可愛いんだからもう女の子でよくない?

作者:星垣えん

●偽物はかく語りき
「……ここが噂の店」
 繁華街からは少し離れた、裏道にも似た通り。
 そこに立つ電柱に隠れながら、駒城・杏平(銀河魔法美少年テイルグリーン・e10995)は呟いた。
 彼の緑色の瞳が向く先には、一軒の喫茶店。
「今日こそ真実を暴いてやるんだから」
 何やら張り切っている杏平くん。
 果たして眼前の喫茶店に何があるのか――と、ふいにドアベルの音が鳴る。
「おつかれさまでしたー♪」
 可愛らしい声で店内に挨拶を残して、少女が出てくる。
 その姿は――なんと杏平そのもの。
 ツインテールに結んだ緑髪にピンクのリボンを飾り、その身は裾にかけてふわりと広がるロング丈のメイド服に包まれていて、背中にはオラトリオのような白翼が完備。
 なんかもうすごく可愛かった。
(「出たな……僕の偽物!」)
「ふぅ、今日もお仕事がんばっちゃった」
 逸る杏平の目の前で体を伸ばす偽杏平。彼女が歩き出すと杏平も尾行を始めた。本当は今すぐ問いただしてやりたいが、この場では周りに迷惑がかかる可能性がある。
 自分の偽物がいるのでは、と杏平が思いはじめたのは最近のことだ。どうして自分はいつも女の子に間違われるんだろう、とふと思ったのがきっかけだった。
 そんな折、風の噂で自分そっくりな者の存在を知ったのだ。
 とある喫茶店に緑髪ツインテでオラトリオっぽい少女が働いているらしいと。もうそっからは「その人が原因なのでは?」とか思うようになり、少女がピンクのリボンをつけてるという情報を得たときには確信に変わっていました。
(「僕が女の子に間違われちゃうのは全部……きみのせいだったんだね!」)
 帰途を行くメイド服少女をキリッと尾行する杏平くん。自分が普段から女の子っぽい格好をしているからだとかはきっと1ミリも考えていない。
 もう結構歩いている。
 気づけば周りにはひとけもない。
 問いただすなら今だ――と杏平は彼女に接触するべく駆けだした。
 そのときだ。
「ふふっ、見つかってしまいましたか」
「!?」
 杏平が声をかけるまでもなく、偽物少女はこちらへ振り返っていた。
「……もしかしてデウスエクス?」
「ご明察です」
 杏平の探りに、偽物はぱちぱちと拍手を返した。
 なんかめっちゃ友好的。質問したら普通に答えてくれそうな空気だったので、杏平はもうこの際核心を突くようなことを訊いてみた。
「いったいどうして……僕のふりをして喫茶店で働いているの?」
「杏平くんを女の子にするためです」
 当然のように答える偽物。
「…………」
 あんまりな答えに杏平は沈黙したが、思考停止はしない。もしかしたら自分を女の子にすることは敵の壮大な計画の一端なのかもしれない。
「……僕を女の子にしてどうするつもりなの?」
「どうって……可愛い子は女の子のほうがいいじゃないですか」
 ウインクさえする始末の偽物。
 ここらへんで、だいたい、なんとなく、杏平は察していた。
「せっかく可愛いんですから男の子にするなんて勿体ないです! なので私は杏平くんになりすまし、喫茶店の看板娘になっていたのです! ほら外堀から埋めるのって重要じゃないですか?」
「そ、そうなんだ……」
「周りから女の子と思われてたら、もう女の子になるしかないですよね♪」
「そ、そうかなぁ……」
 デウスエクスさんの熱量に返す言葉もない杏平くん。
 そこから偽物による怒涛の熱弁を聞かされる羽目になった美少年は、長すぎる話に頭をくらくらさせながらこう思ったという。

