最後の宿縁邂逅~千載一遇

作者:あき缶

●七夕の奇跡
 季節の魔法。膨大なエネルギーのそれは、ありえないことも引き起こす。
 『ゲートを修復し、ゲートをピラーに戻す』作戦のために人々が七夕の祭りを盛り上げて生み出す七夕の季節の魔力。その余波で、デウスエクスが転移してくるという。
「ありえへん話や。せやけども、季節の魔法の前で『ありえへん』はありえへんということやね」
 香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)は、アーヴィン・シュナイド(鉄火の誓い・en0016)をはじめとしたケルベロス達に、いきなり『宿縁のあるケルベロスの前に』出現するデウスエクスの討伐を依頼した。
「向こうも、なんで出現したんか分からんみたいや。出てくるのは四体のデウスエクスやねんけど、お互い見ず知らずやから更に大混乱や」
 その混乱に乗じて攻撃を仕掛けるのがいいだろう、といかるは言う。
「四体が手を組んだら厄介やからね。共闘しないように、もしくは敵対する感じに持っていけたらエエんちゃうかな」
 七夕の魔法の余波で生じる事件なので、現場は七夕の祭りの近くになるそうだ。
「時間は七月七日の午後十時、場所は無人の市民グラウンド。開けた場所やし、ライトもあるから、夜でも戦うのに問題はないと思うで」
 周辺の人払いも済んでいるので、思う存分戦えるだろう。
「で、肝心の出てくるデウスエクスについてやけども」
 いかるは、指を四本立てた。
 まずは、ダモクレスのロザリー・メルデラスィエ。一見、普通のメガネ女子に見えるが、特殊ワームに侵されており、小型浮遊砲台を連れている。
 次にドラグナーの本条・椿。美貌をマスカレードで隠す、黒いナイトドレス姿で黒髪の女だ。夫が他の女に走ったことへの嫉妬と復讐心に満ち満ちた糾弾者だという。
 三体目は死神、死の聖母ソフィア。銀髪紅目のシスターのような姿の女性型。喪った大事な人の復活をちらつかせて相手を誘惑するという。
 最後は、螺旋忍軍の十文字。螺旋忍軍らしい螺旋の仮面をかぶる狡猾な忍者だ。少数を多数で押し包む作戦を好むそうだが、この状況では実現不可能だろう。
 この四体が同時に現れるという予測である。

●七月七日二十二時
 遠くから祭りの音が聞こえてくる、夜の市民グラウンド。
 煌々とライトが照っていて、昼より明るいのではないかと思わせる。
 アーヴィン・シュナイド(鉄火の誓い・en0016)が鉄塊剣を握りしめ、時間だと呟く。
 その途端に空気が歪む。次の瞬間、デウスエクスが現れていた。
 クロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)の眼前に、ドローンのような小型浮遊砲台に守られたロザリー・メルデラスィエが。
「あら……ここはどこかしら??」
 状況が読めずに混乱のさなかにいるようだ。
 桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)の前には、流麗なる仮面の美女の本条・椿が。
「憎い……あの女が憎たらしい……彼の目を奪ったあの女……きっと殺してやるわ……殺してやる…………」
 狂気に満ちた彼女には、状況などどうでもいいのだろう。ただ己を変生させるまでに募らせた嫉妬と復讐心をこめた恨み節を呟くだけ。
 レクス・ウィーゼ(ライトニングバレット・e01346)の前には、慈愛めいた笑みを浮かべて大鎌を携えた死の聖母ソフィアが。
「ごきげんよう、あなたも大切な人を喪ったのでしょう? 私に力を貸してくださるなら、きっと大切な人を蘇らせてみせますわよ」
 微笑んで、死の聖母は何食わぬ顔でレクスに手を差し伸べてみせる。
 そして月隠・三日月(暁の番犬・e03347)の前には、周囲を見回して焦る十文字が。
「ぬぅ。いったいここは……。ぬ? ケルベロス!? ケルベロスのグラビティ・チェインをいただく好機……。ぬぅ!? 我が忍軍は?! 我独りか?! 否、デウスエクスもいるならば、ここは呉越同舟を!」
 十文字だけはすぐに状況を飲み、他のデウスエクスと手を組むことを考えついたようだ。しかし、他の者が十文字の提案に乗るかは……望み薄に見えた。


