オーブントースターは温まらない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 ゴミの山に捨てられていたのは、オーブントースターであった。
 これさえあれば、パンやクッキーが手軽に焼け、そのうえ値段は手頃であった。
 そのため、人気の商品であったが、ひとつ……問題があった。
 使い始めて、1年ほど過ぎた頃から、タイマーが壊れて、時間がズレ、ヒーター部分が壊れて、温まらなくなったりする事だった。
 しかも、保証期間は、1年以内。
 それが原因で、よく捨てられていたらしい。
 それでも、オーブントースターは、色々なモノを暖めたかった。
 二度と捨てられる事が無いように……。
 結果を残すため、チャンスを求めていた。
 その思いに引き寄せられるようにして現れたのは、小型のダモクレスであった。
 小型のダモクレスはカサカサと音を立てながら、オーブントースターに近づき、機械的なヒールをかけた。
「オーブントースタァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したオーブントースターが、耳障りな機械音を響かせながら、ゴミの山から飛び出すのであった。

●セリカからの依頼
「綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)さんが危惧していた通り、都内某所にあるゴミ捨て場で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるゴミ捨て場。
 この場所に捨てられていたオーブントースターが、ダモクレスと化すようである。
「ダモクレスと化すのは、オーブントースターです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていった。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化したオーブントースターは、まわりに捨てられていた廃棄家電を取り込み、ロボットのような姿になっているようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)
霧矢・朱音(医療機兵・e86105)

