外宇宙への出航~未来へと踏み出す一歩

作者:小鳥遊彩羽

●外宇宙への出航
「やあ皆、元気そうで何よりだ」
 久しぶり、と笑顔でケルベロス達を出迎えたトキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)は、どこか懐かしげに目を細めた。
 ――アダム・カドモンとの最終決戦、ケルベロス・ウォーの勝利から半年。
 マキナクロスと共同で行われていた新型ピラーの開発が成功し、ダモクレス本星であるマキナクロスにおけるケルベロス達の居住区も、新たな住人を受け入れるべくその準備を終えている。
「つまり、いよいよ外宇宙に進出する準備が整った――ということになる」
 ――外宇宙への進出。
 宇宙に異常を齎すデウスエクスのコギトエルゴスム化を防ぐため、新型ピラーをまだ見ぬデウスエクスの住む惑星に広めにいくという、途方もない旅だ。
 だが、それが現実になるのだという。
 この旅には、ケルベロスの意見を受け入れた強力な種族として、元々のマキナクロスの住人であるダモクレス達だけでなく、ケルベロス・ウォーの後に地球を愛せず定命化できなかったデウスエクスも同行し、共に外宇宙へ向かうことになる。
「マキナクロスの出航に必要な膨大なエネルギーは、季節の魔法『クリスマスの魔力』を利用することになる。竜業合体みたいに、光速を超える移動だって出来るようになる」
 だが、マキナクロスが出航してしまえば、外宇宙に向かうケルベロスと、地球に残るケルベロスは、二度と逢うことが出来なくなるかもしれない。
 外宇宙へ旅立つことを選んだ者。地球に残ることを選んだ者。
 それぞれの選択があるだろう。
 取り戻した平和、これからの未来。
 皆が皆、新たな一歩を踏み出すために。
 まずはマキナクロスが無事に出航出来るよう、目一杯クリスマスを楽しもう――そう、トキサは笑って告げた。

●未来へと踏み出す一歩
「というわけで、俺からのクリスマスのお誘いはダンスパーティーです!」
 舞台はイギリスのとある古城。煌めくイルミネーションに彩られ、ライトアップされた幻想的な空間で、ダンスパーティーが開かれるのだという。
 高さ四メートルを超える大きなクリスマスツリーが聳えるエントランスを抜けた先、シャンデリアに照らされたホールは絢爛豪華に飾り立てられ、心弾む旋律と共に一夜限りの祝宴の主役達を迎え入れる。
 ホールの片隅ではビュッフェ形式で様々な料理を楽しむことが出来る。パスタやローストビーフ、ターキーなどの洋食がメインだが、寿司や天麩羅など和食もあるとのことだ。デザートには苺をふんだんに使ったケーキやムース、フルーツのゼリーやシャーベットの他、クリスマスだからとブッシュ・ド・ノエルも用意されているらしく、見ているだけでも華やかな心地になれるだろう。
「あとは、薔薇の代わりにイルミネーションの花が咲いてる庭園を散策するのもいいだろうし、庭園を抜けた先にはステンドグラスがとても綺麗なチャペルもあるんだ。希望があれば、そこで結婚式を挙げることも出来るよ」
 とは言え、式という形である必要はないのは言うまでもない。澄んだ空気に満たされた静謐な空間で、二人だけの時間をゆっくりと過ごすことも可能だ。
「ケルベロスの皆のドレスコードは特にないけれど、希望があれば貸し出しや着付け、メイクなんかも一通りしてもらえるよ。……勿論、ウェディングドレスやタキシードなんかもね」
 ――そうして、世界中で生み出されたクリスマスの魔力を充填したマキナクロスは、いよいよ外宇宙に出発することになる。
 マキナクロは光速を超えて、外宇宙へと向かう。
 つまり、出発した瞬間にその姿は消滅し、以降は観測さえも出来なくなるだろう。
「万能戦艦ケルベロスブレイドで月の軌道辺りまでは見送りに行けるけど、最後に直接逢えるのはマキナクロスが出航する直前だから、……別れる誰かがいるのなら、どうか、最後は悔いのないようにね」
 終わりの見えない、果てのない旅が、始まるのだ。
 ――それは、地上に残る者も同じ。
 これから紡がれてゆく未来への歩みを旅と呼ぶのなら、旅立つのは、外宇宙に向かう者達だけではないだろう。
 どのような形であれ、交わされた想いや言の葉はクリスマスの魔力となってマキナクロスに力を添える。今宵限りの幻想的な光で彩られた世界で、思い思いのひとときを過ごしてもらえたらとトキサは笑った。


