その瞳に映る世界

作者:森高兼

 地球人の優しさに触れたことでレプリカントになった君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は、今日までケルベロスとして戦ってきた。彼には目の前で命を落とした地球人の姿であるビハインド『キリノ』がいる。
 いつかの日と1つだけ確実に違う……平和が訪れた地球の空を歩道のベンチに座って眺めていた眸。彼の体は殆ど機械で、右目の目元からは回路の光が透けて光っている。
 軍服らしき服装のキリノも好青年のように穏やかな笑みを浮かべて空を見上げていた。
 あの地球人が死ななければキリノは誕生しなかったが、3人一緒の光景を想像するくらいしたっていいか。
 不意に、キリノが整った顔を強張らせて反対側の歩道に並ぶ街路樹を見やる。
「どウした?」
 眸はキリノの後ろに下がって身構えた。不自然に周辺の人気が失せている。緩やかに人払いされていたらしく、街路樹の間より自分と瓜二つの者が出てきて目を見開いた。
 驚く眸へと、ダモクレス『タイプ:キミノマナ』が淡々と述べてくる。
「キミノマナは2体モいらなイ。貴様を壊ス」
 ダモクレスとそれが人間形態になったレプリカントを言い表す上で……『体』と呼ぶのはおかしくないのかもしれない。
 しかし、眸と同様にレプリカントの相棒や友人達にとってはヒトで『人』だろう。
 量産型だった眸の兄弟機にあたるキミノマナ。ケルベロスに生まれ変わった眸のデータを収集して製造されていそうとはいえ、心を再現できなかったからこそダモクレスのままである。
 1人と1体が捉えている物事の解釈は結局異なっていた。
 月遺跡の死闘では一時的に消えたキリノに無茶を承知しながらも前衛を任せ、眸が仲間の到着を信じて耐え抜き敵を殺す覚悟を決める。
「今度こそキリノを、ワタシを……助けに来ル仲間達を倒れさせなイ」
 キミノマナは守りを意識した態勢で眸とキリノに襲いかかってきた。

「集まってくれたか」
 眸とキリノの窮地を予知したサーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)が、駆けつけたケルベロス達に単刀直入で現状を告げてくる。
「ケルベロスの君乃・眸がダモクレスに襲われようとしている。やはり彼とは連絡をとれなかった」
 キミノマナは人払いの最中で着々と襲撃の段取りを進めているはずだ。
「君達には急いで戦場に向かってもらう。戦闘中の眸とキリノを救援してくれ」
 ヘリオンで2人の所へと連れていってくれる真剣な表情のサーシャと頷き合うケルベロス達。
 戦場は車線が多くて歩道を含めればかなり広い道路になる。
 敵が容姿と服装は眸と同一かつ彼のフルネームでもある『キミノマナ』と……色々とややこしい。だが両者は雰囲気に差異があって何より眼力で区別をつけられる。
「キミノマナは目的である眸の殺害しか頭に無いぞ。任務を忠実にこなすアンドロイドらしい性格だな」
 防御に重点を置くキミノマナは、戦略的に複数人との交戦で眸を優先して狙ってきたりはしないだろう。
「奴の攻撃は3種全てがレプリカントのグラビティと似ている。その威力は別物だが……」
 体内で量産可能な極小の自律型万能ヒールドローンも飛ばしてくる。
「ヒールドローンは使い捨てだ。回収する気は皆無で酷い扱いだな」
 どこまでもダモクレスのキミノマナであり、ケルベロスには成り得なかったのだ。
「私も同行いたしますっ。君乃さんのお迎えにあがりましょう!」
 綾小路・千影(がんばる地球人の巫術士・en0024)は両拳を握り締めて気合十分らしい。
 ヘリオン内部の作戦会議を促すように、コックピットを一瞥するサーシャ。眸とキリノの危機は刻一刻と近づいていた。
「それでは出発するとしようか」
 眸とキリノが……皆を待っている。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●誰がための心
 支援に集った8人を含む16名に及ぶケルベロスは、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)がいる戦場付近へと降り立った。レプリカントが多く精鋭揃いの主力メンバー7人と支援者の大半は眸との縁が深い。
 カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)はドラゴニアン、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)はウェアライダーだが……あらゆる垣根を越えて出会った者達の心は一つだ。
「びゅーんってたすけにいく」
 迅速に眸と合流するため、彼の相棒である尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)と先頭を走る伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)。特徴は眸と左右反転しているらしいキミノマナを戦闘介入時に注視できなければ、『なんとなく』にて区別するつもりでいる。
「約束したんだ。眸の側を離れねえって。間違えたりしねえ」
「たのもしいがみなぎる」
 勇名も実際は何とかなりそうだった。
 眸とビハインド『キリノ』のコンビを信頼しているからこそ、カルナが普段と変わらぬマイペースで棒読みに呟く。
「どっちが本物か判かるかなー」
「後ろ姿でもわかりますよ。仕草、雰囲気、すべてマナのものでショウ」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)はカルナの一言の裏に秘められた自信に気づいた上で真面目に告げた。
『広喜に任せときゃ、秒でわかる』
 それはヘリオンを降りるまでに陣内が嘯いていたことで、相棒の絆は何物にも勝ると信じている。
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は七夕でダモクレスと仲良くなれる未来を願っていたが、その矢先に今回の事件が起きてしまった。
(「アダム・カドモンの停戦命令を越えてなお……」)
 2人の命が天秤にかけられており、人影を発見して白銀剣の柄を握り締める。
 眸とキミノマナは互いにグラビティを避け、今一度睨み合っていた。キリノの正面にいる相手が敵なのか、それとも背中を盾にする彼に守られているのか。
「来てくれタか」
 いざ眸のように振舞ってきたのは偽ケルベロスのキミノマナだった。
 しかし、あえて黙ったままの眸。
「俺の全部のセンサーが、コアが……俺の相棒はそこだって、あいつは違うって言ってる」
 常時笑顔の広喜は迷わず、大好きな唯一無二の相棒『眸』と肩を並べた。ここで理屈をどうこう語るのは……野暮ってものだろう。
「眸、キリノ。迎えにきたぜ」
「待っていタぞ」
 判別できて当然ながら、少しだけ嬉しそうに微笑んだ眸にこちらは最高の笑顔を返した。
 守り手になる眸の隣を広喜に託し、キリノが攻撃に集中できる後方に移っていく。
「ワタシが本物だ」
 キミノマナは驚異的な回転力を誇る腕を眸に振るおうとしてきた。
 我が身を盾にキミノマナの一撃を受け止める広喜。腹に力を入れて腕の貫通を阻止して彼を下がらせる。
「外装だけじゃねえ。重ねてきたデータと一緒に過ごしてきた時間で構成された代わりのきかねえ眸が……俺の相棒の眸なんだ」
 広喜の先行したタイミングにおいて、彼を頼った者も勘に従った者も布陣は完了させていた。便宜上『猫』と称する名も無き陣内のウイングキャットは広喜、フローネが眸の横に回っており、攻め手の勇名は現在キミノマナに最も近い。
 カルナがキミノマナを牽制し、陣内はヒットアンドウェイで戦う中衛だ。エトヴァは基本回復で手隙に攻撃していき、ウイングキャット『エトセテラ』と綾小路・千影(がんばる地球人の巫術士・en0024)が回復に専念する。
 ジェミ・ニア(星喰・e23256)は隊列を組むキリノに先んじて眸の横を通り過ぎる際に、携帯食料の箱をチラつかせていた。甘いもの好きな彼から……後で皆と食べるとのアイコンタクトをいただき済みである。
 すでに切り替えていた真顔で、眸が紅蓮よりも高熱の炎を纏う『碧蓮火力式機械剣』を振りかざした。
「広喜、フローネ。攻撃を集めルぞ。今日は誰も倒れさせなイ」
「おう!」
「ええ!」
 広喜は片腕を『腕部換装パーツ拾七式』に付け替えており、スクラップのような鉄塊内部で青い地獄が燃えている巨大剣を、眸に呼ばれる前には振り上げていた。
 2人に叩き潰されたキミノマナへと、フローネが生真面目に凛々しく尋ねる。
