迎撃、星戦型ダモクレス~阻止せよ地球マキナクロス化

作者:吉北遥人

 決戦に挑み、アダム・カドモンを倒す──。
 それが投票により決まったケルベロスの方針だ。
 災いの種を未来に残さず、今断ち切るために。
「そう……新たな『歪み』が生じないようにできれば、このダモクレスとの戦いが事実上、最後の戦いになるはずさ。そのために全力を尽くさなきゃならない」
 死力を尽くさねばならない場面はこれまでにもあった。
 だが過去のそれらすべて以上にこの戦いには重みがある──ティトリート・コットン(ドワーフのヘリオライダー・en0245)は少しの沈黙を挟んでから、状況を伝えるべく静かに口を開いた。
「現在、アダム・カドモンが座上する惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は、亜光速で太陽系に侵攻し、太陽系の惑星の機械化を開始してる。アダム・カドモンの目的は『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事だと予知されているよ」
 グランドクロス──それは宇宙版の『季節の魔力』であり、その膨大な魔力で『暗夜の宝石である月』を再起動させようとしているのだ。
 それが実現してしまえば、地球のマキナクロス化は防ぐ間も無く一瞬で完了する。
 つまり月を制圧されることはケルベロスたちの敗北を意味するのだ。
「惑星を機械化していきながら、ダモクレス軍は魔空回廊を使って月面遺跡の内部に星戦型ダモクレスを転移させて、月遺跡を掌握しようとしてる。みんなには万能戦艦ケルベロスブレイドで月に急行して、ダモクレスから遺跡を守ってほしい」
 ダモクレスが狙うであろう地点は、聖王女エロヒムの協力により予知することができた。これにより現場に先回りして、魔空回廊から星戦型ダモクレスが出てきたところを迎撃することが可能となっている。
「ダモクレスは三体投入されるよ。転移してくるのは一体ずつで、最初のダモクレスが現れてから八分後にもう一体。さらに八分後に最後の一体が出現する。素早く倒すことで各個撃破できるけど、手間取ってしまったら複数のダモクレスを相手することになるね。そうなるとさすがに遺跡を守り切るのは厳しいかもしれない」
 万が一、防衛が難しい場合は、遺跡を破壊しての撤退も必要となるだろう。
 戦いがすべて終わった後に『暗夜の宝石』を利用できる可能性を考えると、できるだけ無傷で遺跡を残したいところだが、地球のマキナクロス化を防ぐためには背に腹はかえられない。
「戦場は、かつて『月面ビルシャナ大菩薩決戦』の舞台となった月面遺跡内部。あのときはマスタービーストの改造のせいでかなり禍々しい雰囲気だったけど、今は暗夜の宝石の本来の姿だからね。すごく厳かな神殿ってかんじ」
 エネルギー枯渇で停止した不思議な機械がある区域であり、極力それらが戦闘の影響で壊れないようにしたいところだ。
「転移してくるダモクレスは、まず『電磁王ギガボルト』」
 巨大な躯体のメカ。怪力を誇り、自身で発電し発生させた電磁力を主武装とする。
「次に『コッペリア』」
 女性型の美しいダモクレス。改造された手足は鋭い爪や刃を有し、舞うように敵対者を切り刻む。
「最後に『カット・マイナス』」
 女性型のダモクレス研究者。戦闘能力そのものは先の二体に及ばないが、最先端技術が込められたマイナスドライバーによる瞬間改造能力は侮れない。
「ダモクレスの詳細については別にまとめたから目を通しておいてね。強敵との三連戦……遺跡内部だから万能戦艦の援護もない。きっと厳しいものになると思うけれど」
 ティトリートはまっすぐケルベロスたちを見つめた。
「みんなの勝利を信じてる」


参加者
三和・悠仁(人面樹心・e00349)
桐山・憩(鉄の盾・e00836)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
九十九折・かだん(食べていきたい・e18614)
エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ

●縁、巡りて
 いざ月面遺跡に着いてみれば、環境については杞憂だった。
 長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)が大きく息を吸い込む。どういうメカニズムか知らないが、かつての戦時とはうってかわって、神殿のような遺跡内部には清澄な空気が満ちていた。真空だろうとケルベロスには無害だが、会話も無理なくできるのはありがたい。
「随分と雰囲気のある場所だな」
 立ち並ぶ太い柱を見上げながら、桐山・憩(鉄の盾・e00836)はウイングキャットのエイブラハムの脚をつまんだ。慣れない環境に警戒してか普段より二割増しに物静かなサーヴァントの脚を引っ張る。
 ぐいぐい、ぐにーん。
「機械共の墓にするには勿体ねぇぜ」
「いざとなれば破壊するのも、もったいないですね」
 猫の脚をガムのように伸ばしてる憩の言葉に、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)は遺跡最奥の設備を見た。発言とは裏腹にその目は、どこを爆破すれば効率良いか探ってるようにも見えた──得意爆破分野はリア充だが、まあ似たようなものだろう。
「大型連戦」
 九十九折・かだん(食べていきたい・e18614)が息を吐く。
 遺跡は守る対象。だがマロンの言ったように、最悪、破壊も視野に入る。じきに現れるのはそんな最悪もありうる、強敵。とはいえ。
「奴らと縁深いやつも、いるんだろう。引き下がれねえな」
 かだんの細めた目の先、葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)は棒付きキャンディの包みを開いていた。
「きっちりケリをつけるよ。私がやらなきゃ」
 唯奈はじっとそれを見つめ、口に含んだ。
「ソロ姉や葛城さんの宿敵との戦い、私も全力で頑張らせてもらうね」
「ありがとう、エリザ」
 エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)の声に緊張が程よくほぐれるのを感じながら、ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)は口元を綻ばせた。エリザベスのウイングキャット、ハクの猫パンチに拳を軽く合わせる。
 そんなソロの姿に三和・悠仁(人面樹心・e00349)は思う──彼女の心に区切りがついて、穏やかに過ごせる世が来れば、と。
 そのためにも──。
 悠仁の影のように付き従うビハインドの透歌が、紅の大鎌をすいと持ち上げた。ケルベロスたちの少し離れた前方で、何もない空間が前触れもなく円形に歪んだのだ。
 悠仁の背でオーラが静かに立ち昇る。この戦いを勝利で終わらせるため。
 鞘から剣を抜き放つように闘気を解放するケルベロスたちの眼前で、闇色に渦巻く大円──魔空回廊が巨体を生み落とした。
『……成る程な』
 先回りされた現実に対し巨体──電磁王ギガボルトが動きを止めた時間は一瞬にも満たなかった。背部の突起型発電機構が青白い放電を始める。
『さすがは地球の護人か。そうでなくては』
 前傾姿勢をとったギガボルトの左腕が、青く煌めいた。空気の灼ける異臭が漂う。
 だがギガボルトが戦いの口火を切ることはなかった。
 青い髪をなびかせて距離を詰めた影が、直下から炎を纏う飛び蹴りを見舞ったのだ。
『貴殿は』
 とっさに上げた左腕でガードしたギガボルトの声に、驚嘆の念が混じった。鋭い蹴りに対してではない。炎と雷の炸裂を映す、透き透る水のような碧瞳は──。
『──ソロ・ドレンテ』

