ケルベロス大運動会~大パン食い競走inアウトバーン

作者:桜井薫

「さて、今年のケルベロス大運動会なんじゃが……」
 円乗寺・勲(熱いエールのヘリオライダー・en0115)は改まった咳払いをひとつ置いて、おもむろに辺りを見回した。
「今回の大運動会は、まっことめでたか、特別な大運動会じゃ。なにしろデウスエクスの脅威は完全に去って、わしらケルベロスの完全勝利を祝う大運動会でもあるじゃからな、押忍っ!」
 朗々と響く声でエールを切って、勲は集まったケルベロスたちに話を続ける。
「戦費に充てる必要ば無くなった今回の大運動会の収益は、長か戦いで復興が遅れている地域の援助などに使われるっちゅうことになったんじゃ。デウスエクスとの戦いは終わっちゅうとも、まだまだケルベロスが世界の役に立てることは、ようけあるんじゃの」
 例年通り世界中でとんでもない競技が行われるのは変わらないが、今年は世界が平和になったことの他に、特別な点が一つあると勲は言う。
「万能戦艦ケルベロスブレイド! 戦いでわしらを大層助けてくれたこん強力な戦艦は、ケルベロス大運動会でも無敵の大活躍でわしらを支えてくれるんじゃ、押忍っ!」
 勲によると、今回は万能戦艦ケルベロスブレイドで地球全土を巡るのみならず、処女宮に大運動会の特設ステージを設けてリアルタイム中継が行われ、『小剣型艦載機群』に搭載したモバイルカメラで各所の様子が去年までよりもさらに密着して届けられる、とのことだ。
「これはもう、盛り上がること間違いなしじゃ。ここに集まった皆にもぜひ楽しんで貰いたいじゃ、押忍っ!」
 普段よりもずっとリラックスした調子のエールで、勲は楽しげに今から案内する競技の説明に入る。

「まず、競技の舞台じゃな。今から紹介する競技は、ドイツの有名な高速道路『アウトバーン』で開催されるんじゃ」
 勲は大きなドイツの地図をホワイトボードに広げて、大都市を示す2つの記号をマジックで指し示し、豪快な筆跡で双方を繋いでみせた。
「特に何が有名かっちゅうと、『速度無制限』ってことじゃな。細かか事ば言うと完全に全部の場所が無制限では無いんじゃが……競技が行われるこの全長200キロメートルほどの区間は、正真正銘の速度無制限じゃ」
 スピード上限なしの、超高速レースというわけだ。
 しかも、と勲が強調して言うには……。
「まあ、皆には車じゃのうて、人力を駆使して生身で走ってもらうんじゃがな!」
 一応、完全な徒歩だけではなく、インラインスケートやスケートボード、電動アシスト無しの自転車など、燃料や電気駆動などを利用しない範囲の乗り物は使用しても構わないとのことだが、ベースはあくまで人力で走り切るのがルールだ、と勲は言う。
「あと、ただ走るだけじゃ、ちいと絵面が地味じゃてな。ここは、日本が誇る伝統の運動会競技……『パン食い競走』で! 正々堂々勝負してもらおうと思うとるじゃ、押忍っ!」
 勲はいそいそと大きな袋を皆の前に広げ、様々な種類のパンを取り出して見せる。
「せっかくドイツでやるパン食い競走じゃて、ドイツパンに、プレッツェルに、本場のソーセージを挟んだパンに……とにかく、色々な現地のパンを用意してみたんじゃ」
 コースのスタート地点と、中間地点と、ゴール前。
 3箇所に用意されたチェックポイントで、最低1個ずつパンを食べきるのがゴールの条件だ、と勲は言う。
「パンのお代は全てケルベロスの組織持ちじゃて、えっと(たくさん)食べればえっと食べるほど、地域経済への貢献にもなるでのう。特別賞として大食い部門の表彰なんかも予定しとるけん、食べる方に自身ばあるケルベロスは、そっちを狙ってみるのもアリだと思うじゃ」
 勲は説明の区切りがついたことを示すように間をとり、一息ついた。
「パンも、人力高速レースも、平和も。好きなように楽しんでくれて構わんけん、気軽に参加してつかあさい」
 そしていつもより大分柔らかい表情でうなずいて、勲は皆への挨拶を締めるのだった。


