最後の宿縁邂逅~七夕の魔力は縁を手繰る

作者:柊透胡

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 ヘリポートに集うケルベロス達を見回し、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は徐に口を開く。
「『ゲートを修復し、ピラーに戻す』、その為に必要な『七夕の魔力』を、ケルベロスの皆さんにも集めて戴く訳ですが」
 7月7日、『銀河を越えて、遠く引き離された2つの地点を結び合わせて邂逅させる季節の魔法』に導かれ、数多の宿縁も又、手繰り寄せられる。
「1箇所につき、出現する『宿敵』は、4体。皆さんに向かって戴くのは、兵庫県神戸市、ポートアイランド北公園です」
 宿敵――デウスエクスはいきなり転移させられる為、状況が判らず混乱状態にある。そんなデウスエクスが4体も揃うとなれば、昏迷を極める事は予想に難くない。
「彼らが共同戦線を張ってしまうと、厄介です。デウスエクス同士が共闘出来ないよう……或いは、敵対するように仕向けて、戦況をケルベロスの優位に運ぶ事が、勝利への近道となるでしょう」
 出現の時間は『23時』。ポートアイランドの対岸にあるメリケンパークでは「神戸七夕スカイランタン祭り」が催されるが、21時には終了する。祭りの後に駆け付けるのも可能だろう。予めポートアイランド北部は封鎖され、周辺の避難も行われる為、一般人が北公園に紛れ込む心配もない。
「北公園は、神戸大橋のたもとにあります。海に臨むボードワン領事像の周辺は、タイルと芝生が敷き詰められて非常に広々としており、戦闘に支障はないでしょう」
 夜間の戦闘となるが、街灯はあるし、対岸の夜景や神戸大橋のライトアップで、夜目に困る事も無いだろう。
「デウスエクスは4体同時に出現します。お気を付け下さい」
 タブレット画面を一瞥したヘリオライダーは、出現するデウスエクスについて言及する。
「まず1体目は、『紅炎騎士団長コーデリア』。エインヘリアルです」
 エインヘリアルの第一王女エテルネ麾下、紅炎騎士団は昨年のアスガルド・ウォーの際、主君と共に潰えている。しかし、本来騎士団を束ねる立場であった筈のコーデリアは折悪しくコギトエルゴスム化しており、ゲート鎖された本星に取り残されていたようだ。
「ですから、彼女は、第一王女も紅炎騎士団も既に亡い事を知りません。真実を知らせるか否かは……皆さんの判断に委ねます」
 エテルネに絶対の忠誠を捧げるコーデリアは、少女の外見ながら、冷静さと豪胆さを併せ持つ女傑だ。青きゾディアックソードを操るが、獅子座のオーラを飛ばす時、迸るのは炎であるという。
「続いて、2体目は『無彩のフレネル』。ドラゴンです」
 純白の巨竜で、命の『色』を喰らい自らを彩る事を好む。その言動は気高く聡いが、本性は残忍そのもの。
「少なからずの土地が、彼女の襲撃で灰色に沈みましたが……度重なるドラゴン勢力の敗走により、定命化を余儀なくされていたようです」
 故に、ドラゴン・ウォーの折には、『大阪城ユグドラシル』への大移動に加わった模様。
「ただ、ドラゴン・ウォー、日本列島防衛戦を経ての無彩のフレネルの動向は、はっきりしていません。或いは、何処かのタイミングで、コギトエルゴスム化していたかもしれませんが……」
