ぽめっ!

作者:彩取

●潔癖主義者の主張
「塵一つない、完璧な掃除を阻む敵。それは何だと思いますか?」
 突然の問いに、教室にいた高校生達は目を丸くした。
 というか、あれ、二限目の授業は? 先生は?
 一瞬そんな疑問を感じた生徒もいる中、当然のように窓から一階の教室に入ってきたビルシャナは、羽毛をふわんふわんさせながら教壇に立ち、話を続けた。
「それはね。毛ですよ。毛、毛!! 特にいぬちくしょうの毛です!!」
 ぴかぴかに磨き上げた床の上に、ぽてぽてと歩いては毛を落とすいぬちくしょう!
 クリーニングした布団の上に、飼い主よりも先にダイブするいぬちくしょう!
 風呂に入れたばっかりなのに、五分後には泥まみれで戻ってくるいぬちくしょう!
「綺麗好きの者にとって、これ以上の悪行はありましょうか。いいやない! 奴らはけむくじゃらの悪魔です! とくにそう――ポメラニアンは巨悪です」

 犬よりでっかい毛むくじゃらが何言ってるんだろう。
 この瞬間、そう思った犬好きの生徒達は、現状に戸惑いつつも避難していった。
 しかし、綺麗好き、もとい度が過ぎた潔癖症の発言に共感してしまった生徒達は――。

●らぶぽめ!
「このままだと、ビルシャナの配下になっちゃいます!」
 ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で悟りを開き、ビルシャナ化した人間が起こす事件。笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)の話によると、都内の高校に現れたビルシャナが、生徒に自分の考えを布教して、配下を増やそうとしている。
 ビルシャナ化した人間の言葉には強い説得力がある。ほうっておくと、一般人は配下になってしまうだろう。ただ、その主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、生徒達の配下化を防ぐ事が出来るかもしれない。
 そこまで説明した上で、今回のビルシャナである。
 奴は度が過ぎた潔癖症で、とにかく犬の毛、特にポメラニアンが嫌いらしい。
「元々犬好きの人達は、その主張納得できなーいと思って、教室を出ちゃってます」
 ビルシャナ大菩薩の影響なのか、主張が刺さらなかった生徒達は、ビルシャナの異形を気にしていないので、普通に避難出来るだろう。
 だが、このままでは特に犬好きではない、潔癖症に理解のある生徒十名がビルシャナの配下になってしまう。すると、ねむはこんな事を続けていった。
「この生徒さん達も、別にポメラニアンが嫌いではないと思うんです」
 ただ、物は言いよう。掃除視点で攻められたので、傾きかけているだけである。
 それなら、違う視点からポメラニアンの良さをアピールすれば良い。最良なのは、可愛らしさを前面に押し出す事だとは思うが、実際に犬を連れてアピールすると、やれ毛玉だそら抜け毛だと、何かと難癖をつけてくるだろう。
「そこで! 動画を使いましょうー! 可愛い動物動画の出番でーす!」
 皆の知ってる、とっておきの可愛いポメラニアン動画。
 スマホでもノートパソコンでもタブレットでもテレビウムでも何でもいい。とびきりの動画を生徒達の前で再生して、ポメラニアンこんなに可愛いんだーという主張をすれば、きっと配下化は阻止出来る筈だ。既にビルシャナ化した人間を救う事は出来ないが、これ以上の被害を減らす為にも、全力で敵の主張に抗い、生徒達を救い出して欲しい。
「ねむ知ってます! こういうの、可愛いは正義ーっていうんです!」
 その為に、かわいいポメラニアン動画と真剣主張は必要不可欠。
 動画選びの決め手は、自分が見てにやにやでれでれ出来るかどうか、かもしれない。


参加者
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
乙川・千織(空想グラフェチカ・e00711)
閑谷・レンカ(アバランチリリー・e00856)
梅鉢・連石(午前零時ノ阿迦イ夢・e01429)
イヴ・ノイシュヴァンシュ(嫉妬の超高速移動爆弾・e07799)
櫛乃・紅緒(雨咲フローリス・e09081)
レム・ホワイトノーツ(睡魔には勝てない・e12996)

