夏のチョコレート封印教

作者:質種剰

●ベタベタ嫌い
「チョコレートをわざわざ夏場に食べるなど邪道であるーッ!」
 煌々と照りつける太陽の下、公園で1人のビルシャナが汗みずくになって演説をしていた。
「夏の陽気にやられてベタベタしたチョコレートの何が美味しいものか! チョコレートは冬に楽しむべき食べ物であるッ!!」
 納得できるようなできないような何とも面妖な主張であるが、そこはビルシャナ、既に十人余りもの信者を己が教義へ心酔させていた。
「良いか。食べ物には何であろうと旬があるものだ。夏は鯉だって味が落ちるではないか。チョコレートもそれと同じ。チョコレートの旬は冬に相違ない!!」
「なるほどなぁ……」
 という事になる。
 チョコレートと鯉を同じ土俵で語る。その滑稽さに我から気づかぬのが、洗脳に近い影響を受けた信者という訳である。
「寒鯉、寒鰤、寒鮒、寒チョコといっても遜色なき冬の味覚であろう! なればこそ、夏場に無理をしてチョコを味わう必要なぞ無い! 夏場は夏に旨い瓜や胡瓜を食べていれば宜しい!!」
 いよいよ語気を強めるビルシャナは、怒り狂っている反面、舌はどこまでも滑らかで。
「古来より日本人は、蛤の産卵期には食べるのを控えるなど、食べ物に対しての心遣い、ひいては我慢ができていたのである。それが今では夏場にわざわざチョコレートをベタベタしたまま食べるという愚を犯す。何故冬まで我慢できないのか!」
「そうだそうだ! 教祖様の言う通りだ!」
「故に、チョコレートは冬まで封印すべきであるーッ!!」
 呆れて物も言えぬとはこの事であろう。

●年中衰えぬチョコの魅力
「鯉とか蛤とか関係なくね?」
 佐藤・非正規雇用(変温動物・e07700)は、小檻・かけら(サキュバスのヘリオライダー・en0031)から予知のあらましを聞いて、思わずツッコんだ。
 すると、件のビルシャナの存在を掘り起こしたのは、どうやら彼であるらしい。
「夏のチョコレート封印教……かけらだって首を傾げたくなる教義でありますが、ともあれ、皆さんにはこのビルシャナの討伐をお願いしたいのでありますよ」
 と、ケルベロス達へ向き直るかけら。
 完全にビルシャナ化した元人間以外にも、彼の主張へ賛同した一般人14人が演説を真剣に聞いている。
「彼らはまだ配下になっていませんので、説得によって正気を取り戻させることが可能であります」
 つまり、夏のチョコレート封印教ビルシャナの主張を覆せる程にインパクトのある説得を行えば、戦わずして配下を無力化する事ができる。
「もし配下になった一般人の方がいらっしゃる場合は、ビルシャナと共に戦闘に参加し、皆さんへ襲いかかるであります。ですが、ビルシャナさえ倒せば、元の一般人に戻りますので、救出できるであります」
 しかし、配下が多い状態で戦いが始まれば、それだけ不利になる為気をつけて欲しい。
 また、ビルシャナより先に配下を倒してしまうと、往々にして命を落とすのへも注意。
「今回倒して頂きたいのは、夏のチョコレート封印教ビルシャナ1人のみであります。ビルシャナ閃光とビルシャナ経文で攻撃してくるでありますよ」
 理力に満ちた破魔の光である閃光は、複数の相手にプレッシャーをもたらす遠距離攻撃。
 また、敏捷性が活きた謎の経文は、遠くの相手を催眠にかける単体攻撃だ。
「一般人の皆さんはアタッシュケースを武器代わりに殴りかかってきますが、皆さんなら敵ではありますまい。複数人に当たる近距離攻撃であります」
 今回は、昼日中の公園で一般人達に向け演説している夏のチョコレート封印教ビルシャナのところへ、正面から乗り込む形になる。
「教義を聞いている方々は、夏のチョコレート封印教ビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得できませんでしょう。重要なのはインパクトでありますから、何か斬新な論理や演出をお考えになった方が宜しいかと」
 そこまで言って首を捻るかけら。
