女戦士は全身鎧!

作者:ゆうきつかさ

●某教会
「いいか、お前ら! 女戦士は全身鎧! ビキニアーマーなど、ご法度だ! あんなもので何が守れる? 守れるわけがないだろ! 挙句の果てに『クッ……、殺せ!』だと!? そんな恰好をしている、お前が悪いんだろうが、と俺は言いたい、言ってやりたい! だからこそ、俺は全身鎧を勧める! それしかねぇ!」
 羽毛の生えた異形の姿のビルシャナが、10名程度の信者を前に、自分の教義を力説した。
 ビルシャナ大菩薩の影響なのか、まわりにいた女性信者達は、ビルシャナの異形をまったく気にしていない。
 それどころか、女性信者達は全身鎧に身を包み、『これでオークが着ても安心だわ』とご機嫌だった。

●都内某所
「エニーケ・スコルーク(黒麗女騎・e00486)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです。悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が今回の目的です。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やそうとしている所に乗り込む事になります。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「ビルシャナは破壊の光を放ったり、孔雀の形の炎を放ったりして攻撃してくる以外にも、鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させたりするようです。信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。また信者達はオーク的なモノに対して、異常なほどの恐怖を感じているようです。彼女達の過去に何があったのか分かりませんが、そういった事も利用すれば、説得が容易になるかもしれません。なお、信者達の生死は成否判定には影響しません」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「また、信者達はビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのは、インパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれない。また、ビルシャナとなってしまった人間は救うことは出来ませんが、これ以上被害が大きくならないように、撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
 そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
クロノ・アルザスター(彩雲に煌く霧の剣閃・e00110)
ジャック・シュヴァルツ(リボルバードラゴン・e02551)
河内原・実里(誰かの為のサムズアップ・e06685)
弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
リフィルディード・ラクシュエル(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e25284)
本多・風露(真紅槍姫・e26033)

■リプレイ

●教会前
「ビルシャナって本当に何でもありだね……」
 エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)が苦笑いを浮かべながら、仲間達と共にビルシャナが拠点にしている教会の前にやってきた。
 ビルシャナは全身鎧を着るべきだと訴えており、信者達にも全身鎧の着用を義務付けているようだ。
 どうやら、ビルシャナの信者になっているのは、オークに襲われた女性達ばかりで、全身鎧を着るまで安心して眠る事が出来なかったらしい。
 そう言った意味で、女性信者達はビルシャナに感謝しており、神にも等しい扱いのようである。
「相変わらずビルシャナってよくわからない種族ね。……って言うか、ただの変質者じゃない! ……まったく、自分以外認めないヤツが多すぎるのよ」
 ローゼンシア・エストファーネ(吸血姫・e03662)が、呆れた様子で頭を抱えた。
 実際にビルシャナは『全身鎧さえ着ていれば、絶対にオークが襲ってくる事はない!』と断言しており、反論は認めていないようである。
 いまのところ、女性信者達がオークに襲われたという報告がないため、ビルシャナの言葉に嘘はないのだが、絶対に襲われる事がないとも言い切れないだろう。
「……この時代で全身鎧とか正気かよ」
 ジャック・シュヴァルツ(リボルバードラゴン・e02551)も、あからさまにげんなりとした。
 しかも、女性信者達が身に着けている全身鎧は、すべてオーダーメイド。
 女性信者の体型に合わせて、ぴったりフィットしているため、身体の一部のような感覚のようである。
「いやー、流石に私もビキニアーマーとか無しって言いたいわねー。あんなもん男の欲から生まれたユニークアイテムでしょ? 実用的だって思って着てる人とか居るわけないじゃん。だからって言って全身甲冑もあれだけど……」
 クロノ・アルザスター(彩雲に煌く霧の剣閃・e00110)が、気まずい様子で汗を流す。
 オークを怖がる一般人が全身甲冑を着て日常生活を送っている姿を想像すると、なかなか面白い気もするのだが、これからの時期に全身鎧は自殺行為である。
「このクソ暑い時期に全身鎧とはアホじゃろう」
 本多・風露(真紅槍姫・e26033)が、不機嫌な様子で毒づいた。
 このクソ暑い時期に、クソ暑苦しい防具が至高だと思っていることに面倒臭さを感じているため、ビルシャナ達の教義を理解する気もないようだ。
「まあ、鎧着るも着ないも個人の自由よねー。私はそこまでガチガチに着込む気はしないけど……。動きやすさというか身軽さだしね~」
 リフィルディード・ラクシュエル(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e25284)が、自らの考えを述べた。
 しかし、ビルシャナは『そんな装備でだいぶな訳がないだろ! 絶対にヤられる! 死にたいのか!』と不安を煽り、女性信者達に全身鎧を着せたようである。
「……と言うか、拘り捨てて、無心という境地にならないとビルシャナはなくならないんじゃない? ……なんて馬鹿なこと言っている暇はないか」
 河内原・実里(誰かの為のサムズアップ・e06685)が、ションボリと肩を落とす。
 それだけ、執着心が強く、偏った考えを持った人間がビルシャナと化すのかも知れない。
「さあ、行くでございます」
 そんな中、弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370)が某暗黒卿のコスプレで、コーホーと言いながら教会の中に入っていく。
 教会の中にはビルシャナ達がおり、全身鎧に身を包んで、ガチャガチャと音を立てていた。

