迷宮アトラクションを破壊する鳥

作者:芦原クロ

 数多くの挑戦者を惹きつけている、6階層の迷宮アトラクション。
 細かな観察眼が無ければ分からない、仕掛け扉。
 体力や度胸を要する、大きく揺れる吊り橋や、左右の移動に上下の動き。
 複数のスタンプポイントで、スタンプを押して、その数を競ったり。
 誰かと協力し合ってゴールを目指したり、1人で挑戦したり……と。
 様々な楽しみ方が出来る為、挑戦者は後を絶たない。
 一番簡単な、スタンプ制覇は出来ても、難関の迷宮をクリアした者は、まだ一人も居ない。
 誰もが、次に続くルートを見つけられず、リタイアしていったのだ。
『毎回毎回、ギブアップさせやがって! これ作った奴、挑戦者にクリアさせる気、絶対無いだろ!? こんなアトラクションは有害だ、滅ぼしてしまおう!』
 元は何度挑戦してもクリア出来なかった人間だったのだろう、今は異形と化したビルシャナが、声を張り上げる。
 身の危険を感じた一般客やスタッフ達が、大慌てで逃げてゆく。
『クリアした姿を見せる奴……もしくは我々を連れて、クリア出来る奴は居ないようだな? ……よし、では破壊だッ!!』
 その場に、自分と男女10名の信者しか居なくなったのを確認して、ほんの少しだけ残念そうに、気付かれぬ溜め息を吐いてから。
 ビルシャナは、迷宮アトラクションを滅茶苦茶に壊そうと、進み出した。

「迷宮を抜け出すだけでは無く、色々な楽しみ方で参加するのは、面白そうですね。……ただ、残念なことに、ビルシャナ化してしまった人が、破壊活動や配下を増やそうとしています。犠牲者が出る前に一般人の救出と、ビルシャナの討伐をお願いします」
 頭を下げ、丁寧にお願いする、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。

 知っての通り、ビルシャナの言葉には強い説得力が有るので、放っておくと、一般人は配下になってしまう。
 配下の弱さは絶望的で、倒すと死んでしまうほどだ。戦闘になれば、攻撃しにくい面倒な敵となる。
 ビルシャナを倒せば、配下は元に戻る。
 だが、死なせる危険性が有る以上は、ビルシャナの主張を覆すような、インパクトのある言動で、信者を正気に戻して配下化を阻止して欲しい。
 男女の信者達10名は、ビルシャナの言動の所為で、正気を失っているに過ぎないからだ。

「クリアした姿を見せる、ビルシャナと信者達を連れてクリアする……今回は、これが重要かも知れませんね。勿論、インパクトのある言動で説得しても、大丈夫です」
 ただ、迷宮の難易度はとても高いという事を、伝えて。

「ビルシャナとなってしまった人は救うことは出来ません。被害が大きくならないように、撃破してください。どうか宜しくお願いします、皆さんだけが頼りです」


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
栗山・理弥(ケルベロス浜松大使・e35298)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
佐竹・レイ(きらっきら好事家の介・e85969)
 

■リプレイ


「お困りのようだな! 迷宮攻略、手を貸そうか?」
『なに!? クリア出来る自信が有るのか!?』
 現場に到着するやいなや、栗山・理弥(ケルベロス浜松大使・e35298)が声を掛ければ、ビルシャナと信者達は期待の眼差しを向け。
「ふむ、難解な迷宮アトラクション。謎解きの過程が面白いですよね。まあ、謎が解けないからイライラするのは分かるんですが、迷宮自体を破壊するのは極端ですよね」
『クリア出来るのなら、破壊はしないと誓おう』
 源・那岐(疾風の舞姫・e01215)の言葉を聞けば、ビルシャナは真面目な口調で約束をし。
(「迷宮アトラクションか、私はあまり参加したことがないけど、こういう機会だし、楽しむことにしましょうか」)
 六星・蛍火(武装研究者・e36015)も、迷宮の攻略に挑む気で。
「一緒にクリアする喜びをシェアしよー!」
『おお、我々も連れて行ってくれるのか!?』
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が明るい声音で誘うと、ビルシャナと信者達は嬉々として。
「真実はいつも兄貴の名にかけてひとーつ! ……決まったわね」
 推理小説に登場する架空の名探偵の恰好で、佐竹・レイ(きらっきら好事家の介・e85969)は得意げに言い放つ。
 ちなみに、理弥はレイの恰好に対抗して、有名な架空の探偵姿だ。
「解くために作られてるんだから、肩の力抜いてこーじゃんっ」
 レイと肩を組み、元気良く手を上げる、ことほ。
 メンバーはビルシャナと信者達を連れ、迷宮アトラクション内へと、入って行った。