 七夕の魔力に手繰られた無彩のフレネルは、気儘に地球を襲撃していた最盛期に比べれば、明らかのその力を喪っている。
「それでも、光のブレスや『色』を喰らう能力は、侮れないでしょう」
 3体目は、魔導書猫達の主【ミレディ】――ドリームイーターだ。
「欠損は『愛』。モザイク化している胸の空虚を埋める為、ウイングキャットと似て非なる『魔導書の猫』を集めていたようです」
 その欠損故に、収集した猫達も大事にせず、搾り取った猫の魔力を顕在化して戦うようだ。
「どうしても入手出来なかった『猫』に、執着しているようです。彼女の業は多彩ですが、その執心に付け入る隙があるかもしれません」
 そして、4体目は厨二如来――言わずと知れた、ビルシャナだ。
「カッコよさこそが正義、厨二病こそ至高という教義のビルシャナです。対象の嗜好に最適な設定を呼び出す『厨二曼荼羅』は強力で、信者と認めた者の戦力を増強します」
 厨二如来からすれば、他の3体のデウスエクスは十分『カッコいい』だろう。連携されては厄介だ。
「4体ものデウスエクスと戦うのは大変と思います。しかし、皆さんが待ち構えている所に出現する敵は、大なり小なり混乱状態にありますから、こちらのアドバンテージは大きい筈です。万全の準備の上、必ずや勝利を。ご武運をお祈り致します」

 兵庫県神戸市、ポートアイランド北公園――海を見やれば、眼前に迫るのはライトアップされた神戸大橋。対岸のメリケンパークでは、ほんの数時間前まで数多のスカイランタンが夜空を彩っていた。
「……」
 点々と立つ街灯の下、タイルと芝生広がる敷地を踏みしめ、ケルベロス達は無言で待ち構える――七夕の魔力に手繰り寄せられる『宿縁』を。
 ケルベロス達の緊迫した空気に、心配そうな面持ちの貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)。程なくして、老淑女のアリアデバイス、即ち銀の懐中時計が、時を告げる。
 ――7月7日23時。
「あ……!」
 俄かに、虚空より滲み出る4つの影。見る間にそれぞれが呈を成すや。
「エテルネ殿下! 紅炎騎士団長コーデリア、只今罷り越しました!」
 第一声で主君へ呼び掛け、紫髪の少女騎士は首を巡らせる。すぐさま、狼狽の表情を浮かべた。
「我が君……何処に? それに、我が輩は……?」
『此処は……』
 エインヘリアルの長躯より更に上から、声が降る。
『地球であるのは、間違いなかろう……だが、この感覚。大阪城ユグドラシルでは無さそうか』
 咄嗟に青き大剣を構える少女騎士にも構わず、純白の巨竜は独りごちる。幾許かの惑いは在ろうが、冷静に現状を把握せんとしている様子。
「……!」
 先の2体が周囲に注意を払う一方、逸早くケルベロスに気付いたのは、胸にモザイクを抱くドリームイーター。
「これは、お前達の仕業ね……!」
 魔導書を開く彼女の周囲に顕れるのは、4匹の猫の幻影。何れもモザイクの翼を負う、ウイングキャットに似て非なるモノ。
 デウスエクスそれぞれの性質に拠るものか、確かに彼らは混乱を来したようだが、そこまで取り乱してはいないようだった。それでも、互いに共闘の様子がないのは、全くの初顔合わせだからだろう。
 敵の敵は味方、というが、かつてエインヘリアルの第二王女ハールが音頭を取った異種のデウスエクスの共闘は容易くなさそうだ。寧ろ、足並みを乱してデウスエクス同士も敵対させるには、どうすれば良いだろう……?
