
●某教会
「上腕二頭筋こそ至高の筋肉! 見ろ、この筋肉っ! いいだろ? たまらないだろ!? 見ているだけで、体の芯まで熱くなるだろぉ!? 遠慮をするなっ! 俺を見ろ! そして、その瞳に焼き付けろ!」
羽毛の生えた異形の姿のビルシャナが、10名程度の信者を前に、自分の教義を力説した。
ビルシャナ大菩薩の影響なのか、まわりにいた信者達は、ビルシャナの異形をまったく気にしていない。
それどころか、信者達も上半身裸でポージングをしながら鏡を眺め、ウットリとした表情を浮かべていた。
●都内某所
「玉城・権蔵(マッスルグラップラー・e00558)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです。悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が今回の目的です。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やそうとしている所に乗り込む事になります。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「ビルシャナは破壊の光を放ったり、孔雀の形の炎を放ったりして攻撃してくる以外にも、鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させたりするようです。信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。ただし、信者達は自らの上腕二頭筋を見せる事に全力を注いできますので、色々な意味で注意しておきましょう。なお、信者達の生死は成否判定には影響しません」
そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「また、女性信者達はビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのは、インパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれない。また、ビルシャナとなってしまった人間は救うことは出来ませんが、これ以上被害が大きくならないように、撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。
参加者 | |
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![]() 玉城・権蔵(マッスルグラップラー・e00558) |
![]() 山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918) |
![]() ローゼンシア・エストファーネ(吸血姫・e03662) |
![]() ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328) |
![]() ブレロ・ヴェール(食欲不尽のドレッドノート・e05876) |
![]() 原・ハウスィ(そこはかとなくロリコン・e11724) |
![]() 野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493) |
![]() 桃也・虎太郎(ローブは手放せない・e30177) |
●教会前
「またビルシャナが自己中心的な事を言ってるのね。ホントに周りの人に迷惑かけ過ぎなのよ。ま、まあ、そうでない人達もいるようだけど……」
ローゼンシア・エストファーネ(吸血姫・e03662)は仲間達と共にビルシャナが拠点にしている教会の前に訪れ、石像の前で熱心に拝む老人達に視線を送っていた。
教会の敷地内には、上腕二頭筋だけを強調した漢達の石像がいくつも並んでいるのだが、それを仏像的な何かと勘違いをしたのか、近所の老人達が集まって『ナンマンダブ、ナンマンダブ』と拝んでいた。
