星と大地と言の葉と

作者:犬塚ひなこ

●星の言葉
 ひととせを通して姿を変えていく天体。
 春は獅子座や乙女座。夏は白鳥座、鷲座、琴座に蠍座。
 秋はペガサス座、魚座に牡羊座、カシオペアにアンドロメダ。冬はオリオン座、双子座、牡牛座。夜空には数えきれないほどの星座が巡っている。
 そして、それ以上の星が存在する。
「――宇宙には多くの星があって、地球もそのひとつ。太陽から遠く離れた星々のそれぞれに生命があって、それらは歯車のように噛み合って廻り、今という時がつくられた」
 それは奇跡のようだ、と遊星・ダイチ(戰医・en0062)は語る。
 今の平穏があるのは懸命に戦い、生きてきた者達が紡いだもの。それがとても嬉しいんだ、と語ったダイチは皆に招待状を差し出した。
「この歳になって何だが、誕生日会というものをひらいてみようと思ったんだ」
 招待状には『プラネタリーギア』という喫茶店を貸し切りにする旨が書いてあった。

 プラネタリーギアはは落ち着いた様相のカフェで、天球儀や月と星のシャンデリア、天体に関する展示や小物が飾られた雰囲気の場所だという。
 ほんの少し照明が落とされた店内の天井には星図が投影されている。
 蒼天鵞絨のカーテンには星の刺繍が施してあり、ティーセットやカトラリーも星模様。自由に手に取って読んで良いとされている本棚に並べられた書も、星の図鑑や星に纏わる物語ばかりと、拘り尽くされた場所だ。
 店の看板メニューは星座をモチーフにしたパフェと、自家製の珈琲。
 たとえば天秤座のパフェなら、ふたつ並んだミニパフェにフルーツやクリームが均等に飾り付けられている。うさぎ座のパフェならチョコレートで作ったウサギ耳と赤い目を模したさくらんぼが飾られたもの。獅子座はモンブランクリームで立派なたてがみを表現したもの、と趣向を凝らしたメニューになっている。
「此処の珈琲は美味いぜ。それに十二星座以外にもペガサス座や、白鳥座なんて星座のパフェもあるらしいな。皆、好きなものを頼んでくれ」
 当日の飲食はダイチの奢り。
 任せておけ、と胸を軽く叩いたダイチはこうみえても立派な大人だ。仲間達がおもいっきり楽しむ姿が見たいというのが彼の願いらしい。

「パフェを頼んだら、星言葉が書かれたちいさなスーベニアカードが貰えるぜ。どんな星言葉があたるかは運ばれてくるまでのお楽しみらしい」
 そういって、ダイチは以前に貰ったというカードを皆に見せた。
 流星が描かれた金枠のカードには、おとめ座ε星のビンデミアトリクスの説明と『秘めたる輝き』という星言葉が記されている。
「花言葉はよく聞くが星言葉ってのは珍しいよな。俺もはじめてこれを貰ったとき、不思議な感じがしたが、何だか嬉しくて――」
 ダイチが語っていると、横合いからふたりの少女が顔を出した。
「えへへー、リカはおうし座ψ星のファイ・タウリーで『想像力』でしたですよ」
「あたしはアルファ・トゥカーナエで『甘え上手』だったよ。ダイチくんの奢りならいくっきゃないでしょ!」
 雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)と彩羽・アヤ(絢色・en0276)のふたりだ。彼女達も金枠の星言葉カードを持っており、今回もまたダイチに奢って貰う気満々で居るらしい。
 ふ、と笑ったダイチは、ふたりのように遠慮しないで欲しいと語り、双眸を細めた。
「何にせよ、楽しんでくれ」
 そうして、ダイチはそっと語る。
 これまでずっと地上で戦っていたが、もうその必要はない。それゆえにそろそろ故郷の地底に帰ろうと思っているのだ、と。行き来は出来るので今生の別れではないが、帰る前に地上の――つまり、大地の上で過ごす時間をじっくり味わっておきたいらしい。
 珈琲や甘味を味わい、星言葉を識り、ゆっくりとした時間を楽しむ。
 それはきっと、忘れられないひとときになるだろう。