「これはこれは……フッ、『厨二曼荼羅』を説けぬ者には解り得ぬだろうが、ロリ騎士に白竜、セクシーな黒魔女……何れも、高みに至れる逸材よ」
 1体離れた水際に浮遊し、蓮華座に結跏趺坐するビルシャナは、シリアスな声音でほくそ笑む。
「『己を信じよ、然らば覚醒せん』。迷いあらば、我が解脱の道を示してやろうではないか」
 ……このままほっとくと、何か余計な事をやらかしそうです。


参加者
ティアン・バ(世界はいとしかったですか・e00040)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
五嶋・奈津美(なつみん・e14707)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)
村崎・優(黄昏色の牙・e61387)

■リプレイ

●七夕の魔力は縁を手繰る
 7月7日23時――神戸大橋の袂、ポートアイランド北公園に出現したのは4体のデウスエクス。
「エテルネ殿下! 紅炎騎士団長コーデリア、只今罷り越しました!」
 1体目は、紫髪のエインヘリアル――紅炎騎士団長コーデリア。
『此処は……』
 2体目、大いなる白竜――無彩のフレネル。
「これは、お前達の仕業ね……!」
 3体目、魔導書猫達の主【ミレディ】は、待ち構えていたケルベロス達を睨む。
「これはこれは……フッ、『厨二曼荼羅』を説けぬ者には解り得ぬだろうが――」
 4体目の厨二如来は1体離れ、シリアスな声音でほくそ笑む。
「迷いあらば、我が解脱の道を示してやろうではないか」
「フレネル!!」
 ビルシャナなど構わず、ドラゴン目掛けて真っ先に飛び出したのはレスター・ヴェルナッザ(銀濤・e11206)。身の内から燃え上がる猛りは獣の如く。
 妻を娘を、目の前で失った。己が利き腕を喰われた。郷里を灰に沈めた憎悪の粋に漸く手が届く。
(「奴を苦しめ殺せるなら、全て焚べて塵すら残らずとも構いはしない!」)
「レスター……」
 その精悍な背中を、ティアン・バ(世界はいとしかったですか・e00040)は視線だけで追う。
 レスターとは既知だ。彼がずっと仇敵を追い続け、単独で斃したがっている事も、知っている。ティアン自身、ドラゴンは仇で嫌いだし、その覚悟に水を差す気はない。
 それでも、交わした約束まで焚べ尽くして欲しくはないと思うから。
(「レスターが本懐が遂げられるよう、ティアンは、ティアンで、尽力する」)
 レスターの希求は、他のケルベロス達も先に聞いている。それを勝手気儘と謗る者はいない。集ったのは、宿縁の昇華を願う者ばかりだ。
(「七夕、ね。季節の魔法ってのは大したモンだ」)
 尤も、織姫と彦星の逢瀬のロマンティックには程遠い殺伐に、塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)は腕に巻き付いたシロの円らな瞳と見合わせる。
「ま、やりたい事を遂げられる様に協力しようか。アタシはその為に来たんだし」
「そうだね、新しい時代を迎えるため、全ての理不尽な戦いをここで終わらせよう!」
 大きく肯いた村崎・優(黄昏色の牙・e61387)だが、ふとその横顔に翳りが過る。
(「最後の宿縁邂逅……つまり、誰かを殺めなければならない事も、これで最後……」)
 無意識に、氷結輪と喰霊刀の刃を擦り合わせる。軋る金属音にハッと紫の双眸を見開く優。或いは、最後の大仕事になるかもしれない。ここは遠慮なく、全力全開で!
「さあ、行こう! 侵されていた人々の為、穢され続けてきたこの世界の為、最後の復讐を……!」
(「あれが、最後の紅炎騎士、か」)
 とはいえ、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)自身に、コーデリアとの因縁はない。エインヘリアルの少女騎士は、主君も同朋も既に亡い事をまだ知らぬ。戸惑いも露な彼女に、果たして真実は伝えるべきか。
「フッ……ここが運命の地のようね」
 一方、夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)はあくまでもマイペース。
「アテナ様! ここに降臨!」
