花はどこへ逝ったの

作者:土師三良

●宿縁のビジョン
 六月最後の日曜日。とあるアパートの庭先で。
「さて、本格的な夏が来る前に雑草刈りを済ませちゃいましょうか」
 華輪・灯(春色の翼・e04881)はウイングキャットのシアことアナスタシアとともに視線を巡らせた。
 緑が目に眩しい。いや、目に痛い。植物の自主性を重んじた(「庭の手入れを放棄した」の婉曲的表現)結果、人跡未踏のジャングルのごとき様相を呈しているのだ。
「……と、思いましたけど、明日できることは後回しにて、今日はおうちでゴロゴロしましょう。せっかくのえんじぇりっくホリデーですから」
 華輪がくるりと振り返り、アパートに戻りかけた時――、
「にゃあ」
 ――肩に乗っていたシアが前足で頭をちょんちょんとつついてきた。
「ん?」
 足を止めて、横に目をやる華輪。
 そこに少女がいた。頭部に花を咲かせ、背中から翼を生やした、オラトリオのような少女。いつの間にやら、庭に入り込んでいたらしい。
「オネエチャン!」
 少女はにっこり笑い、華輪にそう呼びかけた。『オネエチャン』というのは年上の女性に対する呼称かもしれないし、あるいは本当に華輪を姉と見做しているのかもしれない。だが、後者だとしても、その少女が華輪の妹でないことは間違いなかった。
 見た目はオラトリオに似ているものの、彼女はあきらかに――、
「――屍隷兵」
 痛ましげな顔をして、華輪は呟いた。
 一方、屍隷兵の少女は笑顔のままだ。
「オネエチャン! 一緒ニアソボ!」
 しかし、天使のようなその笑顔は殺意を隠し切れていない。憎悪による殺意ではなく、屍隷兵として生み出された際に植え付けられたであろう機械的な殺意だが。
「ごめんなさい」
 屍肉で構成された殺戮機械に華輪は詫びた。
 そして、武器を手にした。
「あなたと遊んであげることはできないんです」

●音々子かく語りき
「屍隷兵の出現を予知しましたー!」
 ヘリオライダーの根占・音々子が大声で告げた。
 それを聞いているのはヘリポートに緊急招集されたケルベロスたち。
「どこぞのデウスエクスが放ちやがったのか、それとも研究施設等から逃げ出した野良の屍隷兵なのか……そのあたりのことは不明ですが、邪悪な意図で生み出されたことは間違いないでしょう。まあ、邪悪ならざる意図で屍隷兵を生み出す奴なんていないと思いますが……」
 その屍隷兵の姿形はオラトリオに似ている。素材として使用されているのも(複数の?)オラトリオであろう。
 そして、標的となったのもまたオラトリオだった。
「屍隷兵が出現した場所は華輪・灯ちゃんのアパートの密り……いえ、お庭なんですよ。タイミングが悪いことに灯ちゃんがそこに居合わせていまして、大々々ピンチなんです。でも、しゅびぃーんとヘリオンをかっ飛ばせば、ギリギリで間に合うはずです」
 現場に『しゅびぃーん』と急行するべく、音々子はヘリオンに向かって歩き出した。
 その後に続くケルベロスたち。
「言うまでもないとは思いますけど――」
 音々子は足を止めずに振り返った。表情が曇っている。
「――屍隷兵にされたオラトリオの子を元に戻すことはできません。お辛いとは思いますが、その子自身のためにもきっちりと倒してあげてください」


参加者
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
赤星・緋色(サンプル・e03584)
華輪・灯(春色の翼・e04881)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)