■リプレイ

●開演準備は迅速に
 いーぬちっくしょう!
 いーぬちっくしょう!
 いーぬちっくしょう!
 うるさい。
 とにかくうるさい一階の教室。
 その大合唱を止めるべく、ケルベロス達は教室に飛び込んだ。
「そこまでよ!」
 当然のように窓から乱入する一同。
 正直校内を迂回するより窓から入った方が近いのだ。窓側の扉は鍵かかってるし。
 ともあれ、閑谷・レンカ(アバランチリリー・e00856)の一声にぴたりと止まったちくしょうコール。直後、レンカは高らかに言い放った。
「ふん、ポメラニアンの可愛さがわからないですって? そんなの人生損してるわありえないわ! 今から眼前にその可愛さ突きつけてあげる。とくと御覧なさい!」
 そんなレンカの後方、カーテンをぐっと掴んだ梅鉢・連石(午前零時ノ阿迦イ夢・e01429)。すたーっと走ってカーテン締めて、スクリーンをドーンと下ろして映写機スタンバイするまでの時間、ものの数十秒。
 その間に、メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)は風がカーテンを捲らないように窓を閉め、乙川・千織(空想グラフェチカ・e00711)は教室の電気を消し、ゼレフ・スティガル(雲・e00179)は廊下側の曇り硝子の窓をさっと閉めた。
 一方、イヴ・ノイシュヴァンシュ(嫉妬の超高速移動爆弾・e07799)は開演直前のスクリーンを見てポメまだかなとそわそわしたり、レム・ホワイトノーツ(睡魔には勝てない・e12996)は暗くなったし眠れそうなのーと目を擦ったり、櫛乃・紅緒(雨咲フローリス・e09081)はタブレットの使い方をこっそりしっかり確認している。
 各々だいぶ自由だが、八人共準備は万端。
 やがて薄い闇に包まれた教室で、一同は作戦を開始した。
 全ては、ビルシャナの主張を打ち負かす為。
 そして豆鉄砲をくらった鳩のような表情の生徒達を救う為。
「ハッ、いぬちくしょうは所詮、いぬちくしょうですよ」
 いぬちくしょうなんて、二度と言わせてなるものか。
 そんな思いと共に、刃なき戦いの幕が上がったのだった。

