リベンジ・オブ・アベンジ

作者:柊透胡

 ――――!!
 身体の方が、先に反応した。
「……」
 路地裏を転がり、受け身の反動で立ち上がった。灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)の両手は、既に得物を構えている。
「おー、すっげぇなぁ。流石は、レキセンのケルベロスサマだぜ」
 ゆうらりと、炎熱噴き出した路地の奥から現れたのは、橙に染めた全身鎧を着込んだ屈強そうな男。肩に担いだ大剣のみならず、全身から陽炎が立ち上っている。
「……ドラグナーか」
「おうよ。どうだ? かっこいーだろぉ?」
 ケラケラと軽薄な笑い声が夜闇に響く。太い竜尾に、爪も鋭い竜の手足、バッファローのような竜角を具えたその男は、ギザギザの牙を剥き出しにしてニンマリと。
(「嫌な、笑顔だ」)
 堂々たる体躯に反して、その顔立ちは寧ろ悪戯好きの少年のよう。だが、恭介は何とも言えない嫌悪感に顔を顰める。
「アンタだろ? オレの仲間サラったの」
「……何の話だ」
「トボけんなよ。チャイレスぶち殺したの、テメェだろっつってんだよ!」
 ドゴォッ!
 咄嗟に後退したスレスレを大剣が掠め、コンクリートの壁を深々と抉る。
「まー、あの野郎もタイガイ性格悪かったけどなー。一応、オレのダチだった訳。流石のヨーキ様も、ほっとけねぇじゃん?」
 笑顔も、陽気な口ぶりも、変わりない。だが、その双眸に灯るのは――隠しもしない、殺意。
「あー、何つうかな……フクシュウのフクシュウ? 今からテメェぶち殺すからさ。精々、歯応え良くオドッてくれよな!」
 
「『最後』の先に、もう一手。因果は巡る、というものかもしれません」
 ヨーキと名乗るドラグナーが、ケルベロスに討たれた同胞の報復を企んでいる。
「灰山・恭介さんと、連絡が取れません」
 気懸りそうに、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は眉根を寄せている。
「一刻の猶予もありません。灰山さんが無事の間に大至急、合流して下さい」
 ヨーキ、又の名を『橙炎のヨーキ』は、七夕の魔力に乗じて恭介が討ち果たしたドラグナーの同志であるという。
「陽気な性格で、常に笑顔を絶やさずジョークも好みますが……人間を殺す際もそうであれば、寧ろ凶悪な性質と言えるでしょう」
 怪力の持ち主で、大剣を悠々と片手で使う。力で敵をねじ伏せる事を好むようだ。
「力任せの斬撃と、炎を操って戦います。その威力も侮れませんが……相当に打たれ強いようです。お気を付け下さい」
 恭介が襲われる場所は、とある街の路地裏。周囲の雑居ビルは空き室が多く、夜になれば人通りも無くなる。避難誘導が不要なのは唯一の幸いと言えようか。
「街灯はありますので、夜目には困らないでしょう。ビルに三方を囲まれていますが、路地裏のどん詰まりは駐車場で、それなりに広さがあります。戦闘にも支障は無い筈です」
 敵は単身ではあるが、剛力のドラグナーだ。歴戦のケルベロスであっても、単独で渡り合うのは流石に厳しい。
「どうぞご武運を。灰山さんを宜しくお願いします」


参加者
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
青沢・屏(光運の刻時銃士・e64449)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)
ニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)
九田葉・礼(心の律動・e87556)

