たい焼き、焼けた

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化したたい焼き屋があった。
 このたい焼き屋で売られていたのは、天然もののたい焼き。
 一匹ずつ丁寧に焼いていくスタイルが評価され、沢山の人に愛されてきたようだ。
 しかし、店主が体調を崩してしまったせいで、廃業してしまったようである。
 それでも、たい焼き器は諦めていなかった。
 もっと、焼きたい。
 たくさん焼いて、みんなを笑顔にしたい。
 そんな気持ちが小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せた。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、たい焼き器の中にカサカサと入り込み、機械的なヒールを掛けた。
「タイヤキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したたい焼き器が、耳障りな機械音を響かながら、廃墟と化したたい焼き屋の壁を突き破って、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)さんが危惧していた通り、都内某所にあるたい焼き屋で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるたい焼き屋。
 この場所に捨てられていたたい焼き器が、ダモクレスと化してしまうようである。
「ダモクレスと化すのは、たい焼き器です。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていった。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化したたい焼き器は、ロボットのような姿をしており、常にたい焼きを作り続けているようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
立花・恵(翠の流星・e01060)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
香月・渚(群青聖女・e35380)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「今回のダモクレスは、たい焼きを焼き続けるたい焼き器ですか。そのたい焼き、もしかして食べれたり……しますかね?」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認されたたい焼き屋にやってきた。
 たい焼き屋は既に廃墟と化していたが、昭和の雰囲気漂う昔ながらの店構えであった。
 いまのところ、辺りに人の気配はないものの、念のためキープアウトテープを貼っておいた。
「きっと、食べれると思うよ。だって、そのために焼いているんだろうから……。しかも天然もののたい焼きでしょ? それって確か一つずつ丁寧に焼いていくたい焼きだよね? ……美味しそうだなぁ」
 香月・渚(群青聖女・e35380)が、出来立てのたい焼きを思い浮かべた。
 既に、頭の中はたい焼きパラダイス。
 沢山のたい焼きが『食べて、食べて』と大合唱する中、腹の虫がグウグウと鳴っていた。
 その誘惑を振り払うようにして、渚もキープアウトテープを貼った。
「天然もののたい焼きとは感心したわね。効率の良さよりも、味の良さを追求した、素晴らしい利器だと思うわ」
 雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が、事前に配られた資料に目を通した。
 その分、数を作る事が出来なかったため、人気になればなるほど、客を待たせる結果を招いたようだ。
 そのため、途中から養殖のたい焼き器を使う案も出ていたものの、店主が決して首を縦に振らなかったようである。
「それに、最近では餡子だけじゃなくて、カスタードやクロワッサン風のものもあって美味しいですよね。そんなたい焼き器がダモクレスになったなんて、悲しいです」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、複雑な気持ちになった。
 廃墟と化したたい焼き屋でも、色々な味を楽しむ事が出来たらしく、特にカスタードが絶品だったようである。
 その影響もあって、子供達からも愛されており、常連客になると予約をしておくのが常識になっていたらしい。
