肉球パラダイス!

作者:ハル


 マニアの間で犬や猫が集まってくると噂のある、人気がなく、芝生のある公園にて、一目で異常であると認識できる一団がいた。彼らは老若男女問わない八人程の集団で、その周囲には野良犬、野良猫、はたまた誰かの飼い犬飼い猫が走り回っている。
 その集団の中心らしき鳥人ビルシャナが、芝生の上に横たわりながら言う。
「やっぱり肉球で足蹴にされるのって、最高だな!」
 横たわったビルシャナの身体の上には、犬や猫が乗っけられていて、思うがままに動き回っていた。
「ああ~」
 ぷにぷにの肉球で体中を蹂躙される感覚に、ビルシャナは恍惚に目を細める。
「それ! お前達もこの至福を味わうがいい!」
 ビルシャナの合図を元に、ビルシャナの様子を伺っていた信者達の顔が一斉に輝く。
 普通に寝転ぶ者、もっと直に肉球で足蹴にされようと服を脱ぎ捨てる者、足蹴にされるだけには飽き足らず、求められてもいないのに肉球を舐めようとする者まで、実に様々。
「ああ、いいわ! 猫ちゃん、もっと踏んでぇ!」
「くっ! 野良犬、野良猫の野生的な脚捌きっ、さすがだ!」
「お犬様、お猫様! 肉球ペロペロさせて頂きますぅー!」
 そんな信者の様子を満足げに横目で見ながら、ビルシャナは改めて言うのだ。
「肉球で足蹴にされるの最高ー!!」


「……犬や猫の肉球は、触ると確かに気持ちいいとは思いますが」
 困惑した様子で、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まったケルベロス達の前で言う。
「八千沢・こはる(ローリングわんこ・e01105) さんが調査された結果、とある公園にてビルシャナの出現が確認されました」
 今回も例の如く、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響によって、ビルシャナ化してしまった元人間が相手になる。
 ビルシャナは、肉球に足蹴にされるの最高! と強く主張しているらしい。
「皆さんには、ビルシャナ化した元人間とその配下と戦って、撃破してもらうことになります。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、配下を増やそうとしている所に乗り込む形となります」
 ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、ほうっておくと一般人は配下になってしまう。
 ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が配下になる事を防ぐことができるかもしれない。  
「また、ビルシャナの配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば元に戻るので、救出は可能ですが、配下が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 そこで、セリカは一息つき、先を続ける。
「ビルシャナは、破壊の光や経文、孔雀形の炎を放って攻撃してきます。信者の方々は八人で、戦闘力は高くありません。しかし、倒すと死んでしまうので、手加減してあげるといいでしょう」
 セリカは資料を捲りつつ、
「信者の皆さんはビルシャナの影響で肉球狂いになっているので、肉球を見れば途端に足蹴にしてもらおうと跪いたり、時には服従の証として舐めてきたりするようです。……もしかしたら、肉球グッズなんかにも反応するかもしれませんね」
 また、ビルシャナ達の相手をさせられている犬や猫も、きっと飽き飽きとしている事だろう。楽しいのはビルシャナ達だけで、犬や猫は楽しいなどとは欠片も思っていないに違いない。
 最後に、セリカは姿勢を正しつつ、言った。
「ビルシャナ化した当人は救えませんが、これ以上の被害拡大を防ぐため、どうかお力をお貸しください。そして、犬や猫に愛情を押しつけるのではなく、もっとちゃんとした信頼関係を築ければいいですね」


参加者
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・e03898)
相良・美月(オラトリオの巫術士・e05292)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
ノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)
空駕・カタナ(ブリーズ・e24081)
七生・柚季(金剛清玉・e24667)
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)

