チョコレート×ぶっかけ=しあわせ

作者:市川あこ


「チョコレートは食べ物に非ず! チョコレートは頭からぶっかけ、身体中に塗りたくるものである!」
 とある商店街の空き店舗の中で、ビルシャナが10名ほどの信者を前に喋っている。
「そもそもチョコレートは体温で溶けるものである。これがどういうことかわかるか?」
「わかりません!」
 最前列でひざまずいている青年が叫ぶ。
「阿呆め! だが素直なのは良いことだ。朕が教えてやろう」
 ビルシャナは唾を飛ばして言う。だけど気にしている信者は誰もいない。
「固形化されたチョコレートはそもそも不自然な状態なのだ。溶けたチョコレートこそが自然な状態。体温でチョコレートが溶けるということは、宇宙意思であり真理なのだ。即ち、チョコレートは体温で溶かすべし! 体に塗りたくり頭からかぶることにより、チョコレートは恒常的に溶け続けていられる。これが宇宙の真理でなく、何であろうか!?」
 ビルシャナはそう言うと、バケツいっぱいのチョコレートシロップを信者たちの頭からぶっかけた。
「あっ、あぁっ」
 信者たちはみな、恍惚とした表情でチョコレートまみれになっていく。


「お集まり頂きありがとうございます」
 セリカ・リュミエール(en0002)はそう言って一礼すると、神妙な面持ちで事件のあらましを話し始めた。
「鎌倉奪還戦の際にビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開いてビルシャナになってしまう人間が出ていますよね。今回の事件も同じ部類の事件です」
 ーーなるほどね……と、集まったケルベロスたちは、溜息を吐く。
「今回のビルシャナは、『チョコレートは食べ物に非ず、体にぶっかけるものだ』という主張を持っており、配下を増やすべく説法を行っているところへ、乗り込んで頂くことになります。ビルシャナ化している人間の言葉には、強い説得力があるので放っておけば、一般の方は信者となり配下として動くようになってしまいます」
「こんなめちゃくちゃな論法でもか?」
「はい、残念ながら……」
 セリカは沈痛な面持ちで、ケルベロスの一人にそう答えた。
「ですが、このビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が配下になることを防げる可能性があります。ビルシャナの配下になった方々は、ビルシャナが倒れるまでの間はサーヴァントのような扱いとなり、戦いに参加します。けれど、ビルシャナを倒せば元に戻るので、救出は可能です」
「でも、配下が多いと戦闘がめんどくさいし、少ないに越したことはないよなあ……」
「はい、私もそう思います」
 セリカはケルベロスの一人の問いに頷いた。
「まず戦場ですが、岐阜にある柳ヶ瀬商店街の空き店舗の二階になります。この商店街はほとんどシャッター街なので、人目につく心配が少ないです。そしてビルシャナの戦闘方法ですが、魔法とプレッシャーの効果のある『チョコレートぶっかけ』、魔法と催眠の効果のある『ビルシャナ経文』、回復とキュア効果のある『清めのチョコレート』の三つになります。配下の数は10名で、攻撃力はあまりありませんが、チョコレートシロップを掛けて足止め効果を狙うこともあります。彼らは実際にチョコレートを体に掛けてみた上で、このビルシャナに心酔しているので、もうしばらくチョコレートは食べていないようですね。チョコレートの美味しさを教えることが出来れば、説得出来るかもしれません。」
「チョコレートか……」
 ごくりと誰かが唾を飲む音が響いた。
「ビルシャナになってしまった方は、残念ながら救うことが出来ませんが、これ以上被害が拡大しないためにも、今ここで撃破して欲しいのです」
 セリカは真剣な表情でケルベロスたちに言う。
「みなさんのお力を貸して下さい。お願いします」
 そう言うと、セリカは頭を下げた。


参加者
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
桜乃宮・萌愛(オラトリオの鹵獲術士・e01359)
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
夏音・陽(駄猫・e02882)
切恵・覇緒(地球人の自宅警備員・e18233)
エルフリーデ・バルテレモン(鉾槍のギャルソンヌ・e24296)
イマニュエル・ハムネット(灰の氷空の闇木菟・e24357)
ロージー・フラッグ(ブリリアントミラージュ・e25051)