■リプレイ

●連なる星
 落ち着いた雰囲気の調度品で飾られたカフェにて。
 志苑と蓮は穏やかな一時を楽しんでいた。天体の小物はアンティークなものが多く、志苑は大いに感心している。
 なかでも水晶が浮いた天球儀はとても綺麗だと語り、彼女はそっと微笑む。
「天球儀や地球儀は不思議と書斎のインテリアに合いますよね」
「まあ、確かに書斎によくある印象だな」
 二人が語っているのは店の改装の話。相談も大分煮詰まってきたので、蓮は内装に関しては志苑に任せる気でいる。
「こういったものを蓮さんの書斎かお店に飾ってみるのも良いやもしれませんね」
「そこは任せたい。センスある者に任せるのが一番だろ?」
「でしたら、お任せください」
 蓮と志苑は内装を眺めながら、様々な話をしていった。
 そうして暫し後、注文したパフェが運ばれてくる。志苑は天秤のような器に均等にフルーツとクリームが盛られたもの。蓮は双子のようなカップに左右対称になるようアイスが重ねられた一品だ。
 天秤座と双子座をイメージしたパフェを見て、志苑は嬉しげに目を細める。
 蓮は珈琲だけでも良かったのだが、志苑に合わせて頼んだ形だ。そして、二人はパフェについている星言葉のカードを覗き込む。
「蓮さんはどうでした?」
「これみたいだ」
 志苑はザニアー。おとめ座のη星、『芸術センスと浪漫』と書かれている。
 蓮はアルファ・カメーロパルダリス。きりん座α星、『協調性・恋愛上手』だ。
「それにしても、全て食べきれるかどうか……」
「ええ、それは勿論無理を承知でお願い致しましたのでお手伝い致します」
 パフェについて心配する蓮に対し、志苑は楽しそうに答えた。
「では頂きましょう」
「ああ、いただきます」
 これから巡っていくのは、言葉通りの甘い時間。
 二人で過ごす時間はとても心地良い。だから、これからもずっと。
 ゆるりと過ぎる時を大切な人と共に過ごせる幸せを想い、二人は視線を重ねた。

●星辰
 珈琲とパフェ。
 二つが一緒なら甘いものも食べられるはずだと考え、瑞樹はパフェに挑戦していた。彼がメニューの中から選んだのはエリダヌス座。
 アルゴー座や、猫好き学者が作ったといわれる猫座などの候補もあったが、トレミーの中でも珍しく自然物であるものを注文してみた。
 天辺に飾られているのは雷型のチョコ。四角い器には川のようにうねったクリームが飾られているパフェは実に甘い。
「生まれの乙女座パフェは気恥ずかしかったからな」
 頼んだ甘味は好奇心を満たしてくれた。瑞樹はエリダヌス座のパフェを味わい、運ばれてきたカードを眺める。
「成程」
 プラキエプア。こじし座『面倒見の良いお節介』。
 書かれた星言葉を読んだ瑞樹は店内を見渡す。心地よい星の巡りを感じられる気がして、彼は静かに笑んだ。