■リプレイ


 そこは、芝生のある綺麗な公園だった。だが、芝生の上で繰り広げられているのは、まさしく地獄絵図。
 野良犬、野良猫。そこに混じってポツポツと見かけるのは、誰かの飼い犬飼い猫なのだろう、首輪のついた動物達。
 そして、そんな動物たちを身体の上に乗せて肉球で足蹴にさせ、時折ペロペロと舐めたりする狂気の集団……ビルシャナとその信者だ。
「ん、肉球ぷにぷにもいいけど、もふもふも最高なの……」
 フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)が眉を顰める。
「わんこやにゃんこの嫌がることをするのは、ダ、ダメです!」
「彼らは何も分かっていません! 早くお説――説得しないと!」
 相良・美月(オラトリオの巫術士・e05292)とミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)も許せない気持ちは同じだ。
「あ、あんな素肌の上に動物を乗せたりしたら! つ、爪が!」
 ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)だけが、信者達を見てなにかよからぬ妄想を繰り広げていた。
 ……ともかく、ケルベロス全員が動物の気持ちを考えないビルシャナに強い怒りを向ける。
「許せねぇ! ……噛むぞ」
 中でも、ノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)の敵意と嫌悪感は一際強い。
 狼に変身し、公園の犬に紛れていた彼がゆっくりと信者たちに近づいていく。信者達もノーグに気付いたのか、普段は見かけない白狼のノーグに喜色を浮かべて跪いた。
 ノーグの口元がニヤッと歪む。同時にノーグは駆け出し、
「ぐへっ!」
 信者の一人に豪快に頭突きを喰らわす!
 そして、頭突きを喰らって気絶した信者の身体を肉球でドスドスと踏みならしつつ、
「グルルルルルッ!!(こっちは全ッ然楽しくねぇ!)」
 他の動物達の気持ちを代弁するように唸り咆えた。
「な、何事だ!?」
 ノーグに奇襲に異変を察知したのか、ビルシャナが声を上げる。だが、ノーグによって気絶させられた上に肉球で足蹴にされている仲間の姿を見たビルシャナは……何故か羨ましそうだった。
「こ、これが本物の野生!」
「誰が野生だ!」
 ノーグの突っ込みにも、ビルシャナ達に聞く耳を持つ様子はない。
 だが――。
「ぎ、ぎぎ! お、重いぃ!?」
 ビルシャナのすぐ背後で、また別の悲鳴が上がり、全員の視線がそちらを向く。
「肉球で足蹴にされるのを喜びながら、どうせぷにぷにした柔らかな肉球でなければダメだと言い出すのでしょう?」
 信者を踏みつけにしているのは、ホワイトライオンの姿に変身したロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・e03898)。
 本来、ホワイトライオンの肉球は硬く引き締まって柔らかさなど皆無なのだが、ロジオンのそれは靴を履くなどの毎日の手入れを怠らないおかげで、柔らかさを保っている。
「肉球を愛でるというなら、その肉球を労りケアすることを覚えなさいませ!」
 都合良く求めるばかりのビルシャナ達に、ロジオンは一喝する。
「それと、肉球を舐めるのはおやめなさい。純粋に気色悪うございます」
 もし自分がされたらと思うと、ロジオンは背筋が凍る思いだ。