■リプレイ


「ひぃ〜ひっ、ひぃ〜っ」
「もっと、もっとぉぉ……っ!」
『貸店舗』の扉を開いて現れたのは、カカオ特有の濃厚な甘い匂いとチョコレートにまみれる床と壁、それから10名ほどの男女。
 そして彼らを満足げに眺めるビルシャナだった。
「ぱ〜らだいす!」
「ぱ〜らだいす!」
 ビルシャナの叫びに、人々がチョコレートまみれの拳を振り上げた。
 ーーどんなこと言われたらそんな教義信じるんだよ。まったく、呆れるわ。
 切恵・覇緒(地球人の自宅警備員・e18233)は重い溜息を吐く。
 (「チョコレートを体にかけるなんて、食べ物を食べ物として扱わないなんて、許しがたいビルシャナも居たもんです」)
 ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)は、ぷんすこ腹を立てながら、信者たちにツッコミ……もとい問いかける。
「チョコを体温で溶かすのが真理、との事ですが。床まで垂れ落ちたチョコは体温で溶けずに室温で固まりますよ? 床に体を埋め込んで維持するんですか?」
「それはこれからの課題じゃ〜! 地球を温暖化させてチョコレートをとろとろにさせるんじゃ〜!」
「地球の体温を上げるんだいっ!」
 信者たちが、ひゅ〜と歓声を上げる。が、ミリアは説得のための対話を続けようとする。
「そもそもシロップ、体温で溶かす前に柔らかいですよね?」
「シロップは……初心者用じゃ〜! 入門編じゃ〜!」
 ビルシャナが腕をばたばたさせて喚くと、信者たちも「うお〜!」と歓声を上げた。
「みなさん、目を覚まして下さい! こんな美味しいチョコレートを食べないなんて勿体無いですよ!」
 今度はロージー・フラッグ(ブリリアントミラージュ・e25051)が声を上げる。上着の下に押し込めた豊満な胸は、どうしても隠せるものではなく男性信者6名中5名の視線がその胸元へ注がれた。
 その視線の意味を知ってか知らずか、ロージーは彼らにニコッと天真爛漫そうな笑顔を見せると、持参した魔法瓶の蓋を開け「美味しいだけじゃなくて身体も温まる、直接飲んでこその味わい方です!」と言って、若い男性にホットチョコドリンクを差し出す。
「や、やめろぉっ! こんなの反則だ! 人工的に起こした熱で溶かしたチョコレートなんて!!」
「そ、そうだ! チ、チョコレートは、きみの、ぱいおっちゃんで溶かして然るべきなんだっ!」
 男たちが板チョコを手にロージーににじり寄る。
 ーーちょーこぱいっ、ちょーこぱいっ!
 手拍子とともに歓声が上がる。
「どうせなら、食材にかけろ!」
 と、そこへ颯爽と現れるはエルフリーデ・バルテレモン(鉾槍のギャルソンヌ・e24296)とイマニュエル・ハムネット(灰の氷空の闇木菟・e24357)だった。
 二人は両手に食材をたっぷり刺した串を握って、チョコフォンデュ二刀流の構えで男らに立ち向かう。
「チョコは身体に掛けて楽しむのもいいですが……果物を浸すことで新たな出会いが生まれるのでございますよ」
 長身にドレスのようなものをまとったイマニュエルは、ぱっと見女性にしか見えない。
「自分や人に掛けたって、床に垂れたりしたらもったいねぇだろ?」
 一方エルフリーデは、マシュマロと肉団子の串を手に男たちに言う
 美味しそうな食材を前に、男たちは一瞬「うっ」と怯んだ。
 しかしその二刀流の後ろ姿を狙う者もいる。
「邪道……」
 妙齢の女はそう呟くと溶けたチョコレートがたっぷり入ったバケツを持って駆けだした。
 女は二人並んだ背を射程圏内に収めるとバケツを振り上げる。
「危ないです!」
 桜乃宮・萌愛(オラトリオの鹵獲術士・e01359)が声を上げた。と、ほとんど同時に、エルフリーデとエマニュエルは振り返ると、バケツの中に串を突っ込んで女のぶっかけようとする動きをを抑えてしまう。
「……!!」
「このマシュマロにチョコ塗って食ってみな」
 エルフリーデは肉団子の方の串で、女の動きを抑えたままチョコマシュマロの串を刺しだした。
「こ、こんなものっ……」
 上の口ではそう言うものの、女の目は貪欲そうに潤んでいる。
「さあ、一口いかがですか?」
 イマニュエルはイチゴとバナナの串を手に、淑やかな笑みで女の口にチョコまみれのバナナを半ば強引に突っ込んだ。
「んっ、んん〜っ」
 女はうめき声を上げながら、でも確実にその野太いモノを口の中に収めていく。
 ごくり。フロアに生唾を飲む音が響くようだった。
 仲間が嬉しそうにチョコレートまみれのバナナを食べる様を、他の信者たちは見守っている。
 女は戦意を喪失したようで、バケツを持っていた手がゆるゆる下がっていく。
 もう大丈夫だろう。
 そう直感したエルフリーデとイマニュエルは、バケツから串を出すと周りにいる人々にそれを差し出した。
「肉料理にチョコソースかけたりするだろ、それの亜種だよ。肉の臭みが消えて美味いと思うぜ」
 エルフリーデは肉団子串に見入っている少女に、そう説明すると彼女に串を握らせた。
 少女は少し躊躇っていたが、エルフリーデに促されると「ん」と言って、肉の団子を口にした。
「おいひい……」
 少女の声をきっかけに、空気が緩んでいく。一人、二人、三人と、信者が物欲しそうにこちらへ近付いてくる。
「チョコレートって美味しいだけじゃなく健康にいいんですよ」
 そう切り出したのは萌愛だった。
 萌愛は、様子を伺っている信者たちに、にこやかな笑みを見せると、カカオポリフェノールについて語り始める。
 コレステロール値の改善、血圧低下、血管内皮機能の改善……等など、ほんわかした口調の熱い内容に、信者たちは次第に耳を傾けていく。
「それに甘いものを食べると、セロトニンの効果でストレスが減少しますしね」
 ふわっとした笑顔を見せると、萌愛はバケツの中にゼラチンを入れて、手早く混ぜるとそれをチョコレートムースにしてしまう。
「美味しいですよ?」
 差し出された一匙に、二人の女性信者が吸い寄せられていく。
「実はチョコレートって食べると肌にいいって知ってた? 意外だよねー」
 そこへだめ押しするように、覇緒がTVで得たばかりの情報を話す。ニキビを気にしたことのある女子には、きっと衝撃的な情報だと考えて。
「それは食べるしかないね……」
 へへ、と女は諦めたように笑うと、萌愛からスプーンを受け取ってムースを食べ始めた。
「体の表面程度では、熱い冷たい・固い柔らかいしか感じ取れません。対して口の中では、匂いや味もあります。固いチョコが体温で溶け、甘さと苦さ、風味が広がる……。即ち、口こそチョコのためにあるのです!」
 チョコ菓子を食べ始めた彼女らを前に、ミリアは熱弁をふるう。
 と、そこへポッキー的な棒状のチョコ菓子を咥えたロージーが、男性信者の前にぴょんっと現れる。
「こういうことすると喜ぶって教えられました! 特に男の人は!」
 そう言って笑う彼女を前に、男は少し躊躇いを見せたけれど、
「我慢出来るか〜!」
 と言って、チョコ菓子の端へかぶりついた。
(「なんだか……ドキドキしちゃいます……♪」)
 眼前に迫る男を前に、ロージーは思わず頬を赤らめる。
「低脳!」
「裏切り者!」
「ゲス野郎!」
 ビルシャナと残りの信者たちが、悔しそうに罵倒する。 
 この時点で説得出来た人間は、男性2名、女性3名だった。


