溟海より冥界へ

作者:犬塚ひなこ

●思い出の海
 季節外れの花火をしよう。
 そういって集まったのは気心の知れたいつもの八人。夏に使い切れなかった花火を持ち寄って砂浜に集った少年少女達は幼い頃からクラスがずっと一緒だった腐れ縁だ。
 冬になりかけた季節に寒い寒いと文句を言いながらも花火を行うのは思い出作りの為。来年の春には皆が違う高校に進学して、別々の道を歩む。
 誰も直接言葉にはしないが、皆が楽しい一時を望んでいた。
 夜の海は静かで、水面に移った花火はきらきらと煌めいて幻想的に見える。弾ける火花を眺め、時にはふざけあって笑い、八人は大いにこの時間を楽しんでいた。
 しかし、そんなとき――海辺から『それ』が現れる。
「きゃ、何よあれ!?」
「化け物だ! 海からこっちに向かってくるぞ!」
 異変に気付いた少年少女達は驚き、恐怖に竦みあがった。出現したのは怖ろしい屍隷兵。それらは幾つもの死体が組み合わされたかのような恐ろしい外見をしていた。
「皆、逃げろ! 固まらずにばらばらになった方が良い!!」
 そのとき、リーダー格の少年が皆に呼び掛ける。聡い事で頼りにされている彼の言葉を聞き、はっとした仲間達はその通りに散り散りになって駆け出した。
 本来ならばその逃げ方は最善だった。だが、不幸な事に現れた屍隷兵は八体。方々に逃げた人間を追いかけた異形の化け物達は一体に一人ずつの獲物を得た。
 そうして、数分後。静かだった砂浜は絶叫と絶望にまみれ、四方に八つの無残な死体が転がることとなる。
 波の音が無慈悲に響き続ける中、海辺には花火の残骸が悲しげに燻っていた。
 
●別れは未だ早く
 それは月明かりが美しい穏やかな夜の思い出になるはずだった。
「季節外れの花火って不思議ですが、何だかとっても楽しそうです!」
 だが、予知された未来は血に染まり、彼らは春を前にして別の意味で散り散りになってしまう。そんな悲しい結末は嫌だと語り、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はケルベロス達に事件の解決を願った。
 八人の中学生達の未来を奪おうとしているのはヘカトンケイレスという種類の屍隷兵だ。海辺に現れ、人々を無差別に殺す性質を持つそれは倒すべき存在。
「屍隷兵はそれほど強力な敵ではありませんです。皆様が一対一で戦っても勝てる相手ですので、今回は一人ずつ敵を相手にして欲しいのでございます」
 ケルベロスが現場に到着した時点でヘカトンケイレスは八方に分かれた八人の少年少女達をそれぞれに追っている。そこで此方側も分かれて向かい、敵と一般人の間に割り込んで庇うか又は攻撃を仕掛ければ良い。
 そうすれば敵の目標はケルベロスに移り、少年少女達を逃がすことが出来るだろう。
 敵は大人の背をゆうに超える巨体だが失敗作である為に力は弱い。各自、早く討伐し終わった者から順に他の仲間の援護に向かえば早々に殲滅できるはずだ。
「でもでも、敵が弱い方だからって油断は禁物です。皆様がそれぞれにどうやって一人で戦うかがすごく大事です!」
 一応の注意を投げ掛けたリルリカだったが、その瞳には信頼が宿っている。
 無事に少年少女達を助けてすべての敵を倒してくれると信じ切っているリルリカはぐっと掌を握って語った。
「思い出作りの花火の時間がめちゃくちゃにされたのは悲しいことです。けれど、それがケルベロスに格好良く助けられた思い出になればきっと素敵にかわりますよっ!」
 友情を育んだ少年たち全員がいつまでも一緒だという未来は決して無い。しかし、だからこそ別れるまでの日々が大事で尊いものとなる。
 八人が別離してしまう先が冥界などであってはいけない。
 大切な『今』を壊させず、未来を繋げる為に――さあ、今こそ駆け付けるべき時だ。


