●都内某所
閉店した駄菓子屋の前に壊れた自動販売機があった。
その自動販売機が、稼働していたのは、何十年も前。
ルーレットで当たりが出ると、もう一本貰えたため、自動販売機が稼働していた当時は、そこそこの売り上げがあったようである。
しかし、駄菓子屋の廃業に伴い、自動販売機も使われなくなったため、硬貨の投入口にはガムテープが貼られていた。
それでも、自動販売機は、諦めていなかった。
いまなら当たりやすくなってるよ。
ほら、硬貨を入れて!
……絶対に当たるから!
そんな熱烈アピールをしたものの、その言葉が届く事はなかった。
だが、その思いが残留思念となって辺りに漂った事で、小型の蜘蛛型ダモクレスが引き寄せられた。
小型の蜘蛛型ダモクレスは硬貨の投入口の近くでカサカサ動き回った後、上まで勢いをつけて駆け上がり、機械的なヒールを掛けた。
「ジドウハンバイキィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
次の瞬間、ダモクレスと化した自動販売機が、耳障りな機械音を響かせながら、街に繰り出すのであった。
●セリカからの依頼
「姫神・メイ(見習い探偵・e67439)さんが危惧していた通り、都内某所にある駄菓子屋で、ダモクレスの発生が確認されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある駄菓子屋。
この駄菓子屋は既に廃業しており、そこに設置されている自動販売機が、ダモクレスと化してしまうようである。
「ダモクレスと化すのは、自動販売機です。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
そう言ってセリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていった。
資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
ダモクレスと化した自動販売機は、ロボットのような姿をしており、内蔵されたジュースをキンキンに冷やしているようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。
参加者 | |
---|---|
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184) |
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716) |
サイレン・ミラージュ(静かなる竜・e37421) |
姫神・メイ(見習い探偵・e67439) |
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290) |
●都内某所
「まさか、私が予想していたダモクレスが本当に現れるとはね……。ともあれ、人々に危害を加えるダモクレスには容赦しないわ。早くダモクレスを見つけて、倒してしまいましょうか」
姫神・メイ(見習い探偵・e67439)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された駄菓子屋にやってきた。
その場所は未だに昭和に雰囲気が残っており、そこだけ時代から切り離されたような錯覚を覚えた。
しかし、その場所から目を離すと、そこに広がっていたのは、令和の景色。
そのせいで、駄菓子屋のまわりだけ違和感があるものの、やがて消え去り、忘れ去られていく場所である事は間違いなかった。
「何だか昔懐かしい雰囲気が素敵ですね。いずれ無くなってしまう場所とは言え、少しもったいない気もしますが……。それがダモクレスを生み出す結果になった事を考えると、何だか悲しい気もしますね」
サイレン・ミラージュ(静かなる竜・e37421)が、複雑な気持ちになった。
もちろん、時代の流れを考えれば、仕方のない事ではあるものの、自動販売機側からすれば、処分される恐怖と絶望で、運命を受け入れる気持ちにはならなかったのだろう。
その気持ちに気づいた小型の蜘蛛型ダモクレスによって、結果的に利用されてしまうのだから、何やら哀れに思えてきた。
「こういった抽選機能は、一定以上の確率で当たるようにしないと違法……ということを聞いたこともあるが、実際のところどうなのだろう? ソーシャルゲームのガチャのように、当選率は表示されないものなのか、それとも……」
そんな中、嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)が、不思議そうに首を傾げた。
おそらく、自動販売機が設置されたのは、昭和の頃。
その頃は、色々とアバウトだったため、当選率を故意に調節していても、おかしくなかった。
それでも、そこそこの売り上げがあったという事は、一定の確率で当選が出ていたという事だろう。
それが、どの程度の割合か、今となっては分からないものの、売り上げに貢献するレベルであった事は間違いない。