■リプレイ

●祝の楔
 誓いの証を受け取って貰えはしたものの、それで互いの態度が変わるかと言えばそうでもなく。
 要はいつも通りなのだが――つまり、想う気持ちに変わりはないということ。
「新たな怪異を探しに宇宙へ行くと言い出さないか、不安が無くもなかったが」
「……興味はなくも無いが、生憎と朱砂を祟る以上の優先度ではない。……仮に」
 行くとしても道連れだと祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)に言われてしまえば、捩木・朱砂(医食同源・e00839)としては笑うしかない。
「……一途だろう?」
「一緒に残って貰えるのは、有難い限りだ」
 チャペルで式のイメージ作りでも――と朱砂は思っていたのだが、どれほど美しい輝きに満ちた場所であってもここは古城。
「お前さんの興味はそっちか。相変わらずブレないな」
 イミナの興味は、古く長い歴史の中で培われてきたであろう呪いの気配に向いていた。
「……当然だ、ワタシの芯はそこに在る。……祟りあれ」
(「まあ、少しは考えて貰えると嬉しいんだが」)
 とは言え、興味の赴くままに動く彼女の姿を楽しむのもまた一興。
「折角だから、雰囲気だけでも味わいつつ行くか」
 あっさりと頷いた朱砂に、早速呪いの気配を探っていたイミナはゆるりと振り向いて。
「……朱砂もすっかり慣れてきたな、良い傾向だ。……そういうところは特にな、祟りたいほど好きなのだ」
 さらりと紡がれた言葉に瞬きひとつ。
 それから、朱砂は瞳を和らげて手を差し伸べた。
「――お手をどうぞ?」
「……ああ、行くぞ。……どこまでも一緒に、だ」
 表情は変わらずとも上機嫌な気配が伝わってくるようで。
 白く細い、彼女の手。
 その心臓に近い指に光る指輪に、朱砂は緩く微笑んだ。

●縁の恵み
 優雅なワルツが流れる中、ティアン・バ(世界はいとしかったですか・e00040)とミレッタ・リアス(獣の言祝ぎ・e61347)はビュッフェの席に。
 片や上機嫌に長い耳を揺らし、片やぺったり倒れた長い兎耳だけでなく全身をふるふるさせながらローストビーフを噛み締める。
「おいしい」
 こくんと飲み込んでから、ぽつり。
「完璧な焼き加減とソースで口の中が祝祭です……」
「ところで、年末というか、この時期、これできまりな料理なのか? これは」
 ティアンはふと、あまりの美味しさに思わず天井を仰いでいたミレッタに問いかけた。
 思い返せば以前にローストビーフを食べた時も年末だった。それが偶々なのか、何となく美味しいものに詳しそうな彼女なら知っている気がして。
「伝統としては、週一で食べるご馳走だったと聞いています。そこから、こういう日の定番メニューになったものかと」
「成程」
 こんな日にこそ食べたい、とびきり美味しいもの。勿論、デザートも。
 木苺が乗った小振りのケーキを取ってきたティアンの前に、ミレッタは満面の笑顔で苺がぎっしり詰まったブッシュ・ド・ノエルを。
「ぜひ半分こにして、食べましょう。贅沢にクリームも苺もぎゅうぎゅうですよ!」
 ひと目で好みの予感しかなく、ティアンの長耳も揺れるばかり。
「甘酸いの、好き」
 美味しいものは一緒に食べるともっと美味しくて。頬が落ちそうな勢いでケーキを堪能していたミレッタは、ふとティアンへ微笑みかけた。
「ティアンさんとも少しずつご縁が出来て、今年は一緒にご馳走を食べられましたね。来年は、もっともっと宜しくお願いします」
 命も恵みも数多溢れたこの地上で行き会い、縁が繋がり、こうして共に過ごすことが出来ている。
 どれかひとつでも欠けていたら、今の時間はなかっただろう。
「有難い事だ。来年もよろしく」
 この縁という恵みを大切に――これからも。