「……かけら自身はあまり思いつかないのでありますが、『夏場でもベタベタしないチョコレート』なるものがあれば、ビルシャナの教義に対抗し得る武器になるのではないかと存じます」
 夏場でもひんやり美味しく食べられて、パリパリした歯応えを楽しめるチョコレートや、そうする為の工夫などがあれば、説得できるかもしれない。
 チョコレートそのものだけに限らず、チョコを使ったお菓子やスイーツを推しても構わない。
「それでは、夏のチョコレート封印教ビルシャナの討伐、宜しくお願いします」
 かけらはそう言って、ケルベロス達へ頭を下げた。


参加者
四垂・ミソラ(夕暮れの守護者・e00473)
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
ミツキ・キサラギ(御憑巫覡・e02213)
結城・八尋(その拳は護るために・e03795)
佐藤・非正規雇用(マルチスケイル・e07700)
村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
御幸・鏡花(は絶対に働かないぞ・e24888)

■リプレイ


 炎天下の公園。
「夏場のチョコは封印すべしー!」
「ペタペタしたチョコはもう嫌だっ!」
 夏のチョコレート封印教ビルシャナと信者達が汗をだらだら流しながら団結している処へ、ケルベロス達はいつもの如く降り立った。
「夏だからってチョコレート食っちゃならねぇなんて、暴論もいいとこだよな」
 勿体ねぇ主張ブチかますビルシャナは、ぶっ飛ばしてやるか。
 まずは結城・八尋(その拳は護るために・e03795)が、威勢良く前へ進み出る。
 ずんぐりした体型に似合わず機敏な狸のウェアライダーで、その下半身は鍛えられた筋肉に覆われている八尋。
「お前ら、夏限定のチョコレートってもん知ってるか?」
 言うや荷物から取り出したるは、塩チョコレートだ。市販の夏季限定商品である。
「なっ……」
 信者達は、恐る恐る塩チョコを食べて、その旨さに感動する。
 当然だろう、真夏の炎天下の集会である。水分も塩分も常より何倍も美味しく感じるに違いない。
「旨いな……」
 夏季限定の意味を身を以って知った彼らに、咄嗟に反論出来ようはずもなく。
「夏だからこそ食べられる、むしろ夏しか食えないチョコレートってもんも世の中には存在するんだぞ」
 気圧される信者達へ、八尋は勢いづいて畳み掛ける。
 続いて取り出すは、某有名ブランドのチョコレート。
 薄いフォルムが上品で、中に様々なフルーツソースを入れてあるのが特徴だ。
「ソースが入ってるから、解け出さないようパリッと作られてるんだ」
 これなら夏でも指のべたつきを気にせず食えるだろ?
 初手の塩チョコで強烈なブローを喰らった信者達は、案外素直にブランドチョコを摘む。
「本当だ。こんな暑いのに全然溶けてないな」
 八尋の言う通り、中にソースや酒の入ったチョコレートは、普通のものと違って容易には溶けない。
「うん、オレンジソースが旨い。流石高級チョコ」
 信者達がブランドチョコへ舌鼓を打つ傍ら。
「うむ、旨い。溶けないチョコは有難いのう。つけヒゲが汚れなくて済むしのう」
 ガイバーン・テンペスト(ドワーフのブレイズキャリバー・en0014)も御相伴に与りつつ、美味しそうにチョコを食べて褒めるというサクラ役を懸命に務めていた。
 続いて。
「チョコレートは……食べたいときに食べるべきですよねぇ」
 四垂・ミソラ(夕暮れの守護者・e00473)が、早速板チョコをぱきり! と食べて気合を入れる。
 赤いポニーテールやドラゴニアンの翼に、黒のフィルムスーツがぴたりとハマっている魅惑的かつどこか爽やかな美女だ。
「例えばですねチョココロネ!」
 丁寧な口調ながら元気に主張するミソラは、持参したチョココロネとチョコクリームパンを、何故か両手に持って構えた。
「こういったチョコクリームという形でしたら、溶けずに美味しく組み合わせられるのです!」
 がぼっ!
