かけてしまうか後乗せするかが結構大事なやつ

作者:星垣えん

●美味しい『ドリンク』なんです
 のんびり穏やかな昼下がり。
 人通りもまばらな閑静な住宅地にて、鳥による集会がひらかれていた。
「諸君! カレーは大好きかー!」
「ウォーー! 大好きだーーー!!」
「三度の飯よりカレーが好きだぁぁーー!!」
 通りの一角にある、何の変哲もない家屋。
 その居間で幾人もの男たちが鳥さんの呼びかけに応じて拳を掲げている。カレー自体が飯なのに『三度の飯より』とかほざいているので正気ではないだろう。きっと鳥による洗脳的なアレのせいだろう許すまじ鳥。
「うむ。みんなカレーは大好きだよな。だから今日はカレーを作りました」
「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「やったぜぇぇぇーーーー!!!」
 鳥さんがテーブルにどすんと置いた寸胴鍋に大興奮する信者たち。
 鍋いっぱいに湛えられたカレーは、深みのある色で見るからに本格的だ。蓋を開けただけで漂うスパイスの香りはこちらの胃袋を掴んで離さないし、具材らしき具がほとんど見えないルゥは溶け込んだ香味野菜でとろとろになっている。
 つまり、もう見ただけで腹が減ってくるぐらい美味そうだった。
「こりゃ絶対に食が進んじまうぜぇ……!」
「さすが大将のカレーだぁ!」
「そうだろう。そしてもちろんこっちも用意してある!」
 じゅるりと垂涎する信者たちの前に鳥さんが披露したのは――とんかつ!
 まな板の上でザクザクと切られる肉厚のソレは明らかに揚げたてで、単品で食っても白飯をいくらでもイケることだろう。サクッと噛んでしまえば幸せになれるだろう。
「食欲をそそる音させやがるぜ……!」
「いいんだよ。諸君は胃袋に従っていいんだ……さぁほら」
 炊いた白飯をよそい、カツを乗せ、その上に極上のカレーをぶっかける鳥さん。至高のカツカレーを完成させた彼はそれを優しい顔で信者の一人に差し出した。
 皿ではなく、ジョッキで。
 カツカレーを無理やりぶちこんだ、ジョッキで。
「飲みなさい」
「い、いただきまぁす!!!」
「大将! 俺にも早く! 俺にもジョッキを!!」
「いいとも。順番に並ぶんだ」
『はいっ!!!!』
 行列を作る信者たち。
 彼らを見て鳥は微笑み、どぼどぼとジョッキにカツカレーを注いでゆく。

 どうやら、カツカレーを飲み物だと思っている方々の集会だったようですね。

●どうやったら飲めるんだよ
 猟犬たちがヘリポートに来ると、すでにそこには水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)と黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の姿があった。
「いや、カツカレーが飲み物って……え、カツカレーですか? ダンテさん、本当にカツカレーですか?」
「カツカレーっす!」
「あのカツカレーですか? それとも私の知らない異国の料理……?」
「和奏さんの想像してるやつでたぶん合ってるっす!」
 半信半疑の顔をしている和奏に、屈託ない笑顔で返すダンテ。
 なるほどさては……食う仕事だな。
 と、細かいことはさておいて結論だけは察する猟犬たち。
「あ、皆さんお疲れ様っす! 今回はビルシャナの処理をお願いしたいっすよ!」
 ダンテの言葉に『ですよね』と納得する一同。
 そっから彼がいろいろ教えてくれたので、だいたい状況は把握できた。
 どうやら『カツカレーは飲み物』とか言ってる鳥類がカレーとカツを大量に作っているらしい。ついでに信者もいるらしい。
「なんでそんな教義に従ってるのか不思議でしかないんですけど……」
「世の中いろんな人がいるってことっすよねぇ……。でも大丈夫っす。皆さんが美味しくカツカレーを『食べる』とこを見せてあげれば信者たちは目を覚ますはずっす!」
 はぁ、とため息をこぼす和奏に、ダンテが白い歯を輝かせつつサムズアップ。
 彼いわく信者たちも楽勝でカツカレーを飲んでいるわけではない。というかカレーはともかくカツなんて固形物を常人が飲めるわけがない。当然ながら無理してるのだ。
「彼らも本当はわかってるんすよ、カツカレーは飲み物じゃないということに!
 だから皆さんで豪快にカツカレーを食べて、信者たちを苦しみから解放してやってほしいっすよ!」
「それっぽい言葉で締めますね」
「苦しみから解放してやってほしいっすよ!」
 和奏のちょっぴり冷ややかな視線をものともせず、2回言うダンテ氏。
 ちなみにカツカレーは普通に鳥さんから貰えるっぽいので、そのへんを交渉したりだのは要らないとのことだ。ヤッタネ。
 しかもそれだけではなく――。
「あ、全部終わったらビルシャナのカレーとカツは好きにしてもらっていいっすよ。
 たぶんたくさん余っちゃうっすからね。その場で食べるなりテイクアウトするなり……対応は皆さんにお任せっす!」
 お持ち帰りもできるらしい。
 ……やったな! カツカレーを好きなだけ味わえるってよ!