参加者
クィル・リカ(星還・e00189)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)
梅鉢・連石(午前零時ノ阿迦イ夢・e01429)
ネーロ・ベルカント(月影セレナータ・e01605)
狗塚・潤平(青天白日・e19493)
水琉・夏維(星想う水ノ竜・e30173)

■リプレイ

●別離の未来
 海から吹き抜けた風が花火の灯りを揺らがせた。
 冷え冷えとした空気が不穏に思えるのは、この先に死の未来が予測された故。
 寒空の下で行う花火。若いとは良いことだと頷き、梅鉢・連石(午前零時ノ阿迦イ夢・e01429)は前方を見据えた。
「きっと将来、そんな事をしたねと昔話に花を咲かせるんでショーネ」
 だが、その未来を壊させるわけはいかない。
 煌めく時間はいつの日か大切な思い出になるはず。そして、思い出は歳を重ねた後も心を励ましてくれるもの。
 レティシア・アークライト(月燈・e22396)は掌を握り、思いを言葉にした。
「大切な一時を血で塗り潰すなど……許すわけにはまいりません」
「冥界へ送られてしまう前に、助けなくては、ね」
 ネーロ・ベルカント(月影セレナータ・e01605)も翼を広げ、被害者となり得る少年少女達に思いを馳せる。
 大切な思い出の時間が永遠の別離になることなく、未来を進む糧となるように。
 水琉・夏維(星想う水ノ竜・e30173)は未来を繋げることが役目だと己を律し、悲鳴があがった先へと急ぐ。
「冥界へと誘うヘカトンケイレスから子供達を必ず守ります」
「屍隷兵……ですか」
 すると、クィル・リカ(星還・e00189)が小さく呟いた。フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)も以前の戦いを思い返し、ふと思いを零した。
「でも……今から私達が戦う屍隷兵も、元は普通に過ごしてた人達なんだよね。なんだか、よく分かんなくなっちゃうな」
 フェクトは僅かに俯いたが、思いを振り払った。
 そして、散り散りになって逃げる中学生を捉えたメリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)は地を蹴り、手にしたビッグメガネシールドを振り下ろすことで屍隷兵の間に割り込んだ。
「させませんよ!」
「さぁて、こっちも正義のヒーロー潤平様参上! っつってな」
 仲間が保護対象に向かったことを確認し、狗塚・潤平(青天白日・e19493)は別の敵に流星めいた蹴りを放った。
 その間に蓮石が、レティシアが、そしてネーロをはじめとした仲間達がそれぞれの相手に向かって駆けてゆく。
 クィルも少女を追っていた屍隷兵の前に立ち塞がり、敵の気を引く狙いで竜翼を大きく広げた。月明かりに照らされた海辺と竜の尾が揺らぎ、夜風が空気を震わせる。
「遥かな海から来た者達、藻屑となって消えていただきましょう」
 そして――静かで淡々としたクィルの宣言と共に、戦いは始まりを迎えた。