●それぞれの道
「イルミネーション、とても綺麗ですね」
「綺麗ですね。お城と雰囲気があってます」
 煌めく世界を見やりながら微笑み合うシェスティン・オーストレーム(無窮のアスクレピオス・e02527)とソフィア・ワーナー(春色の看護師見習い・e06219)を、篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)は一歩後ろから見守りつつ。
 イルミネーションに彩られた庭園の散策を楽しんでから、三人はダンスホールへ。
「ねえシェス。踊りませんか? その後は篠さんですよ!」
 くるくると弾むように踊るソフィアとシェスティンの楽しそうな笑顔に、佐久弥は心がほっこりとなる。
「こんなにゆっくり時間が過ごせるなんて。……これが平和、なんですね」
 大切な友達のソフィアと大切な人である佐久弥――二人と過ごすささやかな時間に、シェスティンの心にもたくさんの幸せが満ちていた。
 ようやく手に入れた本当の平和と未来。ケルベロスとして戦う機会も、これからは減っていくのだろう。
「私、イタリアに帰ることしました」
 改まって告げるソフィアに、シェスティンも佐久弥も驚きを隠せない。
「日本は大好きですし、シェス達と離れるのも寂しいですが。ケルベロス活動を応援してくれた両親も、大好きだから」
 楽しかった思い出を胸に故郷へ帰るのだと、ソフィアは晴れやかな笑顔で紡ぐ。
 そうですかとほんの少しばかり寂しげに零したシェスティンは、すぐに微笑んで。
「帰っても、連絡を取り合いましょう。離れていても、友達……ですから」
「寂しくなるっすね……でも、応援してるっす」
 戦いが終わり、平和を取り戻したこの世界で。皆それぞれの道へと進んでいく。
 わかっていても離れ離れになるのは寂しいと佐久弥も思うけれど。
 この絆は決して失われることはない。だから、大丈夫だ。
「私達はこの後、どうしましょう。まずは、お父さんに相談かなぁ……」
 シェスティンはそっと佐久弥に振り向き、小さく首を傾げた。
「佐久弥さん、やりたいこととか行きたい場所、ありますか……?」
「俺は……シェスさんの親御さんに挨拶、かなぁ。落ち着いたら旅行もいきたいっすね。イタリアにも……シェスさん、君は?」
「そうですね……」
 シェスティンと佐久弥のやり取りをそわそわと見つめながら、ソフィアは満面の笑みを二人に向ける。
「そうそう、二人の結婚式には呼んでくださいね! 絶対ですよ!」

●きみを彩る
 鏡に映るのは、愛しい恋人の手で彩られた自分。
 黒のチュールとレースを重ねたワインレッドのドレスも相俟って少し大人っぽくなった姿に、ロゼット・リーオル(月虹の涯・e31017)は瞳を輝かせながらトーマ・クラルス(コロナの心臓・e18569)へと振り返る。
「トーマ、ありがと! 可愛い? トーマ色だよ」
(「はー……ウチの彼女世界一可愛い……」)
 無邪気に笑みを綻ばせる姿にトーマ思わず心の中で天を仰ぎ――共に今宵の舞台へと。
「ロゼ。俺と、踊っていただけますか?」
「――喜んで」
 なるべく優雅に見えるよう一礼するトーマに、ロゼットは笑みを深めて頭を横に傾けるように頷き、差し出された手に己のそれをそっと重ねる。
 燕尾服のトーマはまるで王子様のよう。
 ――勿論、いつだって彼はロゼットの王子様だけれど。
(「童話のお姫様にでもなったみたい……」)
 幻想的な光が煌めく非日常的な世界にいるからだろうか、ついそう考えてしまった気恥ずかしさを隠すようにロゼットははにかんだ。
「トーマ、格好良い。凄く素敵だよ」
「有難う。お姫さまに相応しくありたいもので。……にしても」
 今日はいつにも増して、ロゼが光って見えるような気がする。
 重なる視線。瞬く瞳。
 思わずキスしたくなるのを、トーマは必死に我慢する。
(「だって、そういうのは家に帰ってから!」)
 少しくらい動きがぎこちなくたって構わない。
「まぁ、ほら。こーゆーのは楽しんだもん勝ちでしょ?」
 普段やらないことだからこそ一緒にやってみたかったと笑うトーマに、ロゼットが重ねるのは同じ想い。
 何より幸せな時間を共に過ごせることが、すごく楽しくて、嬉しくて、幸せだから。

