捨てられた理由も分からずに

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 電気アイロンが捨てられていたのは、ゴミの山の中だった。
 それは電気アイロンである事が、勿体なく思えてしまう程、スタイリッシュなデザインだった。
 だが、その分、使い勝手が悪く、捨てられた。
 それでも、そこそこ売り上げが良かったらしく、後継機も出ていたらしい。
 しかし、捨てられた電気アイロンにとっては、どうでもいい事だった。
 そもそも、自分が捨てられた理由が分からない。
 こんなに格好いいのに……。
 どの電気アイロンよりも、オシャレなのに……。
 その理由が分からぬまま、無駄に時間ばかりが過ぎていった。
 そんな中、電気アイロンの前に現れたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスはカサカサと音を立てながら近づき、電気アイロンに機械的なヒールを掛けた。
「デ・ン・キ・ア・イ・ロ・ン!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電気アイロンが、耳障りな機械音を響かせ、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)さんが危惧していた通り、都内某所にあるゴミ捨て場で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるゴミ捨て場。
 この場所に捨てられていた電気アイロンが、ダモクレスと化してしまうようである。
「ダモクレスと化すのは、電気アイロンです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていった。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化した電気アイロンは、多脚型戦車のような姿をしており、ケルベロス達を敵として認識しているようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)

■リプレイ

●都内某所
「まさか私の危惧していたダモクレスが本当に出て来るとは、ちょっと驚いちゃったね。まぁ、被害が出る前に対処出来るのは、幸いだったけど……」
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)はセリカから受け取った資料に目を通した後、仲間達と共にダモクレスの存在が確認されたゴミ捨て場にやってきた。
 ゴミ捨て場には沢山の家電ゴミがパズルの如く積み上げられており、いつ崩れ落ちてもおかしくない程の危うい感じであった。
 それでも、バベルの塔の如く延々と積み上げられており、そこを根城にしている沢山のハエが、ケルベロス達を威嚇するようにして、耳障りな羽音を響かせた。
「……ふむむ、今回に関してはスタイリッシュなデザインなら流線形を、そのまま維持できる気もするが……。よほど時代を先取りしすぎた使いづらい形だったのだろうか? それとも、実際に使っている人が便利だと思っている部分を無視してしまったのだろうか……? ともかく、民俗学的には価値がありそうなので、博物館に寄贈してみるのも悪くないと思うのだが……」
 ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)が複雑な気持ちになりつつ、事前に配られた資料に目を通した。
 資料を見る限り、電気アイロンと言うよりも、スーパーカー。
 どうやら近未来をイメージしているらしく、今にも走り出しそうなデザインだった。
 それが原因で、使いづらくなっており、色々な意味でツッコミどころが満載であった。
「……と言うか、オシャレさはあんまり求めてないですよね……。出しっぱなしにしておくのは小さい子が触るかもしれないから危険ですし、使いづらい形だと火傷の原因にもなりかねません。活躍の場は……お客様から見える場所で業務に使うようなクリーニング店でしょうか……? でも、今は受付所だけで、工場でまとめて洗って整えるパターンが多いので、そうなると……こうなってしまったのも、仕方がない事なのかも知れませんね」
 伊礼・慧子(花無き臺・e41144)が気まずい様子で、殺界形成を発動させた。
 途中から死刑宣告をしているような気持ちになってしまったが、実際に電気アイロンを購入した家の子供が、おもちゃと勘違いして大火傷を負った事もあるため、一般向きでない事は間違いない。
 おそらく、デザインを重視した事によって、安全性が失われてしまったのだろう。
 メーカー側も、その事を問題視せず、突き進んでいった結果が、コレなのかも知れない。
「スタイリッシュなデザイン、確かにそれも大事だと思うけど、それに力を注ぐくらいなら、もっと機能性を重視した方が良かったかも知れないね」
 天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が、自分なりの考えを述べた。
 だが、その考えは決して間違っているとも言えなかった。
 同じ時期に発売された機能性重視の電気アイロンが売れているのが、その証拠。
 そもそも、電気アイロンに必要なのは、機能性であって、見た目の良さではない。
