迎撃、星戦型ダモクレス~連なる華々

作者:Oh-No

「皆の投票で、アダム・カドモン率いるダモクレス相手に決戦を挑むことが決まったね。僕は、これが最後の戦いになることを願っているよ」
 ユカリ・クリスティ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0176)がいつも以上に真剣な眼差しで口を開いた。いよいよ大詰めの時が来たのだ。ケルベロスたちの間にも適度な緊張感があり、いい雰囲気だ。
 現在、アダム・カドモンが座上する惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は、亜光速で太陽系内へと侵入し、太陽系の惑星の機械化を開始している。
 予知によれば、『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』ことがアダム・カドモンの目的なのだという。グランドクロスは、いわば宇宙版の『季節の魔力』であり、その魔力を用いて『暗夜の宝石である月』を再起動させ、地球のマキナクロス化を行おうとしているのだ。
「ダモクレスたちは惑星の機械化と同時に、魔空回廊を利用して、星戦型ダモクレスを月面遺跡の内部へと直接的に転移させ、月遺跡の掌握を行おうとしている。この狙いは阻止しなければならない。皆には、万能戦艦ケルベロスブレイドで月遺跡に急行し、遺跡の防衛を果たしてほしいんだ」
 ユカリは強く言い切ってから、集ったケルベロスたちの顔を見渡した。
「ダモクレスが狙う場所は、聖王女エロヒムの協力もあって予知できている。ここに先回りすることで、転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃してもらうよ。そして全ての星戦型ダモクレスを迎撃し、撃破できれば、月遺跡を守り抜けるって寸法さ」
 星戦型ダモクレスは、魔空回廊を通じて転移してくる。数は、一つの地域あたり3体。最初のダモクレスが現れてから8分後にもう1体、さらに8分後に最後の1体が姿を表す。
 撃破に手間取れば、複数体を同時に相手取ることになるだろう。もし苦戦して勝利が難しいとなれば、遺跡を破壊して撤退する決断も必要になるかもしれない。暗夜の宝石である遺跡の破壊は避けたいところだが、地球のマキナクロス化を防ぐためにはやむを得ない措置だ。
「月面ビルシャナ大菩薩決戦を覚えているかい? 今回はあのときの月面遺跡が再び戦場となる。とはいっても今回の区域は無改造で、荘厳な神殿のような雰囲気だそうだよ。その中にエネルギーが枯渇した、不思議な機械がある。仮に撤退するときは、この機械を破壊すればダモクレスの目的が達せられることはない。……まあ、僕たちが将来的に利用することもできなくなるわけだけど」
 そう言ってユカリは苦笑した。できれば遺跡は無傷のままにしておきたいのが本当のところだろう。
「さて、肝心の敵のことだけど、今回相手にする3体、どうやら姉妹のダモクレスのようなんだ」
 人型の姿をした姉妹のダモクレスは、3女、次女、長女の順番で現れる。全員が共通して強力な砲撃能力を有しており、広範囲を撃ち抜く砲撃で辺り一面を火の海へと変える。3女、次女は本来であれば長女の護衛役であるらしく、比較的防御に適した能力を持っているようだ。3女は自身を堅く守りつつ敵の防御を削り、次女は姉妹を援護しながら状況を有利に変えようとする。
 逆に長女は攻撃特化の能力を持っている。双剣を振りかざして敵集団に突撃する他、小型端末を使用した全方位からの攻撃でかき乱してくるだろう。
「もし合流されたら厄介な相手だと思う。1戦ずつ確実に仕留めていって欲しい」
 そして、最後にユカリは華々しく笑った。
「大丈夫、皆なら問題ないさ。強敵との3連戦だとしても、必ず打ち破れると信じている。ダモクレスたちに、ケルベロスの本気を見せつけてきてほしい。頼んだよ」


参加者
神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
風戸・文香(エレクトリカ・e22917)
ジャンキー・ジャンク(ジャンキーナイト・e86798)
 