■リプレイ

●リベンジ・オブ・アベンジ
「――今からテメェぶち殺すからさ。精々、歯応え良くオドッてくれよな!」
 竜の足がアスファルトにめり込まんばかりに踏み込み、ドラグナーの剛剣が灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)を襲う。
「……っ」
 胸に走った朱線が、ジクリと熾火のような熱を帯びた。
(「まさか、奴の仲間が仇討ちにくるとはな……」)
 『橙炎のヨーキ』は軽佻浮薄。だが、一の剣が戯れならば、二の剣は殺意そのもの。
「やられてやる訳にはいかん!」
「恭介さん!」
 恭介の背後に、慌ただしい足音が幾重にも響く。駆け付けたケルベロス達も、すぐさま臨戦態勢を取る。
「トラブルが絶えない体質ですね。でも大丈夫です。私がいても手伝いに来ます」
 戦場に於いて、青沢・屏(光運の刻時銃士・e64449)の言葉はいっそ拙い。けれど、真っ直ぐな熱意に、唇を僅かに緩める恭介。
「今、あなたが殺した罪のない人に対して懺悔しても間に合いますよ? 」
 軽薄には軽口を。だが、『運命』と『信念』の銃口を『敵』に突き付ける屏の心中では、既に『死刑』と決している。
「ドラグナーにも仲間想いの方は居たのですね」
 リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)の感想は素直だ。常に絶やさぬ笑顔には、ドラグナーのそれのような侮りはない。
「……しかし、仲間想いなのは我々ケルベロスも同じです。貴方に恭介様は殺させません」
 決意の声も麗しく、ケルベロスチェインで守護の魔法陣を描くリリス。凛とした姿勢を見ながら、ニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)は全力疾走で弾んだ息を整える。
(「落ち着いて、灰山さんのお手伝い、を……」)
 ふと目に付いたのは、ドラグナーが抉ったコンクリートから覗く鉄骨。暴威に晒されて尚建物を支える強靭に、ニケの精神は同調する。立ち上るエクトプラズムがゆうらりと。
「……ああ、あのチャイレスの仲間」
 恭介が仇敵を討ち果たした七夕の夜、如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)もいた。チャイレスも人の心を逆撫でしたが、成程、このドラグナーも同じ穴の貉か。
「碌でもない奴だったらしいね。まあ、同類だからこそ仇討ちする気になったんだろうけど」
 七夕の邂逅を沙耶から聞いていた源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)も、嫌悪の色を隠さない。
「このノリでは全然説得力ないですね」
 知己を殺されての復讐は、理由としては正当。だが、真摯には程遠い軽薄に殺されるのは、恭介とて嫌だろう。
「ハハッ、ご挨拶じゃなねぇか。さっすが、お偉いケルベロスサマだぜ」
 ヨーキはギザギザの歯を剥いて嗤う。
「これまで、さんざデウスエクスぶっ殺してきたんだろ? 『フクシュウ』してきたんだろ? 自分らは良くて、オレらはダメとか、まさか、コーセーメーダイなケルベロスサマが言わねぇよなぁ!」
「あなたの事情なんか、知った事じゃないわ!」
 思わず、九田葉・礼(心の律動・e87556)は声を上げていた。
「仲間想いだから何? ドラゴンとその眷族がこれまでやって来た事は、残虐の一言では到底片付かない……それでも和解して、より良い未来を目指そうとしてる人達だって多いのに――!」
 ゲートも鎖されたこの期に及んで、『復讐』を名分にするドラグナーなんて、地球の人々のみならず、本星に残る同胞にとっても迷惑極まりない。
「灰山さん! ここはきっちり、引導を渡してあげるのが筋です!」
「あー、後ろでキャンキャンキャンキャンうるっせぇなぁ!」
 ――――!!
 橙に陽炎う焔弾を、紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007)が遮る。
「復讐の復讐か……復讐は、どちらか片方を全て断ち切るまで、終わらないんだね」
 首を断てば別の者に首を狙われる連鎖――顧みて3月。恭介も参戦した作戦で、英賀は宿願を果たした。復讐を遂げたのだ。到底、他人事とは思えない。だが、そうであっても。
「あんな態度の奴に、素直に首を差し出す気にはならないな……そうでしょ? 恭介君」