「チョコクリームパンもいいですよ。さぁ! さぁ!」
 ごばっ!
 そして、信者達の口へ、有無を言わさずチョコパンを次々押し込んでいく。
(「チョコレートの自由のために、頑張りましょう!」)
 信者達はもぐもぐもごもご、物理的に言い返せない状態だが、実際、ミソラの言い分には説得力がある。
「……っく、ごくん。いや、うん。チョココロネか、確かに旨い」
「チョコクリームパン良いよな、俺好きだわ」
 強引さが良いインパクトに繋がった説得は、シンプルながら上首尾だ。
「チョコレートはいつ食べても美味しいのに、冬だけとかもったいないっ」
 と、可愛く怒ってみせるのは、御幸・鏡花(は絶対に働かないぞ・e24888)。
 ツーサイドアップにした白い髪と澄んだ金の瞳が柔らかい印象を与えるヴァルキュリアで、ボンデージ風の衣装がよく似合う女の子だ。
「チョコレートだからって溶けるとは限らないんだよ!」
 鏡花が得意げにドン、と信者達の目の前へ置いたのは、大きなクーラーボックス。
「これなら溶けないし、夏でもおいしくたべられるよ!!」
 中に詰まっていたのは、色んな種類のガトーショコラ、つまりはチョコレートケーキ。
 ガナッシュとコーヒークリームの層が綺麗なオペラ。
 ころころした大きさが素朴なブラウニーは、手掴みでも気持ち良く食べられる事を示すのへうってつけの品だ。
 見た目からも歴史を感じるクラシカルなザッハトルテ。
 内部のチョコレートソースを楽しむフォンダン・オ・ショコラは、溶ける事に対する不快感へ真っ向から対抗した面白いチョイスだ。
「オペラは、成る程ベタベタしないよな」
「あ〜、ザッハトルテマジ旨ぇ!」
「それに種類もこんなにあって飽きずに楽しめるよ!!」
 信者達が皆競ってケーキを食べているのを眺めやり、鼻高々の鏡花。
 様々なケーキの中から、チョコのベタベタした嫌悪を煽らずに済む数種をチョイスして振る舞った作戦は、大成功だった。
 そんな中、佐藤・非正規雇用(マルチスケイル・e07700)などは、
「クソッ、負けるか! 貴様が2個なら俺は4個だ!」
 何故かガイバーンへ対抗心を燃やして、ブラウニーをガツガツと貪り食っていた。
「わしは身体が小さいから1個で充分じゃよ」
「まさかの少食ッ!!?」


「溶けるからチョコは冬が旬、とかこいつアイスとかかき氷とか食わねぇのかな……『アイスはセーフ』とか言いそうな」
 首を傾げるミツキ・キサラギ(御憑巫覡・e02213)の主張は、斬新かつ面白いものだ。
「お前の主張では『チョコが溶けてべとべとになるから、溶けない冬が旬』なんだよな?」
 小柄で巫女服を纏うせいかよく女の子に間違われる彼だが、口を開けばなかなかに威勢が良い、少年らしい口調で喋る立派な男子である。
「でもさ、冷静に考えてくれ…………べとべとになったチョコって夏しか食えなくねぇか?」
 かようなミツキの斬新極まる主張とは——そう、べとべとに溶けたチョコの肯定であった。
「夏場の溶けかけてべとべとしたチョコレートって結構好きなんだよな」
 溶けかけた板チョコを食パンに挟んで食べるのは意外と美味しいんだぜ。
 溶けチョコレシピまで披露してうんうん頷くミツキ。
 ベタベタチョコを否定するのはマズいが、肯定ならば何も問題ない。
「夏の暑さで程好く溶けた、形を保ちながらも柔らかい独特の食感のチョコレート!」
 それ故、ミツキは自信を持ってベタチョコ主義なる持論を堂々展開する。
「それを食べられるのは一年のうち夏の、しかも気温の高い間だけだぞ!? これをチョコレートの旬と言わずしてなんとする!!」
 とにかく、チョコレートが溶ける夏こそ貴重——他の季節では味わえぬ溶けチョコはレアだと、必死に捲し立てた。
