フラワーピクニック

作者:芦原クロ

 ネモフィラによる、青一色の広大な花畑。
 チューリップやバラ、ボタンやポピーなどが咲き誇る、百花繚乱の光景。
 池の水面には、赤、白、ピンク色のシャクヤクが数千輪以上、浮かんでいる。
 どれも目にした途端、来園者を一瞬で、虜にしていた。
 ゆったりと園内を散策したり、ピクニック用のスペースで飲食物と花々を楽しんだり、と。
 楽しみ方は人それぞれだ。
 直売所では、マンゴー、メロン、ミカンなどが売られており、カットだけでなく、ジュースにも出来る。
 楽しげな来園者達を、恨めしそうに凝視している集団が居た。
『なにがピクニックだ! なにが! はいアーン、ウフフだ!? どいつもこいつもキャッキャッしやがって! この花どもの所為で、脳内までお花畑状態か!? リア充どもがぁーッ!』
 ぎゃあぎゃあと、やかましく鳴いている鳥。
『諸君! リア充は消したほうが良いと思わないか? 思うだろう!? 俺は思う! 花を踏み荒らし、リア充共を滅するのだ!』
 異形の鳥、ビルシャナは無茶苦茶な教義を説くが、男女10人の信者達は賛同の拍手を送った。

「今の時期に咲く花がたくさん見られる上、花を見ながら飲食も楽しめる、フラワーピクニックと言うそうです。綺麗な花を見て、楽しい春の想い出が作れるんですね。素敵だと思うのですが……それを快く思わない人間がビルシャナ化し、破壊活動や配下を増やそうとしています。犠牲者が出る前に、一般人の救出とビルシャナの討伐をお願いします」
 丁寧に頭を下げて、お願いする、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。

 知っての通り、ビルシャナの言葉には強い説得力が有るので、放っておくと、一般人は配下になってしまう。
 配下の弱さは絶望的で、倒すと死んでしまうほどだ。戦闘になれば、攻撃しにくい面倒な敵となる。
 ビルシャナを倒せば、配下は元に戻るが、死なせる危険性が有る以上、ビルシャナの主張を覆すような、インパクトのある言動で、信者を正気に戻して配下化を阻止して欲しい。
 男女の信者達10名は、ビルシャナの言動の所為で、正気を失っているに過ぎないのだから。

「このビルシャナは、リア充、という方々に憎しみを抱いているようです。ビルシャナの目の前で、ピクニックを始めれば、ビルシャナは襲撃よりも、皆さんのほうを優先します」

 ビルシャナ達が居る場所は、幸いなことに、一般人が居ない、広いスペースだ。
 念の為、人払いをしていれば、一般の来園者を巻き込まずに済む。

「ビルシャナとなってしまった人は救うことは出来ません。被害が大きくならないように、撃破をお願いします。皆さんだけが、頼りです」


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアの心霊治療士・e49743)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)

■リプレイ


「一面のネモフィラか……綺麗だな。確かに、この景色を壊す訳にはいかないね。夫婦でデートをするためにも」
 最後に本音を零してしまう、ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)。
(「季節の恵みを台無しにするような行為は、なんとしても阻止しなくっちゃ」)
 リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)は、こちらを恨めしそうに見ている、ビルシャナと信者達に視線を向け、決意。
 ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)は、念の為、殺界形成を展開してから、見せつけるようにゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)と腕を組み。
「うわ~、綺麗な花畑~♪ ここならピクニックも沢山楽しめそうだ」
 目に映る美しい花々に、ご機嫌状態のニュニル。
(「各自、ピクニックの用意をして来たな……ん? ビルシャナ討伐の依頼だったはずでは?」)
 ゼノアは疑問符を浮かべるが、愛しいニュニルの幸せそうな姿を見れば、疑問は一瞬で消えた。
「この綺麗な花畑、素敵ですね」
「とても、綺麗な花々ですね。心が癒されます」
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)に話し掛ければ、2人から仲良しムードが漂って来て。
『なぜリア充共は! たかが花だけで、キャッキャウフフ出来るんだ!?』
 翼で頭を抱えている、ビルシャナ。
 そんな教祖の様子を目にし、信者達は不安そうだ。
(「リア充を妬むとは、それは逆に自分が虚しくなるだけではないでしょうか? もっと積極的に自分から、リア充になろうという気持ちが大切だと思います」)
 ビルシャナと信者達を見て、思案する、アクア・スフィア(ヴァルキュリアの心霊治療士・e49743)。
「綺麗な花々ですわね、心が洗われる感じがしますわ」
 カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)は花の香りも堪能してから、信者達をちらりと見て。
「あなた方も、この綺麗な花々を愛でて、荒んだ心を綺麗にすると良いと思いますわ」
 自分の心は荒んでいたのか、と。
 カトレアの言葉によって気付かされ、男女2人の信者が正気に戻り、その場から去って行った。