 早速、人々に勇気と癒しを齎すプリンセスモードを披露すると、ウイングキャットの聖天使猫姫と揃って大いに胸を張る。
「女神の転生体として『覚醒』したこの力で厨二曼荼羅を説いてあげたいところだけど、ちょっとそこの奴らが邪魔ね」
「ではでは! 此処は派手に呪って差し上げましょう!」
 お気楽極楽、遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)。今日も楽しく呪うべく、ジェットパックデバイスを翼状に展開。
「呪いと祟りの使者! ジェット陰陽狐、参上!!」
「あら……ジェット陰陽狐って何かしら?」
「それは勿論、ジェット陰陽狐よ!!!」
 貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)の素朴な疑問は、威圧的に押し切られた。思わず苦笑する五嶋・奈津美(なつみん・e14707)だが、ドリームイーターの殺気を遮るように相棒のバロンの前に出る。
(「魔導書の達の『主』、ね」)
 魔導書を開くミレディの周囲に顕れるのは、4匹の猫の幻影。何れもモザイクの翼を負う、ウイングキャットに似て非なるモノ――畢竟、宿縁は寧ろバロンに在る。
 手繰られた縁に決着を――既にドラゴンと切り結ぶレスターに続き、身構えるケルベロス達。
 何より警戒すべきは、デウスエクスの連携。唐突な召喚の混乱に乗じて、迅速な各個撃破を狙いたい。
「さあ、決着を付けましょうか!」
 まずは、ほっとくとヤラカシソウナ厨二如来から――その厨二信仰心を擽るべく、奈津美は芝居がかった見得を切った。

●厨二如来
「ほほぉ、これはこれは」
 天々奈のプリンセスモード、篠葉の『ジェット陰陽狐』に続き、ケルベロス達の姿が次々と変わっていく――スタイリッシュに、アルティメットに。
「どう? アテナ様との至高の戦いの前に、邪魔者を先に排除するのはどうかしら?」
 超絶な上から目線で、厨二如来に邪魔者(デウスエクス)排除をけしかける天々奈。その間、聖天使猫姫はせっせと清浄の翼を羽ばたかせている(何せ、レスターVSドラゴンはもう始まっているので)。
「……! バロン!」
「奈津美、こっちは、任せて」
 厨二如来が口を開くより先に、奈津美のウイングキャット含む後衛を、毒帯びた猫の鳴き声が強襲する。ティアンの気遣いに頷き、奈津美は相棒とドリームイーターに対峙する。
「名乗りも上げず、横槍を入れるなんて……かっこよくないね」
 あからさまに顔を顰める優。自らの最終決戦モードを誇示するように身構え、勇ましく両の得物を打ち鳴らす。
 徐に双眸を細める厨二如来だが……ケルベロス達の様相を見回すと、何か期待するように嘴を揺らす。
「……それ、で?」
「何よ」
「まさか……それで、終わり、ではなかろうな? ……え。マジでそれだけ?」
 そうして、がっかりしたように肩を落とされた。
「単に、一段階変身しただけ! 目からビーム出すでも、悪魔の封印が解けるでもない! 我、超失望!」
「……」
 何故だろうか、天々奈ならずとも、何かムカついてきた。
「見た目とか意外性より、戦いを生き残る強き者にこそ、道を示す価値があるんじゃ?」
「あー……ほら、デウスクスとか、不老不死の時点で、汝らよりずーっとあどばんてぇじがある訳で。其処を更に超えてくれないと……我が厨二曼荼羅に相応しくないってもんで」
 翔子の意見に、ビルシャナの勿体ぶっていた口調が何とはなしに砕けている。多分、こっちの方が素なのだろうが。
「あーもう!」
 まず最初に、天々奈が切れた。
「そもそも! アテナ様は既に女神の転生体として『覚醒』しているの! 『覚醒』は自らすべきもの、ビルシャナの好みなんか知った事じゃないわ!」
「話は済んだか? よろしい、ならば戦闘だ」
 クールに応じたティーシャが、轟竜砲をぶっ放す。それが、始まりの合図。
「ぐ、く……『己を信じよ、然らば覚醒せん』」
 優の氷刃に抉られ、仰け反るのも束の間。己が経文を唱え、何とか反撃を試みる厨二如来だが、先に翔子が巡らせた雷壁が洗脳の魔力を尽く弾く。
「な……ならば、我がカッコよい念動力で!」
「はい、解除」
