最後の宿縁邂逅~妄執の四鬼、七夕に集う

作者:秋津透

「ダモクレスとの決戦が勝利に終わり、組織的に地球に侵略してくるデウスエクスはいなくなりました……が、個人的な遺恨でケルベロスを狙う『宿敵』デウスエクスは、まだ残っています」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、厳しい表情で告げる。
「そして、七夕ピラー改修作戦に投入された季節の魔力が『宿敵』デウスエクスの遺恨に作用し、地球に来られないはずの者や、既にコギトエルゴスム化して崩壊を待つばかりだった者まで含め、多くの『宿敵』を地球に呼び寄せてしまったようです。……そんな馬鹿なことがあるのかと言われましても、あるんです。予知してしまいましたから」
 言い放って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「私が予知した『宿敵』出現の場所は、ここ、神奈川県大和市の郊外にあるゴルフ場の一角です。時間は7月7日の夜22時。もともと、そんな時間には誰もいない場所ですし、ゴルフ場の所有会社や近隣の警察等には近寄らないよう連絡済です。近くの厚木市で大規模な七夕祭りを行っているので、その影響かもしれません」
 そう言って、康は画像を切り替える。
「出現する『宿敵』デウスエクスは四体。ノエル・マールブランシュ(紫と円舞曲を・e01629)さんの宿敵ダモクレス『鹿異線喰らい』白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)さんの宿敵ドラグナー『松代・智哉(まつしろ・ともや)』霧崎・天音(ラストドラゴンスレイヤー・e18738)さんの宿敵死神『ソラネ・ザ・イーター』リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)さんの宿敵螺旋忍軍『掃除大隊総司令官・ビッグオウル』です。それぞれ強力なデウスエクスのようですが、詳細は不明。宿敵主さんとの関係も、私にははっきり読み取れてはいません。能力や所有武器など、読めた分だけは、資料にまとめてあります」
 そう言って、康は一同を見回す。
「今から急行すれば『宿敵』デウスエクス出現の15分前ぐらいに現場に着けます。ただ、おそらく『宿敵』たちは、宿敵主の皆さんを認識すれば、即座に襲い掛かってくると思います。一対一では荷の重い相手ですし、連携などされてしまったら目も当てられません。予知によれば、七夕の魔力でいきなり召喚された『宿敵』たちは、状況がわからず相当に混乱しているようです。うまくいけば、互いに戦い合って消耗してくれるかもしれません。どのあたりで、どう介入するか。あるいは早めに降下して身を潜めるか。そのあたりは皆さんにお任せします」
 康がそう言うと、遠音鈴ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)がきっぱりした口調で告げる。
「私は、サーヴァントのロコとともに参加します。参加しなくてはいけない、という気がするんです」
「わかりました」
 ちょっと心配そうな表情になったが、康は小さくうなずく。
「『宿敵』は四体とも単体で、完全に孤立しており、撤退も逃走もしません。相手を全員斃すか、皆さんが全員斃れるか、どちらかになります。『ヘリオンデバイス』での支援も可能な限り行いますので、どうか『宿敵』を全員斃し、無事に帰ってきてください」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は深々と頭を下げた。

 7月7日、夜22時。神奈川県大和市にあるゴルフ場の一角。
 突然、空間にばりばりと電光が走り、四体のデウスエクスが姿を現わす。
 一人は戦闘服に身を固め、大振りのナイフを構えた白髪白髭の男『掃除大隊総司令官・ビッグオウル』
 一人は全身に包帯を巻き、蒼白色の氷とも炎ともつかないものをまとう女『ソラネ・ザ・イーター』
 一人は顔の半分を濃紺の仮面で覆い、裂け目だらけの濃紺の服をまとう巨漢『松代・智哉』
 そして最後の一人は、えーと、二本のチェーンソーを持って礼服を着た鹿『鹿異線喰らい』
 四体は互いに顔を見合わせ、そして次の瞬間、人間型の三体が、一斉に『鹿異線喰らい』に襲い掛かった。