●紫電色の郷愁
『とうに廃棄されたはずの貴殿と相見えるとはな』
「ギガボルト……お前はどこか憎めない奴だったな」
 炎と雷のスパークを挟んで、二者の眼光がぶつかる。組織に棄てられたソロが生存していて立ちはだかるこの状況を、ギガボルトは受け入れたようだった。脳筋な武人だが意外と頭は回る。そういう奴だった。
「だがこれも宿命……生き残った方が勝者だ。かつて、お前は力こそ正義と言ったな。ならば成長した私の……いや、私たちの力! お前に存分に見せてやる! 勝負だ──ギガボルト!」
『面白い。失敗作がよく吠えた!』
 ギガボルトが左腕を振り払った。弾かれた勢いを殺しながらソロが着地したときには、今度はギガボルトの右腕に、赤熱が宿っている。
『はたして貴殿が絡繰四天王たる俺に太刀打ちできるか、確かめさせてもらおう!』
 デストロイフィストが空気の渦を巻いてソロへと突き込まれる。
 硬い響きとともに拳の軌道が変わった。瞬時に踏み込んだ悠仁が『CRASH TRASH』を振り上げ、強引にギガボルトの腕を押し上げたのだ。
 返す刃で、悠仁が斧を敵の胴へと振り抜く。その反対側から絶妙な時間差で、エリザベスのパイルバンカーがギガボルトの頭部へと迫った。二人の体にはかだんの施したオウガ粒子が煌めいている。
 ギガボルトが体をねじった。悠仁の斬撃とエリザベスの刺突、それぞれを装甲で防御すると、カウンターで裏拳を撃ち込む。装甲車の突進のような衝撃を武器越しに受けながら、二人が床を削って後退する。その周囲で憩のドローンが次々と破裂した。
「ギガボルトさん、やっぱりとても頑丈です……」
 轟竜砲の狙いを定めながらマロンが唸った。
 視線の先では、前進を再開したギガボルトへと千翠のスターイリュージョンが躍り、それによって凍結した装甲へと唯奈が銃弾を叩き込んでいる。それらをまともにくらっていながら、動きがまるで鈍らない。高耐久にも程がある。
 これを八分以内に破るなど至難の業だが、成せなければ、地球に滅びが歩み寄るだけだ。
「互いに譲れない未来を賭けて勝負ですね」
 爆音──砲撃は装甲の薄い箇所に精確に直撃し、ギガボルトが初めて大きく後ろに退いた。
『重いな』
 興味の動く声がした。
 そのときには、左腕がまた青い輝きを帯びている。
 直後、放たれた一条の電磁砲が空間を白く染めた。割り込んだ憩が己の拳を、雷の拳に叩きつける。破裂音を残して電磁砲が霧散するが、憩も無事では済まなかった。半壊した機械の腕を押さえて膝をつく。
 追撃に移ろうとしたギガボルトが拳に急制動をかけた。ハクに行く手を塞がれたのだ。
「動物好きだったな」
 ソロのギア・ハルパーが旋回した。
「そんなお前は、嫌いじゃなかった」
『侮るなよ、ソロ・ドレンテ』
 首を狙った大鎌をギガボルトが肩装甲で弾く。
『戦場においては愛玩動物だろうと容赦はせん……そのウイングキャットを盾にして俺を崩せると思うな』
「そんな期待はしていない」
 大鎌から槍に瞬時に持ち替え、ソロが突き込む。ギガボルトも右腕を繰り出した。両者の雷が衝突点で光を散らす。
「お前は正々堂々と倒す──ただその前に聞かせてくれ。バイパーとユニはどこだ」
『何だと?』
「ギアマスター、ピニオン、セミマルの情報は掴んだ。だがあの二人は見つかってない。どこだ」
『ふん、雌雄を決する前の今しか訊けんということか』
 今このときもギガボルトの全身には、味方の回復に回った者以外の全員の攻撃が殺到している。だが砲撃や金縛りが躯体に軋みを生じさせても、魔氷が装甲を蝕むように増殖しても、ギガボルトはソロから視線を外さなかった。ただ拳の圧力を増していく。
『知りたくば、俺を破壊してメモリを覗け!』
 槍を弾いて、赤熱がソロの胸にめり込んだ。呻きと血を吐いたソロが床に叩きつけられたときには、ギガボルトの左腕が青く発光している。時間経過を告げるバイブ音を耳にしながらソロは電磁砲の光を見上げた。
「この縁に終端を告げる」
 白光と黒いオーラが衝突した。悠仁が拮抗しているのだ。
「そのためにあなたを守る──ソロさん」
『見事。だがこれは凌げるか!』
 さらに振りかぶられた右腕──そこに無数の黒い触手が絡みついた。
「させるかよ。絡め取れ」
 荒々しくも凛とした千翠の口上に応えるように、呪いの触手はギガボルトの右腕から全身へと拡がった。ついに限界を迎えた装甲が剥がれ落ち、発電機構の光量が目に見えてダウンする。
 それでも繰り出された右腕はエリザベスが引き受けた。超重量を堪えながらソロへウィンクを投げる。
「──ありがとう」
 槍を放したソロの手に光が集結する。さざ波のような蒼い、星の輝き。
「悠仁、エリザ、千翠……一緒に戦えて良かった」
 万感の想いを込めて、ソロは蒼刃を振り下ろした。
 真星剣は装甲の剥がれた箇所を起点にギガボルトを縦断した。疾走した輝きに、行き場を失った紫電が混ざる。
『……二機の所在は俺のメモリに無い』
 半ば両斬された躯体が仰向けに倒れた。雑音の混ざる音声は、どこか晴れやかでもあった。
『しかと見せてもらったぞ。その力なら、バイパーとも渡り合えよう……』
 ギガボルトの目から光が消える。
 だが撃破の余韻に浸る暇はなかった。
 魔空回廊から新たなダモクレスが現れたからだ。

