迎撃、星戦型ダモクレス~星が導く、その先へ

作者:朱乃天

 超神機アダム・カドモンへの対応を決める投票の結果、ケルベロス達はダモクレスと決戦し、完全なる決着を付ける事を選択した。
 現在、アダム・カドモンが座上する惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は、亜光速で太陽系に侵攻し、太陽系の惑星の機械化を開始している。
 アダム・カドモンの目的は、『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事だと、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が言う。
「グランドクロスは例えるなら『季節の魔法』の宇宙版であり、膨大な魔力によって暗夜の宝石である『月』を再起動させ、地球のマキナクロス化を行うつもりみたいだね」
 ダモクレス軍は惑星を機械化させると同時に、魔空回廊を利用して、月面遺跡の内部に星戦型ダモクレスを直接転移し、月遺跡を掌握しようと企んでいる。
「そこでキミ達には、万能戦艦ケルベロスブレイドで月遺跡に向かってもらい、遺跡の防衛に当たってほしいんだ」
 月遺跡の制御を奪うべく、ダモクレスが狙うと想定される地点は、聖王女エロヒムの協力によって予知できた。
 敵は魔空回廊を通じて、宇宙での戦闘用に改修強化した『星戦型ダモクレス』を送り込んでくる。
 ケルベロス達はその予測地点に先回りして、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃し、月遺跡を守り抜く。それが今回の作戦の目的だ。
「1つの地域に送り込まれるダモクレスは3体で、最初の1体目のダモクレスが現れてから8分後に追加で1体。そこから更に8分後に、もう1体が投入される流れになるよ」
 要するに、3回に渡って送り込まれる敵に対して、8分間で1体ずつ倒していけば、各個撃破が可能になる。しかし撃破に手間取るようだと、複数の敵を同時に戦わなくてはいけなくなる。
 それでも最終的に全滅できれば問題ないが、最悪の場合、勝利が難しいと判断したなら、遺跡を破壊して撤退する決断も必要になってくるだろう。
 暗夜の宝石の遺跡の破壊はできれば避けたいところだが、地球のマキナクロス化を防ぐ為には、やむを得ない部分もある。
 でもキミ達だったら大丈夫だと、シュリのケルベロス達に寄せる信頼感は揺るぎなく、今回戦う敵に関する情報を説明する。

「相手をするのは計3体。【プラネットフォース】と呼ばれるシリーズの機体になるよ」
 3体の中でリーダー格になるのは、『ザ・ジュピター』という名のダモクレス。老魔導師のような風貌で、雷と木の力を扱う事に長けている。
 そしてその前に投入される2体。まずは『ジ・エウロパ』という、水色のドレスを纏った少女の姿のダモクレスが先陣を切る。彼女は水を使った攻撃が得意だ。
 次に送り込まれるのが、『ザ・カリスト』。こちらは修道女のような外見で、氷の魔術を駆使して護りを主に担当する。
 それぞれ戦い方の異なる三体で、それらを限られた時間の中で倒さなくてはならないのだから、かなりの苦戦が予想される。
 けれども、ここまで多くの苦難を乗り越えてきた者達ならば、どんな強敵が相手だろうと決して負ける事はない。
「ボクはキミ達の力を信じているよ。だから今度も絶対勝って、全員無事に戻ってきてね」
 強い願いを込めながら、シュリは戦場に向かうケルベロス達の背中を静かに見守り、武運を祈る。
 この戦いは、ダモクレスと雌雄を決するだけでなく、宇宙の未来を決める戦いになる。
 そしてデウスエクスとの長きに渡る戦いに終止符を打つ為にも、死力を尽くして勝たなければならない。
 今後の世界の行く末、その運命は彼らの双肩に掛かっている。
 地獄の番犬達の戦い、その最後の幕が、今開かれんとする――。


参加者
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
輝島・華(夢見花・e11960)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)