■リプレイ

●都内某所
「まさか、こんな場所に私が危惧していたダモクレスが現れるなんて……。少し驚きましたが、まだ被害が出ていない事が幸いでしたね。人々に被害が出る前に、早く倒してしまいましょう」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)はセリカから渡された資料に目を通した後、そこに添付されていた地図を見ながら、ダモクレスの出現が予知されたゴミ捨て場にやってきた。
 そこには大量の廃棄家電が積み上げられており、何かが腐ったようなニオイがネットリと纏わりついてきた。
 そのためか、まるで結界が張られているような状態になっており、残留思念が溜まりやすい状態になっていた。
 いまのところ、小型の蜘蛛型ダモクレスの姿は見当たらないものの、既にこの場所に来ている可能性が非常に高かった。
「オーブントースターとは言え、一年ほどで故障するのは早すぎるんじゃないかな? 何か欠陥品だったのかしら?」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)が、不思議そうに首を傾げた。
 それだけ製品チェックが甘かったのかも知れないが、ここまで不都合が多いと、根本的なところに欠陥があったと疑ってしまうレベルであった。
 残念ながら、事前に配られた資料には、その事について詳しく書かれていなかったものの、安さを追求した事で色々なモノが省かれてしまったため、それが故障の原因に繋がった可能性が高かった。
 もしくは保証期間内に壊れなければ良いという考えから、あえて手を抜いていたのかも知れない。
 その理由は何であれ、壊れやすい製品であった事は間違いなく、クレームの数も、返品の数も、ケタ外れであった事は間違いない。
 噂では、このオーブントースターを作っていた会社の社長が売り上げを持って逃げ、現場責任者が首を吊ったという話である。
 その話がどこまで本当なのか分からないが、色々と訳アリの会社ではあるようだ。
「一年ほどで故障してしまうオーブントースターは流石に欠陥品だと思うけど、何よりも保証期間が短すぎるのも問題点だね」
 そんな中、四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)が、自分なりの考えを述べた。
 一応、オーブントースターと一緒に入っているハガキを送れば、保証期間が延長されるようだが、質問項目が多く、その大半が個人情報に関するモノだったようである。
 それが原因で、胡散臭く思われていたらしく、ほとんど送られる事がなかったようだ。
 実際に、ハガキを送った途端、怪しげな勧誘の電話や、パンフレット等が送り付けられていたらしく、色々と関連性が疑われていたらしい。
 それでも、会社側が否定していたため、実際には関係があるかどうか、確かめようがないようである。
「すぐに壊れてしまうオーブントースターか。せめて保証期間が、もうちょっと長ければ救いようがあったのにね」
 霧矢・朱音(医療機兵・e86105)が複雑な気持ちになりながら、ダモクレスの存在が確認されたゴミの山を見上げた。
 一体、どのような経緯を経て、オーブントースターがこの場所に捨てられたのか分からない。
 だが、オーブントースターにとって、望まぬ最後。
 しかも、本来の役目を果たす事なく、朽ちていくだけなのだから、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せても、仕方のないような状況であった。
 おそらく、他の廃棄家電も、同じような気持ちに陥っているのだろう。
 そのためか、大量の廃棄家電が助けを求めて、呻き声を上げているような錯覚を覚えた。
 それは単なる気のせいだったのかも知れないが、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せるほどの残留思念が漂っていたのだから、完全には否定する事が出来なかった。
「オォォォォォォォォブ・ン・トォォォォォォォォォォォス・タァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したオーブントースターが、耳障りな機械音を響かせながら、まわりのゴミを弾き飛ばして、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは、まわりにあった廃棄家電を取り込み、ロボットのような姿になっていた。
「さぁ、行きますよネオン。一緒に頑張りましょう!」
 すぐさま、玲奈がボクスドラゴンのネオンに声をかけ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
 それに合わせて、ネオンがダモクレスの死角に回り込み、いつでも玲奈を援護する事が出来るようにするため準備を整えた。
「オォォォォォォォォォォォォォブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!」
 その事に気づいたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、熱を帯びたビームを発射した。
 そのビームは高熱を帯びており、アスファルトの地面を抉るようにして溶かしながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「雪の属性よ、仲間を護る盾を形成しなさい!」
 即座に、依鈴がエナジープロテクションを発動させ、雪属性の盾を形成すると、ダモクレスの放ったビームを防いだ。
 それでも、ダモクレスのビームが強力であったため、その反動でバランスを崩しそうになった。
「トース・タァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、ダモクレスが再びビームを放ってきた。
 そのビームは先程と比べて威力が増しており、絶対に相手を殺そうとする強い意志が感じられた。
 それ故に、全力ッ!
 『この一撃にすべてを懸けるッ!』と言っても、大袈裟ではないほど強力なビームであった。
「それじゃ、どっちの火力が上か。今から試してみようか」
 そんな空気を察した司が、グラインドファイアを放ち、ダモクレスが放ったビームにブチ当てた。
 その影響でビームがバチバチと音を立て、弾け飛ぶようにして消滅した。
「オ、オ、オ……オ……オ・オ……オォォォ……」
 それを目の当たりにしたタゼモクレスが、信じられない様子でフリーズした。
「……残念だったわね。もう次はないわよ」
 その隙をつくようにして、朱音がスターゲイザーを繰り出し、ビームの発射口を蹴り飛ばした。
「オォォォォォォォォォォォォブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!」
 その事に苛立ちを覚えたダモクレスが、ブンブンと拳を振り回しながら、熱を帯びたパンチを繰り出し、まわりにあったモノを壊していった。
「……竜砲弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 すぐさま、玲奈が轟竜砲でハンマーを砲撃形態に変形させ、ダモクレスに竜砲弾をブチ当てた。
「トォォォォォォォォォォォォス・タァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃を食らったダモクレスが、悲鳴にも似た機械音を響かせ、ボンと音を立ててビームの発射口が壊れて、真っ黒な煙をモクモクと上げた。
 その間に、ネオンが属性インストールを発動させ、自らの属性を玲奈に注入した。
「螺旋の力よ、敵を氷漬けにしてしまえ!」
 続いて、司が螺旋氷縛波で氷結の螺旋を放ち、ダモクレスの拳を凍らせた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
 それでも、ダモクレスはまったく怯んでおらず、自らの拳を激しく熱する事で、氷を解かそうとした。
 その気持ちに反して、なかなか氷は溶けず、無駄に時間だけが過ぎていった。
「そんなにイライラしていると体に悪いわよ。この斧で斬り落としてあげるわね」
 そこに追い打ちをかけるようにして、朱音がルーンディバイドでルーンを発動させ、光り輝く呪力と共に斧を振り下ろし、ダモクレスの右腕を斬り落とした。
「ト、ト、ト、トー・ス・タァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その途端、ダモクレスが悲鳴にも似た機械音を響かせ、右腕を庇いながら、狂ったようにミサイルを発射した。
 そのミサイルはまったく狙いが定まっておらず、滅茶苦茶な方向に飛んでいき、アスファルトの地面に落下して爆発すると、大量の破片を飛ばしてきた。
 その破片が鋭い刃となって、ケルベロス達に襲いかかり、皮膚を切り裂き、アスファルトの地面を真っ赤に染めた。
「この地に眠る霊の力よ、皆を癒してあげて!」
 即座に、依鈴がゴーストヒールを発動させ、この地に眠る霊の力を借り、仲間の傷を癒していった。
「オゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブ・ウウウウウン!」
 それと同時に、ダモクレスが咆哮を上げるようにして、耳障りな機械音を響かせ、再びミサイルを発射した。
 しかも、そのミサイルは先程とは異なり、ケルベロス達を狙っており、豪雨の如く勢いでアスファルトの地面に落下して、次々と爆発していった。
「……残念でしたね。どんなにミサイルを発射しても、あなたの負けは決まっています」
 すぐさま、玲奈がブロック塀の後ろに隠れて身を守り、サイコフォースでダモクレスの身体を吹き飛ばした。
「ト、ト、トー……ス……タ……」
 その途端、ダモクレスが戸惑った様子で、激しく体を震わせた。
 おそらく、自分の身に何が起こったのか、まったく理解していないのだろう。
 それが恐怖となって、ダモクレスを支配し、身体の自由を奪っていた。
「……虚無球体よ。敵を飲み込み、その身を消滅させなさい!」
 次の瞬間、朱音がディスインテグレートを発動させ、触れたもの全てを消滅させる不可視の虚無球体を、ダモクレスに対して放った。
「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その事に気づいたダモクレスが、身の危険を感じて逃げ出そうとしたものの、不可視の虚無球体が何処にあるのか分からずパニックに陥った。
 それでも、何か恐ろしいモノが迫っている事だけは理解する事が出来たらしく、身体の震えが止まらなくなっていた。
「トォォォォォォォォォォォォス・タァァァァァァァァァァァ!」
 そのため、ダモクレスが絶望のどん底に突き落とされる勢いで、虚無球体に飲み込まれて完全に沈黙するのであった。
「……何とか倒す事が出来たようだね」
 司がホッとした様子で、ゆっくりと辺りを見回した。
 ダモクレスとの戦いで、辺り一面ゴミだらけ。
「それじゃ、辺りをヒールしてから帰りましょうか」
 そう言って依鈴がゴミを片付けながら、辺りをヒールしていくのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月2日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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