飛ぶ夢は素晴らしくない

作者:土師三良

●宿縁のビジョン
 夜の公園を双頭の獣人が行く……などと言うと、幻想的なシチュエーションのように思えるが、その黒豹の獣人型ウェアライダーは本当に双頭を有しているわけではない。肩にウイングキャットが乗っているだけだ。
「にゃん」
 ウイングキャットが小さく鳴き、肩を提供している主人――玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)の黒い横顔を鼻先でつつく。
 しかし、注意を促されるまでもなく、陣内も既に感じ取っていた。
 ただならぬ者の気配を。
「まぁーた面倒なことに巻き込まれそうだな」
 そう呟いて足を止めた瞬間、バサバサと大きな音を立てながら、女が目の前に降り立った。『落ちてきた』と表現しても違和感がないほどの勢いで。
「ちっ……」
 思わず舌打ちする陣内。
 そんな彼を無表情に見据える女。
 彼女が身に着けているのは、鎧装騎兵のフィルムスーツのごとき極薄のボディスーツだった。その衣装の背中の部分が開いているであろうことは前面からでも判る。先程の『バサバサ』の発生源――白い翼が生えているのだから。オラトリオを思わせる白い翼。しかし、本物のオラトリオではないのだろう。四肢のそこかしこに見える機械的なパーツがその証拠だ。
 そして、それが陣内の舌打ちの理由でもあった。オラトリオに深い思い入れを持つ彼にとって、この女のような存在は許し難いのだ。
「何者だ、おまえ?」
「私は『ガラテア』という名で識別される者」
「いや、律儀に名乗らなくてもいいから……」
 さすがに鼻白む陣内。
 それに構わず、女は無表情のままで語り続けた。
「グラビティ・チェイン不足が深刻なレベルに達している。現状では飛行もできない。貴様のグラビティ・チェインを寄越せ。可及的速やかにな」
「つまり、カキューテキスミヤカに死ねってことか? 嬉しいねぇ。一度でいいから、『あたしのために死んで』と美女に請われてみたかったんだ。夢を叶えてくれて、ありがとよ」
「礼には及ばない」
「皮肉を真に受けるなって……」
 またもや鼻白む陣内であったが、気を取り直して、口吻をニヤリと歪めてみせた。
「見た目というかハード面ではオラトリオをそこそこ上手く再現できているが、ソフト面は改善の余地があるようだな。ここは一つ――」
 不敵な笑みを浮かべたまま、オラトリオならざる者にずいと迫る。
「――俺が教育してやるよ」

●音々子かく語りき
「北海道苫小牧市にある公園で、陣内さんがダモクレスの残党に襲われちゃうんですよー!」
 ヘリポートに招集されたケルベロスたちの前で、ヘリオライダーの根占・音々子が告げた。
「そのダモクレスは『ガラテア』という名前でして、見た目はオラトリオっぽい感じなんです。オラトリオに擬態して定命者の社会に紛れ込ませるために生み出されたんでしょうかね? それとも、ゲージュツ的かつ偏執的な欲求で以てオラトリオの再現を試みたダモクレスがいたんでしょうか? 前者だとしたら、とんだオラオラ詐欺ですよねー」
『オラオラ詐欺ってなんだよ?』と問いかける間もあらばこそ、音々子は話を続けた。
「まあ、敵の出自がなんであれ、陣内さんがピンチに陥ってることだけは間違いありません。だけど、今からヘリオンをブッ飛ばしていけば、ギリギリで間に合うはずです。陣内さんに助太刀してオラトリオもどきを倒して――」
 口を動かし続けながら、小走りにヘリオンへと向かう音々子。
「――オラオラ詐欺を未然に防いでください!」
『だから、オラオラ詐欺ってなんなんだよ?』という言葉をぐっと飲み込み、ケルベロスたちは音々子の後を追った。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
クリームヒルデ・ビスマルク(ちょっとえらそうなおばちゃん・e01397)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
レヴィン・ペイルライダー(夢のつづき・e25278)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)