■リプレイ

●最初の試練
 ダモクレスとの決着を付けるべく、再び月面遺跡に降り立つケルベロス達。
 この地で彼らは、魔空回廊から送り込まれる敵の精鋭を相手に、布陣を敷いて迎え撃つ。
 緊迫した空気が周囲を包み、やがて――目の前の空間に裂け目が生じ、中から出現したのは、水色のドレスを纏った少女の姿をした機械人形。
 宇宙での戦闘仕様に強化された『星戦型ダモクレス』の一体。『ジ・エウロパ』が先陣を切ってケルベロス達と激突する。
「ケルベロス……こんなところまで来るなんて、本当に嫌な連中ね」
 待ち構える番犬達を見つけるなり、エウロパは怪訝そうに顔を顰めて舌打ちする。
「ああ、待ってたぜ。先ずはァ……挨拶代わりだァッ!!」
 逆立つ赤毛の粗暴な男、ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706) がニヤリと不敵に笑って先手を奪う。
 冥刀『魅剣働衡』を背中に付きそうなくらい振り被り、真っ二つに斬り裂かんほどの勢いを込めて、豪快に剣を振り下ろす。
 初手から大技を仕掛けるが、エウロパは踊るようにステップを刻んで攻撃を躱し、刃は頬を掠める程度で、空を切る。
「チッ、やっぱり外れるか……クッソ面倒くせェ。だったら、避ける暇もねェくらいに攻撃するだけよ」
 次は絶対当ててやる、とジョーイはすぐに気持ちを切り替え、剣を持つ手に力を込める。
「随分と手荒い歓迎ね。目障りだから、とっとと消えてくれないかしら」
 ペロリと指を舐めながら、エウロパがケルベロス達に片手を突き出す。指先に水の魔力が集束されて、五指から青いビームが光彩を纏って放たれ、番犬達に襲い掛かる。
「守りは任せてもらおうか」
 しかしそこに立ちはだかるのは、蒼い巨体。神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)が竜の翼をはためかせ、竜頭を模した戟にて水のビームを消し払う。
「お互いに譲れないものを賭けての勝負……。ここで退くわけにはいきません」
 輝島・華(夢見花・e11960)の両手に着けた鋼の腕が、淡く輝き、彼女の意思を宿した光の粒子がケルベロス達に散布され、味方の闘志を奮い立たせる。
「……返して合わせて、力を増やして」
 キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)が大きな純白の翼と漆黒の小翼を広げて、意識を集中。両の掌に、月を映したように輝く光の珠が浮かび上がり、眩い閃光を放つと仲間の身体に溶け込んで、精神を高めて集中力を研ぎ澄ます。
「……向かってくる火の粉は、払い除けねばなるまい。全力で、お相手させて頂こう」
 鉱石の如く勝色の鱗を全身に覆うドラゴニアン、ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)が大砲形態と化した巨大な槌に、魔力を充填させて照準を合わせ、砲弾を発射。
 竜が吼えるが如き砲撃音を轟かせ、放った弾はダモクレスの少女に命中し、爆ぜた瞬間、黒い煙が立ち上る。
「今ある地球と、そこに住む命を護る為に……全力を尽くしましょう」
 翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)が凛然たる強い眼差しで相手を見つめ、 手にした黒い鎖に精神を注ぎ、敵の動きを抑え込もうと念動力で鎖を操り、絡め取る。
 風音が相手を捕らえた一瞬の隙を、アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)が逃さず狙う。
「お互い譲れないものがあるものね。だから――負けられないわ」
 疾走し、間合いを詰めて、巨大鋏を模した白銀の剣を振り翳す。<静>から<動>へ、繰り出す無音の刃がダモクレスの鋼の身体を斬り刻み、激しい金属音が戦場中に鳴り響く。
「此処が最後の登竜門ッ! 困難は全部ブッ飛ばしてやるんだよ!」
 溢れんばかりの気迫を滾らせ、火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)が拳の一点に力を溜めて、狙いを定める。
「ひつ、めつ!」
 ふわりと髪を靡かせながら、相手の懐に潜り込み、打ち込む拳の一撃は――まるでナイフで突き刺すように、ダモクレスの脾腹を鋭く抉る。
「くっ……!? 調子に乗るな!」
 ケルベロス達の攻撃を立て続けに食らい、エウロパは怒りを露わに番犬達を睨めつける。
 水のドレスを翻し、機械人形の舞姫の手から膨大な量の水が発して、猛烈な勢いでケルベロス達に押し寄せる。
 大海嘯の如き衝撃波が、一行を呑み込まんと迫り来る。それでも晟は一歩も引かず、眼光鋭く正面を見据え、海自式蒼艦砲を構えて発射――撃ち放たれた砲弾が、敵の衝撃波を相殺した。
「貴様等が戦いを望むなら、我々も全力でそれに応えるだけだ」
 信念が違えば衝突するのは、多々ある事だ。そうした争いの歴史を終わらせようと、晟は不退転の覚悟でこの戦いに臨むのだった。
「いざ……勝負です。未来は私達が切り開いてみせます」
 華も負けじと決意を示し、魔法の箒に跨るようにブルームを駆って、疾風と共に仲間を鼓舞する鮮やかな七色の花弁が空に舞う。