「確認します! アダム・カドモンが命『何を為すべきか、自ら考え、そして己の魂に従え』……その結果が、君乃さんの命を狙うことだったのですか!?」
「そうダ」
「ならば! 全力でお相手させて頂きます!」
 己が役割を全うするべく、アメジスト・ビームを刃に纏わせた『アメジスト・ブレイド』を手にキミノマナと対峙して組みついた。
 華麗なる連携から若干遅れ、キミノマナの背後に出現して急襲するキリノ。
 7人と一部の支援者は眸を団長とする旅団『Emotion DB』の団員だ。
「マナは日本へ来て初めて世話になった方デス。少なくない時間を共に過ごしまシタ。それは俺にも、掛け替えのない『マナ』の一部。俺のもう一つのホームを共に、守らせてくだサイ」
「宜しく頼ムな」
 眸と一緒に見た思い出のミュージカル映画の洋楽を歌い、エトヴァは前衛陣に守護の加護を与えていった。

●眸とキミノマナ
 射程の限界地点にて、フィストが前衛陣に『黄金の葦原』の結界を構築する。
「心と地球への愛を持つレプリカントを、どちらも持たないダモクレスが倒したところで何も変わらないよ」
 光の翼を広げたバラフィールは、光る羽根で前衛陣の『守る力』を引き上げた。
「ある意味、すでに唯一の存在なのに。ダモクレスであるが故に……それでは納得できなかったのでしょうか」
 千梨が前衛陣を守る龍神の形をした『御業』を招く。
「最初から1人と1人。友人にでもなりに来れば良かったのにな。それを受け入れる懐の深さも、きっとあったさ……眸にはな」
 遠くまで音声を拾っているか、キミノマナは3人に一瞬目を向けてきた。
(「停戦しても戦い続けることしかできないのは……少し、寂しいな」)
 同時に、戦うことしか考えられない気持ちも解っていたカルナ。
(「全力で破壊し尽くすのが、彼にとって一番の手向けなのでしょう」)
 一見星の煌めきを纏った長杖たる『星狩りのロッド』に魔力を込め、薄氷のような斧刃を顕現させる。
(「そういえば、これは眸さんに貰ったものでしたね」)
 少し複雑な心境でキミノマナの頭を叩き割った。
 色々な要素に思い出すものが無いでもない勇名が、丸鋸の射出準備を進めていく。
「まえは、君乃やみんながたすけてくれた。こんどはぼくがたすける」
 耳をつんざく音を轟かせながら、丸鋸の刃は激しく回り出した。キミノマナの傷に丸鋸を当てて治りづらい状態にする。
「んうー……君乃は君乃しかいない。いれかえはできない。君乃のばしょは、君乃がつくった、君乃のだ。だれにも、あげない……なにもこわさせない」
 陣内は罪の記憶を刻み込む『ウビンジャスン』の刃をジグザグに変形させた。キミノマナの頭を斬り、距離をとる前に彼と目を合わせる。
「君の、名前は?」
「……? キミノマナだ」
 その問いはかつてキリノが姿形を借りた地球人の発した質問だった。眸の聞き間違いが『君乃・眸』の由来なのである。
「眸が君乃・眸を名乗るに至った縁と時間は眸だけのものだ。音だけをなぞっても、あいつが自分の力で得た財産を乗っ取ることはできないぞ」
 大回転可能なキミノマナの腕に、猫が尻尾の輪を飛ばした。
 一番高い建物の屋上からこっそりと、魔導書の詠唱で広喜の脳細胞を強化するピジョン。
(「頼もしい仲間が集結してるから大丈夫そうだね。言いたいことも、きっとみんなが言ってくれる」)
 改めて眸とキミノマナを見比べてみて、ジェミはキリノと視線を交えて苦笑いした。話せない彼はどう感じているのだろうか。
「そっくりさん、かなぁ……?」
「何が言いたイ」
「眸さんとあなたの違いは、身をもって知って下さい」
 指を躍らせて宙に蛇を描く。その『拘束するモノ』の刻印を具現化し、眸と似ても似つかない印象のキミノマナを捕まえた。
 千影が魔法的な手術で広喜の腹を表面上は綺麗に閉じる。
「私の力ではこれが精一杯です……」
「へへ、助かったぜ!」
 眸達への攻撃に囚われており、キミノマナは視界を遮る弾幕のようなミサイルを前衛陣に拡散させてきた。
「貴様ヲ、貴様らを壊ス」
「戦いのために敵ヲ模倣して作られ、戦いが終わって存在意義がわからなくなっタか。ただただ哀れダな。貴様がワタシを殺したところで、貴様はワタシには成り得ない。その事実を……この戦いで噛みしめルと良い」