●いぬちくしょう
 先陣を切ったのは連石である。
「さて皆さん、想像の時間デスヨ」
 扇子片手にやや大振りな身振りに手振り。
 自前の映写機を動かして語る連石は、さながら昭和の活弁士である。
「今日は一日、全然上手くいかない……そんな日デス」
 スクリーンには閉ざされた玄関扉。そのドアノブに触れる誰かの手。すると、ゆっくり開かれていく扉の映像に合わせて、連石は語りを続けた。
「疲れた貴方が玄関の扉を開く! そこには――」
 ――わふっ。
「じっと伏せで待ってたぽめちゃんガ!」
 おかえりなさいごしゅじん!
 そんな声が聞こえた女子高生が、思わず口元を両手で覆った。それを見た連石が一気に捲し立てていく。画面の向こうでは立ち上がって尻尾ふりふり、床にころころ転がるポメラニアンの姿がどーん。
「ほら、転がって喜んでマスヨ。どーですこの癒しパワー!」
「す、すごい、かわ……」
「抱き上げたくなるデショ?」
 瞬間、女子高生が大きく頷いた。骨董品の映写機を直した甲斐があったというものである。よく見ると周りの生徒達も、うずうず口元が緩んでいる。
 その勢いを継ぐ形で、続くゼレフが口を開いた。
「はい、それじゃ僕もお披露目するっすよー」
 寄ってらっしゃい見てらっしゃい。そんな緩い手招きにつられて、大スクリーンからゼレフ持参の立てカンバスに視線を移す生徒達。骨董品の小さな映写機をクルクル回すと、映ったのは煤けたフィルムが味を醸す、昭和レトロな無声映像。
 はじめてのまいご。
 その手書き題字に続くのは、二倍速で走るちびぽめ君。
 ちょうちょを追いかけすたたたた。
 水田にダイブしてどろろろろーん。
 あっという間に泥んこ犬となりはてて、寂しげに月夜を見上げる小さな背中。その哀愁感に思わず生徒達が眉尻を下げる中、ようやく家に辿り着くと――、
「「お、おふろおおおお!!」」
 次の瞬間、画面にはお風呂とブラッシングでほこほこまるまるになったちびぽめ君の姿がででーん! その可愛さ、厳つい男子生徒二人が思わず、風呂におを付けて叫ぶ程。
「どうっすかこの幼気な無邪気さ。愛しくて幸せになるでしょう? ね?」
 映像の締めにI.LOVE.POMEと添えるだけでは飽き足らず、笑顔に見えるぽめ君のどアップ顔でしめた製作者の思い、分からぬ者などいるだろうか。
「いない、いない、ぽめ君かわいい。愛す……」
「で、でも……そんなの、やっぱり毛が落ちて――」
 その時、別の生徒の言葉を遮るように流された動画。それはスマホに小型プロジェクターを取りつけた、特選千織セレクション。
「わたしもお気に入りの動画なんだよ。見て見て!」
 動画の主役は仔犬ポメちゃん複数匹。
 好奇心旺盛なちびちゃん達は、投入されたカメラにご執心。
 じーっとこっちを見てきたり、折り重なって目の前でもふっとしたり、何故かお尻をカメラに向けて、ぱたぱた尻尾をふってきたり。
「こ、これは――」
「ちっちゃくて、一生懸命で、だからかわいいの! ね♪」
 スクリーンに段々近づき、千織が出した画像をガン見する二人の生徒。
 だがその時、それまで静観していたビルシャナが大声で鳴き出した。
「可愛いから全て許されるとでもお思いか! 可愛くても毛は落ちるのです!」
 さあ若き同士よ、思い出すのです。
 やつらは憎きいぬちくしょうなのです。
 いぬちくしょう。いぬちくしょう。
 そんな風に先程と同様、口汚い暗示を繰り返すビルシャナ。
 しかし、
「い、いぬ……いぬちくしょう――」
「そうです、その調子で……」
「いぬちくしょうかわいいなああああ!!!」
「――な、っ」
 男子生徒がそう叫んだ瞬間、千織はにぱっと笑みを浮かべた。