 ――ケルベロスとダモクレスの、譲れぬ思いがぶつかり合う。
 戦いは拮抗するが、手数に勝る番犬達が次第に優位に事を運んで、いよいよダモクレスの少女を追い詰める。
「一発デケェの行くからしっかり受け止めろよ? ……でぇりゃァァァ!!!!」
 ジョーイが鬼神の如きオーラを纏い、最初の時と同様、剣を大きく振り被って叩き込む。
 さしものエウロパも今度は躱す余力が無い。憎々しげに歯軋りしながら、ジョーイの渾身の一撃をまともに食らう。
 そしてその衝撃によって、彼女の機械の身体が吹き飛び、宇宙の塵と消えて散る――。

●途を阻むモノ
 斯くしてケルベロス達は、まず最初の一体を見事に仕留めた。
 と同時に、アリシスフェイルの時計が振動し、戦闘開始から7分が経過した事を伝えるのだった。
 休憩している余裕はどうやら無い。間髪を入れず、敵の第二陣が一行の前に姿を顕わす。
「あらあら、『彼女』は負けてしまったのですね。相変わらずそそっかしいんだから」
 そこに出現したのは、黒い修道服を着た女性。先に送り込まれたエウロパが見当たらないのを確認すると、瞬時に状況を判断し、戦闘態勢へと移行する。
「ならばお次はこの私、『ザ・カリスト』がお相手しましょう」
 穏やかな口調や物腰とは対照的に、ケルベロス達に向ける殺意は本物だ。
 彼女が杖に魔力を注ぐと、白い凍気が溢れて全身を包み、氷の壁が展開される。
「守りに入るか。ならばその壁、打ち砕かせてもらおうか」
 ビーツーが箱竜のボクスと視線を合わせ、先にボクスが体当たり。続いてビーツーが両脚の爪を硬化させ、音速の蹴りが炸裂し、氷の壁に亀裂が走る。
「……争わずに済むのなら、それに越したことはないのですが」
 未来の行く末を憂うのは、ダモクレスもケルベロスも同じ筈。風音も互いに手を取り合うのが一番と、思いはすれども、その願望は決して叶う事はない。
「仲間や多くの命の意思に反して地球を変えるというならば、止めるまでです」
 大事な地球を機械化させるわけにはいかないと、前に出て、掌に力を溜めて――風音の思いを込めた掌底が、分厚い氷の壁を打ち破る。
「私は私の侭で生きていきたい。大事な人と、今迄生きてきた世界を護りたい」
 アリシスフェイルの指に光が灯り、虚空に描く煌めきは、未来へ繋ぐ道標。天翔ける流星は一筋の矢となり、ダモクレスの修道女の肩を一直線に射抜く。
「やはり手強いですね……。ですが、私も退く心算はありませんので」
 カリストはケルベロスの脅威を知っている。故に、増援が来るまで一分でも長く持ち堪える事こそ、護り手としての役目であると。
 手にした書物の頁を捲り、呪文を詠唱すると幾つもの氷の槍が具現化されて、番犬達を狙って射出する。
「だからって、地球の機械化なんて絶対させない! わたし達は最後まで諦めないよ!」
 傷を負いつつ、ひなみくの脳裏に浮かぶのは、部屋で眠っているダモクレスの残骸。
 ダモクレスを斃すんじゃなく、『乗り越えて』行くっていう人たちがいた。
「もしも判り合えたなら、違う結末だってあったんじゃないか……って」
 ひなみくが握り締めているのは、蝶の片羽模した金桃の刃。タン、と高く跳躍しながら、くるりと身体を捻って回転し、舞うかのように刃を振るって斬りつける。
「……リオン、私の後に続いて、補って」
 キリクライシャが常に傍らにいるテレビウムに呼び掛け、負傷した仲間の治療を行う。
 魔術を駆使して念じると、味方の腕にルーン文字が浮かんで、破壊の力を付与させる。
 バーミリオンも応援動画で仲間を励まし、戦線を支えるのだった。

