作者:星垣えん

●守護るッッ!!
 静岡県――浜松市。
 浜名湖の鰻(うなぎ)で有名な街には、当然ながら鰻の店が数多い。何代と続く老舗も珍しくはなく、鰻というものが地域に根付いているのだと肌で感じられるようだ。
 そして、今回ひどい災難に遭ってしまうのも、そんな名店のひとつだった。
「う、美味い……!」
「身がふわっふわしてるぅ……」
「ご飯に染みたコク旨なタレがまた良いんだよなぁ……」
 口いっぱいにうな重を頬張っては、放心した顔になる人々。
 都市部からは少し離れた、ややレトロで情緒的な町並みの中にその鰻屋はある。空席のない店内を見れば味の良きを想像することは容易く、旅行客などが足を踏み入れれば期待に胸が高鳴ることだろう。あと腹も鳴ることだろう。
「鰻ってなんでこうテンションが上がるんだろうか」
「この重箱を見るだけでお腹が空くぅ……!」
「おかわりしたい……けど高いよぉ……!!」
 ばくばくと食い進める客たちが嬉しそうに呻きながら、ぐっと堪える。
 なんせ1食で約4千円である。さすがに軽いノリで追加できる値段ではない。けれどもその欲望を一蹴できないほどには鰻が美味かった。じっくり炭火で焼かれた鰻は反則。
 食欲と財布との間で、客たちは苦悩していた。
 ――奴が一陣の風となって現れたのは、そんなときでした。
「鰻を喰い殺しおって貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
「ひっ!?」
「な、なんだぁ!?」
 どがらっしゃああーん!! と店の引き戸を開け放ったのは鳥!
 頭に鉢巻を巻き、背中から『鰻』『護』と2枚の幟を掲げた鳥さんは、憤怒のオーラを漂わせながら店内へずんずんずん!!
 突然のことに混乱する客たちを見渡すと、その嘴を開いた!
「美味い美味いだのとほざきおって……それが鰻を殺していい理由になるものか!
 彼らは貴様らの胃袋を満たすために生まれたのではない……それをっ、それをっ!
 こんがりと炭で焼き、あまつさえ秘伝のタレを絡めるなど外道! 鬼畜の所業!
 これ以上、貴様らに鰻を殺させはせんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!」
 くぇぇー、と高らかに咆哮する鳥さん!

 鰻の守護者がそっから問答無用で暴れまくったのは、言うまでもないだろう。

●いざ行かん浜松
「鰻屋じゃなくて養殖場に行ったほうがいいんじゃないか?」
「そ、そうですね。ですが残念ながら現れるのは鰻屋ですから……」
 顔を突き合わせ、なんか困ったふうに話している栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)とセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。
 二人の空気から、集まった猟犬たちは確信を得ていた。
 これは楽な仕事に違いない――と。
「お、来てくれたか」
「それでは皆さんに依頼をご説明しますね」
 一同が10秒ぐらい突っ立ってたのに気づいた理弥が顔を向け、続けてセリカが口頭で簡単に状況説明をしてくれた。鳥さんの台詞が長かったけどだいたい予想通りだった。
「つまり鰻を食う仕事だな」
「信者の人もいませんからね」
 ははは、と笑う理弥とセリカ。
 猟犬たちもそれと同じノリで笑っておいた。理弥くんはわからんけどヘリオライダーのセリカが笑ってんだから笑っときゃいいはずだぜ。
「ビルシャナが来るのは浜松でも評判の美味しい鰻屋さんみたいですから、皆さん楽しんできてくださいね。鰻ですからちょっとお値段は張りますけど……大丈夫ですよね」
「んー出費は痛いけどせっかくの鰻だからな。食べない手はないぜ!」
 もはや鳥の戦闘能力について全く言及しないセリカの横で、理弥が財布の中身を確認。こくりとひとつ頷いたのできっと戦力は大丈夫だったのでしょう。
 一通りの話が終わると、セリカは待機状態のヘリオンを指差した。
「では皆さん、あちらに乗って下さい。ぱぱっと浜松までお連れします!」
「お茶漬けとかもいいよなぁ。何を食べるか迷うぜ……」
 故郷・静岡の地に思い馳せながら、ぐぅとお腹を鳴らす理弥くん。
 かくして、猟犬たちは浜松まで鰻を食べに行くことになったんだぜ。


