ジュースミキサーは回らない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 ゴミ捨て場に捨てられていたのは、ジュースミキサーであった。
 これさえあれば、どんな食材でも、速攻シュースに……。
 そんな売り文句と共に、一時期は入手が困難になるほど、馬鹿売れした。
 だが、刃こぼれしやすく、壊れやすい事が災いし、ゴミとして捨てられてしまったようである。
 だが、ジュースミキサーは、納得していなかった。
 もっとジュースを作りたい。
 ……と言うか、なぜ替え刃を買わない。
 そもそも壊れたのは、説明書を読まなかったせいだし。
 だから、食材を無理やり押し込んで、壊れる原因を作った訳でしょ!
 そんなツッコミを入れつつ、ジュースミキサーがゴミ捨て場で愚痴り続けていた。
 その残留思念を引き寄せられるようにして、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、ジュースミキサーに機械的なヒールを掛けた。
「ジュースゥゥゥゥゥゥ、ミキサァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したジュースミキサーが、耳障りな機械音を響かせ、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)さんが危惧していた通り、都内某所にあるゴミ捨て場で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるゴミ捨て場。
 この場所は廃墟と化した工場裏にあり、所有者に許可なくゴミが捨てられているようである。
「ダモクレスと化したのは、ジュースミキサーです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化したジュースミキサーは、まわりにあった家電などを取り込み、ロボットのような姿になっています。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)

■リプレイ

●都内某所
「まさか、本当にジュースミキサーのダモクレスが現れるとは……。これも何かの因縁。このダモクレスは私が倒す必要がありそうですね」
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)は仲間達とともに、ダモクレスの存在が確認されたゴミ捨て場にやってきた。
 以前からジュースミキサーのダモクレスが現れるのでは、と危惧していた事もあり、今回の依頼には運命的なモノすら感じていた。
 そのためか、いつも以上に気合が入っており、キープアウトテープも念入りに張られていた。
「それにしても、これまた危なそうなダモクレスが現れたものね」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)がスーパーGPSで自分の位置と地図の場所を照らし合わせ、先に来ていた仲間達に合流した。
 ダモクレスの存在が確認されたゴミ捨て場は、不気味な雰囲気が漂っており、まるで墓場のような印象を受けた。
「でも、ジュースミキサーがあれば、果汁100%の美味しいジュースが飲めるから、ちょっと勿体ない気がするね。手入れとか大変だから、それで壊しちゃう人もいたようだし……」
 シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)が、少し寂しそうな表情を浮かべた。
 それだけ、扱いが難しかったのかも知れないが、きちんと説明書を読めば回避する事が出来る事だった。
「……とは言え、一度はジュースを作りたくなる素敵な機械であることは間違いないな。使えるんじゃったら、わらわも使いたかったんじゃが、残念じゃのぅ。刃くらい替えてやったんじゃが、そういう問題ではないんじゃな」
 ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)が、どこか遠くを見つめた。
 おそらく、無理をしてでも替え刃を購入しておけば、もう少し長く使う事が出来ただろう。
 だが、そうしなかったのは、そこまでの価値がなかったか、もっと安くてイイモノを手に入れたためだろう。
「……なるほど。回転し破壊力を高めて物を砕くのか。回転剣とは考えたものだな」
 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)が、事前に配られた資料に目を通した。
 資料を読む限り、説明書の注意事項を守っておけば、刃こぼれする事もなく、壊れる事もなかった。
 だが、誰も説明書を読まなかった。