■リプレイ

●アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)
 ヘリオンの兵員室から飛び出し、目標のポイントに降下。
 その間に視界が赤に染まり、青に変わって、最後は緑に塗り潰された。
 赤は、兵員室のハッチ開放を告げる非常灯。
 青は、ハッチの外に広がっていた空。
 そして、緑は……まあ、察してくれたまれ。
「灯さん!」
 視覚への暴力と言っても過言ではない超絶濃厚な緑に圧倒されることなく、人派ドラゴニアンのカルナが声を張り上げた。
「助けに来ましたよ!」
「ありがとうございます!」
 元気よく答えたのは、私と同じくオラトリオの灯。
 彼女の前に立つ少女もまたオラトリオ……ではないのだな、悲しいことに。
「僕が来たからには、灯さんには指一本触れさせません!」
 オラトリオのようでオラトリオではない少女――オラトリオの死体から作られたであろう屍隷兵に向かって、カルナは宣言した。熱いね。
 もっとも、屍隷兵の少女はなにが起こっているのかよく判っていないらしく(あるいは判ってない振りをしているだけか?)、『ん?』と首をかしげているがね。
「しかし、それにしても……」
 少女のリアクションによって熱量が少しばかり低下したのか、カルナはシリアスに決めていたはずの表情を少しばかり弛めて、きょろきょろと四方を見回した。
「この密林、デウスエクスがよく湧いてきますよね。三年ほど前にもなんか出てきましたし……」
「いえ、密林じゃありませんからー! 私のお庭ですからぁーっ!」
 灯が大声で訂正した。
 一応、その言葉は嘘じゃない。ここは彼女が経営しているアパート『カリン荘』の庭だ。『一応』がつくのは、とてもそうは見えないからなんだけど……。
「そうじゃのう。これは密林なんぞではなく――」
 鼻の下の付け髭を指先でしごきながら、ドワーフのウィゼがカルナと同じように四方を見回した。
「――樹海じゃ!」
「樹海でもありませーん!」
 灯が再び大声で訂正した。
「ここはお庭なのです! お、に、わ!」
「オ! ニ! ワ!」
 と、屍隷兵の少女が楽しげに復唱した。

●ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
「うんうんうんうん」
 感心しているのか呆れているのかよく判らない顔をして、英国紳士のピジョンさんが何度も頷いたのじゃ。どうやら、『ここはオニワである』という灯おねえの主張を受け入れたらしい。
「思っていたより、だいぶ樹海だねぇ」
 いや、受け入れておらんかった。
「くっ……」
 赤毛の女の子――緋色おねえが悔しそうに呻いた。その表情は、ピジョンさんとは別の意味でよく判らん。ヘリオンから降下した時の風圧で変顔になっておるからのう。
「許せない! 雑に綺麗だったカリン荘をこんな有様にするなんて!」
「いえ、あの子がなにかやったわけじゃないですから!」
 緋色おねえが(変顔のままで)シリアスな怒声を屍隷兵にぶつけると、灯おねえがすかさずツッコミを入れた。
「あと、『雑に綺麗だった』って、どういう意味ですか!? 『雑』は余計ですぅー!」
 そうかのう? むしろ、『綺麗だった』の部分のほうが事実に反しておるような……。
「ジャング……いえ、お庭の話は後にしましょう、華輪さん。まずはこの子をなんとかしないと」
 ヴァルキュリアのバラフィールおねえが、とっちらかった話を本筋に戻してくれた(『ジャングル』という失言未遂は聞かなかったことにするのが大人のマナーじゃぞ)。
「そうでした!」
 灯おねえが屍隷兵に向き直った。
「さっきは『遊んであげられません』と言いましたが、皆さんが来てくれたのなら、話は別です。たっぷりと遊んであげられそうですよー」
 屍隷兵と『遊んであげ』るべく、あたしらは武器を構えた。
 サーヴァントたちもフォーメーションを展開。ウイングキャットのカッツェとアナスタシアは前衛に(後者はカルナに体を押しつけてすりすりしとる)、オルトロスのイヌマルも前衛に、テレビウムのマギーは……ちょこまかと右往左往しておる。
「マギーはカルナに協力しな」
 ピジョンさんがそう言うと、マギーはそれを『前衛に就け』という意味に受け取ったらしく、カルナおにいや他のサーヴァントに加わった。ちょっと数が多すぎるので、減衰が起きる……と思ったが、問題なし。シャドウエルフのシルおねえがジェットパック・デバイスを噴かしてカッコよく舞い上がったからのう。
 シルおねえは空中で決め台詞を発して――、
「闇を切り裂く流星の煌めきを受けてみてっ!」
 ――屍隷兵にスターゲイザーをぶちかましたのじゃ。

●ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
「痛ァーイ! ウェェェーン!」
 シルの蹴りを受けて、屍隷兵は泣き出した。
 うーん。なにも知らない人が見たら、児童虐待だと勘違いするかもしれないなぁ。こういう敵はやりづらいよ……。
 ところが、屍隷兵はあっさり泣きやんで、頭をぶるんぶるん振った。
「オ返シダー!」
 頭に咲いていた花が舞い散ったかと思うと、手裏剣のように激しく回転しながら、後衛陣に襲いかかった。
「オラトリオのシンボルとも言える美しい花をこんな武器に改造するなんて……」
 花吹雪ならぬ刃吹雪に傷つけられながら、カルナが怒りと悲しみの呟きを漏らした(どーでもいいけど、彼の大切な存在であろう灯の『美しい花』はボケの花だったりする)。後衛でないはずの彼がダメージを受けたのは、自分の身を盾にしたからだ。
「うむ。元気いっぱいの素敵な攻撃だね。だが――」
 カルナに庇われたアンゼリカが紳士然とした雰囲気を醸しつつ、屍隷兵に微笑みかけた。
「――もう少しレディとして慎みをもってもいいと思うかな」
 そして、その雰囲気を崩すことなく、シルと同様にスターゲイザーを見舞った。
「キャッ!?」
 転倒する屍隷兵。
 その隙にカルナがサークレットチェインで自分やサーヴァントの防御力を上昇させ、バラフィールがフォーチュンスターを撃ち出した。フォーチュンスターのオーラが花片を伴っているように見えたのは不思議なフェアリブーツのせい?
「カッツェ!」
「にゃあ」
 バラフィールの指示に応じて、カッツェが清浄の翼で後衛陣にヒールとエンチェントと施した。
「マギー!」
「――」
 僕の指示に応じて、マギーが(テレビウムなので返事はできなかったけど)応援動画を再生し、カルナにヒールとキュアを施した。
 バラフィールとカッツェのコンビに比べると、ちょっと締まらない絵面のような気がするけど……まあ、いいか。

●バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
 爪先立ちになって頭部の動画をカルナさんに見せているマギーさんが可愛すぎるのですが……今は萌え悶えてる場合じゃありませんね。
「あなた、お名前は?」
 爆破スイッチを手にして、灯さんが屍隷兵に尋ねました。
「アタシ、ヨンジューニゴー!」
 ヨンジューニゴー? 『四十二号』ということでしょうか? どうやら、この屍隷兵の作り手は創造物に名前など与えない……そう、番号で充分だと考えるタイプだったようですね。
「オネエチャン、名前ハ?」
「あたしは――」
 灯さんが爆破スイッチを押しました。
「――灯お姉ちゃんです! さあ、一緒に遊びましょう!」
 ブレイブマインの爆風(なぜか、爽やかな花の香りを含んでいます)が後方から吹いてきました。
「いい歳してお子様と遊ぶのは色々と辛いけど……御所望なら、しかたない!」
 爆風を背に受けながら、拳をぎゅっと握りしめるビジョンさん。
 すると、屍隷兵の胸のあたりで小さな爆発が起きました。まるで花火が弾けたかのように。おそらく、サイコフォースでしょう。
「うん! 私たちと楽しくバトルしよ!」
 緋色さん(変顔は治っています)がブラックスライムを解き放ち、ケイオスランサーで追撃。
 続いて、ウィゼさんが九尾扇を一振りして蒸気を噴出し、カルナさんの防御力を高めました。
「皆は遊ぶがいい。あたしは遊びじゃなくて、おもてなしをするのじゃ」
 スチームバリアがおもてなし?
「遊びたいんだね? うん、判った」
 屍隷兵に語りかけながら、シルさんが急降下。
 そして――、
「じゃあ、めいっぱい楽しんじゃおうかっ! 忘れられないくらいに楽しんじゃおうっ!」
 ――マインドリングから伸びる光の剣で斬撃を浴びせました。『楽しんじゃおう』という言葉の通り、剣舞でも披露するかのように美麗な動きで。
 しかし、屍隷兵はお気に召さなかったようです。
「ダメダメ! コンナ遊ビ、ゼッンゼン楽シクナーイ!」
 駄々っ子のように地団駄を踏みながら、屍隷兵は背中の翼から光を放射しました。
 シャイニングレイとは似て非なる邪悪な光を……。

●シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)
「アタシガ遊ビタイ相手、ソッチノオネエチャンタチダケ! 他ノ人、邪魔シナイデ!」
 屍隷兵の女の子が指さした『ソッチノオネエチャンタチ』とは灯さんとアンゼリカさん。どうやら、オラトリオだけと遊ぶ(という名目で捕獲または殺害する)ようにプログラムされているようです。悪意ある創造主によって。
「ごめんなさい。あなたの希望に沿うことはできないのです」
 バラフィールさんが腕をもたげました。
「だけど、せめてこのひと時だけは……地球の美しさを感じてください、ね」
 バラフィールさんの指先が女の子に向けられると、無数の沈丁花が乱舞しました。女の子が最初に放ったグラビティと同じように。
 そして、その美しくも残酷な舞いに別の植物が加わりました。
「ここで遊ぶのに必要なのは殺意ではないよ、レディ」
 アンゼリカさんが繰り出した攻性植物です。
「さあ、存分に私たちと楽しもうじゃないか」
「ヤダー!」
 捕食形態の攻性植物に食らいつかれ、女の子はヒステリックに叫びました。
「コンナノ楽シクナイッテバ!」
「まあまあ、そう言わずにつきあってよ」
 緋色が女の子をなだめる……という態でサイコフォースを発動。
 爆発が起きて女の子がよろめくと、執事のような姿をした半透明の亡霊が駆け寄り(漂い寄り?)ました。どうやら、ピジョンさんが召喚した亡霊のようです。
「遊ぶってのはこんな感じでいいのかな?」
 ピジョサンは戸惑い気味ですが、亡霊執事さんのほうはノリノリで女の子を攻撃しました。
 相手のこめかみを拳骨でぐりぐりするという形で。
「ンァ゛ァ゛ァ゛ー!」
 エコーがかかったような悲鳴(?)を響かせて、女の子は悶絶しました。

●カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
 その後も僕たちは『遊び』を続けました。
 楽しさという感情を屍隷兵に知ってもらうために。
 そして、死を与えるために。
「こんなのは思い上がりかもしれませんし、偽善かもしれませんが、少しだけでも救いになれば……」
 そう呟きながら、降魔真拳を叩きつけるシルさん。マインドソードを振っていた時と同様、演舞を披露するかのようなアクションです。
 しかし、屍隷兵は演舞を楽しむ余裕などないらしく、小さな指を突きつけて反撃してきました。
「ナニスンノヨー!」
 指先から赤い滴(たぶん、血液でしょう)が放たれて、シルさんに向かって飛びましたが、命中しませんでした。僕が盾になったので。
「にゃあ!」
 僕の肩にとまって体をすりすりしていたアナスタシアが舞い上がり、清浄の翼で僕や他のサーヴァントたちを癒してくれました。そして、また肩に戻って、すりすりを再開。お返しにもふもふしてあげたいところですが、戦闘中なのでぐっと我慢。後でゆっくり遊んで遊びましょうね。
「お客人はなにやら不満がある様子。では――」
 屍隷兵を横目で見ながら、ウィゼさんがタクトを振るかのような動きを見せました。
「――おもてなしのレベルをもう少し上げようかのう」
 見えないタクトに導かれるように遠くの空からアヒル型のミサイルが飛来し、屍隷兵を攻撃! ……するかと思いきや、誰にも命中することなく、周囲を飛び回りました。『グワッ、グワッ、グワッ』と鳴きながら。
「うん。楽しくも頼もしい応援歌だ。力が漲ってくるねぇ」
 アヒルの鳴き声のリズムに合わせて体を揺らしつつ、アンゼリカさんが屍隷兵めがけて攻性植物を放ちました。
「ほーら、捕まえた」
 蔓触手形態に変じて屍隷兵に締め上げる攻性植物。通常よりも強く絡みついているように見えます。アヒルの鳴き声には攻撃力を上昇させる効果があったのでしょうか?
「捕まえた後はおなじみのこれだー」
 同じくアヒルの恩恵を受けたピジョンさんが亡霊執事を召喚し、攻撃力マシマシのぐりぐり攻撃を仕掛けました。
「ンァ゛ァ゛ァ゛ー!」
 エコー付きの悲鳴、再び……。