「な、なにをするです鹿~! 私は怪しいものではないです鹿~!」
 『鹿異線喰らい』は悲鳴のような声をあげてチェーンソーを振り回す。ずばっと腹部を裂かれ、『ソラネ・ザ・イーター』が無言で飛び下がる。
「黙れ、鹿野郎! 貴様は、どっからどう見ても!」「怪しいすぎるわい!」
 『松代・智哉』と『掃除大隊総司令官・ビッグオウル』が声を揃え、同時に『鹿異線喰らい』へと攻撃を仕掛ける。この二人の息の合い方は、危険だ。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
ノエル・マールブランシュ(紫と円舞曲を・e01629)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
霧崎・天音(ラストドラゴンスレイヤー・e18738)
白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)
神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)
鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)

■リプレイ

●奇襲成功
「デウスエクス四体、出現しました!」
 予知された現場……神奈川県大和市にあるゴルフ場の上空にヘリオンが到着してから約十五分後。
 緊迫したヘリオライダーの声に応じ、九人のケルベロスと一体のサーヴァントがヘリオンから降下を開始する。
「ケルベロスに勝利を!」
 ヘリオライダーが告げ、降下していくケルベロスたちにヘリオンデバイスが装着される。
 そして、スナイパーのノエル・マールブランシュ(紫と円舞曲を・e01629)が『ゴッドサイト・デバイス』で得た情報を、落ち着いた口調で一同に伝える。もっとも、今回は『マインドウィスパー・デバイス』を使うキャスターがいないので、アイズフォンから各自のスマホ経由での情報伝達となる。
「地上に敵四体を確認したわ。そして、少し距離を置いて味方三体を確認。応援が来てくれたみたいね」
「そいつは有難い」
 クラッシャーの日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)が応じ『ジェットパック・デバイス』で降下速度を早める。
 そして月光で地上を見定め、宿敵四体の一人、ドラグナーの『松代・智哉』に向かって降下の勢いを乗せて斬りつける。
「ぐわっ!」
 不意を突かれたドラグナーが絶叫し、宿敵四体の一人で老人の容貌を持つ螺旋忍者『掃除大隊総司令官・ビッグオウル』が鋭い声を出す。
「何者だ!」
 しかし蒼眞は敢えて答えず、宿敵四体の一人、ダモクレスの『鹿異線喰らい』に声をかける。
「無事か?」
「は、はい、です鹿……って、貴方、私を助けに来たです鹿?」
 鹿の姿をした『鹿異線喰らい』は、戸惑ったような声を出す。他の宿敵たちが一応人間の姿をしているのに対し、礼服を纏い二丁のチェーンソーを装備した四足歩行の鹿、というダモクレスの姿はいかにも異様で、そのため状況が掴めない他のデウスエクスたちから「明らかな異物として」攻撃を受けている。ケルベロス側としては、その「誤解」を助長して、戦闘を有利に進めようというわけだ。
(「まあ、俺は、自分が多数派になりたくて、誰かを生贄にしてみんなで攻撃するように仕向ける扇動者や、それに加担するような輩は大嫌いなんだどな」)
 とにもかくにも奇襲は成功、所謂お約束ってやつでトラトラトラ、いやシカシカシカだ……なんてな、と、蒼眞は呟く。
 続いてシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が降下し、『鹿異線喰らい』にオリジナルグラビティ『また再び始まりの時(マタフタタビハジマリノトキ)』で治癒を行う。
「陽の輝き、春風の抱擁、力強き草木の芽吹き。あふれるその力で彼のものを癒しを!」
 光の粒子を伴う風が、傷ついたダモクレスを癒す。当の『鹿異線喰らい』は茫然としたままだが、『松代・智哉』と『ビッグオウル』は、憎々しげに謎の闖入者……蒼眞とシルディを睨み据える。
「貴様ら、この怪しい鹿の仲間か? 名を名乗れ!」
