外宇宙への出航~ラスト・クリスマス

作者:白石小梅

●出航の日
 宇宙の未来を賭けた最終決戦『ケルベロス・ウォー』。
 それに勝利して、およそ半年……。
「お久しぶりです。集まるのはハロウィン以来ですね」
 望月・小夜が言う。平和を手にしながら、その顔に浮かぶ笑みは僅かに切ない。
「そして……これが皆さんとの最後の集まりになるかもしれません」
 そう。皆、すでに知っている。ダモクレス本星『マキナクロス』において『新型ピラー』の開発が成功した。ケルベロス居住区も、すぐに暮らせる状態。
 つまり。
「降伏したデウスエクスと希望するケルベロスを乗せ、外宇宙に進出する……出航の時が来たのです」
 その目的は、宇宙に異常をもたらしてしまう原因……すなわち『デウスエクスのコギトエルゴスム化の撤廃』。そのために、新型ピラーをまだ見ぬデウスエクスの母星に広めにいくという、途方も無い旅だ。
「もともとマキナクロスの住人であったダモクレス達は当然、同行します。目的を同じくする強力な味方となってくれるでしょう。また、ケルベロス・ウォー後に皆さんが降伏させたデウスエクスのうち『地球を愛せず定命化できなかった個体』も、共に外宇宙へと旅立つことになります」
 しかしマキナクロスの出航には、膨大なエネルギーが必要だ。それが、ケルベロスが集められた理由の一つ。
「ええ。季節の魔法『クリスマスの魔力』を用いてエネルギーを充填いたします。そうする事で、マキナクロスは竜業合体のように光速を超える移動すら可能になるのです」
 番犬たちは頷く。
 残る者と、旅立つ者。
 クリスマスが、その分水嶺となるのだ。

●ラスト・クリスマス
 穏やかな沈黙が、場に満ちる。
「……駄目だな。世界でクリスマスを盛り上げないといけないのに、湿っぽくなっては。そこでなんだが、私の故郷のイギリスから、ある話を持ってきた」
 と、言うのはアメリア・ウォーターハウス(魔弓術士・en0196)。小夜がそれを受けて、微笑んで。
「ええ。資産家のお婆さんが、ご自身の所有するカントリーハウスで、皆さんの支援者や救われたことのある人々を世界中から集めてパーティを開くとのことです。希望を載せて空へ発つ前に……全員で、過去を振り返ってみませんか」
「あら、このお婆さま。資料で見た覚えがありますわね。確か……螺旋忍軍が、全世界決戦体制の支援者を狙った時。2015年のことですわ」
 古株である朧月・睡蓮(ドラゴニアンの降魔拳士・en0008)が呟く。
 そう。依頼主もまた、かつてケルベロスに護られた老女。彼女はケルベロスへの感謝を集めて、番犬を未来に送り出したいと言うのだ。
「人々の感謝やみんなの想いを記録し、後世へ遺したいとのことだ。報告書や映像は収集できるが、皆から記憶や思い出を直接に聞く方がいいのは確実だしな。現地には撮影スタッフも機材も用意されている」
 雪化粧の噴水庭園はライトアップされ、大ホールでは招待された人々が演奏や会食を楽しみ、各個室もそれぞれ暖炉で温められてくつろげるよう解放される。落ち着いた佇まいの応接室にはスクリーンがあり、自分たちの過去の闘いやイベントの記録も再生できる。
「なるほど。助け合った人々や仲間と優雅なパーティを楽しむもよし。激闘やイベントの思い出を記録に残すのもよし。仲間や人々と語らいながら、過去を振り返る会ですわね?」
 地球へ残したい想いや旅立つ仲間に伝えたい想い、結婚の記念やパフォーマンス……歴史の節目の今だからこそ残したいものが、色々あるはずだ。
「全てのケルベロスが地球にいる中で公的記録を残せるのは、これが最後ですからね。感謝を受け取ってください。皆さんは、それだけのことを成したのです」
 焔立つ闘いの記録。皆の復興の歩み。誰かとの強い絆。
 それらは全て、この星が語り継ぐべき物語だ。

●別離と終幕
 だが何事にも、終わりの時は来る。
「……パーティの後は、別れの時となります」
 小夜が語る。皆を見つめて。それに続くのは。
「わたくし、宇宙へ参りますわ。挑戦を続けたいですから。発つ方は、共にマキナクロスへ乗り込みましょう」
「私は残るよ。この星を、自然を、護るために。残る者は、一緒にケルベロスブレイドで見送りをしよう」
 ケルベロスブレイドは月軌道まで見送り、そこでマキナクロスは超光速航行に入る。すなわち出発した瞬間にその姿は消滅し、以後は観測さえ不可能となる。
「旅立ちと、見送り。もしかするとこれが……最後の別れとなるかもしれません。私達はもう二度と、会うことはないかもしれない。それでも……」
 ああ。
 終わらせよう。
 続いていく世界のために。
 この物語を……。