参加者
リーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)
狗上・士浪(天狼・e01564)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)
栗山・理弥(ケルベロス浜松大使・e35298)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ディッセンバー・クレイ(余生満喫中の戦闘執事・e66436)

■リプレイ


 古風な家屋の並ぶ道。
 その一角に建つ鰻屋を、狗上・士浪(天狼・e01564)が睨んでいた。
「おめーら覚悟はできてるか。俺ぁ、できてる」
 男気すら感じる顔で言い放つ士浪。
 痺れるほどカッコイイ台詞だ。鰻屋の店前で財布を握りしめていなければ。
「私も覚悟完了ですよ~!」
 膨れた財布を見せるのは、セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)だ。
「今回は食べ放題では無いので多少は抑え気味にしないとですね~」
「そう、そこが問題だよなぁ」
 苦い表情を浮かべる二人。
 そんな食い意地はりはりの人たちをよそに、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は道の向こうをじーっ。
「むぅ、なかなか鳥がやってこないね」
「遅いっすねー」
 足元の小石を蹴るシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)。
「早く食べたいっすー」
「美味しそうな匂いがして、リリお腹が減ってきたよ」
 鳴りそうなお腹をさする二人。
 炭火で炙られている鰻の香ばしさが、タレの焦げるような匂いが漂ってくる。いやそれに包まれていると言ってもいい。ぶっちゃけ苦行。
「この匂いに耐えるのはつらいよなぁ」
 少女たちを見てくすりと笑うのは、キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)だ。
「しかし鰻を食うなと言う困ったさんが現れるとは……恐らく食わず嫌いだろうが、鰻は美味しいものなんだって分かってもらいたいよな」
「おとなしく聞いてくれるのかな?」
「無理じゃないっすか? 鳥っすよ」
「そこはほら、工夫次第だろう」
「いや工夫とかしても無駄だから!」
 リリエッタたちにハハハと笑うキルロイの後ろで、きっぱり否定する鳥。
 鳥。
 普通に後ろにいる、鳥。
「ん? いつの間に来てたんだ」
「いたでしょうが最初っから! 俺がいる前でのんびりやってたんでしょうが!」
 すっとぼけるキルロイに憤然とする鳥。
 実は鳥さんずっといました。描写外で色々言ってました。
「少しは反応しなさいよ!」
「リリ、向こうから来ると思ってたよ」
「決めつけヨクナイ!」
「そういえばうなぎの旬は秋から冬で夏は美味しくないっていうっすけど養殖ものは冬眠しないから旬はないらしいっすよ。つまり今も美味しい季節っす!」
「俺に触れろォォォーーー!!!」
 魂の咆哮を響かせる鳥さん。
「どうせ貴様らも鰻を食いに来たのだろう! 俺が成敗してくれる!」
「……絶滅が危惧されてる鰻を美味しくいただくことに罪悪感がないわけじゃない。食文化を守るためにも鰻は守らないといけない、それはわかる……」
 てくてくと鳥の前に出てくる栗山・理弥(ケルベロス浜松大使・e35298)。
 話をわかってくれそうな空気に鳥さんは「うむ」と深く首肯した。
 しかし!
「けど! 店で暴れていい理由にはなんねえだろー!」
「ぶべらっ!?」
 待ったなしの轟竜砲が炸裂したァ!
 話を聞く気がありません!
 何かうるさい鳥類ぐらいにしか思ってません!
 でなければ出会って2秒で砲撃はできません!
「おのれぇ! 所詮は鰻を喰らう極悪の徒であったか!」
「んー、でもそう言うなら……」
 ずでーん、と地面に倒れた鳥さんが怒りを叫ぶ。そんな彼をリーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)はぽやぽや眠そうな顔で見下ろした。
「なんで鶏肉じゃなくて鰻を護ってるのか、な? 鶏肉はどうでもいいのか、な? 鶏肉の消費量は鰻の比じゃない、よ?」
「ぐぬっ! それはぁ……!」
 返答に窮する鳥。完全に痛いところを突かれた的な顔だった。
 そこへススッと近づくキルロイ。
 手にはこっそり店で買ってきた鰻の蒲焼きが。
「おら食えよ焼きたてのドジョウを」
「いやどう見ても鰻ィ!」
 鰻を食わせようとしてくる男を頑張ってかわす鳥。
「大丈夫だってアナゴだから。アナゴだから」
「鰻屋の前で言われても全く説得力がないよォォォ!!」
 むんっ、むんっ、と首を振って口に鰻を入れさせない鳥。
 その応酬がそれから2分ぐらい続いたので泣く泣くカットさせてもらいます!