「チョコを掛けるだけで満足? 貴方達、チョコの本当の使い方、解ってないわね?」
 露出多めの大胆な水着姿で、琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)は大きな胸を揺らしながら信者たちの方へ近付いていく。
 匂い立つラブフェロモンのお陰もあって、男たちは淡雪から視線がそらせない。
 そんな彼女の傍らにいるのは、はぁはぁと息の荒い夏音・陽(駄猫・e02882)で、スクール水着姿の彼女もまた、淡雪の姿と存在に魅了され続けていた。彼女の場合はいつものことだけど。
「いかがですか?」
 淡雪は自らの肢体にチョコレートを塗ると、蠱惑的な脚を彼らの前に投げ出す。
 その姿を見るが否や真っ先に飛びついたのは、信者ではなく夏音だった。
 夏音は淡雪の右脚に抱きつくと、頬ずりをした後に、爪先から太股まで舌でなぞるように舐める。
「ホラ、チョコはこんなにも美味しいよぉ」
 夏音の恍惚とした表情に、信者たちはふらふらと淡雪の身体へ吸い寄せられていく。
「お前ら、正気か! チョコを舐めるのがどういうことか、わかってるのか!」
 ビルシャナが甲高い声で叫ぶけど、彼らの耳にその声は届かない。
 信者の男が2名、一斉に淡雪の脚に群がった。
 太股、膝頭、ふくらはぎ、そして脚の指と、チョコレートを求めて男たちの舌が泡雪の脚を這いずり回る。
 淡雪のチョコレートを舐めてしまうと、夏音はそこらのチョコレートをまた淡雪の脚にかけ、また自分の脚にもチョコレートを掛ける。
「食べなよぉ、美味しいよぉ?」
 夏音がそう誘うと、男たちはチョコレートまみれになりながら、夏音の脚もれろれろと舐め始めた。彼らはみな、恍惚とした表情をしていたが、その中でも一番幸せそうなのは、夏音だった。
「本当の美味しさ解って下さった? 今ビルシャナ教から抜けるなら……そうね。後でもっと良いこと教えてあげるわ?」
 淡雪の艶っぽい微笑みに、男たちはこくこくと頷く。
 ーーあちらで待っていて下さらない?
 そう言って淡雪が部屋の片隅を指すと、男たちは「わかりましたぁ」ととろけきった笑顔を見せて、一斉に移動する。
「お前らもお前らも! 一体何なんだヨ! チョコレートは食いモンじゃねぇんだよ!」
 ビルシャナは声を荒げると、翼を振りかざした。
 すると液状のチョコレートが噴出して、前衛の者たちを茶褐色に染め上げる。
「……へぇ、やってくれるじゃん」
 顔面にぶっかけられたチョコレートを拭いながら、覇緒が言う。
「さぁ、ビルシャナ様、そこまででございます。食べ物を弄んだ罪を償っていただきますよ」
 イマニュエルの目はビルシャナをまっすぐに見据えていた。
 戦いが始まった。
 萌愛は静かに、背中の翼を大きく開く。