●二人の天の川
「とっても素敵なカフェですー!」
 店内を見渡してはしゃぐ灯の隣、カルナは星言葉のカードを眺めていた。
 二人の前に運ばれてきたのは鷲座と琴座のパフェ。鷲座には二枚の翼を象った最中が乗せられており、琴座には音符のウエハースが飾られている。どちらにも星型のチョコがあしらわれている一品だ。
 カルナの星言葉はアルファ・ラケルタェ。蜥蜴座α星で『サービス精神』
 灯はガンマ・ミクロスコピィ。顕微鏡座γ星の『恋愛と憧れ』
 カードを見つめた灯は、ふふ、と小さく笑う。そうして口に運んだパフェの味に、翼を震わせ、舌鼓を打った。
「ねえねえカルナさん。アルタイルとベガは彦星と織姫だって、ご存じです?」
「ああ、織姫と彦星でお揃いパフェですね」
「それなら話が速いです。今日はテーブル天の川を渡っちゃいましょう!」
 灯は自分のパフェをひとさじ掬い、あーん、とカルナに差し出す。口をひらいたカルナは、その甘さとドキドキに加えて、笑顔の彼女への愛おしさを感じた。
 味なんて分からない。けれども負けてばかりではない。
「それじゃあ、お返しに」
 自分のパフェも一匙、そっと差し出すことで灯を待つ。すると彼女が目を閉じて顔を寄せてくれた。カルナはスプーンではなく、唇に唇をそっと重ねて――。
「ね、美味しいでしょ?」
「わあ……! あの、えっと……ちょっぴり……反則、です」
 悪戯っぽく微笑む彼の顔が間近にある。
 灯はときめきに頬染め、お返しと不意打ちの口付けにどぎまぎした。けれどもそれはパフェにも負けない幸せの味。
 アルタイルとベガ。織姫と彦星。輝くふたつの星は今、そっと寄り添っている。
 彼らの天の星はきっと、これからもずっと――。

●いつかの星へ
「パフェだー!」
「パフェだよ!」
 リーズレットと瑪璃瑠の二人が其々に頼んだのは、王冠のチョコが乗せられた冠座と二つの器が並んでいる双子座の甘味。
 テーブルに届いたパフェを眺めたとき、ふとした疑問が溢れる。
「メリリルは双子座? 獅子座とかウサギ座じゃないんだね」
「うん、ボク達だからね」
「そっか、だって二人で一人だもんな!」
 後から続く瑪璃瑠の言葉に納得したリーズレットは明るく微笑んだ。そうして、瑪璃瑠も彼女が頼んだ物について質問する。
「リズさんは思い入れのある星座がそれなのかな?」
「昔、冠座って聞いて『空に冠がある! 私にもかぶれるー!』って喜んでたんだ」
「なるほどなんだよ、ならリズさんは星の冠のお姫様だね!」
 少し気恥ずかしそうにしている彼女の様子を見て、瑪璃瑠も楽しげに笑った。
 そんな二人に送られた星言葉は――。
 リーズレットはムリファイン。ケンタウルス座γ星で『直感』というワード。
 瑪璃瑠はプロキオン。こいぬ座α星であり、星言葉は『熱中』だ。
 わあ、と声をあげた二人は其々のカードを見せ合いっ子した。星剣とうさぎ座の話や、宇宙への希望について語る少女達は和気藹々と過ごす。
「宇宙に旅立ったら、行く先々で新しい星座の名前を付けたりするのかな?」
「確か見つけた人が星の名前決めて良かったりするんだっけ?」
 自分の星座があるなら、傍には双子のピンクと金の星が欲しい。獅子座と兎座で双子座にしたいな、と笑うリーズレット。
 その表情を見つめる瑪璃瑠も同様に笑み、話に花を咲かせていく。
「リズさん座……見上げてるだけで元気になれそうな星座だね。とっても眩い星に付けてみたいけど、まだ地球で勉強だね」
 もしかしたら星座の大三角形が出来るかも。
 未来への希望と展望を胸に抱き、二人は甘やかな時間を楽しんでゆく。

