迎撃、星戦型ダモクレス~トラブル・ウィズ・バブルス

作者:秋月きり

「もうみんなも聞き及んでいると思うけど、アダム・カドモン率いるダモクレスとの決戦を行う事が決定したわ」
 リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の言葉はいつも通り、しかし、厳かにも響いていた。
 これを最後の戦いとしたい。彼女の気持ちもまた、ケルベロス達と同じであった。
「現在、アダム・カドモンが座上する惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は、亜光速で太陽系に侵攻しているわ」
 彼らの侵略は即ち機械化だ。現に、太陽系の惑星のいくつかは彼らによって機械化されようとしているようだ。
「アダム・カドモンの目的はただ一つ。『機械化した惑星の運行を制御し、グランドロスを発生させる』事よ」
 グランドクロス。随分昔にオカルト雑誌を騒がせたそれも、デウスエクスの侵略と重なれば、一つの魔法となる。そう、地球に膨大な魔力をもたらした季節の魔力のように。
「ええ。グランドクロスは言わば、宇宙版の『季節の魔力』ね。その魔力で彼らは『暗夜の宝石である月』を再起動させ、地球のマキナクロス化を行おうとしていると見られるわ」
 現在、ダモクレス軍は、惑星の機械化と同時に魔空回廊を起動。星戦型ダモクレスを直接月面遺跡内部へ転移させ、月面遺跡の掌握を行おうとしている。
「よってみんなには万能戦艦ケルベロスブレイドで月面遺跡へと急行し、防衛に当たって貰うわ」
 幸い、月面遺跡の制御を奪う為、ダモクレスが狙うと思わしき地点は、聖王女エロヒムの協力により予知することが出来ている。
「みんなにはそこへと先回りして貰って、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃して貰いたいの」
 一つの地域に着き、投入されるダモクレスは三体。最初のダモクレスが現れた後、8分後に次のダモクレスが、そしてその8分後に更にもう一体のダモクレスが魔空回廊から出現する。
「素早く敵を撃破することで、各個撃破が可能って訳ね」
 逆に長期戦に持ち込んでしまったり、倒す事を手間取ってしまえば、複数の敵を同時に相手することになるだろう。
 それは推奨しかねると、リーシャは首を振る。
「あと、もしも勝利が難しい場合、遺跡を破壊して撤退する決断も必要になるわ」
 暗夜の宝石の遺跡である月面遺跡の破壊は出来れば避けたい処だが、命には代えられない。また、地球のマキナクロス化を防ぐ為には、その手段もやむを得ないと考えるべきだろう。
「それで、みんなが迎撃する敵だけど、科学者型のダモクレス、『変成を起こすもの』ケオプス。そして、その護衛のCJGG1-LAMBERG、CJGG2-RAYCIAになるわ」
 出現順位だが、CJGG1-LAMBERG、CJGG2-RAYCIA、そしてケオプスになるようだ。
「まず、ケオプスだけど、科学者型だけあって、地球のマキナクロス化の要員のようね。だから、戦闘は不得手なのか、攻撃力は高くないわ。能力もサポート寄りね」
 逆を言えば、最初に出てくる2体のダモクレスは戦闘特化のようだ。
 単体の戦闘力も然る事ながら、もっとも避けるべきは連携である。その上で、彼らの優先事項は合流のようなのだ。
「CJGG1-LAMBERGは防御特化、CJGG2-RAYCIAは速度特化で、時間を稼ぐようね」
 それは、彼らがケルベロスを強大な敵と認めているが故だ。付け入る隙となる驕りを彼らは持ち合わせていない。合流し、最大限の力で強敵を討つ。彼らの選択を要約すればそれであった。
「だからこそ、速攻撃破が求められるわ。確実に攻撃を当てる算段を取り、大きな破壊力をぶつける。併せて防御や回復も忘れちゃ駄目。そうね。何れが欠けても勝利は難しいでしょう。その上でアドバイスが出来るとしたら、それでも攻撃を重点的に。クラッシャーを二人……可能なら三人は欲しい所かしら?」
 無論、使役修正を考慮した上での話だ。それを主軸とした戦い方を考えるのも一つの手段だ。そして、それ以上に効果的な作戦を立案できれば、その実践も悪い話ではない。
「この戦いが宇宙の未来を決定する戦いになることは間違いないわ。月面遺跡内部での戦いになるから、ケルベロスブレイドの援護は受けられない。けど、みんななら勝利出来ると信じている」
 だから、とリーシャは言う。それはいつも通りの言葉だった。
「それじゃ、いってらっしゃい。みんなの武運を祈っているわ」


