虹色遊戯

作者:藍鳶カナン

●虹色遊戯
 瑞々しい若葉の息吹に満ちた森を抜ければ、一気に開けた視界に空の青。
 都市郊外の広大な緑地公園、その一角を占める森の先には初夏の光風に緑きらめく芝生の広場が大きく開けていて、空の青と大地の緑が美しいコントラストを描きだす。誰もの心を弾ませる初夏の光景を、更なるきらめきが彩った。
 透明で、虹色にきらめく数多の珠が、青空へと一斉に舞い上がる。
 軽やかに華やかに、世界へきらきらと溢れだしたのは数えきれないほどのシャボン玉。
 玩具の銃に弾丸ではなくシャボン液のカートリッジを装填し、数多のシャボン玉を一気に放つ電動シャボン玉銃、いわゆるバブルガンは緑地公園のショップでも人気の品で、純粋に遊んでみたい子供達も、色々映える写真を撮るのに使ってみたい大人達も瞳を輝かせて手に取るのだとか。それを思いきり試せる場所が、この芝生の広場というわけだ。
 楽しげな電子メロディとともにシャボン玉が溢れたり、クリアデザインの銃に内蔵されたカラフルなLEDライトがシャボン玉をいっそう煌かせたりする最新モデルは特に人気で、虹色にきらめくシャボン玉が舞い上がるたび、それらが音や光で彩られるたびに、子供達がはしゃぐ声や、童心に返った大人達の歓声が初夏の世界に咲き溢れたけれど。
 それらは程無くして、弾けて消える。
 緑きらめく芝生の大地は広場の彼方でなだらかな斜面を成して、緑の丘に変わるのだが、その丘の向こうから覗いた銀の何かが不穏に煌いたと見えた瞬間、大きなガトリングガンが現れたのだ。
 緑地公園の片隅に誰かが放置したと思しき旧モデルのバブルガン、銀色のガトリング型のそれが機械脚の宝石――コギトエルゴスムに融合され、子供でも楽々取り回せるサイズから大人の背丈をも超えるサイズに作り変えられる光景を目撃した者はいない。だが、銃口からひときわ楽しげにきらめくシャボン玉が解き放たれる様を、誰もがその瞳に映す。
 軽やかに華やかに、世界へきらきらと溢れだした虹の珠。
 ――それが誰かを傷つける力を帯びてしまうなんて、元のバブルガンは望んでいなかったはずなのに。

●虹色戦戯
 初夏の青空、光風わたる緑の大地。
 透明で、虹色にきらめく幾つものシャボン玉がその世界を彩る様は、
「きっと見るひと誰もが嬉しくなっちゃう光景だと思うんだよね。恐らく元のバブルガンももっといっぱいシャボン玉を作って誰かを喜ばせたいっていう本能みたいなのを残してるんだろうけど……」
 煌くシャボン玉を解き放つ機能は、ダモクレス化とともに攻撃グラビティに変化した。
 天堂・遥夏(ブルーヘリオライダー・en0232)はケルベロス達へとそう語り、放置すれば人的被害が出ると予知で判明した以上、撃破してもらわねばならないと告げる。
「現場到着は相手が緑の丘の向こうから芝生の広場へやって来る頃。避難勧告は手配済みで緑地公園は無人になるから、そこで思いっきり戦って」
 敵は大きな銀色のガトリング型バブルガン、揮う技は範囲攻撃ふたつにヒールがひとつ。
 癒しの技は噴射したシャボン玉を自ら浴び、損傷と状態異常を修復するもの。範囲攻撃はそれぞれ武器封じと捕縛の効果を持つもので、
「武器封じのグラビティはシャボン玉の奔流を浴びせてくる技で、標的が使うグラビティにシャボン玉発生効果を付与しようとする」
「ぴゃっ!? つまりわたしの場合ブレイジングバーストがシャボン玉バーストになったりジョブレスオーラがシャボン玉オーラになったりするの~?」
 尻尾ぴこーんな真白・桃花(めざめ・en0142)が訊けば、遥夏は「なるなる」と続け、
「薔薇の剣戟だと幻の薔薇とシャボン玉が舞う剣戟になったり、フロストレーザーだと凍結光線と一緒に無数のシャボン玉が発射されたりね。そのグラビティのエフェクトそのものは変わらないんだけど、シャボン玉のあわあわで攻撃の威力が弱まったりする感じ」
