迎撃、星戦型ダモクレス~麗しの星の十字架

作者:寅杜柳

●大いなる十字架を止めよ
「投票でアダム・カドモン率いるダモクレスとの決戦を行う事が決定したよ。これを最後の戦いにするためにも……全力を尽くして、勝たなきゃいけない」
 集まったケルベロス達に、雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)が呼びかける。
「現在アダム・カドモンは本拠地である惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』ごと亜光速で太陽系に侵攻しているんだ。そして、太陽系の惑星の機械化を開始している」
 惑星の機械化――それが地球マキナクロス化に何の影響を与えるのかと、ケルベロス達は疑問を抱く。
「……アダム・カドモンの目的は機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる事だと予知されている。それは地球の『季節の魔力』、その宇宙版でそれを成立させた魔力で『暗夜の宝石』、つまり月を再起動させて地球のマキナクロス化を行おうとしているんだ。ダモクレス軍は他の太陽系の惑星の機械化と同時に、魔空回廊で月面の遺跡内部に直接星戦型ダモクレスを転移させ月面遺跡の掌握を行おうとしている」
 一気に致命傷を狙ってくる辺り流石はダモクレスだねえ、と知香は言う。
「当然それを成立させるわけにはいかない。皆には万能戦艦ケルベロスブレイドで月遺跡に急行し、月面遺跡の防衛を行ってもらいたいんだ」
 そして知香は資料を広げ、防衛作戦の概略を説明する。
「ダモクレスが月遺跡の制御を奪う為に狙うだろう場所は、聖王女エロヒムの協力により予知することができている。その場所に手分けして先回りし、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレス……宇宙での戦闘用に改修強化されたダモクレスを迎撃するのが目的となるよ。大体一か所辺り3体送り込んでくるみたいで、最初のが現れてから8分ごとに一体ずつ追加で出現するようだ。送られてくるのは遺跡に入れる小型から中型、そして機器の操作が可能な人間型が投入されているようだね」
 上手く撃破できれば各個撃破できるけれども、手間取れば一時的に二体同時に相手する事になるだろう、との知香の言葉。
「ちなみに遺跡の内部は一昨年のマスタービーストやビルシャナ大菩薩との戦いで戦場になった月面遺跡内部が戦場となる。あの時は遺跡はマスタービーストが改造していたから禍々しい雰囲気だったけど、今回は本来の姿の荘厳な神殿のような区域だ。そこにエネルギー枯渇で停止した機械があるようで、ダモクレス達はその機械を操作して目的を果たそうとしているようだよ」
 そして白熊はふと考えて、付け加える。
「あんまり考えたくないけれど、勝つのが難しければ遺跡を破壊して撤退する決断も必要になるだろう。できるだけ遺跡は破壊しない方がいいだろうけども、地球のマキナクロス化を防ぐにはやむを得ない。……ただその場合、勝っても暗夜の宝石を利用する事が不可能になるかもしれないからできるだけ遺跡を無傷のままダモクレスを撃破するよう頑張ってほしい」
 そして知香の説明は、予知で得た魔空回廊を通って出現してくるダモクレス三体についてに移る。
 資料を捲り開かれたページに描かれているのは黒い一体のダモクレス。
「まず最初に出てくるのはシャドウ・ストームという名の高機動強襲型ダモクレス、両手に持った鋭いブレードで敵を斬り裂く事を得意としていて、一気に切り込んでその速度で攪乱してくる。とにかくまず当てる事が大事になるだろうね」
 更に知香は資料を捲り、銀髪の白衣の青年が描かれたページを開く。
「次に出現するのはこのプロフェッサー・S。レプリカント装置でレプリカントとなっていた研究開発型ダモクレスで、今は星戦型ダモクレスに改修されている。冷静沈着、冷徹に状況を判断して必要あれば仲間どころか自分も捨て駒に目標を達成しようとするだろう。守りを固めながら得物のライフルで足止めしてくると予知されている」
 そして最後に、捲られたページに描かれていたのは赤き重戦士の如きダモクレス。
「シュネール・オメガ。対十二創神すら想定して開発されたとされる堅牢な装甲と変幻自在な流体金属の斬神刀を武器とする強敵だ。燃費が非常に悪いようだが短時間の戦いでは極めて厄介になるだろう。この場の確実な制圧という命令通り、ケルベロス達を破壊する為にその破壊性能を発揮してくるだろうね」
 いずれも強敵、それも三連戦。難儀な戦いになるのは明らかだが、知香は変わらず信頼の笑みをケルベロス達に向ける。
「月遺跡内部での戦いになるから戦艦での援護はできないし、月遺跡を掌握されれば瞬時に地球はマキナクロス化し、決戦は敗北となってしまうだろうね。けれど、皆が勝って帰ってくることを信じてるよ」
 そう笑顔で言って、知香は説明を締め括った。