●画面がにくい
 ここから先の上映はスマホやタブレット。
 この調子で行けば、後はビルシャナを倒すだけである。
「どーんと魅力を見せつけて……早く帰って寝るの」
 だからレムもタブレット端末をさくっと操作し、動画再生を始めたのだが、
「あ」
「あ」
「これ、犬と寝てるのって君じゃ――」
 ブチッ。
 瞬間、生徒達が言い終わる前に画面は再暗転。
 じっとレムを見る生徒達と、無表情で停止ボタンに触れたレム。
「……はいストップなの、ちょっと間違えたのー」
「いや、今の。割とあられもなく服着崩して犬と寝てたの、き」
「もふもふ動画を再生するのー、抜かりはないのー」
 言わせないの。
 そんな謎の圧を感じて黙る男子生徒。
 すると今度こそ、二匹のポメラニアンがじゃれ合う映像が再生された。
「くりくりした瞳も、その足も身体も、ちっちゃくてとても愛くるしいのー」
 一匹に乗りかかると届かなくなる魅惑のあんよ。
 ひしっとくっ付いた筈がずるりと滑り落ちる至高のもふもふ。
「こんなに可愛いのにダメなの?」
 だめじゃない。そう呟いた生達が、もう一度動画を再生する。
「えっ、でも毛玉の掃除は面倒だってさっき――」
 だが、それでも頷かない生徒の目の前に立ったのはメロゥである。手には買いたてのスマートフォン。慣れない手付きながらにぽちぽちと操作すると、メロゥは生徒の眼前に画面をぐいっと近づけた。
「ほら、見てちょうだいな」
 てむてむ駆ける仔ポメちゃん。
 勢い余って転がって、ゆるーい公園の下り坂をころろろろん。
「一分にも満たない動画で、こんなに幸せになれるわ」
「うっ、こ、ころがっ」
「こんなに可愛いのよ。こんなに愛らしいのよ」
 ずずーんと画面を主張しながら、瞳だけを輝かせて語るメロゥ。
「もふもふは、可愛いは、正義よ」
「可愛いは、せいぎ。も、もふもふは――」
「正義よ」
「せ、せいぎ?」
「そう、とてもとても、正義なの」
 眉一つ動かさず、しかし情熱を込めた力説に陥落した七人目。となればもう、残りもこの調子で押すしかない。という事で、次は紅緒の出番なのだが、
「動画の再生は……えっ、と……あ、れ?」
 何故か用意していた画面が消えた。
「こ、ここやなくて……あ、できました!」
 それでも何とか、元のページに辿り着いた。
「――天使かな、あのひと」
「うん、天使だね。羽根生えてるし」
 ポメラニアンのぬいぐるみ抱っこした、控えめに言って天使だね。そんな風に見守られている事など知らない紅緒。彼女が再生したのは、三色の色違いぽめちゃん動画である。
「紅緒のおすすめは、ぽめちゃんの仔犬がお庭で無邪気に遊んでる動画です……!」
 茶色は元気いっぱい、白はほんわり、黒はきりりっ。
 性格の違いがまた愛らしく、ちらっちらと見てしまう女子生徒達。
「ほんまに可愛らしい思いません……? いろんな色のぽめちゃん」
「う、でも私達、犬触るの得意じゃないから……」
 そんな女生徒達をよそに、紅緒は言った。
「このもふもふん中、紅緒も混ぜて貰いたいなあ……」
「――この中に」
 もふもふと、美人と、はんなりと、天使と、もふもふ。
 その光景を思い浮かべたのか、女生徒達は目をがっと輝かせた。
「絶対かわいいよーそれ、ちょう見たい!」
「俺達も見たいそれ!」
 何故か攻略済の男子も言った。
 そうして残る生徒はついに一名。すると、これまでの動画を誰よりも逃さず凝視していたイヴは、残る男子生徒を見てこう主張した。
「この良さをわからないなんて罪だわ……」
「ぐっ、別にそれほど可愛くなんて……」
「それ理解できないし。むしろどんな感性を持ってるのかしら?」
「こら、学生の主張を無視するとは何事です!」
「そこの鳥には聞いてないわ!! あ、もしかしてあれなの? ふかもこより、ガチムチなドーベルマンとかの方がお好みなの?」
 好みなら仕方ないけど。そう言って勝手に納得するイヴの様子に、あわわと慌てる男子生徒。べ、別にガチムチとか好きじゃない。そうイヴに言いたげな彼に向けて、レンカは無言でタブレットを取り出した。
 そこに表示されたのは、
 は。
「は?」
 は。
 は。
 はくしゅるるるるぷるぷるぷるぷるっ!!
 静止画状態から一転、突然くしゃみをして体中をぷるぷる震わすポメラニアン。
 この仔、多分すっきりしたのだろう。盛大なくしゃみの後、カメラを向ける飼い主に向かって、どやぁっとつぶらな瞳を向けている。
「ぶっ、は」
「どうよ可愛いでしょうが!!」
「っはははははか可愛いっ、うけるっ……っはははは!」
 ついに言わせた。
 これで敵の暗示も上書き完了に違いない。だがその直後、
「お、おのれこの犬畜生の下僕ども!! 私の信者を奪うとは!!」
 ビルシャナは怒りを露わに、一同に襲い掛かってきたのである。