■リプレイ

●集い
 はらはらと舞う粉雪。
 並ぶのは、番犬と関わり、そして救われた人々。
 広大な邸宅は淑やかに飾り付けられて、番犬たちを出迎える。
「私たちの番犬に、感謝を」
 主催者が、そう語る。それを皮切りに。
「覚えてる? ザイフリート王子と一緒に、助けてもらった私よ!」
「俺は東京に妙な神殿が来た時、応援に行った!」
「莫大な戦費だったが、様々なイベントのおかげで、助かったよ」
「霞ヶ浦から来たゼ! 俺らのグループは全部、アンタ達の味方だ!」
「こっちは熊本から! うちらは、何度でも立ち上がるからな!」
「大阪も負けへんで! 長い間、お世話になりました!」
「城ヶ島のぼくだよ……みんなの仇を討ってくれて、ありがとう」
「私……オークから救ってもらったわ」
「黙示録騎蝗の時、命を救われました……感謝しています」
 さざ波のように広がっていく、感謝の声。
 集った人々の中には、互いに傷つけあった仲の者もいる。
 それでも。
「太陽神サマがご迷惑お掛けしただなぁ……姫様と一緒に来ただよ」
「気にせんことだ。ワシも病を治してもらった身じゃよ」
「私から生まれたドリームイーターも、すんごい迷惑だったみたいよ!」
「ボク、自分でヘンな鳥になって大暴れしたんだよね。あはは」
「螺旋の仮面を捨てた時は、八つ裂きにされるものと覚悟していたが……」
「じゃ、俺と修行しようぜ! 反省になるらしいぞ!」
 かつての侵略者。その被害者。身を堕とし掛けた者。皆が、罪を許し合う。
「ユグドラシルから救われて……今は伴侶と暮らせています」
「マダマダわからないことはアルガ、地球は素敵なところダナァ」
「妖精八種族を始め、新参も迎え入れてもらえているよ」
 訪れた平和を、分かち合う人々。
 争う理由は、もうない。
 さあ、始めよう。
 平和と門出の、祝いを。

●祝宴
「いやいや。大人気だなぁ……」
 年配の人々が歩いていく。その先導をするのは、眸と広喜。
「近所の皆には、たくさん心配をかけタ。あ、そこは段差があルぞ」
「ああ。悪いねえ」
「いつも眸を応援してくれてありがとうなあ」
 二人が支えきれない人たちにも、周りの人々が手を貸しに来る。
「へへ……あったかいな」
 そう。人種も立場も、更には種族さえ異なっても。
「星を愛した気持ちは同じ、か」
 そう呟く老レプリカントと共にその光景を見つめるのは、エリオット・アガートラム。
「お久しぶりです『ハカセ』。お元気そうで何より」
「ああ。君は?」
「あれから色々な経験を経て、成し遂げたい目標が出来ました」
「飛び立つ若鳥は、どこへ向かうのかね」
「地球に残り、医師を目指します。争いが終わっても、まだ多くの問題は残っている。貧困や、満足な医療も教育も受けられない人々……僕はそんな子供たちに手を差し伸べ……未来への希望を伝えたい」
「ワシには、無理だったことだ」
 老人の目には、諦観がある。エリオットは、優しく首を振った。あの熱帯雨林で、彼の中に芽生えた想いを伝えるために。
「茨の道かもしれません。でも……想いは受け継がれるものです。たとえ困難な道程でも」
 エリオットの言葉に、老人の目から煌めきが零れる。
 老いた鳥から、若き番犬へ。
 想いは受け継がれたのだから。