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
武田・克己(雷凰・e02613)
真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)
レイシア・アクエリアス(穿つ雪兎・e10451)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)
アイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796)

■リプレイ

●炎の徒
 業火が低重力下に薙がれていく。遺跡を焼き、月肌を焼き、そして宇宙をも焼く。
「何が防御特化だ!」
 舌打ちを零したのは武田・克己(雷凰・e02613)であった。共に繰り出した刺突はしかし、ガキリと激しい音のみ周囲へと響かせていた。
「流石はこの期に及んで投入された星戦型ダモクレス、と言う訳かしら」
 彼を覆った紅蓮の炎は、しかし、その肌を焦がすに至らない。
 間に割って入ってアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が、闇色の闘気で虚空へと散らしたからだ。
「それだけ、彼らも本気なのでしょう」
 真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)の言葉はゆるりと紡がれる。
 光り輝くオウガ粒子を零す彼女は、宛ら、巣を張り巡らせる蜘蛛のようにも見えた。
 ならば、目の前の敵は――。
「炎、赤い、アレは、……敵?」
 自身の身体を掻き抱き、レイシア・アクエリアス(穿つ雪兎・e10451)がぽつりと零す。
「レイシア? 大丈夫かにゃ?」
 先程の炎で何か怪我を?! とアイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796)がその表情を覗き込む。だが、心配は無用そうだった。精神的外傷を帯びている様子はあるものの、直接的な怪我はない。
「ええ。敵です。倒しましょう」
「地球のマキナクロス化なんて、絶対に阻止せねばなりませんわね」
 震え声を支えるのは風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)とカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)の静かな宣言だ。
 魔空回廊を通ってきた目の前のダモクレス――赤い蛙の外見をしたそれは、彼らの倒すべき敵だ。正確に言えばその内の一体である。
「CJGG1。お前を倒し、残りの敵全てを倒す。それが俺の選んだ道だ」
 滅びを回避する。
 黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)のチェーンソー剣が、鈍い機械音を響かせた。

「ぐ、ぎゃ?」
 炎を薙ぎ、蝕腕を振り上げる。星そのものを灼く火炎放射と、それらを砂にすら圧壊する腕力。それがCJGG1-LAMBERGの能力であった。
 そして、その身体は恐ろしく硬かった。ありとあらゆる事故を想定し、しかし、故障はしない。それが彼に求められた能力だったからだ。
 故に、彼は思う。
 たとえ神殺しの番犬の牙による攻撃であっても、それに打ち勝つ能力を、自身は有していた、と。
「ぎゃぎゃ?」
「ま。そうですわね」
 高飛車。傲慢。カトレアの笑みはその全てを体現していた。
 如何に頑丈な装甲を持っていても、よもや攻撃特化に振り切った三人のケルベロスの猛撃を受け続けることは想定外だったのだろう。赤い剛体は砕け、崩れ始めている。
 まして、残り四人と二体による攻撃もまた、その身体を捕らえているのだ。
「そっちに退けない理由があるように、こっちにも譲れない理由があるってな」
 そして克己は直刀を、カトレアは薔薇の日本刀を構える。
 それが、敵への手向けとなった。
「木は火を産み火は土を産み土は金を産み金は水を産む! 護行活殺術! 森羅万象神威!!」
「その身に刻め、葬送の薔薇! バーテクルローズ!」
「ぐぎゃあああ!」
 ダモクレスの身体に刻まれたのは薔薇。そして十字創だった。そこから噴き出した爆炎は崩れゆく鋼体を包み、圧壊していく。
「風雅流千年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ」
 カトレアの肩を抱き、克己が紡いだ言葉に、答えはない。
 ただ、爆発音のみが、周囲に木霊していた。

