迎撃、星戦型ダモクレス~全てはより良き明日の為

作者:月見月

「皆様の投票により、アダム・ガドモン率いるダモクレス勢力との最終決戦を行う事が決定されました。此方側の結果を受けて敵戦力も既に行動を開始しており、惑星級星戦型ダモクレス『マキナクロス』は亜光速で太陽系へと侵攻。進路上に存在する惑星の機械化を開始しています」
 ヘリポートへと集ったケルベロスたちを前に、水見・鏡歌(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0296)はそう説明の口火を切る。アダム・ガドモンとの交渉結果を受けて実施された投票は、お互いの未来を賭けて雌雄を決する方向へと舵が切られた。相手が既に行動を開始している以上、こちらも出遅れる訳には行かない。
「アダム・カドモンの目的は『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事だと予知されています。このグランドクロスは、宇宙版の『季節の魔力』と言えるもの。相手はその魔力で『暗夜の宝石』である月を再起動させ、地球のマキナクロス化を狙っているのでしょう」
 惑星の機械化と言う、これまで以上にスケールの大きい話にケルベロスたちも思わず唸らざるを得ない。とは言え、これまでとそうやるべき事は変わらないだろう。戦って勝つ、それだけだ。
「グランドクロスを為そうとも、月を手に入れなければ相手の目的は果たせません。必然的にこの衛星が戦局の鍵となるでしょう」
 ダモクレス勢力は魔空回廊を通じて、月内部に存在する遺跡へ直接星戦型ダモクレスを投入してくると思われる。それに対して、地球側は万能戦艦ケルベロスブレイドに搭乗し月へと急行。現れるであろう敵戦力の迎撃を行う必要があった。
「幸いにも、敵の出現地点は聖王女エロヒムの協力により予知する事が出来ました。事前にその場所へと先回りし、転移してくる敵戦力を迎撃。月の遺跡を防衛する事が今回の目的となります」
 一つの戦場に投入される敵戦力は3体。最初のダモクレスが現れてから8分置きに次の個体が出現する。素早く行動できれば各個撃破が狙えるが、万が一手間取れば複数体を相手にしなければならなくなる。その上、相手はどれもダモクレスの中でも精鋭級。そうした事態は避けたいところだ。
「……万が一、防衛が厳しいと判断した場合には、遺跡を破壊して撤退すると言うのも選択肢にはなり得ます。その場合は此方側も『暗夜の宝石』を利用する事が難しくなりますが、地球のマキナクロス化を防ぐ為には許容せざるを得ないでしょう」
 無論、それば本当に打つ手がなくなった時の最終手段だ。今後この世界の行く末を考えた時、活用出来る手は一つでもあったほうが良い。その為にも、十分な戦力と入念な作戦が必要となる。
「出現する星戦型ダモクレスは先程も説明した通り、合計3体が8分置きに魔空回廊より出現します。その内訳は以下の通りです」
 まず一体目は『デストロイヤー・ソルジャー・エース』。元は対デスウエクス用兵器としてドワーフが開発していた機体を鹵獲し、再改造を施した機体で在る。量産型ではあるものの、今回は名前の通りエース級戦力として更なる強化が施された機体を投入してくる様だ。
 その後に現れる2体目は『シュネー・ヴァニシング』と称される重装戦闘機型ダモクレスだ。全身をガトリングやミサイル、レーザー砲で固めており、この戦場に出現する敵では随一の火力を誇る。加えて耐久力も決して低くはないと言う厄介さを併せ持つ。
 そして最後に姿を見せるのは研究者型ダモクレス『マザー・セレナ』。研究と設計に長けたタイプであり、先に出現する2体に手を加えたのも彼女である。単純な火力や防御性能こそ低いが、それは機能の目的が異なる故。持ち前の演算能力を活かした妨害や支援に徹された場合、非常に面倒な事になるだろう。
「歩兵が先駆け、砲が押し込み、指揮官が制圧する……スタンダードですが、それ故に盤石な布陣です。今回の肝は先鋒の歩兵をどれだけ早く撃破し、火力を重装機に集中出来るかに掛かっているでしょう。指揮官型が脅威でないとは言いませんが、他者が居てこそ真価を発揮できる手合いの様ですから」
