Water☆Girl

作者:土師三良

●宿縁のビジョン
 とある公園内のグラウンドにて。
「うーん!」
 と、伸びをしたのはオラトリオの大弓・言葉(花冠に棘・e00431)。その可愛いアニメ声とわざとらしい所作からも判るように、天然を装った所謂『養殖』系の女子である。
「デスバレスでの戦いも終わったことだし、今日はのーんびり過ごして疲れを癒しましょうか。ねえ、ぶーちゃん」
「……」
 主人に声をかけられたにもかかわらず、熊蜂型ボクスドラゴンのぶーちゃんは無反応。なにかに気を取られているらしい。
「どうしたの、ぶーちゃん?」
 怯えと呆れの感情を入り交じったぶーちゃんの視線を追う言葉。
 すると、奇妙な女が見えた。
 魅惑的な褐色の肢体を暗色のボディスーツと前部が開いた紗のスカートで包んだ女。おそらく美人なのだろうが、顔の下半分はスカートと同種のベールで隠されている。腹部に割り振るべき露出度を脚部に回したベリーダンサーといった出で立ち。
「……な、なんなの?」
 思わず後退りした言葉であったが、女との距離が開くことはなかった。むしろ、一気に縮まった。女のほうがぐんぐんと接近してきたからだ。
 しかも、接近するだけにとどまらず――、
「死んでもらうよ!」
 ――物騒な叫びを放って、オーバーアクションで手刀を振り上げた。
「……え!?」
 と、言葉がたじろいだのも無理からぬこと(ぶーちゃんに至っては、たじろぐというレベルではなかった)。手刀の先から水飛沫が散ったのだ。手は塗れていないにもかかわらず。無から水を生じさせるグラビティ。
「くっくっくっ……」
 ベールの奥から笑い声を漏らしながら、デウスエクスであろう女はゆっくりと手を下ろした。
 そして、また先程と同じことを言った。今度は叫ばずに。
「死んでもらうよぉ」
「やれやれ。戦争が終わって一安心していたところに――」
 恐怖に震えるぶーちゃんを庇うようにしながら、言葉は女を睨みつけた。
「――刺客が送り込まれてくるとはね。まいったわ、ホント」
「いやいやいやいや」
 と、女はかぶりを振った。
「あたし、誰かの命を受けた刺客とかじゃないから。グラビティ・チェインが不足してるもんで、たまたま目についたあんたを殺そうと思っただけだし」
「え!? ただの辻斬り? なにかドラマチックな因縁とかないのぉ?」
「ないなーい。あたしにとっちゃ、あんたらは名もなき獲物。明日になれば、忘れてるだろうねぇ。いや、ちょこっと可愛いから、明後日くらいまでは覚えてるかもしれないけど」
「なーに言ってんだか」
 言葉は気を取り直し、女を再び睨みつけた。可愛く、そして、勇ましく。
「あなたには明日も明後日もないわよ。今日! ここで! 私に! 倒されるんだからね! でも、それはそれとして――」
 首を傾けて、にっこりと微笑む。養殖女子の計算され尽くした表情と仕種。
「――可愛いと評しくれてたことには感謝しておくのー」
「いや、あんたじゃなくて、そっちのボクスドラゴンのことを言ったんだよ」
「あー、はいはい。そーですか」

●音々子かく語りき
「福島県郡山市の公園に螺旋忍軍の残党が出現しやがるんですよー!」
 と、ヘリポートの一角でケルベロスたちに予知を告げたのはヘリオライダーの根占・音々子。
「その螺旋忍軍が町に出て、一般人を大虐殺! ……なんて最悪な展開にはなりません。なぜなら、幸いにもケルベロスの言葉ちゃんが居合わせたからでーす。いえ、言葉ちゃんにとっては、とても幸いとは言えないかもしれませんけどね」
 敵は孤軍。同胞もいなければ、後ろ盾もない。とはいえ、言葉だけでは手に余る相手だろう。
「予知によりますと、件の螺旋忍軍は水の忍術使いのようです。刃物のごとき切れ味を有した水流をしゅぱぱーっと飛ばしたり、氷の得物を使ったりして戦うんですよー。なので、びしょ濡れ必至。ちょっと早めの水着回って感じになりそうですね」
 なんだよ、水着回って? ……と、鼻白むケルベロスたちであったが、音々子は意気軒昂。発進準備が整ったヘリオンのほうを向き、自信に満ちた足取りで歩き始めた。
 そして、ケルベロスたちに叫んだ。
「水よりも濃いケルベロスの絆を螺旋忍軍に見せつけてやりましょー!」