●氷の徒
 手首から振動が伝わる。共に微細なアラーム音が響き渡った。
「時間です」
 LAMBERGを討伐し、1分弱と言った処か。順調な撃破は、皆の連携の賜物と恵は吐息を吐く。
「もうちょっとで回復も終わるにゃ」
 これはアイクルから。
 その傍らのインプレッサターボもぶるりと、武者震いの如く排気音を奏でていた。
 連戦であるが故に、早々にLAMBERGを撃破出来たことは幸いだった。疲労や回復不能ダメージの蓄積は如何ともし難くとも、多少の怪我は彼女と、そして皆のグラビティで治癒を果たすことが出来た。
「来たぞ」
 鋼の言葉が指し示すのは、光を放ち始めた魔空回廊だった。そして、そこから登場する物は当然――。
「確かにレイシアっぽいわね」
 梔子の言葉は確かに当を得ていた。
 現れたそれ――CJGG2-RAYCIAは、言うならば兎型のアンドロイドとの風体だった。ウェアライダーと言い張るのは無理があっても、レプリカントと言えば、この外見を不審に思う者は少ないだろう。
(「成る程。潜伏型ダモクレスだったわけね」)
 それは、自身が辿ったかも知れない未来だったと、アウレリアは嘆息する。想いは心を形成する。愛しき伴侶が存在しなければ、自分も同じ兵器に貶められていたかも知れない。
「行くよ、私。――そこ」
 陽光に煌めく氷像を生み出しつつ、レイシアは静かに言葉を紡ぐ。
 彼女の蹴りが、鬨の声となった。

「くっ。早ぇ!」
 克己の悪態は、虚空を斬り裂いた自分の白刃を見送りながら紡がれる。
 それは彼の斬撃のみではなかった。戦闘開始早々に紡がれたレイシアの蹴りも、カトレアの炎蹴も彼女を捕らえることが出来ていない。かろうじてインプレッサターボの銃撃がその身体を掠めるのみだ。
「流石に速度特化、ね」
 ならば、とオウガ粒子を放出しながら、梔子は嘆息する。
 彼女に続くレイシアもまた、オウガ粒子の放出で仲間を援護。彼らの超感覚を高めていく。
 だが、それでも。
「足りない、か」
 鋼のチェーンソー剣は虚空を斬り裂く。
 捕らえたと思った一撃をしかし、RAYCIAは空中で大きく体勢を変え、更なる跳躍を以て回避したのだ。
(「そう言えば星戦型ダモクレスに改造されてるんだったな」)
 超感覚を研ぎ澄ましても攻撃を当てるに至らない。その為の策が足りていない事に、歯噛みすら覚えそうだった。
「では」
「アルベルト。お願い」
 その一手を紡ごうと、恵とアウレリアが声を上げる。
 片やキャスター。そして片やスナイパー。オウガ粒子の恩恵は、如何に速度特化のRAYCIAと言えど、二人の攻撃を命中へと導いていく。
 そして、それが叶えば。
「――?!」
 がくりと、RAYCIAが片膝を突く。
 恵の跳び蹴りと、アルベルトの騒霊攻撃が動きを鈍らせたのだ。
「いまにゃ! ボコボコにやってやるにゃ!」
 アイドルらしからぬ暴言がアイクルから零れたが、おそらく気のせいだろう。
 彼女の体当たりを皮切りに、ケルベロス達の猛攻が次々とRAYCIAに突き刺さっていく。
「――?!」
 悲鳴は上がらない。ただ、驚愕のみがその表情を染め上げていた。
 そして。
「倒す……倒す……」
 それは執念と言うべきか。
 レイシアの凍結光線が、RAYCIAの身体を捉え、その一点から崩壊を呼び覚ます。
「ねぇ、CJGGシリーズは……?」
「――?」
 続けざまにレイシアが問うた言葉に、しかし、RAYCIAからの応えはない。それを有していないのか、それよりも早く崩壊が訪れた為か、ついぞ知る事は出来なかった。