「次の奴が来るより先に、さっさと倒しちまいてェが……しぶてェな、ったく」
 ジョーイが研鑽された剣技を繰り出すものの、仕留め切れずに思わずぼやく。
「向こうもダメージを負っている筈ですが、このままですと……」
 回復役の華も、癒しの術を用いて味方の消耗を抑えるが。ケルベロスもダモクレスも、互いに決め手を欠いた状況で、一進一退の攻防が続く。
「要は時間稼ぎというわけか。しかし、思った以上に硬いな」
 晟も相棒のラグナルから治療を受けつつ、鎖を付けた錨を力任せに振り回す。
 だが攻撃する度、カリストは氷の壁を創って守りを固め、ケルベロス達の怒涛の攻めを耐え凌ぐ。
 第三の増援が送り込まれるまで、残り時間は後僅か。二体を相手にするのは分が悪い、敵の思惑通りにさせまいと、ケルベロス達は火力を集中させて攻め立てる。
「……足元注意、だな」
 ビーツーが地面に手を添え、グラビティ・チェインを注ぎ込む。その熱量によって大地が揺らぎ、浮かんだ礫が炎を帯びて、礫の弾丸の連続射撃をカリストに浴びせる。
「さあ、よく狙って。逃がしませんの!」
 最後は華が、魔力を練り上げ、色とりどりの花弁を生成。風に吹かれるように舞った花弁は、嵐のように渦を巻き、刃と化してカリストの全身を呑み込み、斬り刻む。
「……申し訳ありません。我が……マスター」
 ダモクレスの修道女は、謝罪の言葉を口にしながら、力潰えて倒れ込む。
 その直後――三度、空間が歪み、中から三体目のダモクレスが地に降りる。
 それは古びたローブに身を包み、立派な髭を生やした老魔導士。
 遂に最後のダモクレス、『ザ・ジュピター』との決戦の時が訪れる――。

●乗り越えた先の未来へ
「我の到着まで間に合わなかったか。だが、それもまた運命也」
 横たわる修道女の骸が、光の粒子となって消滅する。老魔導士は彼女の死を見届け終えると、ケルベロス達を一瞥し、武器を構えて戦いを挑む。
 片やケルベロス達は連戦に次ぐ連戦で、しかも回復する時間も無かった為、消耗した状態でジュピターとの戦闘に突入する。
「地球のマキナクロス化計画は、誰であろうと邪魔させぬ。定命の者よ、主等が未来を担うというなら、勝って矜持を示すが良い」
 ジュピターが杖を頭上に翳すと、上空に不気味な光が走り、無数の雷が雨の如く番犬達に降り注ぐ。
「これしきの事で怯むと思うな」
 この攻撃を恐れる事無く駆け寄る、黒い影。ビーツーが滑空するかのように雷の雨を掻い潜り、冷気を帯びた戦槌を携え、超重力の一撃を老魔導士に見舞わせる。
「今度はこっちの番だ。派手に一発、食らわせてやるぜ!」
 ジョーイが体内のグラビティ・チェインを剣に載せ、威力を高めた斬撃を、お返しとばかりに叩きつける。
「風精よ、彼の者の元に集え。奏でる旋律の元で舞い躍り、夢幻の舞台へ彼の者を誘え」
 風音が紡ぐ歌声は、美しい旋律と共に風の精霊を召喚する。
 歌に合わせて軽やかに、舞い踊るように風を呼び、幻想的な調べは聴者を魅了し、自由を奪う。
「金から銀に至り、その身、心を調和せよ」
 薬指に嵌めた指輪は、誓いの証――アリシスフェイルの指先から、黄と紫の光が淡く灯って、嫋やかに糸を紡ぎ出す。
「揺蕩うは静穏、変移厭う揺籃、細大なく艱苦を斥け――絹湮の繭」
 織り成す糸で繭を編み、傷付く仲間をそっと包む。それは嘆きを厭い、否定し、拒絶する――アリシスフェイルの想いを込めた、優しい光の殻は、仄かに瞬き、穢れを祓い、空気に溶けて、はらりと消えた。