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ

●玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
 思えば、言葉&ぶーちゃんとも長いつきあいだ。最初に会ったのは長野県でのビルシャナ絡みの任務だったっけ……などと感慨にふけってる間に楽しい自由落下タイムは終了し、俺は二本の足で大地に立つことを余儀なくされた。
 もちろん、一緒にヘリオンから降下してきた仲間たちもな。
「助けに来ましたよ、言葉さん!」
 叫んだのはカロン。俺と同じく獣人型のウェアライダーだ。『同じく』と言っても、こっちは黒豹で、あっちはかわゆい兎さんだが。
「僕だけではなく、皆も一緒ですよー!」
「ありがとー!」
 アニメ声で陽気に答える言葉の向こうでは、オヤジ受けしそうな衣装の褐色娘がふてぶてしいツラして立ってやがる。あれが水使いの螺旋忍軍か。
「そろそろ暑くなってきたからな」
 白ずくめのお嬢ちゃん――ペルがゆっくりと空を仰ぎ、そしてまたゆっくりと視線を下ろして褐色娘を見据えた。
「命がけの水遊び、我も混ぜろ」
「……状況開始」
 と、シャドウエルフのハルが呟き、ペルの横に並んだ。
「言葉を救援しつつ、敵を駆逐する。皆、力を尽くしてくれ」
「言われずとも尽くすさ」
 続けて並んだのは鬼太郎さん。見るからに荒武者って感じのオウガの旦那だ。
 その厳つい容貌を更に厳つくして、鬼太郎さんは褐色娘に睨みを――、
「へい、彼女ぉ! イクサしなーい?」
 ――きかせるかと思いきや、チャラい調子で呼びかけたぞ、おい。なんなの、この展開? 敵も味方も固まっちまったじゃねえか。石化のグラビティをジャマーから食らっても、こうはならないだろう。
「この期に及んでイメチェンかよ」
「この期というのはどの期ですか?」
 千翠とバラフィールがひそひそと囁きあっている。
 だが、誰よりも耐え難い思いをしているのは当の鬼太郎さんだったらしい。自分の顔をぺちんと叩いて――、
「やはり、俺には合わんな」
 ――元のキャラに戻り、改めて敵に語りかけた。
「よう、そこの乱破! 俺はオウガ、柴田鬼太郎! あんたの術がどれほどのものかは知らんが、俺を簡単に打ち倒せるとは思うなよ」
「はぁ? べつに簡単に打ち倒せるとか思ってないし」
 褐色娘は憎々しげに肩をすくめてみせた。
「だからといって、簡単に倒せないと思ってるわけでもなくてー。そもそも、あんたらのことなんて、なぁーんとも思っちゃいないわけよ。この娘にも言ったけど、明日には忘れてるわ。いや、マジで」
 一癖も二癖もあるこの濃ゆい面子(俺は含まないぜ。当然だろ?)を忘れられるだと?
 記憶障害を疑ったほうがいいぞ。イヤ、まじデ。

●カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
 ヘンな空気になっちゃいましたけど、それを吹き飛ばすかのように言葉さんが戦闘開始を告げました。
「さー! 張り切っていくわよ!」
「うむ」
 ハルさんが敵に襲いかかりました。どこからともなく取り出した刀を持って。
「通り魔ならば、容赦はすまい。ただ断ち切るのみ」
 朱色の刃が美しい弧線を描き、敵の脇腹を斬り裂きました。言葉さんとのテンションの差が激しいハルさんではありますが、手を抜いてはいないようです。
「じゃあ、通り魔じゃなかったら――」
 しかし、敵は動じることなく、反撃してきました。
「――容赦してくれるわけ?」
 手刀を一振りすると、なにもないはずの空間から大量の水が湧いて出てきました。こういう便利なグラビティは戦闘よりも砂漠の緑化とかに使ってほしい……まあ、それはさておき、無から生じた水流は彼女の体を中心にして渦を巻き、鋭い刃となって、前衛陣を傷つけました。
「うぉーっ!? スイリューシドーハじゃん!」
 チーム最年長のヴァオさんが興奮しています。よく判りませんが、昔の漫画かアニメに出てきた必殺技を思い出したんでしょうね。
 その言動を訂正するつもりなのかどうかは判りませんが、敵は(手刀を振り上げたポーズを決めたまま)技の名前を誇らしげに叫びました。
「これぞ、水流ウォーター刃の術ぅ!」
「頭の悪そうな名前だな……」
 ぼそりと呟いて稲妻突きを放ったのは陣内さん。
 その攻撃は命中しましたが、敵は自分のペースを崩しませんでした。
「頭が悪そう? じゃあ、水流ブレード刃の術に改名しよっかなー」
「……」
 陣内さんは無言。戦いは始まったばかりですが、ツッコむ気力をもう失ってしまったようです。
「そもそも、技の名前なんて誰も聞いてないわよ。聞いたところで――」
 陣内さんに代わって、言葉さんがツッコみを……いえ、時空凍結弾を発射しました。柊の葉と赤い実で飾られたクリスマスっぽい妖精弓から。
「――明日には忘れてるのー」

●柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
「しかし、よりにもよって、言葉を獲物に選ぶとはな」
 千翠がバスターライフルを突き出した。こいつは体躯のほうもライフルみたいに細いんだが(同種族の俺とは対照的だ)、頼りなくは見えない(同種族の俺もかくありたい)。
「お目が高いと言うべきか、運がないと言うべきか……まあ、どっちでもいいか」
「どっちでもいいな」
 俺は頷いて同意を示し、片腕を振った。
 籠手の形を取ったオウガメタル『鬼金』が金色の粒子を散布。
 それを全身で受けた千翠がフロストレーザーを発射。
 お目が高くて運がない乱破に命中!
「なんにせよ、挑む相手を間違えましたね。『可愛らしいから』という理由には頷けますが――」
 バラフィールがオラトリオの翼を広げた。
 その風圧で乱れた長い白髪から無数の光が飛んだ。いや、髪からではなく、翼から発生した光なんだろう。それらは羽根の形をしていたからな。
「――見た目で判断したことを後悔することになりますよ」
 羽根の光は千翠たちに触れ、スイリューシドーハ(本当の名前のほうは忘れた)による傷が塞がっていく。
「はぁ?」
 乱破が片方の眉をつり上げた。それはもう大袈裟に。
「『可愛いらしいから襲った』なんて一度も言ってないけどぉ? そこのボクスドラゴンのことをちょこっと可愛いとは言ったけどね」
「訂正を求ぉーむ!」
 と、言葉が(わざわざ挙手して)声を張り上げた。
「ぶーちゃんは、ちょこっとじゃなくてチョーかわいいのよ!」
「はいはい。チョーかわいい、チョーかわいい」
 乱破は面倒くさげに何度も頷いた。無視すればいいものを……意外と憎めない奴かもな。

●ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
「可愛いのはぶーちゃんだけじゃないでしょう。ほら、虎さんも可愛いですよー」
 魔力で構成されたと思わしき弾丸を連射しながら、カロンが忍者に言った。
『虎さん』というのは鬼太郎のウイングキャットだ。俺たちの頭上を飛び、清浄の翼で傷を癒してくれている。
 その虎とともに舞っている別のウイングキャットを指し示して、バラフィールが遠慮がちに忍者に訊いた。
「私のカッツェはどうですか?」
「はいはいはいはい! みーんな、可愛いよ!」
 やけくそ気味に答える忍者。もちろん、その間にカロンの弾雨を浴びている。
「あの猫も可愛いか?」
 ペルが三体目のウイングキャットに向かって顎をしゃくった(そのウイングキャットの主人である陣内のほうはそしらぬ顔をしているが)。
 そして、返事を聞く前に地を蹴り、忍者にスターゲイザーを食らわせた。
「あー! うっせぇわ!」
 蹴りを受けて体勢を大きく崩しながら、忍者は怒声を吐き出した。
「ペットの話はもうたくさん! 『いいね!』するにも限界があるんだよぉーっ!」
「がおー……」
『今度は僕が褒められる番だ!』とばかりに尻尾を振って待機していたオルトロスのイヌマルが悲しげに鳴き、しょんぼりと頭を垂れた。それでも上目遣いでパイロキネシスを発動しているのはたいしたものだが。
「ペットじゃなくて、サーヴァントだぞ」
 鬼太郎が砲弾さながらに飛び出し、忍者に組み付いた。
 続いて、ペットではない虎(ちなみに鬼太郎と同じように侍のような格好をしている)が爪を伸ばして追撃。
 忍者は組み付かれて転倒した上に顔に引っかき傷をつけられたが、すぐに鬼太郎の腕から抜け出して立ち上がった。さすがは忍者。すぐれた体術だ。
 もっとも、立ち上がったと同時に――、
「やっぱり、ライフルよりこっちのほうが性に合ってるな」
 ――千翠に戦術超鋼拳を叩き込まれたが。