参加者
クロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)
レクス・ウィーゼ(ライトニングバレット・e01346)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
イリア・ミラジェット(蜃気楼の翼・e02795)
月隠・三日月(暁の番犬・e03347)
桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)
近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308)

■リプレイ

●焼いた忍
 打倒ケルベロスのためにデウスエクス同士で協力を試みようと周囲を見回す螺旋忍軍『十文字』を見て、月隠・三日月(暁の番犬・e03347)は弓を軋むほどに握りしめた。
「急な転移だろうに早速共闘を図るとは」
 十文字は彼女の郷を焼いた忍だ。仇だ。
 仇を討っても大事な人は帰ってこないことは分かっている。
「分かっているよ」
 気が晴れないことも。
「でも、『いい思い出』にはなる。墓前に供えられる素敵な土産話だろう」
「そうそう、殺して戻って来る人ぁいないが良い思い出にゃなるよ。そのために、な」
 後方でエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)がうなずいた。
 三日月は矢をつがえて弓を構える。
 放つ。
 突き刺さる。
 矢が刺さった螺旋忍軍は悲鳴をあげず、ただ三日月を視界に捉えた。手練の忍は、この程度で声を上げるほど軟弱ではない。
 十文字は無言ですっと印を切った。劫火が三日月を含むケルベロスの前衛を包む。
 火に巻かれながらもレフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)は刀から魂の力を三日月に移した。
「団長との約束を果たす時です」
 三日月は、レフィナードの宿縁の敵を倒すときに加勢してくれた。その恩を、ここで彼女の復讐の加担で果たす。
 黄金の果実の光を散らすエリオットも三日月と約束を結んだ一人だ。
「ああ。いつだったか約束してたよなあ、三日月。手伝う、ってさ」
 十文字は、状況が飲み込めていなさそうなダモクレスに近づこうとする。
 が、赤黒い焔に邪魔されて近寄れない。
「彼女達と私達を潰し合わせてグラビティ・チェインを独占しようなどと、そうはさせません!」
 焔の主は、イリア・ミラジェット(蜃気楼の翼・e02795)。
 ダモクレスと友人(と言うには少々複雑な関係だが)の対話を邪魔させるわけには行かない。
 それでは、と狂乱に飲まれて御しやすそうに見えるドラグナーの女に声をかけようとする十文字だが、こちらは近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308)の虹をまとう飛び蹴りで牽制される。十文字は蹴りを避けたが、如月は立ちはだかって、死神をも含めてデウスエクス同士の会話を邪魔してくる。
「悪いけど……皆の邪魔はさせないのよぅ。それとも……小娘のケルベロス一人狩れないくらい、螺旋忍者は自信がないのかしら?」
 と挑発してくる如月。
 ぬうと唸り、十文字は指を口元に立て、ふうっと強く息を吐いた。
 風遁の術が如月の全身を切り刻むも、彼女はジョブレスオーラで体勢を立て直した。
「相手は私だ!」
 三日月が十文字に殺到し、紅蓮纏う刀で高速に刺突する。
 十文字はトンボを切ってひらりと避けた。
「ぬぅ? 凄まじい殺意。なにか因縁でもあったか……」
 十文字は三日月を見やり、少し思案するも、
「作った躯の数などすでに記憶の彼方、生憎だがいずれの縁者であろうとも思い出せはせん」
 とすぐ諦めた様子であった。
 三日月は思わず左目の傷に手をやる。この傷を作った原因だが、きっと問い詰めたところでこの螺旋忍軍は知らぬと返すだろう。
 ――ならば問答は無用。
 レフィナードの支援を受け、三日月は気咬弾を放った。
 気咬弾と挟むようにエリオットの掌底が十文字の鎧を砕く。
「いまだ、三日月!」
 エリオットが言い、三日月も頷く。
「ありがとう、エリオット殿! 螺旋忍軍、もう忘れていたとしても、あのとき私を見逃した失態の報いをここで受けるがいい。この赫は私の憎悪。燃え盛る復讐の炎」
 斬霊刀の刀身を紅蓮で包み、三日月は全身全霊をこめて、砕けた鎧のヒビめがけて突きを放った――紅蓮一刀・赫灼!
 ぞぶりという確かな手応えを覚えた三日月は刀身の火勢を増す。
「グ、ガアアアアッ!」
 臓腑から焼けていく苦しみに、火柱と化した螺旋忍軍は遂に絶叫し、そして炭になっていった……。