 さらさらと音を立てる噴水の傍ら。【GC】の面々は集う。
「たくさん闘いがあったけど、皆で無事生き残ることが出来て本当に良かった、よ」
 リーズグリースは、背の大きく開いたミニドレスでうら若い艶やかさを纏う。
「じゃ、このクリスマスを迎えられた事に……盛大に、かんぱーい!」
 同じくミニドレスのリーズレットが杯を掲げる。皆、もう大人だ。温まる術は、手の内にある。ちりんと鳴るのは、赤いグラス。ユアとユエは、共にフィッシュテールのドレスをひらりとさせて。
「今日は楽しもうね!」
「うん! ですが今日は、重大な議題があります! ズバリ! 地球に残るのか。はたまた宇宙へ行くのか! 皆の今後を聞かせてもらうぞー?」
 そう。それは全ての番犬が迫られる、ただ一度の選択。
「ちなみに私は残って、旦那様と一緒に喫茶店をする予定。気が向いたら顔を見せに来てくれると嬉しいぞ! 美味しいコーヒーと手作りケーキを用意するからな?」
「私、は残留のつもり。喫茶店、楽しみだ、よ。必ず遊びに行く、ね」
「僕も残るよ♪ まだまだいってみたい所が山ほどあるの! 喫茶店にも、絶対遊びに行く! マルティナさんは?」
 そう問われた純白の乙女は、いつもの軍服ではなくタイトスカートのドレスで品よく身を彩って。
「うむ、私は残留だ。目的は果たしたし、家を再興させなければな……日本を訪れた際にリズの喫茶店や、なごさんの店に立ち寄らせてもらおう」
 軍人なので、結局やることは変わらないが。と、彼女は笑みを見せる。その頭に咲いた青薔薇のコサージュは、黒き茨の道を乗り越えた証だ。
「柄倉は?」
 問われた清春は、ダブルコートでウィスキーを煽る。
「オレも奥さんと地球に残る予定だねぇ。愛しいこの生活から離れるつもりはさらさらねぇや。喫茶店には、いずれ大家族でお邪魔しちまおうかなぁ」
 明るい笑顔で溢れてそうだもんな、と語った目が、雪菜に移る。
 夜会巻きに整えた髪を直していた彼女は、迷いを掴むように胸のブローチを握って。
「私は……まだ決めてない。宇宙へ行くのも悪くは、無いけど……」
「え、雪菜さんは宇宙に行っちゃうの……?」
 自分で聞いたのに、と、雪菜は笑みを漏らして。
「先に、レフィナード様に話を聞いてみたいです」
 燕尾服を着込んで髪を束ねたレフィナードは、不意に振られた話にウィスキーグラスを口から離した。
「私も残留です。外宇宙も考えましたが……暫くは世界を廻って見聞を広めようかと。あぁ、お土産は忘れませんよ」
「あの……! 私も、ついて行っていいですか? モデルの仕事の合間、になりますけど……」
 雪菜の言葉に、レフィナードは少しだけ首をひねる。
「構いませんよ。ただ……何の報酬も出せませんけれど」
「気にしないでください。貴方の隣で見える景色で充分です。家族みたいなものですから」
 唐突に決まった、一つの未来。それを、清春が茶化して。
「ククク、実り多き道行きってか?」
 じゃれあう仲間たち。噴水に腰かけていたヒエルが、杯を上げて門出を祝って。
「旅、か。それもいいんだろうな。俺は実家の道場を継ぐが、どうやら面倒を見ていた身内が外宇宙へ探求の旅に出るらしい」
「そうかい……逞しいじゃねえか。なら、帰る場所を残しとくのが師匠の……親の役目なんじゃねぇか?」
 ヒエルは、ウィスキーが映す顔を見る。その呟きには満足と、少しの自嘲が混じって。
「そうだな。逞しく育った事が誇らしく、そして寂しくもある。親になるというのはこういう気分なのだろうか? まあ、ここの面子は割と地球に残るらしいから、その土産話を慰めにするか」
「そうですね……数年後に、また集まりましょうか。リーズレット殿のお店を、待ち合わせ場所に」
「同窓会だ、ね。みんなで集まるのは、とっても楽しそう」
「確かに良いな。その日は私も日本に行くよ。柄倉が家族で来たら、賑やかで楽しくなりそうだ」
 想い馳せるのは、皆が集う暖かな灯。闘いの焔は、そこにない。
 ふとリーズレットが、広間から聞こえた曲に気付いて。
「あ、この曲知ってる。ねえ、ユアさん。一曲おねだりしてもいい?」
「もちろん! 楽しいパーティーを一つ、飾ろうか!」
 ユアが噴水台に跳び乗って、そのグラビティが光を降らせる。

 ……望む未来へ駆け出して、今も明日も全力で楽しんでいこう。

 希望を紡ぐ歌声を【GC】の面々は静かに聞く。
 杯を掲げ。あるいは目を閉じ。熱き過去を想って。
 その未来にはきっと、粉雪のような煌めきが、優しく降り注ぐだろう……。

 人々の語らう広間で、ひらりと二つのドレスが舞う。蝶のように。
「平和……なのよう。……案外実感はわかないんだケドね。はい、もなちゃん」
「ん、ありがと。如月ちゃん」
 差し出しされたジュースを受け取って、萌花はまじまじと見る。肩を出した煌びやかな紫のドレス姿を。
「……?」
「ふふ、改めて見ると、綺麗だなって。いつもより大人っぽくて似合ってるよ」
 こんな姿に着飾った彼女は、萌花にとって新鮮なもの。如月は「そんなこと……」と、語尾を濁して。
(「といっても、この甲斐甲斐しいところは、いつも通りの如月ちゃんなんだけど」)
(「まあ……平和になっても、きっと……もなちゃんのお世話焼く事は変わらないんだろうな」)
 見つめ合う中、萌花の視線が柔らかく微笑む。
「なあに?」
「ううん、なんでもない。平和だなって思って」
 並んで、寄り添う二人。ヒールを履いた如月と、踵の低い靴の萌花。今日の二人は、同じ目線。
「いつでも……私の『絶望』は、もなちゃんにあげる。何があってもいいようにしてるのよぅ?」
「ん、ありがと。でも当分は、一緒に生きててくれれば、それでいいや。もう闘いはないし、如月ちゃんがあたしの人生楽しくして?」
 如月は萌花の手を取って、抱きしめるように胸に当てる。
「ん! うーんと楽しくするんだから! もなちゃんと一緒に♪」