そんな事をして何の意味があるのか疑問に思っていたのだが、老人達の話を聞く限り、肩こりが治ったり、尿の切れが良くなったり、孫が遊びに来たりして、何となく御利益があるようである。
「……とは言え、筋肉とは良いものだな。肉体を酷使し、鍛えに鍛えた筋肉とは輝かしいものだと思う。でも、上腕二頭筋だけが発達していても気持ち悪いしなぁ。やっぱり、バランスは大切だろ」
野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493)が、自分なりの考えを述べていく。
しかし、ビルシャナ達は上腕二頭筋ばかりを鍛えており、それ以外の筋肉は鍛える必要がないと思い込んでいるようだ。
そのため、かなりアンバランスな体型になっているらしく、格好いいというよりも気持ち悪い感じの方が勝っていた。
「上腕二頭筋かぁ…俗にいう力こぶだね? あたしも整体で使いたいから全身を鍛えてるけど、鍛えるのって大変なんだよね。ちなみに、あたしの場合は『力を入れた時に、必要に応じて筋肉が浮き出てくる』って感じかな? 女性の筋肉はあまり褒められないし、苦労してここまで鍛え上げたんだよ?」
ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)が、苦笑いを浮かべる。
「筋肉……筋肉かぁ。そりゃ、ボクもちょっとは欲しいとは思うけどさ! これは何か違う気が……」
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)が、何処か遠くを見つめた。
石像を見る限り、筋肉がついているのは上半身……特に上腕二頭筋だけで、下半身には全く筋肉がついていないため、理想の体型とは言い難かった。
しかし、それなりに信者がいるという事は、見た目ほど悪くはないのかも知れない。
「まあ、何とかなるだろ、何とか、な」
桃也・虎太郎(ローブは手放せない・e30177)が苦笑いを浮かべながら、仲間達を連れて教会の中に入っていく。
「おおっ! 同志よ!」
それと同時にビルシャナ達がポージングを決め、虎太郎達を熱烈歓迎。
だが、ビルシャナ達が裸エプロンのような恰好をしているせいで、嫌な予感しかしなかった。
「お、おお、これか。これは筋肉隠しと言ってな。上腕二頭筋以外の筋肉に目がいかないようにするエチケット的なアレだ。まあ、ここに来たんだったら……、分かるだろ?」
ビルシャナが無駄に爽やかな笑みを浮かべ、虎太郎の肩を抱く。
その言葉にまったく説得力を感じられなかったものの、ビルシャナにガッチリとホールドされているせいで、迂闊な事も言えなかった。
「筋肉の良さが解ってるじゃねえか! 後は視野の広さも持てば完璧だな! 俺らで教えてやろうぜ?」
そんな中、玉城・権蔵(マッスルグラップラー・e00558)が、ビルシャナを見つめてニカッと笑う。
「おお、これは素晴らしい! だが、惜しいっ! 実に惜しいっ! 無駄に肉が付き過ぎている。どうせ鍛えるなら、上腕二頭筋に全力を注ぐべきだ!」
ビルシャナが権蔵の身体を触りながら、険しい表情を浮かべる。
まわりにいた信者達も『こんなにバランスよく鍛えたら、上腕二頭筋の良さが分かりづらくなってしまう』と呟き、見るからにションボリとしていた。
「せっかく色々と鍛えてるのに、そこだけなんてもったいない!」
しかし、ミルディアはそんな信者達とは異なる反応を見せ、思いっきり残念そうにする。
「筋肉のつけすぎは怪我の元! 程よくバランス良くつけようね! ハウスィはついてないけど」
原・ハウスィ(そこはかとなくロリコン・e11724)も、ビルシャナ達に駄目出しをする。
「な、なんだと! お、お前達は何も分かっていない! 何ひとつ、な! 筋肉の事を……上腕二頭筋の事を理解していれば、そんな言葉を口にする事など出来ないはずだ!」
その途端、ビルシャナがムッとした様子で、ケルベロス達を叱りつけた。
「筋肉といえば広背筋! 実戦と狩りで磨き上げたヒットマッスルを見なさい!」
次の瞬間、ブレロ・ヴェール(食欲不尽のドレッドノート・e05876)がバックダブルバイセップスで背中の筋肉を魅せつけ、筋肉の魅力は上腕二頭筋だけではない事をアピールするのであった。