■リプレイ

●出発地点
 ここは、速度無制限で有名なドイツの高速道路・アウトバーン。いつもは飛ばした車が風を切って行き交う幅広い道に集まっているのは、これから行われる競技に出場するケルベロスたちだ。
「お待たせいたしました! 只今より、ケルベロス大運動会『大パン食い競走』、まもなくスタートです」
 現地のアナウンサーが意気揚々と開催を告げた競技は、そう、パン食い競走。
 日本生まれの牧歌的な運動会競技を、ケルベロスの身体能力で派手に彩りつつ、欧州の公道を貸し切って大々的に開催しよう、というわけだ。
「今回は『小剣型艦載機群』により、各選手に密着しての中継が可能となっております。走りもパンも、決定的瞬間を一切見逃しません。どうぞお楽しみに!」
 そして、ある意味このレースもう一つの主役とも言える、パン。
 彼の言う通り、スタート地点には、素朴なライ麦の茶色いパン、ふわふわ小麦の白いパン、カリカリのプレッツェル、砂糖がけの甘〜いデニッシュなどなど、様々なパンが文字通り山となって積み上がっていた。
「ここからは選手密着ハイライト方式にてお送りいたします。それでは……スタート!」
 軽快な砲声と共に、出場者たちは最初の関門、スタート地点のパンへと走り出した。

●第一関門
「どうせ最後だから、楽しまなきゃね」
 ミスティアンは動きやすい格好も快活に、最後の運動会を目一杯楽しむべく、笑顔でレースへと繰り出してゆく。
 携えた水筒には、パンを食べる助けとすべく、彼女の好みのお茶がたっぷり詰め込んである。
「みんな、先は長いよ。頑張ろうね」
 周りのライバルたちと互いの健闘を祈りながら、ミスティアンは駆け出した。

(「狙うはもちろん1位……!」)
 鮮やかな紅の瞳に闘志をみなぎらせ、ジェミは激辛惣菜パンの並べられた机へとダッシュを決める。
「ジェミ選手、それにしても美しいですね……眼福です」
 司会が思わず言及したジェミの服装は、キュートとセクシーが絶妙にブレンドされた水着だ。赤をベースに白いフリルが躍るビキニは、彼女の健康的に鍛え上げられた肢体を惜しまず見せつけていた。
(「辛いので食欲を増し、おかずでエネルギーを作り、甘いので速攻性の気力充実……!」)
 ジェミは作戦通り、スタート地点で激辛の惣菜パンに躊躇なくかぶりついた。
「……辛っ!」
 思わず声が出るぐらいには予想より辛かったが、辛さにテンションが上がって結果オーライ。
 ジェミは3つの激辛パンを順調に平らげ、おいしいパンへの感謝を胸に、パンから貰った元気をエネルギーに変えて駆け出した。

「いっぱい食べてもいいんだね……なら思いっきりやろうかな……」
 天音は専用エアシューズの感触を確かめ、パンの積み上がった最初のチェックポイントに突入する。
「…………」
 私は結構、いっぱいご飯を食べられる……そんな天音の自己認識は、きっと誰もが認めざるを得なかっただろう。
 硬いのも大きいのもモソモソしたのも、何するものぞ。
 天音は黙々とパンを手に取り、あっさりと平らげ、そしてまた新たなパンを手に取り……と、エンジン全開だった。
(「もっと食べたいなー」)
 パンを切り上げてコースに出た天音の心の声を聞いたら、観客はきっと驚いただろう。初っ端からかなり食べたにも関わらず、彼女の胃袋はまだまだ余裕だったのだから。
 しっかり地面を踏んでダッシュする姿に、満腹の苦しさは微塵も感じさせない。
 中間地点でもゴール前でも、きっと天音の健啖ぶりは衰えることはないだろう。

「ジャーマン! ジャーマン! これぞ鋼鉄のゲルマン魂よ!」
 健啖ぶりと言えば、ブランシュも抜きにして語れない。
 ドイツパンなら、種類も数も問わず。ライ麦たっぷりの硬いロッゲンブロードだろうと、甘々のクリームがこれでもかと詰め込まれたクラップフェンだろうと、ブランシュは一切動じずに景気よく食べていた。
「光速で食べる為に!」
 脳筋大食い一辺倒かと思いきや、なかなかどうして戦略面も抜かり無い。
 他の競技でお腹を空かせ、冷たいお茶を持参し、ヒールを活性化しと、最善を尽くしていた。
「さあ、ここから華麗に爆走するわよ!」
 『疾風迅雷仕様』の派手なインラインスケートと、スピード感を演出するF4戦闘機のワッペン。
 見栄え良く華麗に爆走すべく、ブランシュは道に飛び出すのだった。