 広間の一角。記録スタッフが、薬袋・あすかに録音機を向けている。
「前に酷い顔して帰ってきたろ? その時にこの人ほっとけないな、って思ったんだよね。今思えばあれがきっかけだったのかも」
 その語りはどちらかというと、婚約者の花園に向けて。馴れ初めは、と尋ねられた言葉に、花園は、苦笑いして首を振る。
(「愛を語る……というか、ただの惚気話だな、これ」)
「師団の同期だから。交流を重ねていくうちにそういう仲に、ね」
 飄々と語るあすか。でも多分、口元が僅かに緩んでいるのは、照れ隠しだ。花園は軽く咳払いして。
「オレの方は単純に、一目惚れだったな。どこが好き? って聞かれたら、目って答えるくらいには」
 プロポーズは、どちらから? という質問に、あすかは「彼から」の一言。一方、花園は……。
「なんていうか、余裕とかもなくてオレなんかが、って思ってはいて……でもそれで抑えられないくらいに……で、オレから行っちゃったわけだけどさ」
 あすかが、何か言おうとする。だが波に乗った花園は、止まらない。
「結構、うーん、付き合える、ってなった後のほうが……今となっては……なんだ、その……愛し愛され……じゃないかなと……わけだけど」
 つらつらと語られる愛に、記録スタッフも思わず微笑んでしまうほど。
「しんどいこととか、あったけどさ。今笑えてるなら、良いかなって」
 彼が言い終えた時、記録スタッフはあすかに向き直る。
「……不器用で真っ直ぐで優しい。こういうところが、好きかな」
 彼女は肩を竦める。
 話題が宇宙への旅に及ぶと、二人はそっと首を振った。
 連れ立った二人はこの星に……互いの隣に骨を埋めるから、と。

●記録
 華やかな宴の席。
「スイーツ! スイーツを所望する!」
 おやつを喰らう影が、右へ左へと跳ね回る。
「ヴィル! あの時のクッキー、いるかな?」
「もちろんいただくよ、アメリアさん! 旅立つ皆を送るため、今日は張り切って楽しんじゃおうと思ってね! あ、リリーさん。そのケーキは?」
 ヴィルフレッドは苦笑する彼女を尻目に、きょろきょろと周囲を見回す。その姿に、リリーもくすりと笑って。
「最後のパーティー、思いっきりよね!」
「そうとも! にしても凄いな……日本の公園で竜牙兵を倒してから、6年以上経ってたよ。6年前には、これほど色んな経過を経ることになるなんて思ってもなかった」
「そうね。海底から……宇宙まで」
「うん。人の生きる時間は短いけど、だからって悪いもんじゃないね。あ、そうそう。色んな所に行ったと言えば……」
「まさか……持ってきたのか?」
「何でも置いていいんだし。もう新しいオファーも来たし」
 そう言って、彼は近場のスタッフに手渡す。炎と煤で汚れた、思い出の……。
「はい。熊本城の闘いの時の自転車! ……嵩張るけど大丈夫? 可愛がられるんだぞー」
 額でピースをキメて颯爽と竜に突撃する、格好いいお兄さんの写真と一緒に飾られる気がする。
 最後が、それでいいのか。
 そう思った時。
「あの……」
 彼を呼び止めたのは、黒髪の少女。
 振り返ったヴィルフレッドが、目を見開く。隣の、リリーも。
「君は……」
「あなた方を、覚えてます。私を、見逃してくれた人たち……あの時は、ありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げて、彼女は走り去る。
 彼女の、名は。

「あ、アリアンナ! こっちだよ!」
 応接室から呼ぶのは、記録を残していたシルディ・ガード。その前に走り寄った姫君は、再び頭を下げる。
「お礼を言ってて。お待たせしました」
「うん。あの頃はね……グラビティチェイン枯渇の原因もわからなくて、回避策も選択肢も、ほとんどないようなものだったんだ」
 アポロンという暴君を戴き、死の星を脱して地球へと襲来した暴殖の使徒。命をすり減らす激戦を経て……。
「キミたちが、残ることが出来た。結果論だけど、ボクはそこだけはアポロンに感謝してる……命が繋がり、キミたちに出会えたことを」
 シルディが残すのは、ローカストたちの記録。大きすぎた犠牲に、共に祈りを捧げながら。
「来てくれてありがとう。今日、どうしても来てもらいたかったのは、ボクが宇宙に行くからなんだ」
 あの経験を胸に。
 もう悲劇を繰り返さないために。
 シルディは、手を差し出す。
「だから、お別れを言いたくて」
「皆さんは私たちを救ってくれた……宙の彼方でも、誰かを救ってあげてください」
 その手を握り返す蟻の姫君。
「うん。約束する。ボクらは必ず、道を切り開くから」
 きっと、かつての犠牲は誰かを救う礎になる。
 そして蟲の民の未来にも、再び光が差すだろう……。