「私の家は4人暮らしなので洗濯物が多くて、手早くアイロンかけないとすぐ溜まるので、手分けしてやる事もあるのですが……。実際アイロン使う身にとってはデザインより使いやすさを重視しますからね。使われなくなったのは仕方ないかもしれませんが、不法投棄だと話は別です。ダモクレスになったアイロンに罪はありませんが、人に害を及ぼす可能性があるなら止めないと……」
 その間に、源・那岐(疾風の舞姫・e01215)が、慧子と重ならないように殺界形成を発動させた。
 それだけ電気アイロンを処分するのが面倒だったのかも知れないが、どんな理由があったとしても、捨てる事が正しいとは思えなかった。
「姉様の洗濯やアイロン掛けを手伝っている身としては、見た目より使いやすさ重視ですよね。何しろ4人分の洗濯物ですから。使われなくなったのは使いにくいからなので仕方ないんですが、ポイ捨てはいけませんよね。人の役に立つアイロンが人を害するようになったらいけません。被害が広がる前に対処しましょう」
 如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)が、仲間達に声を掛けた。
 いまのところ、ダモクレスが現れる様子はないものの、ネットリとして空気が纏わりつくようにして辺りに漂っているため、姿を現すのは時間の問題であった。
「そう言った意味でも、電気アイロンの価値は、見た目よりも使い勝手や性能よね。見た目だけに拘って、他の事を考えていなかったせいで、捨てられてしまったのかも……」
 六星・蛍火(武装研究者・e36015)が、何やら察した様子で答えを返した。
 今までの情報から考えて、電気アイロンの購入者は、見た目が格好いいという理由だけで、電気アイロンを購入したのだろう。
 だが、使っていくうちに欠点ばかりが目立ってしまい、きちんとした手順を踏まず、捨てる事を選んでしまった可能性が高かった。
「確かに、アイロンは、オシャレなデザインよりも機能性が大事ですからね。そこを見誤っては、破棄されても仕方のない事です」
 タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が、キッパリと断言をした。
「デンキアイロォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 その言葉を否定するようにして、ダモクレスと化した電気アイロンが、耳障りな機械音を響かせながら、まわりにあったゴミを弾き飛ばして、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは大量の蒸気を発しており、殺気立っている様子であった。
「少し可哀想な気もしますが、ダモクレスと化した以上、選択肢はありません。申し訳ありませんが、ここで倒します」
 すぐさま、慧子がダモクレスに同情しつつ、ステルスツリーでステルスリーフの効果範囲を広げる魔法の樹を足元から呼び出した。
 しかし、心の中では『あの蒸気を利用すれば、おやつのおまんじゅうを蒸かす事が出来るのでは……』と言う考えが浮かんでいた。
 幸い、せいろは手元に……ある!
 故に、これは運命。
 いや、天啓である。
 そのため、隙があれば、おまんじゅうを蒸して、食べてしまおうという野望が心の中でメラついた。
「……沙耶、私が護りを固めますので、攻撃は頼みましたよ」
 一方、那岐は沙耶に声を掛けながら、風の舞姫の御神楽(セイクリッド・シルフィード・ダンス)で聖なる風を纏い、戦の為の戦神楽を舞った。
「はい、那岐姉様。攻撃はお任せを! それに、人に忘れ去られ、更にこんな所に捨てられて無念でしょう。もう休んでいいんですよ」
 それに合わせて、沙耶がダモクレスに語り掛けながら、轟竜砲を撃ち込んだ。
「デンキィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 だが、ダモクレスは眠る気など微塵もないらしく、大量の蒸気を噴出しながら、超強力なビームを放ってきた。
 それが、まるで暴れ竜の如く渦巻きながら、物凄い勢いでケルベロス達に迫ってきた。
「さぁ、行くわよ月影。サポートは任せたからね!」
 即座に、蛍火がボクスドラゴンの月影に声を掛け、ダモクレスを包囲するようにしながら、ビームの射程外に回り込み、気咬弾を撃ち込んだ。
 蛍火によって放たれたオーラの弾丸は、ダモクレスの身体に食らいつき、乱暴に装甲を剥ぎ取った。
 その間に、月影が蛍火を援護するため、ダモクレスの視界に入らないようにして間合いを取った。
「アイロォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、鼻を鳴らすような感じで、大量の蒸気を噴出させた。
「その蒸気よりも、強力な熱をあげるよ!」
 それと同時に、氷花は一気に間合いを詰め、ダモクレスにグラインドファイアを繰り出した。
「デ、デ、デ、デェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その途端、ダモクレスの身体が炎に包まれ、悲鳴にも似た機械音が辺りに響いた。
 だが、ダモクレスの戦意は衰えておらず、逆にメラメラと燃え上がっているようだった。
 それだけ炎で攻撃された事が、屈辱的であったのだろう。