 老忍者が叫ぶが、蒼眞もシルディも応じない。相手を混乱させておきたければ、できるだけ情報を与えないのが鉄則だ。
 そして、続いて降下してきた霧崎・天音(ラストドラゴンスレイヤー・e18738)は、宿敵四体の残る一人、死神の『ソラネ・ザ・イーター』に声をかける。
「姉さん……私がわかる……?」
「……ね、姉さんだと?」
 どういうことだ、と、不用意に近づいた『松代・智哉』を、天音はうるさい邪魔をするなとばかりに、強烈な重力蹴りで吹っ飛ばす。
 そして『ソラネ・ザ・イーター』は、軋んだような声を出す。
「……この体の……縁者か? あいにく……この体の記憶は……すべて……地獄の炎に?まれた。残っているのは……憎悪。地獄の炎を持つ者……機械の身体を持つ者への……憎悪。その鹿は……機械の身体により憎む。しかし……お前は……地獄の炎を持つ機械か。姉妹か……どうかは知らぬが……私は……この体によりお前を憎む……激しく憎む」
「……そう」
 それでも……答えてくれるのは……嬉しい、と、天音は呟く。憎まれても……忘れられるよりはいい。
 そして、次に降下してきたリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は『松代・智哉』を撃つかと見せかけ『ビッグオウル』に向かって、サウザンドピラーから星のオーラの一撃を飛ばす。
「うわっ、な、何だ、この攻撃は!?」
「お爺、いえ……掃除大隊総司令官ビッグオウル。待たせたわね。決着をつけましょう」
 静かな口調で、リリーは老忍者に告げる。『ビッグオウル』は、くわっと大きく目を見開いた。
「お、お前は……リリーか……」
「見違えた? そうね、アタシももう二十歳だものね。いつまでも、何も知らない小さなリリーではいられないの」
 ごく淡々と、リリーは応じる。一方『ビッグオウル』は、焦りを隠しきれない声で呻く。
「お前が……ワシをこの場に引き摺り出したのか? すべては……ワシを殺すための、罠か?」
「だから、言ったでしょう? 決着をつけましょうと」
 あくまで静かに穏やかに、リリーは言葉を継ぐ。
 そして、続いて降下してきた鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)が、まったく状況が理解できずに立ち尽くす『松代・智哉』に向かって、オリジナルグラビティ『スパークルスラッシュ』を叩きつける。
「光の煌めきからは逃れられないよ!」
「ぎゃあっ!」
 マインドリングから変形させた『ライトアクスェイバー』から光の刃が飛び、ドラグナーに巻き付くような感じで全身を切り裂く。
「く、くそぉ……なんで、俺ばっかり……」
 満身創痍で呻く『松代・智哉』を、降下してきた神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)がちらりと見やったが、敢えて攻撃はせず、前衛の四人……蒼眞、シルディ、天音、愛奈に、サウザンドピラーから守護の光を放ち、BS耐性を付与する。
 そして、次に降下してきた白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)が、異様なまでに溌溂とした声で『松代・智哉』に告げる。
「お久しぶりですね~智也! まぁ、あれです。さっさと死んでくれません?」
「て、てめぇは……白石……」
 これは、てめぇの仕業か、クソ女、と、ドラグナーは怒りの咆哮をあげかかったが、二人の故郷を滅ぼし自身の胸に癒えない傷を残した『松代・智哉』を殺したくてしょうがない明日香は、当然ながら寸毫の容赦もなく、オリジナルグラビティ『アラベスク・ソード・カタストロフ』を発動させる。
「これはあなたと現世の繋がりを断ち切る別れの剣。さあ、別れを告げなさい。ああ、本当に清々する!」
「ふざけんじゃねえ、てめぇなんぞにやられて死んでたまるか……ぎゃあああああ!」
 耳障りな断末魔の叫びをあげ『松代・智哉』は、明日香が放ったグラビティの剣で全身を貫かれて息絶える。
「まず、ひとり」