 読む必要もない……もしくは、読まなくてもわかるという理由から、誰も読もうとしなかった。
 その結果が問題のジュースミキサーなのだから、実に皮肉なモノである。
「まあ、どんなに高性能な家電製品でも、ちゃんと説明書を読んで、正しく使わないとダメよね。それこそ、このダモクレスの二の舞になっちゃうから……」
 六星・蛍火(武装研究者・e36015)が、どこか遠くを見つめた。
 しかし、持ち主にとっては、些細な事。
 使えなくなったら、ゴミとして捨てる。
 ただ、それだけの事だった。
「確かに、どんな家電製品も、やっぱり説明書を読まなければすぐに故障してしまう事もあるよね。やっぱり、説明書は大事なものだよ」
 四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)が、しみじみとした表情を浮かべた。
 どの事故も説明書を読んでいれば、起こらなかった事。
 キッカケ自体は些細な事だが、事故のレベルを考えれば、きちんと説明書を読むべきだという考えに至るモノばかりであった。
「それなのに、説明書を読まずに使ったら、事故も増えて当然よね。酷い時だと、ジュースミキサーを使っている途中で蓋が外れて、刃が回転しながら、四方八方に飛んでいった事があるようだし」
 青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)が、気まずい様子で汗を流した。
 その事が問題視され、返品が相次いだ事もあったため、説明書を分かりやすくしたり、安全性を高めたりしたものの、無茶な使い方をする利用者が減る事はなかった。
「ジュウウウウウウウウス、ミキ・サァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したジュースミキサーが、耳障りな機械音を響かせながら、ゴミの中から姿を現した。
 ダモクレスは、まわりにあった廃棄家電を取り込み、ロボットのような姿をしていた。
「相手にとって、不足なし! わらわは最初から全力でいくのじゃ。……本当じゃぞ?」
 すぐさま、ミミが『みーこ、ごーなのじゃ』を仕掛け、自らの力で強化した猫のぬいぐるみをダモクレスに叩きつけた。
「ミィィィィィィィィィィィィィィィィキ・サァァァァァァァァァァァア」
 その一撃を食らったダモクレスが、バランスを崩して膝をついたものの、その事がよほど悔しかったのか、猫のぬいぐるみをミキサーの中に放り込み、バラバラにした上で、ビームに変えて解き放った。
「な、なんて事をしてくれたのじゃ! そのぬいぐるみはビームの燃料ではないぞ?」
 それを目の当たりにしたミミが、ダモクレスを叱りつけたものの、ビームが容赦なく襲い掛かってきた。
 即座に、テレビウムの菜の花姫が、ミミを守る様にして体当たりを食らわせ、ギリギリのところでビームを避けた。
「雪の属性よ、その大自然の力よ、仲間を護る盾を作り上げなさい!」
 それに合わせて、依鈴がエナジープロテクションを発動させ、雪属性の盾を形成すると、ダモクレスの放ったビームを防いだ。
「さぁ、行くわよ月影。サポートは任せたからね!」
 その間に蛍火がボクスドラゴンの月影に声をかけ、ダモクレスに達人の一撃を繰り出した。
「ジュウウウウウウウウウウウウウウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その途端、ダモクレスの体が凍りつき、ほんの一瞬だけビームを撃つ事が出来なくなった。
 それがダモクレスにとって、致命傷になった。
「この吐息で、凍えてしまえー!」
 そこに追い打ちを掛けるようにして、六花が氷の吐息を吐き掛け、ダモクレスの体を、さらに凍らせた。
「ミィィィィィィィキ・サァァァァァァァァァァァァァ!」
 だが、ダモクレスは諦めていなかった。
 再びビームを放つため、辺りを見回し、材料になりそうなモノを探していた。
 とにかく何かを砕いて、エネルギー源にしなければ……。
 そんな考えがダモクレスの脳裏に過っていたのかも知れない。
「……って、よそ見している余裕があるほど、私達は弱くないからね。そうやって油断していると、あっと言う間に壊れちゃうからね」
 その事に気づいたシルフィアが、スターゲイザーを仕掛け、ダモクレスにツッコミを入れるようにして蹴り飛ばした。
「ジュ、ジュ、ジュ!」
 そのため、ダモクレスは成す術もなく崩れ落ち、半ばヤケになりつつ、捕獲用のアームを伸ばしてきた。
「なかなか面白い構造をしているようだが、それで俺を捕まえる事は不可能だ。……悪いが動きが単純すぎる。だから簡単に先が読める。次に、どう動くか。どうしたいのか、分かるからな。それでも、納得がいかないんだったら、自分が正しいって事を証明してみろ。俺はオウガ、柴田鬼太郎。……どっからでもかかってきな!」