参加者
伏見・万(万獣の檻・e02075)
癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)
栗山・理弥(ケルベロス浜松大使・e35298)
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)
柄倉・清春(ポインセチアの夜に祝福を・e85251)
佐竹・レイ(きらっきら好事家の介・e85969)

■リプレイ

●暗夜の宝石の遺跡を死守せよ
 ヘリオンデバイスを実体化させ、六人のケルベロスは予知されたポイントへと急行していた。
「またここに来るとはなァ……だいぶ雰囲気違うが」
 僅かに顔を顰めつつ伏見・万(万獣の檻・e02075)がぼやき、紫の箱竜りかーを肩に乗せた癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)も同意するように頷く。
 荘厳な神殿のような景色はかつての戦いでの禍々しい雰囲気とは随分異なっている。
「俺、この戦いが終わったら新しい脱出ゲーム作るんだ……」
「それフラグじゃないかしら」
 強化ゴーグルのデバイスを装着してルートを確認しながら進むドワーフの青年、栗山・理弥(ケルベロス浜松大使・e35298)の呟きに、サキュバスのファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)がツッコミを入れる。
 星の直列をもって惑星全てを機械化する――そんな大掛かりな作戦には理弥も驚嘆しているものの、生憎と理弥は機械仕掛けの地球には住みたくない。
「子供達に禍根を残さない為にも、ここは勝たないとね」
 この決戦が終われば状況も落ち着くだろう。そうなれば愛しの彼との未来を紡ぎ、産休や育児休暇をとる事もあり得るだろう。
 そんなどこにでもある幸せを夢みて、ファレはやる気に燃えている。
 指定されたポイントの天井は高く広さも十分、遺跡を動かす為の装置も狙わなければ余波に巻き込むこともないだろう。
「なーんか相手のことも考えちゃう状況だけど……」
 準備を整える中、少しばかり悩み顔なヴァルキュリアは佐竹・レイ(きらっきら好事家の介・e85969)。
 敵を倒す事の意味を理解し覚悟している彼女は、人並の倫理観が為に大戦の前にダモクレスの事も考えてしまう。
「御託ぁいいんだよ御託は」
 そんな彼女に言い放ったのは闘技場の戦友でもある柄倉・清春(ポインセチアの夜に祝福を・e85251)。
 人類の為に敵を殺すのはこれまでも通ってきた道、例え種族の未来がかかっていたとしてもやる事は変わらない、と。
 新婚の清春、レプリカントの妻の事を考えると少々複雑にも思うが、一度殺すと決めたのなら躊躇はない。
 戦を前にしているせいか、或いは既に闘技場で知り合っている仲だからか、普段とは違い粗野な本性も僅かに見えている。
「そうよね。こうなったからにはひとまず自分の明日のために!」
 自分にできる事をするしかない、そうレイが腹を括る。
 そして、予知通りに魔空回廊が開いた。
 和にりかーが頭を寄せやわらかな毛並みが頬に触れ、そして彼女の肩から離れる。
(「大丈夫、ここにいる皆で地球に帰るんだ」)
 心の裡で決意し、和は仲間を守る為に装着した機械腕のデバイスを構え、
「ククク、一度ヤると決めたからには今までの連中と区別はしねー」
 清春とその傍らのテレビウム『黒電波』も構える。
「虫けらみてーに殺してやんよ」
 万と理弥が予めセットしたアラームを作動させると同時、ハイヒールの硬質な音が荘厳な遺跡に響く。
 今はまだ闘いの日々、戦場に在る悪の女幹部としての心意気を胸に抱くファレは魔空回廊から現れた黒きダモクレスを睨みつけ、
「さあみんな、やっておしまい!」
 悪役の如く、号令をかける。
 その言葉を契機に戦いが始まった。