「ええい、うるさい!」
 だが、まだまだビルシャナ率いる信者達も意気揚々。
「肉球を舐めるのは服従の証! 気持ち悪くなどない! ペロペロしてやるのだ!」
「ぐ、ぐぐっ!」
 ビルシャナの後押しを受け、ロジオンに踏まれた信者がゆっくりと舌を伸ばす。体格差のおかげで舌はロジオンの肉球に届くことはないが、彼らが本物の変態達であるという事に疑いの余地はなかった。
「……まったく、どうしてあなた達はそう極端なんだ」
 呆れたように首を振りつつ、前に出たのは七生・柚季(金剛清玉・e24667)。柚季は同じ旅団所属のロジオンを庇うように言う。
「ハッキリ言おう。今のままだと犬猫にとって、迷惑だしストレス溜まるだけだぞ」
 犬はともかく、猫に関しては構い過ぎは明かな毒となる。
「触れ合いたいなら、もっと他に方法があるだろう?」
 言いながら、柚季は猫じゃらしと片手サイズのボールを取り出す。
「本当に、可愛いな」
 柚季は片手で猫じゃらしを揺らして猫と戯れ、もう片方の手でボールを山なりに投げて犬とコミュニケーションをとる。猫は猫じゃらしを奪おうと肉球を拍手するようにパンパンと叩き、犬はボールを見事キャッチして戻ってくる。
「いいか、肉球に足蹴にされているだけでは、こんな姿、見られないんだぞ?」
 柚季と戯れる犬と猫は生命力に溢れ、本当に楽しそうだ。遊んでいる柚季の表情も、心なしか崩れていた。こうして両者が幸せになれてこそだど、柚季は語る。
「何よりも、遊んでいる最中にちらりと肉球が見える瞬間。これぞ『にっきゅーちら』だ!」
 新たなチラリズムの発見に、信者の男達が「おお!」と歓声を上げた。
「だ、騙されるな! それならば足蹴にされている最中にチラッと肉球が覗くのもまた、『にっきゅーちら』ではないか!」
「さ、さすがビルシャナ様!」
 だが、多少の迷いは見られるものの、ビルシャナ達は屈っさず、己の変態性を隠そうともしない。そして、未だロジオンの肉球は信者の舌に狙われたまま!
「やめろやめろ! 肉球は動物にとってとても大事な所なんだ! 走る時や高い所からのジャンプもこの肉球がクッションになるし、獲物を狙う時に足音を立てないよう忍び足をするにも使うぞ! だから舐めるとか恐ろしい事はしないで欲しい……っ! 頼む!」
 ロジオンをペロペロから守るため、空駕・カタナ(ブリーズ・e24081)が叫ぶ。舌が次第に肉球に近づいていくのさえ見ていられずに、顔を手で覆うくらいだ。
「この肉球グッズで我慢してくれぇえ!!! これならいくら舐めてもいいから!」
 カナタが頼みの綱である肉球グッズを取り出した。
「そ、そんなものが!」
「な、なんて精巧なんだ!」
 近代の技術の進歩により、肉球グッズもかなり精巧な出来である。形、手触りなど、本物にかなり近い。 
「本物と偽物……どっちか選ぶなら、本物を選ぶね!」
 だが、何人かの信者を引きつけることに成功したものの、肝心なロジオンの肉球を狙う信者が止まらない。
「ああ、もう面倒くさい!」
 辛抱溜まらず、カナタが猫に変身し、肉球グッズを口に咥えてべしべすとグッズアタックを繰り出す! べしべし! べしべし! ……と!
「こ、この感触は! 本物に近い!?」
 そんな言葉を残し、体中に肉球に跡を残しながらまた一人の信者が意識を失う。
「な、なんて奴らだ」
 ぜぇぜぇと息を荒げ、カナタは言う。ようやく解放されたロジオンも、救えないとばかりに首を振った。