 誰か助けて――と。

●超救出依頼
 杏平が襲撃される。
 その一報を告げた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の表情は(実際の状況とは裏腹に普通に)緊迫していた。
「今もなお杏平さんとは連絡が取れなくて、かなりやばい状況っす……! だからここはもう、皆さんに頼らせてもらうしかないっすよ!」
 ばんっ、とテーブルに手をつくダンテ。テーブルあったんすね。
「杏平さんを襲うのはどうやらダモクレスみたいっす! 『アンズプエラ』っていう名前だけはわかってるんすけど……他は一切わかってないっす。役に立てなくて申し訳ないっす……!」
 ふがいない、と悔しさに拳を握るダンテ。
 どうやら事態は一刻を争うらしい、と一同は気を引き締めた。
 現場の空気感とか知る由もなかったから引き締めるしかなかった。
「此度の依頼、それがしも同行いたす。皆でその『アンズプエラ』を退け、杏平殿を無事に連れ戻すでござるよ!」
 何処からかずいっと巨体を出してきたのは、ガルディオン・ドライデン(グランドロンの光輪拳士・en0314)である。なんか彼も行くみたいっす。
「杏平さんが無事に帰れるかどうかは皆さんにかかってるっす! よろしくっす!」
 ひとり声を張り上げ、ヘリオンへ走ってゆくダンテくん。
 かくして、猟犬たちはぶっつけで救出に臨むことになるのだった。


参加者
リーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)
アリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・e01753)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
駒城・杏平(銀河魔法美少年テイルグリーン・e10995)
シフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532)

■リプレイ


 眠りについた夜半の街。
 そこに、拗らせた者の咆哮が響いていた。
「杏平くんの可愛さは男の子にしておくには惜しいんです! わかりますよね!?」
「いや、うん……?」
 正対している駒城・杏平(銀河魔法美少年テイルグリーン・e10995)の首がゆらーっと傾いてゆく。
 強弁を聞かされ始めてから小一時間。
 いい加減、眠気とかが限界に来ていた。
 が、彼の首が傾いだのをアンズプエラは『OK』と捉えたようで。
「わかってくれたんですね! それでは早速、肉体改造しちゃいましょう♪」
「……?」
 笑顔でにじり寄るアンズプエラ。ぼーっとして危機意識が湧かない杏平。
 いけない。このままでは一人の男子が潰えてしまう。
 ――頼もしき仲間たちが現れたのは、そんな瞬間だった。
「杏平が襲われて黙っていられるほど、PTAは優しくないさ!」
「杏平さんのピンチと聞いて駆けつけたっすよ!」
「……あ、皆!」
「だ、誰ですか!?」
 二人の間に滑りこんできたのは、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)とシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)。
「私の野望を邪魔するつもりですか……」
「皆! 助けて! こいつ可笑しいんだよ、なんかもう凄いことを言うんだよ。女の子になってとか、僕は男の子なのに!」
 警戒態勢を見せるアンズプエラを指差しつつ、仲間たちに駆け寄る杏平。
 その二人を見比べて、ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)と羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)は目をぱちくり。
「きょ、杏平くんが二人? いえ、片方は女の子……?」
「ま、まさか杏平ちゃんの偽物が現れるなんて……!」
「本人と見間違う程そっくりだなんて……誰かさんのニセモノとは大違いです」
「えぇ、まったく!」
「誰のことっすか?」
 ひそひそ話しこむ二人を見つめるシルフィリアス。誰のことっすかね。
「杏平くん女子化計画を阻むのなら許しません!」
「ほら。もう僕にはどうしたらいいのか、手に負えないんだよあいつ」
「しかし……なるほど、少女(プエラ)になった『杏』平くんでアンズプエラですか……言葉だけで杏平くんを追い詰めるなんて、恐ろしい相手です」
 杏平に熱視線を送り続けるアンズプエラを見て、合点がいったと頷くルーチェ。
「放っておいてもいい気がしちゃうけど、杏平が助けてって言うなら、助ける、よ」
 リーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)もまた、杏平を庇う立ち位置に入る。
 ――が。
「でも、普段からメイド服なんて着てるからこんなのが湧くんじゃないか、な……」
「え? だってこれ着るのが規則ってシルフィが言ってたから……」
 当然の疑問を口にしたリーズグリースに、ふんわりスカートの裾を摘まみ上げながら応える杏平くん。
 説明しよう!
 実は杏平くんも敵とまったく同じメイド姿でした!
「いや、容姿はともかくなんでたまたま同じ服着てるんだい……こわ……」
「違うよ。シルフィが言ったんだよ!」
「って杏平が言ってるけど、そうなのシルフィリアスさん?」
「何のことっすかね」
「こらー! シルフィ!」
 じわじわ距離を離すヴィルフレッドに訴えるが、シルフィリアスにしっかり梯子を外されて追い詰められる杏平くん。おかしい仲間が来たはずなのにおかしい。
 と、仲良くやっている一方で。
「諸君、私は男の娘が大好きだ。女装ショタが大好きだ。女装子が大好物だ」
 仲間たちと数m離れたところで――アリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・e01753)がなぜか独演会をひらいていた。虚空に。
「――無自覚であった時の様子を見た時などは絶頂ものであった――」
 長々とべしゃりたて、握った拳さえ掲げるアリス嬢。
 彼女は高ぶっていた。
 現場に駆け付ける途中でわずか聞こえたアンズプエラの主張に憤懣やるかたない女は、変態であった。
「変態で悪いかね?」
 いえ悪くないです。こっち見ないで下さい。
 それに変態は貴女だけではないので安心して下さい。
「これだけ数がいれば倒す事は問題ないでしょう。となれば後はどう理由をつけて二人をこねくり回すか……」
 1mぐらい横でシフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532)も怪しい企てを口にしております。どう見ても舌なめずり寸前ですありがとうございました。
「二人とも何を話してるのでござるかなぁ」
「きっとガルディオンさんが知らなくていいことだよ……」
 アリスとシフカを訝しげに眺めるガルディオン・ドライデン(グランドロンの光輪拳士・en0314)に、ぽむと手を添えるヴィルフレッド。
 女だらけのこの現場で数少ない同性を逃がしはしない。
 その決意が垣間見える、ヴィルフレッド少年の素早いポジショニングだった。


