のトロンボーンと左手のトランペット、翼のように背負うパイプオルガンにチューバ、腰元のホルンから、一斉に爆音を鳴らす。
「あ、ぎっ!」
「助けっ、ぎゃぴ!?」
 そのあまりの爆音に、周囲にいた数十人が耳から血を吹き出し、一瞬の内に絶命する。
「ああ、まだ生き残りがいたケロね」
 数十人が死滅した中で、幸か不幸か1人の生存者がいた。老人ばかりの限界集落にしては、若く美しい少女だった。
「……こ、こないでぇ……」
 そして、声も美しい。嫉妬して、思わず少女を愛してあげたくなる程に。
「いい声ケロねぇ?」
「ひっ!」
 カルロッタのフワフワの茶髪と、ピンクのAラインドレスの裾がフワリと舞う。
「あ、ああっ……!」
 そして、カルロッタの舌は、少女を絡め取った。舌はまるで宝物にそうするように、少女を抱きしめるように包み込んだ。
 少女は、もしかして助けてくれるのか? そんな希望を抱いたに違いない。だが次の瞬間……酷薄に、これまでになく残虐に歪められたカルロッタの口元は否と告げていた。
 絶望する少女に、爆音が襲いかかる。
 そうして絶命した最後の村人である少女の亡骸に、カルロッタは言う。
「貴女の素晴らしい声は、改造して私が楽器として使ってあげるケロ。だから、安心してお逝きなさい?」
 そうして、カルロッタは再び動き出す。
「さて、次の獲物を見つけるケロ。次は、一体どんな声で鳴いてくれるケロかねぇ!」


「皆さん、大変です。ゴッドサンタの予言していた、指揮官型ダモクレスの地球侵略がとうとう始まってしまったようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、集まったケルベロスの前で唇を噛みしめている。
「指揮官型の一体である『ディザスター・キング』は、グラビティ・チェインの略奪を主目的とする主力軍団を率いて、残虐な襲撃事件を起こしています。今回皆さんに対処して頂きたいのは、カルロッタと名乗るダモクレスになります」
 カルロッタは、美醜が入り交じった相貌に、イボイボの長い舌。身体にいくつもの楽器を改造により連結している。
「ディザスター・キングの指示を受けたダモクレスの襲撃を阻止することは簡単ではありません。何故ならば、既に被害が出て、多くの方の命がすでに失われていまっているのです」
 村人33人が暮らす限界集落が襲われ、カルロッタの攻撃によって全滅してしまったのだ……。
「村人さん達の無念を晴らさなければなりません。調査によりますと、カルロッタが次の襲撃場所へと移動している最中ならば、迎撃が可能なのです」
 カルロッタは、背中に背負ったパイプオルガンとチューバで飛行する事ができる。それが移動手段となるだろう。
「被害の拡大を防ぐため、このまま逃がしてはいけません! カルロッタの足取りは掴めています。次の標的は、先程お話した村とよく似た、隣町にある限界集落のようです」
 カルロッタには、自分より美しい女性の歌声に執着する性質がある。そのため、空から奇襲を仕掛けるのではなく、悲鳴を上げさせるために堂々と村に現れるはずだ。
「隣町へのルートは一本道です。カルロッタは村の入り口前で降り立つと思われるので、そこを強襲してください」
 セリカは、カルロッタの詳細を纏めた資料を配る。
「カルロッタの最大の攻撃手段は、音波を使った遠距離攻撃になります。それに加え、楽器を鈍器として近距離攻撃をこなし、舌を使った搦め手など、型にはまらない変幻自在の戦い方をしてくるようです」
 カルロッタは、通常のダモクレスと比較して、二割程強力な戦闘力を有している。
「幸い配下はいませんので、油断せず、落ち着いて対処してください。また、敵はグラビティ・チェインの略奪を最優先事項としているので、迎撃、強襲時には、『カルロッタを逃がさないための工夫』が必要になってきます」
 カルロッタには、ケルベロスと戦う事による利点はないのだ。だが、一旦逃走が難しいと判断したならば、むこうも覚悟を決め、全力で戦いを挑んでくるだろう。
「亡くした命は戻ってはきません。33名の村人に黙祷を。そして皆さん、どうかこれ以上の命を失わせないように、力を貸して下さい」


参加者
ノル・キサラギ(銀架・e01639)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
ミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)
ケドウィン・アルカニクス(劇場の怪人を演じる地獄の番犬・e12510)
伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)
ヒストリア・レーヴン(鳥籠の騎士・e24846)