 今度は、ティアンのフローレスフラワーズが周囲に降り注いだ。範囲に及ぼすヒールであっても、ジャマーのキュアは心強い。
「う、ググぐ……な、ならばぁっ!」
 ドカバシベキゴキ……。
 一応、頑張って立ち向かおうとするビルシャナだが、些か戦力を分散しようと、ケルベロスの圧倒的な手数の集中砲火になす術なく。
「さぁ、次に呪われたいのは誰?」
 クラッシャーの最大火力、凶太刀を力一杯ぶち込んでご満悦の篠葉は、意気揚々と首を巡らせる。
「ぐ……おぉぉぉ」
 ……あ、まだ生きていた。
「こ、こうなれば、我が第四の厨二曼荼羅を……」
「今ここに禁忌の封印を解き放つわ!」
 よろよろと両翼を広げた厨二如来を、天々奈は容赦なく踏み躙る。
「アテナ様に敵対したことを後悔することね! 我が騎士よ、敵を貫きなさい!!」
 第一楽章『幻騎一閃』――自ら禁忌の封印を解き放った(つもりの)天々奈の可憐なる唄声が、幻影の騎士を喚ぶ。ギョッと身を仰け反らせたビルシャナを一刀両断、切り捨てた。

●紅炎騎士団長コーデリア
「紅炎騎士団長、コーデリアとお見受けする」
「……貴様らは?」
「ケルベロス、は知っているだろうか?」
「嗚呼、無論」
 速攻、ビルシャナをぶちのめしてすぐさま、思わぬ召喚に戸惑っていたエインヘリアルの騎士に声を掛けるティーシャ。
「先に事実を述べる……エインヘリアルの第一王女エテルネと、紅炎騎士団が既に亡い……昨年末のアスガルド・ウォーに於いて」
「!!」
 咄嗟に身構えたコーデリアの外見は少女ながら、騎士団長という地位は伊達ではないだろう。故に、剣を交える前に、ティーシャは説得を試みる事にした。独り取り残されてしまった彼女と、戦う必要性を感じなかったから。
「君がコギトエルゴスムとなっていた間に、起こった出来事を伝える」
 アスガルド・ウォーの後、グラビティ・チェイン枯渇の原因が判明した事。そして、その元凶であるデスバレスもケルベロスの奮闘を経て消滅した事。
「我々はダモクレスとの決戦を最後に、ゲートをピラーに戻しデウスエクスのコギトエルゴスム化を解除する研究を開始したところだ。宇宙の歪みの要因であるコギトエルゴスム化を無くせば、早晩、グラビティ・チェインの枯渇は解消されるだろう」
(「戦わないに越した事はありません……話をして、投降してくれるなら」)
 順々に事情を説くティーシャを、ヴァルキュリアの少年はハラハラと見守っている。時に、他方からの流れ弾を遮りながら。
「エテルネも、グラビティ・チェインの枯渇の元凶を探っていたのだろう? ならば、これ以上、我々が戦う必要はないと思うが」
「殿下への不敬は、大目に見るとして……1つ、訊ねたい事がある」
 剣を下したコーデリアの表情は、静かだった。或いは、とティーシャに期待を抱かせる程に。
「アスガルド・ウォーに於いて、と言ったな。では、エテルネ殿下を、弑逆せしめた者は、誰だ?」
「……っ」
「攻性植物か? 死神か? それとも……」
 ――――!
 ゾディアックフレイム――横薙ぎの一閃が、ティーシャのみならず後衛全体を青き炎に包む。
「……ケルベロス、だな」
 その冷静さ故に、コーデリアはティーシャの動揺を見逃さなかった。その頬を伝う一筋は、血の涙。
「コーデリア!」
「嗚呼、判っているとも。エテルネ殿下の本懐は、直に遂げられるだろう。だが、仇敵に見えながら生き長らえては、我が君と輩に向ける顔がない」
 業炎迸るグラビティを操りながら、コーデリアの表情に怒りはない。透明なまでの戦意に煽られるように、ティーシャは応戦する。
 投降を拒否されれば、ケルベロスのやるべきは1つ。グラビティが次々と少女騎士に殺到する。
「冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え」
 大地に隠潜する怨霊を引き摺り出し、強き縛めの呪とする――怨嗟嚶鳴之呪を解放する篠葉。耳に残る怨嗟も心地好さげに、いっそあっけらかんと言い放つ。
「特大の呪い、遠慮せず喰らっていって頂戴!」
「アテナ様の祝福よ! ありがたく受け取りなさい!」
 一方、天々奈が祝福の矢を前衛に射掛ければ、ティアンに似て寡黙なカモメがロッドから変じて飛翔する。
 ――――!