●愛しきみと
 燕尾服と白の蝶ネクタイに身を包んだ柄倉・清春(ポインセチアの夜に祝福を・e85251)にエスコートされる形で、モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)は、夫と共に誂えたボールガウンドレスのふわりと広がる裾を踏まぬよう慎重に足を運ぶ。
(「ああ、しかし……なんという舞台なのデショウ」)
 機腐人――否、『貴婦人』の称号に相応しくあれるよう少々手習いした程度ではあるものの、恥ずかしくない程度には場を盛り上げるのに一役買いたいと、気を引き締めていたモヱだけれど。
 何もかもが煌めく世界は眩しすぎて、知らず俯きがちになっていた。
 だが、それはモヱだけではなく。
 ふと顔を上げれば、互いに伏し目がちだった視線がぶつかり合う。
 見つめ合う僅かな間。先に息を零したのは清春だった。
「はは、オレたち足元ばっかり見ちゃってんねぇ。……手ぇ痛くなかった?」
 一緒に隣を歩いてくれる愛しいひと。煌めく舞台は元より彼女の姿さえ見えていなかったことに、苦く微笑う清春。
 その眼差しに、モヱは強張った心が解けていくのを感じると同時、常よりも強く手を握り締められていたことをようやく自覚した。
 たとえ上手でなくとも、楽しく踊れればそれで良い。
 だって、今宵はクリスマスなのだから。
 ――今度はごく自然に手を重ねて。
 周る視界の中心に澄んだアクアマリンの瞳をしっかりと収めながら、清春はモヱの歩調に合わせて身体を揺らす。
 そうして、不意に清春は囁くように告げた。
「見立てたドレス、似合ってるねぇ。……今日も綺麗だ」
「……っ! 清春さん……!」
 一瞬にして薔薇色に染まる妻の頬と躓く足。
 それこそ旦那の役目とばかりにしっかりと抱き止めながら、清春は相好を崩すのだった。

●いつかの時を
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)が纏うのは、ミモザイエローのオフショルダードレス。
 ティアラとイエローサファイアのネックレスが、慎ましやかな輝きを放っている。
「――お手をどうぞ?」
 袖口にちらりと輝くルビーのカフス。
 鷹揚に手を差し伸べたピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は、丁寧な作りの黒の燕尾服に身を包んで。
 聖なる夜の舞踏会。優雅なワルツに身を委ねながら時折視線を交わして笑み零し、夢のような空間で弾む心のままにステップを踏んでいたけれど。
「……僕たちは地球に残るけど、外宇宙に行く人たちのことはやっぱり気になるね」
 ふと少し寂しげにそう呟いたピジョンに、マヒナは静かに目を伏せた。
「そう、だね……――っ、」
 瞼の裏に浮かぶのは、これから外宇宙に向かう大切な友。
 心が波立った拍子に躓いたマヒナを、ピジョンは優しく抱き止める。
「ご、ごめん! 動揺しちゃって……少し、このままでいさせてもらってもいい、かな……?」
「いいよ……いや、ごめん。僕も考えずにいるってことがどうしてもできなくてね」
 外宇宙に旅立つ者。地球に残る者。
 一度、ここで道は分たれる――けれど。
「ねえ、また会えるって信じてもいいよね……?」
 いつか、また。それを願うのはピジョンも同じ。
「そのためにもクリスマスの魔力、高めないとね。ここのご馳走、凄いらしいよ?」
「……うん、目一杯楽しもう!」
 マキナクロスの無事の出航を、友の旅立ちと幸いを願って。
 涙を拭い、マヒナは最愛のひとに綻ぶ花のような笑顔を向けた。