ヴィルヘルミナ・ザラマンダー(赤い矢印のヴァルキュリア・e25063)

■リプレイ


 夕刻。その日、とある限界集落へと続く道には、静寂とピリピリと痺れるような緊張感に満ちていた。
「(こっちは準備完了だね)」
 空からやって来るだろう敵――カルロッタに姿を捕捉されぬよう身を隠しながら、パール・ワールドエンド(界竜・e05027)は身振り手振りで仲間にいつでも行けることを伝える。
「……来たか」
 その時、ヒストリア・レーヴン(鳥籠の騎士・e24846)は、隠しきれぬ血臭を嗅いだ。それはこの村へやってくる前、無残にカルロッタが殺した、33人の命から零れ堕ちたものなのだろう。
「ここでは、どんな素敵な声と出会えるケロかねぇ?」
 残虐に顔を歪め、地上に降り立つカルロッタ。
 それに合わせ、ノル・キサラギ(銀架・e01639)、霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)、ケドウィン・アルカニクス(劇場の怪人を演じる地獄の番犬・e12510)、伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)も、カルロッタを包囲するように位置を微調整する。
「(なるほどね。音で空気を振動させて飛んでるんだ)」
 ノルは移動しながら、カルロッタの飛行方法についても目敏く観察している。
 そんなケルベロス達の動きに気付いた様子もなく、カルロッタは村の入り口へと足を向けて、そしてその足をすぐに止めた。
「……ケロ?」
「「――――――――――――♪」」
 足を止めたカルロッタの耳元に届くのは、二重のハーモニー。キャッチーなメロディーながら、海に、陸に空に帝国の力強さと団結を示す歌詞。映画の挿入歌としてこの世に生を得たその軍歌は、憎むべき、倒すべき敵をカルロッタへと変え、ヴィルヘルミナ・ザラマンダー(赤い矢印のヴァルキュリア・e25063)とミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)によって再臨した。
 勇ましく、どこまでも力強いヴィルヘルミナの主旋律に、そっと寄り添うようにミレイが華を添える。
 最初こそ黙って聴いていたカルロッタであるが、次第にその身体は小刻みに揺れ、リズムを取り始める。
「悪くない、悪くないケロよぉ?」
 喜色満面。改造によって取り付けられた楽器から音を鳴らし、イボだらけの長い舌を伸ばす。
「今すぐにその喉を楽器に――!」
 だが、ヴィルヘルミナとミレイの歌声に惹かれ、近づいてきたのがカルロッタの運の尽きだ。
「これ以上は、行かせない」
 カルロッタがヴィルヘルミナとミレイに伸ばした舌は、カイトとたいやきにガッチリと掴まれていた。
「んんっ!?」
 カイトは気配を消していたため、その出現にカルロッタは目を見開いて驚いている。
「その通りだ。あとな、普通には逝かせんぞ」
 その驚きは、信倖が振るう稲妻を帯びたゲシュタルトブレイクの一撃にて、すぐに苦痛へと取って代わる。竜の翼に尻尾、右腕。さらに地獄化した左腕は炎を噴きあげながら、信倖が内に秘めた怒りを表している。
「ケルベロス……ケロか! 厄介ケロね、でも……!」
 包囲されていると知ったカルロッタは、音を振動させると、往生際悪く空に活路を見いだそうとする。だが、ここまで接近したケルベロス達が、カルロッタに逃がす隙を与えるはずもない。
「逃がさない。裂け、彼岸花」
 ミレイの冷静な声が戦場に響く。展開された無数の鋼糸は、カルロッタの逃げようとする空にまで罠を張り、かかった獲物であるカルロッタの皮膚を食い破りながら雁字搦めにしてしまう。
「君は多少骨のある大物なのだろう? そう急がずに、私と生き死にを賭けた戦いに付き合ってくれ」
 追撃に、哄笑するヴィルヘルミナがカルロッタの背へ自在に操るケルベロスチェインを放ち、その身体を締め上げる。
「アグッ!? ギヒッ……イッ!!」
 ミレイとヴィルヘルミナが、魚釣りの用量で同時に鋼糸とケルベロスチェインを引くと、カルロッタの身体は地上へと引き戻されてしまう。
「目の前に『部品』があるのに、逃げて帰るの? 随分な欠陥品だね」
 無様に地面に倒れ伏すカルロッタに、ノルが嘲るように挑発し、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを叩き込んだ。
「調子に、乗るなケロッッ!!」
 ここに至り、ようやくカルロッタは逃走及び、村の人々のグラビティ・チェイン略奪を一時諦めたようだ。一喝すると、仲間の強襲成功に拍手を送り、ニコニコと笑ったままのパールに右手のトロンボーンと左手のトランペットを振りかぶった。
 カギンッ!!