●教会内
「お、鬼だ。背中に鬼がいる……!」
それを目の当たりにした信者達が、驚いた様子で腰を抜かす。
「かっけー! 惚れ惚れすんぜー!」
虎太郎もまわりを煽るようにして囃し立てる。
「お、鬼だと……? あんなもの、ただの筋肉だ! 広背筋を鬼っぽく見せているだけだ!」
ビルシャナが激しく動揺した様子で、叫び声を響かせた。
しかし、信者達にはそれが鬼にしか見えないらしく、全く動く事が出来ぬまま、ブレロが繰り出す空手の演武を眺め、躍動するヒットマッスルの良さに、恐怖とは別のモノを感じて心を奪われつつあった。
「せっかく全身鍛えられるのに、上腕二頭筋しか愛でないなんてもったいないよ。腹筋も背筋も、それこそ全身の筋肉が鍛えられるのにね。あたしも全身鍛えてるけど、性別のせいか効果がなかなか出ないんだよね。ほら、こんな感じに……」
そう言ってミルディアが女性特有の性的な身体のラインの中に、薄っすらと浮かぶ筋肉の筋を見せていく。
「あたしは股からの脚線に自信があるけど、これは筋肉以外があっての綺麗さだから、筋肉とはちょっとちがうんだよね。せっかくこたえてくれる筋肉があるのにそこだけなんてもったいないじゃん♪」
ミルディアの言葉に、信者達が動揺する。
「こ、こいつらの言葉はすべて偽り。上辺だけの言葉でしかない! 信じる事が出来るのは、俺の言葉……。俺だけの言葉だ!」
ビルシャナが険しい表情を浮かべ、信者達を叱りつけていく。
その言葉で信者達が我に返ったのか、ブンブンと首を横に振る。
「上腕二頭筋が素敵なのはわかるけど、やっぱりバランスが一番重要だと思うわ。上腕二頭筋が良くても腕や足がガリガリだったら、どう見てもカッコ悪いじゃない? とにかく鳥の言う事は嘘っぱちだから絶対に聞いちゃダメよ」
それでも、ローゼンシアは怯む事無くラブフェロモンと、プリンセスモードを使い、暇つぶしに鍛えて凄い事になったボディを披露した。
実際に信者達のボディは上半身に対して、下半身が貧弱だったため、ローゼンシアの言葉が心にグサリと刺さったようである。
「それに、足の筋肉は、なかなかつかない! それゆえに選ばれし者の筋肉である!」
涼子も足の筋肉をつける事がどれほど困難な事なのかを伝え、信者達の動揺を誘っていく。
「お、お前達、騙されるなっ! そんな薄っぺらい言葉に騙されるほど、お前達の意志は弱かったのか!? 迷ったら、思い出せ! 鍛えて鍛えて鍛えぬく事でようやく手に入れた上腕二頭筋を眺めながら……!」
ビルシャナが内心オロつきながら、上腕二頭筋を隆起させる。
信者達もハッと目が覚め、同じように上腕二頭筋を隆起させた。
この様子では、催眠が解けかかっているのだろう。
信者達はかなり不安定な状態のまま、ビルシャナの言葉を鵜呑みにしているようだった。
「上腕二頭筋も確かにイイ。だが、他の筋肉だって捨てたもんじゃあねえ。俺のお薦めは大胸筋! 大きく広がり厚みを持った大胸筋は、まるで隆起した大地のごとし! それでいて上腕二頭筋にはない包容力を持ってるんだ。身をもってそれを教えてやるぜ!」
権蔵が上着を脱ぎ捨ててポージングをしながら、信者達の頭を大胸筋と上腕二頭筋で挟み込み、そのまま二人の顔を胸板に押しつけていく。
「お、おい、こらっ! やめ……やめ……て! ん、んんっ!? イイッ! 胸板、サイコー!」
次の瞬間、信者達の中でおチャクラ的なモノが開眼したのか、瞳孔の開いた目で叫び声を響かせた。
その反応に満足したのか、権蔵が二人を連れて、物陰に消えていく。
「ば、馬鹿なっ! 俺の催……いや、上腕二頭筋の魅力を上回るほどのパワーを持った奴が、この世に存在していたとは……」
ビルシャナが信じられない様子で、全身をガタガタと震わせる。
まわりにいた信者達も、ビルシャナの動揺が伝染したのか、急にオロオロし始めた。
「ところで、この筋肉は自前で鍛えたものなのか? 異形化で急激に発達したりした不正筋肉ではないか? ズルは駄目だぞ」
そう言って不律がビルシャナの上腕二頭筋を叩く。
「あ、いや、そんな訳がないだろ。こ、この筋肉は本物だ! も、もちろん、自前だ! そ、そんなの、当たり前だろ!」
