期間限定商品に纏わる悲哀

作者:質種剰

●期間限定許すまじ
 猛暑のせいか客足もまばらなデパートの1階。
『夏季限定3色コーン! このボリュームで300円』
 アイスクリーム屋の前へ、新商品を謳う看板が堂々たる存在感で立っている。
 そこには、バニラ・ミルク・レアチーズの組み合わせだと注釈のついたアイスクリームの写真が、大きく印刷されていた。
「アイス食べて帰ろうか」
「わたし3色コーンが良い!」
 手を繋いだ親子連れを初め、店への客足はそれなりに絶えず、閑散とした1階の中では繁盛してる部類と言える。
「冷たくておいしいね!」
「そうねぇ」
 だが、そんな平和な光景を、無粋にもぶち壊す闖入者が現れた。
「期間限定商品は絶対に許さーーん!」
 ビルシャナと彼の信奉者達である。
「消費者が望むからには、期間限定などと勿体つけずに年中売るべきだ!」
 ガシャーン!
「きゃああああ!」
 勝手な理屈をほさぎながら、カウンターを蹴り、ショーケースのガラスを叩き割るビルシャナ。
「そうだそうだー! その方が儲かる筈だ!」
 信者達も、客や店員への乱暴狼藉をやめようとしない。
「客はいつでも気兼ねなく商品が買えて嬉しい、店側は儲かる。これぞwin-winの関係ではないか!」
 自己中心的な論理を捏ね回すこのビルシャナ、名を期間限定商品絶許明王と言う。

●魅惑の限定商品
「期間限定商品ですか。私は好きですよ、得した気分になれますし」
 ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)が、優しくもどこか溌剌とした風情で意見を述べる。
 期間限定商品絶許明王の存在を察知できたのは、彼女の尽力によるところが大きい。
「そんなわけで、奈良県のデパートへ期間限定商品絶許明王が配下を連れて襲撃をかける事が判ったでありますよ」
 小檻・かけら(袖の氷ヘリオライダー・en0031)が付け加える。
 出現するビルシャナ、『期間限定商品絶許明王』が掲げる教義は、全ての期間限定商品を廃止し、それらはいつでも客が買えるように年中売り出せという脅迫めいた主張である。
 余程、期間限定商品を買い損ねて悔しい思いをしたのだろう。
 つまりは、大変個人的な主義主張を掲げるビルシャナが、個人的に許せない相手を力でねじ伏せるべく、今回の凶行に及ぶらしい。
「また、明王の主張に賛同している一般人12名が配下となってるであります。明王が教義の浸透よりも期間限定商品撲滅を優先しているせいか、既に配下となっていても洗脳を解ける可能性がありますよ」
 それ故、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を元の一般人へと戻し、無力化する事ができる。
「明王の配下は明王が倒れるまでの間戦いに参加してきますが、明王さえ先に倒してしまえば正気に戻るので、救出できるであります」
 だが、配下が多いまま戦闘になると、その分厳しい戦いを強いられるので気をつけて欲しい。
 また、その場合は明王より先に配下を倒してしまうと、彼らが命を落とす危険もある。
「今回の明王は、理力に溢れた破壊の光を長い射程で放って、プレッシャーを与えてくるであります。それに八寒氷輪を遠くまで投げて、氷漬けを狙ってもきます。両方とも複数の相手に命中するでありますよ」
 さらには孔雀炎を用いて、単体へ火傷を負わせもするようだ。
 明王のポジションはキャスター。これは配下も同様である。
「12人の配下は、砂を詰めた瓶を振り回して攻撃してくるであります」
 尤も、説得にさえ成功すれば配下は皆正気に戻るので、明王1体と戦うだけで済む。
「配下達は、期間限定商品絶許明王の影響を強く受けている為、理屈だけでは説得できないであります。インパクトが重要でありましょうから、説得の際の演出をお考えになるのが宜しいかと」
 そう言いさして、かけらがにっこり笑う。
「ここはやっぱり『期間限定商品の魅力』について、配下の方々へ語り尽してくださいな。期間限定ならではのメリット、いっぱいあると思いますっ♪」
 年中売られている商品と比較して、どこがどう優れているのか比較したり、期間限定という販売戦略について事細かに説明するのが良いだろう。
「完全にビルシャナとなってしまった明王を救うのは……もう無理でありますが、せめてこれ以上被害が大きくならぬよう、明王の討伐、宜しくお願いします」
 かけらはそう締め括り、ぺこりとお辞儀した。


参加者
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
ペテス・アイティオ(トラペゾペテコン・e01194)
美浦・百合水仙(高機動型鎧装戦士・e01252)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)
イーリス・ステンノ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16412)
