届かぬ思いを言葉に乗せて

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した工場に捨てられていたのは、ポータブルラジオであった。
 既に電池が切れかけているのか、そこから流れる音声は、途切れ途切れ。
 そのため、何を言っているのか分からないが、それでもかろうじて動いているようだった。
 それでも、何かを訴えるようにして、途切れ途切れ言葉を発していた。
 その呼びかけに応えたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てて、ポータブルラジオに近づき、機械的なヒールを掛けた。
「ポータブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したポータブルラジオが、耳障りな機械音を響かせ、工場の壁を突き破るのであった。

●セリカからの依頼
「六星・蛍火(武装研究者・e36015)さんが危惧していた通り、都内某所にある工場で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある工場。
 この場所に捨てられていたポータブルラジオが、ダモクレスと化してしまうようである。
「ダモクレスと化すのは、ポータブルラジオです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていった。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化したポータブルラジオは、ロボットのような姿をしており、かなり頑丈なようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアの心霊治療士・e49743)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)

■リプレイ

●都内某所
「インターネットに殺された『ラジオ・スター』が化けて出てきやがったか……」
 瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された工場にやってきた。
 工場は既に廃墟と化しており、不気味な雰囲気が漂っていた。
「昔、工場で使っていた人が置き忘れたものでしょうか? それとも、別の理由でここにあったのか分かりませんが、このまま忘れ去られるのと、望まれない復活を遂げるのと、彼(ポータブルラジオ)にとっては、どちらが良かったんでしょうね?」
 カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)が物悲しい気持ちになりつつ、キープアウトテープを貼った。
 おそらく、このまま忘れ去られる事を、ポータブルラジオは望んでいない。
 故に、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せてしまったのだから……。
 だが、ダモクレスと化し、自分の意思に反して、暴れまわる事も、望んではいなかったはずである。
 結果的に、ポータブルラジオが望んだような未来は、存在していなかった事になるのだが、思いを発していた頃は、そこまで考えていなかった可能性が高そうだ。
「可哀そうですけど、古いタイプは破棄される定めなのでしょう。今の時代は、もっと高性能な情報媒体がありますしね」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が人払いをしつつ、自分なりの考えを述べた。
 ある意味、運命ではあるのだが、その現実を受け入れる事が出来る程、満足した使われ方をしていなかったのだろう。
 それが残留思念となって辺りに漂い、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せてしまったのだから、実に皮肉な話である。
「確かに、今はスマホがだいぶ普及していますからね。ラジオは、あまり使われない時代になったのかも知れません」
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアの心霊治療士・e49743)が、深い溜息を洩らした。
 もしかすると、ポータブルラジオの所有者も、スマホの方が便利だと判断し、捨てる事を決断したのかも知れない。
「万能ではないが、シンプルで受信しやすい仕組みというのは、実に原始的で、懐古趣味に適していると思うのだが……。小型化のために技術者たちが挑戦した日々を思うのも、また趣深い。今では誰しもが大勢へ発信できる通信機を持ち歩く時代だが、公共の放送に想いを委ねた時代との比較も良いものだ」
 そんな中、ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)が、自分なりの考えを述べた。
 確かに、便利さだけで考えれば、スマホの方が優れているのかも知れない。
 しかし、ラジオには歴史があり、ロマンもある。
 その事を踏まえて考えると、捨てられてしまったポータブルラジオにも、色々な意味で可能性があるように思えた。
「それに、災害などの情報収集に凄く重宝されるようですしね。捨てられた子に罪はありませんが、人を襲うなら止めないと……」
 源・那岐(疾風の舞姫・e01215)が、自分自身に言い聞かせた。
 誰が悪い訳でもないのだが、ダモクレスと化す事が分かっている以上、放っておく訳には行かなかった。
 そんな事をすれば、罪のない人々が命を落としてしまうため、心を鬼にして戦う必要があった。
「私は、あまりラジオは聞かないけど……人々に危害を加えるダモクレスは放ってはおけないわね。おそらく、ポーダブル自身も、それは望んでいない事だと思うし……」
 六星・蛍火(武装研究者・e36015)が、警戒した様子で廃墟と化した工場に足を踏み入れた。
 空気が重い……ズッシリと……。
 それがネットリと纏わりつき、何かがしがみついているような錯覚を覚えた。
「いつかダモクレスの皆とも分かり合えるようになれればいいけど……。今は、人々の平和の為に戦うしかないよね」
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)が、どこか遠くを見つめた。
 その日が明日なのか、ずっと先なのか、現時点では分からない。
 だが、信じていれば、必ず和解の未来もあるはず。
 今は信じる事しか出来ないが、絶対にありえない未来でもなかった。
(「もしかすると俺は、目の前の殺人機械とさして変わりがないんじゃあないか? すべての戦いが終われば、いつか俺も……」)
 そんな中、燐太郎の心に、わずかな迷いが生じた。
 数年の戦闘経験を経て、敵の命を奪う事にさして、躊躇いを抱かなくなっていた。