 轟音と手応えに、カルロッタは笑みを浮かべる。
「甘いな!」
 しかしその一撃は、寸での所でヴィルヘルミナによって庇われており、
「楽器で飛ぶなんて珍しいね~。片方もいだら、どうなるのかな~?」
「ッッ!?」
 その声は、パールの口から出た言葉ではない。パールの右手に装着された、ガントレット――きょむから発せられたもの。その予測の外からの声に一瞬虚を突かれたカルロッタは、電光石火の蹴りを受けて逆に吹き飛ばされた。
「くぅ!?」
 吹き飛ばされたカルロッタは、憎しみに満ちた目をケルベロス達に向けようとして、その視界いっぱいをカイトのバイザーに埋められている事を知る。
「(いつの間にケロ!?)」
 そうカルロッタが思考した時には、すでにカイトの痛烈な一撃が、カルロッタの構造的弱点に打ち込まれた後の事。
『我が同胞よ 『真の』人殺しを捕えろ』
 ケドウィンが指をパチンと打ち鳴らすと、身に纏っていたブラックスワンが霧状となって周辺に散布される。  
「(ふふ、私のため……という訳ではもちろんないのだろうがな)」
 ケルベロス達は、皆殺しにされた人々の無念、そしてこれから狙われる命を背負っている。ゆえ、ケドウィンの因縁のためだけに戦っている訳ではないだろう。だが、それでもケドウィンの口元には、仲間を頼もしく思う笑みが浮かんでいた。
「ブブブブブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」   
 その時、再び飛行を始めたカルロッタが、特大の耳を劈く不協和音を奏で始める。サーヴァント含め、前衛6人が一斉に耳を押さえて苦痛に呻いた。  
「戦う気になったのはこちらとしても有り難いが、音への冒涜をやめてもらおうか。なぁ、リィク?」      
 優雅な足取りでカルロッタを一瞥だけしたリィクが、まるで謳うように鳴くと、前衛のバッドステータスを羽ばたきで祓う。   
「耳を澄ませ心を透かせ――語り部は静かに」
 次いで、ヒストリアは遠く伝わる呪歌を詠った。ヒストリアのどこまでも透明な歌声は、不協和音を打つ破り、スっと前衛の耳に入っていくのであった。
「さぁ、これからだ、ノル殿、カイト殿……そして皆。後ろは私に任せるがいい!」 


「最初の威勢はどうしたケロ? そんなものか、ケロッッ!」
「ぐぅ!?」
 拷問耐性を得たミレイが、左右から襲いかかるトロンボーンとトランペットの連撃を躱し、捌く。通常のダモクレスとは違い、攻撃が擦るだけでもミレイの身体には痛々しい傷が残っていた。だが、無論ミレイも受けに回るだけではない。
「この命、簡単に渡すつもりはない! 旋風、大蛇!」
 華麗な足技にて、カルロッタの隙を見て反撃している。
「ミレイ殿、大丈夫か!?」
 ヒストリアは戦況を眺めながら、ミレイを光の盾で防護させる。前衛全体にサポートをしたいのは山々だが、カルロッタの音波攻撃にはブレイククの効果があるようで、警戒は必須。
「ヴィルヘルミナ君、もう限界か?」
「そんな訳がないだろう。今は全力で楽しんでいる所だ、ハーハッハッハ!!」
「ふふ、いい返事だ」
 それは、ケドウィンにしろ同じ考えだろうが、危険なバッドステータスを放っておく訳にもいかない。空中戦でカルロッタの舌を掴むヴィルヘルミナに付随する毒の被害を抑えられるよう、雷の壁を張り巡らせる。
 発破を掛けられたヴィルヘルミナは獰猛に笑うと、ケドウィンに見せつけるように破鎧衝をカルロッタに喰らわせた。