 そのオークを避けながら、鬼太郎がダモクレスを挑発しつつ、メタリックバーストを発動させた。
 それに合わせて、ウイングキャットの虎が、いつでも鬼太郎を援護できるようにするため、ダモクレスの死角に回り込んで機械を窺った。
「ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥス!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、さらにアームを伸ばして、鬼太郎の逃げ道を塞いだ。
「ひょっとして、敵がひとりだけだって勘違いしていない? 戦場には私達がいる事も忘れないでね」
 次の瞬間、シルフィアがドラゴンサンダーを発動させ、パズルの中に眠る竜の力を解放し、ダモクレスに雷撃を放った。
「ミ、ミ、ミキ・サァァァァァァァァァァァァァ」
 その影響でダモクレスの体が痺れ、捕縛用のアームが力を失って、アスファルトの地面に落ちた。
「この状況では、飛び蹴りを避ける事さえ出来ませんね」
 それと同時に、ミントがスターゲイザーを放ち、ダモクレスを蹴り飛ばした。
「だったら、まずはビームの発射口を破壊しておかないとね。いや、その前にミキサーの方を壊してしまおうか」
 続いて、司もスターゲイザーを放ち、ダモクレスのミキサー部分を破壊した。
「ミキ、ミキ、ミキ・サァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その途端、ダモクレスが怒りと絶望と恐怖に襲われ、狂ったようにジュースミキサー型のミサイルを発射した。
 それが不気味にクルクルと回転しながら、アスファルトの地面に落下し、爆発と共に大量の破片とジュースを撒き散らした。
「せっかく作ったジュースを、地面にバラ撒くなんて……。その様子じゃジュースミキサーだった頃の記憶が、ほとんど無くなっているようね」
 依鈴が嫌悪感をあらわにしながら、ゴーストヒールを発動させ、この地に眠る霊の力を借りて、傷ついた仲間を癒した。
「ジュウウウウウウウウウウウウウウウス!」
 その邪魔をするようにして、ダモクレスが再びジュースミキサー型のミサイルを発射した。
 それが爆破と共に様々な色のジュースを飛び散らせ、アスファルトの地面をカラフルに染めた。
「だからと言って、これ以上この辺りを汚させる訳にはいきませんね」
 その間に、ミントがダモクレスの死角に回り込み、グラインドファイアを放って、紅蓮の炎に包みこんだ。
「我が声に従い、現れよ! 三つの属性の水晶体よ、敵を取り囲み、魔法を放て!」
 その隙をつくようにして、六花がトライアングル・マジックを発動させ、火属性、氷属性、雷属性の三つの水晶体を召喚すると、ダモクレスを取り囲むようにして動かし、水晶体から同時に三属性の魔法を放って攻撃した。
「ジュ、ジュ、ジュウウウウウウウウウ!」
 そのため、ダモクレスはミサイルを発射する余裕もなく、悲鳴にも似た機械音を響かせた。
「弱点を見抜いたわ、この痛打を受けなさい!」
 続いて、蛍火が破鎧衝を仕掛け、高速演算で構造的弱点を見抜き、ダモクレスの装甲を破壊した。
「ミ・キ・サァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その途端、無防備なコア部分を露出したダモクレスが、半ばパニックに陥りながら、次々とミサイルを発射した。
 だが、どのミサイルも狙いが定まっておらず、見当違いのところに落下して、爆発と共に大量の破片を撒き散らした。
「せっかく、立派な回転剣があるのに、使わずじまいか。なんだか勿体ない気もするが、仕方がないか」
 次の瞬間、鬼太郎が少し残念そうにしながら距離を縮め、愛刀の桜牙と短刀《吉光》で斬りかかって、ダモクレスのコア部分を破壊した。
「ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
 その一撃を食らったダモクレスが、激しく痙攣しながら爆発し、大量の破片を撒き散らして、ガラクタの山と化した。
「……終わったかな? 折角だからジュースを飲みたくなったね」
 司がダモクレスだったモノを見つめ、ホッとした様子で溜息を漏らした。
「…そうじゃのぅ。ジュースを飲みにいくかのぅ。あのジュースミキサーも、出会う場所がここではなかったら、わらわが使っていたんじゃが……」
 ミミが複雑な気持ちになりながら、ダモクレスだったモノに別れを告げ、近くの自動販売機でジュースを買った。
 そして、ケルベロス達は次の戦いに備えるため、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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