●OwnYour OwnWorld
「8分、ね」
 ストップウォッチに視線を落としながら、カトレアが呟く。
 流石にLAMBERGとは違い、倒すのに時間を有してしまったようだ。此度のインターバルは随分と短く感じる。
 回復に割ける時間も僅かと、此度に関して言えば少々分が悪く感じた。
(「いえ、その時間が取れた事自体が僥倖ね」)
 アウレリアは内心でそっと呟く。
 一時は敵3体が合流する事まで想定したのだ。しかし、攻撃を重点的にする事に舵を切った事が実を結んだ事に、安堵さえ覚える。決して楽な道では無かったが、今回に限って言えば、自身らの作戦勝ちと言えるだろう。
「ほう、二体とも倒されたか。酷い事をする」
「どの口がそれを言うの?」
 そして、魔空回廊が最後の光を放つ。
 出現したのは鼠を想起させる奇怪なダモクレス――『変成を起こすもの』ケオプスであった。
「久しぶりですね、虫野郎。主は元気にしてますか? またペストなんて時代遅れの病気にご執心なんですね」
「さて。星戦型ダモクレスと生まれ変わった儂にその問いは理解出来ぬな。同型機――或いは過去の儂かもしれんが、その問いは意味を成さぬよ」
 ケオプスの返答に、梔子は歯噛みする。
 絶対的な証拠がある訳では無い。だが、確信はある。彼と自身が何らかの縁で繋がっている事を、彼女は理解している。互いに判っているのだ。『彼奴は倒すべき敵だ』と。
「戯れに聞こうか。ケルベロスよ。何故地球のマキナクロス化を否定する?」
「そんなの、当然だにゃ!」
 激しく主張するのはアイクルだった。
「あたしは先日、正統派アイドルとしてデビューしたばかり! インタビューだって受けたにゃ! これからはもう『水着を着ても悲しいドワーフ体型』だとか『ドワーフ体形のアイドル衣装は悲しい』とか言わせない活躍をするにゃ!」
 何処にぶつけた悲しみや怒りなのだろうか。それを計り知る事が出来ず、ケオプスは眉根を顰める。
「……望むなら、儂が作り替えてやるぞ?」
「整形はお断りにゃ!!」
 19歳ドワーフアイドル、魂の叫びであった。
「俺は、ダモクレスの滅びを望んでいる訳では無い」
 鋼もまた、言葉を紡ぐ。
「それでも今は、地球のマキナクロス化を阻止しなければならない。地球の皆と共存の道を辿り、その先にダモクレスの滅びを回避する道があると信じている!」
「それが貴様の弁明か。これだからレプリカント化した輩は」
 肩を竦めるケオプスに、すっと歩み寄る者が居た。
 傍らにアルベルトを控えさせたレプリカント――アウレリアであった。
「聞き捨てならないわね」
「ほう。儂らの尖兵として生まれ、そして壊れた貴様らに、儂らの真意を理解出来る、と?」
「確かにダモクレスから見れば、レプリカントは壊れた存在かも知れない。デウスエクスでもなく、地球人と同じ定命を持ち、そして滅んでいく……。ダモクレスから見れば特異な存在と言えるかも知れない」
 でも、とアルベルトの肩を抱く。それが随分と昔、彼女の見出した答えだ。
「心がある。愛がある。それがどのくらい素晴らしい事か、貴方には判らないでしょう?」
「否、理解する必要も無い」
 鼠顔を歪め、ケオプスが台詞を吐き捨てる。
「叶うならば、ダモクレスとの戦いは避けたかった。それは本心です」
 それは恵から発せられた言葉だ。
「ですが、貴方達は僕達と戦う決心をし、そして僕らもそれに応じる選択をしました。その選択に迷いはありません」
 語る時間は過ぎたと、日本刀を構える。ダモクレスとケルベロス。水と油のように交わらない事は先の会談で得た結果だ。
「だから、この戦いが、そして地球の防衛戦が全ての戦いの決戦になる事を願います」
 その宣言と共に、ケルベロス達は各々の得物を振りかざす。
 戦いの終局は、刻一刻と近付いていた。