参加者
進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)
大森・桔梗(カンパネラ・e86036)

■リプレイ


「はぁ、この喉越し……」
「まろやかなルゥに包まれた肉が腹の中へ……」
 めいめいジョッキを手にして、カツカレーを飲みこむ信者たち。
 その姿はあまりに悲惨だった。
 悲惨すぎたので、水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)もフローリングの床に膝をつくしかなかった。
「確かに『カツカレーは飲み物だ』と言い張るビルシャナが現れるかもしれないとは言いました、言いましたけど……本当に出てくるなんて思わないじゃないですか……!」
「カレーは飲み物派の亜種、でしょうか……」
 崩れ落ちてる和奏の隣へ現れる大森・桔梗(カンパネラ・e86036)。
 固形物を飲んでゆく人たちを見る彼の眼は、真剣だ。
「飲み急いでパン粉が喉に引っ掛からないか心配ですね」
「そこを気に掛けるのも違うと思うんですけど……!」
 床に顔を向けたままツッコむ和奏。
「はっ、確かにパン粉はそういう可能性がありますね……危ないところでした」
「環さん? 何を考えてたんですか?」
 桔梗の発言を聞いて半洗脳状態(?)から我に返った朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)にもツッコむ和奏。大丈夫じゃない人しか同行してない件。
「さぁ、おかわりは沢山あるからな。好きなだけお飲み」
「やったぁぁ」
 誰かの心労とかお構いなく、信者にカレーを注ぎ続ける鳥。
 ジョッキから溢れんばかりのそれを見ながら、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)は陰りある表情を浮かべる。
「美味しいカツカレーをいただく……だけでは終わらないのが、嫌なところですね」
「うん、そうだね」
 同感して横で頷くのはアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)だ。
 右手にマイコップを、左手にマイタッパーを持っている。
 そして常に共にある少女人形には汚れ防止の前掛けが着けられている。
 気合がすごい。食べる気合が。
「だって! カツカレーが食べ放題だって聞いたら来るしかないじゃないか!」
 第四の壁もなんのそのでカメラ目線してくるクロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)。依頼に集中してもろて。
 食い気に逸る仲間たちに、進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)は肩を竦めた。
「今日は大変なことになる予感しかしないな」
「そうかもしれませんね……けど何とかなりますよ」
 どこか怪しげな笑みとともに答えたのは、巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)。
 ちなみにファミレスのウェイトレス姿である。
「なぜウェイトレス」
「バイト上がりなので」
「そうか」
「ドジって揚げ過ぎたカツ達を有効活用できるってもんですよ。どうせ給料から差っ引かれてる分だし、たっぷりやけ食いしてやるぜフヒヒヒ」
「……」
 両手に抱えた手荷物を見下ろして笑いだす女から、そっと三歩ほど離れる隆治。
 果たして仕事を完遂できるんですかね、この人たち。