 ケルベロス達は一旦距離をとって体勢を立て直す。相手は予想を遙かに超えた変態。常識は通用しない!
「ああもう! 我慢できません!」
「ん、肉球だけじゃないって教えてあげるの」
 状況を打破すべく動いたのは、ミリアとフォンだ。
「猫は肉球だけにあらず、この毛並みやじゃれつく姿も含めて愛おしいんです!」
 ミリアはチッチと口ずさみつつ、指先をちょこちょこと動かして猫を呼ぶ。
「ああっ! このもふもふした毛並み、ツンとした表情、じゃれつく愛くるしさ……。肉球なんて、ほんのおまけにすぎません!」 
 猫に毛並みに手櫛を通しながら、ミリアは恍惚の表情を浮かべた。
 対して、フェネックに変身したフォンは、素早い動きで信者に飛びかかる。
「ん、分かるの? 環境に適応するためにもふもふな毛で覆われてるけど、その奥にちゃんと肉球はあるの」
「な、なんですって!?」
 信者は最初こそ抵抗するが、肉球があると聞かされるとすぐに跪き、フォンに喜んで足蹴にされる。
 だが、フォンの目的はもちろんそれではない。目的は、信者に肉球だけではない事を教えることだ。そのために、フォンは信者の身体の上でゴロゴロと転がった。
「ん、ゴロゴロ~♪ なの。ぷにぷにもいいけど、もふもふも最高なの! もふもふ感を好きになってくれたら、自慢の尻尾で顔を叩いてあげてもいいの」
「……もふも……くっ、こんな世界があるなんて!」
 信者も、フォンに陥落寸前。
「う、羨ましいです! 私もフォンさんをもふもふしたいです!」
 だが、何故か信者よりも先にミリアが陥落していた事は内緒だ。
「に、肉球も可愛いですが、お尻も可愛いですよっ! 見て下さい、柴犬の素敵なプリケツやコーギーのむっちり可愛いお尻と尻尾、プードルのスラっと長い脚とキュッと引き締まったお尻!!」
 もふもふ攻撃が終わると、次は美月によるお尻信仰が語られる。あまりの熱に入りように、犬達のお尻を注目して見てみると、
「そのモデル歩きを見て下さい! 仲良く一緒にお散歩して、可愛いお尻を愛でるべきだと思うのです」
 確かに引き締まったお尻をフリフリとしながら可愛らしく歩いているのがよく分かる。
 さらに美月はとんでもない言葉を続けた。
「ちなみに私は人類のお尻には一切興味ありません!」
 キリッとでも言いたげに、美月は決め顔でそう言った。さらに狩人の目で美月が注目しているのは、ビルシャナのお尻だ。
「ところでビルシャナ様のお尻って、もふもふでしょうか?」
「ひっ!?」
 まさか自分が狙われるとは思わずに、ビルシャナが飛び上がる。
「そ、そんな所にももふもふが!」
「ん、負けていられないの」
 もふもふと聞き目を輝かせるミリアに、無駄に対抗意識を燃やすフォン。ビルシャナが後ずさりすると、
「もふもふなのか?」
「……触ってみたいよな」
 いつの間にか信者までもが感化されている。 
 そして、そんなカオスなやり取りを尻目に――。
「……なんて、鋭くて素敵な爪……」
「……な、なんだって?」
 さらなるカオスこと、ロフィが鎌首をもたげる。
「あら?」
 注目を浴びている事に気付いたロフィは、妖艶な笑顔を浮かべ言う。
「子猫の小さな手……いいですね。肉球で踏まれるのも屈辱的で素敵です。でも、私には肉球よりも押す所がありまして……」
 ロフィは手元であやしている猫を優しく抱き上げ、前足をくいっと押す。
「それは……爪、です♪」
 言葉通り、露出するのは鋭い爪だ。飼い猫ではなく野良猫なのか、非常に研ぎ澄まされていた。
「どうですか? 小さな爪がにゅっと出てくる様……可愛らしいと思いませんか?」
「「「いやいやいや……!」」」
 ビルシャナ、信者、ケルベロス……この時ばかりは全員揃って首を横に振る。
「あら、もしかして怖いですか? そんな事はありませんよ。そう思われる方は、猫との触れ合い方が間違っているだけ」
 ロフィはさらに爪研ぎ用のボールを取り出し、遠目に置いてやる。すると、猫はそれに飛びついて遊びだした。……瞬く間に爪研ぎ用のボールに傷が刻まれていく。
「……猫とは気分屋な動物です。無理に近づきすぎる事のないように。こうして見ているだけで素敵な触れ合いに。だってそうでしょう? 夢中で引っ掻く様可愛らしいでしょう? ……もしあのボールが私の身体だったなら……ああっ!」
 蕩けた表情でロフィが己が身を掻き抱いた。
 ……気付けばビルシャナの周囲に信者は誰一人としていない。ケルベロス達の説得、特に極めつけのロフィの言により、己が矮小さを思い知ったのかもしれない。 
 また、公園の動物達に関しては、変身を解いたノーグが保護をしていた。ノーグは一人残されたビルシャナに対して、今度は言葉ではっきりと動物達の気持ちを代弁する。
「手足を無理やり掴まれて、その上べったべた弄られて面白いわけがねぇし。というか、気持ち悪いからそれ以上寄るな変態!」