 それはヘリオライダーの予知した通りだった。
 ケオプスは科学者型ダモクレスであり、戦闘は不得手と言う前情報は正しかった。
 ケルベロス達の猛攻は彼の身体に突き刺さり、そして破壊していく。
 速攻での撃破に至らなかったのは、その治癒力による恩恵だった。
 だが、多数の攻撃を前に、治癒のみを強いられるのは、言わばジリ貧であった。
 斯くして、ケオプスの命は地獄の番犬の牙に食い破られていく。
 勝敗は誰の目にも明らかだった。
 ――そう思えた。

「……よくやる、と褒めてやろう」
 一跳躍で距離を取ったケオプスが、表情を歪めながらケルベロスに言葉を吐く。内容こそは賞賛に聞こえたが、表情から歯噛みすら感じることが出来た。
「だが、忘れるな! 儂の字は『変成を起こすもの』! 地球のマキナクロス化も、ダモクレスの鋼体の改造も、儂にとっては等しく同じものだ」
「――まさか?」
 いつの間にケオプスの手に握られていた注射器を見やり、梔子が声を上げる。
 だが、それを止める術は無い。
 注射針はケオプスの腕に吸い込まれ、そして充填と共にその身体に変化が訪れていた。
 身体は倍以上に膨れ上がり、目は禍々しく爛々と輝いている。
 踏み出した足は遺跡の一部を容易に砕き、伸ばした手は、遺跡の壁面を、まるで粘土細工の如く引きちぎっていた。
「こんなことも出来る! ここからが本番だ。ケルベロス共! 我が変成体と貴様ら、どちらが上か試してくれよう」
「――なんだ? そりゃ?」
 だが、荒ぶるケオプスに対し、疑問符を浮かべたのは鋼達であった。
「貫く!」
 そして、超感覚に導かれるまま、痛烈な一撃をケオプスに叩き付ける。
 防御行動も取らず、まともに受けたケオプスはそのまま吹き飛ばされ、地面に衝突していた。
「的がでかくなってやりやすくなったってとこか」
「大きさが戦力に直結するなら、ドラゴンの方がまだ判りやすかったわ」
 克己とカトレアの斬撃は容赦なく、彼を削り取っていく。
 思えばこの5年間、様々な強敵と渡り合ってきた。それら強敵と比べれば、自身を強化した処で、ケオプスの戦力ならば下の下と言わざる得ない。
「でも、念の為、その回復、封じさせてもらうわ。……無駄な足掻きは止めて夜の裳裾に身を委ねなさい」
 アウレリアの弾丸が、ケオプスの身体を捉える。
 特殊培養された殺神ウィルスに侵され、ケオプスの唇から呻き声が零れた。
「ぐ、ぎゃ、貴様」
「流石に貴方だったら判るでしょう? 今、何が打ち込まれたかを」
 だが、その治癒阻害も、次の回復で効果だけは吹き飛ばされてしまう。
 故に、と動き出す。
 決着をつけるなら未だ、と。
「うおおおおおおーーっ!」
 最初にグラビティを叩き付けたのはアイクルだった。アイドルらしからぬ暴言は本日二度目。子どもに聞かれればPTAに問題視されかねない発言は、しかし、幸いな事にケオプスにしか届かなかったようだ。仲間に聞こえたそれは、おそらく幻聴だろう。そう言う事にしておいて欲しい。
「貴方のことは知らないけど……倒すと決めた。だから、倒す」
 追い打ちはレイシアからだ。
 巨大なバスターライフルから照射された魔法光線は、膨れ上がったケオプスの腹部を貫き、灼熱に染め上げる。
「凍れる刃の一撃、受けて頂きます」
 恵の氷撃は、日本刀の斬撃と共に繰り出される。斬裂と凍傷。即座に傷口は氷によって塞がれ、出血は皆無に終わる。だが、ダメージは上々の様子だ。
「終わりにしましょう。ケオプス。貴方達に奪われたこの腕で、終わらせてあげる」
 そして、梔子の掌底が、その顎を捉える。
 鈍い音は、顎と共に頸椎の砕けた音か。ケルベロスの放つ止めの一撃は、ダモクレスの彼の命を奪うのに充分な威力を持っていた。
「さようなら、かしら?」
 塵と消えていく縁者の亡骸を前に、何処か淡々と、しかし物悲しく聞こえる梔子の声が、響いていた。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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