●影の嵐とプロフェッサー
「まずはお前か。イイぜ、片っ端から喰ってやらァ」
 万がジェットパックのビームでケルベロス達だけを空へと引っ張り上げれば、現れたシャドウ・ストームは床を蹴り両腕のブレードで万を斬り裂かんとする。
 だがその斬撃を清春の機械腕に阻まれる。
 速度こそあるが、護り手である彼ならば十分耐えきれる威力。
「こいつをどれだけ早く倒せるかよね……」
 牽引された勢いで敵機の上をとったレイはくるりと体勢を整え、
「お得意の機動力、奪ってやるんだから!」
 そのまま理弥と共にダモクレスの頭部に流星の蹴りを連続で喰らわせ、更に黒狼の男が悍ましき獣の姿を写し取った鋼の一撃を加速と共に叩き付ける。
 衝撃に弾き飛ばされる黒き機体は壁を足場に跳躍、遺跡を高速で駆け追撃を避けんとする。
 その間、後方にレスキュードローンを展開したファレがパズルを組み替え光の蝶を舞わせて清春の傷を癒し、
「いっただきぃ」
 更に清春のグラビティにより樹に実った赤き果実のような芳香が周囲に生じ、重ねて和の手に出現した月色の光球がレイの火力を高めた。
 今回のダモクレスは飛行するケルベロス達を含めた配置から纏めて攻撃する事ができない。
 空飛ぶケルベロス達にむけ跳躍しようとするシャドウ・ストーム、だがその前に黒電波が飛び込んで阻み斬撃をその身に受ける。
 自身を応援する動画を流す黒電波をファレがパズルの蝶を舞わせ癒し切り、それを確認した清春は妖精弓の矢で理弥に加護砕きの加護を与える。
 そしてりかーは和を最初に清春、ファレと順に属性を順にインストールしていく。
 数合ダモクレスの黒い刃が閃きそれを受け止め癒し、天井を蹴って加速したレイが墜落の勢いを乗せた白銀の杭をダモクレスの足元にねじ込むと、
「もういっちょいくぜ!」
 万が空より地獄の炎弾で追撃を仕掛ける。しかし、黒き機体はそれを回避し破損した脚部パーツを換装し修理する。
 そこにりかーのタックルと理弥の破剣の加護を乗せた地を砕く一撃が炸裂し黒いダモクレスの加護を霧散させつつ、俊敏な動きを奪い取っていく。
 狙撃手二人の攻撃は効果的にシャドウ・ストームの機動力を削っているが、元の速度もあり中々直撃には至らない。
 その上自己修復の頻度が上がっている。恐らくは増援待ちなのだろうと、動きを観察していた和は推測する。
 構えを取った理弥が拳で一撃加えて攻撃の威力を削ぐが、同時にアラームが鳴る。
 増援まであと一分、ケルベロス達の攻撃は加速するが、シャドウ・ストームはのらりくらりと致命傷を悉く回避していく。
「凍てついた記憶……」
 レイの眼前に出現したのは氷の剣、それを携えた彼女が一気に降下し凍土を統べる王の名の下に全力で一閃。重ねて理弥がどこからか取り出したヤカンを正面に放り、
「いっっけー!!」
 掛け声と共に重力を込めて思いきり蹴り飛ばしシャドウ・ストームの頭部にぶつけるが――ダモクレスはパーツを換装し耐えきる。