●大いに知り、描く
 地底からは星が見えない。
 だから地上に出た時はとても感動した。ダイチの思い出話を聞く理弥は今、似顔絵を書いている。以前は成長した想像の絵だったが、今は家族との絵だ。
 携帯電話に保存された写真と目の前の仲間を交互に見ながら、理弥は鉛筆を動かす。
「凄いな、理弥」
「遊星、もう少しこっち向いて」
 時々珈琲を飲みつつ、理弥はスケッチを進めていく。感心するダイチは自分と妻と娘が描かれていく様を興味深そうに眺めていた。
「美味いなこの珈琲」
「だろ、豆を仕入れたいと思うくらいだ」
 会話の最中、水彩の色鉛筆で描かれた絵が次第に完成していく。そうして理弥が描き上げたの星空の下で笑う家族の姿。
「ありがとう、娘が喜ぶぜ。何か礼をしないとな」
「誕生日だからいいって! でも、そういや地底って行ったことないんだよな。今度は地底にも招待してくれよ」
「それならお安い御用だ。ほら、これを渡しておこう」
 差し出されたのは地底の街の病院名と所在地、遊星・大知と漢字の本名が書かれた名刺。いつでも遊びに来い、と笑った彼に理弥も笑みを返す。
 そうして暫し、穏やかな時が巡っていく。

●兄弟
「大きくなったな、ルト」
「だろ、身長もちゃんと伸びたんだぜ!」
 故郷に帰ると決めたのはダイチだけではなくルトも同じ。二人は別れを惜しみ乍らも普段通りに過ごしていた。
 鷲座のパフェを頼んだルトは語る。兄の翼が鷲のようだったから懐かしい。バンダナに触れた彼の言葉をダイチは静かに聞いている。
「兄さん……今まで、オレのことを見守ってくれてたかな?」
「当たり前だ。兄貴は弟の成長を知って、喜ぶものだからな」
 ルトに贈られた星言葉はペルセウス座δ星の『好奇心』。平穏になった世界で過ごしていくのにぴったりな言葉だ。
「実はプレゼント忘れててさ。その代わりに……」
「ああ、何だ?」
「いつかオレの故郷で、空を見せたいんだ」
 澄み渡る明け空。星が瞬く夜空。それからダイチの故郷も案内してくれたら。ルトの申し出を彼は快く承諾した。
「だったら……俺の街を案内した後、ルトの故郷についていくとするか」
「だから約束だぜ。またこの空の下で――って、すぐ? この後から?」
「あはは、大事な弟分からの贈り物は早く貰いたくてな!」
 笑い声を響かせ、二人は視線を交わす。
 紡いだ縁は途切れない。今までも、これからもずっと。

●星の言葉
 この一年が星のようにきらきらとした、素晴らしいものになるように。
 祝いの言葉を送った後、環とアンセルムとエルムの三人は時が経つ早さを思う。様々な出来事が巡り、沢山の日々が過ぎた。
 人生相談をしたのがついこの間のようだが、思えば四年も前。アンセルムはあの頃のように未来を不安に思ってなどいない。
 大切な人もいて、好きな人だっている。
 こうして平和が訪れた後も、仲間と共に過ごせることは幸福だ。
「パフェ乙女三人衆! 再びですーっ!」
「乙女は一人だけなのは置いておいて」
「パフェを食べましょう。今日は思いきり楽しみにしてきましたから」
 環が元気よく片腕を上げる中、アンセルムとエルムは静かに微笑む。三人は其々に違うパフェを注文しており、テーブルには三者三様の様相がある。
 環が頼んだやまねこ座のパフェはクッキーの耳と尻尾がちょこんと乗った一品。星言葉はベータ・ヴォランティス。飛魚座β星で『けなげ』。
 エルムは左右対称の二つのグラスで彩られた双子座のパフェ。デルタ・ピクトーリス画家座δ星で『優しさ』。
 お任せにしたアンセルムに運ばれてきたのは獅子座のモンブランパフェで、星言葉はアルニラム。オリオン座ε星の『意識』だった。
 どれも凝った作りのパフェに目を輝かせ、環は二人に一口分けて貰いたいと願う。
 エルムは快く頷き、アンセルムは星言葉のカードをポケットに仕舞い込む。
「カード、二人はどんなだった?」
「……黙秘です」
「私は健気って言葉でした。って二人のも見せてくださいって! 聞いておいて自分のだけ隠すなんて裏切りは許しませんよー!?」
 首を振るエルムに対して環はすぐにカードを見せた。銀の箔押しがきらりと光っているが、アンセルム達は仕舞い込んだまま。
「ボクは見せないよ。ちょっと、ダメだって。ボク専用だよ、このカード」
「黙秘ですよ? なんで自然に手を伸ばしてるんですか」
「ずるいです! だったらパフェは二口貰いますからねー!」
 あまりにも二人が頑ななので環は別の手に出た。手が伸ばされ、片方のグラスを奪われたエルム。そしてアンセルムはパフェの上部を取られる。
「あ、そっちもずるい」
「モンブランが……」
「それよりもカード見せて下さいよ! 話はそれからです!」
「甘くておいしいです!」
 少しばかり混乱もあったが、そんなこんなで楽しく続いていく一時。真の平穏を手に入れても変わらない、大切な日常が此処にある。