 指を4本入れて使用する『碧焔増幅回路ナックルリング』を手にはめている眸が、コアエネルギーを増幅してフローネの傍に光の盾を具現化する。
「防御態勢を整えルぞ」
(「君乃さんはとても頼りになる、ココロ細やかに気配りができる方です」)
 フローネは紫水晶を思わせる輝きを放つ『アメジスト・シールド』のビーム出力を最大にした。ココロの力に共鳴して防護の紫光が前衛陣を満遍なく覆う。
「これより、私も攻撃に加わります」

●心とココロを繋いで
 千影の薬瓶投擲で薬の雨が降った直後、キミノマナはヒールドローンで修理を図ってきた。広喜達が再び怒りを誘発する。だが一斉の再付与を想定していたようだ。移動先に落ちていたエネルギー切れの機体は邪魔そうに蹴り飛ばされ、新たな機体が発進する。
 ある程度の不調は改善するも、まだフローネには注意を払ってくるキミノマナ。それでも……同一の攻撃を仕かければ見切られてしまう。
(「尾方さんと君乃さんには以前お世話になりました」)
 多少の恩返しに来ただけで戦闘後は顔を出さない予定ながら、屏がキミノマナへと時間を封印する魔法陣を弾痕で完成させた。
 エトヴァが光のエネルギーフィールドに淡く白い羽毛の舞い散る『Inori』のオーラを拳に収束する。音速を超える拳撃でキミノマナをジェミのいる方向に吹き飛ばした。
「そちらに送りまシタ、ジェミ」
「エトヴァならそうくると思ったのです」
 キミノマナを見失わないで追い、獣のごとくしなやかに跳ぶジェミ。
「眸さんも、僕も、他にも元ダモクレスはいるけど。僕らは『心』を持ったから……形が同じでも、同じイキモノには見えないんだ。ここまでの『心』の積み重ねがあるのだから」
 流星の煌めきと重力を『飛虎』に宿した飛び蹴りがキミノマナに炸裂する。
 広喜の贈り物である赤き『じゃすてぃすハンマー』を、勇名が搭載されたジェットエンジンの勢いを利用して思い切り振りかぶった。キミノマナに『進化可能性』の凍結する一打を叩き込む。
「キミノマナが、キミノマナのままなら……ずっと、キミノマナのままだ」
「模倣を忌む必要はない。すべての文化は模倣から生まれる――俺の絵も」
「タマ……」
 陣内は眸なら触れてこない禁句をぶち込んできたキミノマナに強烈な衝撃のデコピンをお見舞いした。咳払いで気を取り直し、ふらつく彼に眸のデータに縋ることを説教する。
「己が己でありたいのなら、自分だけの『名前』を欲しがるべきだったのさ。お前にも……お前にしかない財産があっただろう。唯一であるとは、そういうことだ。居並ぶ隣人を厭うな、己を愛しめ」
 全体的に傷を負わせていきたいらしく、キミノマナが後衛陣に降りかからせるミサイル群を高く打ち上げてきた。
 千影には範囲攻撃の威力も危ういと、彼女の分まで幾多のミサイルを浴びる猫。
「あ、ありがとうございましたっ」
「皆は私とエティでヒールしマス」
 過不足なく回復するために千影に声をかけたのはエトヴァだ。
 フローネ以外に対しては冷静になっているキミノマナで、眸達が彼を揺さぶっていく。
 猫は陣内の素直さが具現化した写鏡であり、実に大人しく千影に治療されたついでに毛並の艶も取り戻した。
 カルナは小動物形態を保っていた相棒の白梟に魔力を籠めていった。『ネレイド』をキミノマナに目がけて撃ち出す。
「風の向くまま、気の向くまま」
 飛翔する白夜の狩人のように、ネレイドがキミノマナの顔面に体当たりした。彼の頭に星が再来したはずに違いない。
 頭を振ったキミノマナに接敵したジェミの腕は、内蔵モーターによって肘から先がドリル回転し始めた。
「唯一になる……その為にすることが『他者の場所を奪う』だったのは、すでに個としての自分を否定してたようなもの。本当に悲しいことだね」
 そんな哀れなキミノマナの腹部に一撃をくらわせる。
「許さなイ」
 衝動に駆られたキミノマナの胸部が変形すると、フローネの全身を包み込む程の巨大なエネルギー光線をコアより発射してきた。
 一度は画家を志し、挫折を経験した陣内には……頂上に輝く唯一の存在に成り替わりたいという感覚を痛く理解できてしまう。
「虚しいな」
 眸の正確無比なグラビティは躱せなかったキミノマナに間髪を入れず、空の霊力を帯びた斬霊刀の『マブイグムイ』を振り下ろした。マブイとは沖縄の方言で『魂』を意味する。すなわち、魂を斬ったのだ。