 早くにダモクレスが持久戦に切り替えた事が響いていた。
 二体目の出現までに撃破できぬと判断したファレが神殿の床に乙女座の陣を瞬時に描き魔力を通した直後、再び魔空回廊より次なるダモクレス――白衣プロフェッサー・Sが姿を現す。
「イケメンに眼鏡で白衣?!?!」
 見ようによっては怜悧な研究者といった風体の彼に悶えるレイ。
 けれどこの白衣もダモクレス、地球の存亡をかけた戦いの最中と思い直す。
「またぞろぞろお出ましか!」
 修理される前に、万が鋼の拳を形成、レイがパイルバンカーを構えて同時にシャドウ・ストームに向け加速するが、白衣のダモクレスが割り込み阻む。
 そして万をライフルよりの光線で牽制し距離を取らせると即座に黒き機体を手早く補修、更にパーツ換装し危険域から脱してしまう。
「一応聞くけど、マキナクロス化されたらどうなんの? 地球の自然とかは?」
 乱入者に理弥が問うも、絶対零度の凍結光線が飛んでくる。対話するつもりはなさそうだ。
 だが恐らくはキャンプ等は楽しむ為の自然は失われてしまうのだろう。
「ま、負ける気はさらさらねぇけどな!」
 如意棒を上段に構え、地を砕く勢いで理弥が叩きつける。報復に黒き機体が突風の如く距離を詰めてくるが、清春が機械腕を盾に防ぐ。
 その間に白衣のダモクレスが催眠電波を万にかけようとするが、和がそれを阻み意識が僅かに混濁。
 即座に彼女にファレが桃色の霧の塊を和に放ち正気にを引き戻し、連携した黒狼の体から獣の幻影が噴き出す。
「喰い千切れ、飲み込め、塗り潰せ!」
 幻影は黒き禍竜の頭部を形成し白衣のダモクレスに喰らいつき深い傷を与える。
 黒刃に加え白衣の支援攻撃がケルベロス達を襲うが、護り手達は精力的に仲間を庇っていく。
 絶対零度のレーザーを和が受けてりかーが属性インストールで治療、そんな箱竜を狙う刃を黒電波が阻むと、和は白衣の懐に飛び込み禍々しいナイフで胴を深々と切り裂き体力を奪い取る。
 負傷を自身で治療するプロフェッサーだが連続攻撃は容赦なくその体力を奪い呪縛を重ね、与えんとした呪縛は耐性や治療で効果的に祓われていく。
 電波や光線が放たれ刃や鋼拳、氷剣が閃く戦いは続き、そしてりかーのブレスが足を鈍らせた白衣に命中して呪縛を一気に増幅する。
 だが、ここで影の嵐が黒電波に飛び込みその両腕で切り刻み足を止めさせ、回復を放棄した白衣のライフルからの凍結光線が貫いた。
 連撃に耐えきれず黒電波はその姿を消失させてしまうが、
「手癖も悪ぃが……足もなかなかのもんでな」
 そこで清春が星型のオーラを蹴りこみ、レイが召喚した氷剣を真上から豪快に叩き付ける。
 そして裂帛の気合と共に飛び込んだ万が降魔の力を宿した拳でその胴体を貫き、喰らった。
 ここで次の襲来を示す二度目のアラームが鳴る。それまでに黒き機体を撃破せんと攻撃を重ねるが、押し切れない。
 そして一分後、赤き重戦士が魔空回廊より姿を現した。