●刻む刃のマズルカ
「あの電磁王を降すとは」
 その呟きは平坦だったが、ただ事実を確認しただけではないのは明白だった。青い水晶のような眼に警戒すべき敵としてケルベロスを映したときには、両手の凶悪な爪刃が微細な振動を帯びている。
「殲滅します」
 舞踏の踏み込みのように、コッペリアは編んだ黒髪をなびかせた。疾走の先にいるのは負傷した前衛たちではなく、彼らへの回復を紡ぐ後衛たちだ。
 スカートを翻して跳ね上がった足先の刃がエイブラハムの胸を切り裂いた。猫が苦鳴をあげたときにはブレードは、マロンが反射的に掲げた『氷晶石のニャンマー』を深々と斬り割っている。透歌が念を込めて鎌を投擲するも、鎌は軽やかにステップを踏むコッペリアを掠めるだけだった。逆に肉薄され、刃の蹴撃に胴を深く裂かれる──致命傷だ。
 消滅する透歌を尻目にコッペリアのステップはかだんに向かった。舞う鮮血──だがそれはかだんのものではない。
「回復役から潰すか。頭いいな。けどな」
 肩に深く食い込んだ足の刃をがっちりホールドして、憩は拳を突き込んだ。
「かだんは狙わせねぇよ」
 額に鉄拳を受けてコッペリアが床をバウンドする。そこへ前衛の攻撃が集中した。それを見届けた憩の脚から力が抜ける──くずおれる前にかだんが憩を支えた。
「サンキュな、いこい」
 そしてパーで背中を叩く。小気味いい乾いた音が反響し、共鳴する。
「ぃてっ!」
「死んでも立ちたいだろ」
「へっ、当然!」
 気合い注入のビンタで治った肩や腕をぐるぐる回して、憩が前線へ駆け出す。それを見送るかだんが一つ息を吐き、口内で歌詞を羅列するように「碧落の冒険家」を口ずさむ。
 ソロや千翠たちの攻撃は順調にヒットしている。命中率は充分。あとは火力。
「翳したこの未来が隠し持った遠大な行進曲で──行け。落とせるだろ」
 耳よりも肌で聴く語り口だった。発破と加護が空間を震わせて前衛に伝わり、唯奈の弾丸を加速させる。
「コッペリア!」
 エリザベスと斬り結んでいたコッペリアの腹部を魔法の弾丸が貫いた。跳び退って無感動のまま腹の穴を押さえるコッペリアと、唯奈の視線が交わる。
「もしや」
 何かを訴えるような唯奈の目に察したか、コッペリアが首を僅かに傾けた。
「知り合いでしょうか? 私が人間だった頃の」
 そう言い終えたときには、接近したコッペリアの爪が唯奈へ降り落ちている。少しでも反応が遅れていれば、地面に転がっていたのはアームドフォートの砲身ではなく唯奈の頭だっただろう。
「あいにくと覚えがありません。ジャンクデータは削除していただいたので」
 銃把を握る唯奈の手が震えた。
 そして、より強く握り直す。
「かまわないぜ──俺のやることは変わらない」
 二丁の銃口が跳ね上がった。だが発砲よりもコッペリアの踏み込みの方が速い。
 乱舞するブレードへ、悠仁が進み出た。斬撃が黒いオーラを突破して幾度も悠仁を斬り刻む。全てが致死性の一撃だった。切創から高々と血が噴出し、全身を朱色に染めながら、魂の凌駕で悠仁が踏みとどまる。
「唯奈さん、決めてくださいです!」
 悠仁に攻撃を集中したことで動きが単調になったコッペリアへ、マロンの氷結輪が弧を描いた。肩から顔にかけて切り裂き、びっしりと氷で覆う。
 唯奈の二丁拳銃が連続で咆哮した。発砲しながら自身も駆け出して、銃弾を爪で弾くコッペリアに抱きつくように押し倒す。八分を告げるアラームが鳴った。
「ほんとは」
 馬乗りになって、凍結した顔面に銃口を突きつけながら、泣きそうな声で唯奈は言った。
「人の形で終わらせてやりたかったんだぜ」
 コッペリアが無言で爪を振り上げた。爪は唯奈の防具を貫いて、背中へ突き抜ける。唯奈が飴を噛み砕き、棒を吐き捨てた。
 銃口は揺るがない。
 ちょうどそのとき、魔空回廊から三体目のダモクレスが現れた。戦況を即座に理解したそのダモクレスが小型のドライバーを投擲する。
 慟哭のように銃声が轟いた。