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)
フィオナ・オブライエン(アガートラーム・e27935)

■リプレイ


 人少なのデパート。
「さあ同志達よ! 期間限定商品をこの世から抹殺するのだ!!」
 予めケルベロス達が待ち構えるアイス屋へ、期間限定商品絶許明王と配下達は真っ直ぐに突撃してきた。
「どうして、期間限定は駄目なのですか?」
「何ィ!」
 奴らを手で制して率直な疑問をぶつけるのは、薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)。
 緩くウェーブした長い銀髪と理知的な光を湛えた翠の瞳が美しいシャドウエルフの女性だ。
「もしかして、気が付いた時には期間限定商品が終わっていて、嫌いになった方ですの?」
 上品な物言いで首を傾げる怜奈へ、図星を指されていきり立つ明王。
「ううう煩い! 期間限定なぞ決める方が悪いんだ!!」
「そうだそうだ!!」
「あっ、やはりそうでしたか……顔に書いてありますわ」
 一緒になって言い張る配下達へもチラと悪戯っぽい視線をくれるや、
「この期間とか時期にしか食べられないのが、良いのではないですか?」
 怜奈はそう持論を述べ、先に地下で買っておいた材料を元に、何やら作り始める。
「例えば、白桃を丸々1個使ったパフェとか……」
 グラスの底へシリアルを詰め、カットした白桃とソフトクリームを綺麗な層に重ね、最後に8等分した白桃を花びらのようにグラスの上部へ飾りつける。
「このように生の桃を使わないと出来ませんわ。年中出回ってる缶詰の黄桃では無理ですわよね」
 手際良く作ったパフェは、可愛くて清涼感もあり美味しそうだ。
「結果、どうしても残念ですが期間限定になりますわ」
 旬の果物を使うが故に期間限定にせざるを得ない。もしも年中売る事しか出来なければこんな白桃パフェなどはメニューから消えてしまう——怜奈の主張は理に適っている。
「あら、この期間限定のパフェ……食べられますか? 私の作った物で良ければどうぞ」
 そこまで言うと、怜奈は配下達の視線が白桃パフェに注がれているのへ気づき、にっこりと笑った。
「くっ……期間限定なのが腹立つけど、旨そうだなあのパフェ」
「食べてみようかな……」
 怜奈の説得力ある理屈に加えて、白桃パフェのインパクトに圧倒されたのだろう。
 信者達は次第に自らの欲求へ素直に、パフェを食べ始めた。
「限定モノってなんかワクワクするよね。いつでも手に入るようになったら、その楽しみがなくなっちゃうじゃない」
 次いで、美浦・百合水仙(高機動型鎧装戦士・e01252)が明るい調子で説得に挑む。
 紫色の髪を普段は二つ括りにしたレプリカントの少女で、年相応に反抗期らしく、『あるすとろめりあ』と読むと自分の名前が気に障るのか、常々『ユリ』と名乗っているそうな。
「限定モノっていうのは、いわば旬の話題でもあるんだよ。それは旬の時期に発売する、いわゆる恒例モノばかりとは限らない」
 そんな百合水仙は、マーケティング術へ視点を据えて語っていく。
「キュウリ味やシソ味のアレを覚えてない? あれが限定じゃなくても話題にはなっただろうけど……」
 取り出したる瓶は、味よりもインパクトや目新しさに訴えかけたフレーバーの黒い炭酸飲料。
 胡瓜や紫蘇と聞いただけでは到底炭酸飲料と結びつかないのもあって、その異様さが人々の興味を引いた。
「あれがずっと今でも売ってたら、今買いに行くかい? ああいうネタモノは、限定だからこそ売れたんだよ」
 そう言い切る百合水仙の意見は尤もで、味で万人受けを狙えない商品だけに、販売期間を限定する事で希少性を謳い、客の購買意欲を刺激したのだろう。
「なるほど……期間限定は店側にとって大切な販売戦略なのか」
「期間限定でなければ、わざわざ買いたくならない物も結構あるもんだな……」
 百合水仙の論調に大きく動揺する信者達。
「そういえば旅団でも季節限定商品を出してるよ。普通のとは違う匂いがするせっけんでね。新作の【羊蓮】はついこの間発売開始したばかりさ」
 気を良くした百合水仙は、ついでとばかりに旅団『毎日洗浄』の新商品の宣伝へ励むのだった。
「通年商品があるから限定品が、限定品があるから通年商品が活きるというのに、そんなこともわからないビルシャナはクリスマスにローストしてやるです!」
 一方、ペテス・アイティオ(トラペゾペテコン・e01194)は相変わらずウーロン茶のペットボトル片手に、正論ながら気の早い脅し文句を吐いた。
「限定商品の何が魅力って、『特別さ』に価値があるのです!」
 ごっごっごっ、とウーロン茶を飲み飲み言い立てる主張には力が篭る。
「例えばツンデレ! ツンツンした娘が『特別な』時にだけデレるから萌えるし価値があるんです!」
 ペテスが懸命に揮う熱弁も、実に的を得ていた。
「ずっとデレデレだったら普通過ぎて飽きますし、ツンドラしか受け付けないとか特殊性癖すぎます!」
 この『特別』が持つ普通とのギャップにこそ価値があるんです!
