もう肩凝りには困らない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した工場に捨てられていたのは、マッサージチェアであった。
 工場が稼働していた頃は、愛用されていたマッサージチェアも、今となっては昔の話。
 不良達が王様気分で座る以外は、まったく使用されていなかった。
 そのため、マッサージチェアのストレスは、ハンパなかった。
 ……えっ? マッサージしないの?
 いやいやいや、マッサージするでしょ?
 こっちは準備しているのに?
 えっ? 電源? 何それ?
 無くでも大丈夫でしょ?
 えっ? ダメ? ダメなの? なんで?
 そんな思いが残留思念となって辺りに漂い、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せた。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、マッサージチェアを見上げ、機械的なヒールを掛けた。
「マッサァァァァァァァァァァァァァジィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したマッサージチェアが、耳障りな機械音を響かせ、工場の壁を突き破っていくのであった。

●セリカからの依頼
「ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)さんが危惧していた通り、都内某所にある工場で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある工場。
 この場所に捨てられていたマッサージチェアが、ダモクレスと化してしまうようである。
「ダモクレスと化すのは、マッサージチェアです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていった。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化したマッサージチェアは、多脚戦車のような姿をしており、かなり頑丈なようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
リーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
青沢・屏(守夜人・e64449)

■リプレイ

●都内某所
「まさか、わたくしの危惧していたダモクレスが本当に現れるとは……。少し驚きましたけど、人々に被害が出る前に対処できるのは不幸中の幸いですね。最悪の事態を引き起こす前に、私達で解決してしまいましょう」
 ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された工場にやってきた。
 既に、工場は廃墟と化しており、辺りには不気味な気配が漂っていた。
 そのおかげで辺りに人影はないものの、気を抜く事が出来ない程、空気がピリピリとしていた。
 その事を警戒したハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)が、念のため殺界形成を発動させ、誰も近づく事が無いように人払いをした。
「この場所に、マッサージチェアがあるのデスネ。肩凝りとは無縁だと思っていたのデスガ、私も年を取ったせいか『これは凝っているのでは?』と思う場面に出くわすようになりマシタ。マッサージチェアを購入するほどでは御座いませんが、施術を受ける程度はしたほうが良いのかもしれマセンネ」
 そんな中、モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)が物思いに耽りながら、工場の二階にある社長室を目指して廊下を進み、階段を上っていった。
 ……社長室は二階の突き当り。
 その途中の壁には『考えるな、働け!』、『お金よりも、お客様の笑顔』、『金のために働くな! 人のために働け!』などの言葉が書かれた張り紙が貼られていた。
 どうやら、この会社は気合と根性で、何度もピンチを乗り越えていたらしく、その事を社長も誇りに思っていたらしい。
 だが、実際には多くの従業員が犠牲になっており、次々と会社を去っていったようである。
 それでも、社長はまったく気にしておらず、俺様街道まっしぐらで事業を進め、最悪の結果を招いてしまったようだ。
 それが実に哀れで滑稽であったが、今となっては後の祭りであった。
「……と言うか、今の時代、どんな機械でもダモクレスになれるのですか? だったら、本当に勘弁してくれ……初めての接近戦だって言うのに……」
 青沢・屏(守夜人・e64449)が、気まずい様子で汗を流した。
 まるで純真無垢な少女の前に現れるマスコットの如く、小型の蜘蛛型ダモクレスが、次々と廃棄家電をダモクレスに変えているため、色々な意味で迷惑この上なかった。
 だからと言って、文句を言っただけで、どうにかなる問題ではない。
 しかし、現状では地道にダモクレスを倒していくしか、方法がなかった。
「それだけ思いが強かったという事か、な……。でも、ダモクレス化した事が原因で、マッサージが強力になってたりしないか、な……。最近、肩こりが酷いから肩こりが解消されると嬉しい、けど……」
 リーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)が、ボソリと呟いた。
 事前に配られた資料を読む限り、ダモクレスと化す事で、マッサージ機能が強化されるため、色々な意味で期待をする事が出来そうである。
 もちろん、ダモクレスと化す以上、油断は出来ない。
 そう言った意味でも、念のため警戒しておく方が良さそうだ。
「でも、ダモクレス化した事が原因で、マッサージが強力になってたりしないか、な……。最近、肩こりが酷いから、これで肩こりが解消されると嬉しい、けど……」
 リーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)が、祈るような表情を浮かべた。
 出来れば、適度なパワーでマッサージをしてほしいところだが、そんな上手く行かない可能性が高かった。
「確かに、肩もみは力の加減が難しいからな。疲れを取ろうと思って座ったら、両肩の骨を折られたという事になっても笑えないが……。どちらにしても、危害を加える可能性がある以上、放置する訳にも行かんな」
 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)が、険しい表情を浮かべた。
 資料だけでは、ダモクレスの危険性がハッキリとはしていないものの、絶対に安全とは言えないところが、怖いところである。
 そもそも、ダモクレスと化した時点で、危険な存在である事は間違いないため、色々な意味で注意が必要だろう。
「マッサージチェアァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したマッサージチェアが耳障りな機械音を響かせ、社長室の壁を突き破って廊下に飛び出してきた。
 ダモクレスは多脚型戦車のような姿をしており、無数のアームが獲物を狙うようにして、ワシャワシャと動いていた。
「なんだかコックピットみたいだね。あの椅子に座ったら、操縦する事が出来そうだし……」
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)が、マジマジとダモクレスを見つめた。
 ダモクレスと化した事で、マッサージチェアがサイバー仕様になっている事もあり、近未来のロボットのような印象を受けた。
「それに、あの椅子に座ったら、とっても気持ちよさそうだなー。……ん? でも、壊れているから捨てられたんだっけ? だったら、むしろ痛いかも」
 その途端、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が、全身に鳥肌を立たせた。
「マッサァァァァァァァァァァァァァァ!」
 そんな空気を察したのか、ダモクレスが床をガリガリと削りながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「君そのものに罪はないのだろうが……やむをえまい。沈黙させる」
 そう言ってハルが覚悟を決めた様子で、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
「マッサージィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それを迎え撃つようにして、ダモクレスがビームを放ってきた。
 だが、そのビームは見るからに、ほんわかヌクヌク系。
 まるでコタツの中に吸い寄せられるようにして、心と身体が引き寄せられた。
「はいはい、燃えないごみを処分の時間です」
 その誘惑を払い除けるようにして、屏がダモクレスに絶空斬を繰り出した。
「チェ、チェアァァァァァァァァァァァァァ!」
 しかし、それはダモクレスにとって、屈辱的な一撃。
 せっかくケルベロス達の疲れを取ろうとしていたのに、先程の一撃で装甲を剥ぎ取られ、テンションだだ下がりであった。
 『そもそも、ゴミって何?』と言わんばかりに、御立腹。
 そのため、癒しよりも、抹殺寄りにダモクレスの心が傾き始めていた。
「……では交戦開始だ。速やかに対象を破壊する」
 そんな空気を察したハルが、先手必勝とばかりに、スターゲイザーを繰り出した。
「マッサージィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を食らったダモクレスは、ヨロめきながらも、戦闘モード。
 『そっちが、その気なら、こっちもヤる!』とばかりに、殺気を解き放った。
「まずは、その素早い動きを、封じてあげるよー!」
 それに合わせて、桜子もスターゲイザーを放ち、ダモクレスを足止めした。
「チェァァァァァァァァァァァァァァア!」
 その間もダモクレスはエネルギーをチャージしており、今にも発射寸前ッ!
 身体の疲れどころか、魂まで引き離す勢いで、攻撃を仕掛けるタイミングを窺っていた。
「御業よ、敵を鷲掴みにしてしまいなさい!」
 その事に危機感を覚えたルピナスが、禁縄禁縛呪でダモクレスを鷲掴みにした。
「マ、マ、マ、マッサージィィィィィィィィィィ!」
 それでも、ダモクレスは、大暴れ!
 自らの使命を果たすべく、全力全開ッ!