 応接室に六年間の記録が映っている。それを見るのは鳳琴と、その傍らに寄り添う、伴侶。
「六年……駆け抜けてきたけど、色々あったね……琴」
「そうね、シル。本当に……」
 超会議や水着コンテストでの入賞……要塞の竜や、実の母との激闘。
 年若くとも、番犬としては最古参。その思い出は、スタッフが感嘆の声を漏らすほど。
「伴侶はもっと凄いのですよ」
「そんなことないよ。でも、わたしの一番の思い出は……やっぱり、アダム・カドモンとの闘いかな。琴と一緒にあの場に立てて……そして、想いを込めた一撃を放てたこと」
 道を拓いた二人。その思い出が浮かんでは流れ、今後について問われたシルは、ゆっくりと頷く。
「……迷ったけど、わたしは琴と一緒に宇宙に行くよ。二人なら、きっと」
「ええ。これからも私達は……共に歩んでまいります」

 セットは一人、応接室のソファに腰かける。
「六年と四ヶ月……終わってみればあっという間でしたね。日本が初めてだったオレも、いつの間にかこれが日常になってたっす」
 彼の闘いの記録は、多くが数値や検証のデータばかり。
「んー。大規模作戦とか戦争とか、色々あったっすけど。オレ自身は鎧装騎兵としての戦闘ログしか取ってないっすから。……って、あれ? 映像、残ってたんすか?」
 映し出された勇姿に、彼は自身で困惑する。そこに入ってくるのは、彼に助けられたことのある人々。
「あれ。お久しぶりっす。ああ。そっか。皆さんが撮ってくれてたんすか……なんか、こういう記録もいいものっすね。データとかもらえないっす?」
 人々は「もちろん」と返す。良ければここで一つ、新しいデータを作ってくれとも。
「助けた人との記念写真て……なんか、はずいっすね」
 照れ笑いで映った一枚が、その場でみんなに共有される。
 これもまた、この屋敷に飾られる一枚となるだろう。

 弾ける映像。映るのは剣を構えた戦姫と、白百合の旗の騎士団。
「どの選択が正しかったのかなんて、当事者にはわかりまセン。俺は彼女達のこと、伝えていこうと思いマス」
 語るのは、エトヴァ。集った人々の中には、あの時、番犬たちによって復讐を思いとどまった女性もいる。正義も悪もなく、懸命に生きた点では、皆同じだ。
「そうね。私は傍観者だけれど、感動していたのよ。数多の物語が生まれるのを見てきたわ」
 それを受けたアレクシアは、赤い装丁の本を彼に渡した。
「約束通り、私が書き貯めたケルベロス達の物語よ。貴方に託すわね。記録は語り継いでこそ生きるものよ……だから、お願いね」
「……寂しくなりますネ。けれど、あなたらしく思ウ。俺は地球かラ、応援していマス」
 宙と、大地。二人は、異なる道を選んだのだ。
「貴方は大勢の間にいるのが似合っているわ。私は気まぐれで好奇心旺盛、適材適所って事ね」
 その言葉に、エトヴァは首を傾げる。
「適材適所、ですカ……たしかに、俺は人の間にいるのは好きですネ」
「私は、宙へ漕ぎ出す船に乗り込むの。こんなにワクワクする事はないわ。じゃあ、元気でね」
 アレクシアは笑って、早い別れを告げる。いや、きっとエトヴァの背を押したのだ。別離に、囚われぬように。
「……ありがトウ」
 そんな囁きを間に挟み。
 白雪の煌めく庭園へ。
 人々が語り合う広間へ。
 二人は別れて、歩んでいく。

 アウレリアが、激闘を振り返る。隣に佇む夫と、義理の妹と共に。
「……本当に、終わったのね」
 映像を確認し終えた彼女は、そっとデータを主催の老婆に手渡した。
「願わくばこの記録が新たな戦時資料にはならず、ただの歴史記念で終わる事を願うばかりだわ」
「きっと、そうなるわ。番犬さん」
 老婆に礼をして、アウレリアは妹と共に部屋を出た。
「終わっちゃったね。魔女医とケルベロスと大学……三足の草鞋は大変だったなぁ」
「エヴァもよく頑張ったわね。単位も落とさなかったし」
「ホントは学業専念のハズだったんだけど、世帯収入激減で食費が無くなりそうだったから……」
「それはあなたが食べ過ぎるからよ」
 ズバリと指摘され、エヴァリーナは「うう……もう少し前に自動料理精製装置があればなあ」と言いながら、ふらふらパーティ会場へ歩んでいく。
 その背を微笑んで見送るアウレリア。庭園を散策しながら、傍らのビハインドをちらりと見て。
「アルベルトがエヴァの学費はちゃんと残していたのだから、無理はしなくて良いとは言ったのよ?」
 それは、独り言だ。傍らの影は、返事をしてはくれない。
 噴水の周囲で、笑い合う人々。個室の窓に、紡がれる絆の灯。
 この平和に、夫を連れては来られなかった。
「それでも……最後まで共に在れたのは心強かったわ」
 その言葉は、義妹にか。それとも、夫の影へだろうか。
 影はただ、佇むだけ。
 彼女に向けて、柔らかく微笑みながら……。