「(美しい声に対する執着が強いというのは本当らしいな)」
 落下してくるカルロッタを見据えながら、信倖がゲシュタルトグレイブを掌でグルグルと回転させる。
「所詮は他者の音を取り込まねば奏でられんか。私にはお前がツギハギの玩具にしか見えんな」
「き、貴様ーーッッ!」
 その信倖の言葉は、カルロッタの在り方、存在理由に関わるものであったのかもしれない。痛いところを突かれたカルロッタは、カエルの口元のみならず、整った上半分の顔をも醜く歪めて激昂する。そして、空中で落下しながら撒き散らされる死の不協和音。
「我が槍、果たして見切れるかな!」
 信倖は、己にかかるエンチャントが弾け飛ぶのも構わず、低い構えからの踏み込みによる連続の突きを繰り出した。信倖の足元をカルロッタの血飛沫が染めていく。
「(今の所は問題ないけど、飛び回られるのは面倒だよね~)」
 パールには、カルロッタへの恐怖感は皆無に等しい。子供ゆえの楽観か、それとも自負か。カルロッタもパールの視点を通して見れば、捕食対象にすぎないのだ。空を飛び回る餌はどうするか。そんなものは一つしかない。先程パールがカルロッタに告げたように、羽変わりの楽器をもぎ取るのが一番だ。パールがカイトとノルに笑いかけると、その意図を察した二人が頷く。
「動き止めちゃうよ~!」
 それを確認したパールは、きょむに言葉を介させながら、カルロッタに指天殺を突き刺した。
「(俺たちは――『こいつらと、本質的には同じもの』……なのか)」
 パールに頷きを返し、やるべき事は一つながら、ノルの胸中には一抹の不安。恐怖。カルロッタを見ていると、かつて定命化する前の自分を思い出すようで……。
「ノル君、迷うな。少なくとも、カルロッタの幕を下ろすのは俺達だけだ」
 カイトとて、迷いがない訳ではない。本質的に、カイトとノルは似たもの同士なのだろう。だから、深く語らなくとも、その一言で互いの覚悟は決まる。
 カルロッタの振り回す楽器が、カイトの凍護の一部を砕き、氷の破片が舞う。それでもカイトは怯まず、カルロッタの両手を押さえ込もうとし、たいやきが属性を注入してフォローする。
「コードXF-10、術式演算(カリキュレーション)。ターゲットロック。演算完了、行動解析完了――時剋連撃(スクルド・バレット)!」
 その膠着を狙い、ノルがカルロッタの背のパイプオルガンを狙って連続超精密射撃を撃ち込んだ。
 カルロッタが煙を噴くのを確認したカイトは、一旦距離を取ると、
「その痛みも、悲しみも、俺が壊してやる」
 これからの終幕に向け、周辺の仲間に氷を纏わせるのであった。


 戦闘開始から、すでに8分近い時間が経過している。さすがにカルロッタは手強く、ケルベロス達の疲労にダメージは蓄積。特にカルロッタからの声の執着に加え、ディフェンダーとして仲間を庇うヴィルヘルミナは、表には出さないものの、それが色濃い。
「かといって、それはカルロッタも同じだろう。背中の飛行部品もそろそろ限界だ」
 カルロッタのパイプオルガンとチューバが煙を上げて久しい。ヒストリアの予測では、もう一押しで完全に地に落とせる。
 ヒストリアは、何よりも勝利のため、全体の援護に徹することに決める。再び透明な旋律の呪歌を歌い上げると、カルロッタがこちらの苦悩を見透かしたように残虐に笑い、
「醜いな。見るに堪えない」
 思わず本音と、これまでに奪われた命に対する憤りがヒストリアの口をついて出た。
 合わせてケドウィンもケルベロスチェインを展開。リィクが翼を羽ばたかせる。
「必ず破壊し、殺す」