 此度はそうした条件によって自然と長期戦になるだろう。早期殲滅のみを優先すれば、後半に息切れしかねない。よくよく、戦略を練って臨む必要がある。
「……この戦いが恐らく、長きに渡る戦いの転換点となるでしょう。ダモクレスの主張にも理を感じない訳ではありません。ですが、私たちが選び望んだ未来も譲る事など出来ない」
 鏡花は小さく息を吐いて説明を締めくくりながら、静かに笑みを浮かべる。
「ようやく、此処まで来たのです。どうか最後まで、そしてその先へと駆け抜けましょう」
 そうして激励の言葉と共に、少女は仲間たちを送り出すのであった。


参加者
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
朧・陽葵(不調和オートマタ・e36285)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
シャルル・ロジェ(明の星・e86873)
ルイーズ・ロジェ(宵の星・e86874)

■リプレイ

●先駆けるは黒鉄の尖兵
 地球より38万4400キロもの距離を隔てた衛星『月』。かつて『暗夜の宝石』として機能していたその天体地下に広がる、古めかしい遺跡群にケルベロス達の姿はあった。
「まさか月に行くとはな。全くこれっぱっかしも想像してなかったぜ! ホント、人生ってのは不思議なもんだ。さて、やれるだけやってやろうか!」
「お月さまは、できれば旦那さまとのおでーとで来たかったのよ……残念だけど今は戦いに集中して、と」
 戯け交じりに不敵な笑みを浮かべる朧・陽葵(不調和オートマタ・e36285)の横では、リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)が残念そうに小さくため息を吐く。『暗夜の宝石』攻略戦では月への到達に多大な労力と資源を必要としたが、今回は万能戦艦のお陰でよりスムーズな移動が可能となっていた。一年半前と比べれば劇的な進歩と言えるだろう。
(地球の、マキナクロス化、ですか……何と、しても、阻止しなくては、いけません、ね)
 禍々しさが消え去り、本来の荘厳な神殿様式を取り戻した内装を眺めながら神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)もまた戦意を新たにしていた。確かにダモクレス側の主張にも一定の理は存在する。しかし、此方側にも譲れぬ一分というものがあるのだ。
「戦うと決めたならとことんやりましょうか……さぁ、どうやら時間の様ね」
 とそんな時、周囲を警戒していた白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)の発した言葉に他の番犬達が瞬時に反応する。見れば虚空が渦を巻いて捻じ曲がり、その中心から赤い肩部装甲が目を惹く機械歩兵が飛び出してきた。星戦型ダモクレスが先陣『デストロイヤー・ソルジャー・エース』である。
『転移完了ト同時ニけるべろすノ存在ヲ確認。コレヨリ交戦ヲ開始スル』
 機兵はモノアイを輝かせるや、先手を取らんと肩部の砲身を差し向けて来た。だが、それよりも更に早く反応した者たちが居る。
「ダモクレスは何度か相手をしたけど、まさか月でも戦う事になるとはね。自分でもびっくりするよ」
「わくわくする気持ちもあるけど、今日のわたしはマジメもーど、なの! 平和になって皆が笑顔になるために頑張るね!」
 それは双子のオウガ、シャルル・ロジェ(明の星・e86873)とルイーズ・ロジェ(宵の星・e86874)。兄が牽制も兼ねて前へと踏み込みながら、妹と共に魔力障壁と爆風の支援を後衛へと飛ばしてゆく。今回の戦闘は必然的に長丁場となる。故にこうした下準備の積み重ねこそが後々になって効いてくるはずだ。
「拳で語るなんて柄じゃないけど戦いの中で伝えられる思いもあるかもしれないわね……妥協できないこともあるのよ、お互い」