●復讐を嘯いて
「……」
 英賀の声は、確かに聞こえていた。だが、今しも爆ぜた橙焔が、恭介の奥底を刺激する――。
「……っ!」
 何かを探り当てる前に、轟音が相次ぐ。瑠璃と沙耶の轟竜砲二連発は、何れも狙い過たず橙の脚甲を穿つ。
「砕けろ!」
 小さく頭を振る恭介。敵が己を狙うならば、まずは戦闘に集中すべきだ。鋼の鬼と化し、強かに殴り掛かる。寸前、英賀より奔る電気ショックが、恭介の生命を賦活した。
「好きにはさせません……ゼロ・インキュベーター!」
 グラビティ・チェインを埋め込んだ弾丸、装填数左右合わせて12発。屏がトリガーを引くや、改造弾「タイムアルター」はヨーキの周囲に時計のような魔法陣を描く。敵の時間を封じ、その足を止めるべく。
 ――地球のTIME(グラビティ)が貴様を裏切った!
「英賀さん、大丈夫ですか!?」
 このドラグナーに情け無用。だが、メディックとして、こちらの被害を抑える方が優先される。
「今一度、あなたの力を!」
 既に守護の魔法陣はリリスが描いている。ならば――礼の中に記録されたグラビティを一時的に具現化、そのエネルギーを庇ってくれた英賀に送り込む。傷を癒し、攻撃力を上昇させる、礼の取って置き(オリジナル・グラビティ)だ。
 その足取りは確かに重く、よくよく見れば、橙の鎧に微細なひび割れ。だが、ヨーキは構わず大剣を振るう。
「……あ、わりぃ、わりぃ。テメェがオレの仇、だっけか?」
 その剣筋はニケを薙ごうとして、寸前で軌道を変える。一撃、更にもう一撃。ディフェンダーが庇うのも許さず、骨を断つ勢いで恭介に叩きつけられた。
「ぐ……っ」
 喉奥から込み上げる鉄錆びた味を呑み下す。恭介自身、復讐を果たした身だ。ヨーキが嘯く『フクシュウのフクシュウ』にも、ある程度の理解はあった。
「一応、『フクシュウ』なんだからよ。とりあえず、テメェから潰さねぇとなぁ?」
「貴様……」
 だが、ヨーキのニヤニヤ笑いに、仇敵を前にした悲壮感も必殺を誓う切迫感も皆無。
「沙耶さん、あいつやっぱり」
「はい。笑いながら多くの人を殺すような奴に、覚悟と重さは無縁でしょうね」
 だからこそ、瑠璃と沙耶には看過出来ない。2人が生まれ故郷を滅ぼした宿敵を討った『復讐』は、命を失った人々の無念と痛みを背負った重いものであったのだから。
 見交わす必要すらなく、同時に得物を構える。瑠璃が特大のプラズムキャノンのぶっ放せば、沙耶の翡翠の杖がファミリアに変じてその軌道を追う。
「そこだ!」
 奥歯を食い縛り、恭介は雷気帯びた突撃を繰り出す。命中すれば、甲冑すら貫かんばかりの神速の突き。だが、目くらましの炎弾にその勢いを相殺された。
(「動きは、そこまで速くないのに!」)
 英賀も又、眉根を寄せる。そう、力自慢というヨーキは、その膂力も打たれ強さも相当だろう。一方で、易々と橙炎を操るだけの魔力も持ち合わせている。如何にも脳筋騎士の風情で、ライトニングボルトを紙一重で躱されたのだから。
(「サークレットチェインは、発動した筈。それなのに……」)
 恭介や英賀と肩を並べる前衛に在ったからこそ、リリスはヨーキの暴威を間近で見た。グラビティの守護1枚を、ものともしない威力。英賀が遮った炎の破壊力も、恭介を襲った斬撃も、何れも防具がよく阻んだ筈。にもかかわらず、2人のダメージがヒールを無視出来ぬ程であったならば。
「クラッシャー、ですわね」
 ふと、リリスは迷う。ディフェンダーの身で、範囲に及ぶ回復量は知れている。気紛れな復讐の刃が、次にどこへ向かうか知れない。打撃を阻む盾は、何処に貼るべきか……。
「えっと……」
 やはり迷う素振りを見せたのはニケだ。鋼の意志とフォーチュンスターは同じ理力技。敵に見切られる率は高い。かといって、バラマキスプラッシュは列攻撃でキャスターに在っても厳しい命中率だ。グラビティの活性数も有限。その選択は戦況に直結すると実感する。
 常に最適解の行動を、瞬時の判断で取るのは難しい。それでも、仲間でフォローし合うのが、ケルベロスの戦い方だ。
「アスティさん、ブレジニィさん、前衛のヒール、お願いします!」
 クラッシャーである恭介のダメージは浅からず。アニミズムアンクを掲げる礼は、2人へ声を張り『癒し』への鋼の意志を示す。
 ――――!!
 突如、ヨーキに爆ぜたのは、サイコフォース。屏の極限の集中の末の一撃に、敵が怯んだ隙を突き、リリスのサークレットチェインが、ニケの大自然の護りが、次々と最前線に注がれた。