 ところで偽物と言えば定番の流れがあるよね。
 なので。
「あれ? なんか胸が大きくなってないっすか?」
「きゃーっ! 何するんですか!」
 前フリもなく、唐突にシルフィリアスがアンズプエラの胸を揉んでいた。
「誰か助けてー!」
「何してるんですかシルフィちゃん!?」
「さっき普通に杏平ちゃんに話しかけてたんだから、杏平ちゃんと間違えてセクハラしちゃったなんて言い訳は通じないわよ!」
「そもそも胸ないからね、僕!」
 胸揉みを止めるべくシルフィリアスに組み付くルーチェと結衣菜。そこへ男として言わねばならぬことを付け加える杏平くん。たぶん誰も聞いてないけど健気。
 しかし、それしきで止まらないのがシルフィリアスだ。
「いや本当に大きくなってるっすよ。結衣菜さんやルーチェさんより」
 それに一言多いのがシルフィリアスだ。
「シルフィちゃん、何て言ったか聞こえませんでした」
「もしかして私より杏平ちゃんのおむねが大きいって言った?」
「お二人と違って確かな柔らかさを感じるっす」
 辛うじて冷静に訊き返す二人に、けろっと言いやがるシルフィリアス。
 数秒の沈黙。
 そして。
「絶対に許さないわ、シルフィー!!!」
「全部シルフィちゃんが悪いんだよ?」
「なっ、何するっすか!!」
 暴徒化した結衣菜&ルーチェの殺意に晒された。
 無理もなかった。貧しき者を煽ったのだからルーチェが魔法という拳を振り上げるのも、結衣菜が鋭い蹴撃が繰り出されるのは無理もなかった。
「そうはいかないっす! 魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす!」
「え、変身!?」
「やりあおうって言うのね……シルフィ!」
「何度もやられるあちしじゃないっすよ!」
『ぐっ……!?』
 殺気を察して魔法少女化したシルフィリアスが、髪を蔦のように伸ばし二人を捕縛。ぐるぐる巻きついた髪はルーチェと結衣菜の力でもなかなか解けない。無駄にガチ。
「放しなさいシルフィーー!!」
「今ならゲンコツ10回で許してあげますから!」
「その鉄拳で10回も殴るつもりだったんすか!? ますます生かしてはおけないっす……二人とも眠ってもらうっす!」
 髪をより集めて必殺パンチを繰り出さんとするシルフィリアス。
 ――が、繰り出されない。
「どうして……ってなにカードゲームしてるっすかー!」
「――♪」
 頭上の髪に叫ぶシルフィリアス。髪の毛は楽しげにカードゲームに興じていた。何処から持ってきたかわからんけど主人の命令そっちのけで遊んでいた。
 たぶん、戦う理由が下らなすぎたんや。
 コントしてる隙に捕縛を解いた結衣菜とシルフィは、ぽきぽきと拳を鳴らした。
「見放されたようねシルフィ!」
「や、やめるっす! 正義の魔法少女ならここは穏便に済ますべきっす!」
「シルフィちゃん……悪は滅びるんですよ!」
「あぁーーっ! っすー!」
 二人に両腕を掴まれ、闇へ連行されるシルフィリアス。
 ずるずる引かれてくのを眺めて、リーズグリースは眠たげな顔に微笑を浮かべる。
「シルフィたちは相変わらず仲良し、ね」
「そんなこと言ってないで助けてくれっすーー!?」
「三人ともがんばって、ね……」
「何をっすかーー!!」
 リーズグリースに手を振られ、魔法少女たちは無事どっかへ去っていきました。