 あくまで武器封じだからヒールの威力には影響しないと語る。
 桃花の尻尾がぴこぴこした。
「捕縛のグラビティは大きなシャボン玉を放ってくる技でね、これに捕まるとシャボン玉の中に呑み込まれる。そのままの状態でも戦えるけど、標的を捕えたシャボン玉はちょこっとふわっと浮かぶから体勢を崩したり、移動しようとしたらぽよんって弾んだりして、攻撃や回避がしにくくなったりする感じなんだ」
 桃花の尻尾がぴっこぴこになった。
 なお、相手はジャマーだという。
 武器封じも捕縛も幾重にも重ねがけされたままでは厄介だが、
「ああん、でもでも全部きれいさっぱりキュアしちゃうのはもったいない気がしますなの、なんて楽しそ、もとい恐ろしい技なの……!!」
「まあ、一般人を巻き込む心配はまったくないからね。どう戦うかは、あなた達で相談してもらえればいいと思う。あなた達の心の赴くままに戦って、最後には撃破してきて」
 桃花の尻尾がぴるんぴるんすれば、遥夏はケルベロス達を見渡してそう笑んだ。
 たとえば状態異常対策は緩めでいくとかいかないとか、勝利するための戦術がおろそかにならない範囲で、シャボン玉効果が付いたら楽しそうなグラビティを選んでいくとか。
 無事全てを終えられたら園内のショップでバブルガンを買って、皆でグラビティではないシャボン玉で遊んでいくのもきっと楽しいひとときになる。最新モデルのバブルガンでも、戦った相手と同じ、旧モデルのバブルガンでも。
 そうしてまた一歩進むのだ。
 この世界を、デウスエクスの脅威より解き放たれた――真に自由な楽園にするために。


参加者
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
華輪・灯(春色の翼・e04881)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
霧咲・シキ(四季彩・e61704)
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)

■リプレイ

●虹色戦戯
 透きとおる虹色のきらめきが溢れだした。
 初夏の青空も新緑の芝生も一斉に彩っていくのは銀色のガトリング型バブルガン、新たな命と大きな躯体を得た玩具の銃が次々撃ち出すシャボン玉の奔流に数多の特大シャボン玉はたちまち楽しげなきらめきで戦場を満たし、
「序盤からクライマックスなステージにあがった気分だったね!」
「ええ、あんな経験、初めてでした!」
 誰かが巻き起こす七色の爆風にふわり掬いあげられたように浮かぶ特大シャボン玉の中で薔薇色の衣を翻したクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)が愛しげに紡いだ歌、花咲くハープを奏でるとともに幾重にも湧きあがったシャボン玉の煌きに源・那岐(疾風の舞姫・e01215)が乗せた冒険家の調べ、期せずして生まれた即席セッションが命中と火力の加護のみならず、その華やかさで一気に皆の気持ちを高揚させてくれたから。
 おかげで序盤から勢いは絶好調、敵の銃口から景気よく迸る煌きの奔流にも特大の迫力で襲いくるシャボン玉ぱっくんの術にも怯まずに、
「舞台もばっちり完璧に調ったって感じっすね、こっからオレもどーんといくっすよー!」
 仲間と展開した流体金属の粒子や鎖の守護魔法陣で自陣を満たせば世界を彩る力を思う様揮い、霧咲・シキ(四季彩・e61704)が虹色のシャボン玉達とともに迸らせる数多の色彩が三重の追撃でバブルガンに弾けたなら――本番開始!