●ぬくもり
「んっ、二人ともドレスで踊るの難しかったけど、楽しかったね」
 一緒にダンスを踊った後、火照った身体を冷やすために、庭園へ行こうと誘ったのはルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)だった。
 繋いだ手を揺らしながら、本物の花の代わりに散りばめられたイルミネーションの小さな光が示す道をゆっくりと辿っていく。
「……綺麗」
 そんな風に煌めく花を見て回っていたら――いつの間にか人気のない、静かな場所に辿り着いていた。
 きらきらと瞬く光の花に包まれて、二人きり。
 話したいことはたくさんあったはずなのに。
「……ルー?」
 不思議そうに瞬いたリリエッタ・スノウ(未来へ踏み出す小さな一歩・e63102)の青い瞳に吸い込まれるように、ルーシィドは顔を近づけていた。
 リリエッタには家族がいない。
 だから大親友のルーシィドが家族になってくれたら嬉しいと伝えたのが、つい先日のこと。
 家族になろうと約束を交わしたあの時から、二人の関係がどうなったのか――この繋がりにつける名が恋人というものなのか、まだルーシィドにはわからない。
 けれど、胸に灯るこの想いは確かなもの。
 火照った身体が冷める前に、ぬくもりを分かち合うように身体を寄せて、そっと唇を触れ合わせる。
「……嫌でしたか?」
 触れ合うだけのキスは、何だか少し、くすぐったくて恥ずかしい――けれど。
「大丈夫。リリ、全然嫌じゃないよ」

●誓いの日
 タキシードに身を包んだハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)が見つめる先には、ウェディングドレスを纏う未来の花嫁。
「よく似合っている。綺麗だよ」
 仄かに頬を染めながらも、エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)はにっこり笑って。
「さぁ、ハル、一緒に踊りましょう? もちろん、エスコートお願いできるよね?」
「勿論しっかりとエスコートさせてもらおう。――さぁ、踊ろうか」
 優雅なワルツに身を委ね、手を取り合って踊る二人。
「……君がいないと寂しいんだ」
 不意に、ハルはそう口にした。
「未来に思いを馳せてみた時、君が隣にいないのは考えられなかった。……君には、まだそこまでの実感はないんだろうけれど」
「ハル……」
 彼の真っ直ぐな想いの全てが己に向けられていることを、エリザベスは知っている。
 けれどそれは、エリザベスにはまだ大きすぎて。
 それでも、今日を二人にとっての誓いの日にしたいと、エリザベスは思っていた。
「……この衣装はね、私なりの誓いよ」
 この地球で、二人で。
 彷徨う星を見上げながら、遠く宇宙へと旅立った皆を想い――共に生きていく。
「その時が来たらこの続きを言わせて欲しい。――エリザ」
 エリザベスが誓ったように、ハルもまた己が誓いを口にする。
「君を、愛している」

●願いが咲く時
 髪の色に合わせたピンクのドレスに、彼の瞳に似た藍のヒールで少し背伸びをして。
 いつもより少し近くなった視線に、星海・ライカ(千と一の夜の歌・e00857)はふわりと微笑む。
「こんな風にくーちゃんと踊るのは初めてね」
 そんな、いつもよりもずっと大人びた雰囲気を持つ彼女の姿に鼓動を高鳴らせながら、大和・久遠(剣秘めたる月の守護者・e04233)は小さく頷いた。
「うん、長い間を一緒に過ごしてきたけど、初めてだね」
 久遠の装いは、素敵とライカが褒めてくれた、彼女に合わせた色合いのスリーピーススーツ。
「……ねぇ、ずっとこのままでいられたらいいと思わない?」
 その時、不意にライカが呟いた。
「くーちゃんとこうして、手と手を取り合って踊り続けるの。これからもずっと、ずぅっと」
 夢見るようなライカの瞳を、久遠は静かに見つめて。
「僕だって……ライカが望んでくれるのなら、ずっとこうしていたいよ。ただ……」
「ただ?」
「このままっていうのは、幼馴染としてかな。それとも……特別な相手として?」
 高鳴る心臓の鼓動が、ワルツの旋律より耳に響くよう。
 声を震わせながら想いを告げた久遠に、ライカはおかしなことを聞くのねと瞬いた瞳を柔らかく細めた。
「それはもちろん、くーちゃんが特別だからに決まっているじゃない」
 幼馴染ではない、特別。
「――ねぇ、大好きよ、くーちゃん。ずっと前から、これからも」
 それは久遠にとっては何よりも願い、望んでいた言葉。
「僕も、ライカのことが好きだよ。前からずっと、とても愛しく思ってる」