「車しか通っちゃダメなとこ走れるって、わくわくするね」
「スケールがすごいなぁ……確かにわくわくする!」
 ヴィと雪斗はまるで少年のようにはしゃいで、広い高速道路を全力で走れるという状況に目を輝かせている。
「もちろん、ドイツのパンも食べたい! むしろそっちが……げふん」
「ふふ、ヴィくん、食いしん坊が出てしまってるなぁ。まぁ、俺もそれ目当てなんやけどね!」
 男子のワクワク心は、食べ放題のパンにも絶好調だ。
 ヴィはソーセージドックを、雪斗はまるごとジャガイモパンを手にとって、それぞれ食べ始める……が。
「け、結構な食べ応え……! 飲み物ほしい!」
「美味しい……確かにめちゃくちゃ美味しいけど、炭水化物の暴力……!」
 美味しさも一級品なら、大きさも特級品。二人して目を白黒させつつ、係員に頼んで飲み物で一息入れる。
「ね、半分ずつ交換せぇへん? 折角やから色んなの食べたい!」
「そだね、じゃ半分こ!」
 雪斗の提案に、ヴィは一も二もなくうなずいた。
「……ん! おいしい! こうして二人で食べるといつもおいしい!」
「二人で楽しみながら進んでたら、きっとあっという間やね」
 食べるペースが上がったのは、味の目先が変わったのもあるが、二人で美味しさを分け合ったからこそだろう。
「ん、おいしかった! 雪斗は大丈夫?」
「俺も大丈夫やよ。さ、行こか!」
 ゴールの後の乾杯を楽しみに、ヴィと雪斗は仲良くコースに駆け出すのだった。

「うふふ、一番目指して頑張るわね~」
 雛菊は毎年ダッシュジャンパーに出してきた全力をこのレースへの力に変えて、一見ふんわり柔和に、それでいて雛菊なりに気合は十分だ。
(「美味しさを伝えることも大事よね~」)
 彼女が最初に手に取ったのは、カリッカリに表面を焼き上げられた、香ばしく薫るプレッツェルだ。
「あら~、いい香りね~。噛めば噛むほど甘みが出てきて、この香りも絶品だわ〜」
 競争の慌ただしさを感じさせないゆったりとした仕草で、雛菊は心底美味しそうに、幸せそうにプレッツェルを味わう。
「いいなあ、見てるだけでなんだか幸せな気分になるぜ。姉ちゃん、頑張れよー!」
 見物に来ていた地元民が、そんな彼女につられて思わず応援を飛ばせば、雛菊もそれに応えてふわふわと手を振り、絶品の癒やし系スマイルを返す。
(「カロリーは大丈夫かしら……は、走るから大丈夫よね! きっとそう!」)
 美味しさの代償は走りで解消することにして、雛菊は華やかな天女風の水着をなびかせ走り出した。

●中間地点
「リリも優勝目指して全力で頑張るよ!」
 走りやすいスポーツウェアにエアシューズで、リリエッタは小柄な体に気合を溢れさせる。
 スタート地点で食パン一斤のハニートーストを食べきったリリエッタは、序盤は少し抑えめのペースで走り、2つめのパンを食べやすいように息を整える作戦だ。
(「こ、これは……! でも、残す方が悪いよね」)
 中間地点で差し出されたパンは、巨大なナノナノ型のクリームパンだ。ナノナノ愛で思わず涙目になるリリエッタだが、意を決してぱくっと口を開け、ナノナノのお肌のようにもっちりしたパン生地と、天使のようにとろける白いクリームを味わい、平らげる。
「さあ、残りは全速前進だよ!」
 ラストは辛いの平気だから激辛カレーパンにしよう、と、リリエッタは全力で足を早めるのだった。