●暖炉の灯
「いつも支援をありがとう。……いや。これからは隠居の身だよ。では」
 支援者たちとの談笑を終え、メイザースは、個室の扉を開いた。
「疲れてないかい?……一応ね、挨拶をしておきたくて。軽食とシャンパンを貰って来たよ。一緒にどうだい?」
 一足先に休んでいた人影は、その呼び掛けに緊張の糸を緩めた。
「堅苦しいのは苦手だけれど……君に恥を掻かせたくはないもの。隠居なら尚更、有終の美といきたいだろう?」
 火の弾ける暖炉の前に腰を下ろし、二人はかちりとグラスを合わせる。
「……こうして誰かとこの日を迎えられるとは思わなかった。好奇心は猫を殺すというけれど、私は好奇心に生かされたらしい」
「人生に想定外は付き物。でも、存外悪くなかったろ。長いのはここからかもよ」
 闘いの後、か。メイザースはしばしの思案の後、そっと紡ぎあげる。あのモザイクの渦中でも護り抜いた、言葉での約束を。
「旅立つ彼等へ祝福を。続く世界へ繁栄を。そして……私を選んでくれた、大切な番に安らぎを」
 これが自分の、最後の『呪い』。そう願い、彼はそっとヤドリギの小枝を相手の髪に挿し込んだ。
「メリークリスマス。どうかよろしく……シアン」
 ロコ・エピカは、首を傾げて目を細める。
「メリークリスマス、メイザース。でもね。そろそろ誰かのことより、自分に目を向けてもいいんじゃない。君だけの望みを叶えるためにさ」
 黒く染まった指先が、灰髪に咲くマーシュを愛でる。
 積み重ねた努力の褒美が、その身に降り注ぐようにと。
 その手を取る、メイザースはわかっていた。
 その褒美は今、彼の掌の内にあるのだと。

 ウィルマは一人、個室で暖かな熱に当たっている。
(「はぁ……ここ、からも見える、んですから本当に大きい、ですねえ。しかも、それが、宇宙へ旅立つ……えすえふ、です、ね……」)
 もう夜が近い。窓の外には、月と並ぶ球体。宇宙を旅する母船となった、マキナクロス。
(「まあ、えすえふといえば私たちの戦いもよほど、でしょう、か?」)
 侵略に晒される時代にあった自分たちには、そういう感覚はないけれど、と、彼女は少し自嘲して。
 そこにスタッフの一人が、戸を叩く。
「データを引き取りに参りました」
「ああ。お気遣い、ありがとうございま、す。あ、最後に記念撮影など、する時間は、あり、そうです?」
 乗艦の際に出来ると伝えたスタッフは、お体ご自愛下さいと伝えて個室を去る。
 頷いたウィルマはふうっと息を漏らして。
「そう、ですね。この子、の、ために、ね」
 うとうととしながら、自分のお腹を撫でるのだった。

 左之森・リアは、待っている。フイシンとともに。
「お! 遅かったのう!」
 個室に入って来たのは、螺旋の仮面を捨てた者。
「感謝を、告げていた。定命の人々に」
「今は菖蒲さまも定命じゃよ! 来た時にもぐちぐち言っておったのう。誰も八つ裂きになどせんよ」
「降伏した時は死ぬ覚悟だった。だが……」
「そう。死ぬのは、今ではない。菖蒲さまが定命化した時は、嬉しかった。共に生きるのじゃよ」
 二人は身を寄せ合って窓を見る。月と並ぶ、星を。
「番犬は……不死に彷徨う者を本当に救ってくれるかもしれない」
 生きている限り、その道を見送ろう。菖蒲はそう語る。
「んー……わしはゆる過ぎる活動だった故あまり褒められる事はしていないが」
「救われた者が、ここにいる」
 リアは笑って、ぎゅっとその身を抱き寄せる。
「共に歩めるわしは、なかなか幸せ者じゃな。さ! 最後になるかも知れぬ。しっかりと楽しむぞ!」
 菖蒲の手を引いて、リアは小走りに部屋を出る。二人の行く先には、厳しくも暖かな、人の営みが待っている……。