 返礼とばかりに前衛へと鉄鎖を這わせるはバジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)だった。増援の出現間隔は8分間毎。余裕がある訳ではないが、さりとて焦る程の短さでもない。こちらの被害を抑え、かつ最大火力を叩き込む。単純だがそれこそが今回の肝と言えるだろう。
『敵ノ戦力増加ヲ検知。マズハ前線ノ突破ヲ優先スル』
「させませんよ。一応、古巣が相手ではありますが……今更ですね。お生憎様、あなた方がスクラップになれば良い」
 相手も番犬側の意図を察したのか、斧槍を手に前衛を打ち崩さんと試みる。だが、マリオン・オウィディウス(響拳・e15881)が箱怪と共に待ったを掛けた。花の嵐が機兵の得物を絡め取り、宝箱の開閉噛み付きが動きを封じる。すかさず追撃を掛けるのは、上空へと飛び上がっていたあお。
「ここで、どれだけはやく、たおせるか……それで、こんごのながれが、きまります」
 夜香花を象った竜戦鎚を砲撃形態へ変形させるや、頭上より砲弾を叩き込んだ。対する機兵は装甲をひしゃげさせながらも肩部ミサイルを斉射。番犬側を牽制すると同時に爆煙に紛れて突破を試みる、が。
「魔空回廊も制約があるのでしょうが戦力的重点も作らず、更には逐次投入なんて通用しないと教えて差し上げましょう……まぁそれで大負けした連合艦隊もありますが、どちらにせよ物量が足りませんね」
 凍てつく一条の輝きが、煙幕を斬り裂いて機兵を撃ち抜いた。佐楡葉の視線は煙幕の中であろうとも相手を完全に捉えていたのだ。そうして凍てつき脆くなった装甲を、リュシエンヌの飛び蹴りが木端微塵に粉砕する。
「こんな戦いはさっさと終わらせて、改めて皆でおでーとするんだから!」
「問題の先延ばしなんざ性にあわねぇからな、悪いがマキナクロス化は無しだッ!」
 更に剥き出しになった駆動部に対して陽葵が三撃目を打ち込んだ。銀光と星輝を纏いながら放たれた拳撃が内部より相手を破壊する。相手も決して弱くは無いのだが、臨戦態勢を整えていた番犬相手では戦いの流れを取り戻すのは難しいらしかった。
『敵戦力ヲ上方修正。増援ノ到着マデ遅滞戦闘ニ……』
「悪くない判断ですが、そうするのであれば最初から時間稼ぎに徹しておくべきでしたね」
 形勢不利と見るや後続が現れるまで防戦に専念しようとする機兵だったが、それを許す程此方も甘くは無い。マリオンは星の魔力を纏った蹴打で残りの装甲にも罅を入れるや、上空目掛けてかち上げる。
「わたしが叩き落すから、シャルは追撃をおねがいね!」
「大丈夫、任せて!」
 そうして浮かび上がった相手へルイーズが釘の生えたバールを振り下ろし、文字通り地面目掛けて叩き返す。その落下地点に待ち受けるはシャルル。彼は握った拳に黄金角を生やすや、強烈なアッパーカットで殴り抜く。壁に叩きつけられた機兵はまだ行動可能の様だが、既に半壊状態であり――。
「……所要時間は6分。上々の結果ね。さて、次が来る前に応急処置だけでも済ませてしまいましょう」
 程なくして、番犬達は機兵の撃破に成功していた。経過時間を確認しながら仲間たちの手当てを行うバジルの顔にも、僅かだが安堵の色が浮かぶ。疲労も深刻ではなく、良いペースだ。
 しかしこれはまだ緒戦、本番はこれからである。そうして準備を整える彼らの前に、次なる敵手である巨大な重装戦機が姿を見せるのであった。

●焔の鉄嵐に月は輝きて
「チィ、また広範囲攻撃が来る!? 後ろへ射線を通さねぇように気張るぞッ!」
「はいっ! ルーやお姉さんを傷つけさせなんてしないよ……!」
 全身を御業の鎧で覆った陽葵の叫びに素早く応じ、シャルルが共に巨大な重装型ダモクレスの前へと飛び出してゆく。瞬間、白と空色を基調とする戦機の全身から何度目かになるやも分らぬ一斉射撃が繰り出される。何とか火力の大半を受け止め切るものの、彼らの全身には余す所なく銃創や火傷が刻まれていた。
「あまり無理はしないで、と言っていられる状況でもないわね……手が足りないわ、カバーを頼めるかしら?」