 先制こそビルシャナに取られたものの、配下がすべて寝返った今、数の上で有利なのはケルベロスの方だった。
「私の動きを止めたきゃ、セメントでもぶっかけるんだな!」
 稲妻を帯びた穂先が、超高速でビルシャナを突く。それはエルフリーデの繰り出した攻撃だった。
「あぅぅ……」
 電撃でぴくぴくしているビルシャナに、蠱惑的な笑みを見せると淡雪は、チョコレートまみれの脚で顔面に跳び蹴りを食らわせる。
 うっ、とビルシャナが仰け反ったのも束の間、
「チョコの美味しさ! とくと味わうがいいよ!」
 続いて夏音の跳び蹴りも顔面に炸裂して、ビルシャナの白い顔にチョコレート色の縦線が二本入った。
「ほら、僕らの生きる世界はこんなにも輝いている!」
 水着姿のロージーが、Pカップ超の胸を大きく弾ませて、明るい歌声を響かせる。
 弾むサウンドは前列のケルベロスたちに力を与えて、弾む胸は待避している元信者たちに喜びを与えた。
「この苦しみを貴方も味わいなさい……」
 ミリアから放たれた『病魔の弾丸』が、ビルシャナを貫く。
 本当は食あたりか腹痛系の病魔を打ち込んで、痛みを思い知らせたかったっけど、今回は仕方なくミリアは病魔もどきを打ち込んだ。
 ビルシャナがよろめいて、一瞬床の上に手をついたが、チョコレートですべって上手く体勢を立て直すことが出来ない。
 その瞬間を逃さなかったのは、覇緒だった。
 ーー明日から本気を出す……!
 彼女の心の誓いが、溶岩となってビルシャナの足元から噴出した。
「あちっ! あちっ!」
 とろとろのぬるぬるになったチョコレートと溶岩が白い羽の上に飛び散る。
 そこへすかさず、萌愛は超音速でビルシャナのボディに拳を炸裂させた。
 うめき声を上げるビルシャナを、彼女はクールな表情で見下ろしている。先ほどまでの、ふわりとした微笑みはどこにもない。
 その間に、イマニュエルの手によって3メートルほどの大きさの『黒き光に潜む梟』が姿を現す。
 ーー相手は鳥……。そのことを思い、イマニュエルは一瞬躊躇うが、影色の巨木菟は、六枚の翼をはためかせ、ビルシャナに向かって行く。
(「いいえ、でも木菟には関係ないですね」)
 木菟は輪郭を仄かに光らせて、鉤爪でビルシャナの肩を掴んで空中へ飛び、そしてそのまま急降下するとビルシャナを床の上に叩きつけた。
「うっ……うぅ……卑怯だぞ……1対8とか……」
 ビルシャナは泣きそうな声を上げながら、床の上をごろんごろんと転がって自らの身体をチョコレートまみれにする。
 ビルシャナの目に、輝きが戻るけどそれは僅かなものだった。
「さあ、冥府に逝く時間だぜ? 丁重にエスコートしてやるよ!」
 この一撃で終わらせる。それはエルフリーデの決意でもあった。
 彼女は鉾槍と自作アームドフォートをビルシャナに向けると、間合いを一気に縮め、そして全身に懸架された刃でビルシャナを斬り刻む。
 白羽とチョコレート、それから血しぶきが飛び散ってトリの叫び声が響く。
 しかしそれも長くは続かない。
 鉾槍が一閃、ビルシャナを冥府へと誘った。
 白い羽に覆われた身体が、チョコレートの上に倒れる。
 ビルシャナが動くことはもうなかった。