「ん、びりびりにしてあげるの」
 戦闘開始の合図はなかった。ケルベロス達は、とにかく一刻も早く動物達の心を傷つけたビルシャナを倒したい。
 フォンが自慢の尻尾の毛を逆立たせて、大量の静電気を利用して攻撃する。次いで、ボクスドラゴンの『クルル』もブレスを放射した。
「面倒な奴を相手して腹減ってきたぞ、たくっ!」
 ビルシャナに食欲を向けながら、フシャーっとカナタが咆哮する。
「く!?」
 空気を震わすビリビリとした気迫に、ビルシャナの足下の動きが鈍る。
「いいな。焼き鳥にしちまおう!」
 その時、ノーグが初めて孤狼丸を抜く。霊体のみを汚染破壊する斬撃が、ビルシャナの肉体を切り刻んだ。
「い゛あっ! このっ、肉球に足蹴にされる悦びを理解できない落ちこぼれ共め!」
 何の落ちこぼれなのかは皆目見当もつかないが、ビルシャナはロフィに向けて孔雀形の炎を放つ。
「このくらいっ、私には傷の内にも入りません!」
 ロフィはオウガメタルを纏い「鋼の鬼」として炎の中へと突っ込み、逆にビルシャナに拳を叩き込む。
「大丈夫ですか? 今回復しますねっ」
 炎に突っこんだのだから、当然ロフィは至る所に火傷を負っている。そこで、すかさず美月がロフィの状態異常を消し去り、テレビウムの『クー』が応援動画を流す。
 ……傷の癒えたロフィが、少しだけ物足りなさそうな表情を浮かべたのもご愛嬌。
「患者さんの苦しみを、貴方も味わいなさい……」
 ビルシャナの攻撃後にできた隙に、ミリアが『デウスエクスの力』を病魔の弾丸として射出する。
「破るは竜の声、塞げや塞げ!」
 魔導書を開いたロジオンは、刻みれた詠唱をしっかりと唱える。掌から現れたのは、「ドラゴンの幻影」。そこから放たれる炎を浴びたビルシャナは、焼き鳥どころか消し炭一歩手前だ。
「……肉球、肉球で、足蹴に……」
 呟くビルシャナの声に、もう力はない。
「もう少し、貴方と早く出会えれば……よかったのかな」
 柚季が言った。だが、すべてはもう遅い。残るのは、互いのために誇り高く戦い抜くという覚悟のみ!
 柚季は、リボルバー銃を抜く。拾った代用品のため、まだ手に馴染みのないそれ。だが、銃の扱い自体に不足はない。
 目にもとまらない弾丸の礫がビルシャナを穿ち、灰へと帰すのだった。


「まったく、可哀想にな」
「ああ」
 動物達の居心地の良い空間を守るため、公園へのヒールを終えた後、カナタとノーグは肉球を舐められた動物達のケアに勤しんでいた。
「この犬や猫たち……どうしましょうね?」
 ロジオンが呟く。里親の事も考えないといけないかもしれない。
「野良だったら飼いたいのですが……」
「ん、気持ち、いいのっ……」
 ミリアは集まってくれた猫を観察しつつ、逆立ったフォンの毛並みのお手入れしていた。まさか皆を持ち帰る訳にもいかない。
「お、お疲れ様でした。お怪我の具合は如何でしょうか?」
 美月は仲間の状態に気を配りつつ、犬や猫と戯れている。
 ロフィはロフィで、猫の爪や犬の牙に妄想を馳せてはぁはぁしていた。
 同じく動物たちと触れ合いつつ、柚季がパシャリと皆の写真をとる。
「(里親って、俺もなれるのかな)」
 そんな事を考えながら……。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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