「たい焼きも今や効率性を重視して、養殖ものたい焼きが増えてきている中、天然ものたい焼きは本当に貴重ね。こういうたい焼き器が捨てられているなんて、嘆かわしいわ」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、深い溜息を洩らした。
 それだけ養殖モノの方がたい焼きを大量生産できるというメリットもあるのだが、この店の味を知ってしまうと、他のたい焼きが食べれなくなってしまう程、美味しさに差があったようである。
「店主さんがお身体を悪くしたせいで、ちゃんと片付ける人がいなかったのかも知れませんね。今まで大事に使われたたい焼き器が捨てられた事で、ダモクレスを呼び寄せる結果を招いたのかも知れませんが……」
 如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)が、悲しげな表情を浮かべた。
 いまとなっては、何があったのか分からない。
 ただひとつ言える事は、捨てられたという事実だけであった。
「それにしても、イイ匂いがしますね。まるでたい焼きのような香りが、私を誘惑するのです……」
 そんな中、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)が引き寄せられるようにして、フラフラと廃墟と化したたい焼き屋に入っていこうとした。
「タイヤキィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したたい焼き器が、壁を突き破って姿を現した。
 ダモクレスはロボットのような姿をしており、そのまま勢いをつけて、マロンを弾き飛ばそうとした。
「たい焼きを焼きたい、もっと食べてもらいたいって気持ちはよくわかるけど、その気持ちを利用されて、人を襲うんだったら……倒すしかない」
 即座に、立花・恵(翠の流星・e01060)がマロンに飛びつき、ダモクレスの攻撃を避けると、躊躇う事なくキッパリと言い放った。
「タイヤキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その事に苛立ちを覚えたダモクレスが、ガシャコンとポーズを決め、たい焼き型のビームを放ってきた。
 そのビームは、たい焼きのニオイに包まれており、少し嗅いだだけでも、胃袋がグウッと鳴ってしまう程だった。
「雷の属性よ、盾となり仲間を護りなさい!」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、雷属性の盾でダモクレスの放ったビームを防いだ。
 それと同時に、香ばしいたい焼きのニオイが、ケルベロス達の身体を包み込んだ。
 それは甘い誘惑。
 今が戦闘中でなければ、思わずたい焼きを注文したくなってしまう程、心を揺さぶるニオイであった。
「お前が食べて欲しかったたい焼き、美味しくいただいたぜ!」
 その隙をつくようにして、恵がスターゲイザーを繰り出し、ダモクレスを蹴り飛ばした。
 その拍子にダモクレスの中からたい焼きが飛び出し、それが恵の手元に落下した。
 それが何を意味しているのか分からないが、そういうシステムなのであると、何となく理解する事にした。
「わお、意外にも可愛らしい天然のたい焼きを作るんですね。まあ、焼き作り続けたいのなら、今のうちにガンガン作り続けるといいでしょう。……冥土の土産にね!」
 一方、ミリムも薔薇の剣戟で幻の薔薇が舞う華麗な剣戟を繰り出し、ダモクレスを幻惑すると、同じように焼き立てのたい焼きをゲットした。
 天然のたい焼きはとても可愛らしく、『食べて、食べて』と訴えているような錯覚を覚えるほど、美味しそうなニオイが漂っていた。
 故に、食べた。
 まったく警戒する事なく、本能の赴くままに……!
 それはアツアツだったが、我を忘れてしまうほど美味しく、反射的に涙があふれてしまうほど美味しかった。
 それ故に、思った。
 一匹では足らない、と……!
「タイィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その気持ちに応えるようにして、ダモクレスがたい焼きを焼き続けていた。
「流石、ダモクレスと言ったところでしょうか。本来であれば、倍以上の時間が掛かるたい焼きを、こんな短時間で焼き上げるなんて……」
 その事に危機感を覚えつつ、沙耶が轟竜砲を撃ち込んで牽制した。
「ヤキィィィィィィィィィィィィィ!」
 その途端、ダモクレスの身体から、大量のたい焼きが宙を舞った。
「さぁ、行くよドラちゃん。頼りにしているからね!」
 その事に気づいた渚がボクスドラゴンのドラちゃんと連携を取りつつ、たい焼きをゲット!