●宿縁の墓標
 頭部が消し飛んだコッペリアを目の当たりにして、白衣の女性ダモクレス──カット・マイナスは、四角いモノクルの奥で沈痛そうに目を細めた。
「あーあ。ギガボルトくんもコッペリアちゃんも壊れちゃうなんて、おねーさん参ったねー。哀悼、哀悼」
 両手を擦って合掌する。
「せっかく星戦型に改造したげたのになー。まあいっか。新しい素材あるし」
 水色の髪を掻き上げて、カット・マイナスは視線を唯奈に移した。唯奈は馬乗りの姿勢のまま石化していた。先ほどのドライバーは仲間を回復するものではなかったのだ。
「次はあの子が死にそうかな?」
 数本のドライバーが投げ放たれ、悠仁に殺到した。
 エリザベスとハクが庇い、血が散った。エリザベスは全身防御で耐えたが、ハクはゴトリと重い音を立てて床に落下する。
「もう、邪魔しないでよ──わっ⁉︎」
 暗黒の触手がカット・マイナスと巨大なドライバーに幾重にも巻きついた。赫怒の具現のように千翠の周囲を呪いの触手が無数にたゆたっている。
「ムカつくんだよ、てめぇ……」
「なに怒ってるの?」
 触手を振り解こうとするカット・マイナスだったが、無造作に近寄って来ていたかだんに気付いて、ドライバーを突き込んだ。かだんの腹筋を貫いて、断面から石化が始まる。
 貫かれたまま、痛みなどないようにかだんは一切表情を変えなかった。パイルバンカーを持ち上げる。
「いいこと、教えてやろうか」
 ドライバーを掴む。逃がさないように。
「タイムアタックは終わったんだよ」
 パイルバンカーがカット・マイナスの腹をぶち抜いた。衝撃に目を剥くダモクレスをぐいと持ち上げ、遺跡の壁に昆虫標本よろしく縫い止める。
 もがくカット・マイナスの目に映ったのは、叩き折られるマイナスドライバー。
 そして傷を癒しながら迫り来る、ソロやマロンに憩。
 この状況、もはやケルベロスが負ける道理はなかった。

 負傷は戦闘中に充分癒せた。ケルベロスブレイドに戻ればさらに十全な治療が得られるだろう。
「やっぱし機械共の墓にゃ勿体なかったな」
 静謐さの戻った遺跡を後にしながら憩が嘯く。
 あとに在るのは清浄な空気と、断ち切った宿縁の名残り。

作者:吉北遥人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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