■リプレイ

●レヴィン・ペイルライダー(夢のつづき・e25278)
 ヘリオンからダイブすると、眼下の公園から声が聞こえてきた。
「俺が教育してやるよ」
 三秒と経たぬうちに着地。声の主である陣内の位置は眼下から眼前に変わった。
「『俺』じゃなくて『俺たち』ですよ、玉榮さん」
 と、訂正を求めたのはジュリアス。陣内と同じく獣人型ウェアライダーなんだが、外見の印象はかなり違う。陣内は黒豹で、ジュリアスは犬だからな。
「どっかのマヌケがオラオラ詐欺にひっかかりそうだと聞いて、飛んできたんだけど――」
 猫系の人型ウェアライダーのアガサがじとっした目で陣内の背中を睨みつけてる。尻尾をゆらゆら揺らしながら。
「――なんとか間に合ったみたいだね」
「誰がマヌケだ、こら」
 陣内が振り返り、これまたじとっとした目でアガサを睨み返した。
 微笑ましい(?)光景だが、陣内の向こうにいるオラトリオもどきのダモクレス(音々子によると、『ガラテア』とかいう名前なんだとよ)はにこりともしていない。

●比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
「見た目は確かにオラトリオっぽい」
 ガラテアの顔をオラトリオのクリームヒルデがまじまじと見つめている。
「でも、所詮は偽物。オラトリオ2号たるおばちゃんが本物のなんたるかを教えてあげましょう」
「うん! じぃーっくり教えてあげるの! この――」
 アイドルめいたポーズを決めたのは言葉。こっちもオラトリオだ。
「――本物オラトリオ2号兼KAWAII担当の言葉ちゃんもね!」
「なぜ、どちらも2号なんですか?」
 と、バラフィールが戸惑い気味に尋ねた。ちなみに彼女はオラトリオじゃなくてヴァルキュリア。
「だって、クリームヒルデちゃんを差し置いて1号を名乗るのはおこがましいじゃなーい」
「いえいえ、ヤングな大弓さんのほうが1号に相応しいじゃないですか」
「そんなことないよー。どーぞ、どーぞ」
「どーぞ、どーぞ」
 二人のオラトリオが1号の座を譲り合っていると――、
「じゃあ、天使な僕が1号ってことでいいんじゃないかな」
 ――ヴィルフレッドがしゃしゃり出てきた。
 ツッコんだら負けだということは判っている。
 でも、ツッコまずにいられない。
「いや……あんたはシャドウエルフだよね?」
「うん。でも、心は天使だよ。ピュアッピュア! もう本当にピュアッピュア!」
 はいはい。

●ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
 アガサさんはもうなにも言わなかった。きっと、僕がピュアな天使だということを認めてくれたんだね。
「しかし、よく考えると、オラオラ詐欺という言葉は変じゃないですかね」
 唐突にジュリアスさんが問題提起。
「やはり、オラオラオラ詐欺と言うべきでしょう。オラ『トリオ』だけに」
 ……。
 うわー。空気が凍り付いちゃったよ。打撃なきアイスエイジインパクトって感じ。ただし、付随する状態異常はパラライズもしくは石化。
「そろそろいいか?」
 と、ガラテアが僕たちに声をかけ、状態異常をキュアしてくれた。
「こいつらのコントが終わるまで待ってくれるとはな。お優しいこった」
 チームでただ一人の地球人――レヴィンさんの体が炎に包まれた。彼はブレイズキャリバーだけど、それは地獄の炎ではないみたい。色が青いからね。エンチャント系のグラビティかな?
「これ以上は待たない。可及的速やかに――」
 無表情をキープしているガラテアだけど、殺気はびんびん伝わってくる。機械も殺気を発することができるんだねー。
「――貴様たちを倒す」

●クリームヒルデ・ビスマルク(ちょっとえらそうなおばちゃん・e01397)
「可及的速やかに? なるほど、なるほど。その勢いを応援しちゃうぞ。僕は心がピュアッピュアだからー」
 天使のような微笑を浮かべて、マルシェルベさんがガラテアに轟竜砲を撃ち込みました。
「とても『勢いを応援』しているようには見えないのー」
「えー? どうしてー?」
 大弓さんの苦笑混じりの指摘に対して、きょとんとした顔を返すマルシェルベさん。ピュアッピュアー♪
「悪いが、可及的速やかにことを終わらせるつもりはない」
 砲煙が晴れると同時に玉榮さんがガラテアに突っ込み、二本のゾディアックソードを交差させて、星天十字撃を叩き込みました。
「『さっさと済ませましょう』なんて言われたら、とことん焦らしたくなる性分でね」
「ホント、いい性格してるわ」
 そう呟いて腕を『ブン!』と振ったのは比嘉さん。強風が巻き起こり、玉榮さんの横をスレスレで通過し、ガラテラにぶつかりました。強風自体もさることながら、それに伴う無数の石礫のダメージも大きそうですね。

●ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
 猛攻に怯むことなく、敵は腕を突き出し――、
「疑似時空凍結弾、発射」
 ――弾丸状の光を指先から放ちました。それにしても、どうして技の名前をわざわざ口にするんですかね? いえ、べつにシャレじゃありませんよ。
 光弾の標的は玉榮さんだったようですが、大弓さんが横っ飛びで射線に割り込み、盾となりました。
 そして、即座に妖精弓で反撃。もっとも、弓から放たれたのは矢ではありません。
「これが本物の時空凍結弾なのー!」
 その時空凍結弾に続いて、輪っかが敵に命中しました。玉榮さんのウイングキャットの攻撃です。
「さあ、ぶーちゃんも本物のボクスドラゴンってやつを見せつけちゃって!」
 大弓さんの指示に従い、熊蜂型ボクスドラゴンのぶーちゃんが敵めがけてブレスを吐きました。『いや、ボクスドラゴンとか関係なくないっすか?』みたいな顔をしているように見えますが、気のせいでしょう。

●大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
「にゃあ!」
 かわいさましい(新語)鳴き声を発して、黒いウイングキャットのカッツェちゃんが爪をしゃきーん! かーらーのー! ガラテアにザクッ! はい、引っかき傷の出来上がりー。
「よくできました」
 カッツェちゃんを褒めつつ、バラフィールちゃんが翼を展開して羽根型の光を前衛陣(ちなみに私も前衛よ)に飛ばしてくれた。ヒール&防御力アップのグラビティ。
「ドゥエェェェーイ!」
 エンチャントを受けた一人――ジュリアスくんがゆうみゃう(古語)なる雄叫びをあげて、ガラテアに飛び蹴りを決めた。
「次はおばちゃんの番ですねー」
 待ってました、クリームヒルデちゃん。本物のオラトリオの力を見せつけてやってちょうだいなー。時空凍結弾とかシャイニンググレイとか、フェイントでオラトリオヴェールとか。
「このフェザーレイピアで斬り裂いてあげましょう」
 残念! 薔薇の剣戟でしたー。まあ、べつにいいんだけどね。うん……。

●バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
 華麗なる剣戟を披露したクリームヒルデさんに対抗するかのようにガラテアも斬撃を繰り出しました。刀剣ではなく、装甲に覆われた下肢を使って。
「おっと!?」
 陣内さんが蹴り/斬りを受けました。しかし、その表情にはどこか余裕があります。
「オラトリオの技を真似るより、その蹴りのほうが――」
 陣内さんの後方からレヴィンさんが飛び出し、稲妻突きでガラテアを攻撃しました。
「――オリジナリティがあってカッコいいぜ」
「それと、白い素足をチラつかせたほうが命中率は上がると思うぜ」
 陣内さんもゾディアックソードを一閃させて反撃。脚部装甲の一部を雷刃突で破壊し、お望み通りに『白い素足をチラつかせ』ざるを得ない状況を作りました。
「美女の戦闘装束ってのは、こういうタイトなやつばかりじゃなく、ゴテゴテと武装した厳つい感じのやつも悪くないんだよな。とはいえ、それもキャストオフの愉しみがあってこそ……いや、なんでもない」
 にやにやと笑いながら述懐していた陣内さんでしたが、途中でトーンダウンしてしまいました。アガサさんの冷ややかな眼差しに気付いたからでしょうか?

●玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
「『きゃすとおふ』というのは、なにかの専門用語でしょうか?」
「さあ? 天使な僕には判らないなー」
 バラフィールの問いを受け流して、ヴィルフレッドがガラテアに突進。手刀のシャドウリッパーで相手の状態異常を悪化させた。ピュアッピュアなジグッザグってか。
「ところで、ガラテアという名前が原典を意識したものだとしたら、彼女を作った旦那さんもいるかもしれないってことだよね」
「作った旦那さんというか……作った後で旦那になったんだっけ?」
 アギー(アガサのことだぜ)のケルベロスチェインが矢のように飛び、蛇のように蠢いて、ガラテアを縛り上げる。
 その拘束から逃れる暇など与えることなく、ブラックスライムが食らいついた。クリームヒルデのレゾナンスグリード。
「自作の等身大フィギュアに恋した挙げ句、お嫁さんにしちゃうなんて、オタクの願望充足みたいな話ですねえ」
 ちょっと耳が痛い。俺も『手に入らないのなら、自分で創るしかない』なんて思い詰めていた時期があったからな。
 とはいえ、それは昔の話。
 そう、ずっとずっと昔の話。