「えんじぇりっくな私もステージをファンシーに彩っちゃいますよ! ね、シア!?」
「きぃもお仕事でアイドルしたことあるからね、そんな気持ちでがんばるよ!」
 宙にころんと転がるシャボン玉内でウイングキャットも一回転、その愛らしさに破顔した華輪・灯(春色の翼・e04881)が青空へ解き放った花と羽の環が煌きの癒しと花吹雪めいて溢れるシャボン玉を前衛へ降らせれば、護り手達をすりぬけ後衛に届いた特大シャボン玉に抗うべく、隠・キカ(輝る翳・e03014)は己をぱっくり捕まえた大きな虹の珠ごとふわっと浮かんで、きらきらと溢れだす自身の歌声と無数のシャボン玉へ二重の浄化を乗せた癒しを織り上げた。
 癒し手たる少女に浄化されたシャボン玉が弾ける様さえ、
「虹の飛沫が散るみたいで綺麗ですね……!」
「ふふ、どうにもこうにもテンションあがっちゃうよね!」
 初夏の陽射しに幻想的に煌いて、眩しげに金の瞳を細めた那岐が好奇心の扉たるパズルを鍵で開けば、今度は青空へ躍り上がった稲妻の竜が数多のシャボン玉を虹と黄金に煌かせて戦場を翔けぬける。ますます物語の世界に飛び込んだみたい、と心を弾ませればクラリスを包む透明な虹の珠もぽんっと弾んで、
 ――ゆめゆめ、わするることなかれ。
 口遊むのは微睡みにとけるような三拍子、途端にバブルガンの影落ちる芝生の大地からは極彩色の翅で舞う蝶達とシャボン玉の竜巻が湧きあがり、夢幻めいた煌きが渦巻いて。
 雷竜から三重の麻痺、蝶達から治癒阻害を喰らった敵は堪らず銃口を空に向け、思いきり撃ちあげたシャボン玉が降り注ぐシャワーで己を癒しにかかる。癒しそのものは治癒阻害で威力を減じたものの、
「流石はジャマーのキュア、こっちが与えた状態異常はかなり消えたみたいだね」
「ティユたんの足止め狙撃に期待してますお! マチャヒコも皆からの命中強化で……!」
 一瞬で見極めたティユ・キューブ(虹星・e21021)が迷わず跳躍、虹色煌くシャボン玉の尾を引く流星となって敵に改めて星の重力を刻み込んだなら、仲間達からの加護で冴え渡る感覚のまま樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)が揮うは発火装置を備えた星辰の剣。銀色バブルガンに派手な炎が燃え上がれば数多のシャボン玉も舞い上がり、
「みんな虹色あわあわで素敵なのー! わたしも頑張って捕まえちゃうんだから!」
 敵が間合いを取るよりも速く瑞々しい芝生を駆け、相手の横合いへと跳び込んだティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)が素早く奔らす新緑の蔓草が銀の銃身を締め上げれば、そのまま翻った銃口から爆ぜる反撃はティフ達中衛へのバブルブラスター!
 視界いっぱい透明な虹色が爆ぜて弾けるシャボン玉の奔流、特大シャボン玉をぽぽんっと弾ませた護り手達がその射線へ躍り込み、
「ふふふ、待ってましたよ! あなたと虹色ぷくぷくで撃ち合えるこのときを!」
「ありがとっすよ灯! 銃には銃で、オレからも反撃っすー!」
 虹色の万華鏡のごとく目眩くシャボン玉の奔流を浴びつつ灯が構えたガジェットが明るいシャーベットカラーの銃へ変形した瞬間、魔導石化弾とともに此方からも煌くシャボン玉が迸る。彼女に護られたシキの手にはバスターライフル、撃ち出した魔法光線は同時に溢れた無数のシャボン玉をいっそうきらきら踊る虹色で彩りつつ、銀色バブルガンへ襲いかかる。彼がジャマーだからか多少キュアされても溢れるシャボン玉はたっぷりあわあわで、
「ずっと羨ましかったけど、遂にわたしにもあわあわ発生のチャンスがきたのー!」
 護り手達が庇ってくれたり防具耐性とキャスターの身軽さで躱してしまったりで、一度も敵のバブルブラスターを浴びていなかったティフに初めてシャボン玉の奔流が弾けたなら、
「そういうことなら、これでシャボン玉いっぱい出してみて!」
 背に那岐を庇ったクラリスが舞わせた癒しが、魔法の木の葉とシャボン玉の煌きで小さなセントールをくるり取り巻いた。ステルスリーフの加護はそれを受けた者が揮う術の効果をひとつ増やすもの。発動確率は低めだが、
「あっ! すごいの、めいっぱいあわあわなのー! ……って、わきゃっ!?」
 瑞々しい芝生の緑に大きく跳ねて敵の懐へ跳び込んだティフが放つはセントール十八番の背蹄脚、後ろ足で渾身の蹴りを繰り出し身を捻って振り返れば瞳に映るのは、思いきり蹴り上げられた銀色のバブルガンと視界いっぱいに広がる無数のシャボン玉が青空へ舞い上がる光景。思わずはしゃげば前足が滑ってつんのめりかけたけれど、
「おっと、間一髪でセーフかな」
 無邪気なおてんば少女をティユが抱きとめると同時、封印箱とシャボン玉を連れた彼女のボクスドラゴンが勇ましく吶喊して敵を牽制。お利口さんだねペルル、と微笑んで、初夏の陽射しに虹色真珠の髪を踊らすティユの刃が描くのは、完璧な月の弧の斬撃と、透きとおる虹の煌き流れる、夢のようなシャボン玉の軌跡。
 対する銀色の銃口から膨れ上がるのもくうるり大きく流れる透明な虹、後衛陣をめがけて放たれた特大シャボン玉はジェットパック・デバイスで飛翔する正彦も呑み込んだけれど、彼を捕えたかに思えたシャボン玉はかくんと落ちて、ぱちんと割れた。
 正彦は飛んでたのに。
 飛んでたのに!