 勢いに乗ったペテスの巧みな弁舌は止まらない。
「ヘンタイの国ニッポンに住んでいながらそんなことも理解できずにビルシャナに付け込まれるとか、修行がぜんぜん足りてないです!」
 ズバッと断じられて、咄嗟に反論できない配下達。
「ツンデレがずっとデレデレだったら……」
「み、認めざるを得ないな……」
 それだけペテスの説明が上手かったからだ。
「いいですか、限定商品もこれと同じなんです。いつも同じものばかりでは新鮮さがなくなってしまうところへ、目新しさが生む興味・好奇心と、新しさに説得力を持たせる『季節』というキーワード。そして未練がましくマンネリ化しないよう期限を区切ってバッサリと切る潔さ!」
 なればこそ、限定商品のメリットを歯切れ良く語る様も、耳に心地好く、彼らの頭へすっと入ってくる。
「それらの要素が相俟って価値を生み出す事に繋がり、戦略というものになるのです!」
 ペテスは説得の確かな手応えを感じながら、ウーロン茶をごくごくと飲み干した。


「それじゃ、僕は改めて生鮮食品の旬について語ろうじゃないか」
 フィオナ・オブライエン(アガートラーム・e27935)は、片手で熟した西洋梨を玩びつつ、口を開いた。
「期間限定だからこそ、美味しいものっていくらでもあると思うんだけどなあ」
 どことなくキリッとした笑顔を見せるフィオナは、サラサラした金髪のポニーテールと意志の強そうな紫の瞳が爽やかな、戦士然とした装いの少女である。
「そりゃあ、今じゃ温室とか冷凍保存とか、季節はずれの食べ物を手に入れる手段は増えたけど、さ。……やはり一番おいしいのは、露地ものの旬だと思うんだよね」
 若々しくも真面目さの滲んだ声音で、配下へ向かい滔々と喋るフィオナ。
「君たちは、真夏に林檎、真冬に西瓜を食べようと思うかい?」
 純粋そうな瞳で正面から見つめられ、そんな当たり前の問いかけをされて、配下達がたじろぐ。
「……いいや、食わんよ……」
「これさ、今が旬の洋梨なんだけど、良かったら食べてみてよ」
 苦い表情の彼らへフィオナが差し出すのは、よく熟したバートレットだ。握っていた物以外にも、幾つか紙袋に入れて持っていたとみえる。
 地下の生鮮食品売り場で調達してきたのだろう。
「今じゃなければ缶詰でしか手に入らない期間限定ものだし、きっと今が一番おいしいからさ」
 言葉を尽くして薦めつつ、自分でも持っていたバートレットを旨そうに囓るフィオナ。
「うん、おいしい」
 にこりと微笑む表情に嘘偽りは無い。
「……本当だ、旨いな」
 配下達も皆バートレットを食べて、その味に思わず唸るのだった。
「期間限定だからいいってものはたくさんある、夏休みもその1つだろ?」
 他方、相変わらず冷静な口ぶりで配下達を諭すのは、村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)。
「夏休みは1か月少々だから丁度いいんだよ。何か月もあると本当にやることなくなるらしいからな」
 どことなく遠い目になる柚月だが、すぐに気を取り直して自説を展開する。
「期間限定商品を年中売り出せば儲かる? それは初心者が陥りやすい罠だな」
 いかにもマーケティングを知ってる風に自信を見せて話し始めれば、
「人間は余裕があると思うとついつい先延ばしにしたくなるものなんだよ」
「何……?」
 徐々に柚月の話術へ引き込まれていく配下達。
「明日でも買える、明後日でも買える、となると、『今日買わなくてもいいや』と思うようになる。次の日も、そのまた次の日も『明日でいいや』となると……」
 更に、少しばかり間を置いて、次の言葉へ説得力を持たせた。
「……わかるよな?」
「う……」
 配下達の視線が泳ぐ。
「いつまで経っても買わなくなる。いつでも買えるなら後回し。結局他の『その時にしか買えないもの』、つまり『期間限定商品』を優先するんだ」
 噛んで含めるような柚月の論説は大変解り易く、配下達も身に覚えがある事だけに、納得せざるを得ない。
「期間限定商品が期間限定でなくなった時、それは商品価値の死を意味する。覚えときな」
 柚月はやたらと格好良い言い回しで演説を終えた。
「ワシは期間限定は割と欲しくなるがな……」
 コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)は、いつも通り若い見た目に似合わぬぐらい老成した口調で私見を述べた。
「匠の手による芸術は、結局の所この世に一つしかない真の限定品といえるだろうに……奴らはそれもまた否定するという事か。それは許し難い暴挙だな」
 ドワーフ故に外見は少年としか見えないコクマだが、その内面は深い見識から来る視野の広さを備えた、紛れもない大人である。
「それはともかく、期間限定とはちゃんと意味があるのだ……お前達は夏場も使い捨てカイロとかバリエーション豊かにあったら買うのか?」
 そんなコクマだから配下達へ詰問する内容も、いかに率直で誰もが頷けるか考えていて、なかなかのインパクトを誇る。
「買う訳ないよ」
 即答する配下。
「だろう? 期間限定品とは、その時期が旬で在り客からも必要とされるが故に現れるものだ」
 コクマもうんうんと肯定しつつ、自説を交えた。
「更に言うならば、実際に顧客のニーズに応えられているかどうか……購入して貰えるかの試験も兼ねている場合が多いのだ」
「そうだったのか……」
 己が知識を淡々と披露するその語り口は、配下達を納得させるに足る真実味を帯びている。
「その時期その時期に必要とされるものをアピールする! そのための販売戦術こそ季節限定である!」
 つらつら語っていく内に自分の言葉で激してきたのか、勢いづくコクマ。
「限定があるからこそ従来品もまた生まれるという事を知れぇ!」
 ビシッと決まった結論も配下達の心を大いに揺さぶった事だろう。


「夏季限定3色コーン、300円——コレは今スグ買いだね!」
 と、アイス屋の看板を眺めて無邪気にはしゃぐのは、イーリス・ステンノ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16412)。
 紫のツインテールと腹に一物ありそうな赤い瞳が可愛いシャドウエルフで、スタイルの良い肢体を露出度の高い服に包んだ螺旋忍者でもある。
 また、義父が組織の長らしくあろうと無理な演技を続けるのを、3姉妹の中では唯一理解しているという、他人の機微へ鋭い一面も持つ。
「あ、3色コーンください、広告のヤツ〜♪」
 そんなイーリスは、配下達へ見せつけるように買ったばかりのアイスを食べながら説得に挑む。
 コーンの上にでんと乗っかった白く丸い塊が大ボリュームだ。
 バニラとミルク、レアチーズ味の色の違いを区別できるかはともかく、美味しそうなのは確かで、配下達が羨ましそうにイーリスを睨んだ。
「ふっふっふー、分かってないな~♪ 期間限定商品は、期間限定だからこそ誰かに自慢できるんだよ」
 これがもし通常商品であったなら、『誰でもいつでもどこで買える』って理由から、折角の希少性の価値が失われる。
「『この限定アイス、まだ食べてないの? 遅れてるぅ』こんな風にね♪」
 そればかりでなく、心理的な面での優越感や自慢すら出来なくなってしまう——小悪魔なイーリスらしい、誰しも心の奥底に秘めている自己顕示欲や承認要求を揺さぶる形での、なかなか斬新な切り口の演説であった。
「ぐぐぐ……ああも煽られると、食べたくなってくるな、3色コーン……!」
 配下達もイーリスの天真爛漫に見せかけた狡(こす)い誘導へ、まんまと引っ掛かって歯嚙みしている。
「一期一会の大切さを、どうしてわからずビルシャナになったんでしょうか……」
 さて、いよいよミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)へ説得の番が回ってきた。
 淑やかそうな見た目に反して意外にアグレッシブな彼女は、時に仲間へキャンプファイヤーよろしく火を着けるなど、過激な一面も持ち合わせている。
「期間限定商品は季節感もあるから、しっかり保護するべきです!」
 今も、とりあえずは威勢良く説得を始めたものの、
「例えば、口付けを冠したチョコとか! ……あ、あとは……お、おでんとかかき氷とか!」
 すぐに限定品の例がチョコ菓子だけで尽きてしまい、内心慌てふためいていた。
「1日限定10個、とか買えたら嬉しいでしょう? それがワンシーズンなら誰でも買えるんですよ」