●君が一番星
 天球儀と星を模した燈灯の煌めき。
 喫茶店の雰囲気は落ち着いていても、心は不思議と弾む。
「ルルも好きそうだね、この小物とか」
「だい、好き……!」
 店内の様相を眺めたリュシエンヌは、心からの思いを言葉にした。
 ウリルと繋いでいた手を思わず引き寄せ、胸元でぎゅっと握る彼女。その瞳には星のシャンデリアが映っていた。
 やっぱりな、と笑ったウリルは妻の愛らしさを改めて実感する。
「パフェはどうする?」
「もちろん、うりるさんの牡牛座!」
「それなら、俺は蠍座にするかな」
 注文を終えて暫し、二人の前に運ばれてきたのは雄牛の角を模したメレンゲクッキーが乗ったものと、デフォルメされた丸っこい蠍の尾型のチョコが愛らしいパフェ。
 ウリルの星言葉はアルゴル。ペルセウス座β星、『素直な純粋さ』
 リュシエンヌはベータ・ルピーでおおかみ座β星。『寂しがり屋』という星言葉カードが添えられていた。
「あ! ここ、うりるさんぽい」
 嬉しそうに写真を取っていく妻を見守り、ウリルは双眸を細める。きっとどちらのパフェも彼女が食べてくれるのだろう。リュシエンヌの幸せそうな笑顔が一番の楽しみであるゆえに、ウリルの頬も自然に緩む。
「美味しい~」
「この珈琲もいけるよ」
 パフェにご満悦なリュシエンヌと、珈琲を楽しむウリル。
 珈琲豆を買っていくかどうか。星言葉が互いにぴったりだという言葉や思いを交わす二人は微笑みあう。大好きがいっぱい詰まったひとときを彩るのは、他でもない。
 ――君だから。

●わんわんこわん
 紅茶の詰め合わせと星のクッキーを贈り、お祝いは完了。
 リリエッタとルーシィドはテーブルに腰掛け、互いのパフェを選んでいた。カフェに来る前に二人で決めたのは、最初の注文は相手に決めて貰うという約束。
「むぅ、なんだかいっぱいあるよ」
「リリちゃんにお似合いの星座、ちょっと悩んじゃいますわ」
 メニューとにらめっこしている二人は大いに迷っていた。添えられた星座の物語は悲しいものが多く、ルーシィドは頭がパンクしそうだった。リリエッタは犬の星座にしてみようと思い立ったが、よく見れば大きいものと小さいものがあった。
「決まりましたか?」
「せっかくだからここはおおきなわんこ座のパフェで!」
「こちらは可愛い子犬座を選びますわ。かわいいイコール、リリちゃんですもの!」
 二人はおおいぬ座とこいぬ座のパフェを頼むことに決める。
 そうして運ばれていたのは大小のグラスに犬の耳を模したチョコクッキーが飾られた一品。大犬はバニラ、小犬は苺のアイスが入っているのが特徴的だ。
 添えられた星言葉はリリエッタがデルタ・ピクトーリスで『ふれあい志向』、ルーシィドがオミクロン・ヘルクリスで『リーダーシップ』というものだった。
「星言葉、どうだった?」
「まぁ、リリちゃんらしいですわ」
 二人はカードを見せ合い楽しげに笑う。それから彼女達はお揃いの犬耳クッキーを楽しみ、パフェを半分こしてカフェの一時を楽しんだ。
 可愛いと美味しい。二つの気持ちは、嬉しさを更に彩っていった。