「ケルベロス共よ……主等に未来の歪みに対抗できる術はあるのか。例え世界が滅んでも、その選択を受け容れるのか」
 ジュピターが強く問い掛けながら、杖を突く。すると地面から樹木の群れが発生し、蠢く蔓がケルベロス達の四肢を捕らえて、締め上げる。
 度重なる戦闘によって、ケルベロス達の体力も限界が近い。
 しかし彼等は、必死に残った気力を振り絞り、今この戦いに勝つ事だけを考えて、生命を燃やして立ち向かう。
「私達は自分に出来る事をするだけですの。今までも、そしてこれからも」
 過去の記憶がない華だが、青紫の眼差しは自身が描く未来を見ている。
 信じる道が、幸せなものであるように――捧げる祈りは癒しの雨を空から降らし、傷付く仲間に治癒を施す。
 ――もしも地球が機械化されたら、地球に暮らす生命は、どうなるのだろう。
 キリクライシャはダモクレスが創る未来を想像すると、不安な気持ちに苛まれる。
 至上の存在(林檎)を、素晴らしいと感じる今がとても幸せで。
 だからこそ、未来を望んで進んでいける、と――。
「……ケルベロスの、人の、地球の……夢を掴む力を、甘く見ないで」
 ダモクレスの創る世界に、未来の展望は抱けない。
 静かな口調に怒りを滲ませ、キリクライシャは凍てつく魔力の弾を生成し、ダモクレスの生命の時を止めんと撃ち込んだ。
 ここで力尽きても、敵を斃す。
 ケルベロス達の強い想いがダモクレスを圧倒し、一気呵成に畳み掛け、そしてとうとう、決着を付ける時がやってきた――。
「大事なものを護るためなら、この羽根が腐れて落ちたって、拳が血で黒く汚れたって――構うものか!」
 どれだけ転んで、躓いても、未来は自分達の手で掴むもの――ひなみくの裂帛の気合が、彼女を縛る蔓を断ち切り、全ての力を拳に込めて一心不乱に連打する。
「――砕き刻むは我が雷刃。雷鳴と共にその肉叢を穿たん!」
 晟が闘気を高め、全身に蒼雷を纏い、竜頭の如き青龍戟から超高速の突きを放つ。
 紫電一閃――巨竜の甲殻すら刻む一突は、正に神殺しの一業と呼ぶに相応しく。
 ダモクレスの老魔導士は蒼い雷光にその身を灼かれ、灰燼と化して燃え尽きた――。

 三体全てのダモクレスを撃破し、完全勝利を収めたケルベロス達。
「これで残すは、最終決戦のみですね。そうすれば……」
 今日に至るまでの道程を、振り返りながら風音はその先の未来に想いを馳せる。
 そんな彼女に寄り添うように、シャティレがピィッとひと鳴きし、エルフの乙女はずっと一緒だからと小さな緑竜を抱き締める。
「うんうん! やっぱり最後はビシッと決めて、ハッピーエンドにしないとね!」
 戦いの疲れがまだ癒えぬ中、ひなみくは決戦に心昂らせながら、いち早く帰路に向かうのだった――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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