●ゆめをかさねて
 ハイヒールの踵をこつり。タキシードを着こなして、オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)はシンプルなドレスに踵の低い靴を履いた月織・宿利(徒花・e01366)へ手を差し伸べる。
「『これ』は、『エスコート』をします。どうぞ、お手を」
「ふふ、宜しくお願います」
 くるり、くるり。ひときわ光の煌めく場所で、軽やかな旋律に身を任せて。
「宿利は、これから、なにをしたいですか?」
「これから、かぁ……」
 不意に零れたオペレッタの問いは、まさしくこれからに思いを馳せていた宿利の心に響いた。
 口にしたのは、一番最初に浮かんだ答え。
「また、こうしてオペレッタちゃんとも一緒に遊べたら良いなぁ……」
 その音色におちた僅かな感情(ココロ)を推測することはオペレッタには出来ない。
 ――けれど、
(「もし『アナタ』がどこかで迷うなら」)
 その手を引きたいと『想った』から。
「はい、はい。たくさん、遊びましょう。――『これ』は、『約束』します」
 オペレッタは微笑み、柔らかな声で紡ぐ。
 例えば、これから地球を廻る旅で知ることになるだろうたくさんの風景を。美しい世界を。
 いつか彼女と一緒にもう一度歩く――それは。
(「――『ゆめ』がまたひとつ、増えました」)
 今はまだ彼女にも内緒の、オペレッタの秘かな『ゆめ』になる。
「……いいんですか? はい、これからも、時々一緒に過ごしましょう」
 彼女の優しい眼差しと声に、宿利はくすぐったいような、嬉しそうな、そんな微笑みを咲かせて。
 ――だって。
 これからも一緒に地球を歩くことが出来たら、きっととても楽しいから、

●未だ見ぬ空へ
「じゃーん、どうっすか?」
「とってもお似合いですよ、シキさん」
 フォーマルな装いの霧咲・シキ(四季彩・e61704)に、折角だからとおめかししたのはラベンダーのドレスに身を包んだフィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)も同じ。
「フィエルテも素敵っすよ。良かったら踊らないっすか」
 リズムに合わせながらもどこかマイペースにステップを踏みながら、変わらぬ調子でシキは告げる。
「オレ、外宇宙に行ってくるっす」
「……じゃあ、マキナクロスに?」
 瞬いた娘に、微笑むシキ。
「星の海の色んな所を見て……ねことか居るんすかね外宇宙。あ、ちゃんと大事な役目の方も忘れてないっすよ」
 未知の世界に旅立つというのにやはりマイペースな彼にフィエルテは思わず笑みを零すものの、寂しげな色は隠せずに。
「……行けるって事は繋がってるって事っすから。いつかきっと、また会えると思うっす」
「身体には、気をつけてくださいね。――いってらっしゃい」
「へへー、頑張るっすよー」
 重ねた手は、もう少しだけそのままで。