「それを理解せずに『チョコレートの旬は冬』など言語道断、チョコレートに謝れ! 土下座しろ!」
「う……え……?」
 ミツキの怒涛の勢いの演説に圧倒される信者達。
「うーん、溶けたチョコをパンやクッキーで挟むと旨いのか」
「まぁ、言われてみればチョコが溶けるのは夏だけだよなぁ」
 妙に含蓄のあるミツキの主張であったから、彼らも土下座はしないまでも、すっかり溶けチョコの魅力を信じる気になってきた。
「栄養面で考えてみましょう。昔チョコレートは薬として用いられたそうよ」
 さて、こちらも新鮮な切り口で説得に挑むのは、バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)。
 絹糸のような緑の髪と涼やかな瞳がどことなく蛇を思わせる、妖艶な美女だ。
 蛇革っぽいトップスに武装白衣を羽織った姿は、一見するとマッドサイエンティストに感じるが、内面は実に女性らしい、優しいお姉さんでもある。
「そんなチョコレートに含まれるポリフェノール、いろんな効能があるんだけれど、注目すべきは日焼け止め効果……つまり」
 バジルは、薬師らしくチョコレートの含有成分について丁寧に説明。
「チョコレートは、夏場の紫外線からお肌を守ってくれる、夏にこそふさわしい食品と言えるんじゃないかしら?」
 そして、婀娜っぽい目つきで信者へ近づくや、その口へひんやりしたチョコレートをそっと押し込んだ。
「んぐ……」
「どう? 冷たくて美味しいでしょう?」
 己がセクシーさをよく弁えて武器にするバジルは強い。
 そうして、男性信者へチョコを食べさせて回って籠絡にかかる一方。
「カプサイシン!」
「グゲェッ!?」
 てっきり自分もチョコをあ〜んして貰えると油断していたビルシャナへは、ペースト状のカカオへ唐辛子や玉蜀黍の粉を混ぜた物を、無理やり喉へ流し込んだ。
「16世紀にはちゃんとした薬として飲まれてたものよ」
 苦しむビルシャナを見やって微笑するバジル。
 女のしたたかさが垣間見えた瞬間だった。
「溶けるからってだけでチョコを禁止するなんて、何もわかってないビルシャナです」
 他方、ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)は、ぷんすこと憤慨しつつ正攻法の理詰めで攻める。
「チョコに旬はありません、言うなればずっと食べられる保存食です! 缶詰めに賞味期限はあっても旬はないでしょう? チョコも同じです!」
 言いながら取り出したのは、秋が旬の秋刀魚の蒲焼き缶と、冬が旬の蜜柑缶詰め。
「どうですか、旬でない夏場に食べても美味しいものもあるんです!」
 缶詰めの中身を信者達へ振る舞いつつ、髭ドワーフをチラ見するミリア。
「うむ、秋刀魚は夏でも旨いもんじゃ」
 ガイバーンは心得たとばかりに蒲焼きを食べて、ミリアの後押しをした。
「チョコに旬は無い……い、言われてみれば」
 缶詰めの揺さぶりが効いて戸惑いを顕にする信者達。
「大体、溶けて食べるべきでない時期、というのであれば、溶けなければ問題ないですよね? つまり、焼きチョコレートなら問題ないですね!」
 調子づいたミリアは、これぞ本番とばかりに焼きチョコを突きつける。
「どうです、手で持っても溶けないでしょう? チョコの甘さは変わらないでしょう? 家で作ることもできますし」
 焼きチョコこそ、溶けない故にペタペタしないチョコレートの正攻法とでも言えるものであり、信者達を納得させる理由としても充分。
「焼きチョコか、一時期ハマったわ」
 信者達も、焼きチョコの妙味に自然と頷いていた。