「勿論よ! ムスターシュ、お願い!」
 すかさずバジルが白蛇の姿をしたオーラを遣わし、それが行き届かない者にはリュシエンヌの羽猫が羽ばたきによる癒しを齎す。だがそれでも全快からは程遠い状況に薬師は内心歯噛みしてしまう。
(こちらも着実にダメージを与えてはいるのだけれど……事前に想定していた以上の火力と耐久性能ね)
 その原因こそが星戦型ダモクレスの第二陣『シュネー・ヴァニシング』。この大型戦機は出現と同時に放たれた先制攻撃を耐え切るや、機体各部に纏った火器群で強烈な反撃を返してきたのである。以降、此方側と互角以上の戦いを繰り広げるに至っていた。
「経過時間は既に7分。そろそろ堕ちて欲しい所ですが、そんな気配は微塵も見えませんね。全く、厄介な……!」
 攻撃を掻い潜りながら指先より魔力弾を放ち、咲き誇る薔薇の茨によって相手の身動きを封じる佐楡葉。番犬側も着実に相手の機動力や攻撃能力を封じてはいる。だがそれでもなお、相手の火力が尋常ではないのだ。高い耐久性能と治癒阻害能力も相まって、戦況は消耗戦の状況を呈していた。
「ゆるしたくは、ありませんが……これは、てきのぞうえんも、かんがえる、べきですね」
 あおの言う通り、残り1分で撃破まで持っていける可能性は非常に低いだろう。しかしそれでもやるべき事は変わらない。一秒でも早く撃破する為に攻め続けるだけだ。少女は虚ろな調べで相手を蝕むと共に、自力で継戦能力の確保にも努めてゆく。
 とそんな時、戦機は機銃掃射による牽制を行いつつ突然後退し始めた。それが単なる逃げではなく、交戦で得た番犬側の情報を元に己の思考を最適化させる為だと見抜いたマリオンはそうはさせまいと踏み込んでゆく。
「あなたは先の兵士よりもなお機械的ですね……私は心を得た筈ですが、その在り方は未だわからない。けれど力なき誰かが暴虐に晒される事を嫌悪する心はきっと、何処かにあるはずだから」
 超振動を纏った正拳突きが装甲を凹ませ、内部の電子頭脳までをも掻き乱す。そうして僅かに生まれた隙を見逃さず、ルイーズが超自然的発火による高温で更なる演算を妨害していった。
「機械はあついのがダメって聞いたの。これなら考え事もできないでしょ!」
「熱が嫌なら水もあるぜ? 尤も、冷めた後の事は知らねぇがな……白き結晶混じりの澄んだ水。空を映す鏡と也て、神秘なる世界を体現せよ!」
 灼熱の次に浴びせられるは、陽葵が形成した水鏡より溢れ出した凍てつく輝き。金属が熱された後で急速に冷やされた場合、強度が著しく落ちる事は有名な話だ。ダモクレス側とて言うほど軟くはないだろうが、番犬側とてまた尋常ではない。ピシリと、攻撃を跳ね返し続けて来た装甲に亀裂が走る。
「ようやくガタが来始めたようね。それじゃあ、こっちもペースを上げて……オラッ、堕ちろ!」
 人は苦境であっても光明さえ見えれば奮い立つもの。佐楡葉は典雅に微笑みながら、戦機の死角より装甲を剥ぎ取っていった。こうなれば多少の損耗を受け入れてでも一気に押し切るべきだろう。
「あと、もう一押しだから……行くよ!」
 鉄騎に騎乗したシャルルが距離を詰めながら猛然と挑み掛かる。衝突の寸前シートを蹴って跳躍、炎を纏った突撃に合わせ凍気を纏った鉄杭による一撃を叩き込まんとした……瞬間。
「――あら、あら? 当然一筋縄では行かないと思っていたけれど、これは予想外ね」
 声が響くと同時に強烈な閃光が少年の全身を包み込む。身体への衝撃に加え、視界を潰された事に目算がズレ、攻撃は武装の一部を抉り取るに留まった。ハッとその源を見やれば輝く球体を従えた白衣の女が佇んでいる。時計に目を落とせば表示されている時間は16分。彼女こそがダモクレス側の第三陣に他ならない。
「マザー・セレナ……!?」
「ご名答。正直、先の二機で事足りるかと思っていたわ。それがまさか、ここまで追い詰められているだなんて。でも、ギリギリ間に合ったみたいね?」