 数分後。
 一仕事を終えた顔で、ディッセンバー・クレイ(余生満喫中の戦闘執事・e66436)は皆ににこりと執事スマイルを向けた。
「さて、それでは鰻を満喫しましょうか」
「満喫っすー」
「リリ、もうお腹ぺこぺこだよ」
「何度か特集されてるの見たことあるけど、この店は初めてなんだよなー」
 長髪執事に続く形で入店してくシルフィリアス、リリエッタ、理弥。
 彼らがいなくなった店前で、クロック(ボクスドラゴン)はぱたぱたと飛んでいる。
 2mほどの剣(ディッセンバーが出した)に串刺しにされ、前衛芸術家の作品みたいになってしまった、鰻の守護者の遺骸の上で。


 がやがやと人の活気に満ちた店内。
 そこの一角の座敷を割り当ててもらって、猟犬たちは待望の時を味わっていた。
「やっぱりおいしいっすねー」
「仕事でこんな旨いもんを食えるとは、役得だな」
 重箱にガッと箸を入れ、鰻と飯をもぐもぐやっとるシルフィリアス&キルロイ。
 外は香ばしく内はふわふわ。そんな美味しい鰻をよくタレの染みた飯とともに口いっぱいに頬張る――とかやっちゃえば舌が幸せになるのは当然でしたよ。
「はぅぅ、鰻、美味しい、ねぇ」
「香りだけでもヤバかったのにこのホクホク感がたまりませんね~!」
 リーズグリースとセレネテアルも、極上の鰻を頬張って幸福を享受している。
 一口食べるては、一緒に頼んだ肝吸いに口をつける。そのローテーションはなかなか止まることはなく、半分ほど食べたところで二人はようやくまた口をひらいた。
「甘口のタレが鰻にもご飯に合って最高です~!」
「もう、美味しいしか言えない、よ」
「肝吸いもたまりませんね~! この組み合わせはいくらでも行けちゃいます~!」
「うん、うん」
 恍惚と語るセレネテアルに、こくこくと頷くリーズグリース。元々それほど喋るほうではないが鰻の威力によってさらに口数が減っている。
 他方、逆に饒舌になっていたのが理弥だ。
「ウマッ!! やっぱ鰻は浜松で食うのが一番だな!」
 鰻を口にするなり少年のように笑う理弥。
 浜松出身の20歳は、住んでた頃でもなかなか食べられなかった地元の鰻にテンション上昇が止まらない。
「ふわふわの身に甘めのタレとか反則だろ……見ろよご飯の中にも鰻が隠れてやがる……贅沢過ぎる……肝吸いもうめえ……」
 段重ねになったうな重を食べてほうっと息をついては、肝吸いをすすってまたほうっと息をつく。見てるだけでも幸せになれそうな食べっぷりだ。
「奮発して特上にして正解だったぜ!」
「リリも、一番高い特上? を選んでみてよかった」
 決断を誇る理弥くんにこくりと頷いたのは、こちらも特上のうな重をもぐもぐ味わっているリリエッタである。
 詳しいことはともかく特上のほうが鰻が多い――と聞かされたエルフっ娘は特上セットを注文して、これまたうな重と肝吸いのコンボを堪能している。
「よく分からないけど、この肝吸いってやつも美味しいね」
「なー。苦みがたまらねえんだよなー」
 肝吸いで口をすっきりさせ、まったりするリリエッタと理弥。
 そんな二人の向かいで、ディッセンバーは落ち着き払った所作でうな重を食べている。
「こういうものは中途半端な妥協などせず、最上のものを食べた方が良いのです」
 重箱から綺麗にすくいあげた蒲焼きと飯を、涼やかに口に運ぶディッセンバー。さすが執事と言うべき佇まいで食べ進める彼もまた特上セットを頼んでいる。
「ふっくらとした鰻の焼き具合が素晴らしいですね……自家製の漬物も良い箸休めになっています」
「あー確かにこの漬物も美味ぇよな」
 ぽりぽり漬物を齧るディッセンバーに同調するのは士浪。
『やべえ、美味え。炭火の香りとかたまんねーわ』
 と言いまくってばくばくと喰らっていた男の重箱はもうカラである。
「お早いですね」
「気づいたらなくなってたわ」
 ずずっと茶を飲んだ士浪が、ポケットに手を突っこむ。
 取り出したるは財布。
 札入れをちらっと確認。
「……大丈夫、まだいける」
 決意の眼差しで、ゆっくりと手を挙げる士浪。
 店員を呼んでおかわりするのぐらい、もっと普通にしてくれ。