「この迷宮、難しいわね。此処もさっき通った気もするし」
 複雑な迷路で蛍火は周囲を見回し、同じ場所を通っているのではないかと、悩む。
「俺には分かる、この迷宮は……解かれたがっている! 永遠に解けない謎なんかはないからな、とにかく諦めないことだ!」
 理弥が熱く語り、壁に手をついて仕掛けが無いかどうかを、探る。
「こういう所には床のタイルにスイッチが……無いわね」
 レイは床に注目し、懸命に探してみるも、それらしきものは見当たらない。
 ビルシャナや信者達も、壁や床に触れたり、細かく見ているが、進展は無く。
「こうなったら、壁を破壊するしか……」
「壁っていう概念を亡きものにしてやろうかしら!」
 蛍火とレイがほぼ同時に、似た事を口にし、理弥とことほが止めに入る。
「え、やっぱりダメかしら? 困ったわね」
 悩む蛍火の言動から、本気で壁を破壊する気だった事が、伝わる。
「この壁が怪しいわね。回転する壁とかありそうだから見落とさない様にね」
「あ、これ、どんでん返しになってますね。ちょっと力をいれて回すと……」
 一ヵ所だけ壁が薄い事に気付いた、蛍火と那岐。
 那岐が、力を込めて壁を押すと、先に進む通路が現れた。
『おおー! こんな仕組みになっていたのか!』
 信者と共に、ビルシャナが感心の声を上げる。
「迷宮アトラクションってあんまり本格的なのは来た事ないんだけどー……小規模なコラボのだったら遊んだことあるよ!」
 ことほが楽しそうに言っている間に、レイが一番最初に通路へ進んで。
「迷宮攻略ぅ! 絶対に制覇してやるんだからーっ」
「待ってレイちゃんー、先がどうなってるか確認してから慎重に行こう!」
 慌ててレイを追い駆けたことほは、勢い余ってすっ転んだレイに、つまづいて転倒。
「これは罠ね! ことほちゃん、気を付けて! この迷宮には罠も有るわっ」
 なにも無い所で転んだだけだが、レイは完全に、罠だと思い込んでいる。
「罠なんて危険なもの、一般人が挑戦するアトラクションには無いと思うけど……」
 起き上がったことほは、ツッコミを入れるが、頭に血がのぼっているレイには、届かない。
「大きく揺れる吊り橋、これは度胸が要るわね……でも絶対に落ちない様に出来ているから大丈夫よ」
 蛍火が慎重に進むが、一歩踏み出しただけで、吊り橋はかなり揺れる。
 上手くバランスを取りながら、吊り橋を渡り切った蛍火の後に、他の者達が続く。
 吊り橋の先には、一つの扉が有った。
 押しても引いても、全く開かない。
「うーん、このドア開かねえな……あ、もしかしてドアと見せかけて実は引き戸みたいな心理トリックか!?」
 理弥が閃き、早速実践してみれば、扉は簡単に開いた。
「先入観にとらわれないのも大事だぞ。名探偵も言ってるぜ。見るのと観察するのとでは大違いなんだ、不可能を除外していって最後に残ったものが例えどんなに信じられなくてもそれが真実である……ってな」
 理弥は虫眼鏡を片手に、ビルシャナと信者達へ語って。
 得意げに名言を口にする理弥だが、残念ながら、名探偵ほどの推理力は無い。
 扉の先は、中華風の部屋だ。
 入って来た扉以外に、扉らしきものは見当たらない。
 室内には肖像画が飾られ、テーブルや椅子や棚などが設置されていた。
 全員、室内を探索し、推理しようとした矢先に、レイがドヤ顔で閃きを披露する。
「中国皇帝の肖像画を時代順に並べたり! ……え、これ、ただのインテリア?」
 肖像画を並べても、なにも起きず、目を丸くするレイ。