●愛故に
 敵はビルシャナ一体のみ。
 ついでに流れるような動画布教により信者を根こそぎ奪われたのがショックで、ちょっとだけナーバスな感じである。対するケルベロス達の布陣はバランスの取れた配分で、隙の無い連撃が続いている。
 そんな中、悶々としながら戦うイヴ。
 教室への乱入から今に至るまで、守りの役目を重視していたイヴには、とある心残りがあった。それは――、
「ビルシャナに気を配ってたせいで、ガッツリ説得しそこねたわ!!」
 と言う事で、3順目にして再び恨みを込めたトラウマボール。
「ぎゃあ! いぬぅ!」
 敵が見る悪夢の姿は、皆のお察しの通りである。
 清めの光を放ったビルシャナを見て、同様に態勢の立て直しに動いたのは千織だった。
 小さな身体で一生懸命仲間を守る千織の動きは、活動中のアイドルらしく踊るようにとてもしなやかでキュートなもの。
「ねえ、正気を取り戻したりしないのっ?」
「いぬちくしょうのまわし者メェ!」
 しかし、絶えず続ける呼びかけに、ビルシャナが頷く事はなかった。その様子に、けだるげに魔道書を開いたメロゥ。瞳に静けさを携えながら、メロゥはこう囁いた。
「それなら、悪い子はねんねしていただくわ」
 古き詠唱と共に放たれた光線に、ビルシャナの叫び声が響く。そんな中、メロゥは小さな声で思いを零した。動物を飼う、確かにその掃除は大変だろう。しかし、それさえも有意義に感じる人もいるのである。
「……あんな可愛いお顔で飛びつかれたら、何でも許しちゃうじゃない」
 その言葉にこくと頷き、紅緒も妖精の加護を宿した弓を構えた。
「飼い主さんにとって、ぽめちゃんは家族やからと思います」
 だから出来れば、声高に嫌悪を示さずにいて欲しい。争いを好まぬからこそ零れた紅緒の言葉に、レムも犬のウェアライダーとして告げた。
「ぽめちゃんに対する冒涜は見過ごせないのー」
 対し、尚もわめき続けるビルシャナ。
「好き嫌いの自由を奪う気か! 嫌いなものは嫌いなのだ!」
 しかし、レムは表情を変えずに、軽く息を吐いてこう返した。
「……そもそも、部屋が汚れるのが嫌なら、室内で動物を飼わなければい」
「それをいうなあああああ!!!」
 これ以上ない正論である。
 というか内心分かってたとか。瞬間、レンカはその懐に飛び込んだ。
「目障りに思うなら思えばぁ? っていうか、掃除し甲斐のあるかわいい子、くらい大人な対応も出来ないなんて、綺麗好きの風上にも置けないわね!」
 可愛いは世界の宝、その価値の前に毛が落ちる位、実に些末な事である。
 第一、自分の掃除の甘さを棚上げするような発言も含め、
「それをぽめちゃんのせいにするとか、甘いのよ!」
 その程度で潔癖症を名乗るなど、へそで茶を沸かすレベル。そんな熱の入った力説と共に叩き込まれたレンカの一撃、曼珠沙華の殲滅。
 懐への衝撃に反論の言葉を奪われた敵に対し、ゼレフは少し楽しげに飛び込んだ。
「いいね、ノッてきた」
 剥がれる敬語は昂揚する心の象徴。
 瞬間、長剣を抜き打つと同時に、剣風がその後を追駆する。
 戦場に生じた風。それを頬に感じて、ゼレフは軽やかに呟いた。
「うん、熱弁もいいけど――」
 やはり、こちらの方が解り易い。
 そうして、琥珀のゴーグルの奥――思い出に彩られた右目に触れながら、ゼレフは今まさに下ろされようとしている戦いの幕を感じて囁いた。
「愛は勝つ、だね」
 問いの答えが耳を擽る事はない。
 しかし、憂いなき表情で見届けた最後の一撃は、実に鮮やかなものだった。
「掃除しなくても死にませんケド、癒しが無いと息が詰まりマスネー」
 目まぐるしく動く戦陣、その刹那に生じた道一筋。
「眠ってしまえば埃も気になりまセンヨ」
 そこを撃ち抜く銃捌きも練達の武器も、全て連石の手元に揃っている。
 故に奇をてらうように身を翻し、連石は最後の一言と共に、敵の頭部を撃ち抜いた。
「おやすみナサーイ、二度と目覚めぬ夢へドウゾ」
 これにて、熱いもふもふ主張の話は御終い。
 宝石化の末砕けたビルシャナには、千織の花を一輪捧げて。そうして全員の無事を確認したら、皆の動画を交換して、再生リストを賑やかにするのもおつなものである。

作者:彩取 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 7
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