●再び、アガサ
 戦闘開始からそこそこの時間が経過。
『可及的速やか』という目論見はおじゃんになったけど、敵に焦りの色はない。
 てゆーか、焦り以外の感情も見えない。
「なんというか……無機質ですね」
 中衛陣にオウガ粒子を振り撒きながら、バラフィールが言った。
「ガラテアの作り手は彼女の見た目だけにしか興味がなかったのでしょうか? あるいはまだ試作品の段階なのでしょうか? どちらであれ……なんだか悲しいですね」
「そだね」
 だけど、当人であるガラテアはその悲しみに共感はしないだろう。
 ある意味、それがいちばん悲しいかもね。

●再び、バラフィール
 アガサさんがサークリットチェインを展開し、その聖域の中にいるオルトロスのイヌマルに向かって頷きました。
「がおー!」
 イヌマルは頷き返し、可愛い咆哮とともに神器の瞳でガラテアを攻撃。息ぴったりですが、イヌマルの主人はアガサさんではなく、ヴァオさんです。
 そのヴァオさんが『紅瞳覚醒』を奏でながら、アガサさんに頷いてみせました。
 だけど、アガサさんは反応することなく(無視したわけではなく、気付かなかっただけ……ですよね?)、陣内さんに声をかけました。
「それにしても、陣は変な女に絡まれてばかりいるよね。後でお祓いしてもらったら?」
「この前も美女に狙われてたしな」
 ある『美女』との一件(私もその戦いに加わっていました)のことを語りつつ、レヴィンさんがクリームヒルデさんに青い炎をエンチャントしました。

●再び、ジュリアス
「モフモフはモテ男のステータス。おばちゃん、覚えた」
 青い火の粉を撒き散らし、ビスマルクさんが敵に薔薇の剣戟を見舞いました。モフモフな玉榮さんがモテる(?)理由に得心したようですが……モフモフとモテモテはイコールではありませんよ。ソースは私です。
「疑似シャイニングレイ、発射」
 敵が二対の翼から光線を次々と発射しました。
 それらを浴びた人の中には本物のオラトリオたる大弓さんもいましたが――、
「ふふーん!」
 ――鼻で笑って余裕を示し、『私のほうが多いもんねー!』とばかりに三対の翼を大きく広げています。
 そして、本物の力を見せるべく、シャイニングレイを撃ち出す……ことはなく、妖精弓でブレイズクラッシュ。まあ、単体の標的に対多攻撃を用いるのは非効率的ですからね。
「ほら、ぼーっとしてないで、ぶーちゃんも本物っぷりをアピールアピールゥ♪」
「……」
 大弓さんに促されて、翅を激しく動かすぶーちゃん。あいかわらず『いや、自分は関係ないっすよね?』みたいな顔をしているように見えますが、気のせいでしょう。

●再び、言葉
「みゃあ」
「にゃおーん」
 ちょっと消極的なぶーちゃんと違って、カッツェちゃんと名無しの猫ちゃんは翼ぱたぱた&尻尾ふりふりで本物のウイングキャットぶりをしっかりアピールしてる。『ウイングキャットは関係ねえだろ』なんてツッコミは聞ーこーえーまーせーんー。
「どこのどいつがオラトリオ型ダモクレスなんかを生み出したのかは知らないが……まあ、オラトリオに憧れる気持ちはよく判るぜ」
 あ? レヴィンくんがオラトリオ愛について語り出した。本物オラトリオ2号としてはちょっと照れちゃうわね。
「オレの勝利の女神様もそりゃあ可愛いオラトリオだからな」
 あー、オラトリオ全般じゃなくて、カノジョさんのことだったんだ……いや、いいけどね。どうぞ、続けて。
「ちょっと天然で、キックしようとしたら、距離が足りずにズサーってするタイプなんだ。でも、オレに勇気をくれたとても優しい人でもあるんだぜ」
 続けすぎじゃない? ばーくーはーつーしろー。