●さいわいを願う
 一度袖を通したウェディングドレスを、再び纏って。
 アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)は花居塚・ハイモ(藍灯・e20492)と共に、ゆっくりとバージンロードを歩んでいく。
 ただ一度きりの誓いの日。
 先日の記憶をなぞるように今一度、陽南・ルクス(零れ陽・e87336)は写真に収めていく。
「――先月式を挙げたばかりなのに?」
 と、記念撮影に最初は苦笑いしたハイモだったが。
「そうは言ってもアリスの晴れ姿は何度だって見たくならないか?」
 ルクスの指摘通り、晴れ姿は何度見ても嬉しいことに変わりはなく。
 だが、いざ再び父親役として彼女の隣に立った時、本番でも堪え切れなかった涙がまた込み上げてくるのをハイモは止められなかった。
「……ありがとうね、ユキさん」
 箱竜のユキシロがハンカチで目元を拭ってくれるのにハイモは微笑み、それからアリシスフェイルへ花束を。
「ハイモ……ユキ姉も有難う」
 ふたりの様子にアリシスフェイルも瞳を潤ませながら、胸に灯る想いを紡ぐ。
「ハイモがいなかったら、今の私はいないのよ。……ずっとずっと、ありがとう」
 掛け替えのない家族。初めて出逢ったその日からずっと本当の兄のように想っていたし、己自身よりもアリシスフェイルを大切に思ってくれた彼の幸せを、願わずにはいられなくて。
「僕もね、大切な妹だと思ってる。――家族でいてくれて、有難う」
「……でも、私が家を出てしまってごめんなさい」
 宇宙に行くわけではないから、家を出たとしてもいつだって逢えるし、もういなくなったりしない。
「幾らでも会いにいけばいいし、いつだって来ればいい」
 挟み込むように落とされたルクスの言葉は、それぞれに向けてのもの。
 ルクスとてアリシスフェイルから大切なものを奪う程狭量でもないし、気にする事じゃないとハイモも首を横に振る。
「そうだね、少し寂しいけどいつだって逢える処にいるんだし。ルクス君には感謝もしてる」
 けど、と、ハイモはにっこりと――有無を言わさぬ笑みを浮かべてルクスに告げた。
「その代わり、大事なアリスを泣かせたら今度は赦さないから……」
「……耳が痛いな」
 彼女が超えた二度めの離別。
 その後の話は、他の誰でもないハイモから良く聞かされている。
 ルクスは思わず少し、苦く微笑って。
「……やっぱり泣かせてしまうこともあるかもしれないが」
 それでも、決して手放さず見失うことのない、たったひとつの星を。
「俺の全てで幸せにすると約束するよ」
 ルクスの言葉に、ハイモは笑みを和らげて頷いた。
「――うん。二人の幸せを祈ってる」

●永遠の彩
 煌めく世界を抜け出し、月光と輝く花々が綻ぶ庭園へ。
 降るように届く旋律に乗せて、二人だけのダンスパーティーを。
 昔なら真っ先にビュッフェに飛びついていただろう。
 けれど燈・シズネ(耿々・e01386)の瞳には、もうラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)の姿しか映っていなかった。
「今じゃおめぇしか目に入らないくらいだ。罪な男ってやつだな」
 シズネの言葉に、ラウルは擽ったさとそれ以上の愛おしさを覚えながら囁くように告げる。
「俺だって、燕尾服を纏うシズネに視線を奪われてるよ?」
 色とりどりのスイーツよりも、甘やかに煌めく眼差しに微笑んで。
 シズネが腰に回した手は固く、ステップもぎこちない。
 慣れないながらも懸命にリードしようとしてくれているのが微笑ましくて、鼻先が触れ合うたびにラウルはつい笑みを零してしまう。
 リードしやすいようさりげなく足を運ぶラウルにも、シズネは気づいていないよう。
 ――見惚れてしまっているのだ。どうしようもないくらいに。
 そのことにラウルが気づいたのは、熱を帯びた黄昏の瞳が迷いなく己を囚えているからだった。
「好きだ」
 今は己だけを映す薄縹色に戯れにそう吹き込めば、ゆるりと和らぐ眼差し。
「俺も、大好きだよ」
 返る言葉はシズネが焦がれていたもの。けれど込み上げてくる歓びのままに弾むでなく、そうとわかっているからこその余裕の笑みで彩って。
「知ってる」
 どちらからともなく溢れる笑み。
 擽ったいけれど、それ以上の幸せがある。
 シズネはそっと、掬うようにラウルの手を取った。
「――もう一曲、踊ってくれますか?」
 告げれば恭しく重ねられる確かなぬくもりひとつ。
「一曲と言わず、何度でも構わないよ」
 軽やかに弾む旋律に乗せて。
 終わることのない輝かしい未来を紡ぐように、君と円舞を。