■リプレイ


 以前、ケルベロスたちが月で見た禍々しい遺跡は、マスタービーストが改造したもの。今、眼前に広がる遺跡は、それとは異なる、天上の神殿のような荘厳さを湛えていた。これが本来の姿なのだろう。周囲を見渡すと、遺跡の壁面を働きのわからない不思議な機械群が埋めている。そう、この古代機械こそ、ダモクレスたちに渡してはならないものだ。
 しかし、ゆっくりと遺跡を眺めている暇がケルベロスたちにはなかった。指定された区域に到着した直後、魔空回廊からの扉が開き、大きな盾を携えた女性型の赤いダモクレスが姿を現したのだ。ケルベロスたちが事前に聞かされていた予知のとおりに。
「やはりいたか、ケルベロス共。お姉さまたちの手を煩わせるまでもない。オレが引導を渡してやろう!」
 ダモクレスの側も、待ち伏せるケルベロスの姿に戸惑いを見せなかった。無抵抗で安々と遺跡を手に入れられるだなんて、彼女たちも考えてはいない。
「……シャロン姉さん」
 ダモクレスの姿を一瞥した、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)が呟く。シャロンは、ティーシャがまだダモクレスとして地球の敵だった頃、姉だった存在なのだという。けれど、その言葉以上の反応はなく、ティーシャはただ静かにドラゴニックハンマー『カアス・シャアガ』を構えた。
(「どうやら、因縁がおありみたいですね。共にこのダモクレスと戦うことになったのも、何かの縁。全力で頑張りましょう!」)
 そんなティーシャのわずかな素振りを、風戸・文香(エレクトリカ・e22917)はエンジニアらしい観察眼で見逃さない。眼鏡の弦を指先で押し上げて、レンズの奥の大きな瞳で、じっと敵を見据える。

 ただ一人現れたダモクレスに対して、迎え撃つケルベロスたちは5人。それでも、本来の理想的な編成に比べれば戦力的な不利は否めない。
「ま、オレ一人で100人分だからな、何も問題はない。……くっくっく」
 だがこの状況下であっても、神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)は全く怯まない。むしろ自信満々な態度で、首に巻いたマフラーごと長い髪を手で払い、押し殺すように笑った。自信過剰な柧魅ゆえの振る舞いだけれど、敵に臆してしまうよりずっと戦場に適しているだろう。
 テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)だって、敵を前に臆することはない。
「最初からトップギアで参りましょう」
 ここには、因縁に決着をつけようという盟友ティーシャを助けるために来たのだ。三連戦の緒戦を全力で突破して弾みを付けようと意を決し、ライドキャリバーのテレーゼを駆ってダモクレスに肉薄する。


「さぁ、パレードの始まりだ! 我輩について来て!」
 ジャンキー・ジャンク(ジャンキーナイト・e86798)はタイタニアらしく陽気に笑いながら、蝶の翅を羽ばたかせてシャロンの周囲をからかうように飛び回った。本来なら見るものを楽しませる姿だが、相対する敵にとってはうざったいだけに違いない。
 ましてや、まるで飛び散る鱗粉のように、身体を痺れさせる妖精の粉を蒔かれては。
「虫ケラがッ! 落ちやがれ!」
 シャロンは大盾の先端に備えられた爪を突き出して、近づく全てを薙ぎ払うように振るう。ひらりとかわすジャンキーを更に追う爪を、テレーゼが鋼のフレームを割り込ませて止めた。
(「堅実に、確実に、後顧の憂いなく!」)
 即座に文香が生み出した黄金の果実が神々しい光を放ち、前衛に立つ仲間たちを中心に、遺跡を明るく照らし出す。
 その柔らかな光を上書きする鮮烈なマズルフラッシュとともに放たれた竜砲弾で、ティーシャはシャロンを狙い撃ちにする。シャロンの側面には、テレサに制御された白黒の大きなふたつの円刃が二手から迫っており、逃げる場所を与えない。
 シャロンは大盾を正面に構えて後方に飛び退るが、円刃は互いの位置を入れ替えながら弧を描いてダモクレスの身体を捉えた。さらに竜砲弾が着弾し、爆発する。
「小癪な末妹どもめ」
 舌打ちするシャロン。その懐に、不意に現れた柧魅が潜り込んで、手のひらを当てた。
「おかわりも用意してあるぜ。せいぜい派手に爆発しな」
 柧魅によってエネルギーを流し込まれた装甲が灰色に染まり、直後に爆炎が上がる。