●アベンジ・オブ・ケルベロス
 敵はドラグナー。クラッシャーの重撃は時に他へ被弾しながらも、恭介を何度も抉る。
「その武器を使い物にならなくしてやる!」
「テメェらと鍛えた年数が違うんだよ。定命のクソが舐めんじゃねぇ」
 サイコフォースの散弾にも、ヨーキの余裕は失われない。それでも、敵の一打に、何倍ものケルベロスのグラビティが応酬する。
「貴方こそ、あまり人間を舐めない方がいいですよ」
 今しも、生きる事への罪の肯定を歌い上げたリリスは、思わず口を開く。
「人間を力で捻じ伏せて殺す事が好きだそうですが……貴方は人間の強さを知らない。貴方は人間の恐ろしさを知らない」
 これは忠告と、静かに言い放つリリスに、ヨーキは堪え切れず大笑する。
「ギャハハハハッ! だったら教えてくれよぉ。その人間の怖さってヤツをなぁ!」
 ゴオォォォォッ!
 振り抜かれたヨーキの大剣に陽炎が立つ。忽ち炎の波濤と化し、リリスを、前衛を吞み込む。
「熱いよなぁ、痛いよなぁ。そこはクソ虫も犬も同じってなぁ!」
「……っ」
 英賀のメディカルレインと反応し、立ち込める蒸気すら灼熱。雷壁越しの熱波に、リリスは喉を灼かれて咳込む。
「力を借りるよ!! グリフォン、その武威を示せ!!」
 文字通りの火力を抑えるべく、瑠璃は伝説の霊獣を召喚する。太古の盟約の下、獅子の体躯の鷲は大きく翼を広げて威圧する。
 冷やす意図は無かろうが、時空凍結弾を叩き付ける沙耶。屏は0'O・clockで、何度目かの足止めの魔法陣を描く。前衛3人の火傷を癒さんと、礼はエクトプラズムで疑似スキンを編み上げる。
 自らと大自然と恭介を霊的に接続し、ニケはヘリオンデバイスを通して、思念を送る。
『大丈夫、ですか?』
「ギャハハハハッ! 見てるか? チャイレス。こんな奴らに負けた弱っちぃテメェの為に、オレがフクシュウしてやるからよぉ!!」

 灰山・恭介は、ブレイズキャリバーだ。だが、その左目が地獄と化した時の詳細を、彼は覚えていない。
 大切な人を失ってしまった、その日――誕生日だった。年に1度の、楽しい1日の筈だった。
 炎が、総てを焼き尽くした、その時までは。
 軋るような笑い声を上げて、アオイホノオが燃え盛った。
 囃し立てるようにな笑い声が、ダイダイノホノオを煽った。
 蒼が家族を、橙が友を、呈を無くすまで、丹念に丹念に燃やし尽くす。
 片眼を炙られ蹲る少年は、それを最後まで、見ていた。
 好意を抱いていた少女を、二色の炎が争うように炭と化す、最期の刻まで――。