 楽しいピクニックタイム、開始。
 広げたシートの上へ、お弁当などを広げるメンバー。
 ニュニルが持って来たのは、サンドイッチや唐揚げが中心。
「はい、ゼノ。あーん♪」
 甲斐甲斐しく、ゼノアの口へ、せっせと唐揚げを運んで。
 ゼノアは唐揚げのサクサク感と肉の旨みを味わい、どんどん食べてゆく。
「……飯は旨いし、花も見頃だ。この平和な光景を潰そうなど、人のやる事ではないな」
 信者の道徳心へ訴えるように、ゼノアは信者達に向けて言葉を投げ。
 人として終わっていたら、一生リア充になれない、と。
 実はリア充になりたかった信者が1名、信仰を捨てた。
(「人目のある所でべたべたするのは本意ではないが、仕事とあっては止むを得ない」)
 ゼノアは思考しながら、口に運ばれた卵焼きを、無言で咀嚼し。
「……俺の好みを熟知しているな。偉いぞ」
 肉料理が多いニュニルのお弁当に満足し、ゼノアは優しくニュニルの頭を撫でつつ、褒める。
 照れて微笑む、ニュニル。2人から、幸せな雰囲気が溢れ出て。
 ビルシャナや信者達にとっては、それはまるで暴風雨に襲われたかのような、衝撃で。
「私も普段は薔薇に囲まれた屋敷に住んでいますけど、ここの花畑はそれ以上に壮大で素晴らしいですね」
『薔薇に囲まれた屋敷ィ!? リア充過ぎるだろ……』
 ミントの発言が衝撃的過ぎて、衝撃続きで、ビルシャナは尻もちをついた。
 そんなにオシャレな場所に住んでいる人が褒めるほどの、花畑……と。
 数人の信者は、今まで気にもしていなかった花畑へ、視線を向けた。
 カラフルに園内を彩る、色とりどりのチューリップや、ポピー。
 広い畑一面に咲く、空の色との相性が抜群の、可憐なネモフィラ。
 正面側は、バラやボタンが華やかに咲きほこって。
 後方側には、澄んだ池の水面に数千輪以上、浮かぶシャクヤク。
「なんて素敵なお花畑! こんなところでピクニックできるなんて素敵なの」
「色とりどりの花々が咲いていて、まるで自然の芸術ですね」
 感動の声をあげるリュシエンヌと、美しい光景を褒める、ミント。
「アクア、見て下さいませ、綺麗な花々が咲いていますわ、花の絨毯みたいですわね」
 更にカトレアが加われば、信者達は花畑を暫く眺め。
 美しく華やかな光景に感動し、それを伝えてくれたメンバーに感謝して、3人の信者が信仰を捨てた。
「うりるさん、戦闘前にひと口どう?」
 リュシエンヌはウリルの大好物のから揚げを、口元へ運んで。
 ハートマークが沢山付きそうなほどの、「あーん」をしている。
「ルルが作ってくれる唐揚げは最高でね、とても美味いんだ。それに愛情のこもった料理は、やはり格別だと思う」
 から揚げを一つ食べ終えてから、信者達に語り掛ける、ウリル。
「それはリア充だろうが何だろうが関係ないよ。親子だったり、友人同士だったり、誰かのために手作りしたものなら、ね」
 ウリルは愛おしそうに、リュシエンヌを見つめ。
 視線を合わせ、幸せそうな笑顔満開の、リュシエンヌ。
「信者さんたちにも楽しんで欲しいの! みんなで食べたらきっともっと美味しいの。楽しいのも美味しいのも、みんないっしょだとたくさんに増えると思うから」
 リュシエンヌは、メンバーに配っていた、一口サイズのミニ・チーズハンバーガーを、信者達にも配る。
「ね? こっちに来て、いっしょにいかが? 自信作だから、食べて貰えたら嬉しいの」