「甘みがたまりませんね、美味しいー」
 中間地点にてエレが挑み、楽しんでたパンは、ヴェックチェン。甘いあまーい、まんまるのロールパンだ。
(「完走は勿論、目指しますが、美味しいパンを食べれる分だけ食べたいですね!」)
 日本が生み出した美味しい競技に臨むエレの抱負は、美味しくいっぱい食べること。
「これに合うのは、なんと言っても……!」
 そしてエレはパンをより美味しく味わうため、係員に飲み物を頼んだ。合わせるのは、苦味強めに深煎りしたドイツ珈琲だ。
 甘みと苦味のバランスは実に丁度良く、良いバランスとなって順調にパンは減っていった。
「……ひと口だけですよ」
 ウイングキャットの『ラズリ』がサファイア色の瞳で物欲しげに見つめているのに気づき、エレは甘い幸せをお裾分けする。美味しいものは分け合ってこそ、だ。
「さあ、またいっぱい走りませんと!」
 食べ終えたエレは再び、カロリーという敵を退治すべく高速道路に舞い戻った。

「ここがアウトバーンなんですか、初めて見ました……」
「速度無制限である以上この道路は大自然と見做す。行こう、カロン。私たちは友達だ」
 カロンとシャンツェリッゼは走って人々に勇気を与えるべく、そして二人仲良くゴールを目指すべく、障害物一つない広い道を駆け抜ける。
「大自然で生きてきた身だ」
 中間ポイントでシャンツェリッゼは、好き嫌いなどない大自然の申し子として、激辛惣菜パンをさらりと平らげた。
「あそこにあるパンは高くて届きにくいけど……」
 テーブルに盛られたパンの山以外に、レースのお約束的に空中に吊り下げられたパンもある。
 カロンはジャンプ一番、迷わず一番高いところのパンを取りに行った。
「おおっと、これはすごい二段飛びだ! カロン選手、実にカメラ映えのする妙技です!」
 興奮混じりの実況を背に、カロンは見事なジャンプでパンをゲット!
「甘くて美味しいです!」
 大きなフレンチトーストを頬張るカロンに、シャンツェリッゼはスタイリッシュモードも凛々しく、折り返しの道へと誘う。
「さあ、行くぞ。もっと速く」
「はい!」
 仲良く、それでいて全力で。二人の足取りは軽い。

「我が守護する山深い里とヘリポートの間を日夜往復した脚力、見せてくれよう!」
 速さ自慢のウェアライダー魂は、走りへの気合いとなって括の気力を奮い立たせる。
「さてパン食いじゃ、変身は不得手なれど……この通りじゃ!」
 ぽふんっと軽やかな音が聞こえるような身のこなしで、括は熊の姿を現す。熊のマズルはまるで付け髭ドワーフのようで、個性あふれる可愛さはバッチリとカメラに写った。
「硬いのなんのその……おや野千代、おぬしも一緒に食べるかの?」
 カリッと焼き上げられたひまわりの種がたっぷりまぶされたパンを調子よく食べている括が感じた視線は、ファミリアロッドのモモンガだ。
「うんうん、存分に食べてゆくのじゃ!」
 他にもたくさんある種や果物が練り込まれたパンを見回して、括は野千代とさらなるパンの高みに挑むのだった。

「わたしの脚質を活かして、先行逃げなのー」
「あこは、主にムチ係(比喩)なのです!」
 ティフとあこは、人馬一体モードでレースに挑む。その様子は、まるで愛馬と騎手のようだ。
「ティッフィー、なまけ心はガブリ、なのです!」
「ひえー、あこ先輩に食べられたら大変なのー」
 インラインスケートで駆けるあこは、全力を温存してると見たら噛み付いちゃうのです、とばかりに心のムチを入れる。
「レインボーベーグルがあったらいいなー♪」
「ろ、ローストビーフサンドなんかもあれば最高なのですが……!」
「……もちろん、ありますとも!」
 チェックポイントでリクエストする二人に、中間地点の係員は満面の笑みで胸を張った。
「わあ、すごく綺麗なレインボーなのー」
「こ、これは、G1級の絶品なのです……!」
 カラフルに7色が渦を巻くベーグルを、ティフはパシャっと記念撮影してから嬉しそうに頬張り。
 赤身肉を低温でじっくりローストした牛肉のサンドイッチに、あこは舌鼓を打ち。
 ティフが頼んだドイツ名物、林檎の炭酸割りアプフェルショーレはすっきりと二人の喉を潤し。
「さあ、後半の直線、走るのです!」
「どんどん加速するの!」
 美味しいドイツ飯で、二人のレース終盤への気合いは最高潮だ。