●星の繋がり
「ハウオリ・ラ・ハナウ! 誕生日おめでとう!」
 マヒナの明るい声が紡ぐのは祝の言葉。
 素敵なカフェを教えて貰った事に感謝を抱いた彼女に対し、ダイチも礼を告げる。
「ワタシ、きっとこれからも通っちゃう!」
「はは、それは俺としても嬉しいな」
 マヒナは早速テーブルにつき、メニューを眺めた。全天八十八星座が全てあるのかと想像した通り、パフェは多彩な種類がある。
 暫し迷った後、マヒナはみなみのうお座のパフェを注文してみた。秋の一つ星を持つ星座であるうえに、ひっくり返った魚の絵もユニークで好きなのだが――。
「やっぱりタイヤキ!」
 想像した通り、運ばれてきたのは口を開けた鯛焼きのお腹にアイスやクリームが詰め込まれた何ともへんてこな一品。
 添えられた星言葉はマルカブ。帆座к星で『友情』と記されたカードだ。
 マヒナは珈琲を飲みながら、天井の星図の中から星座を探す。思うのは今度は夫婦で来られたら、ということ。
 永遠を誓った、大切な人と共に。

●星と約束
 ふと、これまでの軌跡を振り返る。
 思えば戦いは星と共に在った。ヨハンとクラリスは己が扱ってきた力に因んで、蟹座と射手座のパフェを注文した。
 注文品が届くまでの間、ヨハンがテーブルに広げたのは天文情報と星占いの雑誌。それを覗き込んだクラリスは紙面に目を向けた。
「……ん、星座占いかぁ」
「蟹座は情緒豊か? 母性?」
「こういうの、結構当たってて侮れないよね。ヨハン、色んなことで喜んだり悩んだりしてきたでしょ」
 それに人を包み込む優しさだってあると思う、と語ったクラリスは静かに笑む。次の頁に視線を移したヨハンは彼女には敵わないと感じていた。
「射手座は好奇心旺盛で行動的ですか。クラリスさんは当たっていますね」
 ヨハンは頷きを返す。
 多くの戦場に立った彼女は、のびのびとした自分らしさを勝ち取ったようだ。
「そうだね、そうなれたのはここ数年のことだけど」
 自分以上に自分を知られていると感じたクラリスは少し照れを感じた。するとヨハンが自信ありげに答える。
「勿論です。こうして恋人になる前から応援していましたから」
「……ふふ、流石ヨハン」
「と、パフェが来ましたよ」
「わぁ、これは食べるの勿体ないかも」
 運ばれてきたのは蟹型の可愛いクッキーと、矢のチョコレートが刺さったアイスが飾られたフルーツたっぷりのパフェ。
 ヨハンの星言葉はプロプス。ふたご座η星で『寂しがり』、クラリスはヘルクレス座π星で『向上心と理想』。カードを見つめた二人は静かな視線を重ね、パフェに手を伸ばした。
「来年は僕達の星座を探してみましょうか」
「そうだね、私達の――」
 二人で語らうのは未来で星座を探す計画。
 約束が叶えられるまで。否、叶えられてもずっと一緒に。
 確かな思いが今、此処で結ばれた。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年10月23日
難度:易しい
参加:20人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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