●教会内
「お姉さん達、そのカッコでホントにいいの? まず第一に可愛くない! 第二に隠してる部分って、ケアが疎かになってキレイじゃなくっていくんだよ。腕とか足とか人に見せないでいると、どんどん太くなっちゃうし、これから暑くなる季節に汗疹とか出来ちゃったら、余計に汚くなっちゃう。女の子の戦闘服はね、そんな全身鎧じゃないでしょ」
 エヴァリーナが真剣な表情を浮かべ、女性信者達に語り掛けていく。
「いえ、これよ、これ。この全身鎧しかないの、私達には……」
 眼鏡を掛けた全身鎧の女性信者が、気まずい様子で視線を逸らす。
 オークに襲われた時の事を思い出してしまったのか、その表情はどんよりである。
「でも、鎧を着込んでて重くないのですか? なにかあった時になんだか逃げづらそうだけど……」
 リフィルディードが女性信者達を見つめて、不思議そうに首を傾げた。
「……逃げる? そんな事をする必要なんてないわ。だって、私達は……強いもの!」
 トゲだらけの全身鎧を纏った女性信者が、えっへんと言わんばかりに胸を張る。
「でも、そんな物、今の時期に着込んでいたら、汗臭いうえに全身汗疹状態で、エライ事になるのじゃ……。汗臭くて全身汗疹のバッチイ女など当然イケメンに敬遠されて、それこそ汗臭好きの変態か、オークしか近づかんわ。勿論、ビキニアーマーなどという痴女しか着ない防御力も無い防具などアホの極みであるがのう。やはり高温多湿である現在の時期の日本で着る防具は武者鎧に決まっておるじゃろう。風通しも良く、防御力もバッチリじゃ」
 そんな中、風露が武者鎧の良さについて語り出す。
「まあ、武者鎧もアリだが……。ア、アタシは断然、全身鎧ね!」
 無駄にゴツイ鎧を纏った女性信者が、思わせぶりにポーズを決めた。
 武者鎧にも興味はあるようだが、背後でビルシャナが咳払いをしたため、慌てて言葉を訂正したようである。
「なまじ僕も全身鎧に身を包んでいるから、彼女達の気持ちは(一部を除いて)わかるけど……。戦いというのは武具足一つじゃ決まらないんだよねぇ。鎧だけじゃない本人にあった武器、戦術、仲間……それらが合わさって力になり、守りの要になる。ただ鎧を身にまとったソレは、引きこもりが部屋に閉じこもるのと、なんら変わらない! 確かに、考え方は全身鎧としては間違ってないけど、それに偏ると足元すくわれるよ?」
 実里が心配した様子で、女性信者達に語り掛けていく。
「足元がすくわれる……? それこそ、誤解よ! だって、私はこの全身鎧のおかげで救われたもの……。んっ? ひょっとして、そう言う意味? だったら、そうね。救われたわ!」
 やけにピンク色をした全身鎧の女性信者が、力強くコクンと頷いた。
「それに全身鎧といえども、流体や軟体――そういった敵には無力なのでございます」
 天鵞絨が鎧の隙間からブラックスライムを溢れ出させながら、キャストオフし無意味な事をアピールする。
「まあ、確かに流体や軟体系の敵には効果がないかも知れませんが……。わたくし達が恐れているのはオークだけですもの」
 純白の全身鎧を纏った女性信者が、まったく躊躇う事なく答えを返す。
「オークが来ても安心なんて思ってるけど、本当にオークと戦って勝つ事が出来るのかしら? オークは強いわよ。その事については、あなた達が良く知っていると思うけど……」
 ローゼンシアがラブフェロモンを使い、女性信者達に語り掛けながら、含みのある笑みを浮かべる。
「そ、それは……」
 途端に、女性信者達が弱気になり、ダラダラと汗を流す。
「そもそもさー、全身甲冑着た程度でオークから身を守れるわけ無いじゃない。むしろ剥ぎ甲斐あるから興奮するわよ、あいつら変態だし。それだったらまだ逃げ易い、動き易い格好してる方が絶対にいいって。つか、あんた達、その状態でまともに動けるの? 30kgあるんでしょ?」
 クロノが女性信者達に視線を送り、何気ない疑問を口にした。
「え、ええ、もちろん。だって、鍛えていますもの。だから、大丈夫な……はずよ」
 純白の全身鎧を纏った女性信者が、拳を小刻みに震わせながら、自分の胸をポンと叩く。
「……でも、万が一……捕まったら、一つ一つ外されて、恐怖心を煽られそうですね」
 リフィルディードが言葉に含みを持たせながら、女性信者達の全身鎧を優しく撫でる。
「そ、それは……その……」
 眼鏡を掛けた全身鎧の女性信者が、ソワソワした様子で視線を逸らす。
 本当は怖くて、怖くて、仕方がないのだろう。
「どう考えたって露出の多いビキニアーマーの方が良いに決まってるだルォ!? 多くの男性諸君、ひいては一部の女性がおおいに喜ぶ! なんせカッコイイし、カワイイ! これはアメコミでも実証されているから間違いない! ぶっちゃけ、機動性、命だろ!? 日本のサムラーイだって避ければ問題ないを実践してたじゃん? つまりビキニアーマーはサムライ魂、武士道に通ずるものがあるのさ!」
 そんな女性信者達の心を揺さぶる勢いで、ジャックがビキニアーマーの良さを語っていく。
「わ、私達はどうすれば……」
 その影響で女性信者達がパニックに陥り、ブツブツと何やら呟きながら、ガックリと膝をつくのであった。