●最終関門
「車で走るのは好きですし、自分で走れるなんて素敵な機会でショウ」
 故郷近くのレースとあって、エトヴァの気力は充実、備えも十分だった。
 凛々しくバイサーを身に着け、好みのドリンクを持ち込み、直線の加速と曲線の減速をしっかりと計算し……と、万事において抜かり無い。
「硬いパンならこうすれバ……」
 地元民の知恵か、硬いパンを水気に浸す一工夫もタイムを縮めるのに一役買った。
「さテ、ゴール前ですネ」
 ここは好きなパンをアピールするところかと、エトヴァが選んだのはフランツブレートヒェンだ。
「シナモンが香り、とても美味しいデス」
 ぐるぐるの渦巻きデニッシュ生地に、ふわりと香ばしいシナモンシュガーが薫り高く立ちのぼる甘いパン。シンプルにして旨味のギュッと詰まった食レポは、観客の食欲をそそることこの上ない。

「今年は特別な大運動会。張り切って盛り上げなきゃね!」
 奈津美の傍らには、ウイングキャットの『バロン』がお髭をピーンと張り、ファミリアロッドの『白雪』と『藍』が二羽仲良く羽ばたいている。人間1プラス3の可愛らしい小隊は心を一つに、チェックポイントを駆け抜けていた。
「それにしてもこのライ麦パン、このままでも美味しいけど、薄切りにしてサンドイッチにしても良いわね」
 スタート地点では、奈津美心づくしのサンドイッチを二羽が嬉しそうにつつき。
「プレッツェルは生ハムを添えたり、蜂蜜を塗ったりで甘くするのも美味しそう」
 中間地点では、前足でちょいちょいとねだるバロンがしょっぱいのと甘いプレッツェルを満喫し。
「やっぱりドイツに来たならこれは食べたくなるわよね」
 そして、今このゴール前地点では、皆で仲良くパリパリで肉汁溢れるソーセージドッグに舌鼓を打っている。
 競技中でさえなければビールが欲しいところだとひそかに思う奈津美だったが、冷えた本場のビールはすぐそこだ。

●表彰式
 そんなこんなで、レースは最終局面。
「さて、ゴール前。トップで入ってきたのは……カロン選手です!」
「シャンツェリッゼさん、やりました!」
 二人で連携したレース運びに、幸運の女神が味方した。
 カロンはぴょんぴょんと跳ねるようにゴールテープを切り、優勝の喜びを爆発させた。
「続いてのゴールは……ヴィ選手に、括選手です!」
 カロンとわずかな差で駆け込んできたのは、ヴィと括。
「雪斗、一緒に乾杯しよう!」
「これが、ウェアライダーの底力じゃ!」
 順位こそ付いても、友情に捧げる一杯も、敏捷種族の誇りも、等しく尊いものだ。
 シャンツェリッゼ、雛菊、雪斗……続いて次々とゴールしてきた選手たちにも、観客からの惜しみない拍手が送られた。
「さあ、レースが終わった後は、ドイツのビールにコーヒー、ショーレなどなどで、乾杯しましょう!」
「……パンも、まだおかわりある?」
 ゴールしてまだ食べる気満々の天音には、後から大食い特別賞が授与された。
 こうして、大パン食い競走は幕を閉じ、盛大な打ち上げが始まるのだった。

 ところで、完走こそしなかったが、強烈なインパクトを残した選手が居た。
「私がやることは一つ! 甘いパンを食べ尽くすわ!」
 梢子は宣言通り、甘いパンという甘いパンを食べまくっていた。
「見て頂戴、この餡子がぎっしり詰まったずっしり重量感のあるあんぱん……! まあ、揚げパン揚げたてを用意してくださるの!? 熱々を噛み締めてじゅわっと溢れる砂糖の甘みといったら……! あ、そうそう、くりすますに食べる『しゅとれん』も……まあ、あるのね! なっつとふるぅつがぎっしりと詰まったこのお味、癖になりそう……!!」
 と、このように、ほぼノンストップで繰り広げられた菓子パンの食レポに、一部の視聴者は釘付けだったとか。
 美味しいパンを愛する全ての者に、幸あれ!

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年8月8日
難度:易しい
参加:17人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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