●芽吹きの春へ
 イルミネーションに彩られ、幻想的に輝く古城。
 零れ溢れる賑やかな音は、少し離れた庭園にも降るように届いていた。
 きらきらと輝いて咲くイルミネーションの光の花に彩られた道を、御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)と蓮水・志苑(六出花・e14436)はゆっくりと歩む。
 吐く息は白いけれど繋いだ手はあたたかいし、互いに寄り添えばもっと――。
 チャペルの重い扉を開けば、荘厳な儀式の場。
 吸い込まれるように美しいステンドグラスの光が優しく壁や床面を照らしている。
 静謐、あるいは神聖な空気と静寂が場に満ちていた。
 静かに祭壇の前まで歩み寄り、互いに向き合う二人。
 ――本当はすぐにでも一緒になりたい。
 しかし蓮はまだ学生。一人の人間としても未熟だと、気持ちだけでは駄目だということも、誰よりも蓮自身が理解していた。
 一緒になるのであれば卒業は勿論、これからの――もっと先のことを考えなければならないことも。
「俺の気持ちが変わる事はない。だから、どうかその時が来たら……」
 蓮の真っ直ぐな言葉に、志苑は静かに頷く。
「既に、心は決まっています。待っております」
 どれほど時が流れても、志苑もまた己の心が変わることはない――と。
「……ありがとう」
 視線を合わせて微笑み、そのまま互いの額をそっと触れ合わせる。
 擽ったい感覚が少し恥ずかしくて、零れる笑みに肩が揺れた。
「これからもずっと、蓮さんの隣で共に歩んで行きたいです」
「俺もだ」
 今日は、少し早い――二人だけの誓いの日。
「ずっと隣に居てくれ。共に歩もう。この先もずっと。――志苑」
 真っ直ぐに志苑の瞳を見つめ、蓮は告げる。
「愛している」
「はい、私も愛しています」
 蓮の瞳に映る己の姿を見つめ、志苑は静かに瞳を閉じる。
 そっと重なる唇。暖かく満ち足りた幸福感に包まれる、聖なる夜。

●繋ぐやくそく
 きらきら輝く光の花に見送られ、そっとチャペルの扉を開けば、澄んだ空気と静かな輝きが出迎える。
 正面のステンドグラスを見つめ、メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)は小さく零す。
「……きれいね」
「……うん」
 メロゥの呟きに、白いタキシードを着た茶菓子・梅太(夢現・e03999)は、どこかちょっぴり落ち着かない様子。
 ――ひらり、ふわり。
 純白のウェディングドレスにメロゥの鼓動は高鳴るばかり。
「ど、どうかしら。……あの、お化粧もしていただいたの」
 隣にいる梅太に視線を向けて、そっと。
「ちゃんと……、かわいい、ですか?」
 メロゥの視線と問う声に、梅太は瞳を上へ、下へ。
 それから、彼女の周りをぐるりと周る。
(「ああ、どうしよう。可愛すぎて蕩けてしまいそう……」)
「……梅太?」
「……はっ、いけない」
 メロゥの声に我に返り、緩む顔をぐぐっと引き締めてから梅太は微笑む。
「うん、うん……と、とってもきれいでかわいい、ですよ。俺だけの、素敵な花嫁さんだ」
 真っ直ぐな梅太の言葉に、ぽぽぽっと染まるメロゥの頬。
 それから、安堵の息と、ふわりと綻ぶ笑みの花。
「よかった……ふふ、うれしい。梅太も、すごく素敵。かっこいい、です」
「わ、ほんとう……? ふふ、かっこいいでしょう」
 引き締めたばかりの梅太の頬は、メロゥの言葉と笑顔にすぐにへらりと緩んでしまう。
「梅太、梅太」
 一瞬僅かに伏した瞳を真っ直ぐに梅太へ向けて、メロゥは紡ぐ。

 ――笑顔としあわせに満ちた家族になることを誓いますか。
 ――私が年をとって、おばあちゃんになっても、愛し続けることを誓いますか。

「これからも……『やくそく』を重ねてくれることを、誓いますか」
 緩めた頬を戻し、梅太はそっとメロゥの両手を握る。
 メロゥが紡ぐことばのひとつひとつを聞き逃さないように、取り零さないように。
 梅太は、静かにメロゥとの誓いを聞いて。
「――はい、誓います」
 しっかりと答え、頷く。
「ね、メロ。……メロゥも、誓ってくれますか」
「――はい」
 メロゥもまた、梅太の手をぎゅっと強く握り返して。
「……はい、誓います」
 瞳には星のような煌めきが満ちて、いっぱいに綻ぶ――幸せの花。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年12月24日
難度:易しい
参加:31人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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