 思わず手に取ってしまったものの、このまま地面に落としてしまうのは、勿体ないように思えた。
 そのため、たい焼きが自然と口元まで運ばれ、幸せな気持ちが渚を包んだ。
「まずはビームの発射口を破壊しますね。そう何度も撃たれると、胃袋の方が持ちませんから……!」
 その間に、紅葉が一気に間合いを詰め、ダモクレスに達人の一撃を繰り出した。
「タ、タ、タ、タ、タァァァァァァァァァァァ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、鋭利に尖ったたい焼き状の刃物を飛ばした。
 それが舞い踊るようにして、ケルベロス達に迫り、容赦なく皮膚を切り裂いた。
「どうやら、たい焼きをゆっくりと食べる時間すら与えてくれないようね。でも、いいわ。だったら、倒すだけだから……」
 即座にリサがゴーストヒールを発動させ、この地に眠る霊達の力を借りて、仲間の傷を癒した。
 もしかすると、たい焼き器自身に悪意はないのかも知れないが、ダモクレスと化した事によって殺意が増幅され、自分ではどうしようも出来ない状態に陥っているのかも知れない。
「それでも、たい焼きを作り続けているという事は、まだまだ働きたかったという事ですね。私には聞こえてますよ。あなたの声が……!」
 沙耶がダモクレスに語り掛けながら、フォーチュンスターで理力を籠めた星型のオーラを蹴り込んだ。
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その途端、ダモクレスが悲鳴にも似た機械音を響かせ、再びたい焼き状の刃物を飛ばしてきた。
「こんなに美味しいたい焼きを作る事が出来るのに……。なんだか勿体ないですね」
 そんな中、マロンがたい焼きの尻尾の端をカリカリしつつ、紙兵散布で祭壇から霊力を帯びた紙兵を大量散布し、仲間達の身を守った。
 ダモクレスが作るたい焼きは、あんこだけでなく、カスタード、抹茶、白玉あんこ、お好み焼き、クリーム、チーズ等、飽きの来ない味が魅力的であった。
 故に、食べれば食べる程、ダモクレスが作るたい焼きの虜になった。
「だからこそ、ここで倒さなければなりません。こんな事……、たい焼き器が望んでいる訳がありませんから……!」
 紅葉が一気に間合いを詰めながら、月光斬でダモクレスを斬りつけた。
「キィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それでも、ダモクレスはたい焼きを焼く事を止めず、耳障りな機械音を響かせながら、再びたい焼き状の刃物を飛ばしてきた。
「弱点を見抜いたわ、この一撃を食らいなさい!」
 その間に、バニラがダモクレスの懐に潜り込み、破鎧衝を繰り出した。
 次の瞬間、ダモクレスの装甲が弾け飛び、無防備なコア部分があらわになった。
「タ、タ、タイヤキィィィィィィィィィィィィィィ!」
 すぐさま、ダモクレスが自らの身を守るようにして、たい焼き型のミサイルを飛ばしてきた。
 ダモクレスから放たれたミサイルは、次々とアスファルトの地面に落下し、香ばしいニオイと共に大量の破片を飛ばしてきた。
「食べて欲しいのか、それとも食べてほしくないのかハッキリしてください。これでは、ゆっくり食べる事が出来ません」
 マロンがたい焼きを抱えたまま、困った様子で御霊殲滅砲を発動させ、縛霊手の掌から巨大光弾を発射した。
「キィィィィィィィィィィ!」
 それと同時にダモクレスがマヒ状態に陥り、ボーナスタイムの如く大量のたい焼きが飛び散った。
 その事に気づいたケルベロス達が、次々とたい焼きをキャッチし、ホッとした様子て溜息を洩らした。
「このまま闇の中へと飲み込まれるが良いわ」
 次の瞬間、バニラが黒影弾を撃ち込み、ダモクレスの身体を侵食させた。
「タイヤキィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を食らったダモクレスが悲鳴にも似た機械音を響かせ、完全に機能を停止させて動かなくなった。
「ごちそうさま!」
 恵がダモクレスに別れを告げ、リボルバーをクルクルと回して、ホルスターに納めた。
 ダモクレスが焼いたたい焼きは、とても美味しく、また食べたくなった。
 だが、もう二度と食べる事が出来ない。
 その事を考えるだけで、目頭が熱くなってきた。
「美味しいたい焼きとカフェの喫茶店を知ってるんですけど、一緒に行きませんか?」
 そんな空気を察したミリムが、辺りにあるモノを片付けた後、仲間達を食事に誘うのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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