「つまんない思い出話ですけど、聞いてもらえませんか」
 暖炉の前で、葵がグラスを置く。
 いつもの流星なら野暮を言ったかもしれない。でも今日は人の姿のまま、彼は優しく首を振る。
「つまらなくなんてないよ。軽口で茶化すこともしない」
「そう、ですか? じゃあ最初は、広島で出会ったローカストの話から。紅色の天牛の戦士で、名前は……ロギホーン」
 番犬たちとて、全てを救えたわけではない。挙げられていくのは、彼女が救い切れなかった者たち。流星は彼女の想いを、一つ一つ聞いていく。やがて後悔が、尽き果てるまで。
「……これでもう、闘いで傷つく人も、倒される人もいなくなるんですよね」
「そうだね。生存を賭けた争いをしなくて良いように、皆は星の海に旅立つんだよ」
 沈黙の中、ぱちりぱちりと、暖炉の音。
「もし、宇宙に行きたかったら、すみません……私のせいで。でも、ここに眠ってる色んなものを、置いていきたくないんです」
「仮にそう思ったとしても、君と歩む人生の方が欲しい。君は宇宙の旅よりも魅力的な女性だって、自覚していいよ?」
 目を丸くして、流星は語る。むしろ、逆だと思っていた。
「魅力的って……また軽口。まあ、清和さんにはそうだって、思っておきますね」
 葵は、きっと気遣ってくれているのだろう、と肩を竦める。
 流星は、彼女の想いを受け止めつつ、沈み過ぎないようにする……それが自分の役割と、思って来た。来たけれど。
「軽口は、叩いてないよ」
「え……」
 絡んだ視線。
 その後に何が語られたのかは、誰も知らない。
 進む先に幸があるよう、祈るばかり。

●終宴
 夜が更けて。
 スクリーンに、映像が流れる。
 腐した龍。移動する機械工場。激しくも、懐かしき闘いたち。
「あら。お邪魔かしら?」
 振り返る眸。笑って手を振る広喜。二人に、声を掛けたのは。
「朧月……いや、そんなことはなイ」
「もうすぐ、ですわね。お二人は、宇宙へ?」
 二人は視線を合わせて、微笑んだ。
「悩むことはなかっタ。ワタシは地球に残る。ヒトとして、生活を続けていきたイ」
「俺も眸と一緒に地球に残る。ヒトとして、もっとここで生きていたいから、だなっ」
「愚問でしたわね……」
 地球を心から愛した二人は、旅立つ者を見送りにきたのだ。
「睡蓮、俺が暴走したとき、皆と一緒に俺に賭けてくれてありがとう」
「金糸雀師団を見守ってくれて……ワタシの相棒を、共に迎えに行ってくれてありがとウ」
 睡蓮は首を振り、目を閉じる。
「寂しくなりますわ。八王子を見回ることも、もうないと思うと」
「あ、そうだ。俺な、いつかあの場所で眸と一緒に幼稚園やるんだ。睡蓮と小夜には、ちゃんと報告しときたくて」
「まあ……あの園が、再び……」
「そうダ。望月はどウするのだろウ。感謝を伝えたイ」
 こっちよ、と、案内する睡蓮。
 後に続く二人の間で、握りあっていた手が、そっと離れる。
 それが長くも短い、闘いの終わりを。
 そして結び直した手が、新たな日々の始まりを告げる……。

 宴の会場に佇むのは、望月・小夜。
「いつも力強く送り出してくれて、迎えに行きてくれテ、ありがとウ」
「俺な。小夜のヘリオンに乗れてよかった。本当によかった。一緒に戦ってくれて、ありがとう」
「私はお二人を乗せられたことを……誇りに思います。お元気で」
 惜別に、固く手を握る三人。
 その話が終わったのを見届けて、彼女を呼び止めたのは……。
「はよはーん」
「……手を振ればわかりますよ。ほら、先に呑み込んで」
「ん。私も、伝えておきたくて」
 何です? と微笑む小夜の前で、エヴァリーナがまたケーキを頬張る。
「ん……あのね。大変なおしごとも多かったけど、皆が無事に帰って来れたのは、小夜ちゃんが待ってて迎えにきてくれたおかげだよ」
 そんなことは、と、語ろうとした唇を、エヴァリーナの指はそっと塞ぐ。
「……魔女医やってて思うの。ケガとかって本人もだけど、近くの人も同じ位『痛い』よね。小夜ちゃんも、きっとしんどかったんじゃって」
 だから、痛みよりも優しい思い出に癒えます様に。
 桃色の風が、小夜の心を揺らした。優しく、包むように。
「じゃあね。また、いつか」
 去っていくエヴァリーナの背が、滲む。
「……みんな、本当に……もう」
 そっと目を拭うと、視線の先には紅いドレスのリリーが手を振っていた。
「お待たせー! もー、どこもかしこもラブラブで。まあ、おめでたいのは良い事だけど。何かこう……悔しいわ!」
 その言葉を、小夜は微笑んで聞く。シャンパンのグラスを打ち合って。
「リリーに、相手はいないの?」
「いないわよ! 闘ってばかりだったから、しょうがないじゃない! だから宇宙でイイ男を捕まえるのよ! ね、小夜ちゃん。約束通り、一緒に行くわよッ! 未知との遭遇よ!」
 彼女は勢いよくグラスを振って空を指す。
「ふふ……じゃ、責任取らないとね」
「え、あ? 責任?」
「これからも連れ回すって意味よ。宇宙でも」
 あっさりとした承諾。勢いに任せていたリリーの方が、言葉に詰まる。
(「え……本当はいつも戦場で一緒だった彼女と離れたくないから、なんだけど……いいのかな」)
 小夜はその背をポンと叩いて、少年のように無邪気な笑顔を見せた。
「いいの。私の意志よ、相棒。さあ! 作戦の説明は以上です。それでは?」
 張り詰めた顔を解いた相棒に、何を言うべきか。リリーは、知っている。誰より共に飛んだのだから。
「出撃準備を、お願い申し上げます! よね! 作戦開始よ、相棒!」
 額を寄せ合う二人は、きっとまた、どこかの空を舞うのだろう。