●ビルシャナ
「うぐっ……、女性信者達の不安を煽り、思考停止状態にさせるとは……恐ろしい奴らめ」
 ビルシャナが悔しそうな表情を浮かべ、拳をぶるりと震わせる。
 その間も女性信者達はオークに襲われた時の事を思い出し、ガタガタと身体を震わせていた。
「まあ、とりあえず、ビルシャナは撃って斬って、串刺しにして焼き鳥にすればいいんじゃないの~?」
 リフィルディードが攻撃を仕掛けるタイミングを窺いながら、ビルシャナにサッと視線を送る。
「まあ、援護は任せておけ」
 すぐさま、風露が仲間達に声を掛け、ヒールドローンを展開した。
「俺を撃って……斬って……串刺しにする……だとぉ!? 俺の全身鎧は、絶対無敵! それを今……証明してやろう!」
 そう言ってビルシャナが、全身鎧を身に纏う。
 それはビルシャナ専用の特別製!
 ガッチリ、ムッチリ、ムッキムキである。
 おそらく、アメコミのヒーローをモチーフにしたのだろう。
 無駄に格好良く、ピカピカだった。
「全身鎧は確かにカッコイイけど、動きが鈍いのが欠点よね」
 ローゼンシアが含みのある笑みを浮かべ、ビルシャナの死角に回り込む。
「うぐっ……! す、素早い! なんて速さだ!」
 ビルシャナがオロオロした様子で、ローゼンシアの姿を捜す。
 だが、ローゼンシアが速過ぎて、目が追い付いていなかった。
「鎧が重いかい? それは君の迷いだよ!」
 実里もビルシャナの死角にまわり、ビルシャナに攻撃を仕掛けていく。
「……うおっ! こんなはずでは……! だが、お前達なんかに負けたりしないッ!」
 ビルシャナが自らの怒りを爆発させ、孔雀の形をした炎を飛ばす。
「……遅い……遅すぎるでございます」
 天鵞絨が一気に間合いを詰め、破鎧衝で全身鎧を破壊する。
「ぐおっ! ば、馬鹿なっ! 俺の鎧が……最強を誇る俺の鎧がッ!」
 ビルシャナが信じられない様子で、全身鎧の破片を掴む。
「なぁ、ギャラリーもいる事だし、ビルシャナ君にスライムであんな事やこんな事をして実験台にしてやろうぜ!」
 ジャックがビルシャナに視線を送り、ブラックスライムをオークの触手に見立て、かろうじて残っていた鎧を引っぺがしていく。
「うわっ、やめっ! やめてくれええええええええええ!」
 ビルシャナが涙を浮かべ、オークの触手状に変化したブラックスライムを掴もうとした。
 だが、恐怖で両手が震えているせいで、その手は虚しく空を掴むだけ。
「全身鎧着てたのに、何もする事が出来ず、ボコボコにやられちゃうのって、どんな気持ち? くっころとか言ってみても、いーんだよ?」
 エヴァリーナがビルシャナを見下し、口汚く罵っていく。
「そんな事、口が裂けても言う訳が……言える訳がないだろうがああああああああああああああ!」
 ビルシャナが叫び声を響かせ、再び孔雀の形をした炎を飛ばす。
「あなたには私が何人に見える? 霧の幻に惑わされるといいわ」
 次の瞬間、クロノが服の裾を持ち上げカーテシーを行ってから体内のグラビティ・チェインを霧として発生させ、自身の型に似た幻影兵の分身を生み出すと、踊るように連携攻撃を重ねてビルシャナを斬り刻む。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお、馬鹿なっ! こんな事が……こんな事が許されて……たま……る……がァ!」
 その一撃を食らったビルシャナが断末魔を響かせ、肉塊と化して崩れ落ちた。
「全身鎧は可愛くないって言ったけど……。戦う女の子が増えたら、専用ブランドとか出来て、ファッショナブルな可愛い鎧とか出てくるかなぁ……」
 そんな中、エヴァリーナが全身鎧に新たな可能性を見出しつつ、何処か遠くを見つめるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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