 文香にとってダモクレスはいわば、『悪しき機械』だ。その『悪しき機械』が、古代の遺産として遺跡に眠る機械を悪用しようというのだ。メカを愛するが故に、その行いはなおさら許しがたかった。
(「人に仇なす『機械』の存在を許しておくわけにはいきません!」)
 水瓶座の星辰を宿した剣に憤りを乗せて、ダモクレスが構えた大盾の上から、お構いなしに叩きつける。重力を纏った重い一撃が盾にぶち当たり、低い音を奏でた。
 シャロンは当初から、散発的な砲撃や斬撃を交えはするものの、防戦的に振る舞っている。ケルベロス側が押している今の状況は、仲間の損害を気に掛けている文香からすれば望ましくはあるのだが……。
「盾の裏側に閉じこもりやがって。そんなにオレが怖いか?」
「……クソ、調子に乗りやがって」
 挑発的な言葉とともに柧魅が打ちつけた拳にシャロンは毒つくものの、積極的な反撃に出るよりも、大盾を前面に押し出して、身の守りを固めることに意識が向いているようだ。
「そんな大砲抱えて引きこもっちゃう? その爪は何のためにあるんだい? さあ、踊ろう! 踊ろう!」
 粉砕バット的なモノを振り回し、全力で殴りかかるジャンキーの攻撃も、シャロンは盾で捌き切った。
「いかに罵倒されようが、面子を気にかけないところは流石」
「あと少しで、8分……。ですが、合流などさせません」
 ティーシャはバスターライフルの砲口をシャロンへと向けて引き金を引き、凍てつく光を放つ。狙撃するティーシャに代わってテレサとテレーゼが前に。炎を纏うテレーゼに跨り、テレサは唸りを上げて回転する己の身体を武器として突撃した。
 ティーシャの一撃とテレーゼの体当たりが防御をこじ開けた隙に、テレサの腕がシャロンの胴体を穿った。手応えはあったが、倒すには至らない……。
 肉薄したまま追撃を与えようと、腕を振り上げた。けれど、突然空間から現れた紫色の盾が、その眼前へと割り込む。新たなダモクレスが姿を表したのだ。2体目が到着するまでに、シャロンを倒し切ることは叶わなかった。
「遅えよ、シェニィ」
「シャロン、ごめんなさいね。もっと早く跳んでこれたら良かったのだけれど」
 現れた新たな女性型ダモクレスは、傷ついたシャロンの盾となりながら言葉を交わした。


 状況は一段、悪くなった。仮に、このままさらに8分が経過し、1体目、2体目のダモクレスが残ったまま、さらに3体目が到着したならば、状況は絶望的な局面へ至るだろう。
 ただ幸いなことに、シャロンがかなり傷ついている一方で、ケルベロス側は余力を十分残している。勝負の行方はまだわからない。
 しかし、真っ先に飛び出した柧魅の脳裏に、そのような計算はなかったように見えた。
「最期に姉妹に会えてよかったな。それに満足して宇宙の塵になっちまえよ。――テメエらみたいな宇宙人に、勝手に地球の命運を決められるなんてのは無しな話だ」
 先程までと変わらぬ自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、距離を詰める。いや、柧魅だって本当は弱気を抱えているのかもしれないが、そんなことはおくびにも出さず、稲妻のような飛び蹴りでシェニィの関節を貫いた。
「ええ、貴様らはここで倒す!」
「ティーシャさん、準備はよろしいですか?」
 テレサから放たれた二つの円刃が、ティーシャのアームドフォートの力を得て加速する。
「「切り裂け! デウスエクリプス!」」
 二人の声が唱和して、円刃はますます勢いを増した。弧を描く軌道でシェニィの横を回り込み、シャロンを狙い撃とうする!
「そうはさせませんよ!」
 だが、ひとつはシャロンを切り裂いたものの、残る片割れはシェニィによって止められた。その間に、シャロンが構えた大砲が火を吹いた。
「オレも、シェニィに格好悪いところばかり見せてられないからな!」
 砲口から放たれた光が膨れ上がり、テレサたち前衛を焼いていく……。