「それでも、この辺りに人達に愛されてきた事は間違いありません。そう言った意味でも、再び輝いて欲しいところですが、ダモクレスと化して、人々に危害を加えるのであれば、放っておく訳には行きませんね」
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)がキープアウトテープを貼りつつ、警戒した様子で自動販売機に視線を送った。
「ジ、ジ、ジ、ジ……」
次の瞬間、目の前の自動販売機が激しく揺れ、みるみるうちに異形な姿に変貌していった。
それは自動販売機で出来たロボットのような姿をしており、ケルベロス達に対して激しい敵意を向けていた。
おそらく、ダモクレスと化した事で、怒りが増幅されているのだろう。
自分がこうなってしまった原因が、すべてケルベロス達にあるのだと、思い込んでいるようだった。
だからと言って、ダモクレスの記憶を書き換えられている事を告げたとしても、説得の応じる事がないような感じであった。
「どうやら、心まで支配されてしまったようだね。こうなってしまうと、倒すしかないか。可哀想な気もするけど、誘惑に打ち勝つ事が出来なかった代償だから……。それでも、せめて苦しまず、倒してあげるね」
すぐさま、カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が、ケルベロスの攻撃を警戒して間合いを取った。
「ジ、ジ、ジ、ジ、ジ……」
そんな空気を察したダモクレスが、激しく身体を震わせた。
……それはビームを放つ前触れ。
自らの怒りをエネルギーに変換し、ビームにして解き放つ前段階。
そして、ダモクレスから解き放たれたビームは、ジュースの如くカラフルで、甘いニオイに包まれていた。
それが真っ直ぐ飛んでいき、ブロック塀に当たって弾け飛んだ。
しかし、その勢いは衰えておらず、小さな粒となってケルベロス達を襲い、触れた部分に火傷を負わせた。
「大丈夫か、緊急手術を施術するよ」
その事に危機感を覚えたカシスが、ウィッチオペレーションで仲間を治療した。
「ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
その間もダモクレスがビームを放ち、辺りの景色を見るも無残な姿に変えていった。
それは時代によって奪われた景色を取り戻そうとしているかの如く、最近作られたモノばかりを狙っており、廃墟と化した駄菓子屋自体には傷ひとつついていなかった。
「御業よ、敵を鷲掴みにしてしまいなさい!」
その間にルピナスが死角に回り込むようにして退路を塞ぎ、禁縄禁縛呪でダモクレスの動きを一時的に封じ込めた。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
それでも、ダモクレスは諦めておらず、狂ったように暴れ始めた。
だが、半透明の御業に掴まれ、思うように体を動かす事が出来なかった。
そのため、爆発寸前まで膨れ上がった怒りをエネルギーに変換し、再びビームを放とうとした。
「さぁ、行きますよアンセム。サポートは任せましたからね!」
その間に、サイレンがウイングキャットのアンセムと連携を取りつつ、ダモクレスに迫っていった。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
そのビームは先程と比べてケタ外れに大きく、風圧だけでアスファルトの地面をガリガリと削るほどの破壊力を秘めていた。
その攻撃を間一髪で避けたものの、アンセムの羽にかすったため、ふたりともドキッとした様子で後ずさった。
幸い、大事には至らなかったものの、嫌な汗が溢れ出し、生きた心地がしなかった。
「バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
その事に腹を立てたダモクレスが、今度は大量の硬貨を弾丸の如く飛ばしてきた。
それは先程のビームと比べて、かなり小さかったものの、その分スピードが速く、攻撃を避ける事が困難だった。
そのため、大怪我こそしなかったものの、弾丸の如く飛んできた効果で傷つき、アスファルトの地面が真っ赤に染まっていった。
それでも、ダモクレスの攻撃は止まなかった。
むしろ、これからが本番とばかりに、勢いがついているような感じであった。
それだけ、今まで苦しんできたのだろう。
すべての怒りをケルベロス達にぶつける勢いで、ダモクレスが迫ってきているような錯覚を覚えた。
「薬液の雨よ、皆を助けてあげてね!」
すぐさま、カシスがメディカルレインで薬液の雨を降らせ、傷ついた仲間を癒していった。
ダモクレスの猛攻の前では、単なる気休めにしかならないかも知れないが、それでも何もしない訳には行かなかった。
それにダモクレスの怒りも、無尽蔵にわき続ける訳では無い。
ほんの少しのキッカケが……。
もしくは、一瞬の迷いが、ダモクレスを惑わせ、攻撃の手を止める引き金になる可能性もあるのだから……。
「イキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