●微笑う聖母
「ごきげんよう、あなたも大切な人を喪ったのでしょう? 私に力を貸してくださるなら、きっと大切な人を蘇らせてみせますわよ」
 死神が浮かべる慈しみの笑みは美しい。しかしその醜さをレクス・ウィーゼ(ライトニングバレット・e01346)は知っている。
「大切な人、な。居たさ」
 す、とレクスは半歩横にずれた。背後に浮かぶビハインドの容姿は、死の聖母ソフィアに似ている。
 ビハインドは『愛する人を失った悲しみのあまり、己の成長可能性を代償に魂を修復し、サーヴァント化してしまった存在』。
 レクスのビハインドの名前は、ソフィア――彼の亡き愛妻の名前である。
「だが手前等デウスエクスに殺された」
 レクスの妻を殺したデウスエクスはすでにこの世に居ない。レクスが討った。故に下手人に遺恨はもうないが。
「それはおいたわしや」
 レクスの怒りの滲む言葉にも死の聖母は微笑むので、レクスは喉奥で剣呑に唸った。
「そんな俺にお前等に協力しろ、だと……? しかもソフィアの、俺の生涯唯一の女の身体を勝手に使ってやがる手前が?」
 死の聖母の笑みは乱れない。レクスも努めて冷静さを保つ。ここで子供のように激高するのは損しかない、と大人のレクスは分かっている。
「寝言も其処迄行くと笑えねえな」
 レクスの殺気がいや増していく。死の聖母は、笑みを強めた。
「……手前は此処で倒すし、逃げようが追い続ける」
「うふふ、私を殺すのですか『貴方』。殺すのですか? もう一度? 今度は自らの手で『ソフィア』を?」
 死の聖母が放つ甘い言葉をレクスは振り払い、跳躍する。
「黙れ。此れ以上、俺の女の顔で口をきくな。ソフィアは手前が名乗っていい名じゃねえ!」
 流星の如き蹴りが死の聖母にぶち当たる。
 地べたに転がる死神は、愛しい妻の顔と声で哀れっぽく泣いてみせた。
 ビハインドが死神を金縛りにする。
「ふふ、うふふ、おかしいことを仰るのね。まごうこと無く、この体は『貴方』の愛した女の体。それを平気で蹴るだなんて、本当に愛していたのですか?」
 死の聖母は手を差し伸べ、誘惑する。
「今も、愛してあげますのに。この体で、『貴方』を。もう一度抱きしめたいと、思ったことが一度もないとは言わせませんよ」
「黙れ……」
 レクスは縛霊手でしたたかに殴りつける。
「妻を殴るのですか」
「手前はソフィアじゃねえ」
「いいえいいえ、私はソフィア。死の聖母ソフィア。この体は間違いなく『貴方』の愛したソフィアの体。感動の再会ではないですか。さあ、さあ、抱きしめて差し上げます、寂しかったでしょう……『貴方』」
 腕を広げる死神による甘やかな言葉が、レクスの妻を侮辱していく。レクスの怒りがいや増す。
(「お気持ちお察しします」)
 同じく友人や主君を死神に利用されたことがあるレフィナードが、オーラでレクスに蓄積した催眠を解いた。
 ビハインドの念力で動く砂塵が死の聖母の肌を傷つける。
「ああ、痛い、イタイの、『貴方』、助けてぇ……」
「クソッ!」
 叫んでレクスは、自らの意思にそぐわず死神を抱擁せんと動き出そうとする足を押し留めた。
(「これは奴の催眠だ。気をしっかり保て……!」)
「これ以上、俺の妻を貶めるな」
 ぐっと拳を握りしめたあと、レクスはリボルバー銃を握る。ゆっくりと撃鉄を下ろす。
「俺の弾丸が手前の墓標だ……手前が人生を狂わせた奴等へ地獄で詫びな」
 銃口を向けられても死の聖母の微笑みは崩れない。
「温かい妻の体を抱きしめる機会を、捨ててしまうのですね」
 レクスの心はもう乱れない。
 死の聖母の胸に銃弾を何発も撃ち込み、そしてその銃創に銃口を突っ込んでまた撃つ。
「どんな装甲も何度も攻撃を喰らえば傷の一つ位負うし体の中はどんな奴だって鍛えられねえさ。さあ弾丸のフルコースご馳走してやるぜ?」
「かっかっかわ、かわい、そ、うな、あなっあっ……ああ、『貴方』」
 銃撃で跳ねては解けていく死神はじっとレクスの赤い瞳を見つめ続けていた。
 レクスも冷徹に彼女の赤い瞳を見つめていた。彼女が消滅するまで、ずっと。