 そこからは、ぎりぎりの総力戦となった。
「我輩は痛み知らず!」
 ジャンキーはそう叫びながら、ダモクレスたちが振るう刃に傷つけられることを全く恐れずにぶん殴ロッドを振るう。
 テレサとテレーゼが敵の攻撃を防ぐ間隙をついて、柧魅が反撃に打って出る。ティーシャの砲撃は着実にダモクレスたちの力を削いでいった。
 そうやって戦う皆は、文香がきっちりと支えているからこそ、攻撃に専念できているのだ。
 だが、それはダモクレスたちも同じこと。二人組みになったダモクレスは、互いを補完しあい、ケルベロス相手に必死に抗戦した。
 それでもケルベロスたちは少しずつ優勢を拡大していった。どうにかシャロンを落としたのが決定的で、ほどなくしてシェニィをも撃破したのである。

 しかし、一息つく間もなく、最後のダモクレスが襲来したのだ――。


「シェニィ、シャロン……? ――そうか、お前たちに倒されたか」
 3体目の黒いダモクレス、エフェスが転移してきたのは、シェニィを撃破した後、すぐの事だった。
 エフェスは遺跡を見渡して姉妹の姿を探したあと、わずかに顔を曇らせてから、ケルベロスたちに冷徹な瞳を向けた。
「5人か。ああ、口は開かなくて構わない。何にせよ、死んでもらうだけだ」
(「最悪じゃないけど、その次くらいかな!」)
 その姿を見て、ジャンキーは覚悟を決めた。どうにか、再び2体を同時に相手取ることは避けられた。だが、ここまでだ。3体目に現れたアイツはどう見ても攻撃特化型。立て直す暇もなかったこの状況で、まともに戦うわけにはいかない。
「もしもし? 我輩のもとに、爆撃の配達ひとつ、超特急で頼むよ!」
 だからジャンキーは、手のひらを耳に当てて叫んだ。
「ハッ、今からの援軍など間に合うものか」
「大丈夫、配達するのも我輩だから! ほら、どかーん!」
 ジャンキーは伸ばした手の先で、見せつけるように爆破スイッチを押し込んだ。エフェスは抜き放った双剣を構え、警戒の素振りを見せる。
 ――だが、爆発が起きたのはエフェスの傍ではない。ジャンキーは壁際に設置された、古代機械を爆破したのだ。
「終わりは必然、古代の遺産だってそれは変わらない……」
 ジャンキーが陶酔した表情を見せる中、他のケルベロスたちも弾かれたように散らばって、機械の破壊に勤しんだ。テレサが巨大なふたつの円刃で切り刻み、ティーシャがアームドフォートからの砲撃で、跡形もなく破壊していく。
 文香は内心に大きな葛藤を抱えながら、星辰の剣を機械へと振り下ろした。
(「ああっ、ごめんなさいっ!」)
 ちゃんと分解したいという探究心と、もったいないという愛着がないまぜになって涙が溢れそうになったけれど、こらえて機械を破壊する。ダモクレスに利用されるよりはずっといいと、自分に言い聞かせて。
「せっかく長い間残ってたんだ、最期くらいせいぜい派手に壊してやるよ」
 柧魅も爆殺忍術「灰紅」を機械に叩き込み、紅蓮の炎を吹き上げる。

 そしてエフェスの虚を突いた一瞬の隙に、ケルベロスたちは事前に知らされていた通路へと飛び込んだ。文香は追撃対策にレスキュードローン・デバイスを残し、通路を塞ぐ。いかに強力なダモクレスであっても、硬い装甲を持つドローンはそう簡単に壊せないだろう。
「逃げるのか、ケルベロス共! 覚えておけ、妹たちの仇は必ず取らせてもらう!」
 エフェスの叫びが通路にこだまする中、ケルベロスたちは懸命に出口を目指した。

 遺跡を利用することは叶わなかったが、少なくとも敵に十全な形で利用されることは避けられた。あとはダモクレスとの決戦に挑むのみ。
 その時は、間近に迫っている。

作者:Oh-No 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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