●再び、レヴィン
「そう! あの人はどこぞのオラトリオモドキみたいにグラビティ・チェインのカツアゲなんてしないんだよ!」
 勇気をくれる『勝利の女神様』の笑顔を思い描きつつ、ジャマー能力を上昇させる青い炎をバラフィールにエンチャント。
 バラフィールが白銀のエレメンタルロッドから電撃を飛ばした直後、その青白い軌跡(オレの炎が加味されてるから、『青々白い』って言うべきかな?)の横に平行線が引かれた。妖精弓から放たれた矢によって。
「我々のようにチームワークというものが理解できていれば、あなたもここで襲ってきたりはしなかったでしょうね」
 と、射手であるジュリアスが語りかけている間に矢は命中した。バラフィールの電撃が命中したのと同じ場所にな。傷口を抉り抜く絶空斬だ。
「まあ、そういうタイプのかたでしたら、とっくに定命化しているでしょうが」
「ある意味、原典のガラテアは定命化したとも言えるがな。半永久的な存在の石像から寿命ある人間に変わったわけだから」
 女難続きの陣内が誰にともなく言った。
 そして、呟くように付け加えた。
「ただし、当人じゃなくて作り手の意思で……」

●再び、ヴィルフレッド
 あと数手で僕らの勝ち。
 そう確信できるほど、ガラテアの動きは鈍りに鈍ってる。状態異常を重ねまくるという戦術が効いたみたい。
「原典のギリシア神話なら、煽情的な格好も問題なかったのかもしれませんが――」
 クリームヒルデさんがダメ押しにジグザグスラッシュ。
「――現代では問題ありあり! こんなにピッチリした服を着て、背中丸出しだなんて! しかも、パブリックな場所で! 嗚呼、なんてはしたない!」
「背中は許してやろうや。綺麗な背筋が拝めるんだから」
 やに下がった顔をして、陣内さんがなんか言ってるよ。ついさっきまではシリアス寄りだったのに。
「うんうん! 鍛えられた女子の背筋、いいよなー!」
 一度たりともシリアスじゃなかったヴァオさんが同意してる。ピュアッピュアな僕には理解できない世界だな。

●再び、クリームヒルデ
「どんなに美しかろうと、背筋もその他諸々も紛い物だけどな」
 ここにはいないオラトリオの某女史を愛しているであろうペイルライダーさんが紛い物のオラトリオにゲシュタルトグレイブを突き刺しました。グレイブの刃は燃えていますが、それは例の青い炎ではなく、ブライズクラッシュの炎です。
「マガイちゃんに教えてあげるわ。これが本物のシャイニングレイよ!」
 本物オラトリオ1号(本人の遠慮は無視)の大弓さんが六枚の翼から対多用の光線群を発射。勝利はほぼ確実なので、効率よりもオラトリオらしらを優先したのでしょう。花が咲く頭を妙な具合に振ってますが……それもオラトリオらしさのアピール? 『これが本物の花よ』的な?
 そんなアピールをスルーして、紛い物はよろよろと玉榮さん(シリアスモードに戻ったらしく、もうやに下がっていません)に向かっていきます。なにか狂的な執着がある……というわけではなく、プログラムに従い、最初に見定めた獲物を優先的に倒そうとしているだけでしょう。たぶん。

●再び、陣内
 製作者の願望だけを詰め込んだ作品が意のままに動き、そして、可愛い声で囁く。
『愛しいあなた』ってな。
 いやはや、オタクの願望充足とは言い得て妙。マイ・フェア・レディは男の浪漫ってやつだが、目の当たりにするとグロテスクだな。悲しいほどに。
「ここにはあんたを助けてくれるピュグマリオンはいないよ。それとも、コレを自分のピュグマリオンだとでも思ってるわけ?」
 俺のことを『コレ』呼ばわりしながら、フェア・レディならぬフィアー・レディのアギーがガラテアに降魔真拳を叩きつけた。
「でも、残念。コレはただの黒いモフモフだ」
 へいへい。さようでございます。
 アギーに続いて、バラフィールが追撃の素振りを見せたが――、
「とどめはお任せします」
 ――すぐに身を退いた。すまんね。
 俺は改めてガラテアを見やった。
 ガラテアの口が動いたが、なにを言ってるのか判らない。アギーの一撃で発声装置をやられちまったらしい。
「ずっと昔の俺だったら、おまえのピュグマリオンになることもできたかもしれないな。だが、それでも――」
 ――おまえは幸福にはなれなかったはずだ。きっと、昔の俺はおまえを代用品として扱うだろうから。
 永遠に失われた命の代用品。

 そして、俺は剣を振り下ろし、哀れなダモクレスを石像に戻した。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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