 しかし、何の躊躇いもなく、相手を倒す事が本当に正しい事なのか、分からなくなっていた。
 そもそも、人類の敵と言うだけで、間違った事をしているとは限らない。
 大きな目で見れば、間違っているのは、自分達かも知れないのだから……。
 だからと言って、それが絶対的な答えではない。
 何が正しくて、何が間違っているのか、正しい答えが出るのは、ずっと先の話である。
「ポータブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したポータブルラジオが、耳障りな機械音を響かせながら、ケルベロス達の前に現れた。
「それじゃ、区の行政に基づいて、適切に処分してやる。ポータブルラジオで巨大なら……粗大ごみかッ?! まあ、細かい事は、後回しだ!」
 すぐさま、燐太郎がケイオスランサーを仕掛け、鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムで、ダモクレスの身体を貫いた。
「タス……クダ……ワタ……ココ……」
 その途端、ダモクレスの身体が汚染され、悲鳴にも似た機械音が響き渡った。
 だが、このまま倒されるつもりがないのか、全身を激しく震わせながら、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは悲しみと絶望が入り混じっていたが、恐怖と怒りも散りばめられていた。
「さぁ、行くわよ月影。頼りにしているからね!」
 その間に、蛍火がボクスドラゴンの月影に声を掛け、ダモクレスが放ったビームを避けた。
 続いて、月影が属性インストールを使い、自らの属性を蛍火に注入した。
「何か訴えたい事があるのか……? 言葉でなく電波を飛ばしてくれると受信機で拾えるのだが……。それとも、受信機のほうだから、電波は飛ばせないのか?」
 ディミックがダモクレスの言葉に耳を傾けながら、そこに秘められたメッセージを読み取ろうとした。
 しかし、ハッキリとは分からない。
 断片的に言葉が聞こえたものの、それだけでは意味不明。
「……諦めましょう。こうなってしまった後では、手遅れです」
 那岐がディミックに語り掛けながら、フォーチュンスターで理力を籠めた星型のオーラを、ダモクレスに刻みつけた。
「……ケテ……サイ……シハ……デス」
 その事に腹を立てたダモクレスが、再びビームを放ってきた。
「一体、何処を狙っているんですか。僕は、ここです。ここにいます……!」
 カロンがダモクレスの死角に回り込み、ダモクレスに獣撃拳を叩き込んだ。
「ワタ……カラ……ウバ……タ……」
 その一撃を食らったダモクレスがヨロめき、装甲がめくれ上がるようにして宙を舞った。
「……星よ、私に力を貸して下さい!」
 それと同時に、アクアがフォーチュンスターを仕掛け、ダモクレスを蹴り飛ばした。
「シハァァダヲォォワレェェェェェェェェェェェェェ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、刃物のように鋭い言葉と共に、切れ味の鋭いカッターを次々と放ってきた。
「何を言っているのか分かりませんが、僕らの命を狙っている事だけは間違いありませんね」
 すぐさまバジルが物陰に隠れ、ウィッチオペレーションで、強引な緊急手術を行った。
「ドローンの群れよ、仲間を警護しなさい!」
 それに合わせて、蛍火がヒールドローンを発動させ、小型治療無人機(ドローン)の群れを操って、仲間を警護させた。
「コンンンズジャヤヤッタァァァァァァァァァァァァ!」
 その間もダモクレスは意味不明な言葉を吐き出しながら、次々とカッターを放ってきた。
 それは悲鳴にも似ていたが、カッターから放たれる殺意はホンモノだった。
「そんなに殺気を放っていたら、当たるものも当たりませんよ」
 即座に、氷花がイガルカストライクを仕掛け、雪さえも退く凍気を纏った杭(パイル)で打ち返した。
 その途端、カッターが一瞬にして凍りつき、ダモクレスにブチ当たって砕け散った。
「まだまだ、これで終わりではありませんよ!」
 そこに追い打ちを掛けるようにして、カロンが境界面上のブルーティアーズ(キョウカイメンジョウノブルーティアーズ)を発動させ、足元に落ちていたカッターを融合させ、切れ味の鋭いカッター状の剣を生成した。
「……ナハァァナカァァ!」
 その事に危機感を覚えたダモクレスが、再びカッターを飛ばしてきた。
 だが、カロンがカッター剣を使って、一刀両断。
 ふたつに分かれたカッターが、壁に突き刺さって動きを止めた。
「ダレ……スケ……ネガ……カラ……」
 それを目の当たりにしたダレクレスが、大量のミサイルを発射した。
 そのミサイルが次々と落下し、爆発したのと同時に、大量の破片を飛ばし、ケルベロス達の身体を斬り裂いた。
「……薬液の雨よ、皆を癒してあげて下さい!」
 すぐさま、バジルがメディカルレインで薬液の雨を降らせ、仲間の傷を癒していった。
「この技に、見惚れてしまうと良いですよ!」
 続いてアクアがファナティックレインボウを仕掛け、天高く飛び上がると、美しい虹を纏うようにして急降下蹴りを繰り出した。
「……カタァァテオォォイダァァ!」
 その一撃を喰らったダモクレスがバランスを崩し、爆発音と共に真っ白な煙を上げた。
「そこまでです! もう何もさせませんよ!」
 即座に、那岐が禁縄禁縛呪を発動させ、半透明の御業でダモクレスを鷲掴みにした。
 それでも、ダモクレスが激しく抵抗し、狂ったように暴れたが、まったく抜け出す事が出来ず、ミサイルを発射する事も出来なかった。
「さぁ、この炎でオーバーヒートしてしまえー!」
 次の瞬間、氷花がグラインドファイアを仕掛け、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「ポォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 それと同時に、ダモクレスが激しく痙攣し、あちこちから爆発音を上げて真っ黒な煙を上げ、完全に機能を停止させた。
「人の都合で棄てられるのもまた、家電のさだめか……」
 燐太郎が複雑な気持ちになりつつ、ガラクタと化したダモクレスを見つめた。
 さすがに、このまま放っておく訳にも行かなかったため、機械的なヒールを使って、ポータブルラジオを修復した。
「何だか、博物館や資料館を見に行ってみたくなってしまったねぇ。資料で見るだけでは足らなくなってきたので……。少し調べてみようかねぇ」
 そう言ってディミックが、物思いに耽るのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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