 降下してきたノエルが、くくっと小さく笑い、コアブラスターで『ソラネ』を貫く。本来、彼女の宿敵は『鹿異線喰らい』なのだが、いまいち何故アレが宿敵なのか思い出せないのだけれど、まぁ、そのうち思い出すかしら、などと嘯く程度の関係で、他の三人のような深刻な因縁は(たぶん)ないらしい。それでも『鹿異線喰らい』が彼女を視認して襲ってきたらいろいろと面倒なので、ノエルは誰だかわからないように着ぐるみを着て、闇溜まりに身を隠している。
 そして最後に、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)とウイングキャット『ロコ』が降下を終え、同時に、ヘリオンに乗らずに駆けつけてきたイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)とミミック『相箱のザラキ』そして九田葉・礼(心の律動・e87556)が現場に到着した。

●それぞれの決着 
「これで、どうだっ!」
 鋭い気合とともに『ビッグオウル』はリリーに向けて惨殺ナイフをかざす。トラウマ攻撃で動きを止めようという目論見だったようだが、応援で駆けつけてきたディフェンダーのイッパイアッテナがすかさず肩代わりに入り、リリーはダメージもBSも受けない。
「そうね……アンタが欲しがったパラディオンの聖歌は如何? 暗夜の宝石は想像していたものと違ったけれど」
 淡々と告げ、リリーはパラディオンの聖歌「悠久のメイズ」を歌う。本来、列攻撃のグラビティなのでダメージは小さいが、BSとしてパラライズを与えるので、発現のタイミングによっては命取りになる。
「ぐ、ぐぬう……」
 老忍者は、顔を歪めて低く呻く。今のところ攻撃してくるのがリリーだけなので、まだ、生きるの死ぬのというほどのダメージは受けていないが、それも時間の問題だ。あの怪しい鹿はどうもケルベロスの一味らしいので、包帯女がやられてしまえば、多数のケルベロスが総掛かりで襲ってくるのは火を見るよりも明らかだ。何とかしてリリーを振り切って逃げたいのだが、ここがどこかも分からないのでは逃げる目算も立たず、そもそもリリーを振り切る試み自体がうまくいっていない。『ビッグオウル』は知る由もないが、リリーは『チェイスアート・デバイス』を装着しており、万一敵を逃がしても即座に追跡できる態勢を整えている。
 そして包帯女こと死神『ソラネ』には、ケルベロスたちの猛攻撃が集中する。
「ランディの意志と力を今ここに!……全てを斬れ……雷光烈斬牙…!」
 蒼眞のオリジナルグラビティ、異世界の冒険者ランディ・ブラックロッドの意志と能力の一端を借り受ける『終焉破壊者招来(サモン・エンドブレイカー!)』が炸裂し『ソラネ』の肩を大きく割る。一方『ソラネ』は、天音に向かって包帯を槍のように飛ばして突き刺そうとするが、シルディが飛び出して攻撃を肩代わりする。
「ふう……」
 小さく息をつき、シルディはドワーフの『戦言葉』を使って自分自身を癒す。そして天音が、オリジナルグラビティ『獄炎斬華・恨壊(ゴクエンザンカ・コンカイ)』を放つ。
「私が…全ての恨みを晴らす…地獄の……怨嗟の声を聞け…!」
 天音は地獄の炎で右脚を無数の炎の刃に変え、『ソラネ』の胴中へ叩きつける。『ソラネ』の全身からも地獄の炎が噴き出すが、その炎は天音の右脚に吸収され、ばきばきと音を立てて、死神の身体が半分に割れる。
 すると、全身を束縛するように巻いていた包帯が解け、地獄の炎も消えた『ソラネ』の口が小さく動く。
「アマネ……? アマネなの……?」
「姉さん……!」
 天音は両断された『ソラネ』の上半身を抱きとめ、互いの顔を寄せる。
「姉さん……思い出した……?」
「ええ……死神も……地獄の炎も消えたから……でも、私も……すぐに消える……」
 囁くように告げる『ソラネ』に、天音は同じくらいの小さな声で応じる。
「姉さん……大好きだった……」
「私も……アマネは狂ったのではなく……進化したのね……今ならわかる……どうか……進化できなかった……ダモクレスとともに進める未来に……進んで……」
 告げるうちにも微かになる『ソラネ』の声に、天音は何度もうなずく。
「うん……うん……必ず……」
「最後に……話ができてよかった……さようなら……私の大好きな……自慢の妹……」
 そう言うと『ソラネ』は静かに目を閉じる。アマネも目を閉じ、小さく呟く。
「……今度こそさようなら……姉さん……」
 そしてイッパイアッテナが、少々躊躇気味に声をかける。