 数分後。食卓はまだまだ盛況だった。
「鰻茶漬け……」
「ダシ、この野郎……」
 虚ろな顔で呟いとるのはセレネテアルと士浪。
 少し残した鰻と飯(おかわりしたやつ)に出汁を注ぎ、崩して食べる。
 それしきのワンタスクで、二人は放心してしまっていた。どこを取ろうと美味さしかない逸品に正気など保てなかったのだろう。語彙がマズい。
「……なんて美味しいんでしょうか~」
「……世の中にはこんな美味い茶漬けがあんだな」
 あ、戻ってきた。
「いけね、まだアレ頼んでねえや。すんませーん、う巻きありますか、う巻き」
「う巻き! いいですね~」
 我に返るなり『う巻き』を頼みだす士浪に、ぐっと親指を立てるセレネテアル。
 一方。
「う巻きも、おいしい、ね」
「なー」
「リリ初めて食べたけど、こんな料理もあるんだね」
 リーズグリースと理弥とリリエッタは、一足早くう巻きを味わっていました。
 鰻を包んだ卵焼きをむぐむぐと頬張りながら、リリエッタはしかし不思議そうな目を皿の上のそれに向けている。
「最初聞いたときは、ウナギの顔が飛び出してるのかなって思ったけど」
「それは、食べたくない……」
 リリエッタの可愛い勘違いに、しばし考えてからぽつっと返すリーズグリース。
 と、楽しげな様子を横目に、シルフィリアスは相変わらずうな重(おかわり)をもぐもぐしていた。
「いくらでも食える気がするっすねー」
「食べ盛り、というものでしょうか」
 ばくばく食い進めるシルフィリアスを面白く眺めつつ、茶を飲むディッセンバー。
「さすがの静岡茶、美味しいです」
「日本茶の造詣まであるのか? 箸の扱いも手慣れたものだったし、日本人と言われても疑えないな」
 箸も茶もそつなくこなす姿に感心したキルロイが笑うと、ディッセンバーも笑いながら茶飲みを置く。
「私の母国は和の文化が定着していますから、正座も箸も平気ですよ。カレンデュラ公国の執事に抜かりはございません」
「なるほどねぇ」
 頬杖をつき、にやりとするキルロイ。
「じゃあ、その執事さんならアレもどうにかできるのかな?」
「アレ、ですか」
 二人同時に、視線を動かす。
 その先には――。
「――!」
「ん? うなぎは高いっすからだめっすよ」
「――!」
「いくら言ってもだめっす」
 異形化した髪の訴えを、ノータイムで却下してるシルフィリアスさんがいた。
 まるで意思を持ったかのように。鰻食わせろと言っているかのように。攻性植物じみた髪が頼んでくるけどシルフィリアスは「うなぎ美味いっすー」と自分だけ食っている。
 先の展開が見え見えの光景だった。
「あれは私でもどうにも……」
「だよなぁ」
 顔をそらし、見なかったことにするディッセンバーとキルロイ。
 もちろん、その1分後ぐらいにシルフィリアスさんは逆襲に遭いました。