「俺は脱出ゲーム作ったから分かるんだけどさ、作る人は皆に楽しんでもらいたいんだよ。何せ謎解きは、一回クリアしたら終わりだからな」
 解ける解けないに関わらず、楽しそうに試行錯誤し、ビルシャナと信者達に語り掛ける、理弥。
「簡単に解けちまうようじゃすぐ飽きるだろ? 難しい分、何度でも挑戦してじっくり楽しめるってもんだよ」
『なるほど、作り手側も色々と考えているのだな……』
 理弥の言葉通りなら、このアトラクションも、そうなのだろうと、納得するビルシャナと信者達。
「ほんと邪道なんだけど、SNSでネタバレを探して、どうしても解けない場合はそれを見ようかなーって。楽しさは半減しちゃうけど……」
「クリアする為には、そういう手段も有るわよね。行き詰まったらチョコで糖分補給して、それでも駄目なら、ことほちゃんの情報を頼りにするわ」
 部屋の中を探りつつ、言葉を交わし合う、ことほとレイ。
「ネタバレは極力聞かないぞ! ……でも、どうしても解けなかったら頼るかも」
 そう告げる理弥だが、気持ちとしては、最後まで諦めない気で居る。
「このタイル怪しいな……なんか法則通り動かせば開くとかあんじゃね?」
 発見したタイルを見て、楽しげな表情を浮かべる、理弥。
「あ、この床のタイルをスライドさせると階段が出来ますね。ほらね」
 手早く那岐が動かし、上に続く階段を出現させた。
 上った先は、和風のフロア。
「か、掛け軸の裏が回転扉にー!」
 勢い良く駆け出したレイだったが、回転扉は無く、壁にぶつかる。
「もーっ、思うようにいかないとイライラするーっ」
「レイちゃん、こっちの掛け軸の裏だったよー」
 頭に血が上り、ジタバタと暴れるレイに、違う掛け軸をめくって扉を見せる、ことほ。
 その後、次々と暗号やパズルなどの謎解きや、あらゆる仕掛けを制覇してゆき。
「あ、これは図案どおりに動物の像を台座にならべればいいんです。……この迷宮は謎解きの過程自体を楽しめるように作られていますね」
 仕掛けを解いた那岐が、最後のフロアに通じる階段を出現させ。
 期待感からか、そわそわしているビルシャナや信者達へ、視線を向ける、那岐。
 力を合わせて乗り越える重要さを、知っている那岐は、謎解きの過程でお互いを知り、絆を深める事は大切だと考えて。
 たとえ一緒に居る相手が敵であろうとも、那岐は態度を変えずに接していた。
 最終フロアは、四神の石像が中央に設置され、少しだけ薄暗い。
 棚や暖炉、数個のソファー、引いて下さいと言わんばかりの天井から垂れている紐も多く。
 壁には、長い布がいくつも掛かっていたり、と。怪しい所が多すぎる。
 全員とも、フロアを入念に調べたり、探ったりし始めて。
「これは何かしら? 金庫?」
 やがて蛍火が隠し金庫を発見し、開ければ金貨とメモ用紙が入っていた。
 メモに書かれた文章を読もうと、ビルシャナが覗き込む。
『四季にて変わりし火輪が昇る方位から、外れた哀れなる四象へ金貨を捧げよ。……さっぱり分からん』
 お手上げ状態のビルシャナと信者達、そして推理を始めるメンバー。
 レイが四神の石像をじっと見つめ、閃いたとばかりに、顔を輝かせ、ことほに向き直り。
「ことほちゃん、分かったわ! この石像を壊せばいいのよ!」
「怪力王者は有るけど、いいのかな……?」
 レイの案に、ことほは石像を見て。
 石像は全て口を開いている。金貨を入れる為だろう。
「うーん、もうちょっとで解けそうな気がするんだよ……!」
 石像の周りを歩きながら、破壊はもう少し待ってくれと抑える、理弥。