 唐揚げも信者達に振る舞い、優しく声を掛ける、リュシエンヌ。
「皆さんも、良かったらご一緒に、いかがですか? ……ピクニックですし、お弁当を作ってみました」
 綾奈も、ふんわりとした卵焼きや、食欲を誘うミートボールなどの具が入った、お弁当を披露し、信者達に勧めて。
「今日は私もサンドイッチを作ってみました。皆さん、良かったらお召し上がり下さいね」
 更に重なる、アクアの言葉。
 男女の信者達からは、超リア充に見える美女3人。
 そんな美女が、3人も、自分達を誘ってくれている。リア充のスペースへ、入れてくれる。
 ウリルの言葉から揺れていた心が、大きく揺さぶられ、信仰を捨ててお弁当を頂く、男女の元信者3人。
 ビルシャナは呆然と、その光景を見ている。
 元信者3人は食事を終えると、晴れ晴れとした表情で、その場から去ってゆく。
「やっぱりピクニックって楽しいですね。日頃のストレスから解放された気分がします」
 最後に残った女性信者をちらりと見てから、身体を伸ばす、アクア。
「ミントさん、こちらの卵焼きは自信作です、よかったらどうぞ……」
「ありがとうございますね。早速、頂きます」
 他のメンバーにも、綾奈は手作りのお弁当を振る舞って。
「どうでしょう、作ってきたお弁当、美味しいでしょうか……?」
「綾奈さんが自信作と言うだけあって、とても美味しいです」
 少し緊張しながら綾奈が問うと、ミントが真っ先に答える。
「うんうん、おいし~♪」
「ミートボールも旨い。……ニル、今度作って貰えるか? 出来るだけ多く」
 ニュニルが笑顔で感想を伝え、作って来たお弁当を、シェアし合う、メンバー。
 ミートボールを数個だけ食べたゼノアは、肉をもっと食べたいが、全部1人で食べるわけにはいかない、と。
 こらえて、ニュニルにリクエストする。
「皆と一緒にピクニックも出来て、楽しいです」
「ええ、のんびりと時間を過ごせますし、楽しいピクニックですわ」
 和やかムードに、ミントが感想を述べ、カトレアがゆっくりと頷いて。
「それにしても、本当に綺麗な花々ですね。皆さん、写真を撮っても良いでしょうか?」
 アクアは花畑を撮り終えてから、メンバー達の写真も撮ろうと、尋ね。
「俺は構わないが、ニルはどうする?」
 旅団仲間であるアクアの提案を断る気も無く、ゼノアはあっさり了承してから、ニュニルの意見も尊重するべく、問いを放ち。
「写真、忘れそうだった。ゼノとマルコとボクの写真も撮りたいな♪」
 ニュニルはアクアに頼み、カメラのレンズを向けて貰い。
 マルコを頭に乗せ、無表情のままピースをしているゼノの隣で、ニュニルもポーズを取り。
 撮影が終えると、全員揃っているのも撮りたいと提案する、ニュニル。
「すいませーん、写真撮って貰えるかな?」
 最後の信者に半ば強引に、お願いする、ニュニル。
 女性信者が、渋々といった様子で撮り終えれば、ニュニルはお礼を告げると共に、信者も撮ってあげることを伝え。
 美しい花畑を背景に、写真を撮って貰った信者は、「映える!」と感動し。
「うんうん、良く撮れてるよ♪」
 幸せな雰囲気で信者を包み込む、ニュニル。
 幸福感に満たされ、正気を取り戻した、最後の1人。
 映える写真を撮りまくる、と告げて去って行った。
 残るは、ビルシャナのみ。