●終わりを冠する赤き戦士と、そして黒き豹と
 重い音を立て、赤きダモクレスはその剣を構え振るう。
 液体金属の刃は距離に構わず庇いに入った清春の体力をごっそり削り取る。
「危ない!」
 和が背後から迫っていた疾風の刃を阻んだ。
「あんたみたいなのとノーガードで殴り合いなんてゴメンだわ。しっかり守ってよね!」
 清春と和にそう告げ、飛び出したレイとそれに続く理弥が黒き機体に流星の飛び蹴りを喰らわせる。
「まだまだへたばるには早いわよ!」
 りかーの回復に合わせたファレが銀の粒子を展開し傷を癒す。
「まだ、やれるか?」
「……少しばかりヤバいかもな」
 問う万に、普段傲慢な程に自信家の清春は答える。
 癒し切れぬダメージが重なっている事もあり和も含め長くはもたないだろうが、今の状況からひっくり返し遺跡を守り切る目は十分にある。
 突如、ケルベロス達の視界から赤き巨体が消失した。
 上昇しつつあった理弥の眼前に瞬間移動のような速度で現れた赤き巨体が彼に連撃を叩き込む。
 防具の守りがあっても連続で受ければ厳しいだろう。
「――こんなとこで負けてられない!」
 何とか体勢を立て直した彼に蝶と月の光球が飛んできて傷を癒した。
 不利な状況の中、ケルベロス達は諦める事無く二機の撃破を目指す。
 呪縛を解除されていた黒き機体だが、ケルベロス達が重ねた加護はそのっ速度を捉え確実にその体力を削っていった。
 だが、赤き重戦士は容赦なく攻撃を加えてくる。
 その中でレイを狙った高速の一撃を阻めたのは、清春の実力の賜物だろう。
 ――しかし、耐えきる事はできなかった。
 ガードで耐えきれず崩され、追撃の突進で思い切り弾き飛ばされた。
 意識を失った彼にドローンを飛ばし逃がしながらファレは冷静に思案する。
 他の二体の火力も無視できるほど低いわけではなかった。
 傷を軽減する方策を十分準備していたならば――だが今は後悔する時ではない。
 何とか倒れぬよう戦線を維持するファレだが、突如黒き嵐が空舞う彼女目掛け跳躍、ブレードで斬り裂く。
 その直後、鞭剣のように形を変えた液体金属の刃が庇おうとする和をすり抜け遠間からファレを斬り裂いた。
 連撃を受けたファレは、意識が闇に沈む前に清春の傍へと自分の体を避難させるようドローンに命令する。
 一方、空中の黒き機体はレイの全力の一撃で胴の芯に白銀の杭が突き立てられ、その衝撃に耐えきれずに遂に爆散した。
 黒き装甲が神殿の床に金属質の音を立て崩れ落ちる中、赤きダモクレスは何の反応もなく刃を振るい理弥を狙う。
 ギリギリで回避した理弥はシュネールに斉天截拳撃を命中させる。
 火力を削る彼の攻撃は確かに通っている。しかし、それまでに時間がかかり過ぎた。
 そしてレイも冷気を纏いし白銀の杭を撃ち込み氷を広げていく。
 自分にできる事――それはシンプルな殴り合い。決して折れぬ意志と共に彼女はダメージを重ねていく。
 だが、全身の至る所に氷を広げた赤きダモクレスの姿が消失し、連撃が彼の小柄な体を痛めつける。
 何とか距離を取り気合を入れ傷を癒すが、回復手が減った今治療が間に合わない。
 万とレイが攻撃を重ねるが赤き重戦士は倒れる様子もなく、そしてその刃を理弥に向け、そして金属と金属の衝突音が遺跡に響いた。
 致命の一撃――だが、墜落するケルベロスはいなかった。
 理弥の眼前には庇いに入った和の背中――しかし、何故か黒豹のそれとだぶる異様な気配。
 最終手段、暴走。それを選んだのだとケルベロス達は瞬時に理解する。
 獣の如き咆哮と共に、和が赤き重戦士に降下してその手のナイフで深々と切り裂くと、更に箱竜のブレスが吹き付けられる。
 彼女に続き三人も一斉に動き出した。
 彼女の覚悟に応えるために、今ここで倒す。
 赤き重戦士を悍ましき鋼の鬼の拳と氷剣、地を割る如意棒が次々に襲いその装甲を砕いていく。
 それにも拘らずダモクレスは指令通りのケルベロスの排除を目指しレイの背後へと高速移動し、
「……逃げられると、思った?」
 その行動を読んていた和がその背後をとった。
 千重波・閃華――微弱な雷で敵の動きを捉え、経験を以てどこに逃げようと確実に叩き込む一撃。
 今回はナイフで代用し、強烈な一撃を叩き込んだ。
 その一撃に体勢を崩した赤き重戦士、禍竜の顎が赤き装甲を喰い千切り、高速で物騒な刃を回転させるハンドスピナーが甲高い音を立て斬り裂きながら氷の呪縛を増幅。
 さらに爆散した黒き機体の残骸――そのブレードにグラビティを込め、全力で蹴りつける。
 回転するブレードは赤き装甲を貫き、その向こうの壁に突き刺さる。
 その一撃が決定打となり、赤い重戦士はその機能を停止した。

●望まれぬ終わりは
 三体のダモクレスは撃破されたが、和の変化は止まらない。
 遺跡の装置に暴力衝動を叩きつけないためにか、黒豹の如き姿になった和はりかーを背に乗せ恐ろしい速度で部屋の外へと駆け出していった。
 それを見送った三人のケルベロスは倒れた二人の無事を確認し手当てを行う。
「……帰るぞ」
 そして、言葉少なに万が促す。
 意識を取り戻したファレがドローンを操り自分と清春を運ばせ、理弥もレイが強化ゴーグルのデバイスで確認しながら遺跡を脱出する。

 和の覚悟でこの遺跡は守られた。
 だがその代償は大きく、帰還する中に彼女はいない。
 ダモクレスとの決戦迫る中、五人のケルベロス達は万能戦艦へと一時帰投する。

 ――大いなる決戦は、もうそこに迫っている。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:癒月・和(繋ぎなおす絆・e05458) 
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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