 2分後。
「盛り付けは、こんなものでいいでしょうか」
「んー、いいんじゃないですか?」
「皿やスプーンまで用意しているなんて気が利くなぁ」
「貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 桔梗と和奏、隆治に対して、鳥さんの怒号が飛んでいた。
 すべて桔梗が持参した皿とカトラリーセットが原因である。
「何を『食べ』ようとしとるんだ! 飲むんだよホラ!」
「お節介おばさんが出てきたな」
「いそいそジョッキに注がれても困るんですけど……」
「いただきます」
「いいから話を聞きなさい! きみは手を合わせない!」
 しっかり塩対応な隆治と和奏を黙らせ、食前の儀をキメる桔梗を制止する鳥。
 と、そこへ。
「あのー質問いいですか?」
「ん?」
 背後からひょこっと接近してきた環。
 だがただの環ではない。
 なんか眼がヤバい環だった。
「ひとつ確認なんですけどそのジョッキ、ちゃんと耐熱仕様ですよね?」
「え、だと思うけど……」
「わからないんですか? まさか熱で割れる普通のガラスジョッキにカレー投下なんて不敬、していませんよね?」
「ちょっ、怖い怖い怖い!?」
 ひとつ『?』を放つたびアップになってく環。恐怖で後ずさる鳥。
「大将があんなに……!」
「なんて圧だ……もう部屋の隅っこまで!」
 ノータッチで鳥を画面端に追い詰める環さんにビビるしかねえ信者たち。
 そんな彼らの後ろで、カチャカチャと音が鳴った。
「この音はスプーン……?」
「カレーうまー」
「ああああっ!!」
「私はカツから食べる派なので、まずカツを」
「ああああっ!!」
 隆治が、桔梗が、がっつりとカツカレーを食っていた。
「おまえたち、なんてことを!」
「カツカレーを飲まないなんて!」
「カツをカレーで具になるまで煮込んだと考えればまだわからなくもないですが……それも冷めてしまったり日を跨いでしまったカツを食べる方策では?」
「な、なに……?」
 サクサクとカツを食う桔梗の主張に、動揺を見せる信者たち。
 それを横目にカツカレーを嬉しそうに眺める者が二人。
「この見た目、この香り……何と美味しそうなカレー!」
「お鍋から漂ってくるカレーの香りにカツを切る音、白く輝くご飯に、黄金色のカレーとカツのコントラスト……もう既に目と耳で楽しめますね」
 皿を掲げてしまう和希と、カレーの香りに陶然と目を瞑る和奏。
「サクサクのカツの衣に絡む濃厚なカレー……ご飯もカレーに合わせて程よい硬さで炊きあげられている点はポイント高いですよ……!」
「あんな幸せそうに!」
 美味を頬張って声を弾ませる和奏の表情に、信者がごくりと喉を鳴らす。
 その様子を見て取った隆治が、じっくり噛んでいたカツカレーを飲みこむ。
「そもそも、カレーを飲むというのも『飲む様に食べている』だけだからなぁ。実際に飲むような奴は居ないだろう」
「なん……だと……!」
「だいたい、カツも飲もうというのかね? カツの歯応えやサクサク感を無視するのか? 或いはカレーの染み込んだカツを楽しまないのか? そんなに勿体無いことをするのならば我輩が食べてやろう」
「あーやめてー!」