 指揮官は周囲に複雑な数式を展開するや、それを戦機と共有し始めた。先ほど妨害された演算が再開され、損傷個所を踏まえた上での戦術へと最適化されてゆく。そうして全残存火器の照準が番犬達へと合わせられる。
「まだ、受けたダメージを修復しきったわけじゃない! 少しでも、勢いを削げればまだ……!」
「わたしだって……シャル、合わせてっ!」
 再び戦機の飽和射撃を受ければ、今度こそ前線が瓦解しかねない。そう判断したシャルルとルイーズは発射寸前である事にも怯まず攻撃を続行する。だが、双子の攻撃が届くよりも先に放たれた一斉射の大火力が彼らを飲み込んでいった。
「まずは二人、と。何事も無ければこのまま全滅に……っ!?」
 濛々と立ち込める爆煙を前に戦果を確信する指揮官。だが、その瞳は驚愕に見開かれる。何故ならば、煙を破り満身創痍ながらも戦闘可能状態の双子が飛び出してきたからだ。その小さな体を柔らかな羽を思わせるヴェールが包み込んでいる。
「させはしないわよ……子供を助けるのが大人の務め。シャルルくんもルイーズちゃんも、ルルが必ず守るから安心してね!」
 攻撃の直後、リュシエンヌが間一髪治癒を滑り込ませることに成功していたのである。本来であれば愛する伴侶専用の異能だが、その係累とあらば使わぬ道理などない。だが、先述の通りそれは単体向け。もう一人については敵と同じ白衣姿の薬師が受け持っていた。
「ようやく此処まで来たんだもの。戦闘不能も暴走も無し、勝って全員で帰りましょう?」
 手繰るは月の閃光ではなく迸る稲妻の煌めき。バジルの手にした雷杖より放たれた電流は生命力を賦活させると同時に、仲間の身体機能も強化してゆく。そうして幾つもの援護を受けた双子の鬼角と釘殴打が戦機を散々に打ちのめしていった。咄嗟に指揮官がカバーに回ろうとするのだが、これ以上の行動は許さないと動いたのはあお。
(この機体が、敵の要、です。墜とせなければ、逆転の危険が、付き纏い、ます。だから、此処で……!)
 撃ち出されるはかつて時空の調停者と謡われた力の一端。存在そのものを凍結させる弾丸を受け、万全の状態ならともかく半壊状態では到底耐え切れるものではなく――。
「計算ではもう少し持つはずだったのだけれど……!?」
 轟音を立てて巨躯が沈む。相手としては戦機を支えつつ圧を掛けてゆくつもりだったのだろうが、それ以上に番犬側の勢いの方が勝ったのだ。残る指揮官を弱卒と侮るつもりは勿論無いものの、純粋な戦闘力で言えば先の二機より一段劣る。
「よっしゃぁ、これで残るは一体だけだ! こっから逆転されたら負けても負けきれねぇぞ!」
 となれば俄然、此方も勢いづくと言うもの。陽葵は疲労した身体を奮い立たせ、一気に勝負を決めんと攻め掛かる。対する相手も戦乙女の弱点を狙って応戦するも、此処が無茶のし所だと強引に押し切り拳を打ち込んでいった。
「一時はどうなる事かと思いましたが、こうなればもう心配は必要なさそうですね」
「ええ。まだ戦闘は終わっていないから油断は禁物だけど……そうね、この状況からひっくり返されたらどこぞの連合艦隊を笑えませんから」
 現金なものではあるが、優位を確信できれば自然と余裕が生まれるものだ。マリオンと佐楡葉は双方ともに薄く微笑を浮かべながら、最後の敵を討つべく戦線へと飛び込んでゆく。新緑に輝く右瞳が敵の演算を上回り、舞い踊る薔薇が敵を絡め取り縛める。

 ――そうして、暫し戦闘が続いた後。静寂を取り戻した月遺跡の内部に立って居たのはケルベロスたちのみであった。誰も彼もが満身創痍、無事な者は誰一人として存在しない。然れども、彼らが勝者であることは紛れもない事実。
 敵は全て撃破、遺跡は戦闘の余波を受けこそしているがほぼ無傷。危ない場面もあったとはいえ結果を見れば完全勝利と言えるだろう。
 斯くして8人は互いの健闘を称え合いながら、次なる戦いに備えるべく帰還するのであった。

作者:月見月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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