 先程と比べて、殺気が爆発しそうな勢いで膨らんでおり、近づくだけで大火傷しそうなほど空気が熱せられていた。
「それだけ怒っているという事か。それとも、ダモクレスと化した事で、怒っているのか。どちらにしても、ここで止めないと、大変な事になりそうだね」
 その事に危機感を覚えたディミックが、レゾナンスグリードでブラックスライムを捕食モードに変形させ、ダモクレスを飲み込ませようとした。
「アイロォォォォォォォォォォォォォォン!」
 次の瞬間、ダモクレスが再びビームを放ち、ブラックスライムの身体を貫いた。
「もしかすると、ダモクレスになったせいで、怒りの感情が増幅されているのかもね。理由もわからず、捨てられてしまったのだから、仕方のない事なのかも知れないけど……」
 桜子が複雑な気持ちになりつつ、ダモクレスの死角に回り込むようにして、スターゲイザーを炸裂させた。
「デンキィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を食らったダモクレスが、バランスを崩しながらも、カッター状の衝撃波を飛ばしてきた。
 それが鋭い刃物となって、ケルベロス達の身体を斬り裂き、飛び散った血でアスファルトの地面を真っ赤に染まった。
「大丈夫ですか、緊急手術を施術しますね」
 そんな中、タキオンがウィッチオペレーションを発動させ、傷ついた仲間を治療した。
「ア、ア、ア、アイロォォォォォォォォン!」
 しかし、ダモクレスはまったく諦めておらず、再びカッター状の衝撃波を飛ばしてきた。
 それがアスファルトの地面をガリガリと削りながら、ケルベロス達に迫っていった。
「一体、どこを見ているの? 私なら、ここにいるよ?」
 その隙をつくようにして、氷花が死角に回り込み、イガルカストライクを放って、ダモクレスの身体を凍りつかせた。
「ロ、ロ、ロ、ロ、ロォォォォォォォォォォォォン!」
 次の瞬間、ダモクレスが激しく痙攣しながら、大量のミサイルを発射した。
 それが次々とアスファルトの地面に落下し、大爆発を起こしながら、大量の破片を飛び散り、ケルベロス達の身体を傷つけた。
「薬液の雨よ、皆を清め給え」
 すぐさま、タキオンがメディカルレインを発動させ、薬液の雨を降らせて、仲間達の傷を癒した。
「デ、デ、デンドォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その間に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせながら、再びミサイルを発射しようとした。
「いまさら、何をやっても無駄よ。既に弱点を見抜いているから……!」
 それと同時に、蛍火が破鎧衝を仕掛け、ダモクレスの装甲を破壊した。
 その途端、ダモクレスのコア部分があらわになり、怪しく不気味に輝いた。
「アイロォォォォォォォォォォォォォン!」
 その事に気づいたダモクレスが、ミサイルを発射せず、自らの身を守る事を優先した。
「いまさら、身を守ったところで手遅れだよー。トゲトゲのバールで、みんな壊してしまうから!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、桜子が撲殺釘打法を発動させ、エクスカリバールから釘を生やし、ダモクレスの装甲を叩き飛ばした。
「デ、デ、デ!」
 その事に危機感を覚えたダモクレスが、必死にコア部分を守ろうとしたが、和尚さんに黙ってアメを舐める小坊主の如く露出しており、隠す事が出来なくなっていた。
「これで終わりにしましょう。既に結果が見えているのですから……。いくら足掻いたところで苦しむだけです」
 次の瞬間、慧子がシャドウリッパーを仕掛け、ダモクレスのコア部分を掻き斬った。
「ンキィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、悲鳴にも似た機械音を響かせ、爆発したのと同時に、真っ黒な煙を上げて完全に機能を停止させた。
「ダモクレスは壊れてしまったけど、このパーツは使えそうだねぇ。……ん? という事は、自分のパーツを使って、アイロンを作る事が出来るのでは……?」
 そんな中、ディミックがダモクレスだったモノのパーツを拾い、色々な意味で怖い考えに行き着いた。
 もしかすると、ダモクレスと化した影響があるのかも知れないが、何となく自分と互換性がありそうな感じであった。
 おそらく、気のせいだとは思うのだが、それ以上の事を考えると、さらに怖い考えが浮かんでしまうため、あえて考えない事にした。
「それでは帰りましょうか。まだアイロンかけなければいけない洗濯物、沢山残っていますしね」
 その間に那岐が辺りのモノを片付け、疲れた様子で溜息を漏らした。
 家の帰った後の事を考えると気が重いものの、やらなければ洗濯物が溜まる一方である。
「……二人で頑張りましょう、姉様」
 その気持ちを察した沙耶が、那岐の事を励ました。
 千里の道も一歩から。
 地道にコツコツやれば、必ず終わりが来るはず。
 その事を信じて、ゆっくりと歩き出した。
 そんな二人を眺めながら、慧子がドサクサに紛れて蒸かしたおまんじゅうを、幸せそうに頬張るのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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