●長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
「ぶーちゃん! 皆が来てくれたんだから、カッコいいところを見せてよねー!」
 クリスマス仕様の妖精弓で忍者を攻撃しながら、言葉がぶーちゃんを激励した。
 それを受け、ボクスタックルで特攻するぶーちゃん。ちなみに攻撃役だけでなく、先程から盾役としても踏ん張っている。味方が多いのでテンションが上がっているのか、いつになく頼もしく見えるな。
「ぶーちゃんは気弱なところもあるけれど――」
 タックルをぶつけてUターンしてきた小さな勇者にシルディがヒールを施した(『ところもある』というより『ところばっかり』って気もするが、茶々は入れないでおこう)。
「――実は勇気があって、大弓さんを守る時はそうなんですよね。でも、無理はしないでくださいよ」
 ぶーちゃんは『無理なんかしてないっす!』とばかりに鼻息を荒くして胸を張った。
 そこに、ちさがヒール。更に、陣内のウイングキャットが体をすりすり(しっかり、敵めがけてリングも飛ばしてるが)、カッツェが尻尾で軽くぺしぺし(しっかり、敵を爪で引っ掻いてるが)。愛されてるな、ぶーちゃん。
「ちょっと待ってよぉ! あんたら、その子を持ち上げすぎじゃない?」
 不満げな顔をして、忍者が水流の刃で斬りつけてきた。
「……あ? もしかして、あたしのせい? あたしが最初に『ちょこっと可愛い』って言っちゃったから? 実はインフルエンサーの素養あり?」
「ない」
 ハルが朱色の剣を振るい、忍者をすげなく切り捨てた。二重の意味で。
 ちなみに水流の刃の標的の中には俺とハルもいたんだが、どちらも無傷だ。言葉と鬼太郎が盾になってくれたからな(今回はぶーちゃんは盾役になりそびれた)。
 その鬼太郎が刀を抜いた。
「水を剣のごとく操るとは面白い術だが――」
 ブン! ……と、風圧が生じるほどの勢いで刀を振り抜いたが、刃は誰にも触れてない。しかし、素振りってわけでもなかったようだ。風圧を受けた言葉の体から傷の一部が消えている。癒しの拳ならぬ癒しの剣ってところか。
「――剣もまた水のごとく変幻自在にあるもの」
「Be Water! アチョーッ!」
 チーム最年長のヴァオが興奮してやがる。よく判らないが、昔の偉人だかヒーローだかのことを思い起こしているんだろう。

●バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
 ここに降下してから十分も経過していませんが、その間に撒かれた水は何十リットルにも及ぶでしょう(さすがに何百というレベルではない……と、思いたいです)。
 当然、敵も味方もずぶ濡れになっています。
「にゃん!」
 カッツェが空中で体をぶるぶる振るわせ、水飛沫を飛ばしました。
 可愛い。
「にゃん!」
 カッツェに釣られたのか、陣内さんのウイングキャットもぶるぶる。
 可愛い。
「……」
 主人の陣内さんもぶるぶる。さすがに『にゃん!』は抜きですが。
「……可愛い」
 あ? 思わず声に出してしまいました。
「今、可愛いっつったのは誰だ?」
「さあ、誰でしょう?」
 睨みつけてくる陣内さんから目を逸らすと、代わりにカロンさんの姿が視界に入ってきました。残念ながら、ぶるぶるはされませんでしたが(私が見てない間に済ませたのでしょう)、それでも充分に可愛らしいです。水兵さん風の水着を着ておられるので。
「どうです、この水着?」
 敵にファミリアシュートを放ちながら、カロンさんは皆に感想を求めました。
「うん。よく似合ってると思うのー。だけど――」
 言葉さんがくるりとターンして衣装を脱ぎ去りました。
 現れ出たるは水着に包まれた肢体。
「――私も似合うでしょ? 屋内プール系レジャーランドに行く予定だったから、下に水着をつけてたのよねー」
 ちなみに『くるりとターン』に合わせて、敵にブレイズクラッシュを浴びせています。可愛く振る舞いながらも、戦いを忘れてはおられません。
「うむ。こんなこともあろうかと――」
 ペルさんも白い外套を脱ぎ捨て、ワンピースの水着姿を披露されました。言うまでもなく、水着も白です。
「――我も水着を用意してきたぞ」
 そして、敵にパイルバンカー(やっぱり、白です)を打ち込みました。戦いを忘れてないという点も言葉さんと同じ。
 もちろん、私も忘れていません。オウガメタル『Schutz』からオウガ粒子を散布して、前衛の皆さんの命中率を上昇させ、傷を癒し、状態異常を取り除きましょう(メディックのポジション効果でキュアを得ているので)。
 でも、水着姿になるのは遠慮しておきます。