「説得のためとは言え、この天気の中でこれはなぁ」
 仲間が説得に励む間、村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)は手持ちの扇風機の風でマイペースに涼んでいた。
 勿論、涼んでいたのには理由がある。
 今しも台車を押してどこからか運んできた小鍋の中味が、この真夏の昼日中に準備するには辛い代物だったからだ。
「夏のチョコがベタベタするのは、固体が中途半端に溶けるからだ。最初から液体なら何ら問題はない」
 と、さっと台車に被さっていた布を捲る柚月。
 下から現れたのは、未だ湯気を立てている液体状のチョコレート。
 フォンデュ鍋に満ちたそれの用途は明白。
 そう、柚月が涼みながら用意していたのは、チョコレートフォンデュ。
 チョコレートにミルクや生クリームを加えて煮立たせた物へ、果物やマシュマロを浸けて食べる料理だ。
「チョコフォンデュはベタベタしない上に、チョコに浸ける時は串に刺さったものをチョコの中に潜らせるから手を汚す心配もない。実に画期的なデザートだろ?」
 柚月は生来の冷静さと口の巧さを発揮して、論理的にチョコレートフォンデュの利点を挙げていく。
「やはりうまいな」
 なおかつ、串に刺した苺をチョコへ浸して食べた際は、味のアピールもしてみせた。
「そもそもチョコが溶けるまでだらだら食べるなと。鉄は熱いうちに打て、チョコは固いうちに食え」
 常々理知的な柚月が淡々と並べ立てる理屈には、妙な含蓄が宿る。
「チョコフォンデュは夏に食べてこそ。冬に暖かい部屋でアイスを食べるように夏にクーラー全開の部屋でチョコフォンデュを食べる」
 なればこそ、次第に信者達も柚月の話術に引き込まれていく。
「これが夏の最高の贅沢ってやつなんだよ!」
 柚月は説得の手応えをひしひしと感じつつ、断言したのだった。
「クーラーの入った部屋でチョコフォンデュ。旨そうだなぁ」
 信者達は、皆フォンデュ鍋が撒き散らす湯気をものともせずに、果物串へ手を伸ばした。
 さあ、いよいよ非正規雇用が説得をかます段階になったが。
「あづーい……扇風機貸してくれ……」
「はい」
「わーれーわーれーはー どーらーごーにーあーんー」
 当人は余りの暑さに耐え兼ね、柚月の扇風機で涼をとっていた。
「四垂さん、勝手に同族意識持たれてるから今セクハラで訴えたら勝てるよ」
「勝てねぇしセクハラでもねぇよ」
 何とか気を取り直し、説得を始める非正規雇用。
「俺のオススメはこれだぜっ! チョコレートドリンク!」
 黒猫師団で提供して貰った情報を、さも自慢げにひけらかす様は情けないが、チョコレートドリンクというチョイス自体は悪くない。
「かの有名なチョコレートブランドが出してる、とってもオシャンティな飲み物だぜ!」
 チョコレートドリンクの利点は、やはり『既に液体状故にベタつかない』これに尽きる。
 鏡花のフォンダン・オ・ショコラや柚月のチョコレートフォンデュ同様、チョコに対する嫌悪感を新たな方向から払拭した、上手い選択と言えるだろう。
「しかもっ! 抹茶! ラズベリー! マンゴー! いろんなソースとチョコのマリアージュが楽しめるぞ!!」
 ラズベリー味は鮮やかな見た目と絶妙な酸味が嬉しく、ほのかに香る薔薇のソースが上品さを添えている。
 マンゴー味はマンゴーとパッションフルーツの爽やかな味わいが魅力だ。
 様々なフレーバーのドリンクを並べ、ますます信者達の心を揺さぶって追い打ちをかける非正規雇用。
「ふむ、わしはこの抹茶味が良いのう」
 ガイバーンも旨そうにチョコレートドリンクを飲んでいる。
 抹茶のほろ苦さとホワイトチョコの甘みが飲みやすい逸品だ。