 レヴィンが強敵に立ち向かう勇気を眸に授け、キミノマナに物申す。
「力だけで眸に成り代わるなんて無理だぞ。これだけの人が眸を迎えに来てるんだぜ……? どう考えてもお前は眸になれねぇよ」
「誰も、倒れさせませんよ」
 ある歌のフレーズを口ずさみ、エトヴァは柔らかに研ぎ澄まされた声をフローネの耳に届けた。彼女の潜在能力を一時的に目覚めさせていく。
(「沢山の絆は、真似できぬものデス。マナが重ねた時間、経た経験……俺たちもその証左だかラ」)
(「この宇宙に生きるのなら、敵味方関係なく、デウスエクスを『人』と数えるの」)
 ミライが眸の想いに応えるためにエトヴァと合唱して前衛陣の守りを固めた。
(「彼自身が『体』だと言った時点で、もう、君乃さんじゃ、ないのです」)
 歌の曲調に沿って踊るように後衛陣へと羽ばたくエトセテラ。

 フローネには兄姉機と分かり合えなかった苦い記憶があり、思わず唇を噛んだ。
「貴方は君乃さんに成り代わるのではなく、貴方自身として自分で名前を決められた。自分の道を進めた。あの方は、それも許容してくれていたのに……」
 銀色に輝く『ココロの指輪』で心の力を増幅して光の剣を生み出す。
「伏見さんはそちらからお願いします」
「りょーかい」
 勇名は自分を模した敵と戦ったことがあった。ガーネットの宝石を抱くモチーフがついた『鯨の夢』で光の剣を創造する。この指輪をくれた眸のキモチは……己のココロも把握できておらず、真に察してあげられていないのかもしれない。
 今は眸の命を優先し、フローネと勇名はキミノマナに挟撃していった。
 フローネが前衛陣に飛来してくる無数のミサイルを捕捉する。
「何度砕かれようと、掲げ続けます!」
 アメジスト・シールドを駆使して勇名に被弾することを防いだ。

●その『眸』に映る世界
 最初の内はキミノマナの外見に驚かされていた三日月だが、落ち着いた様子で眸に活力の螺旋を放出した。
(「君乃殿に似ているのは見た目だけだったな。心の在り方までは真似ようもないか」)
 しかし、曲がりなりにもキミノマナは眸の情報を基に造られている。少なからず皆の精神を摩耗させるには十分だった。
 最悪な気分をさっさと解消するべく、カルナはキミノマナに地獄の炎を叩きつけた眸と息を合わせた。次元圧縮で大気を急激に冷却して作り出した8本の氷刃を偽物に差し向ける。
「舞え、霧氷の剣よ」
 獣の牙のような刃が食らいついてキミノマナの魂をも凍らせた。
 死にかけの壊れかけのキミノマナが、広喜を殺そうと超回転する腕を突き出してくる。
「させなイ」
 眸は最初に体を張ってくれた広喜のために身を挺して彼を庇った。
「定命化し、ケルベロスとなって、色々なことがあっタ」
 宙に展開したホログラムでキミノマナを分析し、彼の回避先を予測する。
「幾度も生死の境を彷徨っタし、相棒を失いかけたこともあル。けれど……振り返ってみればただ楽しかっタ。ワタシはヒトが好きダ」
 光と闇の関係と言えそうな『闇』の者に不可避の攻撃を繰り出した。
(「すまなイ。この場所を、譲ってやることは出来なイ」)
 2人による決着を運命が拒んだのか、キリノ渾身の霊障でも止めにはならず。
 広喜がグローブをはめた手で拳を握り込む。眸の贈り物である『氷晶ガントレット』にて氷の装甲が完成すると、腕部パーツから青い地獄の炎が噴出した。
「ごめんな……俺の眸は、一人だけだ」
 どこか悲しげに微笑んでキミノマナの脆くなっていた体を貫いてコアを大破させる。
「……広、喜……」
 消滅する瞬間、まるで広喜を気遣うように彼の肩に手を置いてきたキミノマナ。それは眸のデータが行わせた反応に過ぎない……そのはずだろう。
 眸が全員無事そうで安堵する。誰1人とて倒れなかったのは皆の戦略とキミノマナの思惑が奇妙に合致したゆえのことだ。
 眸の肩を抱いて、広喜はいつもの笑みを浮かべた。
「お疲れさんだぜ」
 眸が集合してきた者達に囲まれて1人1人の顔を目に焼き付ける。
「皆、ありがとウ」
 ふと紡がれた感謝の言葉は……皆の心に強くどこまでも響き渡った。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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