 それでも即座にプレミア感やお得感へ訴えかけようと、すらすらと弁舌さわやかに言い募るミリア。
 しかも、期間限定品の販売期間に目をつけては、まるで通販番組のような話の運び方で配下の気持ちを刺激している。
「1日限定だったのが、ワンシーズン……そうか、より多くの人が買えるように期間をわざわざ伸ばしたのか!」
「それは良い事だな!」
 早速騙される配下達。
 ミリアが捏ね回す理屈は、いわば詐欺の初歩とでも言うべき手口で、配下達は我知らず丸め込まれて訳だが、それだけにインパクトもある。
「それに、あぁもうこの商品の季節かー、なんて季節感もありますし!」
 そう言ってにっこりしてみせた笑顔の威力も、論理の後押しのお陰で高いのだった。
「何か話を聞いていたら期間限定品が欲しくなってきた!」
「白桃パフェ旨いしな……これからは期間限定も買うか」
 ケルベロス達皆の熱のこもった説得によって、次第に正気へ戻っていく配下達。
「洋梨も旨い……旬の物が買えるのは大事だな」
「期間限定品と通年商品は互いに良さを引き立てていたとは……」
 12人全員が明王の教義を捨てて我に返ったのを見て、声をかけるフィオナ。
「解って貰えて安心したよ。バートレットは全部あげよう」
 言われるままに紙袋を受け取る元信者達へ、怜奈も優しく促した。
「さぁ、このガイバーンさまに付いて行って安全なところへ」
 ガイバーン・テンペスト(ドワーフのブレイズキャリバー・en0014)もこくりと頷いて、昇と一緒に元信者達を追い立てる。
「さあ、外へ出るのじゃ」
「急いで避難をお願いします」
 その様子を見て、柚月が昇へ感謝を伝えた。
「いつもありがとう。今度なんかおごるよ」
 元信者達が無事に店外へ逃げたのを見届けて、明王へ向き直るケルベロス達。
「よくも私の心通わせた同志達を拐かしおって……!」
 青筋立てそうな程の怒りを露わにして、期間限定商品絶許明王は八寒氷輪をぶん投げてきたが。
「大体貴様……どうせ限定品が手に入って居たらほくほく顔で季節限定至高明王とかになっていたんだろうがたわけが! そういう視野の狭さをなんとかしろー!」
 氷の冷たさに耐えるコクマが、見事な反論と共にスピニングドワーフで反撃した。
「患者さんの苦しみを、貴方も味わいなさい……」
 ミリアは後に続かんと病魔の弾丸をぶっ放すも、
「あっ!? 俺のデビルチョコレートとトリープロフラーゴラが!?」
 弾を撃つ時の反動で背中を非正規雇用へぶつけてしまい、彼は食べていた3色コーンを危うく床へ落としかけた。
 ともあれ、まだ見ぬ病魔を意識して強力なインフルエンザの力を込めた弾は無事に明王へ命中、身体の自然治癒力を酷い発熱や怠さで阻害する。
「最近は予告も出ますし、情報は事前収集するものですわ……」
 怜奈は明王へ呆れの視線を向けつつ、雷の壁で前衛陣の異常耐性を高めた。
「来たれ、降りそそげ、滅びの雨よ!」
 ペテスはスマホをぽちぽちして、どこからか呼び寄せた無人飛行機をばかすか落とす。
「ふーっ、危ないところを間に合ったね! すり替えておいたのさ!」
 イーリスは、何故かガイバーンが仲間を庇う度、まるで自分の手柄みたくドヤ顔していた。
「僕の蹴りを受けてみるかい」
 背中の剣を抜く事なく跳躍するフィオナは、流星の煌めきと重力宿りし跳び蹴りをぶっ込んだ。
「今回限りの大技だ!」
 柚月は氷結天使を発動させ、創り出した氷の針を大きな塊のように固めて明王の頭上から落とす。
「そこは……届くッ!」
 超加速で一足飛びに距離を詰め、跳び蹴りを見舞うのは百合水仙。
 彼女は明王の閃光からミリアを庇っていたりしたが、今は渾身の力を込めた一撃を繰り出し、遂に明王の息の根を止めたのだった。
「でも、結局はこのバニラに落ち着くんですよね。安心できる味って素敵です!」
 フロアを修復してから、バニラアイスにかぶりつくペテス。
「ガイバーンさんも食べます? 焼き芋味のポテトチップス」
 ミリアは今になって思い出した限定品の袋を開いて、お菓子パーティーの構えだ。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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