●狂い果てる竜女
 キラキラにデコったドラゴニックハンマーを構えた桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)は、嘲るようにドラグナーに対峙する。
「あたしは貴女を知らない。知らないけど、わかるよ。綺麗な人、可哀想な人」
 狂乱する本条・椿がマスカレイドの奥の瞳をぎょろりと萌花に向けた。
「お前に……何が……わかる……」
「ふふ。つまりさぁ、結局、貴女のところには帰ってこなかったんだね?」
「ああああああああああああああ!!!!」
 狂い果てた女が絶叫し、竜の手のように曲げた指で萌花の首めがけて飛びかかる。
 それを吹き飛ばすように萌花は竜砲弾を放った。
「があっ!」
 もんどり打って地を這う本条・椿は血走った目で萌花を睨みあげ、呪詛を述べる。
「うっ」
 刻むような糾弾の呪詛が、萌花の体を引き裂く。
 血まみれの体を抱えながらも萌花の言葉は止まらない。
「まぁ、そんな姿じゃ帰ってこないのもムリないよね。あたしの母に捨てられちゃった可哀想なあの人に捨てられちゃったもっと可哀想な貴女」
「お前……っ、お前が……ッ!」
 ぜいぜいと肩で息をするくらいに興奮する本条・椿の目は零れ落ちそうなほど見開かれている。
「お前が、彼の、目を……!」
「彼の目? ああ、そっか、そうだったね。それでも、貴女には頼らなかったなんて悔しい?」
 萌花の挑発に、本条・椿は身をくの字に折り曲げ、絹のような黒髪の生える頭をめちゃくちゃに掻き回し、とうとう笑い出した。
「ああ、あはは、あははははは! ようやく本懐を……! 本懐をぉおおお!!」
 狂乱の果に至ったらしい本条・椿はびたと止まると、のそりと起き上がり、侮蔑の表情を浮かべている萌花を睨みつける。
「ころす。応報せよ」
 呪詛が萌花達を貫く。
「理解しなくはないの……でも。貴女の絶望に、もなちゃんを害させたりはしないんだからっ……! 宝石の子達、悪意を跳ね除けて……コード・アメジストっ!」
 如月のマインドリングが薄紫の光を放つ。光は天蓋のように萌花達を包んだ。
 アーヴィン・シュナイド(鉄火の誓い・en0016)のフォースが、ドラグナーを爆破する。
 ナイフを握り、萌花は本条・椿をずたずたに切り裂く。
「さぁ、もっとよく見せて? 可哀想な貴女を」
「殺す、殺すぅ……彼の目を奪ったお前ぇえええ、許さない、赦さない、釈さないィイイ」
 美しいドラグナーとコケティッシュなサキュバスが呪詛とグラビティで真っ向から殴り合う。
 萌花は傷ついても自らを癒やすことはせず、攻撃一辺倒。それを痛そうに見つめ、如月は必死に萌花をヒールした。
「ふふ、じゃあ、最期にひとつ、教えてあげる。彼はね、ずっと夢を見ているんだよ」
「なに……」
 死にかけのドラグナーは眉を寄せた。
「だから、現実なんて、見えない方がきっといい。見えなければ、愛されてるって、思ってられるんだからさ? もなかトモエかなんて、わかんないんだからさ」
 にっこりと萌花は笑う。
「オマエエエエエッ!」
 怪鳥のようなヒステリックな絶叫をあげながら、本条・椿は嫉妬の爪を萌花の首に伸ばし、渾身の力で締め上げていく。
 それでも萌花は余裕の表情を崩さない。
「あは、もっとよく見せて、貴女のその絶望を、さ?」
 息が詰まって苦しげな声になりながらも。
「至上にして最高の絶望を」
 ドラグナーの腕に絡みついていく白い茨。
「ひっ!?」
 首から緩むドラグナーの手。萌花はうっとりと微笑む。
「ほら、見て」
 茨は這い上がり、デウスエクスの全身を包み、そして。
「その目に焼き付けて。この世の何より美しく、夢より鮮烈な絶対絶望」
 恐怖にわななく彼女の魂を引き裂いた。
 霞のごとくあっけなく消えた本条・椿の居た場所を、少し咳き込みながら萌花は陶然と見下ろす。
 くんっと裾を引かれた萌花が振り返ると、如月が立っている。
「もなちゃん……帰ろ? ごはんも作るのよぅ」
 温かいものを作る、と如月は優しく言う。引き留めたいという気持ちを込めて。