●月と危機
 追う屍隷兵、追われる少女。
 砂浜に足を取られた彼女が転びそうになった瞬間、背後から跳躍したフェクトが蹴りを見舞った。巨体が揺れた隙にフェクトは身を翻し、少女と敵の間に素早く回り込む。
「危ないからココは先輩に任せといて。大丈夫、絶対に君の方には通さないから」
 行って、と呼び掛けた声に反応した少女は駆け出した。フェクトは背後の彼女を護るように布陣し、敵から振るわれる拳を杖で以て受け止める。
「ちょっと痛い、けど……!」
 力任せに杖を振るい返したフェクトは杖から雷を放った。雷撃は敵を貫き、くぐもった悲鳴のような声が響く。フェクトは一瞬だけ泣きそうな表情を見せたがすぐに口元を引き結ぶ。今は迷っている暇なんて、ない。何故なら――。
「私は私教絶対唯一の神様、フェクト・シュローダーだから!」
 少女の声が響き渡る最中。
 銃弾が一斉発射され、屍隷兵の横腹を貫く。
 今まさに少年に襲い掛かろうとしていた敵の体が揺らいだ瞬間、レティシアはウイングキャットのルーチェと一緒に少年の前に立ち塞がった。
「今です、全力で走ってください!」
 呼び掛けによって少年が駆け出す。既に屍隷兵の意識が此方に向いていると判断したレティシアは身構え、凛と佇まいを直した。
 ピンヒールで真っ直ぐに立つ姿は美しく、彼女は流れるような動作で次の攻撃を加え位に向かった。その間に屍隷兵からの念が放たれたが、ルーチェが主を庇う。
 清浄なる羽を広げた翼猫はレティシアを見遣り、見守るような視線を向けた。
「分かっています。一気に押し切れば良いのですね」
 その眼差しの意味を理解した彼女は針と歯車の砲台めいた装備を再び構えた。
 ケルベロスとして、そして彼らより先に生まれた大人の一人として。守るべきは大切な命と思い出。その為ならばこの力を揮うことも惜しくない。
 レティシアは強い眼差しを向け、相棒猫と共に戦い続けることを誓った。
 その頃、反対側の浜辺にて。
「君の相手は、俺だよ」
 穏やかな、それでいて厳しさをも感じさせる声を紡いだネーロは敵を手招く。既にネーロが庇った少年はクィルが助けた少女の手を取り、遠くへと駆け出していた。
 広げた翼で以て、敵が少年達を視認できぬようにしたネーロは大鎌を振るいあげる。刹那、振るわれた刃は虚の力を纏い、相手の身を斬り裂いた。
 低く、幾つも重なりあったような声が悲鳴となって巨体から零れ落ちる。
「その声、醜いね。そんな風にされたことが憐れでならないよ」
 力任せに振るわれる拳を避けたネーロは、更なる斬撃を見舞おうと地を蹴った。舞うようにして宙を翔けたネーロの微笑には僅かな狂気が見え隠れしている。
 だが、だからこそ彼の一閃には容赦がなかった。
 別の戦場。真っ直ぐ正面から拳が振るわれ、屍隷兵の体が揺らぐ。
 メリッサは月明かりに反射した眼鏡の奥から敵を見据え、更なる追撃に出た。
「遠慮はしませんよ。ガチンコ勝負です!」
 眼鏡パンチに眼鏡ドロップキック、眼鏡腕ひしぎ逆十字固め。それらは大体がドレインスラッシュや降魔真拳なのだが、彼女にかかればすべて眼鏡の力となる。
 その圧倒的な勢いに気圧されたヘカトンケイレスは徐々にだが押されてゆく。好機を見出したメリッサは眼鏡力を脚に集中させた。
 繰り出された一撃を受け止める姿勢を取り、メリッサは心に決める。
 次の攻撃で決めて見せる、と。