そんな中、ダモクレスの攻撃が止まった。
どうやら、内蔵されていた硬貨が切れてしまったらしく、オデコの部分にある『つり銭切れ』ランプが、不気味に赤く点滅していた。
「後先考えず、攻撃したから、バチが当たったようね」
その隙をつくようにして、メイがスターゲイザーを放ち、ダモクレスを蹴り飛ばした。
「ピコピコピィィィィィィィィィィィィィィ!」
次の瞬間、ダモクレスの胸元にあるルーレットが点滅し、当たりを意味するファンファーレと共に、大量のジュースが飛び出してきた。
そのジュースは、どれも懐かしのデザイン。
それがケルベロス達に向かって、雨の如く降り注いだ。
(「……これは飲めるのだろうか?」)
そのジュースを反射的にキャッチした槐が、気まずい様子で汗を流した。
そもそも、駄菓子屋が閉店したのは、ずっと前。
その時からジュースが装填される事はなかったはず。
その上、ジュースのデザインが昔のモノである事を考えると……点と線が繋がった。
一応、見た目は新品同様。
しかも、キンキンに冷えており、飲み頃だった。
だが、間違いなく、死亡フラグ。
飲んだ瞬間、気持ちがブルーになる事は間違いなかった。
おそらく、槐でなければ、その誘惑に負けて、ガブ飲みしていた事だろう。
しかし、槐に迷いはなかった。
これは飲めない、間違いなく……。
その気持ちを示すようにして、ダモクレスとの戦いを優先した。
「カンカンカァァァァァァァァァァァァァァン!」
そんな空気を察したのか、ダモクレスが耳障りな機械音と共に、缶ジュース型のミサイルを飛ばしてきた。
そのミサイルは一見すると、先程のジュースとまったく同じように見えたが、アスファルトの地面に落下すると爆発し、何かが腐ったようなニオイと共に大量の破片を飛ばしてきた。
(「やはり腐っていたようだな」)
即座に、槐がミサイルを避けるようにして飛び退き、ケイオスランサーをダモクレスに繰り出した。
「ジ、ジ・ジ・ジ……」
その途端、ダモクレスの身体が汚染され、ビクビクと激しく痙攣を始めた。
それでも、必死になってミサイルを放とうとしていたが、既に弾切れ。
カチカチカチと虚しく音が響くだけで、ミサイルが発射される事はなかった。
「捕食の双牙よ、収穫形態となり皆を癒す果実を与えて下さい!」
その間にサイレンが黄金の果実を発動させ、聖なる光で仲間を進化させた。
「ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
一方、ダモクレスはケルベロス達に向けた敵意をエネルギーに変換し、再びビームを放とうとした。
それはダモクレスにとって、最後の希望。
そのため、ケルベロス達を必ず殺すつもりで、エネルギーを充填しているようだった。
だが、ケルベロス達に狙いを定めているせいで、まったく身動きが取れなくなっていた。
ここで動いたら、最後。
狙いが外れてしまい、ケルベロス達を倒せない。
そんな気持ちがあるためか、まるで石の如く固まっていた。
「そこまでして、わたくし達を倒そうとしていたなんて……。その気持ちだけは、凄いと思いますが、ここまでです」
それと同時に、ルピナスが惨劇の鏡像を発動させ、ダモクレスのトラウマを具現化させた。
それはダモクレスが自動販売機だった頃、悪態をつき、蹴りを入れてきた者達の姿。
どんなに殴られ、蹴られても、自動販売機は、何も出来なかった。
その悔しさと悲しさが、ダモクレスの身体を包み、絶望の扉を開けた。
「ウォォォォォォォォォォォォォンウォンウォン!」
それは、まるで泣いているようだった。
いつの間にか、ビームのチャージが停止され、ダモクレスの悲鳴にも似た機械音だけが、辺りに響いた。
「……終わらせましょう。これ以上、苦しめても、酷なだけです」
次の瞬間、サイレンがアンセムと連携を取りつつ、攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
それに合わせて、アンセムがキャットリングを放ち、サイレンが絶空斬を繰り出した。
その拍子にダモクレスの装甲が剥がれ、無防備なコア部分があらわになった。
「呪われた血の力を、その身に受けると良いわよ!」
それと同時に、メイが血装刺突法を仕掛け、染み付いた血を硬化させ、包帯を槍の如く鋭く伸ばして、ダモクレスのコア部分を破壊した。
「ジ、ドウ・ハン・バイキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
その一撃を食らったダモクレスが、断末魔にも似た機械音を響かせ、完全に機能を停止させて崩れ落ちた。
そして、ケルベロス達は周囲をヒールで修復した後、その場を後にするのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年5月28日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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