「では、わたくしも歌いましょう……想い捧げる『ウタ』を」
 梓織も喉を震わせ、唄い続けている。
 喩え、ソードの斬撃がケルベロスを薙ごうと、何倍もの手数がヒールし、更なるダメージを浴びせていく。
(「ふーん? 仇討ちを他のヤツらに頼る気は無さそうか?」)
 まだドリームイーターもドラゴンも残っている。だが、そちらを一顧だにしないコーデリアの様子に、何をか察した翔子は溜息1つ。
「全て洗い流されちまいな」
 明確には口にせず、魔力込めた強雨を浴びせ掛けた。
「まだだ……もう1回……! こおおぉわれよ!!!」
 スナイパーならではの精密さはなくとも、優の刃は一箇所だけを狙い、斬撃に斬撃を重ねて傷を刻み込む。
(「もし、このデウスエクスが『そう』ならば……僕だって枷も心も捨てて、ただ只管に歩むのみ!」)
 曰く――咲裂(ホトバシ)る暴力は怨讐ですらなく、あくまでも亡くした明日からの残響にすぎないのだから。
「……ぐ……」
 ケルベロス達の猛攻に堪え切れず、コーデリアが愛剣に加護を求めたその時。
『『切り裂け!!デウスエクリプス!!』』
 同志の幻――その得物であるジャイロフラフープを自身のアームドフォートに換装、思い切りよくぶん投げる。ティーシャの一撃は、コーデリアの獅子座の加護までも切り裂き、その命脈を断つ。
「……殿下、只今御前に。遅参を御許し下さい」
 虚空を見上げたコーデリアの呟きは、ティーシャの耳朶を擽り――末期の表情を確認する前に、エインヘリアルの長躯は身に纏う武具鎧諸共に霧散した。

●魔導書猫達の主【ミレディ】
「わたしの大切な相棒には、指1本触れさせないわ!」
 厨二如来、紅炎騎士団長コーデリアが倒れるまでの間、図らず、奈津美はドリームイーターを相手に奮戦する事となる。
「魔導書の猫達で埋まらなかった心を、今度は周りのデウスエクスに埋めてもらうつもり?」
 逸早く、ケルベロスを敵と認識した魔女『ミレディ』は、すぐさま敵陣に執着を見出した――白いお鬚蓄える黒猫を。
「バロンを手に入れたって、貴方の心の欠損は埋まらないわ」
「うるさいうるさいうるさい! お前にあたしの何が判る!」
 奈津美自身、この魔女と面識があった訳ではない。だが、相棒の境遇は知っている――未だ『魔力』として捕われている魔導書の猫達がバロンの兄弟であった事を。
 だから、奈津美はミレディを看過出来ない。
「心を満たすのは、大切な存在への愛情や友情であって、存在そのものじゃない」
「【伯爵】、あいつを黙らせて」
 白いシルクハットを小粋に被ったシャム猫の幻影が、鋭く一鳴き。
「……っ」
 突如、奈津美の胸に迫ったのは……寂寥だ。相棒も、ファミリアすら奈津美に背を向け去っていく――幾ら甘やかしても足りない愛おしさが遠ざかっていく。
「しっかりしなさいよ! 夢中になるなら、偉大なアテナ様になさい!」
 突然の別離は、桃色の霧に搔き消された。今しも、エインヘリアルを下したケルベロス達が奈津美の方へ駆け付けたのだ。
「大丈夫かしら?」