●全力勝負
「一対一ってのはいい心掛けだ。けど、弱ぇヤツ狙うってのは頂けねぇ」
 タイマンと行こうぜ、と敵に呼び掛けた潤平は強気な笑みを浮かべた。次の瞬間、ひといきに敵との間合いを詰めた潤平が降魔の力を拳に乗せて放つ。
 反射的に受け身を取った屍隷兵だが、潤平の一撃はそれすら弾き飛ばすほどの威力を以て迸った。すぐに敵も破壊拳を振るう。
 されど彼は身を翻して拳を避け、甘い、と双眸を鋭く細めた。
「少しは出来るみたいだが、怖るるに足りねぇ!」
 成りそこないの存在と言え、こうしてデウスエクスと拳を交わすのは悪くない。潤平は次々と繰り出される攻撃を受け、時には躱し、相殺することで受け止めていった。
 この喧嘩に勝てば少年少女を救える。
 そう思えば思うほど、潤平は俄然張り切っていた。
 すぐ近くで戦う仲間の気概が空気を伝わって感じられる。
 夏維はボクスドラゴンのアルビレオと共に少女を護り、両手を大きく広げた。少女を庇うことは出来たが、彼女は足が竦んでしまったようだ。敵の気を引いてください、と相棒竜に告げた夏維は少女を立たせ、すぐに逃がした。
「私とあなただけで戦うのは初めてですけれど、一番に信じていますよ」
 アルビレオが竜の吐息で敵を翻弄する様を見遣り、夏維も雷撃を迸らせる。一人と一匹で力を合わせれば、きっと勝てない相手ではない。
「全力を尽くしましょう」
 夏維は心からの思いを言葉に変え、ガトリングガンを構えた。攻撃はアルビレオが受け、その間に夏維が攻撃を叩き込む。
 この連携を続けることが出来れば勝てる。そう信じた夏維は屍隷兵の姿をしっかりと捉え、守る為の戦いを続けようと決意した。
 ――咲き裂け氷、舞い散れ水華。
 水の華が咲き、敵の体が冷たい一閃で斬り裂かれる。 
「逃げてください。明かりのある方向へ……くれぐれもこちらには戻らぬように」
 庇った少年に告げ、クィルは来る際にばら撒いてきた来たライトを示す。少女が逃げた事を気配で感じ取り、彼はヘカトンケイレスからの屍隷念を敢えて受けた。
 く、と小さな声がクィルから零れ落ちる。
 しかし、攻撃を避けなかったのは背後の少年を守る為だ。痛みを振り払ったクィルは手にした雷杖を握り締め、地面を蹴り上げる。竜翼を使って高く跳躍した彼は杖を振るい下ろし、莫大な雷を敵へと注ぎ込んだ。
 一方では炎の竜が焔を吐き出し、敵を翻弄する紅の力が迸った。
 連石はその隙に少女の身体を抱き止め、空へと舞い上がる。少し離れた場所へ彼女を下ろした連石は片目を瞑って明るく告げた。
「もうご安心アレ、お友達も全員ケルベロスがお助けしマスヨ」
 大丈夫、と話した連石はそのまま再び飛び上がり、即座に屍隷兵の元へ舞い戻る。短いお付き合いになると思いまスケド、と前置きした連石は更なる力を紡いだ。
「貴方のお相手は僕が務めさせて頂きマスヨ。サァ、今日は寒いですから温めて差し上げマショー、それとももっと寒いのがお望みデスカ?」
 彼が凍結弾を放てば、屍隷怨がそれに衝突するように放ち返される。
 しかし、連石は慌てずに魔力を込めた。拮抗しあった弾と念は一瞬で弾け、その余波が敵を貫いていった。

●終幕の時
 八つの戦場にて、幾度も攻防が巡る。
 次なる一撃をくらわせようとしたクィルに屍隷兵が拳を突き返した。しかし、クィルは即座に身を捩って宙に舞う。
「知性なき巨体の攻撃、何度も受ける訳にはいきませんよね」
 既にその動きは見切りました、と囁いたクィルはちらりと海を見遣った。この季節の海辺は寒く寂しいけれど、今は違う。
 此処は、そう――大切な思い出が創られようとしている場所だから。
 そうして、クィルは再び水華の一閃を見舞う。斬り放つと同時に伏した敵から視線を逸らし、少年は駆け出す。
 次は仲間を助ける番だと決め、クィルは翼を広げた。
 一方、メリッサもまた敵を追い詰めていた。
「私は百の眼鏡を持つ女……お前の腕の数よりも、こちらの眼鏡の方が多い!」
 つまり眼鏡が多いから強い。
 超理論を展開したメリッサは飛び上がり、全力で上から敵を踏み付けた。まさしくシンプルながらも強力無比な必殺技が敵を貫き、その体を砕いた。
 勝ち誇ったメリッサはすぐに駆け出し、仲間の元へ向かう。
 同じ頃、潤平も止めを刺しにかかっていた。
「その身に刻め、俺の生き様を」
 地獄の炎を纏った彼は敵へと拳を全力で振り降ろす。力一杯の拳骨は炎を散らし、瞳に焔を宿らせた。
 死した者に刻むのは自らの生の証。これが手向けだと口にした潤平は倒れゆく敵にそっと告げた。この喧嘩、なかなか楽しかったぜ、と。
 仲間達が戦いを終える気配を感じながら、フェクトも次で相手を倒せると判断した。
 許さなくていい。助けられなくて、ごめん。強い思いを込めたフェクトは真っ直ぐに屍隷兵を見つめ、全力を揮おうと決める。
「せめて君の本当の最期には、神様の祝福を。」
 弾けた魔力は悲しき存在に終焉を齎す。これが救いだと信じた少女は今、きっと。かの存在にとっての神となったのかもしれない。
 いよいよ戦いは大詰め。連石は力尽きる寸前の敵に前に立ち、ゆっくりと銃を突きつけた。異形の姿に憐憫を覚えながらも連石は容赦は要らぬと首を振る。
「サテ……貴方は恐怖は感じませンカネ。それなら幸い、遠慮なく葬れまスカラ」
 そうして、別れの言葉と共に引鉄が引かれた。
 ネーロもまた、戦いの終わりを感じ取る。悲しき存在に送るのは最後の詩。
「君は此処にはいてはいけないから、さようなら」
 高らかな声に呼応するように浮かび上がる光。最後の審判が下された時、悪を浄化せんと裁きの光が迸った。
 その瞬間、屍隷兵が崩れ落ちる。終わりの瞬間には苦しみも憎しみも、痛みすらなく。言葉通りに浄化されるが如く、ヘカトンケイレスは跡形もなく散った。
 屍隷兵は次々と倒れ、残すは夏維が相手取る一体のみとなる。
「大丈夫ですか。援護に入ります」
「お待たせしました」
 既に敵を倒したクィルとレティシアが夏維達の戦線に加わり、傷付いたアルビレオに下がって、と伝える。
 匣竜は荒く息を吐いていたが、それもこれまでの頑張りがあったからだ。夏維は駆け付けたメリッサ達と視線を交わし、次の一撃で決めてみせると瞳で語った。
「子供達の大切な『今』を決して奪わせません……!」
「ええ。彼らの『未来』だって、守ってみせます!」
 夏維の言葉にレティシアが応え、薔薇の香りを纏った真白の霧を展開する。癒しの力が巡っていくことを感じながら、夏維は願った。
 子供達が、何時の日か今日を笑顔で思い出せるように。
 その為の一撃が振るわれ、そして――。