ビルシャナが『ヤバイ、バレた!』と言わんばかりに目を丸くした。
まわりにいた信者達の反応も冷ややか。
『そう言えば、トレーニング方法も変だったしなぁ』と言いたげな様子で、ビルシャナに生暖かい視線を送っていた。
「その様子じゃ、図星のようだな」
虎太郎もげんなりとした様子で、ビルシャナに生暖かい視線を送る。
「あ、いや、それは……その……だな」
ビルシャナも万事休すと言わんばかりに、嫌な汗が止まらない。
「それじゃ、筋肉がついていないハウスィでも勝てるって事?」
そんな中、ハウスィが持参したラジカセからプロレスの入場曲を流しながら、適当なポージングをマニピュレーターにさせ、ビルシャナの前に陣取るのであった。
●ビルシャナ
「どいつもこいつも馬鹿にしやがって! お前達を殺すっ! 絶対に殺す!」
その途端、ビルシャナの中で何かが壊れ、殺気立った様子でケルベロス達を睨む。
こうなってしまった以上、自分を偽っていても意味がない。
そんな気持ちになったのか、ビルシャナが逆ギレ気味に、破壊の光を放ってきた。
それはケルベロスだけでなく、信者達にも向けられていたため、辺りが一気にパニック状態。
身の危険を感じた信者達が、転がるようにして、教会から出ていった。
「自分の味方まで攻撃対象とは……これだから脳筋は……」
不律が呆れた様子でビルシャナを眺め、破壊の光が届かない射程外まで離れていく。
「俺の上腕二頭筋を否定する奴は……誰であろうとも許さん!」
ビルシャナが口から泡を吐く勢いで叫び声を響かせた。
この様子では信者達の心に芽生えた不信感に気づき、守る価値がないと判断したのだろう。
「……と言うか、お前……友達少ないだろ」
虎太郎が色々と察した様子で、ビルシャナにツッコミを入れる。
「うぐっ……! なんで、それを……って、勘違いするなよっ! 俺にとって、真の友は上腕二頭筋。それ以外はカスだ、カス! つまり、上腕二頭筋が貧弱なお前達も、俺にとってはカス同然!」
ビルシャナが涙目になりながら、かなり無理をして強がった。
おそらく、本音を言えば、この場で泣きたかったはずである。
だが、ここで弱いところを見せたら負けだという判断をしたのか、あえて挑発行為に出たようだ。
そんな事をしたところで、自分の首を絞めているようなものなのだが、冷静さを失ったビルシャナにそこまでの事を考える余裕はなかった。
(「……と言うか、普段から機械使って日常生活送ってるのに筋肉がどうとか判るわけないだろ!」)
そのため、ハウスィがイラッとした様子で、ビルシャナにグーパンチを叩き込む。
「うごっ……!」
これにはビルシャナも『しまった! 言い過ぎたっ!』と思ったのか、物凄く情けない表情を浮かべて膝をつく。
「やっぱり、アタシの筋肉の魅力は身を持って知ってもらうしか無さそうね……」
すぐさま、ブレロが一気に間合いを詰め、ビルシャナに指天殺を放つ。
「ここはあなたの居場所じゃない」
それに合わせて、ローゼンシアがビハインドのラヴァと連携を取りつつ、ジリジリとビルシャナを追い詰めていく。
「これでおしまい!」
次の瞬間、涼子がブーストナックルを放ち、ビルシャナにトドメをさした。
ビルシャナは断末魔すら上げる事が出来ず、前のめりに倒れていく。
「恨むなら生まれを恨めよ!」
そう言って権蔵が自慢の大胸筋でビルシャナの顔を受け止め、さっと語り掛けていく。
ビルシャナはその言葉に答える事すら出来ぬまま、白目を剥いて息絶えた。
「自分の教義を否定する相手はすべて敵かぁ……。そんな考え方をしていたら、こうなる事も分かっていたはずなのにね。それでも、考え方を変えられなかったのかなぁ……」
そんな中、ミルディアが複雑な気持ちになりつつ、何処か遠くを見つめるのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年8月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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