「むー! むぐー!」
「――♪」
 猿轡をはめられ簀巻きにされたシルフィリアスの髪が、自由と財布を手に入れた(?)髪がもしゃもしゃと鰻を食い散らかしている。
 そんな平和的光景をバックに、猟犬たちはまだ宴を楽しんでいました。
「いやーキルロイさんがいてくれて良かったです~」
「本当によ……感謝するしかねぇぜ」
「まぁ働き盛りの独り身野郎だからな。金だけはあるんだ金だけは」
 相変わらずのペースでひつまぶしを食うセレネテアルと士浪に、キルロイが自嘲気味に笑い、ひらひらと財布を振る。
 若いもんは食え。
 そんな頼れる30代の一言で、士浪たちは憂いなく爆食を続けられていた。
「ガキの頃なぁ、魚の皮食えなくてよ。鰻もチマチマ皮だけ残してたんだ。あの頃はもったいねぇ事してたな……鰻美味え」
「狗上さん、思い出話してる暇があったら食べないとですよ~!」
「おう食え食え。盛大に食え」
 歳の離れた兄貴に奢ってもらってる姉弟みたいになってるセレネテアル&士浪。
 ゆっくり鰻茶漬けを食べてそれを聞いていたディッセンバーは、こちらもせっせと鰻茶漬けを食べているリリエッタに目を向けた。
「そういえば、リリエッタ様はお金は大丈夫なのですか?」
「お金? お財布にいっぱい入れてきたから、大丈夫だよ」
「なるほど。要らない心配でしたか」
 ナノナノ型の財布を見せるリリエッタにくすっと笑うディッセンバー。
 どれだけお金を入れてきたのか財布はパンッパンに膨らんでいる。財布とはいえナノナノさんが心配になるレベル。加減どこぉ。
「せっかくの鰻だもんな。万全に用意してくるのはわかるぜ……」
 うんうん、と頷きつつメロン食ってる理弥。
 すでに食後のデザートに移行しているドワーフは、しかしここにきて爛々と眼光を光らせはじめる。
「しかも浜松の鰻ってすげぇんだよ。東西の文化が混じり合う土地柄だから、蒸しの工程が入る柔らかい関東風とパリッと焼き上げる関西風の両方の味が楽しめるし……浜名湖で鰻の養殖が始まったのは――」
「理弥がいっぱい喋り出したよ」
「郷土愛というものでしょうか」
 滔々とべしゃり倒す浜松人を生暖かく見守るリリエッタとディッセンバー。
 エンドレス流れる浜松トークを聞き流しながら、リーズグリースは新しく頼んだひつまぶしに箸を差し込み、あーんと口に入れる。
 もぐもぐもぐ。
 ん~、と表情が蕩けたのは3秒後。
「お財布に優しくないけど、これからもこういうのをしたい、な」
 眠たげな顔の下に微笑みを覗かせて、リーズグリースは二口めを頬張った。


 鰻をたらふく堪能した猟犬たちが、がらっと店の戸から姿を現す。
「贅沢した。贅沢したぜ……」
「財布がぺらぺらっす……」
「さらば欲しかったアウトドアグッズ……」
「まぁ美味しい思いができたんだから、いいじゃないか」
 すっかり薄くなった財布を握りしめる士浪とシルフィリアスの間で、土産の鰻茶漬けセットを提げた理弥が涙ながらに空を見上げる。そんな三人を慰めるキルロイはいくらか奢ってるのに余裕の顔だ。30代。
「美味しいお店でしたし、お土産も喜んでもらえそうです~」
「喜んでもらえるといいな」
「ちょうど新茶の頃合いですし、お茶を買って帰るのも良さそうですね」
 土産を抱えてホクホクしてるセレネテアルとリリエッタの話を聞いて、ぽんと手をたたいたのはディッセンバー。少し足を延ばせば川根まで行けまいか、とか考えてる顔。
 そうして思い思いに店をあとにする一同。
 ――から遅れて最後に出てきたのはリーズグリース。
「はぅぅ、流石に食べ過ぎたか、な……」
 膨れたお腹をさすりながら、よろよろと歩き出す。
 せっかくだし静岡土産を。
 そう思って散策を始めた彼女の顔は、実に満足そうだった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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