「あ、火輪は太陽の事ですね。太陽が昇る方位は、季節によって若干変わりますので、四神が司る方位と関係が有ると思います」
「四神が青龍、玄武、白虎、朱雀なのは分かるわね。でも、司る方位って、誰か知ってるかしら?」
 那岐の説明を聞き、蛍火が石像を見てから、メンバーに視線を戻し。
「俺が知ってるのは……青龍が東で、白虎が西だろ?」
「北は玄武だから、残った朱雀が南になるねー」
 両腕を胸の前で組み、考え込む理弥。ことほが、言葉を紡いで。
「太陽が昇るのは東よね。……ん? 季節によって変わるの!?」
 遅れて、驚きの声を上げる、レイ。
 そうなると、どうなるのかと考えるレイは、ますます訳が分からなくなり。
「一体どういうことなのよ~!?」
 全く解けない悔しさから、レイはジタバタと暴れ始めた。
 そんなレイをなだめて落ち着かせる、ことほ。
『消去法でゆくのならば、東の青龍は外れていないな。外れていないのが、あと2体有るのか』
 考え込むビルシャナに、数人の信者が、季節によっては日の出の方位は、北寄りと、南寄りであることを伝え。
「だったら西! 白虎の石像じゃんっ」
 ことほは金貨を手にして、白虎の石像の、口の中へ金貨を入れる。
 次の瞬間、棚が自動的に横へずれてゆき、奥には外へ通じる階段が見えた。
 階段を上ってゴールすると、ことほとレイは、嬉しそうにハイタッチして、喜び合い。
(「クリア出来ないっていう悲しみより、クリアした! っていう達成感で目を覚まして貰えるといいなー」)
 ことほは、信者達を見ながら、思案し。
「こうやって、皆で協力する事の楽しさが分かって頂けたかしら?」
『ああ! 我々を連れて、クリアしてくれてありがとう!』
 ビルシャナが晴れ晴れとした声で答えると、信者達は全員、正気に戻って帰ってゆく。
「過激なこと言ってるけど極悪人ってわけじゃないのよね。ふんっ、助けようなんて思わないけどね!」
『うむ。悔いは無い。さあ送ってくれ、君達にはそれが出来るのだろう』
 レイの言葉に頷いたビルシャナは、抵抗も攻撃もせず、待っている。
 ビルシャナの願い通りに、メンバーは攻撃を畳みかけて、ビルシャナを消滅させた。


「来世で縁があったら、また一緒に迷宮攻略しようぜ!」
 ビルシャナが消えた場所へと、声を掛ける、理弥。
「皆で謎解きで力を併せて、進む。謎解きで違う一面も発見出来たりして、とっても楽しいですよね」
 那岐は穏やかに、微笑んでいる。
「もし、迷宮をクリア出来なかったとしても、最善を尽くした事は無駄にならないわね。どうやったらクリアできるのかを皆で相談して、絆が強く結ばれる事が、大事だと思うわ」
 月影を撫でつつ、言葉を紡ぐ、蛍火。
「レイちゃんは、割とジタバタしてたけど……つまらなかった?」
「え? つまんなかったって? うーん……悔しかったり歯痒かったりするけど面白くはあるのよねー」
 ことほが問うと、レイは満面の笑みを浮かべ。
「みんなでやって失敗したり、上手くいったり、そういうのって謎解きよりエモいわよね♪」
 嬉しそうに笑っている仲良しのレイを見て、ことほも笑顔になるのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月1日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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