 殺意の波動が満ち溢れている事が分かるほど、辺りの空気がピリついていた。
「そういや、挨拶が遅れていたな。俺はオウガ、柴田鬼太郎! もう間も無くダモクレスとの戦も終わろうとしてんだ。定命化するか、帰るか、ここで死ぬか! 選びやがれ!!」
 鬼太郎が鬼金を籠手に変形させ、短刀2本を抜き放ち、メタリックバーストを発動させた。
「チェ、チェ、チェアアアアアアアアアアアアア!」
 だが、ダモクレスの考えは変わっておらず、自らの答えを示すようにして、再びビームを放ってきた。
 そのビームが工場の壁を揉み潰すようにして、巨大な風穴を開けた。
「……それが答えか。もうすぐ終わるってのに、まだ吹っかけてくるような奴は、今ここで、ぶっ潰してやるぜ!」
 その間に、鬼太郎が一気に距離を縮め、二本の短刀でダモクレスをいなし、隙を見て組み付いた。
「マサ、マサ、マッサージィィィィィィィィィ!」
 しかし、ダモクレスはまったく怯んでおらず、適度なパンチを繰り出し、鬼太郎の疲れを癒した。
「あ、いや……」
 しかし、鬼太郎の気持ちは、複雑。
 ダモクレスのおかげで、疲れやコリが取れたものの、これでは拍子抜けであった。
 そのため、『ひょっとしたら、いい奴なのかも……』と言う気持ちが脳裏に浮かんで消えたものの、情けを掛ける事が正しい選択であるとは思えなかった。
「チェァァァァァァァァァァァア!」
 一方、ダモクレスは、やりたい放題。
 手あたり次第にパンチを繰り出し、次々とコリをほぐしていった。
「はぅぅ、そ、そこぉ、良いのぉぉ。効くぅぅっ」
 リーズグリースに至っては、ダモクレスの虜になっており、『女王爆誕!』と言わんばかりの勢いで、マッサージチェアに座っていた。
 そのためか、ダモクレスもノリノリで、ケルベロス達にマッサージをしまくった。
「確かに、これは疲れもコリも取れますネ。ただ、揉み返しがきそうデスガ……」
 モヱがダモクレスにマッサージされ、複雑な気持ちになった。
 ミミックの収納ケースも同じマッサージを受けたのか、まるで背中に羽が生えたかのように動きが軽やかになっていた。
「……って、ダメだよ、このままじゃ!」
 その事に危機感を覚えた桜子が撲殺釘打法を仕掛け、ダモクレスをブン殴って、装甲を剥ぎ取った。
 その拍子にリーズグリースが、マッサージチェアから放り出された。
「これで本気を出せそうだね。棄てられて必要とされなくなったマッサージチェアの無念は大きな物だろうけど、容赦はしないよ!」
 即座に、氷花がリーズグリースを受け止め、フラつきながら、ダモクレスにグラインドファイアを放った。
「マッマッマァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスの身体が炎に包まれたものの、半ばヤケになってミサイルを発射し、天井や壁や床を壊していった。
「どうやら、このミサイルにもコリをほぐす効果があるようデスネ。超音波なのか、磁力なのか、よく分かりまセンガ……。このまま放っておくのは危険デスネ……」
 モヱが色々な意味で危機感を覚えつつ、ライトニングボルトを放った。
「サァァァァァァァジィィィィィィィィ!」
 その途端、ダモクレスの身体が痺れ、真っ黒な煙がブワッと上がった。
「さぁ、貴方のトラウマを想起させてあげますよ?」
 そこに追い打ちを掛けるようにして、ルピナスが惨劇の鏡像を仕掛け、ダモクレスのトラウマを具現化された。
 それはマッサージチェアを使っていた社長で、弱々しく何度も謝りながら別れを告げている姿であった。
 一体、彼に何があったのか分からないが、マッサージチェアが最後に見た姿は、絶望のどん底に落ちた後のようだった。
「チェアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その姿を目の当たりにしたマッサージチェアが、全身を激しく震わせ、泣き声にも似た機械音を響かせた。
「そろそろ終わりにしよう。これ以上、暴れても、幸せにはなれないよ」
 その隙をつくようにして、氷花がジグザグスラッシュを繰り出した。
「これで、さよならだ」
 それに合わせて、ハルがレゾナンスグリードを仕掛け、ブラックスライムを捕食モードに変形させ、ダモクレスを飲み込んだ。
「……最後は呆気なかったですね。まあ、このまま街に出て、暴れまわるよりはマシなのかも知れませんが……」
 屏が複雑な気持ちになりながら、どこか遠くを見つめた。
 どうやら、工場の閉鎖に伴い、色々な事があったようだが、一番強く感じたのは孤独であった。
「それにしても、本当に効くとは思っていなかった、よ。でも、ありがとう、ね」
 そう言ってリーズグリースが先程までダモクレスがいた場所を眺め、感謝の言葉を述べるのだった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。