「さあ、残りの仕事を終わらせましょう。まだ、終わっていませんから……」
 そう言って、イッパイアッテナはオリジナルグラビティ『龍穴』で、シルディと自分自身を癒す。
「大地の力を今ここに……顕れ出でよ!」
 その間に『相箱のザラキ』は、いちはやく『ビッグオウル』にがぶりと噛みつく。
「ぐおっ!」
 懸命にミミックを振り払う老忍者に向け、愛奈が光の刃を飛ばすが、これは避けられた。
「……おばあちゃんが言っていた。悪い奴は、年を取っているように見えても油断しちゃいけないって。むしろ、年を取っている方がタチが悪いって」
 憮然として、愛奈は呟く。以前、超高齢のエインヘリアルに強引に口説かれそうになるという、おぞましい体験をしたのを思い出してしまったらしい。
 一方、佐祐理は淡々と、イッパイアッテナに気力を送って癒し、続く明日香は『ビッグオウル』にトラウマボールを叩きつける。
「ぐあっ!」
「敵にトラウマ付けたがる奴って、自分がイヤ~なトラウマ持ってることが多いですが。案の定でしたか」
 きししししし、と、明日香は楽しげに笑う。なにしろ、長年にわたり殺したくてたまらなかった宿敵を見事仕留めたので、精神が異様なまでに高揚しているらしい。
 そして応援で駆けつけた礼が、オリジナルグラビティ『Armoerd Prison(アーマードプリズン)』を放つ。
「あなたはもう逃げられない。この魂たちがそれを許さないのだから……」
 与えるBSはパラライズ。期せずして、すごく状況に合ってますね、と礼は内心呟く。光の翼がトラバサミのような形に変形し、トラウマに悶える『ビッグオウル』の両脚を容赦なく挟み込む。更にノエルがミサイルを叩き込み、パラライズを重ねる。
「こ……これは……いかん……」
 呻いた『ビッグオウル』は、分身の術を使って自分の傷を癒し、BS耐性を付けようとする。ところが、術がうまくかからない。
「ば、馬鹿な……なぜ……」
 パラライズの麻痺か、と、老忍者は蒼白になる。そこへ蒼眞が、すかさず飛び込んで斬りこむ。
「運の尽き、だな」
 怒りも嘲りも含まない、冷厳に事実を告げる言葉とともに、蒼眞は『ビッグオウル』の傷を容赦なくなぞって斬り広げ、ダメージを与えBSを増やす。続いてシルディが、ドラゴニックハンマー『まう』を砲撃形態にして撃ち込むと、天音はリリーに声をかける。
「ここは……貴方が……」
「ありがとう」
 深くうなずき一礼すると、リリーはオリジナルグラビティ『竜巻螺旋掌(タツマキラセンショウ)』の構えを取る。
「もう全て終わったの……だから、これで仕舞いよ! アンタがアタシに伝えた最後の螺旋の業、味わいなさい! ……螺旋ッ!」
 全身を極限まで捻り限界まで溜め込んだ大地力を、音速の3倍強の速さで解放し触れたモノを跡形も無く吹き飛ばす。立ち上がれたとして内側より込み上がる暴力の渦が対象を只ではおかない。目の前の老忍者から伝えられた最強最暴の螺旋奥義を、リリーは寸毫の手加減もなく全力で解き放った。
「ぐわああああああああっ!」
 断末魔の叫びとともに『ビッグオウル』の身体が捻じれ、千切れ、粉々に砕ける。その凄惨な光景をしっかりと見据え、リリーは呟く。
「少しだけ、ありがとう。そして……さようなら」
 そして、ほんの少しの間、誰もが黙り込む。それからシルディが、凄惨な戦いをずーっと茫然と眺めていた『鹿異線喰らい』に向け、真摯な口調で告げる。
「キミは、ダモクレスだよね? ダモクレスの神、アダム・カドモンさんの停戦指令と、その後のことは皆が自分で考えて決めるように、という言葉は、聞いてる?」
「……聞いてます鹿」
 呟いて『鹿異線喰らい』は周囲を見回す。
「あなた方は、ケルベロスです鹿? なぜ私は、そして三人の殺されたデウスエクスは、こんな場所に飛び出して来たのです鹿?」
「俺たちにもよくわからんが、季節の魔力と宿縁に引き寄せられたらしい」
 蒼眞が告げ、ノエルが歩み出て続ける。
「貴方の宿縁は、私と繋がっているらしいのだけど。心当たりはある?」
「そういえば……あなたのインターネット回線を食べて怒られたことがあるような気がします鹿」
 首を傾げながら『鹿異線喰らい』が応じる。そうだったかしら、と、ノエルはやや物憂げに続ける。