「それでも体重か……体重なのですかお????」
 世に隠れなき豚ウェアライダーの青年はがっくり膝をつきかけたが、
「そんなことないよ正彦! えっと、ほら、そのゾディアックソードが!」
「うん、きっとそうだね。剣の切っ先が巧い具合にシャボン玉を突いたんじゃないかな」
 彼を救ったのは乙女達の声。勿論それで割れるものではないだろうけど、
「うう、キカたんもティユたんも相変わらずの優しさですお……!」
 彼女達の言葉で奮起した正彦は「つまり防御に成功したんですお」と己に言い聞かせ、
「二人の優しさでマチャヒコ復活! シャボーン――sign(サイン)ですお!!」
 華麗にくるり廻って見せれば溢れるシャボン玉とともに翔けるのは十一本の星剣、星辰の魔力が敵を貫いた瞬間、牡羊座の星剣を叩き込んで黄道十二星座の魔法を完成させたなら、予想以上に凄まじい威力で銀色の銃身が爆ぜた。
「わかったよ! この子の弱点、魔法みたい!!」
 確信を得たキカが皆へそう報せつつ、己の盾になってくれた灯へ贈るのは、相手の幸せな記憶を共有して癒しを共鳴させる術。胸に優しく燈るは白銀の髪の友とアラビアンナイトな姫君に扮し、魔法の絨毯での聖火リレーを演出した昨夏の想い出で、
「はいっ! それなら今日もばっちり魔法を決めてみせますよ!」
「弱点が魔法でしたら、私もこちらで参ります!」
 あの日ランプの精を演じた翼猫がおひさま色のリングを放つのに合わせ、笑みを咲かせた灯が靴先から撃ち出す煌きは数多のシャボン玉と幸運の星、銀色の羽が風を孕む靴を翻し、那岐も虹の煌きと幸運の星を奔らせれば、輝く星の魔力が敵の護りを三重に穿つ。
「わたしは回復をお手伝いするのー!」
 敵の弱点を見極めたのは戦況の把握に努め続けたキカの功績、ゆえに長く楽しめるように弱点での攻撃を避けたいとティフが口にするわけにはいかなくて。代わりに青空へ燈す術は小さな魔法の雲が雨を降らせ、消えゆく雲の合間に架かる虹が齎す癒し。けれどそれは。
 今このときの永続ではなく、あした天気になあれ、と変わる未来を望む魔法。
 初夏の青空へ、新緑の芝生へ、透きとおった虹の珠が幾つも幾つも溢れて舞って、翔けて弾けて煌いて。皆の笑顔も笑声も何度も何度も賑やかに弾けて咲いて。
「楽しい戦いですけれど、いつまでも続けるわけにはいきませんよね」
「終わりがあってこそっすよね。いっぱい楽しませてくれてありがとうっすよー!」
 胸も声も弾めど生来の生真面目さはそのままに、指輪に風龍の宝玉が煌く左の手を那岐が初夏の風に舞わせれば、凛とした戦舞が生み出すのは常闇色の風と、その流れをきらきらと彩る無数のシャボン玉。虹と常闇が銀色へと翔けて三重の治癒阻害を齎したなら、続け様に迸るのはシキが放つ魔法の色彩、数多の虹の珠と幾重もの追撃を連れたペイントラッシュがめざすは虹の七色。