●華輪・灯(春色の翼・e04881)
「今一度、あなたの力を!」
 礼さんが見慣れぬグラビティを発動させて、緋色さんが持つ簒奪者の鎌にエネルギーを注入しました。
「どっかーん!」
「アチチチチッ!?」
 緋色さんが簒奪者の鎌を振るうと、四十二号ちゃんは炎に焼かれました。バスターフレイム用の人体自然発火装置が鎌に装着されていたようです。
「できるだけ楽しんでもらおうと思ったのですが……やはり、無理があったようですね」
 カルナさんが悲しそうな顔でフロレースフラワーズのテスップを踏み、花片のオーラを降らしました。もちろん、それは仲間たちを癒すため。だけど、戦場を明るく華やかにしようという意図もあるのだと思います。『無理があった』と判った上でなお……。
「これが僕にできるせめてもの手向け……」
 そう、無理があるとしても、できるだけのことをしなくてはいけないのです。
 というわけで、円陣を組んで四十二号ちゃんを包囲!
 その目的は二つです。一つは、彼女を逃がさないため。そして、もう一つは――、
「ちゃんちゃんちゃららん♪ ちゃんちゃんちゃららん♪ ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃららぁ~ん♪」
 ――フォークダンスでおなじみの『マイム・マイム』のメロディに乗って、皆でぐるぐる回るため!
「……ホェ?」
 さすがに四十二号ちゃんもぽかーんとしています。
 でも、気にしません。私たちは笑顔を浮かべ(マギーさんはスマイルな顔文字を表示して)、踊って、回って、輪を縮めてはまた広げました。
 ただ、ピジョンさんの笑顔はちょっと硬いですね。やはり、三十代の男性にとっては色々とキツいみたいです。
 一方、五十代の男性であるヴァオさんはキツさを感じてない模様。『マイム・マイム』のメロディに合わせて歌声を響かせています。
「アタマの大盛り、お新香つけて、味噌汁も頼んで、むしゃむしゃ食べよっ♪ うまーい、うまーい、うまーい、うまーい、うまい牛丼♪」
「なんなのじゃ、その歌詞は?」
 ウィゼさん(ちなみに彼女のアヒルちゃんも『マイム・マイム』に合わせてグワッグッと鳴いています)が尋ねると、ヴァオさんは歌うのをやめて、これ以上はないというくらい真面目な顔で答えました。
「自己流の歌詞にしないと、Jで始まるコワい組織に目をつけられるかもしれねえだろ」
 そもそも歌詞をつける必要はないと思うのですが……。

●赤星・緋色(サンプル・e03584)
「あなたがどんな子であろうと、ここに……私の家に来たからには笑顔にしてあげたくなっちゃうんです」
 輪になって回りながら、華輪さんが屍隷兵さんに語りかけた。
「そういうのって、変でしょうか? 変なら、笑ってくださいね」
「……」
 屍隷兵さんは笑わなかったけど、表情が少しばかり弛み気味になっているように見えないこともない。『マイム・マイム』の効果かな?
 だけど、いつまでも『マイム・マイム』してるわけにはいかないんだよね。
「脳細胞を活性化したら、もっと楽しくなるかも」
『マイム・マイム』のせいで「恥ずかしい」の状態異常を付与されたであろうブラッドさんが輪を抜けて、魔導書を開いた。ぱらぱらと手早く頁をめくり(衣装のデザイン画っぽいのがちらっと見えた)、唱えた呪文は脳髄の賦活。
 それを受けたウィンディアさんも輪から飛び出して――、
「きらきら大きい花火だよ!」
 ――ヴァルキュリアみたいに光の翼を背中に広げ、前方に突き出した両の掌から魔力のビームを発射した。
「この輝きがあなたの道を照らしますように……」
「星の光も添えておきましょう」
 祈りを言葉を口にするウィンディアさんに続いて、アルシクさんがオルゴール箱のような武器から魚座のオーラを飛ばした。
 そして、すぐに三つめの光が閃いた。
 それを飛ばしたのはアーベントロートさんたち。『たち』がつくのは、色白の女の子の残霊と一緒に放ったグラビティだから。
 その光は痛みを与える性質のものではなかったらしく、屍隷兵さんは苦しそうな顔をしたり、悲鳴をあげたりはせず……静かに消えた。消え去った。
 塵一つ残さずに。
 でも、目には見えない色々なものを私たちの心に残して。
 屍隷兵さんに続いて残霊が消えると、アーベントロートさんが誰にともなく言った。
「この地に必要なのは争いでも涙でもない。必要なのは、きっと……」
 言葉を切り、アーベントロートさんは横手に目をやった。
 そこにいるのは、悲しそうに顔を伏せている華輪さん。
 そして、彼女の肩を優しく抱いているロッシュさん。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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