「まぁ……、回線だなんて食べても満たされないでしょうに。そんなものよりもっと素敵なものが沢山あるわよ。たとえば葡萄酒、親しい人達の幸せな姿をみること。そんなわけでこちら側に来たら、二人でいろんな素敵なモノをあつめませんこと?」
「残念ですが……私は回線を喰うことを目的に作られたダモクレスです鹿。ケルベロスの皆さんと敵対するな、と言われれば、アダム・カドモン様の命令もありますから、従います鹿。でも、回線を喰うことをやめることだけは、できないです鹿」
 訥々とした口調で『鹿異線喰らい』は告げる。
「正直に言いますです鹿。私は、停戦命令が出た後、ダモクレスの宇宙艦の回線を喰ってしまって捕まり、解体処分を待っていたのです鹿。デウスエクスは死なないと言っても、ダモクレスの場合、解体されて別の機体に使われたら、元の個性も記憶も残らないのが普通です鹿。それは生物が死ぬのと、どこが違うです鹿?」
「……違わないな」
 蒼眞が唸り、ディアナが溜息をつく。
「だけど、見境なくそこらの回線食べまくられたら、迷惑どころじゃ済まないですよ? かといって、解体処分にされるのを承知で同胞の宇宙船の回線食べちゃう鹿さんに、自制心なんて期待しても無理でしょうし」
「威張って言うことではないですが、回線を喰えなくなるぐらいなら死ぬなり解体される方がマシです鹿。本来、ダモクレスのほとんどは、そのぐらい融通の利かないものなのです鹿」
 威張るというか、開き直り気味の口調で『鹿異線喰らい』が告げ、シルディが悲し気に訊ねる。
「どうしても、無理? 地球を愛して、回線を食べるのをやめて、ボクたちの仲間になるのは、どうしても無理?」
「無理です鹿。回線を喰うのはやめられませんし、地球を愛してレプリカントになるのも無理です鹿。定命に甘んじるのが変調ではなく進化だというのは、理解はできても、自分で選択できるものではありませんです鹿」
 きっぱりと言い放つ『鹿異線喰らい』に、蒼眞が訊ねる。
「それじゃあ、どうする? 回線を喰うあんたを自由にするわけにはいかん。定命を得るのも無理。あとは、ダモクレスの元に強制送還か、俺たちに倒されるかしかないんだが」
「強制送還は嫌です鹿。どうやって独房から抜け出したか、徹底分析されて、死ぬより酷い目に遭わされます鹿。季節の魔力と宿縁とか言っても、真に受けてもらえるわけないです鹿」
 そう言って『鹿異線喰らい』はケルベロスたちを見回す。
「作られてから、私はずっと一人だったです鹿。何でお前みたいな変なのが居るんだと、仲間のはずのダモクレスにも、さんざん訝しがられましたです鹿。ですから、無事かと言われて、治癒してもらって、助けてもらって、本当に衝撃的に嬉しかったです鹿。もう、これで死んでしまってもいいんじゃないか、というぐらいです鹿」
「だから……ボクたちの仲間になれば、それが当たり前になるんだよ?」
 シルディがすがるように言ったが『鹿異線喰らい』は首を横に振る。
「ダメなのです鹿。仲間に入れてもらうため自分を変えられるぐらいなら、私はとっくに自分を変えて普通のダモクレスになっていたです鹿。……まあ、そうなったていたらなっていたで、ケルベロスの皆さんと戦って戦死してたかもしれないです鹿」
「運命なんてのは、自分が選んだ……あるいは選ぶ余地なく歩いてきた一本しかないんだ、なんてな」
 半分独言のように言うと、蒼眞は『鹿異線喰らい』を見やる。
「結局、俺たちに討たれるのを選ぶか。まあ、こっちが勝つとは限らんが」
「冗談じゃないです鹿。この数相手に勝てるわけないです鹿。痛いのが長引くのも誰かを痛い目に遭わせるのもイヤなので、抵抗はしないです鹿」
 そう言って『鹿異線喰らい』はチェーンソを投げ出す。
「さあ、ばっさりやってくださいです鹿」
「いい覚悟だ。あんたのことは忘れない」
 言い放って、蒼眞が『終焉破壊者招来(サモン・エンドブレイカー!)』を放つ。シルディが涙ぐみながら轟竜砲を撃ち、天音が沈痛な面持ちで『獄炎斬華・恨壊(ゴクエンザンカ・コンカイ)』を打ち込むと『鹿異線喰らい』は意外なほどあっさりと倒れた。
(「姉さんとの約束……守れなかった……」)
 ごめんなさい、と、天音は夜空を仰いで呟いた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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