 鮮麗な赤に始まる華やかな色彩が次々弾ければ、バブルガンは己が射出するシャボン玉を浴びたけれど、常闇に大きく阻まれた癒しの威は雀の涙。
 玩具として生まれ、ダモクレスへと変えられて。それでもなお楽しげにシャボン玉を放つ姿は遊び相手を探しているよう――と、戦いの幕開けに感じた想いがクラリスの胸に甦る。だからこそ、シャボン玉の嵐もどんと来いと真っ向から何度も受けとめて、
「私達、めいっぱい遊んであげられたよね?」
「ええ。そろそろフィナーレの時間でしょうか?」
「華麗なる終幕の予感が満開! ですともー!!」
 微笑み返すヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)の許から翔けるのは三重の足止めを齎す鋼の竜、虹の煌きと翔ける竜に続いて真白・桃花(めざめ・en0142)が銃弾とシャボン玉の弾幕を張れば、クラリスは序盤に恋人がくれた彩風の加護ごと蜂蜜色の光を握り込んだ。
 撃ち放つ魔法は気咬弾、幾つもの虹の珠を甘やかに煌かす輝きがバブルガンに届けば、
 ――思いっきり遊ぼうね。いのちを宿したあなたが眠るまで。
「あなたがだれも傷つけないうちに、きぃ達がちゃんと送ってあげるから」
「了解ですお。次の命があるのなら、もしも来世があるのなら、皆で送り出しましょう!」
 白金の髪に虹の煌き踊らせて、キカが妖精剣から解き放つ花々の嵐が透きとおる虹の珠を数多巻き込みながら銀色の『遊び相手』に渦巻いて、己が未来を信じる心を魔力へと変じた正彦が溢れるシャボン玉とともに絶大な一撃を贈る。
 虹色と銀色の煌きを奔らせて生まれる無数の罅。
「僕達も最後まで付き合おうか、ペルル」
 ――いっぱいのシャボン玉で誰かを喜ばせたいという、元のバブルガンの本能に。
 透ける虹色の膜の翼を羽ばたかせれば、元よりシャボン玉属性の箱竜から零れる虹の珠が風に踊る。攻撃手としての役割をまっとうすべく放たれた息吹は遊び相手からもらった虹も併せて飛びきり美しく煌くシャボン玉の奔流となって翔け、星の輝きを凝らせた鍵盤を己が手許に展開したティユが星屑の煌きそのものの音色を奏でれば。
 幾つも幾つもきらきらと舞い上がる透明な虹の中、銀色のガトリング型バブルガンも虹色煌く光の粒子になって、初夏の世界に還っていった。

●虹色遊戯
 花飾りがふわふわ咲く玩具の銃が、青空にまぁるくきらきら透ける虹を解き放つ。
 試し撃ちの成果に夏空の瞳を輝かせ、
「きぃ『達』、力はなくても素早く狙い撃てるよ……!」
 左手で銃を構え、添える右手で玩具ロボのキキを支えて、一緒に力を合わせて撃つ心地で狙い定めたキカを迎え撃つは二丁拳銃よろしく両手にライフル型バブルガンを構えた正彦! だけれども、
「ふっふっふ、マチャヒコに射撃戦を挑むというのですか? 良い度胸でもぎゃー!?」
 派手にシャボン玉を撃ち出さんとした刹那、芝生に弾けた泡で彼の足がつるんっ!