 口元をふきふきしながらジョッキを取り上げようとしてくる隆治から、かばうようにしてジョッキを守る信者たち。食い意地に目を光らせたドラゴニアンこわい。
 一方、せっせとカツカレーを食べているクロウとアンセルム。
「確かにカツはサクッと噛んで食べないとだよね!」
「飲み込んじゃったら、この食感も耳テロなザクザク音も楽しめないからね」
「いやそれよりオマエラ……」
『?』
 何か言いたそうな顔をしている近くの信者に、きょとんとする二人。
 正確に言うと、スプーン代わりのスパナを握りながら頬をもごもごさせてるクロウと、膝に少女人形を置いてカレー二皿とマッチアップしてるアンセルム。
「スパナで食ってんじゃねえよォ!」
「自分はいつもこれで食べるんだ!」
 悪びれないクロウ。
「さも人形が食ってるみたいに……いやガチでカレー減ってる!?」
「ジョッキ持って近づかないでくれるかな。カレーが飛んで来たら困るし」
 悪びれないどころか威圧してくるアンセルム。
 そうして縮こまる信者に向けて、クロウは素朴な疑問をぶつける。
「ジョッキにカレーって……底のほう残らない? 福神漬も好きなペースで食べられないと思うし!」
「確かに不自由といえば不自由……」
「ほらみんなの食べる姿を見てよ! ああやって銀色スプーンでぱくぱく食べてこそのカツカレーだと思わない!?」
「うーん確かに」
 完全におまいう案件なのだが、クロウの勢いに押されて納得しちゃう信者。
「それにこんなによく煮込まれたカレーなら、もっといい食べ方があるんだよ!」
 そう言ったクロウは持参した船皿(ステンレス製)を取り出すと、ばばっと白米をよそい、そこへたっぷりとカレールゥをかけた。
「そ、そんなに!」
「ご飯が隠れとるやないか!」
「これが金沢カレースタイルだー!」
 皿に千切りキャベツを散らし、最後にソースをかけたカツをどんっと上に乗せるクロウ。
 カレーの海に浮かんだようなビッグなカツの存在感に信者たちの腹が鳴る!
「本当はルゥにウスターソースやフォン・ド・ボーを入れるともっとらしくなるけど、それは各々で試してね!」
「美味そうだ……!」
 一人、二人とテーブルにジョッキを置いてゆく信者。
 今こそ畳みかけるとき――菫は『爆弾』を携えて、彼らの前に出た。
「そ……それは!?」
「これですか? 全部乗せカツ尽くしカレーですよ!」
 どどーん、と両手で持った大皿を披露する菫。
 その皿はカツ尽くしという名に恥じぬ、カツまみれのカレーだった。
 山のように盛った飯にチキンカツやビーフカツ、メンチカツやエビカツやマグロカツがこれでもかと乗っけられている。もちろん鳥さんのとんかつも加わり、そこになみなみカレーをぶっかけた一皿はどっかの店の大食いチャレンジと言われても納得してしまいそう。
「なんてカツの量だ!」
「腹に訴えかけてくる力がすげぇ……」
「戦隊ものでも、ロボ同士が合体するとカッコよく強くなる。ならば……カツとカレーもたくさん合体するほど、おいしく強くなるのさ!」
『な、なるほどぉ!』
「あ、これは食べ物ですんで、もちろんモグモグしない人にはあげませんよ」
『えーそんな!?』
 極盛りカツカレーを引っこめた菫に、腹をすかした信者たちが縋りついた。