 梓織が控えめに咎人の血を撒けば、天々奈で上書きしきれなかった幻が全て失せる。
「しつこいバッドステータス……ジャマー、だね」
 ティアンの見当は間違いないだろう。愛用の弓を構え、彼女は思う。
(「ティアンが知らないだけで、皆それぞれ相手との縁があって、引き合ったのだろうから。思うような決着がつくといい」)
 天々奈とティーシャを一瞥し、白竜の巨体の陰を窺いながら。
(「私は闘い続ける。奴らを滅するまで!」)
 明確な悪を前にすれば、ティーシャも遠慮はない。魔女目掛けてゼログラビトンの集中砲火。
「ああ、そっちの茶トラは回復か。ちょっと大人しくしておくれよ」
 【侯爵】猫のヒールを阻むべく、翔子が殺神ウイルスを射出すれば、シロのブレスがその軌道を辿った。
「他にもバロンさんを攻撃する酷い相手がいたのに……全然気にしてないんだもの。これは悪霊の仕業ね!」
 やれやれと言わんばかりの表情で、篠葉はビシィッと決めつける。
「いくわよ、悪霊退散!!」
 めっちゃ楽しそうに、篠葉の氷結の呪い(クリスタライズシュート)が炸裂すれば、『悪霊』呼ばわりに敵も鼻白んだ様子。
「失礼ね、あたしは魔女よ! 魔導書猫達の主……」
「悪霊だろうが魔女だろうが、私の呪いが最強だって証明するわ!」
 意に介さない篠葉は、さっさと次なる呪いを用意する。まあ彼女にとって呪いは可愛いし、ノリ(呪い)と勢いで突っ走るのはいつもの事だ。
「……ぼ、僕だって! 全ての理不尽を……斬り捨てる!!」
 ノリノリの篠葉に優もちょっぴり唖然としたが、そこはそれ。両の得物を打ち鳴らすや、理力籠めた星型のオーラを蹴り放つ。ドリームイーターの執着は、きっと敵味方双方を傷付け合うと思うから。
「く、この……【公爵】、【子爵】、何とかしなさいよ! この役立たず共が!」
 忽ち何倍も増えたケルベロスの攻撃に、忌々しげに歯噛みするミレディ。もう既に己の手腕であろうに『猫』達に当たり散らす醜態に、奈津美はやるせなく頭を振る。
「そろそろ、終わりにしよう」
 ――眼前の敵を叩き潰せ! エア・ハンマー!
 奈津美が打ち出した圧縮空気が、ミレディの足を止めたその時。
「オレのこの炎が、バロンの力になれますように。敵に立ち向かう勇気を!」
 救援のガンスリンガーより放たれた青き炎が、お鬚を蓄えた黒猫を包む。
「見せてやれ! アイツじゃ絶対に満たす事が出来ない絆ってやつを!」
 見た目は威厳あっても、普段は少し臆病でのんびり屋な甘えん坊。けれど、戦場では頼もしくも勇敢な、奈津美の唯一無二の相棒。
「バロン!」
 翼を一打ち、肉迫した前脚の肉球の先に閃く鋭利。
「そ、んな……」
 愕然とした表情のまま、崩れ落ちる魔女を見下ろし、奈津美は息弾ませるバロンを後ろから優しく抱き締める。
「ミレディ……もし次の生があるとしたら、その時こそ貴方の心の空虚が埋まる事を祈るわ」

●無彩のフレネル
「無彩よ、お前への憎しみがおれを生かし、おれの憎しみがお前を生かした……だが、今日でそれも終いだ」
 銀の炎を纏い、レスターはズシリと超重の戦鎚を構える。
 ――――!