「まさかの伏兵ですお!?」
「初めてにしては上出来だね、ペルル……っと!」
 小さなバブルガンを器用に操った箱竜の様子にティユが眦を緩めれば、その途端に彼女の肩でぽぽんっと弾けるシャボン玉、
「隙ありー、っすよー!」
「そんなシキさんにも隙あり、なのー!」
 だがきらきらを撃ったバブルガンをシキが振って見せたなら、ティフが彼の脇を駆け抜け様に銀色のガトリングでシャボン玉連射! 当てられるものなら当ててみて! とばかりに淡い虹色の尻尾を躍らせ疾駆するティフは最高時速80kmを誇るセントールランで回避の構えだけれど、
「これは……! 元ガンスリンガーの腕が鳴るよ!!」
「ふふふ~。現役ガンスリンガーもおりますなのー!」
 撫子色の瞳に煌きを燈すクラリスが強気な笑みで翳すのは引き金ひけばにゃんこの口から数多のシャボン玉が噴き出す猫型バブルガン、金色ガトリングなバブルガンを構えた桃花も挑む気満々で、更に、
「そういうことなら、私もガンスリンガーチームに入れてくださいな」
 白銀の髪を翻し、淑やかに微笑んだシィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)の手には本格的な小銃(型のバブルガン)! 大歓迎! と二人の声が揃った次の瞬間には、三人の銃口から一斉に、この場で最速の少女めがけてシャボン玉が迸る。
「猫に敵対はできないっす! そんなわけでオレもクラリス達側で参戦するっすよ!」
「それじゃあ、きぃはティフと一緒にゆめかわチームでいっちゃう!」
「えんじぇりっくでイルカ型バブルガンな私も自動的にゆめかわチームですね!」
 シュール可愛い猫型バブルガンに屈したシキも加われば、ゆめかわバブルガンを手にするキカはゆめかわセントールの許へ馳せ、虹の珠をぷくぷく生み出すイルカを相棒にした灯が青空へ羽ばたいて、
「勝負ですよシィラさん!」
「ええ、望むところです!」
 春色天使と白銀令嬢の楽しげな眼差しが絡んだなら――いざFeuer!!
「むむ、マチャヒコはどちらのチームの味方をすべきか……」
「いっそ僕と一緒に、二大勢力の戦いに乱入する第三勢力――なんて如何でしょう?」
 悩める正彦を重低音でヨハンが勧誘すれば、
「第三勢力か、そそる響きだね。僕も加わらせてもらうよ」
「いいですね。折角の遊びですし、私達で思いきりかきまわして盛り上げましょうか」
 瞳を見交わしたティユと那岐も悪戯な笑みを咲かせて虹色弾ける戦場へ駆け出した。
 飛んできた箱竜と一緒になってティユが数多の虹を迸らせるのは先程の相手と同モデルと思しき銀色のガトリング型バブルガン、皆様お覚悟! と楽しげにひときわ弾む声を響かす那岐も、一族の長を担う重責をひととき忘れて無数の煌きを乱舞させる。
 初夏の青空と新緑の芝生の合間を縦横無尽に躍るシャボン玉の応酬。
 皆で駆けて廻って笑って、透明な七色の煌きを舞い散らせ。軽やかで華やかでこんなにも賑やかな撃ち合いを楽しめるのは、ケルベロスだからこそ。
 グラビティ以外では害されない自分達はともかく、普通の子供達もが真似して撃ち合いを始め、シャボン玉が眼に入ったりするといけないから、
「お次はこれでバトルといきませんか? 誰の射撃が一番多く――」
「小さなシャボン玉を解放できるか、だね。乗ったよ、その勝負!」
 事件解決と聴いて戻ってきた一般客の姿が見えたなら、皆の頭上へヨハンが撃ったのは、大きなシャボン玉の中に小さなシャボン玉を幾つも生み出して放てるバブルガン、彼が更に竜翼の羽ばたきで舞い上げる大きな虹の珠の中で小さな珠がくるくる回って。
 さっきまでの私みたい、なんて、ランナーボールに入ったハムスター気分を思い出しつつクラリスが撃ったシャボン玉で大きな珠がぽんと割れたら、小さな虹の珠がふわっと溢れて楽しげに舞い降りてきた。
「あわあわになるかと思ったけど……普通のシャボン玉だから、当たると弾けちゃうね」
「だからみんな、弾けちゃう前に撮りたくなるんだと思うの~♪」
 舞い降る煌きに包まれたキカが、桃花が手にしたスマホに笑みを咲かせれば、
「ふふ。わたしも一枚、シャボン玉とえんじぇりっくな美少女を撮らせて欲しいの」
「一枚と言わずいくらでも、一緒に! 写りましょう!!」
 次々撃ちあげられる大きな珠から次々と小さな珠が解き放たれる初夏の世界で、シィラも取り出したスマホに灯の笑みも満開に咲いたから、撮影係は執事なビハインドにお願いし、お手伝いできない翼猫は二人で抱っこして。
 まぁるく透けて、きらきら煌く幾つもの虹の珠と一緒に、
 ――飛びきりの笑顔と幸せが映える想い出を、心のままに何枚も。

作者:藍鳶カナン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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