「甘い匂いに酔ってしまいました……当分チョコはいいです……」
 翼を閉じた萌愛は、困ったように笑う。
 ビルシャナが倒れて残ったのは、チョコレートまみれの世界だった。
 褐色にまみれた己の身体を見て、ロージーは「はぅぅ」と溜息を吐く。腕も太股も胸元も、すべてぬるぬるになっていた。
「……そういえばこのビルシャナ、チョコまみれの服をどう洗うつもりだったんでしょう? まさかチョコまみれのためには下着と水着以外は認めない……?」
 ミリアは素朴な疑問を口にする。
「でもチョコぶっかけるのって、ちょっとエロいよね、今更だけど。ビルシャナの言うことも一理あるかも」
 そう言うと覇緒は、チョコレートまみれの己の指を舐めた。
 一方、部屋の片隅では、淡雪によるおっぱい教への勧誘が大成功を収めていた。
「おっぱい様ー!」
 元ビルシャナ信者たちは淡雪を囲んで歓声を上げ、またその背後では夏音が、おっぱいチョコを配ったり淡雪のガードをしたりと、おっぱい教の布教のために懸命に働いてる。
 おそらく彼女が一番の信者なのだろう。

 おっぱいチョコの配布が終わり、信者たちが立ち去ると、ケルベロスたちもこの場所から帰っていく。
 が、夏音は出て行こうとする淡雪の手首を握るとにっこり笑う。
「淡雪さん、私まだ舐めたりないです」
「……え?」
「うふふ、さぁ、楽しいこと、しましょ?」
 そう言うと夏音は扉をばたんと閉めた。
 夏音の熱い視線に恐怖を感じつつ、淡雪は綺麗な身体で帰れることを祈るのだった。

作者:市川あこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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