 轟く竜砲弾を浴び、無彩のフレネルは首を傾げる。
『貴様……何奴?』
「……っ!」
 憤りが地獄の如く燃え上がる。続く攻撃を前に閃く爪撃。ザクリと抉られた外套の裂け目から男の地肌が覗く。
「おれの、総てを、灰に沈めた……忘れたとは言わさん!」
『……』
 レスターの怨嗟の叫びに、白竜は暫し沈黙する――否。
「……何が、可笑しい!」
『貴様は、これまで食してきた物を、一々覚えているのか?』
 クツクツと長首を震わせ、レスターの一撃をブレスで相殺したドラゴンは嘲るように哄笑する。
『我を彩った高々一色、顧みるも馬鹿々々しいわ!』
 ギリリと、奥歯が砕けんばかりに噛み締めた。男の総てを貪りながら、ドラゴンはそれを取るに足らぬと貶めたのだ。
『定命の犬の分際で、単身我に牙剥こうとは、蛮勇通り越し滑稽よ。せめてもの情け、我が尾の一色に加えてやる』
「フレネルゥゥッ!」
 絶叫して飛び掛かる。遮二無二、グラビティを繰り出す。反撃は、苛烈。フレネルの光撃はレスターの他を巻き込み薙ぎ払い、一帯の命を灰に染める。
 ――――!!
 己と現を繋いでくれる錨のようなティアンや、宿怨の昇華の援けに来てくれた優が何度も巻き込まれるのを知りながらも、レスターは只管にフレネルを穿ち続けた。
 確かにレスターは歴戦のケルベロスだ。だが、仇敵は究極の戦闘種族、ドラゴン。定命化に冒されて尚、或いは彼の武威をして尚……単身の突撃は、無謀であった。
(「喩え……愚かなやり方だろうとも……」)
 キャスターをして回避赦さぬブレスを真っ向から浴び、男の脳裏を過る『二文字』。だが、ドラゴンがドラゴンたる強さを前に、それすらも必勝の手段とは言い難い――徹頭徹尾、単身の戦いであったならば。
 気付いていた筈だ。幾度となく、その身を浸した癒しを。
 レスターの、ティアンの支援に駆け付けた刀剣士が居た。
「貴方が魂を懸けて追ってきた存在! で、あれば! 他の存在は通しません!」
 他のデウスエクスからの被弾を庇い続けた、鎧装騎兵がいた。
「さって、まだまだ元気でいてもらわないとねぇ」
 癒しの気力を溜める翔子の腕から鎌首もたげ、白蛇めいた小さきドラゴンも己が属性を注ぎ続ける。
「さあ、アテナ様を崇めるがいいわっ!」
 天々奈のサキュバスミストを聖天使猫姫の清らな翼が羽ばたいて広げ、梓織も懸命に癒しの葉を撒き続けている。
「涙を流し血を流し、それでもなお進み続ける! 二つ無き身を賭けて希望の未来を切り開くこと、それこそが僕達ケルベロス……いや、生命を持つ限り誰しもの使命だ!」
 勇ましく言い放つ優ではあるが、繰り出されるのは攻撃ではなく癒しのオーラだ。
「行くぞ!古き時代からの因縁、今ここで全部終わらせる!」
 その戦況を見守るケルベロスから1つとして助太刀はなく、溢れんばかりの癒しと僥倖のみがレスターに収束する。
 嗚呼……救い様のない己を掬った手がこんなにも。他があり己がある、と解った今だからこそ躊躇いはない。
「これが……お前が嬲り喰らい殺した者達の痛みだ」
 強く眩しい者達を、もう2度と奪われぬ為に。
「オルの、メルの痛みだ。身を以て知れ……ッ!」
 妻子の名を叫ぶのを最後に、理性も自制も己が身も焚べて、白銀の地獄は猛る。千の傷を、万の怨嗟を、貪った命の数を――刻むまで止めぬ獣の如き連撃。喩え己が芯まで灼き尽くしても。
 ――花の世よ、在れ。
 そして、一面斉放する幻影の花々。鮮烈に灼き付いて、瞬く間に弾けて消える、それはひかりの、泡。ティアンの心尽くし。
『馬鹿、な……』
 斃れたのは、白き巨竜の方だった。

 7月7日、その日付が変わる前に。手繰り寄せられた宿縁は、残らず昇華に至る――深夜の公園に、静寂が戻った。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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