歌声は届かない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化したライブハウスに、電子拡声器が転がっていた。
 この電子拡声器は、独特な歌声が特徴の人物が愛用としていたモノ。
 だが、ライブハウスの閉鎖が決まり、ここで歌えなくなった事に腹を立て、床に叩きつけられてから、誰にも拾われる事なく放置された。
 それでも、電子拡声器は、諦めていなかった。
 もっと歌を届けない。
 より多くの人に……。
 あの人の歌声を……!
 それは叶わぬ夢であったが、電子拡声器は確信していた。
 絶対に、あの人が戻ってくる、と!
 必ず自分を迎えに来る、と!
 その気持ちに反して、電子拡声器の前に現れたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型のダモクレスは、カサカサと音を立てながら、電子拡声器に近づき、機械的なヒールを掛けた。
「カクセイキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電子拡声器が、耳障りな機械音を響かせ、ライブハウスの壁を突き破って、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)さんが危惧していた通り、都内某所にあるライブハウスで、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるライブハウス。
 この場所は既に閉鎖されており、しばらく人の出入りが無かったようである。
「ダモクレスと化したのは、電子拡声器です。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化した電子拡声器は、まわりにあった楽器などを取り込み、ロボットのような姿になっています。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「まさか、こんな場所にダモクレスが現れるなんて……。ずっと嫌な予感がしていたけれど……。それが現実のモノになる以上、このまま放っておく事なんて出来ないわね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は仲間達と共に、閉鎖されたライブハウスにやってきた。
 このライブハウスでは、カルトな人気を誇るバンドばかりを集め、夜な夜なライブを行っており、普通では観る事の出来ない奇抜なパフォーマンスなどを売りにしていたようである。
「それにしても、元の持ち主が戻って来るのを、ずっと信じて待ち続けるなんて、健気な電子拡声器ね。まるで忠犬……いえ、忠電子拡声器ね」
 青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)が、しみじみとした表情を浮かべた。
 それだけ持ち主が大好きだったのかも知れないが、二度と戻ってくる事はない。
 おそらく、別の場所で活動をしているか、もしくは別の仕事をしている可能性が高かった。
 残念ながら、事前に配られた資料に、その事は書かれていない。
 それでも、この場所に戻って事はないという事だけは、断言する事が出来た。
「ライブハウスが盛況な頃は、きっと活躍されていたのでしょうね。……ダモクレスに操られるのは可愛そうですの。そんな拡声器さんがダモクレスになってしまうとは悲しいですわね。できれば解放してあげたいですが、どうしたらいいのかわかりませんわね」
 霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)が、悲しげな表情を浮かべた。
 ダモクレスと化したモノ達を解放する方法は、いまのところ倒す事だけであった。
 それが本当の意味で救いになるのか、どうかは別として、これ以上放っておく訳にはいかなかった。
「私もパラディオンだから、歌声が人々を幸せにすることは良く分かっているわ。だからこそ、そんな拡声器が人々を傷つけるなんて間違っているわよ!」
 シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)が、キープアウトテープを貼った。
 こんな事は電子拡声器も、望んでいなかった……はず。
 結果的に、人々を幸せにするのではなく、不幸のどん底に突き落としてしまう事になるのだから、絶対にここで阻止する必要があった。
「……歌声を伝えたい。その気持ちは素晴らしい事なのに……。ダモクレスと化す事で、それが歪んだ形に成り代わってしまうのであれば、倒すしかありませんね」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が、廃墟と化したライブハウスを見上げた。
 問題の電子拡声器が、何処にあるのか分からない。
 だが、わざわざ電子拡声器を探す必要はなくなった。
「デ・ン・シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 ケルベロス達が探す前に、電子拡声器がダモクレスと化し、廃墟と化したライブハウスの壁を突き破って、目の前に姿を現したのだから……。
「お前の歌を届けたいって気持ちは否定しねえ! だが、やり方が違うんだよ、ナーミー?(分かる?)」
 それを迎え撃つようにして、柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)がダモクレスの前に陣取った。
「デ、デ、デ、デ、デェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、『そこを退け!』と言わんばかりに、耳障りな機械音を響かせた。
 しかし、鬼太郎は怯まなかった。
 それどころか、ダモクレスの前に陣取ったまま、ギターでリズムを刻みつつ、ノリノリでラップを歌い始めた。
「故にCheck it out!(聞け!)。昔は盛況、今は廃墟、聞こえねえぜ、かつてのお前の残響。ハートは理解、手段はよりによって、それかい。もはや、お前はダモクレス、元には戻せん、手遅れっす。ライブハウスはロックダウン、お前を今からノックダウン。戦場に招待、晒せよ醜態、さあ今からショウタイムだぜ!」
 それに合わせて、鬼太郎が法螺貝と拡声器3種類を組み合わせて作ったマイクスタンドを横に寄せ、刀を抜いて切っ先をダモクレスに向けた。
「デ……デ……デ……デ・デ・デ!」