「チョコレートドリンクか」
「へえ、旨いもんだな」
 信者達も、それぞれに出されたチョコレートドリンクを味見して感動している。
 そして。
「夏でも美味しく食えるチョコって沢山あるんだな」
「あぁ、俺はブランドチョコをまた食べたい」
「俺はフォンダンショコラが」
「チョコフォンデュ旨かった!」
 ついに信者達全員が正気に戻り、ビルシャナの教義を意識から捨て去ったのだった。
「え、えとえと、溶けたチョコレートを全身に被る方が色々な意味で美味しいのです!!」
「熱ィッ!? ちょ、四垂さんやめて!」
 説得の効果を心配したミソラが、非正規雇用の身体へチョコレートを塗りたくったり、
「よっし、後はビルシャナをぶっ飛ばすだけだな——痛っ!」
 うっかり袴の裾を踏んづけて転倒したミツキが、フォンデュ鍋をひっくり返して熱々のチョコレートを非正規雇用の頭からぶっかけたりしたが。
「熱ゥゥっ!?」
「ンギギ……よくも儂の信者を勝手に誑かしおったな……!」
 ともあれビルシャナとの戦闘である。
 元信者達が戦闘の余波に曝されぬよう、昇が率先して避難誘導してくれた。
「何故こんなところに木下さんが……サインください!」
 チョコ塗れでバタつく非正規雇用。
「がおー!」
 ミツキは凄まじい咆哮で大気を揺らし、衝撃波をビルシャナへ浴びせた。
「多少は涼しくなるかもな」
 と、氷の力を秘めたカードでクナイを作り出し、ビルシャナへ投げつける柚月。
「お口で、とろけろ!」
 非正規雇用はビルシャナの弱点を突いて、全身から血を噴き出させた。
 同時に、店長が息を合わせてパイロキネシスをかましている。
「チッ、小癪な……!」
 ビルシャナが放った破魔の閃光からは、
「させません!」
 不屈の闘志を全身で表すかのように燃え上がらせたミソラが、バジルを庇って代わりにダメージを喰らった。
「患者さんの苦しみを、貴方も味わいなさい……」
 ミリアは、過去に捕えた『デウスエクスの力』を、病魔の弾丸として射出。少なくない苦痛を齎す。
「足裏から毒素を取り込みましょう」
 バジルはビルシャナの影が色濃い地面へ黒影弾を撃ち込み、毒素を染み込ませて奴を足元から侵食する。
「くるくる回ってきらきら光るの。ね、きれいでしょ?」
 己を光の粒子に変えて突撃し、極彩色の光の尾を引いて花を描くのは鏡花。
「ぶち抜いてやるぜ!」
 最後は、猛スピードで突撃した八尋が全力で貫手を繰り出し、鉄の棒で貫くが如き破壊力を見舞って、ビルシャナへトドメを刺したのだった。
「お疲れ様ー」
 鏡花が笑顔で仲間達を労い、余ったチョコケーキを配り始める。ミソラも持参した板チョコを皆へ振る舞った。
 さて。
「皆、水着コンテストは何を着るのかな……」
 無事にビルシャナを倒した安堵からか、自分がチョコ塗れなのも忘れて女性陣を見渡す非正規雇用。
「とりあえず佐藤さんは、セクハラの現行犯でお仕置き…お焚き上げしておきますね」
 焚き木をキャンプファイアーっぽく積み上げたミリアが、にっこりと笑った。
「結城ッ! 見てないで助けろ!!」
 焼きチョコにされそうな非正規雇用が絶叫するも。
「やれやれ……後始末はお前らちゃんとやんだぞ」
「火傷には注意しなさいよー」
 八尋とバジルは、鏡花のチョコケーキを食べつつ見守っている。
「佐藤さんは実に楽しそうだ」
「うめぇなコレ」
 柚月とミツキもチョコフォンデュをのんびり楽しんで傍観に徹していた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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