●花火と海の記憶
 全ての屍隷兵が倒れ、海辺に平穏が戻る。
 夏維は皆が其々に敵を倒したのだと実感し、安堵を抱きながらアルビレオを抱き上げて頬擦りした。見渡した海辺には仲間達の姿。そして、八人の少年少女達もいる。
 全員が揃っている様子にクィルは双眸を僅かに細め、安堵を抱いた。
「お怪我はありませんか?」
 クィルが問い掛けると彼らは頷き、口々に礼を告げる。ありがとう。助かった。格好良かったと告げる中学生達を見守り、フェクトは胸を張る。
「ふふーん、これでも皆の先輩だからね!」
 明るい様子で答えたフェクトだったが、ほんの少しだけ葬った屍隷兵の元になった人の事が気にかかっている様子。レティシアはそんな仲間の心境を感じ取っていたが、皆に不安を抱かせぬよう努めるフェクトの気遣いも理解していた。
「そういえば、花火は駄目になってしまいましたね」
 踏み荒らされた残骸をレティシアが見下ろしたとき、メリッサが手を掲げる。
「ご安心ください。新しい花火セットを進呈しましょう。あと眼鏡」
 準備よく花火を持ってきていたメリッサは何故か眼鏡と共にそれを配って回った。ネーロも折角だから花火の続きをしようと少年達を誘う。
「僕達と一緒に思い出を作るのはどうかな」
「良いんですか?」
「勿論デスヨ、この季節の花火も乙なものですカラネー」
 少年達に対し、連石も朗らかな笑顔を浮かべる。潤平も大きく頷き、助けた少女によく頑張ったな、と労ってやった。
 思い出になるのは恐怖ではなく、格好良いヒーローの姿。そして、別れに近付く前の素敵な思い出であれ。そう願った潤平は仲間達と少年少女に呼び掛ける。
「それじゃ、始めるか!」
「おー!」
 彼の声に合わせてフェクトが両手に持った花火を振りあげた。クィルとレティシアが火を灯して回り、夏維も輪に加わる。
 弾ける火の色は寄せては返す波に映り込み美しく輝いていた。賑わってゆく楽しい花火の時間は過ぎゆき、明るい笑い声が海辺に響く。
 そうして、ケルベロス達は願う。
 彼らの道が分かたれたとしても、しっかり前を向いて歩いて行けるように、と――。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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