 ヒストリアが歌い出すと同時に、ノルは駆けていた。この状況で、スナイパーである自分に求められていることは、理解している。
「貴殿に任せた」
「ああ!」
 ノルは飛翔する信倖の背を蹴って高く跳躍すると、その勢いのままカルロッタの背負うパイプオルガン部分を緩やかな弧を描く斬撃で切り飛ばす。
「な、なんだケロ!?」
 中空で体勢を維持できなくなったカルロッタが、失墜していく。
「よくも!」
 怒りにまかせ、同じく空中で体勢を崩すノルにカルロッタは舌を伸ばすが――。
「その舌、切り落とす、鎌鼬」
 ケルベロス達は一人ではない。一人がピンチになれば、一人がフォローに。対デウスエウスのために修行に明け暮れたミレイの動きに一切の無駄はなく、湖畔のように済んだ瞳のまま繰り出された影の斬撃は、カルロッタの舌を根元から断ち切った。
「グエエエエエエゲロオオオオ!」
「死の痛みを篤と知るがいい、お前が軽々しく殺した者達の痛みだ。行け、ハヤセ!」
 カルロッタの絶叫轟く中、信倖はファミリアロッドから大鷲――ハヤセを召還。カルロッタの傷をさらに抉っていく。
「ま、まだぁゲロオオッッ! その声、よこせケロ!」
 だが、カルロッタも諦めない。執念深くヴィルヘルミナとミレイを追い回し、追いつけないと分かるや不協和音をこれでもかと鳴らす。
 ヴィルヘルミナは寸前でシャウトで気合いを入れるが、僅か堪えきれずに崩れ落ちた。
「……後は任せたぞ」
 その際、ミレイを庇いきった事に笑みを浮かべながら……。
「ヴィルヘルミナ!? くっ、休んでいろ、起きた時には必ず勝利を知らせる」
 カイトは歯嚙みしながらも、前だけを見据える。横目を向ければ、パールがガントレットに手をかけていた。何か策があるのだと感じたカイトは、それにすべてを賭け、パールに気力を溜めた。
「皆のおかげだね~! 今のカルロッタになら、止めを刺せそうだよ~」
 パールの策は、本来成功率は高くはなかった。しかし、カルロッタにバッドステータスを重ね、カイトとヴィルヘルミナが身を張って庇ってくれて消耗の少ない今ならば……。
「全ては絶え、全ては廻り、全ては還る。深遠なる闇の底に。懐かしき混沌に。原初なる無に」
 瞬間、詠唱と供に、皆への感謝を告げるガントレット『きょむ』は変貌する。闇に霧を纏い、その先には巨大な口をカルロッタは垣間見る。
「ケ……ロ……」
 霧で見えないカルロッタのいた場所から、小さな呻き。やがて霧が晴れたそこには、巨大で恐ろしいモノに身体を食いちぎられたカルロッタの残骸だけがあるのだった。

 戦闘後、パールは満足そうにニコニコと笑ってお腹をポンポンと叩いていた。 
 カルロッタは死んだ。それは確かだ。
 だけど。
「これ以上、犠牲は出させない」
 ミレイは、簡易なお墓に黙祷を捧げている。死んだ命は戻ってこないし、これで終わりではないのだろう。
「……けれど、弔われるべき者は、弔われるべきだと、思うん、だ……」
 カイトが振り絞るように言う。この弔いを胸に刻んで。
 そこへ、村の様子を見に行っていたヒストリアが合流する。
 助けた命と、助けられなかった命。最低限の結果は果たしたものの、大団円とはいかない所が、悲しく、寂しい。
 それでも、前を向かなければならないのだ。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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