 一方。
「杏平きゅんを間違いなく助けるためにも、やっぱりどっちが本物かって確認しておかないといけないわよね♪」
「まったく同感です。どっちが本物か全然わからないのでとりあえず両方ともぺろぺろしますね」
「そこ! 抱きつかないで!」
「ちょ、どこ触ってるんですかー!」
 杏平とアンズプエラの二人は、執拗に絡んでくるアリスとシフカによる圧倒的セクハラの渦中にいた。好き放題やられていた。
「アンズプエラたんかわいいよ、はぁはぁ。大丈夫、地球を愛せるように私がちゅっちゅぺろぺろで快楽堕ちさせてあげるから♪」
「け、結構ですぅ……! というか私が偽物って気づいてるじゃないですか!?」
 背後から抱き着いてくるアリスにあんな所やこんな所を愛撫され、微妙に良い気持ちになっちゃってるけど寸前で耐えてるアンズプエラさん。
「あぁ、ほっぺがすべすべぷにぷにで最高ですね。髪もつやつやで頭をなでる手が止まりません。それでは耳舐め失礼いたします」
「やーめーてー!」
 心なしか息の荒いシフカに頬ずりされ、頭をなでなでされてる杏平くんは、耳まで舐められそうになるけどそこは頑張って抵抗中。
 ひどい絵面だった。
 助けに来たはずの仲間に襲われてるとかいう、ひどすぎる絵面だった。
「ふぅ、そろそろ相手を交換しましょうかシフカさん」
「そうですね」
「そんなモノみたいに扱わないで!」
「杏平くんの言うとおりです! あなたたちが邪魔するせいで杏平くんを女の子にする時間が――」
『問答無用!!』
『あーーっ!!』
 ぽいーっと投げて交換される供物もといアンズプエラ&杏平。
「大丈夫よ杏平きゅん。私の嗅覚は男の娘を間違えないわ。でも念のため」
「あ、ちょっと、スカートはめくらないで!」
「スーツのあなたもやめて下さい! 本当は私が杏平くんじゃないってわかってるんでしょう!?」
「……イヤァゼンゼンワカラナイナードッチガホンモノナノカナァー」
「きゃーーっ!」
 アリスとシフカにやりたい放題される二人。
 これワンチャン『苦難を共にした』とかで変な絆とか生まれてしまうんじゃ……と思っちゃう地獄だったが、救世主はすぐに現れた。
「ガルディオンさんはアリスさんを止めて! 僕はシフカさんを止めるね!」
「わかったでござる!」
「ヴィルフレッド、ガルディオン、助けてー!」
「こっちもお願いしますー!」
 ポリスよろしく現れたヴィルフレッド&ガルディオンが介入することで、杏平とアンズプエラの貞操はなんとか守られることとなった。
 なお、もっと早く助けられただろとか思ってはいけない。
 少年少女に抱き着いてハァハァしてる人を止めるのは、とても勇気の要ることなのだから!