 近づいてくる母船と万能戦艦。
 宴は終わり、番犬たちと人々は庭園に集う。
「……あっという間のようで、長い六年間だったね」
 そう呟くのは、ジェミ。応えるのは、ティユ。
「こうして振り返ると本当に……今の得難さを実感するよ。決して否定はさせない、と思える」
 それも、友達のおかげ。言葉にせずとも、最後の一言は通じ合う。
「本当は弱い私が戦い抜けたのは……きっと最後までティユさんがいてくれたからだよ」
「……襲撃を受けた時、僕になる前の事を考えて、僕はぶれた。その時、僕を迷わず肯定してくれたのはジェミ、君だからね。お互い様だよ」
 ドレスに身を包み、二人は手を握り合って、空を見つめる。
 時が、来たのだ。別れの時が。
 人々は番犬たちを囲んで、口々に叫ぶ。
「ありがとう」
「また逢う日まで……!」
 その連呼の中、手を振る番犬たちの姿は光に包まれ、消えていった。

●マキナクロス
 ジェミとティユは、手を結んだままそこに降り立つ。共に発つ番犬たちと共に。
「ここに戻るなんてね。6年前は肉親との別れでも、恰好よく乗り越えられる強い戦士になろうとした……ふふ、全く違う結末になったね」
「まさかこれに乗って旅する事になるとはお互いに思いもしなかったね。でも、今のジェミはまさしく全てを乗り越えた。誇らしく嬉しいよ」
 目をあげれば、ゆっくりと遠ざかる、青い星。
『エネルギー充填開始』
 二人は、向き合う。大切で尊い六年を闘い抜いた友に、言葉にはできない大切な想いを込めて。ジェミが、そっとその頬に口づけする。ティユの瞳にも迷いはない。
「この星と、あの星に。その全てを分かち合った友に。よろしくね、ジェミ」
「うん。これからも……よろしくね」
 優しい返しを受けて、ジェミは俯いた。
 顔を、真っ赤にして。

『超光速航行、準備完了。カウントダウン開始……』
 響く、ダモクレスたちの声。
「まさかキングの母星で旅に出るなんてね! じゃあ皆、行ってきます!」
 リリーと小夜が腕を組み、シルディは地球へ手を振る。 
「いろんな種族が力を合わせればきっとすごい発明もできると思う。だから……またね!」
 一人、前を見つめるアレクシアは、ふと、歌声に目を揺らす。幻聴? いや、確かに。この声は。
(「最高の餞よ……ありがとう」)
 無限の星空。浮かぶ地球。星護る船。モニターに映る、仲間たち。
 笑顔で手を振るシルと鳳琴の前で、全てを振り切る輝きが瞬いた。虹色の光が、マキナクロスと世界を分かつ。
「行っちゃったね……いや、わたし達が、去ったんだね」
「うん……うん……ッ!」
 鳳琴の膝が崩れ、涙が落ちる。やり遂げた全て。かけがえのない時間。それらが心から、溢れ出して。シルは優しく、伴侶をかき抱いた。寂しい気持ちはある。だが。
(「だからこそ、わたしはあなたの隣にいる……今は思いっきり泣いていい。そして、また……」)
 これからも二人は。
 いや、旅立った全ての者たちは、歩み続けるのだ。
 紡がれる文字さえ、振り切って……。

●万能戦艦
「皆さんに幸多からんことを! 帰るべき場所はオレたちが守り続けるっすから!」
 マキナクロスを見つめながら、セットが叫ぶ。
「地球であなたたちの、の成果がいつか聞こえるよう、祈って、ましょう」
「いってらっしゃい。地球の事は僕らに任せて頑張ってきてよ」
「この旅立ちへ、祝福を」
「その未来に、幸がありますように」
 囁かれ、互いに重なる、別れと別れ。
 マキナクロスが輝き始め、切ない沈黙が艦橋を満たしていく。
 その中に、ぽつりと響き始める歌は、ヘリオライト。
 歌うのは、エトヴァ。
(「きっと歌声は……宇宙を飛び越える。あの人の心へ、届く」)
 そう信じて。

 創造する世界は、きっと。
 そう、きっと。
 運命を――

 誰かの声が重なる。
 歌声は、歌声を呼んで。
 星空に、強い光が満ちる。
 瞬いて、より強く瞬いて。
 マキナクロスの姿が、消失する。
 空の隙間に、虹を掛けて……。

●終幕
 宙に散る歌声。
 虹の軌跡が、煌めきながら降り注ぐ。
 『ケルベロスブレイド』が、その幕を下ろしていく。

 それは星を護った者たちの。

 私の愛した番犬たちの、物語。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年12月24日
難度:易しい
参加:33人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 5/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 0
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