 2分後。
「ところで皆さんはカツにカレーをかけない派ですか? 私はかける派なんですけど」
「我輩は先でも後でも良いと思っているなぁ。どちらも美味しいし」
「私もどっちでもいいですかね」
「自分は後乗せ派だな!」
「いろいろこだわりがある人もいるんですねー」
 現場は死ぬほど和気藹々になっていた。菫の投げた話題に隆治と和奏とクロウが答え、それを聞きながら元信者たちがのんびりカツカレーを食うとかいう平和ぶりだった。
 何でしょう、美味しいものがあるからですかね。
「さてもう一回おかわりしてくるか」
「進藤さんよく食べますね。そういう私もおかわりしますけど……」
「女の子なのに大丈夫? カロリーとか」
「カロリー? 知らない子ですね……」
 カラの皿を持って立ち上がった和奏が、隆治の何気ない一言にそっと顔をそらす。平和。
「にしてもバイト先で貰ったにしてはカツの数多くない?」
「武士の情けとして原価で差っ引かれてるんです。仕事に持っていくって言ったら期限が近いのもおまけで付けて貰えたんですよね」
 カツ尽くしをガツガツしながら普通に日常会話してる信者と菫。平和。
「あれ? ワカクサ、もしかしてカレーの食べ過ぎでカレー属性に……って違うこれ衣纏ってるからカツ属性だ!」
「――♪」
 キャベツ一玉を抱えて齧ってるボクスドラゴンが黄色くなってるのに気づき、衝撃を受けてしまうクロウ。色が戻るか不安だけど平和。
 もはやすっかりただの食事風景。
 けれど別に仕事が終わったわけではなかった。
「あいつら寝返りおって……」
「カツカレーは飲み物、それを忘れるとは」
 まだ二人ほど信者が残っていたからだ。ちなみに鳥さんは用意したジョッキがガラスかを確認してるので不在。
 だから、環と桔梗が信者を籠絡しようとするのを止めることはできなかった。
「あーカレーが美味しいですねー。カツのジューシーな肉汁があふれてきますねー」
「くうっ……!」
「カレーソースと一緒に頂くのがまた美味しいです」
「ですねー。肉汁とコク深なルゥが混ざり合う美味しさったら!」
「こいつら……!」
 信者たちの対面で、これ見よがしにカツを喰らう環と桔梗。後乗せでサクサク感が保たれているカツをしっかり音を立てて食べる姿から、信者たちは歯噛みして目をそらす。
 見る人が見れば鬼畜の所業である。
「サクサク感も溢れる肉汁も楽しめないなんて……しかもせっかくのコクも一瞬で舌の上を通過だなんて……本当に可哀そうな人たちですー」
「福神漬と辣韮漬も用意していたんですけどね。こちらを箸休めにすれば沢山カツカレーを楽しめたでしょうに……口をさっぱりさせる茶も有るのですが」
「仕方ありませんね……信者の皆さんの分まで、私がレモン水でお口をさっぱりさせて何度でも頂きます!」
 憐みの顔で、あてつけのように話す環と桔梗。
「思うまま味わいよって!」
「だ、だがカツカレーは飲み物……」
 二人からの攻撃を何とか耐えているという感じの信者たち。
 そんな二人の両側に、和希とアンセルムがそっと座った。
「なぜ隣に――」
「美味しいものはよく味わって食べてこそ。カレーもカツも例外ではありません!」
「説教しに来た!?」
「まったく和希の言う通りだね」
「挟みこんで説教!?」
 くわっと目力のすごい和希に合わせて頷くアンセルム。両側から圧される形になった信者たちは戦慄した。説教の空気から逃げる方法がない。
「貴様らもカツカレーを食えと……」
「そうですね。ですがカツカレーの食べ方もひとつではないですよ」
 ふっと微笑を浮かべた和希が懐から取り出したるは――パン。
 丸パンとバゲットだ。まずはちぎった丸パンをカレーに浸し、たっぷりルゥを吸ったそれを和希はあむっと口にした。
「ご飯もいいですがパンもいいですね」
「パンだと……」
「硬いバゲットであれば逆にカレーをよそったりもできます!」
「カ、カレーを乗っけているぅ!?」
「バゲットはさすがに飲めないよね。あーもったいない。カツカレーを飲んじゃう人たちには味わえないね」
「横からのサポートもすごいよぉ!」
 マジ顔でパン&カレーを口に入れてく和希と、しっかり精神を削ってくるアンセルムに挟まれ苦悩がヤバい信者たち。
 だがここまでなら耐えられた。
 その先の、とっておきがなければ。
「あ、アンセルムもカツカレーサンド食べますか?」
「貰おうかな」
「カツカレーサンド!」
 和希が持ち出した品に信者たちが瞠目する。二枚のトーストからビッグなとんかつがはみ出ているそれは、考えるまでもなく美味いに決まっていた。
「このボリュームがたまりませんね……!」
「大きくて少し食べづらいのが、またいいね」
「あああああっ!」
 むぐむぐとサンドを頬張る二人。頭を抱える信者。
 あと一押しか。
 ならばとアンセルムは――。
「何だか大変そうだね。ボクがいいものをあげよう」
 そっと、あるブツを差し出した。
 大きなコップに注がれた白いソレに、信者は首を傾げた。
「……これって?」
「ラッシー。カレーによく合うんだよね。カツカレーにもピッタリだよ」
「カツカレーサンドとラッシーですか……いいですね」
 目を合わせてにやりと笑うアンセルムと和希。
 そんな二人を交互に見て、ふっと諦念した顔を見せる信者たち。
 もちろん、その3秒後ぐらいにカツカレーサンドに食いついてしまいました。

 そっから鳥さん(ジョッキ確認から戻ってきた)を殺った猟犬たちは、美味しいカツカレーの思い出を胸に、カレー詰め詰めのタッパーを手に、満腹の家路についたそうな。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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