 数分後。
「可愛い杏平くんは女の子になるべき……そうは思わないんですか!?」
「女の子のほうが良いって言うなんて杏平ちゃんの素晴らしさが分かっていないわ!」
「そうだそうだ! 僕は男だ!」
 思いを訴えるアンズプエラから守るように、杏平の前に立つ結衣菜。
 猟犬たちとアンズプエラは色々あったのをなかったことにして、宿縁邂逅っぽい構図を作り出すことに成功していた。頑張った。
 己の想いが通じぬことに、アンズプエラの目が潤む。
「なんでわからないんですか……なんで!」
「確かに杏平く……ちゃんがとってもかわいいのには同意します。でもだからこそ、杏平ちゃんのかわいさの前では男の子か女の子かって些細な問題じゃないでしょうか?」
 震える敵の肩に手を置くのは、ルーチェだ。
「あなたのこの子にかける想いは充分伝わりました。その想いが本物だというなら、どうか今のありのままを愛してあげてください……!」
「ありのままを……?」
「ええ、ありのままを」
 伏せた顔を上げたアンズプエラに、にこりと笑うルーチェ。
「女の子にするもなにも可愛い子は女の子っすよ」
 微妙に感動的なシーンになりかけてるところへ、シルフィリアスも歩いてくる。若干体がよじれている気がしないでもないが問題ないだろう。死にはしない。
「杏平さんはかわいい、これだけでもう、つまり杏平さんは女の子っす!!」
「もう女の子……?」
「いやシルフィ? 何を言ってるの?」
 ハッとなった顔をしやがるアンズプエラの陰で、しっかりツッコむ杏平。
 何だろう。助けてもらってるのにちっとも嬉しくない気がする。そもそもルーチェの主張からしてどこかずれてる気がしないでもない杏平くんです。
 おまけに。
「いい? 杏平ちゃんはこういう格好をした男の子だからこそ、天使なのよ! もしも女の子になってしまったら、希少性とか天使性とかそういうのを失ってしまうわ!」
「天使性……!」
「結衣菜は可笑しなこと言わない! きみも『それだ!』みたいな顔しない!」
 熱弁を始めおった結衣菜に、納得しかける敵に、全力抗議するしかない杏平。
 絶対になんか違う。そう訴えたくてツッコミを頑張る彼をぼーっと眺めて、リーズグリースはぱちぱちと控えめに拍手していた。
「杏平は、みんなに愛されてる、ね」
「のんびりしてないでリーズグリースも手伝ってよ!」
「私はみんなほど詳しくないから、無理そう、かな……」
「皆を手伝ってってことじゃないよ!?」
 ぽやぽやしながらボケをぶっこむリーズグリースのおかげで仕事が増える杏平。
 とか、騒がしくやっていた一同。
 しかし、その騒然とした空気を黙らせたのは、変態御大将だった。
「あなたの話はさっきから聞いていたけれど、ガチキレ寸前だわ」
「えっ……」
 じっとアンズプエラと結衣菜たちとのやりとりを傍聴していたアリスが、重い腰を上げて会話に参戦してきた。
 いかにも強者のオーラを漂わせて。
「杏平きゅんを女の子にするですって? 男の娘はね、付いているのがいいの。いい、実は付いているからこそ至高の存在足り得るのよ」
 強者すぎた。
 シモから発想するのは強者すぎた。
「付いているから……」
「いやこれは聞き入っちゃダメだよ」
 傾聴態勢に入っとるアンズプエラを諭そうとする杏平。
 だが構わず、アリスはうっとり語り続ける。
「ええ、ええ、確かにおにゃのこはやわらくていいにおいがしてかわいらしくて最高の存在だわ。そこに異論はないわよ。でもね、男の娘というのはそういう性別を超越した天使のような存在なの。それを女の子に変えようなどと許されざる暴挙よ」
「天使……やはり天使なの……!?」
「こら! 変なところに納得しないで!」
「私はどっちでもいけるので、有っても無くても問題ないですね」
「シフカは余計な話題を提供しない! 向こう行って!」
 意志ブレすぎの敵を叱り、横から自分のどうでもいい趣味をぶちこんでくるシフカをぐいぐい遠くへ押しやってく杏平くん。
 仲間が助けに来たせいで苦労増えてね?
 とゆーコント風景を全スルーして、ヴィルフレッドは隅っこで体育座りをキメていた。
「へー。ガルディオンさんはペット飼いたいんだ?」
「うむ。しかし動物からは避けられてしまうのでござる。この静電気をどうにかできればいいのでござるが……」
「んー……じゃあファミリアロッドとかはどう? 普通のペットとは違うし、静電気も大丈夫なんじゃないかなぁ。家に置いてくわけじゃないから遠出もできるし」
「ふむなるほど……」
 自身の各所にあるボルトを触りながら、興味を示すガルディオン。
 もうね、皆の話についてけねーんで、ガルディオンと日常トークしてるしかないヴィルフレッドくんでしたよ。