「ほざくなぁぁっ!」
 怒号が轟く。恭介の左眼の地獄が、憤怒を映して燃え上がる。
 ――――!!
 無銘の刀に地獄を纏わせ、恭介はヨーキに飛び掛かる。
「これまで、俺の家族を含めて、どれだけの子供とその家族を殺してきた!?」
 今や、恭介の脳裏に克明に浮かぶ。楽しくて堪らないと大声で笑う、橙の男の影を。
「よくも! 俺の友を笑いながら殺してくれたな! そんな貴様が、復讐など口にするな!」
 怒髪天を衝く恭介の形相に、ヨーキは初めて戸惑いを浮かべる。
「な、何だよ、急にブチギレて……いつだか覚えてねぇけど、ちょっと遊んだだけじゃんか。人間共がクソみたく脆いだけで」
「貴様こそ! 燃え尽きろ!」
 仲間の敵討ち――ドラグナーの襲撃を、1度はそう理解した恭介の理性は憤怒に燃え尽きた。
「恭介君……」
 痛ましげに目を細める英賀。過るのは、己が討ち果たした宿敵の影。
(「僕も、復讐の連鎖を生んだのかもしれない……」)
 それでも、宿敵を倒さない、という選択肢はなかった。
「だったら、全部倒す……それで連鎖を止める」
 敢えて、割り切る。横顔に暗殺者の冷徹を滲ませ、英賀は惨殺ナイフを握り直す。今は、己が復讐を援けてくれた彼へ助太刀を。
 ――もう終わっているよ。……ギロチンは既に落とされた。
「うがぁっ!?」
 其れは、思念の破壊・怨の除去。背後より刻む刹那まで、存在感失せた英賀の刃は暗殺の手腕。
(「『橙炎のヨーキ』、絶対斃さなければ」)
 キャスターの『マインドウィスパー・デバイス』は、ヘリオンデバイス装着者全員と、声を出さず思念だけで会話が可能となる。そして、思念で作成した画像も共有は可能だ。
 恭介が己の記憶を詳らかにした訳では無いだろうけれど。彼の叫びは、先に聞いていた『出来事』に悲痛と憤怒を彩り、ニケの気持ちを大きく揺さぶった。
『灰山さん、冷静に』
 それでも、感情に流されず思考だけは冷静に。フォーチュンスターを叩き込みながら、ニケは気遣う思念を送る。
「さあで、あとは頼んむ。この全てを終わらせてください」
 いっそのんびりと。拙く声を掛ける屏の視線の先で、ヨーキの体躯が派手に爆発する。仰け反ったドラグナーの甲冑を、礼の戦術超鋼拳が容赦なく叩き割った。
「だから、忠告しましたのに……」
 憐み混じる眼差しで、リリスはバイオリンを奏でる。タイトルは、機械仕掛けの夜想曲――即興の調べは、戦場に場違いな程美しく……思わず、ヨーキの足が止まった瞬間。
「復讐の理由は人それぞれだ。でも、ヨーキ。復讐を成し遂げるのは半端な覚悟では出来ない。それが分からない奴は返り討ちにされるだけなんだ」
 裂刀【架愚羅】がジグザグに閃く。血飛沫上げるヨーキを見やり、瑠璃は声を張る。
「さあ、恭介さん、覚悟も意地もない故郷の仇を、今こそ討ち果たしてやれ!!」
「じょ、ジョーダンじゃねぇ!」
 何処にそんな体力が残っていたか。大きく飛び退くドラグナー。
「せ、戦略的撤退! いいか、次こそフクシュウして――」
「多くの人の命を笑いながら殺せる人に、他人の為に戦うなんて無理でしょう」
 穏やかに辛辣を言い放ち、沙耶は戦友の標に導きの星を喚ぶ。
「恭介さん、トドメを!! 貴方の運命に希望を示します!!」
「嗚呼……貴様らとの悪しき因縁、ここで断ち切る!」
 泡食って身を翻すヨーキに、恭介の刃が脅威的な速度で迫る。
「これまでだ、ヨーキ! 地獄でチャイレスが待ってるぞ!」
 我流剣技・神速斬――復讐の刃は必ずや喰らい付く。
(「皆……少しは、浮かばれてくれたか」)
 家族と友の冥福を祈り、恭介は静かに瞑目した。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年8月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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