●姉と生きるということ
 状況が飲み込めず、周囲を見回して困惑しきりのロザリー・メルデラスィエに、クロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)は駆け寄った。
「ここは地球よ、ロザリー・メルデラスィエ……いえ、ロザリー・アングルナージュ……ロザリー姉さん」
「…………あなたは?」
 という問いかけに、クロエはヘッドギアを外し、素顔をロザリーに見せる。
「妹の、クロエよ」
 じっと見つめる妹に、ロザリーは噛みしめるようにクロエと呟き、目を見開いた。
「クロエ……!」
 思い出してくれたのだ、とクロエは内心安堵する。クロエすら認識できないという最悪の事態にはならなかった。
「私は姉さんを助ける為に戦ってたの」
「私を? ……ごめんなさい、私、……記憶が。みんなで試験に参加して、それで……それから……??」
 自分を守るように飛ぶ小型ドローンにも困惑しているロザリーには、失踪後の一切の記憶が残っていないらしい。
(「今の姉さんに、『飛翔機士』達の母胎だったって伝えても、混乱させるだけね」)
 と姉の状況を説明することはやめ、クロエは本題に入る。
「お願い、一緒に帰ろ?」
「一緒にいたいのは、やまやまなんだけれど、私はデウスエクスだから……地球には居られない。それに、このワームが」
「ワームは心配ないわ、駆除なら手伝う。隔離や移住が必要なら、看病や同伴だって!」
 と懸念に顔を曇らせるロザリーに、胸を叩くクロエ。
「大丈夫よ、姉さん。大事な人達も支えてくれるわ。紹介するわね、イリアさんと……。そ、それから、イリアさんと一緒に愛する人、莉緒くんよ。私は二人に強く支えられたわ。今度は姉さんを支えたいの」
 と照れながら言うクロエの横に、イリアと東雲・莉緒(心を人形にやつした少年・e01757)が立つ。
「はじめまして、イリア・ミラジェットと申します。私もクロエさんと共にロザリーさんを支えたいと思っています」
「おねえ、ちゃん、しんぱ、い、してた…!」
 イリアはそっとクロエに、他のデウスエクスがすべて斃れたことを告げた。あとはロザリーさえ説得できればいい。
「わかった。ありがとう、クロエ。その気持が嬉しいわ」
 と微笑むロザリー。
 説得成功に沸く三人を眩しそうに眺めていたロザリーは、心配そうに尋ねる。
「でも、私と一緒にいるとなると、地球の外に行くことになるわ。クロエはそれでも一緒に来るというの?」
 武装を解除して歓迎モードになっていたクロエだが、答えに詰まった。地球の外へ行くとなると『イリアや莉緒も一緒に』とは気軽に言えなくなる。
 妹の困惑を見たロザリーは微笑んだ。
「無理はしないで、クロエ。地球で大事な人が見つかったなら、もう私のことは忘れて、幸せに生きていってくれればいいの。私は、私でなんとかするからね」

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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