 20分後!
「更生、してくれなかったなぁ」
「捕まえてうちで働かせたかったっすねー」
「拘りが強かったのね。惜しい娘をなくしたわ」
 はらりと地面に置かれているメイド服に合掌して、杏平とシルフィリアスとアリスがアンズプエラを悼んでいた。
 うん、戦闘が終わっていた。
 白熱した男の娘トークに比べて、あっさりと死闘は終わっていた。
 ともあれピンチ(?)にあった杏平は無事で済んだ。それを喜ぶヴィルフレッドは守りきった少年に肩ポン。
「今日は災難な日だったね杏平」
「まったくだよ」
「いやぁ大変でしたねぇ駒城さん」(顔がツヤツヤのシフカ)
「シフカのせいでね」
 がっつりセクハラしてきた人に辛辣にツッコむ杏平。
 だがシフカの胸らへんの異変に気付き、彼は眉をひそめた。
 後ろに回った結衣菜が、シフカの爆乳を鷲掴みにしているのだ。
「……何してるの?」
「なにって……絞ってるのよ。雑巾絞り知らない?」
 質問に答える結衣菜の目はイっちまってる。どうやら大きすぎる胸を揉んだせいでおかしくなってしまったようだ。向こうで夜空に歌ってるルーチェも同じようにやられちまったのかもしれねぇ。貧富。
 リーズグリースは重くなってきた瞼を擦り、杏平に呟いた。
「そっくりさん、三人はいるらしいし、また杏平そっくりのダモクレスが出てきたりするのか、な……」
「そうなったら面倒くさいなぁ」
 体を伸ばしつつ答えた杏平だが、次の瞬間、ハッと何かに気が付いた。
「そういえば、この偽物がやっていた喫茶店の仕事はどうなるの? まさか、僕がしないといけない?」
「……がんばって」
「えぇー」
 げんなりと肩を落とす杏平。
 彼を襲う災難は、まだちょっと続くのかもしれない。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。