 その途端、ダモクレスが激しく体を震わせた。
 だが、それは恐怖からではない。
 ようやく運命の人と、再開する事が出来た。
 そう言わんばかりに、身体が激しく震えていた。
 既に、持ち主の顔を忘れていたが……、間違いない。
 目の前にいる人物こそが、『あの人』であると、ダモクレスが確信した……ように見えた。
「デ、デ、デ・ン・シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その思いが爆発し、ノリノリな歌声と共に、超強力なビームを発射した。
 それは鬼太郎の歌声を真似ているようであったが、機械音に変換されているせいで、醜く歪んだ歌声になっていた。
「雷の属性よ、その力で仲間を護る盾を形成しなさい!」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、雷属性の盾を形成して超強力なビームを防いだ。
 そのおかげで超強力ビームを消し去る事が出来たものの、歌声までは消し去る事が出来なかった。
 そのため、頭の中でノリノリの歌声が、繰り返し再生された。
「ひょっとして、お前の持ち主もラップを……。まあ、今となっては確かめようがねえか」
 鬼太郎がメタリックバーストを発動させ、全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、仲間の超感覚を覚醒させつつ、ダモクレスに視線を送った。
 その途端、ダモクレスが赤い目をきゅるるんとさせ、飼い主を見るワンコのようになった。
「……!」
 その視線に気づいたウイングキャットの虎が、ゾワッと鳥肌を立たせ、鬼太郎の後ろに隠れた。
「……って、見た目に騙されちゃ駄目よ! 可愛らしく振る舞っていたけど、ビームのエネルギーをチャージしていただけだから!」
 その事に危機感を覚えたシルフィアが、スターゲイザーを仕掛け、ダモクレスを蹴り飛ばした。
「カ、カ、カ・ク・セ・イ・キィィィィィィィィィィィィィ!」
 その拍子にダモクレスがバランスを崩し、見当違いの方向にビームを放った。
 そこに、どういった意図があったのか、分からない。
 だが、もしかすると、鬼太郎の命を奪う事で、永遠に自分のモノにしようとしたのかも知れない。
「これで、もう二度とビームを撃つ事が出来ないようにしてあげるわ」
 それに合わせて、六花が氷の吐息を吐きかけ、ダモクレスの身体を凍りつかせた。
「カ・ク・セ・イ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、色々な楽器が融合したアームを振り回した。
 しかし、ケルベロス達には当たらない。
 それ以前に、届かない。
 届きそうで……届かない!
「さぁ、行きますよネオン。共に頑張りましょう!」
 その隙をつくようにして、玲奈がボクスドラゴンのネオンに声を掛けつつ、ダモクレスにスターゲイザーを繰り出した。
 それに合わせて、ネオンが間合いを取りつつ、いつでも援護が出来るように準備を整えた。
「このまま、凍結してしまいなさい!」
 そこに追い打ちを掛けるようにして、六花がアイスエイジインパクトを仕掛け、ダモクレスの身体を凍結させた。
「トリックチェインに眠るドラゴンよ、その力を解放せよ!」
 続いて、シルフィアがドラゴンサンダーを仕掛け、竜を象った稲妻をダモクレスに解き放った。
「デ、デ、デ、デ、デェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 それでも、ダモクレスは諦めていなかった。
 ノリノリな歌声を響かせながら、ムックリと起き上がり、狂ったようにアームを振り回した。
 そのたび、音程の外れた音が響き、ケルベロス達の気持ちを不安にさせた。
「この歌……と言うより、雑音ですわね、これは……」
 ちさが嫌悪感をあらわにしながら、ダモクレスに旋刃脚を繰り出した。
 一方、ウイングキャットのエクレアはキャットリングで尻尾の輪を飛ばし、ダモクレスが反撃する事が出来ないようにした。
「デ、デ、デ・ン・シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 そのため、ダモクレスは自分の意志に反して、まったく反撃する事が出来ず、悔しそうに機械音を響かせた。
「……どうやら、ミサイルを撃つ気でいるようね」
 その事に気づいたリサが、警戒した様子で後ろに下がった。
「カ・ク・セ・イ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスがケモノの咆哮にも似た機械音を響かせ、怒りに身を任せてミサイルを発射しようとした。
 その気持ちに反して、ミサイルが暴発し、発射口が壊れて、大量の破片が飛び散った。
「カ、カ、カ、カ、カ……」
 それはダモクレスにとって、予想外の出来事であった。
 だが、ダモクレスは、まだ諦めていなかった。
 即座にビームを撃つため、エネルギーをチャージし始めた。
 その間、ダモクレスの身体を通して、ノリノリの歌が響き渡った。
「随分とエネルギーを溜め込んでいるようですが、諦めて下さい。こんな結末、あなただって望んでいなかったはずです。だから、これで終わりにしましょう、この一撃で、永遠に……!」
 次の瞬間、玲奈が轟竜砲でハンマーを砲撃形態に変形させ、ダモクレスに竜砲弾をブチ込んだ。
「デ、デ、デ、デ・ン・シ・カ・ク・セ・イ・キィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、断末魔のような機械音を響かせ、大爆発を起こしてガラクタの山と化した。
「……まだ頭がガンガンしますわ」
 その途端、ちさが激しい眩暈に襲われ、今にも崩れ落ちそうな勢いで頭を抱えた。
 おそらく、ダモクレスから発せられていた歌声を聞いていたためだろう。
 その歌声には中毒性があったため、ダモクレスが倒れた後も、エンドレスに流れていた。
「さらばだ、ゆっくり休め」
 そんな中、鬼太郎がダモクレスだった電子拡声器を見下ろし、別れの言葉を述べた。
 そして、ケルベロス達は次の戦いに備えるため、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月21日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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