●大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
 とゆーわけで、私とカロンくんとペルちゃんは水着回を満喫中! 戦闘にも力が入るってもんよ!
 だからといって、ノン水着な人たちが置いてきぼりってわけじゃないからね。自然というか超然というかマイペースな感じでお水忍者を追い込んでいってるわ。
 たとえば、バラフィールちゃん。
「ありがとうございます。熱中症の良い予防になりますね」
 お気に入りであろう施術黒衣がびしょ濡れにされたにもかかわらず、お水忍者にお礼を言ってる。皮肉なのか素なのか判らない。でも、クール!
「まあ、濡れたところで死なないしな……」
 長久くんもびしょ濡れ状態を気にしてない。お水忍者に一撃を食らわせた後、張り付いた髪を無造作にかきあげてる。絵になる上にクール!
「あー! もうビッチョビッチョじゃん! ビッチョビッチョじゃーん!」
 ……ヴァオくんはバンダナを外して、雑巾みたいに絞ってる。絵にならない上にクールじゃない。
「水着回にはまだちょっと早いと思うがなぁ」
 ぶつぶつとこぼしながら、ややクール寄りな玉榮くんがゲシュタルトグレイブで雷刃突を繰り出した。
「しょうがないでしょーが!」
 攻撃を受けてよろめきながらも(衣装はもうボロボロ)、お水忍者は気丈というかキレ気味に叫んだ。
「夏まで待ってたら、グラビティ・チェイン不足で飢えコギト化しちゃうっての!」
『飢えコギト化』っていうのは餓死のことかしらん?
「おまえ、螺旋忍軍のくせに情報に疎いな」
 玉榮くんがせせら笑った。ワルい顔つきがとっても様になってる。
 お風呂上がりの猫状態だということを無視すればね。
「生きるためにグラビティ・チェインを搾取する――そんなのはこれからは時代遅れのスタイルになるんだ。お仲間にもよく言っておくんだな。おっと! それは無理か」
「そう! 無理だ!」
 びしょ濡れ黒豹な玉榮くんの横を白い疾風が駆け抜けた。
 そう、ペルちゃんよ。握りしめた白い拳(その肌の白さを分けてほしい)では白い電光がびりびりとスパークしてる。
「そら、水に弾ける雷撃だ。食らえーい!」
 びりびりパーンチ!

●ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
「んきゃっ!?」
 我のグラビティ(びりびりパンチなどという名前ではない。念のため)を腹部に受け、敵は体をくの字に折り曲げた。
「君は生き抜くことに特化しているようだ。しかし、ただ生きるだけなら――」
 ハルが背後に素早く回り込み、絶空斬を見舞った。
「――人を襲う以外に道もあっただろうにな」
 背中に斬撃を受けたことによって、敵はバネ仕掛けの人形さながらに身を仰け反らせた。
 それと同時に我は飛び退っている。もはや、手出しは無用。
「とどめだ、言葉」
「任せてちょーだい!」
 千翠の合図に応じて、言葉が妖精弓に矢を番えた。
「人を襲う以外の道なんて、ありえないし!」
 と、敵が叫んだ。逃げる素振りも見せず(いや、逃げる力など残ってないのだろう)、真正面から言葉を睨みつて。
「他の奴らが定命化を選ぼうと、種族全体や宇宙そのものがどうなろうと、あたしは不死を捨てるつもりはない!」
「その結果、命を捨てることになってしまったわけですね」
 祈りでも捧げるかのようにカロンが頭を垂れた。
 そして、言葉の季節外れの弓から矢が放たれた。

「濡れた後のケアはわたくしにお任せを!」
 ちさが乾かし役を買って出たが、我はそれを断った。こんなこともあろうかと、水が届かぬであろう場所に人数分のタオルを事前に隠しておいたのだ。
「みんな、本当にありがとねー」
 我が渡したタオルでぶーちゃんをわしゃわしゃ拭きながら、言葉が笑顔を見せた。あいかわらずのアニメ声だが、その笑顔にはいつものあざとさがない。
「お礼にアイスでも奢るわよー。もちろん、サーヴァントの皆にもね!」
「うむ。ありがたく頂こう」
 鬼太郎も笑顔を見せた。言葉と同じように虎をわしゃわしゃ拭きながら。
「アイスか……俺、ビールのほうがいいな」
 ぼやいたのは陣内。こちらもウイングキャットをわしゃわしゃ中だが、まず自分をわしゃわしゃすべきだろう。被毛がびっしょりと濡れ、体が溶けているように見える(カロンも同じ状態だ)。
 しかし、そのみじめな姿はどこか――、
「……可愛い」
「今、可愛いっつったのは誰だ?」
 バラフィールだ。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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