「水よ、私の手に集い、その大いなる力を爆発させなさい」
 即座に、多大な水の魔力を手に集中させ、敵を一気に爆発させる、アクア。
(「折角の楽しいピクニックが出来ますのに、その邪魔ばかりしか頭に無いビルシャナには、天罰を加えましょう」)
 連携したカトレアは、ほぼ同時に、攻撃を繰り出し。
 続く綾奈と夢幻が、回復と援護を中心に立ち回る。
 自分の親友、ピンク色のクマぐるみのマルコを、大切そうにリボンで腰回りに着け終えた、ニュニル。
 そのまま敵を攻撃すれば、連携したリュシエンヌがムスターシュと共に続いて。
 回復重視で動こうとするが、メンバーの誰1人、負傷していないことを確認し、BS付与の攻撃を敵に叩き込む。
 敵の背後へ回り込んでいたウリルは、見切られない攻撃手段を選び。
「雪さえも退く凍気で、その身を凍結させてあげますよ」
 パイルを突き刺して高威力のダメージと共に、敵を凍結させる、ミント。
 ゼノアは猫のように、しなやかな格闘スタイルで強烈な一撃を叩き込み、敵を完全に消滅させた。


 周囲の後片づけを終え、人払いを解除。
 ウリルはリュシエンヌと腕を組み、ネモフィラの花畑へ向かう。
「うりるさん、見て……池にルルのお花があんなに! すごく綺麗ね?」
「ん? ああ、本当だ」
 途中、橋の上で立ち止まり、ウリルに話し掛ける、リュシエンヌ。
 リュシエンヌの髪に咲くシャクヤクが、まるで張りあうかのように、満開になる。
 水面に浮かぶ花を綺麗だと感じるも、ウリルの視線は、リュシエンヌの髪に咲く花へと移り。
 感情表現のような花の様子に、ウリルは微笑み、優しい手つきで髪の花へ触れる。
(「“特別”とは、こういう事を言うんだろうね」)
 腕を組んで歩く穏やかな時間も、最愛の人と交わす他愛の無い言葉も、ウリルには全てが愛しく感じられて。
(「大勢で賑やかなピクニックももちろん楽しいけれど、誰よりも大切なひととの時間はなにより特別……」)
 リュシエンヌも同じ想いで、可憐な花々を見ては言葉を交わし合い、道を進んで。
「やっぱり、ここかな。そよぐ風が気持ちいい」
 到着したのは、空を映したような爽やかな青一色の、ネモフィラの花畑。
「ね、うりるさん。お腹いっぱいなったら……ここでお昼寝しましょ?」
「昼寝か、それもいいな」
 愛しいリュシエンヌからの提案に、クスクスと笑う、ウリル。
 暖かな日差しの下で、愛する人と、そしてムスターシュも入れて。
 何にも変え難い、至福で大切な時間を、ウリルとリュシエンヌは花に囲まれながら過ごしていた。

「直売所でジュースを飲もう、早く頼まないとなくなっちゃうかも」
 ニュニルはゼノアと腕を組み、直売所へ。
「私も喉が渇きました」
「直売所で何か買って行きますか?」
 2人の背中を見送り、アクアは自分も、と呟いて。
 カトレアの問いに、頷くアクア。
 直売所に到着し、どれを選ぼうかと少し悩む、カトレアとアクア。
「マンゴージュースを頂きますね」
「私はミカンジュースを頂きたいですわ」
 新鮮なジュースを飲みながら、アクアとカトレアは華やかな花々を眺め、休息する。

 ゼノアは直売所に陳列された果物を見て、オレンジのジュースを購入。
 新鮮な果物に目を輝かせ、マンゴーをフレッシュジュースにして貰う、ニュニル。
「ん~っ、おいし♪」
 出来たてを一口飲んで、ニュニルは嬉々とする。
「……そっちのも試させて貰えるか」
 オレンジの程よい酸味で喉を潤してから、ニュニルのマンゴージュースと交換し合い。
 ジュースを片手に、2人は花々を眺めつつ寄り添って歩き。
「そういや、ニルと出掛けるときは花を見る事が多いな……」
「新鮮なジュースが飲めるし、景色もいいし、なによりゼノと久しぶりのデートだからね~」
 幸せ、と嬉しそうに伝える、ニュニル。
 デートの回数を再確認していたゼノアは、愛らしいニュニルの頭を優しく撫でた。

「綾奈さん、こちらにも綺麗な花が沢山咲いていますよ、見に行きましょうよ」
 ミントに誘われるがまま、綾奈は歩を進めて。
「夢幻も、この花畑を気に入っているみたい、です……」
 花の優しい香りに包まれ、どことなく幻想的で、華やかな景観が広がる。
 嬉しそうな夢幻を優しく抱きかかえて、友人のミントと共に、彩られた花々を眺め、のんびりとした時間を堪能するのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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